人形と
―――それは、道端に捨てられていた、壊れた人形だった
折角綺麗に作られただろうその服も、ボロボロにされて捨てられていた
間接もへたっていたし、胴体部分もいつ身体が真っ二つになってもおかしくない位には壊れていた
そんな誰が見てもゴミと言われそうなその人形をみて…
気が付いたら、拾い上げていた
・・・
「よしよし…こんなに汚れちゃって…」
家に持ち帰った後、ボロボロになった服を脱がせて身体を拭いてやる
…人形にこんな風に接するのは、はたから見たら気持ち悪いだろうが、壊れかけているこの人形をみてたらいたたまれなくなった
服に隠れていて見えてなかったが、明らかに乱雑に扱われ、挙句に壊れて捨てられたのだろう
「辛かっただろう…」
人形に痛覚はない
けど、壊れている部分をより大切に拭いてやる
「どうにかして直してやるからな…」
そう言いながら、人形に―――いや、彼女に言う
・・・
「申し訳ありませんが…ここまで壊れていると修理は…」
「そう、ですか…」
専門店でもサジを投げられてしまう
それ位彼女の損傷は激しかった
「なら…せめて服のほうとか何とかならないでしょうか?」
「そうですね…ご予算はいくらを考えてますか?」
そう言いながら見せられたパンフレットの金額は、予想をはるかに超えていた
そして…手を出せる金額ではなかった…
「申し訳ありませんが、元の生地から考えるとこれ位でも安いほうなんですが…」
「そう、なんですか…」
怪訝そうに見られながらも、なんとか愛想笑いを返して店を後にする
後ろから、なにかヒソヒソ聞こえてた気がするけど、それ所じゃなかった
なんとか…彼女を直せないか…
そんな事を思いながら歩いていると、ふと思う
―――なんで、こんなに必死なんだろう
言い方が悪いが、彼女はただ拾っただけの人形だ
言わば、ゴミと同じだ
なんでこんなに彼女のために動くんだろう
そう思いながら、彼女を入れたかばんを見る
「…そう、だよな」
見ていて、彼女の事を思い出して思う
「辛くても…壊れてても…誰かにみてもらいたい、よな…?」
彼女に聞くように、僕は言う
そして、続ける
「僕も…君みたいに誰からも必要とされてない…」
現実的には、ある程度は必要とされているのかもしれない
でも…『僕』である理由はない
僕でなければいけない理由は、ない
「醜い行為かもしれない…でも、君を僕は必要としようと思ったんだ」
歩いている途中で見付けたベンチに座り、彼女へカバン越しに伝える
それは、言わば自分より相手を弱者と見て安心するのと同じ行為
わかってしまえば、自分の醜さをよりヒシヒシと感じる
「よく使われる、君は一人じゃないって言いながら相手より優位に立つのと同じかもしれない…そんな偽善でも許されるなら…」
―――君を治したい
そう思いながら、改めてベンチから立つ
「人形専門店とかで身体のパーツとか探してみよう…服は…本とかみながら…」
そんな事を考えながら、僕は歩き始めて―――
「危ねえだろ!」
気が付いたら、自転車が突然出てきた
何とか避けようとしたけど―――
カバンにぶつかる
中から、鈍い、何かが折れる音がした気がした
その瞬間、僕は青ざめる
「気をつけろ!」
そう言いながらさっさと行く自転車を無視して、僕はカバンを見る
「あ、あぁ…」
中で、彼女は真っ二つになっていた
「そ、んな…うそだ…」
いくら見ても、中で彼女は胴体部分が壊れてしまい、真っ二つになっている
―――その瞬間、僕は…
・・・
気が付いたら、家にいたような感覚だった
いくつかの人形専門店と生地を売ってる店をみて、何とか彼女を出来る方法を考えようと思った
けど、現実は残酷だ
『そんな損傷激しいのなら、捨てたほうが良いですよ?』
『申し訳ありませんが…この状態ですと…新品を買った方が安上がりですよ?』
『ご予算がその位では…』
「…やっぱりダメなのか?」
本やネットを見て探しても、中々いい方法を見付けられなかった
「僕が…醜い考えを持っちゃったから、いけなかったのかな?」
中途半端な優しさは、人を傷つけると言うが、こんな事を言うのだろうか?
カバンから出した、彼女を見る
胴体が真っ二つに割れて、痛々しい見た目
服もぼろぼろで、元々綺麗だっただろう銀髪も汚れていた
「ごめんよ…」
そう言いながら、僕は涙が止まらなかった
自分の不甲斐なさに、涙が止まらないのだ
そう言いながら、彼女の横で身体を寝かす
〜〜〜
気が付いたときには、私は身体がボロボロだった
乱雑に扱われ、気に入らないから捨てられた
買った時にはそれなりに喜ばれていたとは思う
けど、段々飽きられたのだろうか?
気が付いたら何かとあたられて、間接も悲鳴を上げていた
そして、ボロボロになって捨てられた
何日も雨に当てられ、朽ちていくだけだと思った
そんな時、あの人は私を抱き上げてくれた
ボロボロの、いつ壊れるとも知らない私を優しく拭いてくれた
私のために、なけなしの貯金を切り崩して私を何とかしてくれようとした
―――そんな暖かさに、私は救われた
それが結果を残せたかと言えば、結局なにも残せなかった
それに、彼はその優しさを自分をなにか追い込むような考えに変えてしまっていたのだろうか、私にしきりに謝っていた
そして、私は壊れてしまった
彼が悲しむ
彼が、私のために流してくれる涙が、嬉しくもあり苦しい
彼が―――マスターが私を必要としてくれる
そう思い始めた時、ふと声が聞こえた
「あなたは…彼にどうしたいの?」
―――マスターは私にとって必要な人なの
―――だから癒したいし、恩返しもしたい
「でも…あなたの身体は壊れてしまっているわ…」
―――壊れていても、マスターを癒したい!
「…あら?彼が壊したのかと思ったけど…勘違いね」
マスターはそんなことしない!
「ごめんなさいね」
そう言いながら、私に触れる白い髪の人
「お詫びに…貴方の願い叶えてあげるわ」
そう言われて―――
〜〜〜
「う、うぅん…」
気が付いたら、暗くなっていた
―――眠ってしまっていたらしい
彼女がいた方を見やる
「…え?」
―――彼女がいない
その事に僕は焦りを感じ始めた
「だ〜れだ?」
と、思った瞬間―――小さな手が僕の視界を遮る
「え?いや!?誰だ!?」
そう言いながら、その手を振り払い後ろを見る
「きゃっ!?」
そう言いながら尻餅をつく少女
「いったぁ…もう!なにするんですかマスター!」
「うるさい!お前はだ、れ…」
その少女を見て、僕は言葉を失う
その少女は―――彼女と瓜二つだった
彼女をふた周り、いやもう少し大きくした位のサイズだけど
その銀髪も、可愛らしい顔も―――
破れていたはずの黒いドレスも、その人間が出せないだろう眼の色も―――
まさしく、彼女のそれだった
「もう!マスター!しっかりしてくださいよ!」
そういいながら僕に抱きつく彼女
…やわらかいし、良い匂いだ
「き、みは…」
「はい、マスターが拾ってくれたドールです!」
まぶしい位の笑みを浮かべて、僕に言う
「昨日拾ってくれて、私を優しく拭いてくれてありがとうございます!」
その言葉に…僕は…
「…そんなんじゃ…ない」
彼女は不思議そうに僕を見る
「君を拾ったのは…僕が…君を助けれるって思い上がって…それで…」
きっとこれは夢なんだ
僕に都合の良い、夢なんだ
「夢の中でまで…僕は都合よくしようと…」
身体が震え始める
彼女に対しての、罪悪感でいっぱいなのだろうか?
「…私は、貴方が必要ですよ?」
僕を見ながら言う
さっきまでの笑顔ではなく、真剣な表情で
「貴方は…自分を必要としてくれる人がって言いましたよね?自分より弱い私を助けて優越感に浸りたいんじゃないか、って」
その表情から、その言葉から、僕は責められているのだと思いたい
思いたいのに―――
「そんな事ないですよ」
彼女は優しい笑みを浮かべて、言った
「私はマスターが必要ですし、なにより私を拾い上げてくれた、抱き上げてくれたあの暖かさは本物だったから」
―――だから、マスターは普通に良い人なんです
そう言いながら、顔が近づいてきて…
「きゃっ♪マスターとキスしちゃった♪」
顔を赤くしながら身体をくねらせていた
「…僕なんかで、良いの?」
「なんかとかネガティブなの禁止です!私がマスターを必要なのと同じで、マスターも私を必要としてくれるなら良いのです!」
そういいながら、また僕にキスをし始める彼女
小さい、やわらかい舌が絡んできた
「…んはぁ♪マスターのヨダレ、美味しい…」
眼がトロンとし始めた彼女は服を脱ごうとする
「って!待って!ちょっと待って!!」
「えぇ〜…」
「残念がらないで!色々混乱しっぱなしだったんだから!」
そう言いながらこのまま流されないようにする
「まずね…人形が勝手に動くのとかおかしい、よね?」
「マスターの愛の力です!」
「うん…落ち着こう…」
人形の時は、もっとおとなしそうなイメージだったけど…
いや、可愛いから良いんだけど…
「というか…サイズとか服とか…その、胴体…とか…」
「私も全部は解らないんですが…」
そう言いながら、彼女は説明してくれた
・・・
「白い髪に羽の生えた美女、ねぇ…」
「その人が私をこうしてくれたんですよ」
話を聞くと、誰かが不法侵入して彼女を今の姿に変えた
そして、彼女が間違いなくあの人形だという証拠として、お腹付近に残った傷跡、球体間接を見せられた
「君が…あの人形…」
事実、彼女の服も見覚えは当然あった
間違いなく、彼女の着ていたボロボロな服だ
彼女は嬉しそうに笑う
が、内心僕は複雑だった
彼女が治ったのに、素直に喜べない自分がいる
「結局…僕はなにも出来なかったのか…」
彼女を、自分でなんとかしたかったのだという、ちっぽけな虚栄心
「いいえ…マスターのおかげなんです」
が、彼女はそれを否定する
「あの女性は、マスターが私を想う気持ちがあったからマリョク?って言うのがよく馴染んだって言ってました」
そう言いながら、彼女は僕に体重を預ける
「マスターがいないと、やっぱりダメだったんですよ」
彼女が甘えるように、猫のように身体をこすり付ける
その頭を撫でると嬉しそうにする
「だからマスター…一緒にいてください」
不安そうにしながら、僕に甘える彼女
「僕こそ…一緒にいてくれる?銀華(ギンカ)?」
「えっ…それ…」
なんとなく浮かんだ彼女の名前を呼びながら、彼女を抱きしめる
「僕に高嶺の花だけど…僕も君がいてほしいよ、銀華」
感極まったのか、彼女から涙がぽろぽろ零れ始める
「はいっ!一生離れませんからね!マスター!」
本日三度目の、あったかいキスをした
折角綺麗に作られただろうその服も、ボロボロにされて捨てられていた
間接もへたっていたし、胴体部分もいつ身体が真っ二つになってもおかしくない位には壊れていた
そんな誰が見てもゴミと言われそうなその人形をみて…
気が付いたら、拾い上げていた
・・・
「よしよし…こんなに汚れちゃって…」
家に持ち帰った後、ボロボロになった服を脱がせて身体を拭いてやる
…人形にこんな風に接するのは、はたから見たら気持ち悪いだろうが、壊れかけているこの人形をみてたらいたたまれなくなった
服に隠れていて見えてなかったが、明らかに乱雑に扱われ、挙句に壊れて捨てられたのだろう
「辛かっただろう…」
人形に痛覚はない
けど、壊れている部分をより大切に拭いてやる
「どうにかして直してやるからな…」
そう言いながら、人形に―――いや、彼女に言う
・・・
「申し訳ありませんが…ここまで壊れていると修理は…」
「そう、ですか…」
専門店でもサジを投げられてしまう
それ位彼女の損傷は激しかった
「なら…せめて服のほうとか何とかならないでしょうか?」
「そうですね…ご予算はいくらを考えてますか?」
そう言いながら見せられたパンフレットの金額は、予想をはるかに超えていた
そして…手を出せる金額ではなかった…
「申し訳ありませんが、元の生地から考えるとこれ位でも安いほうなんですが…」
「そう、なんですか…」
怪訝そうに見られながらも、なんとか愛想笑いを返して店を後にする
後ろから、なにかヒソヒソ聞こえてた気がするけど、それ所じゃなかった
なんとか…彼女を直せないか…
そんな事を思いながら歩いていると、ふと思う
―――なんで、こんなに必死なんだろう
言い方が悪いが、彼女はただ拾っただけの人形だ
言わば、ゴミと同じだ
なんでこんなに彼女のために動くんだろう
そう思いながら、彼女を入れたかばんを見る
「…そう、だよな」
見ていて、彼女の事を思い出して思う
「辛くても…壊れてても…誰かにみてもらいたい、よな…?」
彼女に聞くように、僕は言う
そして、続ける
「僕も…君みたいに誰からも必要とされてない…」
現実的には、ある程度は必要とされているのかもしれない
でも…『僕』である理由はない
僕でなければいけない理由は、ない
「醜い行為かもしれない…でも、君を僕は必要としようと思ったんだ」
歩いている途中で見付けたベンチに座り、彼女へカバン越しに伝える
それは、言わば自分より相手を弱者と見て安心するのと同じ行為
わかってしまえば、自分の醜さをよりヒシヒシと感じる
「よく使われる、君は一人じゃないって言いながら相手より優位に立つのと同じかもしれない…そんな偽善でも許されるなら…」
―――君を治したい
そう思いながら、改めてベンチから立つ
「人形専門店とかで身体のパーツとか探してみよう…服は…本とかみながら…」
そんな事を考えながら、僕は歩き始めて―――
「危ねえだろ!」
気が付いたら、自転車が突然出てきた
何とか避けようとしたけど―――
カバンにぶつかる
中から、鈍い、何かが折れる音がした気がした
その瞬間、僕は青ざめる
「気をつけろ!」
そう言いながらさっさと行く自転車を無視して、僕はカバンを見る
「あ、あぁ…」
中で、彼女は真っ二つになっていた
「そ、んな…うそだ…」
いくら見ても、中で彼女は胴体部分が壊れてしまい、真っ二つになっている
―――その瞬間、僕は…
・・・
気が付いたら、家にいたような感覚だった
いくつかの人形専門店と生地を売ってる店をみて、何とか彼女を出来る方法を考えようと思った
けど、現実は残酷だ
『そんな損傷激しいのなら、捨てたほうが良いですよ?』
『申し訳ありませんが…この状態ですと…新品を買った方が安上がりですよ?』
『ご予算がその位では…』
「…やっぱりダメなのか?」
本やネットを見て探しても、中々いい方法を見付けられなかった
「僕が…醜い考えを持っちゃったから、いけなかったのかな?」
中途半端な優しさは、人を傷つけると言うが、こんな事を言うのだろうか?
カバンから出した、彼女を見る
胴体が真っ二つに割れて、痛々しい見た目
服もぼろぼろで、元々綺麗だっただろう銀髪も汚れていた
「ごめんよ…」
そう言いながら、僕は涙が止まらなかった
自分の不甲斐なさに、涙が止まらないのだ
そう言いながら、彼女の横で身体を寝かす
〜〜〜
気が付いたときには、私は身体がボロボロだった
乱雑に扱われ、気に入らないから捨てられた
買った時にはそれなりに喜ばれていたとは思う
けど、段々飽きられたのだろうか?
気が付いたら何かとあたられて、間接も悲鳴を上げていた
そして、ボロボロになって捨てられた
何日も雨に当てられ、朽ちていくだけだと思った
そんな時、あの人は私を抱き上げてくれた
ボロボロの、いつ壊れるとも知らない私を優しく拭いてくれた
私のために、なけなしの貯金を切り崩して私を何とかしてくれようとした
―――そんな暖かさに、私は救われた
それが結果を残せたかと言えば、結局なにも残せなかった
それに、彼はその優しさを自分をなにか追い込むような考えに変えてしまっていたのだろうか、私にしきりに謝っていた
そして、私は壊れてしまった
彼が悲しむ
彼が、私のために流してくれる涙が、嬉しくもあり苦しい
彼が―――マスターが私を必要としてくれる
そう思い始めた時、ふと声が聞こえた
「あなたは…彼にどうしたいの?」
―――マスターは私にとって必要な人なの
―――だから癒したいし、恩返しもしたい
「でも…あなたの身体は壊れてしまっているわ…」
―――壊れていても、マスターを癒したい!
「…あら?彼が壊したのかと思ったけど…勘違いね」
マスターはそんなことしない!
「ごめんなさいね」
そう言いながら、私に触れる白い髪の人
「お詫びに…貴方の願い叶えてあげるわ」
そう言われて―――
〜〜〜
「う、うぅん…」
気が付いたら、暗くなっていた
―――眠ってしまっていたらしい
彼女がいた方を見やる
「…え?」
―――彼女がいない
その事に僕は焦りを感じ始めた
「だ〜れだ?」
と、思った瞬間―――小さな手が僕の視界を遮る
「え?いや!?誰だ!?」
そう言いながら、その手を振り払い後ろを見る
「きゃっ!?」
そう言いながら尻餅をつく少女
「いったぁ…もう!なにするんですかマスター!」
「うるさい!お前はだ、れ…」
その少女を見て、僕は言葉を失う
その少女は―――彼女と瓜二つだった
彼女をふた周り、いやもう少し大きくした位のサイズだけど
その銀髪も、可愛らしい顔も―――
破れていたはずの黒いドレスも、その人間が出せないだろう眼の色も―――
まさしく、彼女のそれだった
「もう!マスター!しっかりしてくださいよ!」
そういいながら僕に抱きつく彼女
…やわらかいし、良い匂いだ
「き、みは…」
「はい、マスターが拾ってくれたドールです!」
まぶしい位の笑みを浮かべて、僕に言う
「昨日拾ってくれて、私を優しく拭いてくれてありがとうございます!」
その言葉に…僕は…
「…そんなんじゃ…ない」
彼女は不思議そうに僕を見る
「君を拾ったのは…僕が…君を助けれるって思い上がって…それで…」
きっとこれは夢なんだ
僕に都合の良い、夢なんだ
「夢の中でまで…僕は都合よくしようと…」
身体が震え始める
彼女に対しての、罪悪感でいっぱいなのだろうか?
「…私は、貴方が必要ですよ?」
僕を見ながら言う
さっきまでの笑顔ではなく、真剣な表情で
「貴方は…自分を必要としてくれる人がって言いましたよね?自分より弱い私を助けて優越感に浸りたいんじゃないか、って」
その表情から、その言葉から、僕は責められているのだと思いたい
思いたいのに―――
「そんな事ないですよ」
彼女は優しい笑みを浮かべて、言った
「私はマスターが必要ですし、なにより私を拾い上げてくれた、抱き上げてくれたあの暖かさは本物だったから」
―――だから、マスターは普通に良い人なんです
そう言いながら、顔が近づいてきて…
「きゃっ♪マスターとキスしちゃった♪」
顔を赤くしながら身体をくねらせていた
「…僕なんかで、良いの?」
「なんかとかネガティブなの禁止です!私がマスターを必要なのと同じで、マスターも私を必要としてくれるなら良いのです!」
そういいながら、また僕にキスをし始める彼女
小さい、やわらかい舌が絡んできた
「…んはぁ♪マスターのヨダレ、美味しい…」
眼がトロンとし始めた彼女は服を脱ごうとする
「って!待って!ちょっと待って!!」
「えぇ〜…」
「残念がらないで!色々混乱しっぱなしだったんだから!」
そう言いながらこのまま流されないようにする
「まずね…人形が勝手に動くのとかおかしい、よね?」
「マスターの愛の力です!」
「うん…落ち着こう…」
人形の時は、もっとおとなしそうなイメージだったけど…
いや、可愛いから良いんだけど…
「というか…サイズとか服とか…その、胴体…とか…」
「私も全部は解らないんですが…」
そう言いながら、彼女は説明してくれた
・・・
「白い髪に羽の生えた美女、ねぇ…」
「その人が私をこうしてくれたんですよ」
話を聞くと、誰かが不法侵入して彼女を今の姿に変えた
そして、彼女が間違いなくあの人形だという証拠として、お腹付近に残った傷跡、球体間接を見せられた
「君が…あの人形…」
事実、彼女の服も見覚えは当然あった
間違いなく、彼女の着ていたボロボロな服だ
彼女は嬉しそうに笑う
が、内心僕は複雑だった
彼女が治ったのに、素直に喜べない自分がいる
「結局…僕はなにも出来なかったのか…」
彼女を、自分でなんとかしたかったのだという、ちっぽけな虚栄心
「いいえ…マスターのおかげなんです」
が、彼女はそれを否定する
「あの女性は、マスターが私を想う気持ちがあったからマリョク?って言うのがよく馴染んだって言ってました」
そう言いながら、彼女は僕に体重を預ける
「マスターがいないと、やっぱりダメだったんですよ」
彼女が甘えるように、猫のように身体をこすり付ける
その頭を撫でると嬉しそうにする
「だからマスター…一緒にいてください」
不安そうにしながら、僕に甘える彼女
「僕こそ…一緒にいてくれる?銀華(ギンカ)?」
「えっ…それ…」
なんとなく浮かんだ彼女の名前を呼びながら、彼女を抱きしめる
「僕に高嶺の花だけど…僕も君がいてほしいよ、銀華」
感極まったのか、彼女から涙がぽろぽろ零れ始める
「はいっ!一生離れませんからね!マスター!」
本日三度目の、あったかいキスをした
13/05/31 02:46更新 / ネームレス