ヴァレンタインェ…
「…バイト?」
「うん」
ある日の昼過ぎ、俺は恋人と蕎麦をすすりながら話を聞いていた
「臨時のバイトで報酬も高め」
そう言いながら蕎麦をすする俺の恋人
「いや、それは分かったけど…どんな内容だよ?」
「ヴァレンタインテロ」
「いや意味わかんねーよ!」
「良いから早く蕎麦を食べる」
「説明より蕎麦優先!?」
そう言いながら、自分はしっかり食べ終わっている彼女は自分の分の食器を片付け、洗い始めた
何度見ても器用に洗っている
「…水かきって物持ち辛くない?」
「そうでもない」
そう、彼女は人間ではない
・・・
クリスマスの夜、友人達とクリスマステロの決起会に行ったあの夜―――
そこで待ち受けていたのは、世間からしたら売れ残りである参加者達と魔物娘達との過激なお見合いだった
ある者はワーウルフに捕まり、ある者はブラックハーピーとチュッチュッしてたり、またある者はサラマンダーと雪の中でダンスしたりある者はヴァンパイアに椅子にされたり…
そんな中、俺は彼女―――サハギンの少女と結ばれる事になったのだ
寒い夜の中、アルコールも入っているのに全速力で逃げていたが、気がついたら意気投合していた
そんなステキな彼女も出来て、めでたく彼女居ない暦=年齢と言う呪縛から逃れて初めてのヴァレンタイン
「それを夢見ていたら、彼女からヴァレンタインテロを依頼された件について」
「説明するから泣かないで」
蕎麦を食い終わり彼女が入れてくれた蕎麦茶を飲みながら話を聞く
「この前やったクリスマステロ覚えてる?」
「忘れたらお前を否定する事になるんだが…」
「ようはアレの仕掛け人」
「すっげぇ分かりやすい、ありがとう」
「社長もバイト代弾むって言ってたし、当日貴方が仕掛け人として演説した後私が襲うから」
「むっちゃ楽しそうだな」
「獲物は狩る」
「キリッ、しないの」
「なぜバレたし」
説明を聞いて納得した
確かに魔物娘達の侵攻―――むしろ救済?―――をより進めるなら、このような時期を使うのは手だ
しかも今回のクリスマスの件はネット上でも真実味のある都市伝説扱いだ
「呼びかけとかは他の部署でもうやってるみたいだから、貴方は当日までに演説を考えておいて」
そういうと、彼女は立ち上がりジャケットを着始める
「ん?今日仕事だっけ?」
「急な発情期が二人ほど出て代理で夕方だけ出る事になった」
「ある意味仕方ないんだからしょんぼりすんなよ」
「なぜバレたし」
「…とりあえず夜迎えに行くからな」
「蕎麦と天ぷら作って待ってる」
彼女は魔物娘達が働いている企業―――表向きは外資系だったかなんだったか―――の食堂で働いている
俺や他の魔物娘の夫もそこで働く事になったが、下手な企業よりもずっと生活しやすい
有給もそうだし、労働時間も極端に長い事はない
むしろ少ないくらいではないだろうか?
それで生活自体も成り立つし…なによりステキな嫁さんや彼女と職場でも会えるのだ
これで不満がでるとしても、微々たる物でしかない
さらに、彼女と休みが同じになるようにシフトを組んでくれるので、旅行も行きやすいという豪華得点つきである
―――勿論、就業中に性行為をしたりしたならアウトだし、その分労働時間が増えたりする
が、その程度なら魔物娘も我慢し、夜によりハッスルするのだ
「さて、と…夜まで久々にゲームでもするかな」
彼女がでて、独りになった部屋で俺は言う
彼女が居ない寂しさを紛らわすために、ゲームでもしていないと精神(こころ)が保てない
「…ちょっと前までこれが当たり前だったのにな」
この間のクリスマスまでは一人での生活が当たり前だった筈だ
それなのに、もう彼女が居ない事を考えられない
仕事をしてる時なら良い、仕事に精を出せるから
でも休日に彼女がいない時間、それがたまらなく辛い
夜に一人寝に慣れていた筈なのに、いきなりズガズガ入り込んできただけなのに―――
彼女がいない空間にいると、堪らなく寒い
「…魔物の力って、すげーな」
なんとなく、寝る時に二人で包まっている毛布に包まった
・・・
さて、当日―――
ヴァレンタインテロ決起会の会場には、そこそこ沢山の人たちが来ていた
何人か女性も見えているが、殆どが男なのは、世の中に対しての生き辛さや、結局[ただしイケメンに限る]な世の中だと嫌でも分からされる
「まぁ…この間まで俺もあそこにいたんだよなぁ」
「戻りたい?」
「気もするし、戻ってもお前に追い回されるのは変わらない気がするのはなんでだろう?」
「どや」
「なぜどやったし」
「なんとなく?」
近くに止めてある車で待機しつつ、俺は演説の内容を再度確認していた
「しっかし、こうもドストレートでいいのかしら?」
「いいんじゃないかしら?かしら?」
「なぜ続けたし」
「ノリ、そもそも貴方がかしらなんて言うのが悪い」
「良し悪し関係なくね!?」
「いいからおにぎり食べて気合をいれて」
そう言いながら、手作りのおにぎりを俺に渡してくれた
彼女は食堂で働いているから、料理がうまい
ちなみに蕎麦や麺類は全て彼女のお手製だ
…うん、何度確認してもおかしい気がするがまぁいい
おにぎりは俺のお気に入りのサケとツナマヨだった
「チャーシューマヨネーズもそのうち食いたいな…」
「魚こそ至高、異論は認めない」
いつの間にか彼女もおにぎりを持っていた
おにぎりを二人で食べながら、時が来るのを待っていた
「…そろそろ時間か」
「作戦開始まで残り30分を切った、演説をしにいく準備は良い?」
「大丈夫…だと思う」
「ならがんばって」
そう言いながら腕に抱きつきつつキスをしてくる辺り、魔物娘ってのもやっぱり彼氏や旦那が居ないと寒いのだろうか?
「…ありがとな」
とりあえず彼女のキスは、いくらの味と甘みが凄かったとだけ言っておこう
・・・
「…この国の風紀は乱れきっている」
ヴァレンタインデモの場、俺は自分で思っていることとクリスマスまでの事を思い出しながら演説を始める
「ただ乱れるなら良い…一握りの連中だけが良い思いをし、俺達は搾取され!淘汰され!存在すら奪われていく!こんな事があっていいだろうか!?」
俺は回りに訴えるように言う
事実、こんな風に感じる世の中だ
「ヴァレンタインも菓子メーカーの売り上げの為に!無意味なまでに恋人や友人へのプレゼントを強要する始末!それだけじゃない!富んでいる者達は好き勝手に売春だろうがなんだろうがやり放題!その金は誰から搾取した?」
全員が声を上げずとも、自分達だと言わんばかりの目をしている
「俺達は何年も待ち続けた…己が幸せを!その為にどんな事にも耐えてきた…それが美徳だと洗脳されたから!」
一呼吸おいて、さらに大きな声で続ける
「だが!!現実はどうだ!?俺達の幸せも搾取されているのではないのか!!?もう我慢する必要はない…復讐だ!闘争だ!一心不乱の!!大戦争だ!!!」
言っている中、自分自身も興奮しているのがわかる
「さぁ武器をもて!激鉄をならせ!煙をあげろ!眠りこけている連中をたたき起こしてやれ!正義は我々にあるのだ!」
そう言いながら、行進を始めようとしたその時―――
「あらあら…そんな事しなくても良いのに…」
そう、あの時の―――
クリスマステロ崩壊の時と、同じ声がした
・・・
それからの瓦解はホントに早かった
気がついたら彼女に後ろから襲われそうになったのを避けて、逃げ始めていた
その時周りをみていたら、サキュバスに群がれている女性や魔女にホイホイついてくロリコン予備軍、ケプリに担がれて持ってかれてる頭よさげな気弱そうな青年、アラクネに巻かれてお持ち帰りされてるサラリーマン、などなどなど…
色んな鬱憤の溜まった人たちが、魔物娘の過激な歓迎やお見合いでどんどん連れて行かれている
「まるでこの世の終わりか新しい世界の幕開けみたいだぜ…」
そんな事を言いながら、俺はハンターから逃れていた
「なぜ逃げるし」
「お前怖すぎんだよ!」
そう、うちの彼女様は楽しそうに俺を追いかけている
相変わらず裏路地を逃げながら家の近くまで全速力で逃げていた
運動不足にはとても厳しい
呼吸もつらいし、足腰も痛い
おまけに雪や氷で足元も滑る為非常にこわい
が、それでも逃げるのは…彼女との鬼ごっこが楽しいからか…
だが、それもそろそろ終わりが近付いてきた
もう少し、もう少しで―――
「どっせえぇい!」
と、雪の中にダイブした
「ハァ…ハァ…捕まえた」
彼女もそれなりに息を切らしているらしく、そのまま俺に倒れこんできた
「ハ…ガ…ヒュー…」
俺はかなりやばい感じな荒い呼吸をしながら起き上がろうとする
「…どく?」
「お…なしゃ…ヒュー」
まともに喋れないが、意思疎通は可能な位には回復してきた
なんとか仰向けになり、そこに彼女がまた乗っかってきた
「…で、なにが目的?」
「も…すこ…かいふ…させ…」
「オーケー、今度からもう少し運動しよう」
彼女からも運動不足を言い渡され、少し悲しさを感じつつも息を整える
「ハァ…やっと…回復した」
「そりゃ普段から運動しない人がここまで全速力で走り続けたら、ねぇ?」
「ここ…じゃねぇ、と…意、味が…無かったん…だよ…」
その言葉に、彼女は辺りを見渡す
「…ここって」
「最初に…捕まった場所だよ」
そう、クリスマスに追いつかれて、上着を貸した場所
「ハッピーヴァレンタイン、ってな」
そう言って、ジャケットのポケットから小さな包みを取り出す
「…!!」
瞬間、彼女の顔が固まり―――
「…泣くなよ」
「うっさい」
微笑みながら泣いていた
嬉しかったんだろうか
「かっこつけ」
そう言いながら泣いたまま、胸元に抱きついてくる彼女
「たまにはかっこつけたいんだよ」
「知ってる」
とりあえず彼女が泣き止むまで待つ事になった
・・・
手を握りながら帰路についていた
彼女は嬉しそうに顔を赤くし、無表情に戻っている
風に見えるには、素人の考え
二ヶ月間交わり続けた結果、俺には彼女の微細な表情の変化を感知できるようになった
…気がする
その俺の勘が告げる
―――めっちゃ喜んでくれてるかな?
活きの良い魚を刺身にして食べてる時よりも嬉しそうだし、心なしか尻尾もゆったりピコピコ動いている
「…外で5分待って」
気がついたら家の前に来ていたらしく、突然彼女が言う
「雪があるからコンビニで立読みしてて良い?」
「良いけどエロ本とか買ったら…」
続きは言わなかったが、その殺気が物語っている
―――買ったら身の安全の保証はない
やんわり言ったら、そんなところだろう
ストレートに解釈したら?怖くてしたくありません
「買わない買わない、買いませんから」
「ならば良し」
そう言いながら家に猛ダッシュで入っていく彼女
何を隠しているのか分からないけど、きっとステキな事を用意してくれるのだろう
「まぁチョコとかスタンダードにってのは…」
なぜだろう、無いと断言できる
彼女は何かと凝った演出をしてくる
後、なにかと蕎麦とかラーメンとか麺類や刺身が得意なので…
「和菓子かな?」
なんにせよ、二人で飲む様にお酒も買おう―――
そんな事を思いながら、コンビニで時間を潰していた
・・・
「…入っていいか?」
「どうぞ」
自宅に帰り、中に入る前に声をかける
返事を待ち、中に入ると―――
「…ワァーオ」
そこには豪華な料理の数々―――そうとしか言えない位多種多様―――と、彼女が待っていた
自分にリボンを巻いて
「どう?」
「ここが楽園(エデン)か…」
「まだ現世」
彼女からの突っ込みも貰ったし、俺は彼女の横に座る
「プレゼントは私ってやつか?」
「不束者ですが…」
「こんなステキな嫁さん居るんだからやっぱり楽園じゃないですかやったー」
そんな事を言い合いながら、彼女に買ってきたお酒を手渡す
「ありがとう…あとまだ現世」
「あ、やっぱ言うんだ」
二人で一緒に食べるご飯、この日のご飯は―――
あたたかい、特別な味がしたのは、きっと間違いじゃない
「うん」
ある日の昼過ぎ、俺は恋人と蕎麦をすすりながら話を聞いていた
「臨時のバイトで報酬も高め」
そう言いながら蕎麦をすする俺の恋人
「いや、それは分かったけど…どんな内容だよ?」
「ヴァレンタインテロ」
「いや意味わかんねーよ!」
「良いから早く蕎麦を食べる」
「説明より蕎麦優先!?」
そう言いながら、自分はしっかり食べ終わっている彼女は自分の分の食器を片付け、洗い始めた
何度見ても器用に洗っている
「…水かきって物持ち辛くない?」
「そうでもない」
そう、彼女は人間ではない
・・・
クリスマスの夜、友人達とクリスマステロの決起会に行ったあの夜―――
そこで待ち受けていたのは、世間からしたら売れ残りである参加者達と魔物娘達との過激なお見合いだった
ある者はワーウルフに捕まり、ある者はブラックハーピーとチュッチュッしてたり、またある者はサラマンダーと雪の中でダンスしたりある者はヴァンパイアに椅子にされたり…
そんな中、俺は彼女―――サハギンの少女と結ばれる事になったのだ
寒い夜の中、アルコールも入っているのに全速力で逃げていたが、気がついたら意気投合していた
そんなステキな彼女も出来て、めでたく彼女居ない暦=年齢と言う呪縛から逃れて初めてのヴァレンタイン
「それを夢見ていたら、彼女からヴァレンタインテロを依頼された件について」
「説明するから泣かないで」
蕎麦を食い終わり彼女が入れてくれた蕎麦茶を飲みながら話を聞く
「この前やったクリスマステロ覚えてる?」
「忘れたらお前を否定する事になるんだが…」
「ようはアレの仕掛け人」
「すっげぇ分かりやすい、ありがとう」
「社長もバイト代弾むって言ってたし、当日貴方が仕掛け人として演説した後私が襲うから」
「むっちゃ楽しそうだな」
「獲物は狩る」
「キリッ、しないの」
「なぜバレたし」
説明を聞いて納得した
確かに魔物娘達の侵攻―――むしろ救済?―――をより進めるなら、このような時期を使うのは手だ
しかも今回のクリスマスの件はネット上でも真実味のある都市伝説扱いだ
「呼びかけとかは他の部署でもうやってるみたいだから、貴方は当日までに演説を考えておいて」
そういうと、彼女は立ち上がりジャケットを着始める
「ん?今日仕事だっけ?」
「急な発情期が二人ほど出て代理で夕方だけ出る事になった」
「ある意味仕方ないんだからしょんぼりすんなよ」
「なぜバレたし」
「…とりあえず夜迎えに行くからな」
「蕎麦と天ぷら作って待ってる」
彼女は魔物娘達が働いている企業―――表向きは外資系だったかなんだったか―――の食堂で働いている
俺や他の魔物娘の夫もそこで働く事になったが、下手な企業よりもずっと生活しやすい
有給もそうだし、労働時間も極端に長い事はない
むしろ少ないくらいではないだろうか?
それで生活自体も成り立つし…なによりステキな嫁さんや彼女と職場でも会えるのだ
これで不満がでるとしても、微々たる物でしかない
さらに、彼女と休みが同じになるようにシフトを組んでくれるので、旅行も行きやすいという豪華得点つきである
―――勿論、就業中に性行為をしたりしたならアウトだし、その分労働時間が増えたりする
が、その程度なら魔物娘も我慢し、夜によりハッスルするのだ
「さて、と…夜まで久々にゲームでもするかな」
彼女がでて、独りになった部屋で俺は言う
彼女が居ない寂しさを紛らわすために、ゲームでもしていないと精神(こころ)が保てない
「…ちょっと前までこれが当たり前だったのにな」
この間のクリスマスまでは一人での生活が当たり前だった筈だ
それなのに、もう彼女が居ない事を考えられない
仕事をしてる時なら良い、仕事に精を出せるから
でも休日に彼女がいない時間、それがたまらなく辛い
夜に一人寝に慣れていた筈なのに、いきなりズガズガ入り込んできただけなのに―――
彼女がいない空間にいると、堪らなく寒い
「…魔物の力って、すげーな」
なんとなく、寝る時に二人で包まっている毛布に包まった
・・・
さて、当日―――
ヴァレンタインテロ決起会の会場には、そこそこ沢山の人たちが来ていた
何人か女性も見えているが、殆どが男なのは、世の中に対しての生き辛さや、結局[ただしイケメンに限る]な世の中だと嫌でも分からされる
「まぁ…この間まで俺もあそこにいたんだよなぁ」
「戻りたい?」
「気もするし、戻ってもお前に追い回されるのは変わらない気がするのはなんでだろう?」
「どや」
「なぜどやったし」
「なんとなく?」
近くに止めてある車で待機しつつ、俺は演説の内容を再度確認していた
「しっかし、こうもドストレートでいいのかしら?」
「いいんじゃないかしら?かしら?」
「なぜ続けたし」
「ノリ、そもそも貴方がかしらなんて言うのが悪い」
「良し悪し関係なくね!?」
「いいからおにぎり食べて気合をいれて」
そう言いながら、手作りのおにぎりを俺に渡してくれた
彼女は食堂で働いているから、料理がうまい
ちなみに蕎麦や麺類は全て彼女のお手製だ
…うん、何度確認してもおかしい気がするがまぁいい
おにぎりは俺のお気に入りのサケとツナマヨだった
「チャーシューマヨネーズもそのうち食いたいな…」
「魚こそ至高、異論は認めない」
いつの間にか彼女もおにぎりを持っていた
おにぎりを二人で食べながら、時が来るのを待っていた
「…そろそろ時間か」
「作戦開始まで残り30分を切った、演説をしにいく準備は良い?」
「大丈夫…だと思う」
「ならがんばって」
そう言いながら腕に抱きつきつつキスをしてくる辺り、魔物娘ってのもやっぱり彼氏や旦那が居ないと寒いのだろうか?
「…ありがとな」
とりあえず彼女のキスは、いくらの味と甘みが凄かったとだけ言っておこう
・・・
「…この国の風紀は乱れきっている」
ヴァレンタインデモの場、俺は自分で思っていることとクリスマスまでの事を思い出しながら演説を始める
「ただ乱れるなら良い…一握りの連中だけが良い思いをし、俺達は搾取され!淘汰され!存在すら奪われていく!こんな事があっていいだろうか!?」
俺は回りに訴えるように言う
事実、こんな風に感じる世の中だ
「ヴァレンタインも菓子メーカーの売り上げの為に!無意味なまでに恋人や友人へのプレゼントを強要する始末!それだけじゃない!富んでいる者達は好き勝手に売春だろうがなんだろうがやり放題!その金は誰から搾取した?」
全員が声を上げずとも、自分達だと言わんばかりの目をしている
「俺達は何年も待ち続けた…己が幸せを!その為にどんな事にも耐えてきた…それが美徳だと洗脳されたから!」
一呼吸おいて、さらに大きな声で続ける
「だが!!現実はどうだ!?俺達の幸せも搾取されているのではないのか!!?もう我慢する必要はない…復讐だ!闘争だ!一心不乱の!!大戦争だ!!!」
言っている中、自分自身も興奮しているのがわかる
「さぁ武器をもて!激鉄をならせ!煙をあげろ!眠りこけている連中をたたき起こしてやれ!正義は我々にあるのだ!」
そう言いながら、行進を始めようとしたその時―――
「あらあら…そんな事しなくても良いのに…」
そう、あの時の―――
クリスマステロ崩壊の時と、同じ声がした
・・・
それからの瓦解はホントに早かった
気がついたら彼女に後ろから襲われそうになったのを避けて、逃げ始めていた
その時周りをみていたら、サキュバスに群がれている女性や魔女にホイホイついてくロリコン予備軍、ケプリに担がれて持ってかれてる頭よさげな気弱そうな青年、アラクネに巻かれてお持ち帰りされてるサラリーマン、などなどなど…
色んな鬱憤の溜まった人たちが、魔物娘の過激な歓迎やお見合いでどんどん連れて行かれている
「まるでこの世の終わりか新しい世界の幕開けみたいだぜ…」
そんな事を言いながら、俺はハンターから逃れていた
「なぜ逃げるし」
「お前怖すぎんだよ!」
そう、うちの彼女様は楽しそうに俺を追いかけている
相変わらず裏路地を逃げながら家の近くまで全速力で逃げていた
運動不足にはとても厳しい
呼吸もつらいし、足腰も痛い
おまけに雪や氷で足元も滑る為非常にこわい
が、それでも逃げるのは…彼女との鬼ごっこが楽しいからか…
だが、それもそろそろ終わりが近付いてきた
もう少し、もう少しで―――
「どっせえぇい!」
と、雪の中にダイブした
「ハァ…ハァ…捕まえた」
彼女もそれなりに息を切らしているらしく、そのまま俺に倒れこんできた
「ハ…ガ…ヒュー…」
俺はかなりやばい感じな荒い呼吸をしながら起き上がろうとする
「…どく?」
「お…なしゃ…ヒュー」
まともに喋れないが、意思疎通は可能な位には回復してきた
なんとか仰向けになり、そこに彼女がまた乗っかってきた
「…で、なにが目的?」
「も…すこ…かいふ…させ…」
「オーケー、今度からもう少し運動しよう」
彼女からも運動不足を言い渡され、少し悲しさを感じつつも息を整える
「ハァ…やっと…回復した」
「そりゃ普段から運動しない人がここまで全速力で走り続けたら、ねぇ?」
「ここ…じゃねぇ、と…意、味が…無かったん…だよ…」
その言葉に、彼女は辺りを見渡す
「…ここって」
「最初に…捕まった場所だよ」
そう、クリスマスに追いつかれて、上着を貸した場所
「ハッピーヴァレンタイン、ってな」
そう言って、ジャケットのポケットから小さな包みを取り出す
「…!!」
瞬間、彼女の顔が固まり―――
「…泣くなよ」
「うっさい」
微笑みながら泣いていた
嬉しかったんだろうか
「かっこつけ」
そう言いながら泣いたまま、胸元に抱きついてくる彼女
「たまにはかっこつけたいんだよ」
「知ってる」
とりあえず彼女が泣き止むまで待つ事になった
・・・
手を握りながら帰路についていた
彼女は嬉しそうに顔を赤くし、無表情に戻っている
風に見えるには、素人の考え
二ヶ月間交わり続けた結果、俺には彼女の微細な表情の変化を感知できるようになった
…気がする
その俺の勘が告げる
―――めっちゃ喜んでくれてるかな?
活きの良い魚を刺身にして食べてる時よりも嬉しそうだし、心なしか尻尾もゆったりピコピコ動いている
「…外で5分待って」
気がついたら家の前に来ていたらしく、突然彼女が言う
「雪があるからコンビニで立読みしてて良い?」
「良いけどエロ本とか買ったら…」
続きは言わなかったが、その殺気が物語っている
―――買ったら身の安全の保証はない
やんわり言ったら、そんなところだろう
ストレートに解釈したら?怖くてしたくありません
「買わない買わない、買いませんから」
「ならば良し」
そう言いながら家に猛ダッシュで入っていく彼女
何を隠しているのか分からないけど、きっとステキな事を用意してくれるのだろう
「まぁチョコとかスタンダードにってのは…」
なぜだろう、無いと断言できる
彼女は何かと凝った演出をしてくる
後、なにかと蕎麦とかラーメンとか麺類や刺身が得意なので…
「和菓子かな?」
なんにせよ、二人で飲む様にお酒も買おう―――
そんな事を思いながら、コンビニで時間を潰していた
・・・
「…入っていいか?」
「どうぞ」
自宅に帰り、中に入る前に声をかける
返事を待ち、中に入ると―――
「…ワァーオ」
そこには豪華な料理の数々―――そうとしか言えない位多種多様―――と、彼女が待っていた
自分にリボンを巻いて
「どう?」
「ここが楽園(エデン)か…」
「まだ現世」
彼女からの突っ込みも貰ったし、俺は彼女の横に座る
「プレゼントは私ってやつか?」
「不束者ですが…」
「こんなステキな嫁さん居るんだからやっぱり楽園じゃないですかやったー」
そんな事を言い合いながら、彼女に買ってきたお酒を手渡す
「ありがとう…あとまだ現世」
「あ、やっぱ言うんだ」
二人で一緒に食べるご飯、この日のご飯は―――
あたたかい、特別な味がしたのは、きっと間違いじゃない
14/02/14 16:20更新 / ネームレス