読切小説
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心戻す翼と護りの弓矢
―――そう、この出会いは奇跡だったんだ
何度思い返してみても、私はそう思うんだ

それこそ、魔王様や堕落神様が起こしてくれたと言われても、私は信じる

それ位、私にとって大切な出会いだったんだから

・・・

その日、私は日課であった散歩をしていた

散歩、というには御幣があるかもしれない
なぜなら私はハーピーで、空を飛んでいるのだ

散歩より、散空の方があってるかもしれない

そんな事を考えながら、ある川を通った時だった

「ん?」

川辺に、人が倒れている
寝ているだけかも知れないが、なんとなく私は気になって近づいてみる

―――やっぱり、人が倒れていた
しかも…

「この服、教団の…だよね?」

誰もいないのに聞くように一人事を言う

教団の胸当てと長いコートみたいな服
だがそれよりも特徴的なのは―――

左手に持つ、弓だった
彼の左手に直接付いているような固定のされ方をしているその弓は、普通の弓より大きい

遠くまで射れるようにしたのではないかと思えるその弓は、なぜか弦が見られない

なにより、彼は矢筒も持ってないのだ

「あの〜…もしも〜し、大丈夫、ですか〜?」

少し小さめの声で彼に呼びかけてみるも、返事はない
顔を近づけてみるが―――起きる気配もない

「…ぅ…」

うめき声にも似たその声を聞いて、私は―――

気が付いたら、彼を持ち上げて飛んでいた

・・・

「…で、正体も解らないのに連れて来てしまった、と」

「うん…その…」

倒れていた彼を連れて帰った私に待っていたのは、父を含む、里の大人たちからのお説教だった

―――そりゃそうだろう
教団に見つからないように山の奥のほうに暮らしていた私達
そこに教団の兵が倒れていたからって連れてくるのは危険である

「彼は確かに衰弱しているが…おとりに使われていたらどうするんだ?」

父は厳しく私に言う

「元々親魔物領の人間を使う事ぐらい教団は平気でしてくる。常に警戒しないといけないんだぞ?」

「で、でも…倒れてて苦しそうだったんだよ!?見捨ててなんて…」

私が言おうとしている事も、大人達はわかっている
わかっているからこそ、父も余計に厳しいのだろう

「…まぁ過ぎた事だし良いじゃないかカタギリさんよぉ」

と、大人の一人が父に言う

「しかしここは「カグヤちゃんは軽率だったかも知れねぇが、人を助けたんだ。そこはきちんと褒めてやらんと、な?」

そう言われると父は黙ってしまう

「それに」

近所のラミアのお姉さんが言う

「彼が教団の兵で私たちのことを悪く思っていても、誤解を解くチャンスにすれば良いしね。私と彼のラブラブっぷりを見せたらきっと誤解とわかるわ!」

そう言ったのを聞いて、回りは笑い始める

「カタギリさんだって、教団から追われてた身だけど、ここにはそんな経緯で来たんだし…」

「だからこそ、不安になるのですよ」

父は言う

「私もかつては教団に縁ある身…彼とは立場は違うかもしれませんが…」

それに、と言葉を続ける

「私の時のように、また皆様に迷惑をかけてしまうかと思うと不安が「あれはカタギリさんのせいじゃねぇよ」

と、別の人が言葉を遮る

「あれはカタギリさんをダシにして俺らを攻めたかっただけなんだから…そんなに自分を責めなさんな」

その言葉の後、重い空気が流れる

「ま、なんにしても―――」

今まで喋らなかった長老が言う

「カグヤちゃん、今後は誰かを見つけたら、まずは大人に知らせる事。良いね?」

「はい…」

「後は…彼が眼を覚ますのを待つとしよう。…ワシとしては、彼がそのままこの里に居ついてくれたらとは思うんじゃがね」

そう言って、その場は解散となった

「カグヤ」

父が私を呼ぶ

「あの場では厳しく言ったが…私もお前が何より人助けを優先した事を誇りに思っているよ」

そう言いながら頭を撫でてくれた

「…うん!ありがとうお父さん!」

「さて、帰ろうか」

その言葉と一緒に、私は父と家に帰った

・・・

家について最初に心配したのは、彼の事だった
―――もし彼が悪い人で、お母さんに危害を加えてたら
―――もし思い切り嫌われてたら

そんな不安の中、家に帰ってきた

「あら〜、お帰りなさい二人とも」

そう言いながら、母は直ぐに父に抱きつく

「今帰ったよウィルダ」

「お帰りなさいあなたぁ」

そう言いながらイチャイチャしているその姿は、父の先ほどまでの厳格さをなくしているようにも感じる

「あ、カグヤ。あの子まだ起きないわ…少し心配だわ」

「そっか…ごめんねお母さん」

「良いのよ〜。私も昔は同じことをセイジにしたわね〜。あの時は傷だらけだったこの人に付きっ切りで…」

「ウィルダその話をするのかい?」

そんな感じで二人の世界に入りつつある二人を尻目に、倒れていた彼が寝ている部屋に行く

「…」

彼はまだ眠っていた

近くには、彼が持っていた弓があった
―――父いわく、簡単に外れたらしい

寝顔を見て、私は思う

―――歳は私と同じくらいかそれより下だろうか…大体12〜15かな?
―――綺麗な髪の色だな
―――どんな声で喋るのかな?

彼がどんな人なのか、彼がどんな事が好きなのか
想像でしかないのが歯がゆくて苦しい

と、その時だった

音もなく、眼を開いたと同時に上半身のみ起き上がり私に顔を向けた

「―――」

私も突然のことで反応もできない

「…状況認識、対象確認―――貴女が私の主(マスター)ですね?」

女の子と間違えそうなその声で、無機質に彼は私に聞く

「…へ?」

「起動率34%、活動に支障はないと判断、戦闘行動は5分であれば可能です」

「いや、あのね…」

「現在待機状態ですが、即行動可能にします。ですが主以外からの命令なく私に行動権限はありません。しかし私の主のデータは初期状態にあるようです。申し訳ありませんが再度登録を―――」

「だから私は「登録後、私にご命令を」

ブチッ

私の中で何かが切れた気がした


「だから私の話を聞けえぇぇぇ!」


・・・

「プロ…なんだって?」

私の怒声に驚いた父と母が部屋に来て、彼をベットに寝かせたまま彼に質問している

「MASS-ProduceSoldier(マスプロダクトソルジャー)です。我々量産兵の正式プロジェクト名称です」

彼の言っている事をなんとかわかろうとしているが、私や母はわからず、父も何回か聞きなおしている

「MASS-ProduceSoldier:Type-Archer(タイプアーチャー)10721449、それが私の製造番号です」

その言葉に、私たちは困惑した
製造って。人じゃないのか?

彼はこんなに無機質だけど、でもきちんと体温もあって―――

考える度私はわからなくなっていった

「…君は、教団の兵士なのか?」

父が彼に聞いた

「…エラー、情報に欠損がある為調べる事ができません」

彼は無機質な表情で話を続ける

「前起動中になにか問題があったと予測、現在私が持っている情報は製造番号だけです」

彼の言葉に、私は困惑していたが…

「えっと…つまり、記憶喪失なのかな?」

「兵器である私に人間と同じ言葉を当てはめれば、そうなるかと」

「君は兵器じゃないよ!」

私はムキになって言ってしまった

「…理解不能」

「君は人間なの!兵器なんかじゃなくてに・ん・げ・ん!わかったあーくん!?」

瞬間、父も母も私に眼をやる

「カグヤ、そのあーくんって?」

「だって、なんだかアーチャーって言ってたじゃん!だからあーくん!」

母の言葉にそのまま返すと、二人とも苦笑いをしていた

「なんだかではなくMASS-Produ「君はあーくんなの!わかった!?」

「…了解しました、主」

こんなやり取りから、彼―――あーくんと私達家族との生活が始まった

・・・

あーくんは本当になにも知らない様だった
まるで赤ん坊のように自分ではなにもできない

いや、言い方が正しくない
彼は「命令」が無いと何もしようとしないのだ

それこそ最低限の事はできている

が、食事すら私たちが呼び、食べてよいと言わないと食べないその様はもはや異常でしかなかった

「…あーくん、君はどんな生活をしていたの?」

「申し訳ありませんが、記録が残っていません」

その無機質な物言いは、彼が人であるのか疑わせる最大の要因である

そして、私以外の言葉を聞かない
いや、彼の言い方をそのままするなら『聞けない』のだ

彼曰く、主である私の言葉以外は命令として認識しないらしい

だが、私は…彼と会話をしたいのだ
命令ではなく、上下関係も無い、純粋な人と魔物のやり取りを

最も、今の彼はそれもままならない

そんな事を考えていた時だった
私はある妙案を思いついた

「あーくん!お花見行こう!」

「任務了解」

彼から返ってくる言葉は人間味が無いが、それも今のうちだ

・・・

「あ、カグヤー!これからデート!?」

「ちっがーう!あーくんと私はまだそんな関係じゃなーい!」

外に出て、私は友達にからかわれる
あーくんの事はみんな知っている

教団の服を着た男性だからみんな警戒していたが、彼が特に害がないとわかると、今度は彼が私にだけ忠実な事に対して着目され始めた

「フーン、『まだ』、ねぇ…」

ラミアの友人が私の言葉尻をとって私をからかおうとする

「あーくん、いくよ!」

そう言って彼の手をかぎ爪で掴んで引っ張る

後ろから友人達の声が聞こえてくるが、気にしない

「…」

あーくんは何か言おうとした後黙ってしまった

「あーくん、どうしたの?」

「…システムにエラーが発生しただけです、気にしないで下さい」

そう言うと、いつもの無表情に戻ってしまった
私はなんかひっかがるが、気にせずに彼をある山まで連れて行った

・・・

「どう!綺麗でしょ!?」

私が連れてきた場所―――それはある山の一角にある隠れスポットだった
そこは今の時期になると綺麗な花を咲かせる

私以外、殆どの人が知らないので、ここでならあーくんとゆっくり話せる

「…」

あーくんは何も反応しない
ただ、その風景を見ているだけだった

―――これでも、やっぱり何も反応してくれないのかな

そんな事を思い考えていたら、彼は私に言った

「綺麗とは、なんですか?」

「へっ!?綺麗って、えーっと…見ててなんか感動するって言うか、なんていうか…」

彼の言葉に、私は困ってしまった
改めて考える事なんてない綺麗という事、どう説明すればいいのか解らない

「うーん…あーくんはこの花を見てなにか感じたり思ったりはしない?」

「感じる…」

そう言いながら、あーくんは少しずつ言葉を紡ぐ

「色がある、においがする、主が連れてきた場所は通常の場所より静かだ、なぜここに来たのか、私の任務はなんなのか…」

彼は一生懸命に色々話してくれている
今までで一番言葉が多いかもしれない

「その一つ一つが感情につながってるんだと思うんだ」

「感情…理解不能」

その時の顔は私は今でも忘れない
彼が初めて『困惑』した顔をしたのだから

「…少しずつ、少しずつ覚えていけば大丈夫だよ!だってあーくんは私よりなんでもできるんだもん!」

「…私に、…こ、れは?…」

自分のことを言おうとした時、あーくんはなにか普段と違う感じになり始めた

「どうかしたのあーくん?大丈夫?」

「…僕は大丈夫です、主」

「そっか…ん?」

今、あーくんは自分のことをなんと言った?
『僕』?今まで私だったのに?

「あーくん?」

「…システムエラーだと思いますが、僕と言う方が自然と判断、以後僕といいます」

そう言ったあーくんは、少しだけ―――
本当に見逃しそうなくらい少しだけ、『笑って』言った

「!?あーくん!今笑った!?」

「?理解不能です、主」

「今確かに笑ったよ!」

少しだけでも、私は嬉しかった
彼が、少しずつ変わろうとしているのがわかったから…

「それだよ!あーくんは笑ったりが足りなかったんだもん!」

そう自分の事の様に喜んでいたら

「…不思議です。僕も高揚感を感じているようです」

今度こそ、『笑ってくれた』


―――だが、嬉しい事の後に
あんな悲しい事があるなんて、その時の私にはわからなかったんだ

・・・

あーくんが初めて笑ってから1ヶ月がたった位の事だった
その頃には、里のみんなもあーくんとコミニュケーションを取れていた

「おぉ!あー坊じゃねーか!」

「どうも」

「今日は使いかい?オマケしとくぜ?」

「ありがとうございます」

こんな風にみんなと打ち解け始めていた
だが―――

「おい!大変だ!!」

誰かが、こう叫んだ

「教団が攻めてきたぞぉ!」

この言葉を聴いて、みんなの中にあった恐怖が思い出され始めていた

―――私たちはかつて、住んでいた場所を教団に奪われたのだ

それは父がジパングからこの大陸に来た時のことだった
父は教団の強行的なやり方に怒りを感じ、教団と小競り合いを始める事になったらしい
その時のことは詳しくはわからない

だが、父は所詮個人

最終的には疲弊して、倒れていたところを母や里の人に救われたのだ
が、それが教団にばれてしまい、教団は私たちに攻めてきた
私たちは何とか逃げながら、散り散りになりながら、ようやく安住の地を見つけたのだ

―――また奪われる

そう考える人がたくさんいるだろう
中には人間の夫婦もいたが、子供を連れ去られたという話もあったらしい

最も、私と同じ世代の子供達は、その時を体験していない


「みな鎮まるのじゃ!」


長老が全員に渇を飛ばす

「ここで騒いでもなんともならん!持てる荷物を持って、避難するのが優先じゃ!」

「けどよ!教団の連中がなんで今更…」

「言っても始まらん!直ぐにみな避難の準備じゃ!山の奥の方に近くの街に続く洞穴がある!」

長老がそう言って、みんなをまとめていた時だった

「…お前が呼んだんじゃないだろうな?」

一人が、あーくんにそう言い始めた

「お前、教団の服着てたもんな?お前がやったんじゃないか?」

その疑念はみんなに移り、あーくんを責め始めようとしていた

「…僕は確かに教団の兵器だったのだと思います」

あーくんは答える

「でも…僕は…あなた達以外に知ってる人はいません」

「口ではなんとでも言えるが「遠距離連絡手段は限られてきます。僕が持っていた弓を使えばそういった事が出来るのはわかります」

全員がざわつく

「しかし、僕はあの弓を今日まで持たせてもらってません」

「…それは私が保障する」

と父がみんなに意見を言う

「この子は、私達を裏切っていない…こんな時にそんな疑念に駆られる事こそが一番危険だ!直ぐに準備を!」

その言葉に、みんなハッとして避難の準備にかかり始めた

「…その、悪かった、な」

歯切れ悪く、先ほど最初に言い始めた人があーくんに謝る

「謝らないで下さい。僕に感情があれば、恐らく同じ状態だったと思います」

「…おめぇに感情はあんよ」

あーくんが聞き返そうとしたした時、彼は自分の家に帰ろうとした

「そんな辛そうな顔する奴が感情ない訳ねーだろ!避難終わったら詫びさせてくれよ!」

そう言って、彼は走り出した

「…お前のせいじゃない」

父はあーくんに言う

「恐らくただの遠征だったか、どこからかここに人が住んでいるという話が流れていたか…どちらにせよ、こうなる可能性は常にあったんだ」

そう言って私とあーくんに告げる

「必要最低限の荷物を持って避難するよ。二人とも準備なさい」

その言葉に私達は準備を始めた

・・・

避難をしていく中、里のみんなで大移動になっていた
この状態ではまずいと、まずはハーピー何人かで空から教団を確認する事になった

その中に私は志願した

自慢ではないが里で一番早く飛べるし、高く飛べる
みんな不安だし―――もしあーくんを捜索しに来たのなら、私に責任がある

そんな思いもあって志願したのだが―――

「…カグヤ、怖い?」

「…うん」

正直、怖い
いつ矢が飛んでくるか解らないし、教団の人間が中々見つからない

高度を下げると、さらに危険が増す―――

ある種悪循環でもあった

「いざとなったら直ぐに逃げなさい」

母も怖いのに私に言ってくれていた
―――みんなだって怖いのに

私は恥ずかしくなった
同時に、がんばろうとも思った

―――その時だった

横を通り過ぎる矢、間違いなく私達を狙っていた

「教団よ!」

母の言葉に私達は混乱し、なんとか逃げようとする

「みんな落ち着いて!慌てた方があたるわ!」

その言葉の通り、みんな何とか避けているがいつあたってもおかしくない
そんな中、一人のハーピーに矢が刺さりそうだった

「危ない!」

私が叫んでも遅く、彼女に当たりそうな―――その時だった

―――キィィィン!

そんな音が聞こえた気がした時には、何かが通り過ぎて―――

彼女に当たりそうな矢が、消えていた

〜〜〜〜〜〜

いつからだろうか
『僕』と『私』が混在し始めたのは

元々は別々で、主導権は『私』が握っていた
色々調べなおしてわかったけど、『僕』はどうやら長い間眠っていたらしい

無理やり眠っていたのを、彼女が―――
ハーピーの癖に髪が長くて、お節介で、優しくて、あったかくて―――

『僕』と『私』を混在させてくれた彼女が起こしてくれたんだ

始めは彼女にそっけない態度しか取れなかった『私』
それがいやになって『僕』が出てきて

そんな彼女や彼女の両親、彼女の周りの人が『好き』になっていった

そんな中、僕らの生活は崩された
『私』を作った連中に、みんなが恐怖した

そんな中、みんなが安全に逃げるために、彼女は勇敢にみんなの先導者になろうとした
が、やつらはそれ位お見通しだろう

なんでわかったか僕にも解らない

不安に駆られて、みんなに止められても、僕はみんなに言った

「みんなが危ない!僕が助けるから!僕を信じて!」

―――気が付いたら、どこか高いところにいた

その時、頭によぎり始めた

―――戦闘モードへシフトします

瞬間、僕の唯一の持ち物であった大きな弓に青白い弦が張られる

―――残弾、80です

その言葉と共に、突然眼が良くなる
―――何だこれ!?

と、それで見えたのは…彼女達が矢で射られそうな場面だった

「…だ」

こんなもの見たくない

「…やだ」

彼女達が恐怖する姿なんて

「いやだ!」

瞬間、頭の中に響いた言葉をそのまま言う

「Creatofarrow(クリエイトオブアロー)!」

瞬間、何もなかった右手に―――一本の大きな矢が生まれた
僕は躊躇いなく―――

「―――Shoot!」

それを放った

〜〜〜〜〜〜

その大きな何かは、物凄いスピードで私達に迫り来る矢を撃ち落し始めた

「一体なんなの?」

母がそう言いながらも他のみんなを里のみんなと合流させようとしている

「私も手伝います!」

「お願い!」

二人で分担し、なんとかみんなを避難させるルートを確認する
その間も、なにかが私達を護ってくれている

―――見つけた!

私は、教団が隠れられそうになく、私達が早く行くことのできるルートを見つけた
―――ほかのみんなも同じルートを見つけたらしい

「それじゃあ私達で何とかおとりもしながらみんなを先導するわよ!」

『おう!』

みんな声に出さなくても、気持ちは一緒だった

・・・

みんなの避難が進んでいく中、私はある不安に駆られる

―――あーくん、どこ!?

父に聞いても、みんなに聞いても、あーくんはどこかに走っていってしまったらしい
私はあーくんを探しながら、みんなを先導する

そんな中―――

「いたぞ!化け物共め!」

剣を持った教団兵達が私達に迫ってきていた

「きゃあ!」

里のサキュバスの子供が転んでしまい―――

「しねぇ!」

その凶刃がその子に届きそうになった―――

「がぁっ!?」

が、届く事はなかった
そして、ついにわかった

私達を護っていた何かは―――魔力で出来た、矢だったのだ
それが教団兵にあたり、砕け、彼を弾き飛ばす

「あーくん?」

こんな事をしてくれるのは誰だろう、などとは思わなかった
彼は弓を持っていたのだ

何らかの方法で、矢を射ててもおかしくない

そんな事を考えながら、得体の知れない不安もよぎり始めた

〜〜〜〜〜〜

「危なかった…」

みんなを護るために射続ける
みんなが『僕』に『僕』をくれたから

その恩返しがしたいと思った

だから射続ける

―――警告、残弾が10を切りました。これ以上は生命活動に支障をきたします

頭に響く警告
―――さっきから矢を作る度にふらつき始めている

けど―――

「みんなが…逃げる…時、間を…つく…ら、ないと…」

そう、まだ避難は完了していない

―――警告、このままでは帰還出来なくなります
無視―――


―――警告、このままでは生命維持に支障が出ます
無視―――

―――警告、このままでは
無視―――

警告を全て無視して、僕は射続ける

その内、僕に向かって来る矢がき始めたが…
無視―――

右手に何か刺さったかも知れないけど、無視

僕が休めば―――みんなが、主が…

瞬間、いやな気分になった
彼女は主だぞ?なぜ?

そんな一瞬の思考が―――

「見つけたぞ!」

僕にダメージを追わせた

「こんな所から射てやがったのか…」

後ろには、剣を持った兵が何人かいた

「…邪魔をしないで…下さい」

そう言いながら右手に矢を作る
いや―――矢に似せた剣だ

「魔物に加担する輩は…死ね!」

そう言って何人かが斬りかかって来るが―――

「だから…邪魔を…するなぁ!!」

その矢で全員を横に切り伏せる
いや、『弾き飛ばす』

それで弾けた連中は全員気絶していた

直ぐに彼女に眼を戻し様子を確認する
―――殆どが避難完了し、なんとかなりそうな中

彼女だけが飛んでいた

そんな彼女に迫る矢を見て―――
僕は直ぐに構えた

―――警告、これを射れば生存率は5%を切ります。射ますか?
彼女は、僕に『僕』をくれた
そんな彼女が危険なのに射ますか?

「ふざけるな…」

僕はありったけの矢を創り―――



「カグヤに…カグヤに手を出すなぁ!!!」



〜〜〜〜〜〜

みんなが避難が終わりそうだったが、私は避難できなかった
あーくんが見つからないのだ

みんなには先に行ってもらい、私はあーくんを探す

―――あーくん、どこなの!?

そんな焦燥に駆られていた私は、気がついたら無数の矢に囲まれていた

―――あーくん、君は無事でいて

この矢に射られて、自分が死んでも死ななくても、もう彼とは会えないだろう
そう思い、眼を閉じ―――



「カグヤに…カグヤに手を出すなぁ!!!」



瞬間、周りに無数の光が過ぎ去った
そして、私を射ろうとしていた矢が消えていった

「あーくん!」

その矢が来た方向はわかったので、私は全力でそこに向かう

向かった先にいたのは―――
血溜りの中で倒れている、息絶え絶えのあーくんだった

「あーくん!」

「カグヤを…らなきゃ…やをまも…」

意識朦朧の中、彼はあくまで矢を射ろうとしていた

「カグヤを護らなきゃ」

彼のその言葉に、私は動きが止まりそうになる

―――私を護るために、ここまでしてたの?

右手に矢が何本も刺さり、右足も同じ状態なのに…
彼は私のことだけを案じていた

「う、うぅ…」

呻き声と共に教団兵が起きようとし―――

私は彼を掴んで、空に飛び立った!

〜〜〜

ある教団の一部隊が、魔物の里を侵攻したした時の話だ

侵攻自体は上手くいき、里の者たちも混乱し全員を討ち取れそうだったらしい
が、どこからともなく矢が飛んできた

彼らを責める様に
魔物を護るように

その矢はなんとも恐ろしかった
一寸の狂いもなく、躊躇いもなく、慈悲もなく

彼らが放った矢を射続けたらしい

しかも、20はある矢を、数発の矢が全て叩き落したらしい

〜〜〜

「…私達の出会いは以上です」

あの事件から何年かして、私達は親魔物領で生活をしている
あーくんはあの後病院に担ぎ込まれ、5日は眼を覚まさなかった

「とても辛かったでしょうね…」

「でも、同時にあの事件があったから、彼は―――」

私が目の前にいる記者さんに話している最中、不意に部屋の扉があいた

「カグヤ、ここにいたんだね」

「あーくん!」

彼が入ってきた瞬間、私は彼に飛びつく

「いい加減僕の事名前で呼んでよカグヤ…」

困ったように笑う彼に私は言ってやる

「名前だってアークなんだからあーくんでも良いでしょ!」

「…お義父さん、恨みますよ…」

父も私があーくんと言い続けてなのか、いつからか彼の名前はアークと呼ばれていた

「ほら、主役がこないと僕だって辛いんだから来てくれよ?」

そういって彼は私を抱き上げる
―――俗に言う、お姫様ダッコだ

「あ、最後に二人に一言!本日結婚されますが今の心境を!」

私達は顔を見合わせ、記者に言う

『世界の誰よりも、『幸せ』って感情を感じてます』


12/08/21 22:20更新 / ネームレス

■作者メッセージ

どうも、ネームレスです

久々に読みきり書きました

なんか、ハーピーとアーチャーって…良いよね!b

この話は私の連載とつながっている部分があります…
関係なく楽しめるようにしたつもりですが、いかがでしたか?


さてさて、次はリザ娘の読み切りかようやくヴィジョンを描けた連載の続きを書きます

…連載待たせてる方々、本当に長く待たせてて申し訳ないです

仕事も趣味も作品書きも…精一杯がんばりますので、皆様よろしくお願いします!


それでは最後に…

ここまで読んで頂き、本当にありがとうございます!

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