読切小説
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俺得物語サーティーン
『姫!助けに参りました!』

『そなたは…勇者様!ありがとう!』

TVの画面を見ながらなぜか虚しさが込み上げてくる
これは作り物だし、ハッピーエンドになって当たり前だ

「…俺には関係ない、よなぁ」

つけていたゲーム機とTVの画面を消して、現実に戻る
―――このなんとも言えない倦怠感と失望感

現実に戻ったのだと、嫌でも認識できる

「…なんで、面白かったんだろ?」

ゲームの始めは面白かった筈なのに、後半のラスボスを倒してからは虚しい感じだけだった

「まぁ、こんなもんか」

自分がどんなに憧れても、なれないもの―――主人公

人生は自分が主人公だなんて簡単に言ってる奴等もいるけど、生憎そんな事はなかった
今までも、これからも…

・・・

「お前やる気あるのか!?」

また上司にどやされる

「お前の代わりなんかいくらでもいるんだぞ!」

「…申し訳ありませんでした」

また、この繰り返しだ
他の奴のミスまで自分のせいにされて、なんで俺が怒鳴られなきゃいけないんだ

「いいから早く仕事に戻れ!」

理不尽極まりないが、自分の仕事に戻る

「あ、これやっといて」

「は?」

自席に戻ると、他の同僚が仕事を押し付けてきた

「今日どうしても外せない用事があって…」

「…また合コンとかでしょ?」

「良いじゃん、どうせ暇でしょ?」

言い合いをしても埒が明かない
ため息交じりでその仕事も引き受ける事になる

これもいつもの事

・・・

もう退社時間を過ぎるが、まだ仕事が終わらないから残業をする

「おい!タイムカードきっとけ!」

うるさい上司はサービス残業を強要する
断ればクビをちらつかせるのだから、たまったものではない

「…わかりました」

威張り散らしながら帰っていく上司に、後に続く同僚等

ガランとした職場で一人、黙々と仕事を片付けていく中、ふと思う

―――なんで生きてるんだろう

最近増えてきた、その想い
生きていても辛いだけだし、自分の人生とやらもなんの輝きもなければ自分が主人公になる事は出来ない

それなのに、懸命に生きるフリをしてただただ誰かに搾取されるのに意味があるのか?
いや、それが意味なのだとしたら、そのために生きたいのか?

「…くっだらねぇ」

そう言いながら職場を後にし、屋上の方に向かう
衝動的自殺、とか新聞には書かれるんだろう

死んだ後は両親とかに迷惑がかかるらしいけど、どうでも良い

「俺に…意味なんてないんだろ?だったら…生きてても死んでもかわんねーじゃん」

そう言いながら、屋上の扉を開ける
―――夕日が落ちそうなのが見え、とても綺麗だ

「最後に位は華を飾ってくれる、ってか?」

そう自虐的に笑いながら、俺はフェンスに近づく
そのフェンスを越えた先には、人生の終着点がある
そう思うと、なぜか高揚し始めた

「そうさ、どうせ意味がないんだ…とっとと死んじまおう」

そう思いながら上ろうとした、その時だった

「死んじゃう位なら、最後の時間を私に下さらない?」

後ろからの声に驚き、振り返る
そこには―――絶世の美女がいた

白く伸びたその髪は絹のようで
出るところは出てて
引き締まってるところは引き締まってて
顔立ちも可愛らしいながらも美しい

服装はタートルネックだかの白のセーターと白のスカート、とは言っても正確な言い方までは知らない

だが、奇妙なのはその眼だ
カラーコンタクトでも入れてるのか、紅い

そんな彼女がクスクスと笑いながら俺に近づく

「こんばんは、そして…貴方の時間を私に下さるのかしら?」

そう言いながら笑っている彼女を見ていて、俺は寒気がした
―――そして気付く

先ほどまで自分しかいない筈だった屋上、しかも扉は閉まっている
そして屋上には誰かが隠れるスペースはない

「あんた…一体…?」

つまり彼女はどこから来たのだ?

「…40点」

「…は?」

いきなり点数を言う彼女に、俺は素に戻る

「もう〜折角雰囲気作ってみたのに〜!もうちょっと言う事あるじゃないですか!?」

「…は?」

いきなり子供っぽく俺に言い始める彼女
―――同一人物とは思えない

「がんばってホラーチックとか目指してみたのに、なんでもっと驚いたりしてくれないんですか!?」

「いや、思考追い付かないんだけど…」

「もっとこう驚いてくれたり怖がったりとかあるじゃないですか!?なんていうか表情の変化あんまりないとへこみますよ!」

「表情が変わらないのは元からなんだ…って」

理不尽に怒る彼女から、羽とか尻尾とか角が少しずつ見え始めてきた

「もう!…って、どうしたんですか?」

キョトンとする彼女を見ながら、俺は意識を手放した

・・・

「ハッ!?」

眼を開けると、彼女の顔が自分を覗いていた

「あ、起きましたか!びっくりしましたよ〜」

のん気に言う彼女には、やはり角が生えていた
そして、そんな彼女に膝枕をされていたのに気が付いた

すぐさま飛び起き、俺は言う

「って!お前一体何なんだ!?どうやってここに来た!その角とかは本物なのか!?」

そう言いながら、さっきの太陽のほうを見る
―――完全に落ちきってないから、きっと5分は立ってないはずだ

「ん〜…どう説明していいのか…」

そう言いながら立ち上がる彼女

「そうですねぇ〜…まず私は人間じゃありません」

「なら、お前はなんなんだ?」

そう聞いたところ、にっこりとしながら彼女は言った

「こっから先は質問一つにつきこちらも質問させてください、不平等です!」

…訂正しよう、ニッコリしながら、おっきな胸を張りながら威張って返された

「…なんだろう、なんかイラッと来る気もするのに疲れた」

「疲れてるなら休んですっきりしちゃいましょう!」

そう言いながらニッコリする彼女は中々に魅力的だ

「では、こんなところじゃ休めないと思うので…ここから出ながら質問しちゃい合いましょう!」

そう言いながら俺の手を引っ張る彼女

「ちょ、ま…」

待てと言い掛けて、俺はなぜか固まる
―――あったかい

今まで彼女と呼ばれる人間はいなかったが、人と手を繋ぐ機会はいくらかあった
が、ここまで心に入ってくるようなあたたかさはあっただろうか?

記憶違いでなければ、無い

「?どうかしましたか?」

「…いや」

不思議そうにする彼女に、そう答えるのが精一杯だった

・・・

「…つまり要約すると、君は別の世界の住人で、そこのお姫様…しかも人外と」

「…そちらは人生に疲れたから死にたかった、そんな勿体無い事をしようとしたのを私が止めたと…フムフム」

彼女と会社を出てから、近くにある喫茶店でお互いに飲み物を取りながら話をした
―――彼女が言うには、別の世界のゲートが開いたので魔王の娘たる自分が調査をしに来た所、間抜けにも目の前に丁度良いカモがいたのでそいつを助けて案内させようと思ったとの事だ

「…なんでだろう、曲解されて認識されてる気がする」

「気のせいだろう…」

そんな風にしながらコーヒーを啜っていると、彼女が突然言う

「なんで、死んでもかまわないと思ったんですか?」

「…」

ここで適当な事をいって煙に巻くのは、出来なかった
それを許さない位、彼女が真剣なのが伝わったからだ

「…自分を代用品とか消耗品と思ったことはあるか?」

「え?」

彼女に俺は質問をしながら言う

「俺はいつもそう思いながら生きてるよ。そして、これからもそうかもしれないな」

「そんな…貴方にしか出来ないことだって「ない」

彼女の言葉を遮って、俺は言う

「こいつじゃないと出来ない、なんていうのは1%の人間に与えられた特権なんだよ」

コーヒーを啜りながら、自分に言い聞かせるように言う

「特別な人間なんてのは一握りもいない、そこからさらに能力が優秀だったり取り入るのが上手かったりすれば人をあごで使え、それが出来ない奴はただ使われる」

「そんなのおかしいですよ!」

「おかしかろうとそれが俺が今まで生きてきた人生論だ。そしてその搾取されるしか能が無いのに耐えられなくなったから自殺しようとしたのが俺だ」

彼女は悔しそうにしながら俺を見る

「そんなの…おかしいですよ…」

「そっちの世界はわからないけど、ここでは金があるかとか才能があるかとか容姿が良いかとか性格が世間向きに良いかとかしか必要ない。ほかは不要でばっさり切り捨てる」

うつむいた彼女は、何を思うのだろうか?
俺には解らない

解らないし、解ろうと出来ない

「いきなりこんな暗い話ですまないな…君だったら他の奴に声を掛けても目的は果たせると思う」

そう言って立とうとした時だった

「…貴方は、自分で自分の良い所が見つからなかったから辛いんですよね?」

「…無い物を探す時間はない」

「なら、私が見付けます」

「…は?」

彼女が顔を上げて宣言する

「これは言わば勝負です!日が昇るまでに貴方の良い所をいっぱい見付けます!もし見付けれなかったら私も一緒に死にます!」

「はぁ!?ふざけてんのか!」

彼女の顔は真剣そのものだったが、発言の過激さは意味がわからなかった

「真剣です!そして勝負といったのです!」

「いや、意味が解らないから!つーかいきなりなに言ってんの!?そんなのsy「貴方には!」

俺が続けようとした時、大声で遮る

「貴方には!愛が足りないのです!愛される、どんな人でも生きて良いという真実を貴方に証明します!出来ないのなら…私がここに来た意味はないのだから…」

後半になるに連れて、泣きそうになりながら彼女は続けた

「貴方も私も…同じ命なんですよ…」

そう言いながら泣く彼女に―――

「お二人さん、痴話げんかは他所で頼めるかい?」

いや、俺達に…喫茶店の店長からの退店願いが出された

・・・

『詳しくは知らんが、まぁまたコーヒー飲みに来い。その時までツケだ』

そんな意味の解らない言葉をもらいながら、俺達は街の中を歩いている
彼女はまだ、俯いている

「…あー…その…」

こんな時に気の利いた台詞を言えたらと思うが、出てこない

「言ってる事はありがたい。ありがたいけど…なんでそこまで俺の事を考えれるんだ?」

質問しても、彼女からは答えは返ってこない
と、ふと腹に違和感を感じた

その違和感はどんどん大きくなり―――

グゥ〜

腹がなってしまった
が、なったのは自分だけじゃなかった

横にいる彼女の顔が赤くなる

「…腹減ってんだけど、飯食いに行って良いか?」

「…あの」

「今ならもれなく一人ならご馳走したい気分だから、付いてきたいなら勝手にしてくれ」

その言葉に今までの悲しそうな顔はなくなり…

「はい!後早速みつけましたよ!」

そう言いながら腕に抱きついてきた
―――その大きなふくらみが、腕に当たる

「ばっ!?離れろ!」

「え〜、いやです」

そんな言い合いをしながら進んでいく
そんな些細なことが…嬉しかった

・・・

「おいひぃ〜♪」

「そりゃよかったな」

場所、屋台
食事、ラーメン

ラーメンを美味しそうに食べる異世界のお姫様

「なんだこれ?」

「ん?美味しくないならちょーだい!」

「やらね…ってチャーシュー狙うな!メンマもダメだ!」

そんな事をしながらラーメンを食べているが、屋台のおっちゃんはそれに気を良くしたのか、卵をオマケしてくれた

「ん〜!おいしぃ…」

「そんなに美味しいのか?」

「うん!」

素直に笑ってる彼女を見ていると、なんだか救われた気分になってくる
こんな風に人と食事するのも、いつ以来だろう

そんな事を考えていると、嫌な声が聞こえてきた

「全く、最近の若いもんはつっかえないですなぁ!」

屋台には近づかないみたいだからありがたいが、その声に不快感が込み上げてくる

「能力も無い落ちこぼれの分際で!契約社員として使ってやってるだけでも感謝してもらいたい位なのになぁ!」

その言葉一つ一つが、俺に突き刺さる
―――なんで、俺が平安を手にしようとしたのに…邪魔をするんだよ

「まったくですなぁ!仕事も出来ない癖に職場において貰ってるくせに反抗的な眼をして…どんな教育を受けたのやら!」

今すぐにでも殴りにいきたい衝動に駆られながらも、俺は殴りに行けない
―――自分の意思を表す事もできないのか、俺は…

「…」

と、そんな時だった
左手を、何かが包み込む

見やると、彼女が左手を握ってくれていた

「大丈夫ですよ、大丈夫…」

そう言いながら、笑ってくれた
それは今まで向けられた嘲笑や見下しとは違う

あたたかい、優しい笑顔だった

「美味しいラーメンが、なんだか嫌な気分になっちゃいましたね」

そう言いながら苦笑してくれる彼女

「…ごめん」

「あっ!いえ…貴方のせいじゃないですよ」

「全くだ…!」

突然、屋台のおっちゃんが言い始めた

「あんたの上司かい?嫌なやつだねぇ〜…折角の別嬪さんとの食事もまずくなられちゃたまんねぇ…食ってけ」

そう言って、半玉ずつを俺と彼女に入れる

「え、いや…」

「いいから食ってけ、そこの別嬪さんなんかもう食っちまってるぞ」

その言葉に顔を向けると…

「ん?あげませんよ!」

「いや、とらねーよ」

幸せそうに麺をすする彼女がいた

・・・

「美味しかったですねぇ〜」

「そうだな…」

屋台で代金を払い、家へ帰る途中
あれから彼女は手を離さない

彼女の右手が、俺の左手を包む

「また行きたいです!」

「…気が向いたらな」

その手を、そっと、力を込めて握り返す
そうすると、彼女のそっと力を込め返す

そんな些細な事だけど、彼女の存在を感じて、嬉しくなる

「んふふー♪」

嬉しそうに俺を見て言う

「あったかいですね!」

その貌には笑顔が、満面の笑みがあった

「握り返してくれるの…一人じゃないって感じて嬉しいです」

その言葉に、俺は止まる

「ん?どうかしました?」

彼女が言った事は、俺も感じていた事だからだ
同じ気持ちになれて、本当に嬉しい

「いや…こんなに嬉しいのは…初めてで、さ」

「あっ…」

俺の顔を覗き込んだ彼女が言う

「わらってくれた!」

「え?」

「今までなんか無表情だったけど、笑ってくれました!」

嬉しそうに…自分のことのように笑う彼女
その表情に釣られて俺も笑い―――

「そこまでだ…魔物め!」

その声の先には、男が立っていた
鎧を着て、剣を持って…って、え?

「な、んで…」

そいつを見た途端、彼女が震え始める

「我ら勇者は貴様らを滅ぼす者也!」

そう言いながら、剣を構えて突っ込んできて―――

・・・

「うわぁ!」

彼女に突き飛ばされて、俺はなんとか剣を避けられた
彼女はその直後に羽を羽ばたかせて剣を辛うじて避ける

「魔物め…死ね!」

そう言いながら彼女を執拗に狙い続けている勇者

勇者?なんで勇者が…と思うが思い出す
彼女は、魔王の娘だ

よくファンタジーなんかでは魔王ってのは悪で、勇者が正義だ
つまり、これもその縮図?
そんな事を思いながら彼女を見ていると、手には何か水晶を握っていた

それが光ると―――剣が出てきた

「くっ!」

その剣で彼女はなんとか自分を護る

「ふん!人を誑かす悪魔め!そこの男性を誑かしていたのか!?」

「違います!彼は!」

そう続けようとした所、勇者は突然叫ぶ

「アクセル!」

瞬間、物凄いスピードで移動しながら彼女に斬りかかり―――

「きゃああ!」

彼女は斬られ、吹き飛ばされてしまう

「これで…」

そう言いながら彼女に向かう勇者

それを―――

(動け!動けよ!)

動けずに、見ているだけの自分

(なさけねぇ!なんで…足が震えちまってるんだよ!)

動こうとしても、足が震えて動かない
彼女が明らかに危ないのに…動けない

(どうせ死のうとしたんだぞ!せめて最後くらい誰かの役に立てよ!なんで!)

情けなさに泣きそうになるが、動けない

と、彼女と目が合う

―――彼女は笑っていた
まるで俺が無事なのを安心したように、自分が危険なのに

「トドメだ…」

勇者が彼女に剣を振り下ろそうとした、その瞬間だった

「やぁめろおおぉぉぉぉぉ!」

そう叫びながら、勇者に突っ込んでいく自分
とっさの事で、勇者も反応が出来なかったらしい

そのままタックル、というにはお粗末な姿勢でぶつかっていく

「なっ!放せ!」

「お断りだこん畜生!」

そう言いながら彼女を見て言う

「逃げろ!」

が、彼女が放心してしまっていた

「な…んで…」

「いいから逃げろ!ここは俺がなんとか―――」

その言葉の途中腹を蹴られ、彼女の方に転がる

「貴様…聖なる職務を邪魔するのか!?」

そう言いながら剣を向けてくる

「それは悪魔だぞ!人々を堕落させ!破滅させる悪そのものだ!それを庇うなんて…なんて出来損ないなんだ!」

「この人は出来損ないなんかじゃありません!」

「堕落できたカモだものな!お前はそう言うしかないんだ!」

勇者の言葉に…

「か…だ…らねぇ」

「ん?」

俺は―――

「彼女が悪だったらそんな正義いらねぇって言ったんだよ!」

感情が爆発した

「なっ…正気なのか!?貴様、それは化け物なんだぞ!?」

「だったらどうした!?彼女が俺にどれだけあたたかさをくれたと思ってやがる!」

そういいながら、近くにあった何かをつかみ、立ち上がる

「俺は今まで何も無いつまんねぇ人生しかないと確信していた!それを彼女はぶっ壊してくれた!」

「それはまやかしだ!」

「まやかしなんかじゃねぇ!俺が辛い時握ってくれたあの手のあたたかさは確かにあったんだ!」

その何かを…彼女が持っていた水晶を相手に見せるようにしながら、言う

「そんな最高に良い女を…俺なんかを助けてくれた奴を…否定するような正義いらねぇんだよおぉ!」

その言葉に反応して、水晶が光りだす

その光が身体を包み込み―――

「そんな…彼には魔力は殆ど感じなかったのに…」

光が止んだ

「な、んだと…」

そこから出てきた俺は―――

「なんだ…これ…」

どこかの特撮ヒーローみたいに、アーマーを着込んでいた

・・・

「おい!なんか変身しちまったんだけど!?」

「いや、解らないですよ!?っていうか、その姿なら貴方の方が詳しいんじゃないんですか!?」

どんな見た目か解らないが、手には見た事あるようなパーツがあったり、足は明らかに何かのアーマーっぽかった

「…はっ!まだ力も使いこなせていないみたいだな!」

そう言いながらそのまま剣で斬りかかってくるが―――よけてそのまま殴りかかる

「!?」

勇者はそれを難なく避ける

「つーか…なんか俺早く動けてる?」

自分の体が自分のものでないかのように、早く動ける
勇者がまた同じように斬りかかってくるが、今度は難なく避けられた

「…身体能力も向上しているようだな…なら」

そう言いながら、また叫んだ

「アクセル!」

その言葉の後、勇者は尋常ではないスピードで動きながら、俺と彼女に攻撃しようとしてくる

「っぶねぇーだろ!」

そう言いながら彼女への攻撃だけはさせないように庇った
が、相手のスピードが速すぎて追い付けない

どうしたら…!

「あ、あの!」

と、庇っている彼女からある考えが出てきた

「その右手の時計みたいなのって、なんかのアイテムなんじゃないんですか!」

そういわれ、ふと見て思う

(…まさか、これって…)

予想通りなら、この状況をなんとか出来るかもしれない

そう思いながら、時計についているボタンを押す

『GOOD SPEED!Countdown…13…12…』

(やっぱりかよ!)

そう言いながら、勇者と同じ速度で―――いやそれ以上の速度で動き出す

「なんだと!?なぜ貴様が!」

そう言いながら剣を振るう勇者

「貴様のような堕落した存在が!なぜ勇者の私と同じ力が使えるんだ!?」

「さぁな!だけど早く動けるのはお前の専売特許ではなくなったぜ!」

そう言いながら勇者の攻撃をいなし続ける

「認めん!認めんぞ!我ら主神に選ばれた勇者に間違いはないんだ!」

そう言いながら何度も剣を振るう勇者

「お前らに認められなくて良いさ…」

俺は続ける

「たった一人、俺を認めてくれた彼女の為に…俺はこの力を振るう!」

残りのカウントは3
その時、俺はなぜか構えながらこう言っていた

「偽善滅殺…ジャスティイス!」

残りカウント2
勇者は剣を構え俺を殺す気で振りぬく
それに合わせるように拳を打ち抜き―――

「ブレイカアァァァァァァァァ!」

残りカウント1
勇者の剣を砕き、その鎧に拳をぶつけ―――


『TIME UP!』


その言葉と共に、アーマーがガラスのように砕けながら俺から剥がれる
そして、その衝撃も重なり…

勇者は吹き飛んだ

「てめぇの正義なんかいらねぇ…必悪執行!なんて、な…」

言い終わってから俺は思う
―――なに中二病全開の発言とかしてるんだ俺は!

・・・

「だ、大丈夫ですか!?」

「…よくわかんね」

彼女が駆け寄ってくれたが、俺は起き上がることが出来ないでいた

「…で、あの水晶なんだったの?」

「あれは変幻の水晶で言って、使用者の思いを武器に変えるマジックアイテムです」

「…で、それがなんで俺のベルトに?」

「そこまではわからないです…」

そう、彼女の持っていた水晶はめでたくなのか不幸にもなのか…
正にどこかの特撮ヒーローのようにベルトになってしまったのだ

「…んで、あの勇者とかって言うのは?」

「そこで伸びてます…」

そう言いながら彼女は俺に膝枕をしてくれる
―――暖かい

「あの…」

彼女はなぜか申し訳なさそうにしながら言う

「スミマセンでした…巻き込んでしまって」

そう言いながら泣きそうになる彼女を見て、俺は言う

「いいや…俺こそありがとう」

「え?」

「君がいてくれたから…俺にも生きる意味があるんじゃないかって思えるようになった」

俺の本心を伝える

「君が俺を道具としか見てないならそれでもいい…それでも、君のために生きたい」

彼女の涙をぬぐいながら伝える

「道具な訳…ないじゃないですか…」

ぬぐっても出てくる彼女の涙
でも、笑ってくれているのが…うれしかった


「私達は…間違っていたというのか…」


そう言いながら、勇者が立とうとする

「あんた…無茶すんなよ…」

「お前が言うな…」

体がボロボロなのに、お互い立とうとするのはお互いを警戒してなのか
俺は彼女に肩を借りて立ち、勇者は剣を杖代わりにして立つ

「お前達…魔物にも…愛があるのだな…」

なぜか悲しそうにしながら、勇者は言う

「私達は貴方達と共存を望んでいるんです…」

「その想いが…ただの人をあそこまで強くしたというのか…」

そう言いながら俺を見て言う

「今回は引き下がる…だが、貴様らが道を誤るというなら私は貴様を討つ!」

その言葉に、俺は返した

「へっ!道がどうかはしらねぇが…こいつは俺の全てを掛けて護る!」

勇者は満足したようにしながら…どこかに去っていった

・・・

―――翌朝

俺は部屋の片づけをしていた

「…しっかし、言ってくれたよ」

「あれはあの人のがおかしいんです」

彼女は膨れながら部屋の片づけを手伝ってくれている

事の発端は2時間前
会社からの電話だった

『まだ来ないのか役立たず!』

遅刻した俺が悪いのだが、この一声目を聞いた彼女が電話をもぎ取り、そのまま俺の退職を言ってしまったのだ

「まぁ…ありがとうな」

そう言いながら抱き寄せ頭を撫でると密着してくる

「…あの、密着されるとですね、その〜」

「…だってしたいんですもん」

ボソッと、しかし確実に言ってくる彼女の言葉はまるで麻薬のようだ
もっとほしくなる

「遅刻するまでやったのに?」

「まだまだ足りない…」

そう言いながら俺をぎゅっと抱きしめる彼女は―――

俺が捜し求めていた、俺の人生のヒロインそのものだった





13/07/04 23:52更新 / ネームレス

■作者メッセージ
みんさんにばればれ、種族はリリムですね

どうも、ネームレスです


この主人公のように、自分自体の意味も何も解らなくて苦しかった時期がありました

私は変身したりリリム様に助けられたりしませんでしたが、このサイトの多くの作品や魔物娘に助けられたのは事実です

皆様、本当にありがとうございます

また、13という数字は私にとって色々特別な数字です

だから13に相応しい魔物娘であるリリム様を書かせて頂いたのと、俺得の中でも最長で書かせていただきました

今までになかった俺得要素(バトル)があり、書くのをどうするか悩んでいましたが、後押しをして下さった方や聞いてくれた方々がいました

名前はあえて出しませんが、その方々もありがとうございます

また、ここまで読んでくださったり、いつも読んでくださってる皆様も…

本当にありがとうございます!

最後に、これからもこの魔物娘作品を書かせていただきますが、何卒よろしくお願いします


ちなみにこのリリム様、以前書いたリビングドールのリリムさまです
これからも俺得の世界観では彼女が暗躍するでしょうw


それではそろそろこの辺で…

今回も感謝です!

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