連載小説
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本編
―――そこは、果ての無い砂漠にポツリとあった

廃墟のようにただそこにあるだけで、整備されてはいない遺跡
砂嵐を凌ぐのに丁度良さそうなそこを見つけた僕は、もう殆ど力の入らない身体にムチ打ってそこへ行く

「ハァ…ハァ…」

視界が霞む
あそこに着いたら、恐らくそのまま倒れるだろう

「―――ッ!?」

が、どうやら…身体の方が先に限界が来たようだ

目の前に迫る砂―――僕はそのまま倒れていく
最後に、何か、きこ…え…

・・・

『さぁ!この異教徒たちを殺すのです!』

そんな事したくない…

『異教徒は生き物ではありません!滅すべき悪なのです!』

嫌だ…

『さぁ、貴方も誇りある責務を果たすのです!』

辞めてくれ…

『さぁ、さぁ!―――よ!』

もう…

『殺 す の で す !』



「やめてくれえぇぇぇぇぇぇ!」

「きゃあっ!」


また、あの悪夢だ
息を荒くしながら、身体を起こした僕は体の震えを抑える
―――もう、あんな夢見たくない
もう…僕は―――

「どうしたの姉さん!」

その言葉と共に、バタバタと何人かが入ってくる

「お姉ちゃん!」

「「おねーちゃん!」」

そこには―――

「みんな!うぅん…ちょっと驚いただけだから大丈夫よ」

金色の外皮を付けた―――

「あ、起きたんだ!」

「「ニンゲンさん起きた―!」」

魔物が、そこにいた

・・・

「助けて頂き、ありがとうございます」

ベットから半身だけ起こして、彼女たちに礼を言う

「いえ…困っていたらお互い様ですよ」

僕の近くにいたらしい―――5人の中では多分一番年上―――の彼女が言う

「そうそう!困ったら助けたり助けられたりだよ!」

そう言いながら、彼女たちはベットの近くに集まる

「いえ…生き倒れになりそうな所を助けて頂いたのですから、きちんとお礼を…」

「「だったらニンゲンさん!」」

僕がしゃべっている最中に、一番年下の二人がしゃべる
容姿も鏡合わせのようで、息もぴったりだから、恐らく双子なのだろう

「「あたし達のおーさまになってよ!」」

「え?」

彼女たちは無邪気に言う

「!?貴方達!何を頼んでるの!?」

「「だってニンゲンさんがお礼って言うんだよー!」」

ねー!と、二人で一緒に言う彼女達

「ボクも賛成かな〜?」

と下の二人よりは年齢が上の彼女―――三女だろうか?―――も言う

「でも、彼の意見も聞かないと…」

「お姉ちゃんのいう事も分かるけど、ボクはこの人にお願いしたいな〜」

そう言いながら、僕に近づく彼女

「おにーさんにも、悪くない話だと思うしぃ〜」

「まちなさい、全く」

と、恐らく次女の彼女が三女の彼女の首根っこを掴む

「むぅ〜なにするのさ!」

「貴方の気持ちもよぉ〜くわかるけど、姉さんの言ってることも考えなさい」

それに、と彼女は続ける

「彼だって、困惑してるでしょ?」

「「「あっ…」」」

双子と三女はバツが悪そうな顔をする

「ごめんなさいね…私たちケプリにとって、王が来てくれるのは最上の至福だから」

どう反応して良いのか困惑していると、次女の彼女が言ってくれる

「王?」

「…ここはかつて、ファラオがいた遺跡でした」

長女の彼女が、ポツリと語り始める

「ファラオがなぜ去ったのか、私たちにはわかりません…。けど、私たちケプリ以外誰もいない、この遺跡で暮らしています」

「…それはなぜ?」

僕は疑問に思い、彼女たちに聞く

「王の…国の再来の為」

そう言う彼女の、いや、彼女『達』の目は真剣だった

「今は廃墟でも、また復活させたい」

「だからボク達はここで王と成り得る人をまってるんだ」

「「そうやって、ずっとまってたの!」」

他の姉妹たちも喋り始める

「そうして待って、待って…貴方が来られました」

長女の人が、僕の手を握りながら言う

「旅の方、貴方がもしここに居て下さるのなら…私たちを導く王になってはいただけないでしょうか?」

彼女達の真剣さにおされてしまう

「…ごめん」

彼女達は、残念そうに…いや、絶望したような表情を浮かべる

「僕なんかが…なっちゃ…いけないから…」

彼女達をガッカリさせたのは苦しい
けど、僕にそんな資格はない


僕が、誰かと居てはいけない
ましてや、彼女達と―――穢れた僕は居てはならない


「直ぐに出てくよ、ありがとう」

そう言って、立ち上がろうとした時だった

―――ズキン!

体が痛む
体中が痛み、その場にうずくまる

「っ!」

声を押し殺して、痛みに耐える

「だ、大丈夫ですか!?」

「ち、ちょっと!?」

「わわっ!」

「「た、たいへんだー!」」

彼女達は心配そうにしながら、近付いてくる

「だ、大丈夫…だから…」

痛みを堪えて、何とかしようとする
が、彼女達にはお見通しだった

「そんな身体で無茶して…」

「あなた、死んでしまうわよ!」

「死んじゃダメだよ!」

「「やだーっ!」」

全員が心配そうに寄ってくる
本当に嬉しいけど、甘えてはいけない

「…せめて、その身体を治してから旅に出て下さい」

長女の方が涙ながらに言う

「そうじゃないと…私達…」

「…わかりました」

その言葉に、皆こっちを向く

「…不甲斐無い、迷惑を掛けて申し訳ありません…」

そう言いながら、今更ながら彼女達に言う

「申し遅れました…僕は、アルヴェルト。アルヴェルト=フィッツジェラルドです」

そう言うと、全員キョトンとする

「えっと…皆さんの名前を聞きたいんですが…」

「「「「「なまえ?」」」」」

…全員、どうやら名前がないらしい

「…お互いを呼び合ったりは?」

「特に不自由しなかったから…」

次女の彼女が代わりに答える

「やはり…不自由でしょうか?」

長女の彼女が僕に聞く

「そう…ですね、貴女達の誰かを呼ぶ時に不便かもしれませんが…」

そういうと、三女の彼女が言う

「だったらアルヴェルトさんが決めてよ!」

「「さんせー!」」

彼女が言うと、双子も嬉しそうに言う

「へっ?僕が決める!?」

そう言って、二人を見やるも―――

「あ、良いですね♪」

「そうね姉さん」

「えぇー…」

こうして、奇妙な共同生活が始まった

・・・

「ウルさん、いいですか?」

「あ、アルさん♪」

それからの生活は、快適ながらも大変だった

まず、彼女達はここに逃げてきた姉妹だったらしい

一番年上の彼女が長女で間違いないらしい
そんな彼女達に名前を送った

「肩を借りても?」

「そんな事しなくても、トイレとか下の世話も致しますよ?」

「いや良いですから!」

彼女達には、昔読んだ本の女神から捩らせてもらった
長女、次女、三女にはある三姉妹の女神から
双子には、双子の女神から

今話しているのは長女のウルさんだ

彼女は僕より2つ位年上らしく、よく身の回りの世話をしてくれる
けど、流石魔物―――下の世話もしようとしてくる

「姉さん…アルが困ってるわよ?」

「ヴェルデ、ご飯の仕込みは?」

「さっき終わらせたわ」

次女のヴェルデは僕と同い年だった
同い年と言うだけで、少しか緊張が紛れるし…何より話し易い

「ウルお姉ちゃーん!そとのおそーじ終わったよ!」

「あらスクル、お疲れ様」

「えへへ♪」

三女のスクルは元気いっぱいでいつも掃除や外に何かないかの偵察などを全力でしている
そして下の双子以上に甘えん坊だろう

「「こっちもおわったよー!」」

双子の二人はフレイとフレア、左側に髪を纏めてるのがフレイ、右側に髪を纏めてるのがフレアだ
一番幼い二人は、中の掃除を二人でするのが仕事のようだ

「で、アル…よかったら私が肩を貸すわよ」

「ヴェルお姉ちゃんずるいー!ボクがするのー!」

二人とも僕への看護をどちらがするかで揉めてくれている
―――むず痒いけど、凄く嬉しい

「?おにーちゃんなんで笑ってるのぉ?」

と、横にいたフレアが言う

「ホントだ!おにーちゃん嬉しそう!」

フレイも一緒に反応する
二人は一緒に喋る時は同じトーンだが、別々だと個性が凄くわかる

「あら…ホントですね」

ウルさんも嬉しそうに言う

「僕が…笑ってる?」

「あっ!ホントだ!」

「へぇ〜…」

話を聞いたヴェルデもスクルも、嬉しそうにこちらを見やる

「アルが笑ったの…なんかこっちも嬉しいや」

ヴェルデがはにかむ様に言う

「そうだね!ボクもお兄ちゃんが笑ってくれてホッとしたよ」

皆のその言葉に僕は―――

「…そっか」

笑顔で返せたんだと思う

・・・

共同生活が始まって、10日が経つ
皆の看護のおかげか、身体はみるみる回復していった

回復した頃には、皆の手伝いをしたり、フレイとフレアに故郷の御伽噺を聞かせたり…

本当に、かけがいの無い時間を過ごしていた

「…と言う訳で、ドラゴンさんとその騎士は、いつまでも仲良くしながら、街を護りましたとさ」

「「おにーちゃん!もっとー!」」

「もう夜が遅いだろ?明日も早いんだから寝ないと」

「「ぶー…」」

フレイもフレアももっと話をとねだるが、あまり多くない御伽噺のストックが切れたら困ってしまう
それに、二人とも仕事もあるのだから早めに寝ないと大変だろう

「…隠れてるけど、スクルもだからね?」

「…バレちゃった」

そう言いながら、舌を出しておどけるスクル

「スクルも外での仕事大変だろ?早めに寝ないと…」

「…でもさ」

スクルが悲しそうにしながら、言う

「もうすぐ…お兄ちゃんいなくなっちゃうでしょ…」

その言葉に、僕は何も言えない

「…やっぱり、魔物だから嫌い?」

「そういう訳じゃないよ…」

彼女達が魔物だとかそうじゃないとか、僕には関係ない
僕が…『僕がここにいる』事が駄目なんだ

「スクルや…皆には感謝してる。してるから…僕は去らないといけないんだ」

そう、僕は―――

「その話、詳しく教えてくれないか?」

「私も…是非教えてください」

と、ヴェルデとウルさんも入ってきた

「私達では力になれないかもしれませんが…アルさんが苦しむのを見たくは無いんですよ?」

「アル…私達じゃ…ダメなのか?」

「ボクも…お兄ちゃん助けたいんだよ?」

3人ともが真剣に僕をみて言う

「わたしもだもん…」

「わたしもぉ…」

と、寝かし付けていたフレイとフレアも来て言う

みんな、僕を心配してくれている
嬉しい反面、とても苦しい

だって、僕は―――

「!!…誰かくる!」

スクルの言葉に反応する
―――そして、最悪なことがわかった

「な、んで…」

この魔力、この清浄感…

「くそっ!長居しすぎて追跡されたのか!?」

「あ、アル?」

ヴェルデが心配そうに言うが、気を使ってられない

「みんな急いで逃げる準備を!」

「え?でも「良いから急いで!」

ウルさんが何か言おうとしたが、遮って彼女達に言う
もう、これ以上―――誰も傷ついて欲しくない

「スクル!今相手は!?」

「い、遺跡の中に入ってきて…あ、あれ?わかんなくなっちゃった…」

遺跡に入ってから、おそらくジャミング系の魔術を使ったのだろう
なんにしても…

「みんな武器と最低限の荷物を持ってここから出るんだ!」

僕は先導しながら全員を連れて行く
この遺跡は入り口から入り組んでいるし、簡単には来れない筈だ

そう思いながら、みんなを連れていたが―――


「ようやく見つけましたよ…『不死鳥の勇者(フェニックスブレイバー)』」


突然、遺跡が開けた場所になり―――
壁が爆散した

みんながそれぞれ受身をとったり、何とかかわしたが…
あいつは、そこにいた

「さぁ『不死鳥の勇者』!浄化を行いましょうか!!!」

「…大司祭、様」

僕が、逃げていた悪魔が、追いついてしまった

・・・

「おやおや、『不死鳥の勇者』?なぜ魔物を生かしているのです?」

そう言いながら、僕達に詰め寄る大祭司

「貴方は勇者でしょう!?なぜ魔物を生かすのですか!」

その声と共に、後ろから聖騎士団がゾロゾロと現れ始めた


「ゆ、うしゃ…?」


ウルさんがそう言いながら僕を見やる
他の皆もそんな感じだ

その視線を、僕は震えながら聞く

「ん?話していなかったのか…」

大祭司はニタァとしながら、声高々に話し始める

「それはな、教団に所属する勇者の一人!お前ら魔物を消し去る為に主神様が力を与えられた…お前らの敵なのだよ!」

その言葉は、僕の心を蝕む

「主神様がお与えになった浄化の任をこなし!貴様らを全て消し去り!戦い続ける崇高な存在なのだよ!」

だと言うのに、と忌々しげに僕を見ながら言う

「魔物にも命があるなどとのたまい!挙句!教団から逃げ出し…なぜ魔物なんかと居る!?」

僕を、みんなを汚物でも見るかのようにしながら、大祭司は言う

「そんな者達に存在価値なんてない!今すぐ浄化するのです!…そうすれば、今回の罪は不問にしてあげましょう…」

「…だ…」

僕は、震えながら言う

「い、いやだ…もう…誰も傷つけたくない…傷つけたくないんだ…!」

その言葉にはっきりと嫌悪感を示す大祭司

「…まだそんな事をのたまうか!?この欠陥品め!」

そう言いながら大祭司が聖騎士達に合図かなにかしようとした、その時だった



「ふっざけんなぁ!」



そう言いながら手に炎を灯し、それを大祭司に投げつけるヴェルデ

「アルは…アルは欠陥品なんかじゃない!」

その言葉と同時に、大祭司の近くの聖騎士に殴りかかるスクル

「お兄ちゃんは優しいもん!バカにするなぁ!」

「グワッ!」

持っていた槍を構えて、ウルさんは言う

「アルさん!フレイとフレアを連れて逃げてください!ここは私達が食い止めます!」

フレイとフレアは怖がってしまい、震えている
―――この場にいても、足手まといになるのは明白だ

「大丈夫…貴方は優しい、強い方…貴方の事は、私達が護ります」

そう言って、スクルを助けに入るウルさん

だが―――


「小賢しい…虫共がぁ!」


そう言って、大祭司は風の魔法で三人を吹き飛ばす

「ウルさん!ヴェルデ!スクル!」

三人が吹き飛ばされ、大祭司の一番近くに居たスクルの頭を大祭司が踏む

「なにが優しいだ?何が欠陥品ではないだ?お前ら魔物もなぁ…」

近くに落ちていた聖騎士の剣を取り、大きく振り上げ―――

「全て欠陥品なんだよぉ!」

振り下ろされる!

「スクル!だめぇ!!」

「やめろぉ!」

ウルとヴェルデが叫んだ、その時だった


「聖炎(せいえん)…鎧装(がいそう)!」


スクルを貫こうとする剣を―――僕の炎の鎧が阻んだ

「ついに使ったか…力を…」

けど、それは…


「再調整だ、『不死鳥の勇者』」


僕の意志を、僕を消す最大の方法だ


・・・

「ぐ、うぅ…」

頭が割れるように痛い

『僕自身』をグチャグチャにされていく感触だ

「本来、勇者のこの力に干渉する方法はない」

剣を抑えるのも辛い、けど…スクルが…

「が、私は主神に与えられたのだ…この意識を正常にする力を!」

「…まさか」

ウルさんは気付いた様だ

「貴方の部下…みんな…」

「ほう、魔物にしては察しがいいな」

聖騎士たちが、なぜ待機しているか
なぜ、止めを刺しに来ないのか

なぜ、みんな一言も話さないのか


「こいつらは全て、こいつ同様欠陥品だ」


そう、全員―――

「だから意識調整してやったのだ」

僕がされている様に、意志を消されたのだ

「!?あんた…それが人のすることか!!」

ヴェルデが身体を起こして、大祭司に言う

「さっきからアルが苦しいのも…見て分からないのかよ!」

「欠陥品に役目を与えなおしているのだ、苦しむなどあってはならない」

嬉しそうにしながら、大祭司は言う

「そんな…あの人たちの人生を何だと思ってるんですか!?」

キッ!と大祭司を睨み、槍を杖代わりにしながらウルさんは言う

「互いに愛せよと言うのが…貴方達の教えではないの!?」

「魔物如きが偉そうに教えを口にするな」

その声を聞きながらも、僕には何も出来ない

「ぐうぅ…ぅぅぅ…あ、あぁ…」

「お兄ちゃぁん!しっかりして!」

倒れながら、僕を心配するスクル
けど―――

「あつっ!」

「魔物が触れられるわけないだろう?それは浄化の炎なんだから」

スクルを嘲笑い、剣の力をよりこめる

「ほぉら、辛いだろう?これは全て魔物のせいだぞ?『不死鳥の勇者』」

そう言いながら、更に剣に力を入れ始める

「人格が壊れそうになるのも、剣で痛むのも…全て魔物のせいだ…」

その言葉が、僕の心に入ってこようとする

「さぁ…さぁ!こいつらを…殺すのです!」

その言葉に屈しそうになった。その時だった



「「おにーちゃんを…はなせー!」」



そう言いながら、泣きながら大祭司と僕に黒いボールのような物をぶつけようとするフレイとフレア

「!!ちぃ!小賢しいぞ!」

その言葉と共に僕から離れ、聖騎士達に攻撃させようとする大祭司

「させ…るかぁ!」

なんとか力を振り絞って、聖騎士二人を止める


「もう…嫌だ!」


僕は言う

「誰かが傷つくのも…誰かを傷つけるのも…嫌なんだ!」

誰に言うでもない、ただの独白

「みんなが…僕に暖かさをくれたんだ…だから僕は…」

「そんな見せ掛けの暖かさ、なにが「見せ掛けなんかじゃない!」

大祭司の言葉を、僕は遮る

「ウルさんも…ヴェルデも、スクルも、フレイもフレアも!みんな穢れてなんか居ない、純粋な優しさから僕を助けてくれた!」

皆みんながしてくれた、一つ一つを思い出しながら言う

「ウルさんはいつもみんなを気に掛けてくれた!ヴェルデはみんなのご飯を真剣に考えてくれた!スクルはいつもみんなの笑顔を考えてくれた!フレイもフレアもみんなの為に勇気を出してくれた!」

その言葉を言う度、聖炎が僕を焼く
主神の力が、僕を裁こうとする

「この優しさが間違いだと言うのなら…僕はその教えを否定する!この命に…アルヴェルト=フィッツジェラルドの全てをかけて!」

この身が朽ちても…みんなを護ろうとした、その時だった


「アルさんが居ないのなんて…ダメですよ」

「アル…終わったらとびっきりのご飯作るから」

「お兄ちゃん…私達の想い!」

「「受け取って!!」」

その声に反応して見やると、彼女達はあの黒いボールを…僕に投げた

〜〜〜〜〜〜

その闇に呑まれながら、アルヴェルトは落ち着いていた

(あたたかい…)

その闇は、彼女達の好意からくる、優しい闇
彼が操る浄化の光とはまた異なる、暖かかな闇だった

その暖かな闇が、身体を包み込み―――

〜〜〜〜〜〜

「な、なんだと!」

大祭司は僕を見て驚愕していた

それもそうだろう
浄化の炎の奥から、黒い炎が僕を包んでいた

浄化の光と、優しい闇

その二つが合わさり―――

「聖魔混炎鎧装(せいまこんえんがいそう)…」

僕を、白い炎と黒い炎が包んでいる
身体を黒い炎が包み込み、それを更に白い炎が包み込む

「なぜ…なぜだ!?貴様は堕落した、汚らわしい存在のはずだ!なぜその浄化の炎を使える!?」

僕が白い炎を纏いながらも、大祭司の洗脳を振り切れるのと…
僕が黒い、魔物の魔力を持った炎を纏っている

この二つが、大祭司を混乱させていく理由なのだろう

「彼女達の魔力は…教団の神聖魔法と違って、暖かいんだ…」

僕は彼女達に眼を向けて言う

「みんなの、一つ一つの想いが…僕に力をくれたんだ」

顔も炎に包まれて、みんなに表情は見えないだろう
でも…


「ありがとう」


この言葉は、笑いながら、みんなに言う事が出来たはずだ

「認めんぞ…」

大祭司が、聖騎士達に合図を送る

「貴様なんぞ…認めんぞ!やれ!」

その言葉と同時に、5人から8人の聖騎士が僕に襲い掛かる
その動き一つ一つが、歴戦の戦士を彷彿とさせる

けど―――

「遅い!!」

今の…浄化の力も魔物の魔力も吸い込んだ僕には遅過ぎる位だ
が、力の調節がうまく出来ない

そのおかげで、最初に来た3人が思い切り白目を向いてしまっていた

(どうにか…余計なダメージまで与えない方法は…)

そう思っていた時―――

「アル!」

「お兄ちゃん!」

二人が僕の方に―――

「「これを!」」

二本の剣を投げた

手に持った瞬間、他の聖騎士たちが僕に斬り掛かる
が、反射的に彼らの急所を外しながら斬る

と、その瞬間だった

聖騎士達がそのまま倒れ始める
そして、斬ったのに血が出ていなかったのだ

「魔界銀…忌々しい…!」

大祭司が僕の剣を見て言う

「その剣はこの遺跡に残されていた遺産の一つです!使ってください!」

ウルさんが言う
おそらく、闘いにくそうにしていた僕の為にみんなで探してくれたのだろう

「ありがとうございます!」

彼女たちの方を見ずに僕は言う

不思議な事に、僕の手にしっくりくるこの剣は、どうやら相手の魔力だけを切ってくれるようだ
これなら―――誰も傷つけない!

「貴様は…どこまで楯突けば気が済むのだ!」

そう言いながら、僕を苦しめていたあの力を使う

「…もう、やめてください」

僕は言う

「そんな人を苦しめる為に、主神は力をお与えになった訳ではないのではないんですか!?こんな苦しみを産むだけの事に、何の意味があるんですか!?」

「魔物は全て悪!存在すら許されんのだ!それも理解…しないのかぁ!」

そう言って、大祭司は僕に強力な魔術を撃ってきた
―――破壊の為だけの、魔術を

「そんな…そんな凝り固まった心で…」

その魔術を前に、僕は剣を交差させる


「誰かを傷つける事の!どこが正しいんだあぁぁ!」


瞬間、両方の剣が黒と白の炎が混ざり―――
大祭司のその魔術を斬り裂いた

「な、なにいぃ!?」

そのまま勢いを付けて大祭司に向かって行き―――

「ここからぁ!いなくなれぇ!」

再度交差させた剣を振るう
その斬撃、勢いにをまともに受けた大祭司は―――

「―――ッ!!」

そのまま、来た道を戻るように吹き飛ばされていった


〜〜〜

外まで飛ばされた大司教は砂をクッションにしながらその勢いが落ち着き始める

「クソッ…忌々しい化け物共め…」

そう言いながらようやく立ちあがる

「これですむと思うなよ…援軍を待機させているのだ、これで一気に…」

「そいつは無理ってもんだぜ?」

突然の声に大祭司は振り向く

「あんたの援軍は、俺たちが無力化しておいた…ギルタブリル達にも力を借りたがな」

そう言いながら、その男は大祭司の前に立つ
立ちながら、横から炎が燃え上がり―――女性の形を形作る

「魔精霊使い!なぜここに!?」

「お前らが連れて行った俺の弟子を返して貰おうとしたんだが…その様子だと、不要だったかもしれないな」

男がそう言うと、横の女性―――イグニスが言う

「あなたがした事は全部わかってる…あの子だけじゃなく何人も…絶対に許さない!」

そう言いながら身体の炎を滾らせる
大祭司はそれを見ながら、どう逃げようか考えていた

が―――

「っ!?」

突然砂の中から出た何かに飲み込まれ―――
その場を静寂が包んだ

「…サンドウォームに持ってかれた…」

「…まぁ、いいんじゃない、かなぁ?」

なんだか微妙な雰囲気を出しながら、二人はその場を後にした

〜〜〜


外まで吹き飛ばした大司教をみて、僕は鎧装を解いた
炎が消え、静寂が周りを包み込む

―――みんなも、固まっている

「…アルさん」

「アル…」

「お兄ちゃん…」

「「おにーちゃん…」」

そう言いながら、みんなが近付こうとして―――

「近寄らないで!」

全員を静止させる

「…みんなもわかった、でしょ…僕は…勇者…君達の敵なんだよ…」

全員に聞いて貰うように言いながら、僕は続ける

「僕は…みんなの同胞を…何人も…殺したんだよ」

大祭司に意識を壊されながらだったり、操られながらであっても、僕が手を掛けたのには変わりない

「僕は、勇者なんかじゃない…ただの殺人鬼だ…」

「アルさんは操られていてで、自分の意思じゃないんでしょう?だったら…」

ウルさんの言葉に、僕は首を横に振る

「たとえ自分の意思でなくても、僕が殺したんだ…僕が焼き払ったんだ…」

僕は涙を流しながら、彼女達に言う

「こんな僕は…みんなの王になんてなっちゃ…いけないんだ!誰かといたら駄目なんだよ!こんな穢れた化け物は…居てはならないんだよ…」

そう告げて、僕は行こうとするが―――

「待ってよアル!行かないでよ!」

後ろから僕を抱きしめるヴェルデ

「アルは穢れてなんかいないよ!必要以上に自分を責めないでよ!」

後ろから僕を抱きしめる彼女の涙が、僕の首筋に当たる

「ボクも…お兄ちゃんがいなくなるのはやだよ!ずっと一緒にいてよ!」

そう言いながら、僕の左手の方に手を絡め始める
いや、抱きしめているといって良い

「わたしもやだぁ!」

「やだぁ…いかないでよぉ…」

左足にフレイ、右足にフレアが抱きつきながら泣いている

「…アルさん、私達には…貴方が必要なんですよ」

そう言いながら、僕の右手をとってくれるウルさん

「…なんで…」

これ以上堪え切れなかった

「なんで…僕なの…?僕は…僕の手は…こんなに汚れてて…みんなみたいに…」

涙が溢れて止まらない
子供みたいに泣きじゃくりながら、僕は続ける

「僕は…勇者で…みんなの敵だったんだよ!なんでそんな風に接してくれるの!?みんなを傷つけてたかも知れないんだよ!?なんで…なの…」

全員がこの時言ってくれたこの言葉は…僕を救ってくれた

「アルさんが好きだから」
「アル以外なんて考えたくないから」
「お兄ちゃんが好きだから」
「おにーちゃんが好きだから」
「おにーちゃんじゃないといやだから」

「「「「「だから、私達の王になって」」」」」

この言葉があったから、僕は救われたんだ

〜〜〜

ある砂漠に突如現れた明緑魔界
そこを統べるのは、かつて勇者だった者

彼のかつてを知る者は言う

彼は生まれ変わったのだと

5人の妻達に救われ、清められ…

本当の勇者になれたのではないだろうか?


彼の正義の炎は揺ぎ無く燃え盛っている


―――その位、彼の正義は確固たるものであると

〜〜〜

「…これで全部、ですよね?」

「あぁ、お疲れ様」

なれない書類仕事をようやく終わらせ、遺跡を管理してくれているアヌビスに渡す

あの後―――彼女達の好意を受け入れる事の出来るようになった僕に、ある人が話しかけてきた
それはかつての師匠であるイグニスの精霊使い、ヴァーナードだった

彼は教団に連れて行かれた僕と、大祭司に人格を破壊された騎士達を探して、この砂漠に来たのだそうだ

その中で遺跡を教団に襲われたアヌビスや、ギルタブリルに協力をしてもらい教団を強襲したが…大祭司を僕が倒してしまい、更には魔物にさらわれてしまった状態だったのだそうだ
そして…アヌビスに協力を要請した時に僕と結婚できるとか勝手に言っていたらしく、その事でも一悶着起きそうになっていた

最も、そのアヌビスも聖騎士団の一人の療養に付きっ切りの中で、その相手と結婚をする事になり何とか話は拗れずにすんだから良かった
本当に、よかった…

「本当ならウルに頼みたかったのだが…彼女も別の仕事に掛かりっきりでな…」

そう言いながら、申し訳なさそうにするアヌビス

「いえ…大丈夫です…」

「…魂が抜けそうだぞ?」

アヌビスとの会話もそこまでにし、僕は自室に戻る道を行く

「よう、アルヴェルト!」

「あぁ…師匠ですか…」

その途中に師匠と会う

「なんだか疲れてるなぁおい」

「…書類って、なんであんなに面倒なんでしょうね」

その言葉に察してくれたのか、肩に手をおいて―――

「まぁ、頑張ったな…」

労いの言葉をくれた
その言葉に首を縦に振るだけで答える

「に、しても…お前の人格まで壊されなくてよかったよ」

そう言いながら、僕の頭を撫でてくれる師匠

「お前に炎を操る才能があったのを見つけちまったのは俺だからな…辛い思いさせちまってすまなかったな」

申し訳なさそうに、僕の頭を撫でてくれる師匠

「…でも、そのおかげで彼女達にめぐり合えたんですよ」

その事を、誇りを持って言う

「だから…師匠が僕に炎の魔術を教えてくれたのを感謝してるんです…ありがとうございます」

「…とっくに超えられてるがな」

そう言いながら師匠は続ける

「部屋戻るの邪魔して悪かったな、はよ行って嫁さん達を満足させて来い」

「師匠も…お互い様ですよ」

そう言いながら、お互い笑いながら自室に向かった

「あ、そうだ…もう僕もいい年なんで頭撫でるの辞めてくださいよ!」

「まだ酒も飲めねー奴が粋がんな!」

そんな軽口を最後に、僕は自室に向かう

―――今の時間だと、誰がいるかな

5人もいる僕の妻達だって仕事をしている
休憩があった時や夜には、目一杯愛してあげたい

そして―――僕も彼女達に愛されたい

そんな期待を胸に、自室の扉を開いたのだった
13/04/29 12:31更新 / ネームレス
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■作者メッセージ
どうも、ネームレスです

お久しぶりです
ケプリさんに萌えました

献身的なハーレムってどんなんだろうなぁ…
きっと心の傷に対しても敏感なんだろうなぁ…

とか妄想した結果がこれです

そして久々にエロもイメージできたのでエロもオマケに書かせていただきました!

良かったら読んでください!

それでは…ここまで読んで頂きありがとうございます!

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まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33