俺得物語トゥエンティーワン
―――それは、世にも奇妙な出来事だった
なんとなくよってみた古い骨董品屋
そこで出会った事が始まりだったんだ
~~~~~~
「なんだこれ?」
骨董品屋で見つけたそれは、大きな卵のような物だった
大きさはダチョウの卵の倍はあるだろうか?
見た事が無いから分からないが、それくらい大きい
「ほぅ…なかなかお目が高い」
突然声をかけられ、俺は驚きながら振り向いた
そこには店主と思しき老人がいた
「それは中々貴重な品でしてな…」
「はぁ…」
まずい、と俺は思った
「中々買い手も現れず、買えるだけの者も現れんでな」
ただ見ていただけ、とは言い辛い雰囲気になってきていた
「お前さん位の若者だったら一度は頂点を目指したいと思ったことはあるじゃろ?それを約束された者の卵がそれじゃよ」
「あ、え、その…」
「勝利約束され、地上の王として君臨する者―――ドラゴンの卵じゃ」
―――買うじゃろ?
無言で俺に言ってくるその威圧に俺は負けそうになる
「でも、俺金ないし…」
が、帰ってきたのは予想外の言葉だった
「金?いらんわいそんなもん」
「へ?」
「金が無い奴から金は取れんし、この卵はお前さんを選んだんじゃ」
だからいらん―――そう言って卵を何かのケースに入れ始めた
「まぁただじゃとお前さんも怖いだろうし…ケース代500円だけもらっとうかの」
・・・
「…」
骨董品屋から出た俺は、頑丈そうなケースを慎重に運びながら帰路についていた
―――ドラゴンの卵?俺を選んだ?
言われた事を思い出しながら俺の頭は混乱してた
このご時勢、ドラゴンの卵なんてよく言えたもんだ
「違法品とかじゃないよな?」
そう思いながら、帰路で挙動不審にしながら家に着く
鍵を閉めて、部屋の中に入り、そして…
「無事、だな…」
卵を確認するが、傷一つ付いていない
ケースから取り出し、卵を抱える
―――重たく、あたたかい
「え?」
そう、あたたかいのだ
まるで生きている様に、鼓動も感じる
「骨董品じゃないのかよ…」
俺はあせった
住んでいるアパートは動物飼うの禁止だし仮にばれなくても餌代とかが…
―――いっそ卵を割ってしまうか?
そう考え、俺は首を横に振った
せっかく生まれてくる命をそんな粗末にするなんて、なに考えてんだ俺は!
自分を思い切り殴りたくなったが、今はそれ所ではない
この新しい命をどうするか考えないと―――
―――ピキ
そんな事を考えてたら、卵から音が鳴り始めた
ピキピキ―――
音はどんどん大きくなっていき
パキッ!
中から新しい命が生まれた
「はぁ!?」
そこに居たものに俺は驚く
だって―――
「…パーパ?」
3歳くらいの、女の子だったんだから
・・・
「おいおい、どうすんだよこの状況…」
俺は戸惑っていた
大きな卵から出てきたのは、推定3歳くらいの女の子
そして、その子は俺を父親と認識しているようだ
「パーパ♪パーパ♪」
明るく邪気の無い笑顔で懐いてくるこの女の子には、重大な問題があった
「角や羽とか…本物、だよなぁ…」
「あい♪」
そう、人間には無い器官である羽や尻尾、角が生えているのだ
しかも手足は恐竜や怪獣みたいだし…
「まさか…本当にドラゴン?」
「あい!」
元気良く頷く子を尻目に、俺はどうすれば良いのか悩んでいた
子供服なんて当然無いし、この子は人間が食べるものでいいのか?
それ以前にこの子を育てていくだけのお金があるのか?
考えれば考えるだけ頭が痛くなっていった
「クソッ…どうしたら…」
そうやって悩んでいた時だった
「パーパ…げんきだして」
突然、俺の脚にしがみついてきた
「げんきだして…」
泣きそうになるこの子を見ていたら、俺はまた自分を殴りたくなった
―――この子を俺が見捨てたら、一人ぼっちになるじゃないか
小さい子供を不安にさせて、なにやってるんだ俺は!
「大丈夫だよ」
そう言って、抱えあげる
「パパは元気だぞ!」
「…あい!」
嬉しそうに笑うこの子を見ていたら、俺はがんばれる気がしてきた
~~~~~~
「…って言うのが、10年前かなぁ」
俺は会社の同僚との飲みの席で昔の話を語った
「おま…ドラゴン拾うとか…」
「すげぇ」
「このロリコンめ!」
彼らはみんな俺と同じく人外の家族や恋人がいる連中だ
異世界から来たお姫様がこっちで見つけた夫と作り上げたらしい会社で、俺たちは働いている
「後ロリコンじゃねー、俺はサバトに娘を連れてったりしねーぞ!」
「そうは言っても、その子もお前の事一筋なんじゃないのか?」
「いや、ないだろ」
そんな事を言い合いながら、時計を見る
「悪い、もう帰るな」
事情を知っているみんなは付き合いが悪いとかも言わずに俺が帰ることを許してくれる
ありがたいと思う
「今度なんかうまいもん食わせてやれな!」
そんな嬉しい事を言ってくれる友人達を尻目に、俺は家に帰る
―――あれから10年
まだまだ世の中は人間のものだが、魔物娘なる存在が少しずつ増えてきている
その子達が通う専門の教育施設なんかも、会社の関連で出来始めている
うちの子はまだまだ人化の術も苦手だから、そういった所で学ばせている
この会社に入るまでは、本当に大変だった
子供の事を言う訳にもいかないし、卵の中である程度育っててくれたとしても、赤ちゃんと殆ど変わらないのだ
男手一つで育てるのは本当に大変だった
…家に近付くにつれ、歩く速度が速まってきているのがわかる
早く我が子に会いたいのだ
「ただいま」
「お帰りパーパ!」
中から大きくなったドラゴン―――とは言っても、まだまだ小さな子供ー――が俺に目掛けて突進してくる
「こら!お前の角痛いんだから加減しなさい」
「えぇ~!」
こんな風に笑いあって一緒に暮らしていける
こんな日々が、続いていきますように
14/02/25 16:23更新 / ネームレス