読切小説
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とある親魔物領の聖職者

〜〜〜

昔々、ある所に一つの教会がありました

教会自体は問題ありませんでしたが、そこは親魔物領の外れにありました
一体なぜそんな所にあったのでしょう?

これはそんな不思議な所で働く、ある聖職者のお話なのです

・・・

「ここで間違いないか?」

「間違いないです…中から魔物の魔力が検知されてます」

そこにいるのは反魔物領の聖騎士たち
彼らは魔物を虐げるスペシャリスト達でした

彼らがいるのは、ある教会の前
その教会は親魔物領にあり、本来なら彼らは領土侵害をしているのですが、彼らにはそんな考えはありません

あるのは、中にいる魔物とそれを匿っている神父を謳っている男を殺すことだけです

「では…行くぞ!」

隊長の男がそう言いながら、教会の扉を思い切り蹴り開けます

「動くな!貴様らを退治する!」

正騎士達の隊長がそう言いながら中に入ります

が、中をみて他の聖騎士達は驚きました
中にいた魔物達はみんな祈っていたのです

―――それこそ、自分たちが毎週いく教会でのお祈りと何も変わらず

ですが隊長はそれを形だけだと決め付けていたのです

「なんの騒ぎですか?」

奥から男がやってきました
穏やかそうに、それでいて聖職者である事を表す服装をしながら、聖騎士たちに近付きます

「今は祈りの最中です…どうか、少しお静かにしていただけないでしょうか?」

「えぇい!黙れ!貴様ら魔物が祈りだと!?ありえん!」

そう言いながら、近くにいたサキュバスの夫婦を無理やり立たせいいます

「貴様らは何に祈っているのだ!?」

「わ、私たちの主です…」

二人共怖がってしまっています
それをみた隊長以外の聖騎士達はオロオロし始め、他の教会にいた魔物の夫婦達も怖がっていました

「ここにいる者たちは、自分の信仰を持って、祈りを捧げています…何がいけないのでしょうか?」

そんな中、聖職者の彼だけが臆してはいませんでした
彼は夫婦と聖騎士の隊長の間に入り、その身をもってかばおうとしています

「我らが主神様以外への祈りだろう?それこそが悪なのだ!」

「彼ら彼女らは人間だった頃から主神への祈りを捧げていました…魔物になってもそれは変わりません」

「主神を信仰しているなら魔物になった時点で自害すべきなのだ!生きている事こそ悪でしかない!」

「そんな事はありません…魔物にも心があり、信仰があります。同じ命として…愛もあるのです」

聖職者と聖騎士の隊長との口論は激化します
聖職者が諭すように、聖騎士の隊長が断罪するように…

周りのみんなも、聖騎士たちも黙って見ているしか出来ませんでした

「えぇい!もういい!貴様ら全員元々断罪し処刑するのだ!今すぐ斬り捨てる!」

とうとうしびれを切らした隊長が、そう言いながら剣を抜きます

「おやめなさい!剣は自らを滅ぼします!…早く収めてください」

聖職者は隊長を止めようと声をかけます
が、彼はそれを無視し―――聖職者を斬り付けます

斬り付け、何度も…何度も刺しました

その光景に、周りの魔物の夫婦達は声すら出ないくらい恐れていました
また、何度も刺す隊長を聖騎士達は止めようとします

「おやめください!そのような死体を虐げる事は聖騎士として許されない行為です!」

しかし、隊長は言いました

「悪を殺しているのを邪魔するとは…貴様は背信者だ」

そう言って、隊長は自らを止めようとした聖騎士を斬り付けたのです
それを見て、他の聖騎士達は動けなくなりました

―――彼を助けたい、でも自分の命を投げれない

そんな自分たちに情けなくなり、泣きそうになっていたのです

「次は貴様らだ…」

そう言いながら、先ほど眼を付けていたサキュバスの夫婦の元へ向かいます

「つ、妻は傷つけさせない!」

夫の男性は、サキュバスを庇う為に震える体を抑え、サキュバスの前にでます

「魔物なんぞを妻という…堕落者め!死ねぇ!」

妻のサキュバスは泣きながら手を伸ばし、彼を後ろに引かせ、怪我を負わせないようにしようとします
が、凶刃は無慈悲にも夫を斬ろうと振り下ろされようと―――

「!?なっ!」

「そんな…」

結果から言えば、夫は無事でした
彼を庇った者がいたからです


「良いですか…暴力はいけません」


彼を庇ったのは、刺され、斬り付けられた聖職者彼だったのです

「…誰か、斬られている彼を…早く!」

自分が斬られながらも、その剣を手に握り、聖騎士の隊長を動けなくしています

その間に、未婚のローパーの女性が彼にヒーリングをかけます

「せ、先生…」

「私は大丈夫です…よく頑張りましたね…」

夫の彼に優しく声をかける聖職者
それを見ながら、聖騎士の隊長は言います

「なぜだ!?なぜ生きている!心臓も何度も刺したんだぞ!」

ですが聖職者は答えません
答える代わりに、隊長にこう告げます

「良いですか?暴力をふるってはいけません…暴力をふるっていいのは…」

その瞬間、今まで穏やかだった聖職者の表情が変わります

―――まるで、怒りを体現した荒ぶる神のように
―――まるで、罪人を憎み裁く、執行者のように

「反魔物主義者達と魔物達に暴力を振るった者達だけです」

瞬間、隊長は凄まじい力で後ろに吹き飛びます

自らが蹴られたと気づいたのは、入ってきたドアにぶつかり、外に出た瞬間でした

聖騎士達は驚きました

なぜなら聖騎士達の隊長は、この聖騎士達全員よりも強く、聖職者の方が強そうに見えなかったからです

「貴方達はそこにいなさい…私は彼に稽古を付けてきます」

そして、その言葉と共にまた聖騎士達は驚きました
彼の体中の傷が塞がっていたのです

「反聖騎士(アンチパラディン)…」

聖騎士の隊長が聖職者にむけて言います

「かつて教団の聖騎士でありながら、魔物の元に下り…聖騎士狩りをしている悪劣極まりない人類の恥さらしめ!」

その言葉を聖職者は受け止め、こう続けます

「確かに私は教団からみたら裏切り者の恥さらしでしょう」

聖職者は、隊長が立ち上がるのを待ちながら言葉を続けます

「だが…互いに愛し合い、歩み寄る事を忘れ、挙句他者を傷つける事が聖騎士だというのなら!私は反聖騎士で一向に構わん!」

「ほざけぇ!」

聖職者の言葉を聞きながら、隊長は斬りかかります
ですが聖職者はそれを難なく避けてしまいます

何度振るっても、隊長の剣が聖職者に届くことはありません
何度斬りかかっても、まるで水の流れのように避けられてしまいます

「…この程度か」

聖職者が言います

「この程度で聖騎士?笑わせるなよ若造が…」

「黙れ!人類を裏切った犬畜生め!」

隊長はさらに罵声を浴びせます

「魔物なんかを庇い、挙句愛だとかほざく貴様こそ聖騎士の堕落の象徴!貴様如きなんて、聖騎士の風上にもおけない蛆虫以下だ!」

聖職者は黙って聞きます

「貴様なんか呪われろ!呪われて、地獄で罰を受けるが良い!貴様を堕落させた魔物と一緒に苦しみ抜けば良い!貴様も、堕落させた魔物も!犬畜生に劣る害悪だ!」

「…言いたい事は言い終わったか?」

その声は、一体どこから発せたのでしょう?
まるで地獄のそこから発せられた、悪魔の声のようでした

「私を貶めるのは大いに結構だ…だが、関係ない魔物達まで貶めるとは―――」

その瞬間―――動きが変わります

「恥を知れぇ!この愚か者がァ!」

今までただ避けていた聖職者は、一気に駆け出します
駆け出し、また隊長を蹴りつけました

先ほどのように遠くに飛ばすためではなく、地面に叩きつける為です

その衝撃で、隊長は手から剣を放してしまい、聖職者は跳躍します

「ashes to ashes(灰は灰に), dust to dust(塵は塵に)…AMEN(エイメン)!」

跳躍しながら、いつの間にか持った短剣を、隊長に投げつけます
投げつけ、手のひらと手足の関節にその剣は突き刺さります

「ガァッ…!」

「痛むか?苦しいか?辛いか?…安心しろ、最も強度の良い魔界銀を使っているだけだから死にはしない」

隊長の近くに降り立った聖職者は、笑いながら続けます

「心配するな…貴様にはもっと苦しみを与えてやろう…貴様が与えた苦しみは、その程度ではなかったのだろう?」

まるで狂ったように笑みを浮かべながら、それでいて怒りを放つ彼の威圧に、隊長は負けてしまいました

「た、助けて…ゆるして…」

「そう懇願した者達を、貴様はどうしてきたんだ?」

その言葉に、隊長は希望を失いました
そう、今まで自分がしてきたのは…同じ状況で、相手を容赦なく痛めつけ、殺してきたのです

そして、聖職者が手に持った短剣を隊長に突き刺そうとしたその時です!

「やめてぇ!」

聖職者を止める一人の女…いや、魔物がいました

「もういいでしょ!?これ以上傷つけてるの見たくない…」

「…止めてくれて、ありがとう」

聖職者は彼女の方に向き直り、先程までの穏やかな笑みを浮かべて言います
そして、聖騎士の隊長に告げました

「貴様が忌み嫌った魔物の優しさに感謝するんだな…」

その言葉とともに、刺さっていた剣が抜けます
抜けた瞬間、隊長に激しい痛みが襲いかかります

「痛みのルーンを剣に彫ってある…自分の罪の分だけか、魔物に助けられるまでのたうち回るが良い」

そう告げると、聖職者は教会に戻っていきました

・・・

教会に戻ると、中にいた魔物の夫婦や、聖騎士達が聖職者を見ます
みんな、とても心配そうでした

「みなさん…心配をおかけしました」

その穏やかな顔を見るなり、魔物の夫婦や、独り身の魔物達は安堵しました
そして、聖職者は聖騎士たちに告げます

「このように、魔物達は変わり、今や人間以上に相手を愛してくれています…一体どちらが魔物なのでしょうか?今や人間の方が魔物じみてはいませんか?」

その言葉に聖騎士達は…

「私達は…ここに来て戸惑いました。魔物と人間の…なにが違うのでしょうか?」

「それをここで学ぶのです」

こうして、聖騎士達は親魔物領で魔物達と暮らしながら、魔物達と愛を育んでいきましたとさ

〜〜〜


またやってしまった

彼女が止めてくれなかったら、私はきっとあのまま拷問し続けていただろう

「大丈夫?」

「心配をかけましたね…すみません」

彼女は首を横に振りながら、私のそばまで来てくれる

「大丈夫だよ…大丈夫…」

彼女がそう言いながら、私を抱きしめてくれる

―――かつての私も、あの聖騎士の隊長のように魔物を悪とし、戦場を駆け回りながら教えを説いていた

が、その中で疑問がわいた

なぜ魔物達は人間を殺さずにいるのだろう?
なぜ彼女らは自分らを殺しに来た者達まで助けているのだろう?

これは…愛ではないのか?

その疑問に答える者はなく、代わりに私は戦犯として捕まり、非人道的な実験のモルモットにされた挙句、国を追われた

国の転覆を狙う、逆賊として、戦友達から隣人にまで追われ、心身ともに疲れ果てていた

そんな中、崖から落ち川を流れていた私を…彼女は助けてくれた

献身的に、それこそ教会のシスターよりも献身的で温かく…私を助けてくれた


彼女に、私は救われた


隣人すらも敵となり、自らを追ってくるのに―――彼女は、知らない赤の他人…いや、彼女の同胞すら殺してきた私を助けてくれたのだ

その後、縁があり領主夫妻―――なんとリリムであった―――と出会えた私は夫妻の元に行き、教会を立てる事を願い出た

ここなら…ここなら本来目指すべき物が目指せるのではないのか
本当の愛について、ここからなら世界中に伝えれるのではないのか

その思いが、私を突き動かした

二人は私の思いに賛同してくれ、領の端に教会を立ててくれた


―――すぅ…


物思いにふけりすぎたのか、横で彼女が寝ている
そんな彼女の頭を撫で彼女を抱きかかえる

彼女と眠ると、昔の悪夢を見なくて済む

彼女に依存してしまっているという意味では堕落だろう
が、それが愛する者への執着なら…愛する者といて癒されるなら…

これはどんなに素晴らしい救いなのだろうか

これが間違いだというのなら…今すぐに天罰が起きるだろう
が、起きていないのだから、間違いではないのだ


私の救いは…今、私の手の中にある




13/10/18 23:15更新 / ネームレス

■作者メッセージ
ちなみに隊長はマンティコア辺りにお持ち帰りされてるんじゃないでしょうか(妬

どうも、ネームレスです

以前から書きたいな〜とモヤモヤした内容でした
モデルはある漫画の有名な聖職者さんですねw

…元ネタからみたら全然違うのはご了承ください

後、聖職者の妻は皆様のご想像にお任せします
私の場合候補が5人もいるのでw

絞れないので特に誰とは決めてません


それでは今回はこの辺で…

ここまで読んで頂き、ありがとうございます!
次回作もお楽しみに!

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