幼い王女と黒勇者
―――朝、目が覚めると横には何時も通り寝顔があった
「すぅ…すぅ…」
僕が護りたい、護らなくちゃいけない、大切な人―――
「エヘヘ…ほーぷぅ…」
ファストサルド領領主、リリス＝ファストサルドの綺麗な寝顔が、そこにはあった
気持ちよさそうに寝ている彼女の髪を、僕は優しく撫でる
―――くすぐったそうに反応する彼女
それをみて、当たり前になったこんな優しい１日の始まりに
いつも通り心躍らせたのだった
・・・
「おはよう、リリス」
そう言いながら、僕は紅茶の準備をする
「…おはよう、ホープ」
「今入れたばかりだから、熱いよ」
起きてきたリリスに紅茶を渡す
「…ホープ、やっぱり苦いよ」
「そうかなぁ…僕はちょうどいいんだけど」
朝は中々目が覚めないので、僕は苦めの紅茶をよく飲んでいた
リリスはそれがお気にめさないらしい
「これにミルクを足すとちょうど良いと思うんだけどね…」
「そうすると、朝からしｔ…」
続けようとした言葉を認識し、僕は言葉に詰まる
―――朝から僕は何を言おうとしてるんだ！？
「朝からどうしたのホープ？」
そう言いながらホルスタウロスのミルクを混ぜて紅茶を飲むリリス
―――多分、普通の牛乳も混ぜたオリジナルブレンドだとは思うけど…
「…いや、なんでもない」
それ以上に、そんな恥ずかしい事を考えてるのをばれてほしくなかった
・・・
「さて、今日もあと少しだしがんばらないと…」
そう言いながら、僕は街の付近を見回りしていた
最近は教団も簡単には攻めてこなくなった
だけど、そんな時だからこそ油断してはならない
かつて自分がいた場所だからこそわかる
あそこは―――教団は、間違いなくここを攻めてくる
人間がいなくなる原因が魔物にある
なら、魔物を殺し尽くす事が正義だと断言しているのが今の教団だ
教団は、何時如何なる時も魔物を狙っている
だから、油断はしてはいけない
油断したら…リリスが、みんながまた傷つく
そんな時、ふと視界に二人の男性が何かを話していた
―――二人とも、強い
なんとなく立っているだけだけど、隙がない
こんな立ち方ができるのは、訓練された人間だけだ
「そこの二人、何をしているんですか？」
警戒しながら、僕は二人に話しかける
「えっと…俺達はただの旅人です」
一瞬困ったような顔をして、片方の男性は言う
なんとなく活発そうなジパング人みたいな風貌だが、ジパング人っぽくない
そんな雰囲気の男性だ
「本当ですか？」
一瞬殺気を放ちながら、僕は彼に聞きなおす
口ごもるようにしながら後ずさり―――
「うわったあっ!!」
そう言いながら彼は転倒した
が、そんな事僕には重要ではなかった
「その十字の首飾り…」
彼が落としたそれは―――
「貴方達は教団の者ですね!!」
教団の、それも正規の勇者が持っているそれだった
「なぜここへ…まさかリリスを狙って…!?」
「あ、その、俺は勇者じゃ…ていうか元勇者であって今は違うんだけど…」
彼は誤解だと言わんばかりに否定をし始めた
「…信じられるとでも？」
「ですよね〜…」
勿論、そんな戯言僕は信じない
「はぁ……」
横にいるもう一人のジパング人―――服装はこちらの服だが、雰囲気で彼はジパング人とわかる―――が溜息を付き、彼を見やる
―――なんでそんな物持ってるんだよって言いたそうに
「これは魅了されない為の御守りみたいなものだよ。リリムのだって効かないんだぜ？」
「…ということはやはり貴方達は…!!」
「えっ、いや、ホントに元だから!!嘘じゃないから!!」
今の言葉で確信した
―――彼等はリリスを討伐しに来た勇者なのだ
「リリスを傷付けなんかさせませんよ!?」
剣に手をやりながら、僕は彼に宣言する
「てかさっきからリリスって誰の事だよ!?」
「しらばっくれないで下さい。このファストサルド領領主のリリム、黒勇者の事ですよ!!」
「へっ!?」
無知な振りをして、惑わそうとするその手口は、教団の汚い勇者のそれと同じだった
「では…覚悟!!」
迷わず、僕は剣を振り、彼を切り捨てようとする
「うおっと！」
上手く避けた彼を追撃しようとしたが、その避けている間には、攻撃をする隙を与えてはもらえなかった
―――やはり強い
彼の身のこなしは、一見ギリギリで避けたように見せて、その実相手の隙を伺っているのだ
「そう簡単には行きませんか…なら…」
出来る事なら、こんな方法を取りたくはない
が、救援を呼んでいるヒマがないだろう中、これだけの実力者と、未知数の相手を二人もしなければならないのだ
「本当は使いたくないのですが…」
剣を持っていた右手を前に出し、イメージする
―――イメージするのは、光の霧
―――無慈悲なまでに残酷な
―――全てを消し去る、裁きの霧
その霧が、二人を同時に包み込む
無論、二人とも気付かない
なぜならこの霧は―――
発動するまで『存在しない』のだから
「リリスやこの街に危害を加えさせないためにも…LA―――」
その時だった
「『アクアピストル』!」
その声と共に、大量の水が僕に襲い掛かってきた
「!?いったい何が…アクアス?…ではないだろうけど…」
そう言いながら、いつも通り相手の攻撃を弾いて、それを彼にぶつける様にした
「うおっ!?」
が、それも避けられてしまった
「ちょっと！ユウロが何かしたんですか!?それともあなたは勇者か何かですか!?」
「なんでユウロお兄ちゃんおそわれてるの!?」
そう言いながら、ワーシープの少女と、小さなサキュバス―――にしては魔力が尋常ではない女の子が走ってこちらに詰め寄ってきた
「え?魔物?…しかもお連れの方ですか?」
…内心冷や汗をかきながら、僕は彼に聞きなおす
「だから言ったじゃねえか…俺は今は勇者やってねえって…こいつらと旅してるんだよ…」
「どうやらそうらしいですね…失礼しました」
そう言いながら、僕は剣を背中に付け直す
「えっと…どうなってるの？」
「俺が現役の勇者と勘違いされて自警隊っぽいこの少年に攻撃されてただけだ。こっちの過失だから気にすんな」
彼―――ユウロと呼ばれた男性は魔物娘達に説明をしてくれている
「え？そうなの？じゃあじけいたいのお兄ちゃん、魔法つかってゴメンなさい」
「あ、いや、こちらこそ早とちりをしてしまったようで…」
本当に、取り返しの付かないことをしてしまうところだった
あれをそのまま使っていたら、間違いなくこの二人は消えてしまっていたのだ
―――大切な人を奪うことになっていたかもしれない
「ところで一ついいかな?」
もう一人のジパング人が僕に話しかけてくる
「さっきこの街の領主がリリムだって言ってたけど…本当かい?」
―――改めて理解した
この人たちは、本当にリリスの事を知らないんだ
「はい、リリスはこの街の領主のリリムですが…」
「ホント!?おねがい!!アメリたちをそのリリスお姉ちゃんのところにつれてって!!」
物凄い勢いで、女の子が僕に声をかけ始める
「え？なぜですか？」
「アメリはお姉ちゃんに会うために旅してるの！」
「お姉ちゃん…すると君はリリム？」
「うん!!」
元気よくするその返事に、僕は納得した
―――確かに、これだけの魔力ならリリムで納得だ
「そうですか…では案内します。僕についてきて下さい」
そう言って、全員をリリスの元へ連れて行くことにした
「あ、申し遅れました…」
全員に改めて自己紹介をする
「僕はホープ。ホープ＝レイ＝ファストサルドです」
・・・
道を案内がてら、僕はファストサルド領について説明していた
「ここファストサルド領は、リリムであるリリス、彼女が治める親魔物領です」
「そういえばさ、ホープ君の名前って…」
ワーシープの女性のサマリさん―――同い年くらいに見えたが、年上らしい―――が僕に向かって言う
まぁ、領地と同じ苗字を持ってるのだから直ぐにばれるだろう
「えぇ、僕はこの領地の領主、リリス＝ファストサルドの夫ですよ」
「マジか…すごいな…」
ユウロさんが関心した声を上げながら言う
「すごくなんてないですよ…僕や他の白勇者達、他の魔物を助けているリリスのほうがよっぽどすごいです」
「すっごーい！」
目をキラキラさせながら答えるアメリちゃん
「うん、リリスはすごいよアメリちゃん。この領地を治めながら虐げられた魔物達だけじゃなく、教団に強いられて勇者をしている人たちも救っているんだ」
「リリスお姉ちゃんかっこいー！」
「リリスの事は知らないの？」
「うん…アメリがおうちにいるときにはいなかったから…」
少し悲しそうにしている彼女に僕は言う
「これから会えるから大丈夫だよ」
「…うん!!」
その笑顔は、どことなくリリスに似ていて僕は嬉しくなった
「そういえば…聞きなれない言葉があったんだけど…」
もう一人のジパング人―――ツバキさんが僕に言う
「あ、そうだね。『白勇者』ってなに？」
サマリさんも聞きなれない言葉と言い、その単語を聞いてくる
「あの…知らなくて良い事ですよ」
僕は自分を攻める
―――旅の人が白勇者をしらない可能性だってあるんだ、余計な事をなぜ言ってしまったのか
「…ホープお兄ちゃん、大丈夫？」
よほど苦しい顔をしていたのか、アメリちゃんが心配そうに僕を見てくる
「大丈夫だよ、アメリちゃん…サマリさん」
「うん、なんか言いたくない事聞いちゃってごめんね」
「いえ…ただこれだけは言えます。…知っても害しかない事なので忘れてください。皆さんも」
全員が首を縦に振ってくれた
これだけで、僕はなんとなく救われた気もする
「ホープ、その者達は？もしかして道案内してるのか？」
その時、ちょうど目の前から声をかけられた
「あ、リートさん」
そこには自警隊隊長である、リートさんが立っていた
「はい、このリリムの女の子がお姉さんに会う旅をしているらしくて…今リリスの所まで案内してるとこです」
アメリちゃんを紹介しながら僕はリートさんに説明をする
「そうか…ならついでにホープもそのままリリス様と共に居ろ」
「え!?しかし僕はまだ…」
僕には、まだ仕事が残っている
にも拘らずリートさんは僕に休めというのだろうか？
「客人が急に暴れ出した時の護衛としていてほしい」
「…わかりました」
暴れだす意味が解らないが、リートさんは上司であり、僕以上に頭が切れる
もしかしたらなにか感じ取ったのかもしれない
―――もっと僕も強くならないと
そう思っていたときだった
「あれ？No.9ｓ…じゃなくてホープとリートじゃん。こいつら誰？」
そう言いながら現れたのは―――
「ん？コルト、もう学校終わったのか？楽しかったか？」
「もうって…もうそろそろ夕方だよ？あと学校はいつも通り普通だったよ。相変わらず授業はつまらないけど」
「そうか。真面目に授業は受けるんだぞ」
「わかってるよ。あ、とりあえず帰ったらゴハン作っておくよ」
「ああ頼む。だが怪我には気をつけるんだぞ」
「リートよりは怪我する心配ないよ。なんたってボクの方が家事は優秀だからね！」
「コルト…それを人の前で言うな…」
コルトだった
リートさんが保護した元白勇者であり―――
彼女の弟的な存在だ
「で、こいつらは？」
「ああ…リリス様の客人だ」
「ふーん…そういえばこの女の子、サキュバスって言うよりリリムだね。黒勇者とどこか似てるとこあるし」
「アメリはリリムだよ!!」
興味なさげにしながら、アメリちゃんを見ている
「彼はコルト。僕と同じく元白勇者の一人で…まあ見ての通りリートさんとは姉と弟みたいなものですね」
「な!?ちが……うって言いきれないのが悔しいな…」
悔しそうに言うが、本人も満更ではない様子で、なんとなく複雑そうだった
「で、黒勇者の客を案内しなくていいの？」
なんとなく邪魔だから早く行けオーラを出しながら、コルトは正論を言う
―――リートさんに甘える姿を誰にも見られたくないのだろう
「あ、そうですね。では皆さんまた僕についてきて下さい」
その気持ちはよくわかるので、僕は早々と案内に戻る事にした
・・・
「あれ？どうしたのホープ？珍しいじゃない」
執務室に入ると、そこには彼女は…
リリスがいつも通り書類をまとめていた
―――ここにある書類って、殆どが3ヶ月後までにまとめれば良いだけなんだけどな…
そんな事を思いながら、僕は言う
「リリスに会いたいって言う子が居てね…妹さんだって」
「妹？……あ!!」
アメリちゃんをみたリリスは、それは今まで見た事もない位に嬉しそうな顔をしながら―――
「あなたはもしかして…アメリね!!久しぶり〜!!」
「むにゅっ!?」
アメリちゃんに抱きついた
嬉しそうに頬ずりするその姿は、長い間妹に会えなかった事を露にしている
「むにゅぅ…あれ？リリスお姉ちゃんアメリのこと知ってるの？」
「もちろん！アメリはまだ今よりうんと小さかったから覚えていないかもしれないけど、アメリを抱っこしてあげた事もあるんだから！」
「ホント!?」
「ホントよ!!大きくなったわねアメリ！私の領地にようこそ！」
嬉しそうにアメリちゃんを抱えながら、周りを見渡し、3人に聞く
「それで貴方達は？人間の男の子2人とワーシープの女の子のようだけど…」
少し不安そうにしているのは、3人が信用できるかを一瞬考えているのだろう
「あ、私達はアメリちゃんと一緒に旅している仲間です。私はサマリ、この前までは人間で、ちょっとした都合でアメリちゃんにワーシープにしてもらいました」
「俺はユウロです。ただのしがない元勇者です」
「僕はツバキです。一緒に旅してるジパング人ってところです」
それぞれの自己紹介を聞いた後、いつもの可憐な、華の様な笑顔を見せるリリス
「そう…皆さん、アメリの事をよろしくお願いしますね」
「あ、はい！」
妹が一緒に旅する人たちがどんな人かなんとなくわかって安心したのだろう
「あ、そうだ！ユウロって君だよね？」
「え？はいそうですが…何か？」
と、リリスが何かを思い出したかのようにユウロさんに話しかけた
「えっとね…もし幼いリリムと旅をしているユウロって子がきたら酒場まで連れてきてほしいってNって人にから頼まれてたんだ」
「へっ!?なんで!?てかNって誰!?」
「さあ？なんか苦労してそうだからこの領地に来たら酒奢ってやるって言ってたけど…」
その言葉に一瞬、ある事を思い出す
―――胡散臭そうな黒コートで、リリスに何かしらの贈り物をして、今の伝言を頼んだんだったか
あの時は1週間立っても現れないなら容赦なく叩き潰そうと思ったけど、現にきちんと現れていた
…危うく消してしまいそうだったけど
「そうですか…よくわかりませんがまあリリスさんが領主をやってるこの領地でそうそうおかしな人は居ないと思うんで行ってきます。
酒場の場所教えてもらえますか？」
「そうね…いいわ、私が送ってあげる」
「へ？あっ！」
そう言ってリリスはユウロさんの足元に転移魔法を展開させた
あっという間にユウロの身体が光に包まれ消えた
…何時見てもすごい魔力だ
「あ、それとサマリちゃん」
「え？あ、はい」
「そのNがサマリちゃんの料理を食べてみたいとも言ってたけど…料理上手なの？」
「え、ええ、まあ…」
…改めてあの男なんなんだろう
ここに危害がくるようなら…迷わず…
「部屋の奥にキッチンがあるからそこで何かお弁当を作ってあげるといいわ」
「そうですね…まあユウロを迎えに行くついでに渡してきます」
そう伝えた後、僕のほうを向きながらリリスは聞いてくる
「で、ホープはどうするの？自警部隊の仕事に戻るの？」
「いえ…リートさんに客人が急に暴れ出した時の為にリリスの護衛をしろって言われたから今日はもうずっと傍に居るよ」
一瞬、仕事の口調で話そうとしたが、それを笑顔で睨んできた
―――以前も同じ事があったが、リリスとしては、僕には畏まってほしくないんだそうだ
嬉しい反面、複雑でもある
「ホント!?じゃあ今からそのお客さん達とお話するから私の隣にゆったりと座りながら護衛してね!!」
「それ護衛って言うのかな…まあいいか」
僕が近くにいると聞いて、尋常でないくらいはしゃぐリリス
―――僕がもっと力があってもっと賢かったら、リリスを寂しい思いさせなくてすむはずなのに…
そんな複雑な思いをしてる中リリスは僕の腕を絡ませながら、アメリちゃんに言う
「ということでアメリ、私といっぱいお喋りしようか！お茶とお菓子も用意したわ！」
転移魔法でお茶やお菓子を用意し、僕から腕を解くとお茶を入れる準備を始める
「ワーイ!!それじゃあアメリはリリスお姉ちゃんとホープお兄ちゃんのことききたい!!」
「あ、それ僕も興味あります。ぜひ聞かせてください」
二人が聞きたい事を、目をランランとさせながら聞いてくる
「いいわよ！じゃあまず私とホープの出会いから…」
「ちょっとリリス!!それは気軽に子供に話していいものじゃ…」
瞬間、僕はリリスを止めようとする
―――あんな、おぞましい事件を子供に聞かせなくても…
「大丈夫よ、ホープ？…あなたの素晴らしさを二人にも解ってもらいたいんだもの…」
―――その表情は、どんな物語に出てくるお姫様より美しく、とても妖艶な物でもある
甘えるように言うその言葉に、僕は…
「でも…あの話は…」
「大丈夫よ、ね？」
「うん…」
―――いつも陥落してしまう
・・・
「じゃあ…私とホープの出会いからね…」
リリスは御伽噺を語るかのように、アメリちゃんとツバキさん、キッチンにいるサマリさんに話し始める
「私達二人は―――元々は敵同士だったわ」
「えっ!?」
びっくりしたように言うアメリちゃん
「僕は元々、教団の勇者のいった…一人だからね…どんなにいやでも、魔物と敵対しないといけなかったんだ」
その言葉に、悲しそうにするアメリちゃん
「そんな中、僕がいやでも魔物を傷つけさせられている時、颯爽と現れて、その魔物と僕を助けたのがリリスだったんだ」
「あの時は、私達はまだお互いを敵としか思ってなかったし、私も彼のことを悪い人じゃないかと思っていたの」
思いがけない言葉に、僕は驚く
「初対面で、あそこまで敵対心持ってるんだもの…会った時のホープは怖かったわ」
おどけながら、僕にまた抱きつくリリス
「でも…今は頼れる私のナイトよ♪」
その言葉にホッとしたアメリちゃん
それをみて嬉しそうにするリリス
「それでも、最初の頃ホープは私達の声に耳を貸さなかった」
「なんで？」
素朴な疑問そうに聞くアメリちゃん
「その時ね…教団の悪い人たちがホープや…他の勇者さん達に悪い魔法をかけてたの」
「え…？どんな魔法？」
「言う事を聞かないと、体が痛くなっちゃったり苦しくなっちゃう魔法よ」
「そんな!ひどいよ!」
アメリちゃんは自分のことのように怒りながら言う
―――本当に、優しい良い子だ
「私もそう思うわ…でもねアメリ、これだけは間違っちゃダメよ？」
「なぁに？リリスお姉ちゃん？」
一息おいてから、リリスは言う
「教団の人たちみんなが悪い人じゃないわ。むしろ悪い人は少ないのかもしれない」
「でも…」
「アメリが言いたい通り、悪い人も中にはいるわ。でも、中には私たちの事を理解しようとしてる人もいるのよ？」
一息ついて、リリスは言う
「この領地と友好関係にある街には、そんな考えの人に育てられた人もいる。それに教団自体の教えは悪いものばかりじゃないわ。それを捻じ曲げて、悪用する人たちが悪いの」
アメリちゃんをしっかり見ながら伝える
「ホープや、他の人に悪い魔法をかけられた人たちも、そんな風に歪んでしまった、いわば被害者なの。そこはわかってあげないと、ね？」
リリスはアメリちゃんに対して、宣言するように言う
「いつか、本当にみんなが幸せに暮らせるように…私はこれからもホープと正しい事をしていくわ。…私が道を外しても、正してくれる彼と一緒に」
「それは僕の台詞だよ、リリス…世界の希望…」
リリスがもたれかかってきたので、リリスの頭を撫でながら答える
「二人ともラブラブだね！」
その言葉に、僕は気恥ずかしくなるが…
「あったりまえよ!人間も魔物も愛の前では関係ないわ!!ラブラブしないといけないのよ!」
そう力説しながら、僕に抱きつくリリス
―――正直、その心地よさに意識を失いそうになる
「お二人とも、本当に幸せそうですね…」
ツバキさんは、なぜか遠くを見ているような目をしながらそう僕らに告げる
「少なくとも、私はホープがいて…この領地のみんなが…そして貴方達が幸せなら幸せよ？」
「僕もリリスが幸せなら…幸せですよ」
そう言いながら、僕はリリスの手をしっかり握る
「ホント…ホープって…」
うっとりしながら、僕を見るリリスのその表情は、まるで物語に出てくる恋するお姫様のようだ
「ホント、仲良いんですね…」
半分あきれたようにしながら、サマリさんがこちらにくる
「あ、お弁当作り終わりましたよ」
「あらそうなの？…おいしそうな匂いねぇ〜…私も習いたいわ！」
サマリさんの弁当からする良い匂いは、リリスのご飯に引けを取らない、良い匂いをしていた
「でもリリスさんも上手そうですけど？」
「そうかしらね？…あ、ユウロくんの所にもう送る？」
「そうですね…そうしてもらっても良いですか？」
「そうね…ホープとの初めての話はサマリさんを送ってｋ「いえ!その話聞いてからいきます！」
興味心身に聞こうとするサマリさん
「え？」
「ぜひ聞きたいです!」
「アメリも聞く〜!」
「…え？」
僕は一瞬固まり、リリスを見やる
「そうねぇ…あれはホープがここにきて1週間位だったかしら」
「え!?話すの!」
その言葉は、魔物たちの楽しそうな会話に消されてしまっていた
・・・
あれから大分惚気話が続いていたが…それは唐突に終わりを告げた
ぐうぅ〜
その小さな可愛らしい音は、リリスの上で座っているアメリちゃんから奏でられた
「あぅ…」
顔を真っ赤にし、恥ずかしそうにするアメリちゃん
「アメリ、お腹空いたの？」
「うん…」
恥ずかしそうに言うその姿はなんとも可愛らしい
「もう直ぐ晩御飯ですからね…僕もお腹空いてきました」
ツバキさんもそう言うと…
「なら、私が作るわね」
リリスが立って皆に言う
「リリスお姉ちゃん、ご飯つくれるの！？」
「もちろん！ホープにおいしいご飯食べてもらいたいもの！」
そう言って立ち上がろうとするが…
「あの〜、良かったら私に作らせてもらえませんか？」
外から帰ってきたサマリさんが、僕らに言う
「泊めてもらって悪いですし、それに料理は得意なので…」
その言葉にアメリちゃんは続く
「サマリお姉ちゃんのご飯はとってもおいしーんだよ！」
「確かに、とっても美味しいんですよ！」
その言葉にリリスは言う
「なら…お願いしても良い？サマリちゃん？」
「勿論！」
そう言いながら台所にたつ彼女は、まるでお母さんのような気がしてしまった
・・・
「ホント美味しいわ！」
「でしょリリスお姉ちゃん！」
「これは…」
サマリさんの作ったご飯は、本当に美味しい
それこそ、すいすい食べてしまうし、リリスの物に引けを取らない
「これホント美味しいですよ！ぜひ自警隊の隊員食堂に来てほしいです！」
「えぇ！？そ、それは旅が続けられなくなるので…」
「そうですか…でもホント美味しいですよこれ」
得意料理のポトフとの事だが、これは本当に美味しいと思う
「…サマリちゃん」
「ん？どうかしました？」
「ホープは私のだからね！」
「えぇ！？なに当たり前の事言ってるんですか！」
「だって…サマリちゃん料理上手なんだもん…」
そう言いながらサマリさんに嫉妬するリリス
正直とても可愛らしい
「サマリお姉ちゃんのご飯は美味しいんだよ！」
嬉しそうに言うアメリちゃんのその顔は、まるで自慢のお姉ちゃんを紹介しているようだ
「そうねアメリ…これは美味しすぎるわ」
「そうだねリリス…」
正直いくらほめても褒め足りない位だと思えてしまう
・・・
楽しい食事は終わり、食後のティータイムを楽しもうとしていた
が、それでも…
ぐうぅ〜
なぜかアメリちゃんは直ぐにお腹が減ってしまうようだ
「あれぇ？なんでかなぁ？」
「ん〜…アメリ魔力が消耗しているのかしら？」
そう言って、改めてひざに乗せるリリス
「…やっぱり、消耗が激しかったのね」
「でも、ここに来る前に精補給剤を飲んでるんですが…」
「それを込みにしても、消費が激しかったんだと思う…魔物化した時って、たまにこういう事あるの…」
「それじゃあ、私のせいで…」
サマリさんが暗くなりそうになった所で、リリスが言う
「あ！そういう訳じゃないの！ごめんなさい。きちんと説明するわ」
そう言うと、アメリちゃん、サマリさんに言う
「アメリ、今回初めての魔物化だったでしょ？」
「うん、サマリお姉ちゃんが初めてだよ」
「魔物化ってやっぱり魔力を消費しちゃうんだけど…それが実際に出てくるのが少し遅いのよ」
その言葉に僕は納得する
リリスが魔物化をしてからしばらく後、精補給剤をしばらく飲み続けていたり僕をやたらと求めたりが多かったのだ
「なにより、サマリちゃんの足を治したかったんでしょ？」
ご飯を食べながら聞いた事だが、サマリさんはアメリちゃんのために身を投げ出し、足が動かなくなったのだ
それを魔物化によって治す、言わば賭けに出た結果彼女はワーシープになったのだ
「そういった強いう思いをもって魔物化すると、最初は大丈夫でも後から一気になくなってしまう事があるの」
「…そういえば、僕と初めてのときはマリアさんを魔物化した1ヶ月後だったね」
「私はあの時、彼女の幸せを強く願ったからね。アメリもそれがあるかも知れないわ」
そう言って、アメリちゃんに魔力を流し始めるリリス
「ふにゃあ…」
「幸い、空っぽではないからそんなに送る必要はないわね」
そう言いながら魔力を送っているが…送られているアメリちゃんの顔が妙に艶っぽい
―――している時のリリスの顔にそっくりだ
「…はい、終わり！」
「ふにゃあ♪」
気持ちよかったのか、とても嬉しそうな顔をしているアメリちゃん
―――アメリちゃんが旅に出た後はリリスにせがまれるのは間違いないだろう
・・・
「…アメリ、寝ちゃったわね」
リリスのひざの上で小さな寝息を立てながら眠っているアメリちゃん
その髪を、優しくなでるリリス
「ホント、可愛いですよね」
サマリさんもニコニコしながらアメリちゃんの寝顔を見ている
時刻はもう直ぐ深夜になるかもしれない位だ
「まぁ、確かにな」
Nにお酒を飲まされて眠っていたユウロさんも起きて来ていた
「ユウロ、大丈夫？」
「んー…酒とかは残ってないはずだから大丈夫だぜ？」
サマリさんが心配そうに聞くが、大丈夫なようだ
「そういえばリリスさん」
「どうかしましたか？」
ツバキさんが少し怖い表情をしながら、リリスと僕に聞く
「実際、ホープ君はどんな目にあっていたんですか？」
「「！？」」
「先ほどの話から、物凄い酷い目にあっていたとは思うんですが…それは『白勇者』というものに関係してるんですか？」
「…そうね、その通りよ」
正直、あの時うかつに口を滑らせなければと思う
知る必要のない、教団の暗部や人間の醜い部分を、わざわざ言う必要はないのだから
「ホープ達白勇者は…教団の所有物にされていたわ」
「物って…人間に使う言葉じゃないですよね？」
サマリさんは何を言ってるか解らないようだった
「…そーいや」
ユウロさんが口を開く
「教団のお偉いさん達が新しい兵器が完成したって言ってたけど…まさか」
「…えぇ、僕達白勇者の事ですよ」
皆が僕を見る
「人造勇者計画…そう名付けられたこの計画は、人間に禁術を用いて勇者並に強力な力を手にした兵士を戦場に投入する事が目的です」
「そんな…だって、ホープ君だって人間だよね？」
「…サマリさん、教団にいた頃の僕達は…『人間』じゃなくて『兵器』なんですよ。使い捨ての利く、便利な兵器…それが僕らだったんんです」
悲しそうにする皆に、僕は言う
「でも、そんな僕を救ってくれたのは…ここにいるリリスなんです。教団の一部の狂信者達から僕を救ってくれて、名前までくれて…僕に『護る』事を教えてくれたのも、僕にあるべき姿を示してくれたのも…」
その悲しそうにする中にいる、僕の愛おしい人の手を掴み、跪き、まるで物語の主人公のように告げる
「リリス＝ファストサルド、貴女に他ならない。貴女がいてくれたから、僕はここに生きて居るんだ」
その行動に、リリスは頬を赤らめ、周りはシン…となった
「サマリさん、確か反魔物領の出身でしたよね？」
「えっ！？そ、そうだけど…」
「でも、そんな酷い事を考える人ばかりではないでしょう？」
頷くサマリさんに、それをみて僕が言おうとした事を、リリスは先に言う
「だからこそ、私達魔物も誤解を解かなくちゃ、そうですよね？」
その言葉に、ユウロさん達も頷いてくれた
「！！」
その時だった
「こ、れは…」
「ホープ？どうしたの？」
その時、僕は何かを感じ取った
―――東、いや南東だ！
「リリス！南東に直ぐに救助部隊を！」
「え？どうｓ「いいから早く！」
大きい声をだして、驚いたように起きるアメリちゃん
「ホープお兄ちゃん、どうしたの？」
「わからない…けど南東で誰かが！」
そう言いながら僕は―――
「えっ！ホープく―――」
窓から飛び降り―――
「LAY-T！」
完全な臨戦態勢に入った
―――リリスと同じ翼で
―――彼女の持つ細身の剣で
髪も魔力のせいか、光って見える
そんな状態で―――僕は南東に飛び立った
・・・
「各員！至急ホープに続いて救助活動を！」
それから私は急いで全員に指示を出していた
「夜勤の自警隊員の半分はホープの追跡、残りは街の防衛に当たって！」
返される頼もしい掛け声たちは直ぐに行動を開始してくれている
「あの！リリスさん！」
サマリちゃんも何か手伝ってくれようとしている
が、正直―――危険があるかもしれない所に妹の友人を連れて行きたくない
「サマリちゃん…ホープが帰ったら紅茶を飲めるように、入れて置いてもらえるかしら？」
「えっ…？」
「私も、直ぐに向かわないと行けないから…あのままだとホープ居なくなっちゃうかも知れないから…」
「リリスさん…なんで震えてるんですか？」
その言葉に、私は自分が震えていたのに気付く
「もしかしてあのホープ君の飛んだのと関係あるんですか？」
アメリも、何も言わないが心配そうにこちらを見ている
「…ホープのあの力、あれは人間が扱えるものじゃないの」
二人は驚いたようにこちらを見る
「ホープの力、LAY-Tは光を集めて様々な物を創造する力なの…でも強力すぎて…30分以上使うと…」
「大丈夫ですよリリスさん！」
そう言いながら、サマリちゃんは私に抱きつく
「落ち着いて下さい…大切な人が消えちゃうかもしれなくて怖いかもしれませんが…ホープ君は戻ってきますよ！絶対！」
そう言って私を落ち着けようとしてくれるサマリちゃん
「ありがとう…」
私は、そう言うしかなかった
〜〜〜
ホープ率いる救助隊が辿り着いた所には、沢山の人間が倒れていた
一人は司教のようだが、残りのものはみな年若い兵士のようだった
どの者も外傷はなく、どこか開放されたような安らかな寝顔をしていた
だが、ホープは司教の持ち物を見た時、背筋が凍るのを感じた
それは―――
かつて自分達に実験を施した者達が持っていた、実験に関わっている証拠の十字架だったのだ
〜〜〜
「昨日は大変でしたね」
ツバキさんが僕に言う
「いや…あの程度なら良くある事ですから」
夕べは約30人の負傷者を収容し、病院施設もてんやわんやだった
「よくはないわよ、ホープ？」
リリスも横で言う
「でもびっくりしたよ！ホープ君いきなり飛び降りるから！」
「あれはホントに心配おかけしました」
帰って直ぐに言われたのは、なぜ飛べるのかとなぜ飛び降りたかだった
―――確かに普通ならびっくりするだろう
「サマリお姉ちゃん、ホープお兄ちゃんも反省してるんだから許してあげようよ」
アメリちゃんに言われ、サマリさんも納得したように引き下がる
「アメリ…元気でね！また寄れたらここによってね！」
「うん！またこれたら来るね！」
そう言って、出発する4人を見送った
―――見送るついでに、LAY-Tで皆に加護を送ったのは、僕だけが知っている
「すぅ…すぅ…」
僕が護りたい、護らなくちゃいけない、大切な人―――
「エヘヘ…ほーぷぅ…」
ファストサルド領領主、リリス＝ファストサルドの綺麗な寝顔が、そこにはあった
気持ちよさそうに寝ている彼女の髪を、僕は優しく撫でる
―――くすぐったそうに反応する彼女
それをみて、当たり前になったこんな優しい１日の始まりに
いつも通り心躍らせたのだった
・・・
「おはよう、リリス」
そう言いながら、僕は紅茶の準備をする
「…おはよう、ホープ」
「今入れたばかりだから、熱いよ」
起きてきたリリスに紅茶を渡す
「…ホープ、やっぱり苦いよ」
「そうかなぁ…僕はちょうどいいんだけど」
朝は中々目が覚めないので、僕は苦めの紅茶をよく飲んでいた
リリスはそれがお気にめさないらしい
「これにミルクを足すとちょうど良いと思うんだけどね…」
「そうすると、朝からしｔ…」
続けようとした言葉を認識し、僕は言葉に詰まる
―――朝から僕は何を言おうとしてるんだ！？
「朝からどうしたのホープ？」
そう言いながらホルスタウロスのミルクを混ぜて紅茶を飲むリリス
―――多分、普通の牛乳も混ぜたオリジナルブレンドだとは思うけど…
「…いや、なんでもない」
それ以上に、そんな恥ずかしい事を考えてるのをばれてほしくなかった
・・・
「さて、今日もあと少しだしがんばらないと…」
そう言いながら、僕は街の付近を見回りしていた
最近は教団も簡単には攻めてこなくなった
だけど、そんな時だからこそ油断してはならない
かつて自分がいた場所だからこそわかる
あそこは―――教団は、間違いなくここを攻めてくる
人間がいなくなる原因が魔物にある
なら、魔物を殺し尽くす事が正義だと断言しているのが今の教団だ
教団は、何時如何なる時も魔物を狙っている
だから、油断はしてはいけない
油断したら…リリスが、みんながまた傷つく
そんな時、ふと視界に二人の男性が何かを話していた
―――二人とも、強い
なんとなく立っているだけだけど、隙がない
こんな立ち方ができるのは、訓練された人間だけだ
「そこの二人、何をしているんですか？」
警戒しながら、僕は二人に話しかける
「えっと…俺達はただの旅人です」
一瞬困ったような顔をして、片方の男性は言う
なんとなく活発そうなジパング人みたいな風貌だが、ジパング人っぽくない
そんな雰囲気の男性だ
「本当ですか？」
一瞬殺気を放ちながら、僕は彼に聞きなおす
口ごもるようにしながら後ずさり―――
「うわったあっ!!」
そう言いながら彼は転倒した
が、そんな事僕には重要ではなかった
「その十字の首飾り…」
彼が落としたそれは―――
「貴方達は教団の者ですね!!」
教団の、それも正規の勇者が持っているそれだった
「なぜここへ…まさかリリスを狙って…!?」
「あ、その、俺は勇者じゃ…ていうか元勇者であって今は違うんだけど…」
彼は誤解だと言わんばかりに否定をし始めた
「…信じられるとでも？」
「ですよね〜…」
勿論、そんな戯言僕は信じない
「はぁ……」
横にいるもう一人のジパング人―――服装はこちらの服だが、雰囲気で彼はジパング人とわかる―――が溜息を付き、彼を見やる
―――なんでそんな物持ってるんだよって言いたそうに
「これは魅了されない為の御守りみたいなものだよ。リリムのだって効かないんだぜ？」
「…ということはやはり貴方達は…!!」
「えっ、いや、ホントに元だから!!嘘じゃないから!!」
今の言葉で確信した
―――彼等はリリスを討伐しに来た勇者なのだ
「リリスを傷付けなんかさせませんよ!?」
剣に手をやりながら、僕は彼に宣言する
「てかさっきからリリスって誰の事だよ!?」
「しらばっくれないで下さい。このファストサルド領領主のリリム、黒勇者の事ですよ!!」
「へっ!?」
無知な振りをして、惑わそうとするその手口は、教団の汚い勇者のそれと同じだった
「では…覚悟!!」
迷わず、僕は剣を振り、彼を切り捨てようとする
「うおっと！」
上手く避けた彼を追撃しようとしたが、その避けている間には、攻撃をする隙を与えてはもらえなかった
―――やはり強い
彼の身のこなしは、一見ギリギリで避けたように見せて、その実相手の隙を伺っているのだ
「そう簡単には行きませんか…なら…」
出来る事なら、こんな方法を取りたくはない
が、救援を呼んでいるヒマがないだろう中、これだけの実力者と、未知数の相手を二人もしなければならないのだ
「本当は使いたくないのですが…」
剣を持っていた右手を前に出し、イメージする
―――イメージするのは、光の霧
―――無慈悲なまでに残酷な
―――全てを消し去る、裁きの霧
その霧が、二人を同時に包み込む
無論、二人とも気付かない
なぜならこの霧は―――
発動するまで『存在しない』のだから
「リリスやこの街に危害を加えさせないためにも…LA―――」
その時だった
「『アクアピストル』!」
その声と共に、大量の水が僕に襲い掛かってきた
「!?いったい何が…アクアス?…ではないだろうけど…」
そう言いながら、いつも通り相手の攻撃を弾いて、それを彼にぶつける様にした
「うおっ!?」
が、それも避けられてしまった
「ちょっと！ユウロが何かしたんですか!?それともあなたは勇者か何かですか!?」
「なんでユウロお兄ちゃんおそわれてるの!?」
そう言いながら、ワーシープの少女と、小さなサキュバス―――にしては魔力が尋常ではない女の子が走ってこちらに詰め寄ってきた
「え?魔物?…しかもお連れの方ですか?」
…内心冷や汗をかきながら、僕は彼に聞きなおす
「だから言ったじゃねえか…俺は今は勇者やってねえって…こいつらと旅してるんだよ…」
「どうやらそうらしいですね…失礼しました」
そう言いながら、僕は剣を背中に付け直す
「えっと…どうなってるの？」
「俺が現役の勇者と勘違いされて自警隊っぽいこの少年に攻撃されてただけだ。こっちの過失だから気にすんな」
彼―――ユウロと呼ばれた男性は魔物娘達に説明をしてくれている
「え？そうなの？じゃあじけいたいのお兄ちゃん、魔法つかってゴメンなさい」
「あ、いや、こちらこそ早とちりをしてしまったようで…」
本当に、取り返しの付かないことをしてしまうところだった
あれをそのまま使っていたら、間違いなくこの二人は消えてしまっていたのだ
―――大切な人を奪うことになっていたかもしれない
「ところで一ついいかな?」
もう一人のジパング人が僕に話しかけてくる
「さっきこの街の領主がリリムだって言ってたけど…本当かい?」
―――改めて理解した
この人たちは、本当にリリスの事を知らないんだ
「はい、リリスはこの街の領主のリリムですが…」
「ホント!?おねがい!!アメリたちをそのリリスお姉ちゃんのところにつれてって!!」
物凄い勢いで、女の子が僕に声をかけ始める
「え？なぜですか？」
「アメリはお姉ちゃんに会うために旅してるの！」
「お姉ちゃん…すると君はリリム？」
「うん!!」
元気よくするその返事に、僕は納得した
―――確かに、これだけの魔力ならリリムで納得だ
「そうですか…では案内します。僕についてきて下さい」
そう言って、全員をリリスの元へ連れて行くことにした
「あ、申し遅れました…」
全員に改めて自己紹介をする
「僕はホープ。ホープ＝レイ＝ファストサルドです」
・・・
道を案内がてら、僕はファストサルド領について説明していた
「ここファストサルド領は、リリムであるリリス、彼女が治める親魔物領です」
「そういえばさ、ホープ君の名前って…」
ワーシープの女性のサマリさん―――同い年くらいに見えたが、年上らしい―――が僕に向かって言う
まぁ、領地と同じ苗字を持ってるのだから直ぐにばれるだろう
「えぇ、僕はこの領地の領主、リリス＝ファストサルドの夫ですよ」
「マジか…すごいな…」
ユウロさんが関心した声を上げながら言う
「すごくなんてないですよ…僕や他の白勇者達、他の魔物を助けているリリスのほうがよっぽどすごいです」
「すっごーい！」
目をキラキラさせながら答えるアメリちゃん
「うん、リリスはすごいよアメリちゃん。この領地を治めながら虐げられた魔物達だけじゃなく、教団に強いられて勇者をしている人たちも救っているんだ」
「リリスお姉ちゃんかっこいー！」
「リリスの事は知らないの？」
「うん…アメリがおうちにいるときにはいなかったから…」
少し悲しそうにしている彼女に僕は言う
「これから会えるから大丈夫だよ」
「…うん!!」
その笑顔は、どことなくリリスに似ていて僕は嬉しくなった
「そういえば…聞きなれない言葉があったんだけど…」
もう一人のジパング人―――ツバキさんが僕に言う
「あ、そうだね。『白勇者』ってなに？」
サマリさんも聞きなれない言葉と言い、その単語を聞いてくる
「あの…知らなくて良い事ですよ」
僕は自分を攻める
―――旅の人が白勇者をしらない可能性だってあるんだ、余計な事をなぜ言ってしまったのか
「…ホープお兄ちゃん、大丈夫？」
よほど苦しい顔をしていたのか、アメリちゃんが心配そうに僕を見てくる
「大丈夫だよ、アメリちゃん…サマリさん」
「うん、なんか言いたくない事聞いちゃってごめんね」
「いえ…ただこれだけは言えます。…知っても害しかない事なので忘れてください。皆さんも」
全員が首を縦に振ってくれた
これだけで、僕はなんとなく救われた気もする
「ホープ、その者達は？もしかして道案内してるのか？」
その時、ちょうど目の前から声をかけられた
「あ、リートさん」
そこには自警隊隊長である、リートさんが立っていた
「はい、このリリムの女の子がお姉さんに会う旅をしているらしくて…今リリスの所まで案内してるとこです」
アメリちゃんを紹介しながら僕はリートさんに説明をする
「そうか…ならついでにホープもそのままリリス様と共に居ろ」
「え!?しかし僕はまだ…」
僕には、まだ仕事が残っている
にも拘らずリートさんは僕に休めというのだろうか？
「客人が急に暴れ出した時の護衛としていてほしい」
「…わかりました」
暴れだす意味が解らないが、リートさんは上司であり、僕以上に頭が切れる
もしかしたらなにか感じ取ったのかもしれない
―――もっと僕も強くならないと
そう思っていたときだった
「あれ？No.9ｓ…じゃなくてホープとリートじゃん。こいつら誰？」
そう言いながら現れたのは―――
「ん？コルト、もう学校終わったのか？楽しかったか？」
「もうって…もうそろそろ夕方だよ？あと学校はいつも通り普通だったよ。相変わらず授業はつまらないけど」
「そうか。真面目に授業は受けるんだぞ」
「わかってるよ。あ、とりあえず帰ったらゴハン作っておくよ」
「ああ頼む。だが怪我には気をつけるんだぞ」
「リートよりは怪我する心配ないよ。なんたってボクの方が家事は優秀だからね！」
「コルト…それを人の前で言うな…」
コルトだった
リートさんが保護した元白勇者であり―――
彼女の弟的な存在だ
「で、こいつらは？」
「ああ…リリス様の客人だ」
「ふーん…そういえばこの女の子、サキュバスって言うよりリリムだね。黒勇者とどこか似てるとこあるし」
「アメリはリリムだよ!!」
興味なさげにしながら、アメリちゃんを見ている
「彼はコルト。僕と同じく元白勇者の一人で…まあ見ての通りリートさんとは姉と弟みたいなものですね」
「な!?ちが……うって言いきれないのが悔しいな…」
悔しそうに言うが、本人も満更ではない様子で、なんとなく複雑そうだった
「で、黒勇者の客を案内しなくていいの？」
なんとなく邪魔だから早く行けオーラを出しながら、コルトは正論を言う
―――リートさんに甘える姿を誰にも見られたくないのだろう
「あ、そうですね。では皆さんまた僕についてきて下さい」
その気持ちはよくわかるので、僕は早々と案内に戻る事にした
・・・
「あれ？どうしたのホープ？珍しいじゃない」
執務室に入ると、そこには彼女は…
リリスがいつも通り書類をまとめていた
―――ここにある書類って、殆どが3ヶ月後までにまとめれば良いだけなんだけどな…
そんな事を思いながら、僕は言う
「リリスに会いたいって言う子が居てね…妹さんだって」
「妹？……あ!!」
アメリちゃんをみたリリスは、それは今まで見た事もない位に嬉しそうな顔をしながら―――
「あなたはもしかして…アメリね!!久しぶり〜!!」
「むにゅっ!?」
アメリちゃんに抱きついた
嬉しそうに頬ずりするその姿は、長い間妹に会えなかった事を露にしている
「むにゅぅ…あれ？リリスお姉ちゃんアメリのこと知ってるの？」
「もちろん！アメリはまだ今よりうんと小さかったから覚えていないかもしれないけど、アメリを抱っこしてあげた事もあるんだから！」
「ホント!?」
「ホントよ!!大きくなったわねアメリ！私の領地にようこそ！」
嬉しそうにアメリちゃんを抱えながら、周りを見渡し、3人に聞く
「それで貴方達は？人間の男の子2人とワーシープの女の子のようだけど…」
少し不安そうにしているのは、3人が信用できるかを一瞬考えているのだろう
「あ、私達はアメリちゃんと一緒に旅している仲間です。私はサマリ、この前までは人間で、ちょっとした都合でアメリちゃんにワーシープにしてもらいました」
「俺はユウロです。ただのしがない元勇者です」
「僕はツバキです。一緒に旅してるジパング人ってところです」
それぞれの自己紹介を聞いた後、いつもの可憐な、華の様な笑顔を見せるリリス
「そう…皆さん、アメリの事をよろしくお願いしますね」
「あ、はい！」
妹が一緒に旅する人たちがどんな人かなんとなくわかって安心したのだろう
「あ、そうだ！ユウロって君だよね？」
「え？はいそうですが…何か？」
と、リリスが何かを思い出したかのようにユウロさんに話しかけた
「えっとね…もし幼いリリムと旅をしているユウロって子がきたら酒場まで連れてきてほしいってNって人にから頼まれてたんだ」
「へっ!?なんで!?てかNって誰!?」
「さあ？なんか苦労してそうだからこの領地に来たら酒奢ってやるって言ってたけど…」
その言葉に一瞬、ある事を思い出す
―――胡散臭そうな黒コートで、リリスに何かしらの贈り物をして、今の伝言を頼んだんだったか
あの時は1週間立っても現れないなら容赦なく叩き潰そうと思ったけど、現にきちんと現れていた
…危うく消してしまいそうだったけど
「そうですか…よくわかりませんがまあリリスさんが領主をやってるこの領地でそうそうおかしな人は居ないと思うんで行ってきます。
酒場の場所教えてもらえますか？」
「そうね…いいわ、私が送ってあげる」
「へ？あっ！」
そう言ってリリスはユウロさんの足元に転移魔法を展開させた
あっという間にユウロの身体が光に包まれ消えた
…何時見てもすごい魔力だ
「あ、それとサマリちゃん」
「え？あ、はい」
「そのNがサマリちゃんの料理を食べてみたいとも言ってたけど…料理上手なの？」
「え、ええ、まあ…」
…改めてあの男なんなんだろう
ここに危害がくるようなら…迷わず…
「部屋の奥にキッチンがあるからそこで何かお弁当を作ってあげるといいわ」
「そうですね…まあユウロを迎えに行くついでに渡してきます」
そう伝えた後、僕のほうを向きながらリリスは聞いてくる
「で、ホープはどうするの？自警部隊の仕事に戻るの？」
「いえ…リートさんに客人が急に暴れ出した時の為にリリスの護衛をしろって言われたから今日はもうずっと傍に居るよ」
一瞬、仕事の口調で話そうとしたが、それを笑顔で睨んできた
―――以前も同じ事があったが、リリスとしては、僕には畏まってほしくないんだそうだ
嬉しい反面、複雑でもある
「ホント!?じゃあ今からそのお客さん達とお話するから私の隣にゆったりと座りながら護衛してね!!」
「それ護衛って言うのかな…まあいいか」
僕が近くにいると聞いて、尋常でないくらいはしゃぐリリス
―――僕がもっと力があってもっと賢かったら、リリスを寂しい思いさせなくてすむはずなのに…
そんな複雑な思いをしてる中リリスは僕の腕を絡ませながら、アメリちゃんに言う
「ということでアメリ、私といっぱいお喋りしようか！お茶とお菓子も用意したわ！」
転移魔法でお茶やお菓子を用意し、僕から腕を解くとお茶を入れる準備を始める
「ワーイ!!それじゃあアメリはリリスお姉ちゃんとホープお兄ちゃんのことききたい!!」
「あ、それ僕も興味あります。ぜひ聞かせてください」
二人が聞きたい事を、目をランランとさせながら聞いてくる
「いいわよ！じゃあまず私とホープの出会いから…」
「ちょっとリリス!!それは気軽に子供に話していいものじゃ…」
瞬間、僕はリリスを止めようとする
―――あんな、おぞましい事件を子供に聞かせなくても…
「大丈夫よ、ホープ？…あなたの素晴らしさを二人にも解ってもらいたいんだもの…」
―――その表情は、どんな物語に出てくるお姫様より美しく、とても妖艶な物でもある
甘えるように言うその言葉に、僕は…
「でも…あの話は…」
「大丈夫よ、ね？」
「うん…」
―――いつも陥落してしまう
・・・
「じゃあ…私とホープの出会いからね…」
リリスは御伽噺を語るかのように、アメリちゃんとツバキさん、キッチンにいるサマリさんに話し始める
「私達二人は―――元々は敵同士だったわ」
「えっ!?」
びっくりしたように言うアメリちゃん
「僕は元々、教団の勇者のいった…一人だからね…どんなにいやでも、魔物と敵対しないといけなかったんだ」
その言葉に、悲しそうにするアメリちゃん
「そんな中、僕がいやでも魔物を傷つけさせられている時、颯爽と現れて、その魔物と僕を助けたのがリリスだったんだ」
「あの時は、私達はまだお互いを敵としか思ってなかったし、私も彼のことを悪い人じゃないかと思っていたの」
思いがけない言葉に、僕は驚く
「初対面で、あそこまで敵対心持ってるんだもの…会った時のホープは怖かったわ」
おどけながら、僕にまた抱きつくリリス
「でも…今は頼れる私のナイトよ♪」
その言葉にホッとしたアメリちゃん
それをみて嬉しそうにするリリス
「それでも、最初の頃ホープは私達の声に耳を貸さなかった」
「なんで？」
素朴な疑問そうに聞くアメリちゃん
「その時ね…教団の悪い人たちがホープや…他の勇者さん達に悪い魔法をかけてたの」
「え…？どんな魔法？」
「言う事を聞かないと、体が痛くなっちゃったり苦しくなっちゃう魔法よ」
「そんな!ひどいよ!」
アメリちゃんは自分のことのように怒りながら言う
―――本当に、優しい良い子だ
「私もそう思うわ…でもねアメリ、これだけは間違っちゃダメよ？」
「なぁに？リリスお姉ちゃん？」
一息おいてから、リリスは言う
「教団の人たちみんなが悪い人じゃないわ。むしろ悪い人は少ないのかもしれない」
「でも…」
「アメリが言いたい通り、悪い人も中にはいるわ。でも、中には私たちの事を理解しようとしてる人もいるのよ？」
一息ついて、リリスは言う
「この領地と友好関係にある街には、そんな考えの人に育てられた人もいる。それに教団自体の教えは悪いものばかりじゃないわ。それを捻じ曲げて、悪用する人たちが悪いの」
アメリちゃんをしっかり見ながら伝える
「ホープや、他の人に悪い魔法をかけられた人たちも、そんな風に歪んでしまった、いわば被害者なの。そこはわかってあげないと、ね？」
リリスはアメリちゃんに対して、宣言するように言う
「いつか、本当にみんなが幸せに暮らせるように…私はこれからもホープと正しい事をしていくわ。…私が道を外しても、正してくれる彼と一緒に」
「それは僕の台詞だよ、リリス…世界の希望…」
リリスがもたれかかってきたので、リリスの頭を撫でながら答える
「二人ともラブラブだね！」
その言葉に、僕は気恥ずかしくなるが…
「あったりまえよ!人間も魔物も愛の前では関係ないわ!!ラブラブしないといけないのよ!」
そう力説しながら、僕に抱きつくリリス
―――正直、その心地よさに意識を失いそうになる
「お二人とも、本当に幸せそうですね…」
ツバキさんは、なぜか遠くを見ているような目をしながらそう僕らに告げる
「少なくとも、私はホープがいて…この領地のみんなが…そして貴方達が幸せなら幸せよ？」
「僕もリリスが幸せなら…幸せですよ」
そう言いながら、僕はリリスの手をしっかり握る
「ホント…ホープって…」
うっとりしながら、僕を見るリリスのその表情は、まるで物語に出てくる恋するお姫様のようだ
「ホント、仲良いんですね…」
半分あきれたようにしながら、サマリさんがこちらにくる
「あ、お弁当作り終わりましたよ」
「あらそうなの？…おいしそうな匂いねぇ〜…私も習いたいわ！」
サマリさんの弁当からする良い匂いは、リリスのご飯に引けを取らない、良い匂いをしていた
「でもリリスさんも上手そうですけど？」
「そうかしらね？…あ、ユウロくんの所にもう送る？」
「そうですね…そうしてもらっても良いですか？」
「そうね…ホープとの初めての話はサマリさんを送ってｋ「いえ!その話聞いてからいきます！」
興味心身に聞こうとするサマリさん
「え？」
「ぜひ聞きたいです!」
「アメリも聞く〜!」
「…え？」
僕は一瞬固まり、リリスを見やる
「そうねぇ…あれはホープがここにきて1週間位だったかしら」
「え!?話すの!」
その言葉は、魔物たちの楽しそうな会話に消されてしまっていた
・・・
あれから大分惚気話が続いていたが…それは唐突に終わりを告げた
ぐうぅ〜
その小さな可愛らしい音は、リリスの上で座っているアメリちゃんから奏でられた
「あぅ…」
顔を真っ赤にし、恥ずかしそうにするアメリちゃん
「アメリ、お腹空いたの？」
「うん…」
恥ずかしそうに言うその姿はなんとも可愛らしい
「もう直ぐ晩御飯ですからね…僕もお腹空いてきました」
ツバキさんもそう言うと…
「なら、私が作るわね」
リリスが立って皆に言う
「リリスお姉ちゃん、ご飯つくれるの！？」
「もちろん！ホープにおいしいご飯食べてもらいたいもの！」
そう言って立ち上がろうとするが…
「あの〜、良かったら私に作らせてもらえませんか？」
外から帰ってきたサマリさんが、僕らに言う
「泊めてもらって悪いですし、それに料理は得意なので…」
その言葉にアメリちゃんは続く
「サマリお姉ちゃんのご飯はとってもおいしーんだよ！」
「確かに、とっても美味しいんですよ！」
その言葉にリリスは言う
「なら…お願いしても良い？サマリちゃん？」
「勿論！」
そう言いながら台所にたつ彼女は、まるでお母さんのような気がしてしまった
・・・
「ホント美味しいわ！」
「でしょリリスお姉ちゃん！」
「これは…」
サマリさんの作ったご飯は、本当に美味しい
それこそ、すいすい食べてしまうし、リリスの物に引けを取らない
「これホント美味しいですよ！ぜひ自警隊の隊員食堂に来てほしいです！」
「えぇ！？そ、それは旅が続けられなくなるので…」
「そうですか…でもホント美味しいですよこれ」
得意料理のポトフとの事だが、これは本当に美味しいと思う
「…サマリちゃん」
「ん？どうかしました？」
「ホープは私のだからね！」
「えぇ！？なに当たり前の事言ってるんですか！」
「だって…サマリちゃん料理上手なんだもん…」
そう言いながらサマリさんに嫉妬するリリス
正直とても可愛らしい
「サマリお姉ちゃんのご飯は美味しいんだよ！」
嬉しそうに言うアメリちゃんのその顔は、まるで自慢のお姉ちゃんを紹介しているようだ
「そうねアメリ…これは美味しすぎるわ」
「そうだねリリス…」
正直いくらほめても褒め足りない位だと思えてしまう
・・・
楽しい食事は終わり、食後のティータイムを楽しもうとしていた
が、それでも…
ぐうぅ〜
なぜかアメリちゃんは直ぐにお腹が減ってしまうようだ
「あれぇ？なんでかなぁ？」
「ん〜…アメリ魔力が消耗しているのかしら？」
そう言って、改めてひざに乗せるリリス
「…やっぱり、消耗が激しかったのね」
「でも、ここに来る前に精補給剤を飲んでるんですが…」
「それを込みにしても、消費が激しかったんだと思う…魔物化した時って、たまにこういう事あるの…」
「それじゃあ、私のせいで…」
サマリさんが暗くなりそうになった所で、リリスが言う
「あ！そういう訳じゃないの！ごめんなさい。きちんと説明するわ」
そう言うと、アメリちゃん、サマリさんに言う
「アメリ、今回初めての魔物化だったでしょ？」
「うん、サマリお姉ちゃんが初めてだよ」
「魔物化ってやっぱり魔力を消費しちゃうんだけど…それが実際に出てくるのが少し遅いのよ」
その言葉に僕は納得する
リリスが魔物化をしてからしばらく後、精補給剤をしばらく飲み続けていたり僕をやたらと求めたりが多かったのだ
「なにより、サマリちゃんの足を治したかったんでしょ？」
ご飯を食べながら聞いた事だが、サマリさんはアメリちゃんのために身を投げ出し、足が動かなくなったのだ
それを魔物化によって治す、言わば賭けに出た結果彼女はワーシープになったのだ
「そういった強いう思いをもって魔物化すると、最初は大丈夫でも後から一気になくなってしまう事があるの」
「…そういえば、僕と初めてのときはマリアさんを魔物化した1ヶ月後だったね」
「私はあの時、彼女の幸せを強く願ったからね。アメリもそれがあるかも知れないわ」
そう言って、アメリちゃんに魔力を流し始めるリリス
「ふにゃあ…」
「幸い、空っぽではないからそんなに送る必要はないわね」
そう言いながら魔力を送っているが…送られているアメリちゃんの顔が妙に艶っぽい
―――している時のリリスの顔にそっくりだ
「…はい、終わり！」
「ふにゃあ♪」
気持ちよかったのか、とても嬉しそうな顔をしているアメリちゃん
―――アメリちゃんが旅に出た後はリリスにせがまれるのは間違いないだろう
・・・
「…アメリ、寝ちゃったわね」
リリスのひざの上で小さな寝息を立てながら眠っているアメリちゃん
その髪を、優しくなでるリリス
「ホント、可愛いですよね」
サマリさんもニコニコしながらアメリちゃんの寝顔を見ている
時刻はもう直ぐ深夜になるかもしれない位だ
「まぁ、確かにな」
Nにお酒を飲まされて眠っていたユウロさんも起きて来ていた
「ユウロ、大丈夫？」
「んー…酒とかは残ってないはずだから大丈夫だぜ？」
サマリさんが心配そうに聞くが、大丈夫なようだ
「そういえばリリスさん」
「どうかしましたか？」
ツバキさんが少し怖い表情をしながら、リリスと僕に聞く
「実際、ホープ君はどんな目にあっていたんですか？」
「「！？」」
「先ほどの話から、物凄い酷い目にあっていたとは思うんですが…それは『白勇者』というものに関係してるんですか？」
「…そうね、その通りよ」
正直、あの時うかつに口を滑らせなければと思う
知る必要のない、教団の暗部や人間の醜い部分を、わざわざ言う必要はないのだから
「ホープ達白勇者は…教団の所有物にされていたわ」
「物って…人間に使う言葉じゃないですよね？」
サマリさんは何を言ってるか解らないようだった
「…そーいや」
ユウロさんが口を開く
「教団のお偉いさん達が新しい兵器が完成したって言ってたけど…まさか」
「…えぇ、僕達白勇者の事ですよ」
皆が僕を見る
「人造勇者計画…そう名付けられたこの計画は、人間に禁術を用いて勇者並に強力な力を手にした兵士を戦場に投入する事が目的です」
「そんな…だって、ホープ君だって人間だよね？」
「…サマリさん、教団にいた頃の僕達は…『人間』じゃなくて『兵器』なんですよ。使い捨ての利く、便利な兵器…それが僕らだったんんです」
悲しそうにする皆に、僕は言う
「でも、そんな僕を救ってくれたのは…ここにいるリリスなんです。教団の一部の狂信者達から僕を救ってくれて、名前までくれて…僕に『護る』事を教えてくれたのも、僕にあるべき姿を示してくれたのも…」
その悲しそうにする中にいる、僕の愛おしい人の手を掴み、跪き、まるで物語の主人公のように告げる
「リリス＝ファストサルド、貴女に他ならない。貴女がいてくれたから、僕はここに生きて居るんだ」
その行動に、リリスは頬を赤らめ、周りはシン…となった
「サマリさん、確か反魔物領の出身でしたよね？」
「えっ！？そ、そうだけど…」
「でも、そんな酷い事を考える人ばかりではないでしょう？」
頷くサマリさんに、それをみて僕が言おうとした事を、リリスは先に言う
「だからこそ、私達魔物も誤解を解かなくちゃ、そうですよね？」
その言葉に、ユウロさん達も頷いてくれた
「！！」
その時だった
「こ、れは…」
「ホープ？どうしたの？」
その時、僕は何かを感じ取った
―――東、いや南東だ！
「リリス！南東に直ぐに救助部隊を！」
「え？どうｓ「いいから早く！」
大きい声をだして、驚いたように起きるアメリちゃん
「ホープお兄ちゃん、どうしたの？」
「わからない…けど南東で誰かが！」
そう言いながら僕は―――
「えっ！ホープく―――」
窓から飛び降り―――
「LAY-T！」
完全な臨戦態勢に入った
―――リリスと同じ翼で
―――彼女の持つ細身の剣で
髪も魔力のせいか、光って見える
そんな状態で―――僕は南東に飛び立った
・・・
「各員！至急ホープに続いて救助活動を！」
それから私は急いで全員に指示を出していた
「夜勤の自警隊員の半分はホープの追跡、残りは街の防衛に当たって！」
返される頼もしい掛け声たちは直ぐに行動を開始してくれている
「あの！リリスさん！」
サマリちゃんも何か手伝ってくれようとしている
が、正直―――危険があるかもしれない所に妹の友人を連れて行きたくない
「サマリちゃん…ホープが帰ったら紅茶を飲めるように、入れて置いてもらえるかしら？」
「えっ…？」
「私も、直ぐに向かわないと行けないから…あのままだとホープ居なくなっちゃうかも知れないから…」
「リリスさん…なんで震えてるんですか？」
その言葉に、私は自分が震えていたのに気付く
「もしかしてあのホープ君の飛んだのと関係あるんですか？」
アメリも、何も言わないが心配そうにこちらを見ている
「…ホープのあの力、あれは人間が扱えるものじゃないの」
二人は驚いたようにこちらを見る
「ホープの力、LAY-Tは光を集めて様々な物を創造する力なの…でも強力すぎて…30分以上使うと…」
「大丈夫ですよリリスさん！」
そう言いながら、サマリちゃんは私に抱きつく
「落ち着いて下さい…大切な人が消えちゃうかもしれなくて怖いかもしれませんが…ホープ君は戻ってきますよ！絶対！」
そう言って私を落ち着けようとしてくれるサマリちゃん
「ありがとう…」
私は、そう言うしかなかった
〜〜〜
ホープ率いる救助隊が辿り着いた所には、沢山の人間が倒れていた
一人は司教のようだが、残りのものはみな年若い兵士のようだった
どの者も外傷はなく、どこか開放されたような安らかな寝顔をしていた
だが、ホープは司教の持ち物を見た時、背筋が凍るのを感じた
それは―――
かつて自分達に実験を施した者達が持っていた、実験に関わっている証拠の十字架だったのだ
〜〜〜
「昨日は大変でしたね」
ツバキさんが僕に言う
「いや…あの程度なら良くある事ですから」
夕べは約30人の負傷者を収容し、病院施設もてんやわんやだった
「よくはないわよ、ホープ？」
リリスも横で言う
「でもびっくりしたよ！ホープ君いきなり飛び降りるから！」
「あれはホントに心配おかけしました」
帰って直ぐに言われたのは、なぜ飛べるのかとなぜ飛び降りたかだった
―――確かに普通ならびっくりするだろう
「サマリお姉ちゃん、ホープお兄ちゃんも反省してるんだから許してあげようよ」
アメリちゃんに言われ、サマリさんも納得したように引き下がる
「アメリ…元気でね！また寄れたらここによってね！」
「うん！またこれたら来るね！」
そう言って、出発する4人を見送った
―――見送るついでに、LAY-Tで皆に加護を送ったのは、僕だけが知っている
14/06/23 10:27更新 / ネームレス
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