読切小説
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俺得物語フィフティーン

―――カツン、カツン

ライトの明かりが通路を照らす
暗いその通路を照らしながら、巡回通路を回る

「夜の美術館って…やっぱ少し不気味だなぁ…」

金がそこそこ良く、あまり疲れないと知り合いに紹介された短期のバイトだが…

「不気味さが半端ねぇよ…」

開館されている時と変わっての静けさ、いや、静けさを遥かに超えたその不気味さは人の根源の感情、恐怖を呼び覚まそうとする


と、巡回ルートの中で一番不気味な場所に近付いてきた

「エジプト博か…」

古代エジプトのミイラや調度品が並ぶその場所は、まるでどこかの映画のようにいきなり動き出しそうな勢いだ
煌びやかな財宝もある中、それに触れたらバチでもあたりそうな雰囲気を出しているその場所は、まるで聖域のような神聖さも漂わせる

昔よく盗掘とかをして呪われて殺されたと聞いていたが、それがなんとなく解る気がする


―――ズルゥ

と、考えてたら何かを引きずるような音がした
念のためあたりを見渡すも、何もない

―――ズルゥ、ズルゥ

「!?今度は聞き違い…じゃないよな」

一瞬ビクッとしたが、それで確信した
―――誰か居る

音がした方にライトを当てて再度みるも何もない

―――ズルゥズルゥ

再度音がした方にライトを当てながら言う

「誰だ!?」

が、そこには誰も居ない

何かが這いずる音が聞こえては消え、気配も消えている
まるでこちらの様子を伺っているようにも感じる

「…ん?」

と、床にライトを当てて今気づいた物がある

「これ…鱗?」

そこには鱗が落ちていた
が、その大きさはどう考えても大きい
まるで何十メートルもある蛇の鱗とも思える

「なんでこんな物が?」

そう言いながら前を見ると、少し離れた所にまた鱗が落ちていた
少しライトで散らすとその先にもまた落ちている

「…盗品を落としてるのか?」

そう思いながらその鱗を追う

―――この時冷静に考えてればわかる事だった
展示品の中に、鱗のものなんて無かったのだ

・・・

鱗を追っていくと、エジプト博から抜けて他の展示コーナーも抜けて行く

「どこまで…」

気がつけば巡回コースも離れてしまっているが、それ所じゃない
応援を呼ぼうとも思ったが…なぜだろうか、応援を呼ぶ気にはなれなかった

と、不意にまた鱗を見つけた

それは―――

「正面口か、開けられては…いないんだな」

鍵とかをチェックしてみても問題はない
周りを見渡しても、誰もいない

この状況から考えられたのは―――

「いやいや、相手が人間だったらありえねーだろ」

そう言いながら上をライトで照らす
その瞬間だった

「!?」

不意に体に何かが巻きつく
そして、そのまま何者かに手で口を抑えられた

「動かないで…」

その声と背中に当たる何やらやわらかい何かで、相手が女性なのはわかった

「そのまま首を縦に振るか横に振るかで質問に答えなさい…」

抑えられながら、首を縦に振る

「まず…ここはファラオの遺跡?」

…一回目から首を何処に振ればいいのかわからなかった

「貴方はファラオの夫?」

首を辛うじて横に振りながら身体を動かそうとする

「動くな、と言ったはずよね?」

その言葉と共に、身体に巻きつく何かがきつくなる
仕方ないが、動きを止める

「そう…良い子ね…」

そう言いながら身体を更に押し付け、背中の柔らかい感触に意識がいきかける

「ここはどのファラオの墓なの?」

その言葉に何とか声を出そうとするが、口を手で押さえられている

「…あ」

そう言いながら、彼女は口の拘束を解いた

「プハッ!…さっきからあんた何言ってんだ?」

「いいから質問に「ここは博物館、遺跡でも墓でもないよ」

彼女の言葉を遮り、続ける

「確かに遺跡から持ち出された物とか、昔のエジプトの遺跡のものとかあるけど…これはどっかが管理してるに過ぎない、はず」

その言葉と共に、身体の拘束の力が緩み始める

「そ、んな…なら…私は…」

拘束が解けた時に、ようやく気づき始めた

このなにかは、明らかに暖かいし、表面が鱗のようだ
この事実を確認しながら首をギチギチと動かしつつ、後ろを見やる

そこには―――

真っ黒な髪と紫の肌、そして漆黒の蛇体をもつ、美女がいた

・・・

「アポピス…」

「そう、私はアポピス。ファラオの敵対者」

そう言いながら彼女は拘束していた蛇体を器用に動かしながら来た道を一緒に戻っている

「数千年の眠りから覚めて、これからファラオを堕落させようと思ったのに…」

「現代にはファラオとか居ないからねぇ…」

平静を保ってるふりをしながら、彼女と話を併せる

―――彼女の話によると

数千年前に何人ものファラオを葬ってきたらしい彼女は、エジプトの神官たちに捕らえられ、封印されたらしい
その封印が自力で解けるようになったのがついさっき

そして行動を開始しようとしたら、この博物館に居たのだそうだ

「これから自分だけの国を作って作って作りまくろうと思ったのに…」

「その…ご愁傷様です」

ちなみに言語については彼女が博識だからなのか、問題なく通じてる

「はぁ〜…私の存在意義って、もう無かったんだな…」

そう語る彼女の横顔には、苦笑と自虐、そんな物が笑顔に混じっている気がした

「…だったら、新しい生き方とか探してみたら良いじゃないですか」

「そうは言ってもね…君の話だと、私達みたいな存在が生きていくには…この世界は辛いのよ」

確かに彼女のような存在は夢物語だったりするし、場所によっては研究材料と言って捕まえるかもしれない

「でも…」

「そうやって、私のことを心配してくれてありがとう」

そう言いながら巻きついてくる彼女

「そうね…古きも新しきも取り入れるのはアリかもね…」

そう言いながら、彼女は抱きついてきて―――

「この国、堕とすわよ」

「はいぃ?」

にっこりと微笑みながら、語る

「だって、君から聞いたこの国詰まんなそうなんだも〜ん…詰まんないのは悪よ」

そう言いながらニヤリとして、彼女は言う

「この国、ひいてはこの世界をわが手中に収めたら…面白そうじゃない?」

そう言う彼女の笑顔は可愛らしくて、でも美しくて―――

「…取り合えず、情報収集から?」

「そうこなくっちゃ♪」

彼女となら、歩いて行きたいと思ったんだ
13/08/01 23:47更新 / ネームレス

■作者メッセージ
はたして彼女の野望は…多分ダメじゃないかな?

どうも、ネームレスです

ひげ親父様のリクエスト、アポピスです

なんとなく夜の博物館で会ったらなぁとかイメージしてしまいましたw

…ナイトミュージアムみときゃよかった(ボソ

アポピスさんは怖い見た目に反して、きっとかわいい性格な気がします
…このアポピスさんが日本を攻め落とすのを楽しみにしましょうw

それでは今回はこの辺で…

ここまで読んでいただきありがとうございます!

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