自らを偽りと呼ぶ希望の皇
―――遠目から彼の一撃を見ていて、僕は思い出していた
かつて白勇者と呼ばれた由縁、その象徴を
それは彼が発しているあの光―――GEIS(ゲッシュ)の向こう側の力だ
あの光こそ、かつて―――
「ホープ?」
「ん?どうかしたかい、ガヴィ?」
記憶を掘り起こしていると、横から声をかけられる
そちらを向くと、僕の旅の同行者―――ガヴィエルが心配そうに見ている
「…僕は大丈夫。むしろ嬉しくて仕方ないよ?だって…」
そう言いながら、僕は思い出す
「だって、歪められた本当の白勇者が正しい道にすすめてるんだもの」
かつて、僕が弱かったせいで、歪められた―――僕の罪を
「…貴方は弱くない。貴方だから私は今のままでいられるのよ」
「ありがとう。僕も君が居てくれるから―――」
勇者でいられるんだ…
〜〜〜〜〜〜
小さい頃から、僕は教会に通っていた
熱心な信者と勘違いされるが、実際は元勇者の司祭様に色々な話を聞きたかったからに過ぎない
あくまで、実際に戦いに向かった司祭様の実際の話を聞いて、その上で教団の役に立ちたかった
「司祭さま!」
「おや…ホープ、君か」
「またお話が聞きたいのです!ぼくも貴方みたいに立派になりたいのです!」
「…私は、立派などではないよ」
司祭様はそう言いながら僕の頭を撫でてくれる
かつて自分の大切な人を傷つけたからと必要以上に色々な人を助けようと駆け回る司祭様は、僕の憧れだった
「それに、話を聞くだけではダメだ。…言わなくてもわかってるみたいだがね」
そう言いながら、手にある木剣をみながら微笑んでる司祭様
「今日もお願いして良いんですか!?やったー!」
この時の僕は、かつての司祭様と同じ、盲信状態だった
〜〜〜〜〜〜
昔を思い出しながら、僕は同行者のガヴィをみる
「?…どうかした?」
「ん…いや…」
その金色の髪は旅で手入れもあまりされてないはずなのに、その美しさは変わらない
幼さを残しながらもしっかりした女性らしい雰囲気も、彼女の性格を表してる
なにより―――
その羽の穢れの無さは、他の物達が言うような堕ちし者とは思えない
「ガヴィは昔から綺麗だなって考えてた」
「!?い、いきなりなに言うのよ!」
「ん?事実だけど?」
顔を真っ赤にしながら彼女は抗議する
そんな彼女が愛おしい
「本当、ガヴィは昔と変わらず綺麗だ…」
「ホープ…」
僕は彼女と始めて出会ってから、何一つ変わらない
僕を導く―――天の使いだ
〜〜〜〜〜〜
「ぐわっ!」
「剣を捨てて下さい!これ以上の抵抗は虚しいだけです!」
あれから月日が立ち―――
僕は憧れていた教団騎士として戦っていた
教団騎士として、様々な人々を救う事が、当時の僕の夢だった
「教団なんかに…屈してなるものか!妻や家族を殺させない!」
そう言いながら剣を捨てない相手を、どうにか説得しようとするが―――
「…クソッ…」
結局、説得できず―――挙句、命まで奪ってしまっていた
「よく戦ってくれた、ホープ」
後ろから賞賛の声を掛けてくるのは、ある大司教
サンクチュアリ教団教会の大司教を任せられ、魔物殲滅に命をかけている司教だ
「大司教様…」
「よく魔物に心を奪われ、同胞たる人間を堕落させる罪人を浄化してくれた」
「いえ、僕は「何も言わなくていい。お前の働きは主神様も喜んでおられる」
そう言いながら、僕が命を奪った人を見下しながら、言葉を続ける
「向こうに逃げた魔物達の浄化も完了した…さぁ祝おうじゃないか」
そう言いながら、嬉しそうに帰りの方向に向かう大司教
―――気持ち悪い
少なくとも、僕はそう感じた
例え相手が敵だからって、命を失った事を喜ぶなんておかしい事だ
まして、それが―――命の尊さを伝える、神職の者が言ってはならないはずだ
彼らにだって、生活はあったはずだ
―――それを僕らが脅かしているのではないか?
―――魔物は、本当に悪なのか?
そんな事を考えながら、帰路に着こうとした時だった
「ようやく見つけましたよ…新たな勇者」
その声はまるで鈴のようで―――
遠くから聞こえた気がするのに、はっきり聞こえて―――
振り向くと、そこには―――
「私はガヴィエル…貴方に勇者のお告げをする為に遣わされた者です」
純白の天使がいた
〜〜〜〜〜〜
焚き火を焚きながら、僕らは語る
昔を懐かしむように
「あの時は驚いたなぁ…僕にお告げが来るなんて思わなかったもの」
「そういう所も、貴方が選ばれた理由なのよ?」
「そうかな?僕は少なくともそんな立派な人物じゃないよ」
「そう言って、一体どれだけの人達から貴方こそ勇者だと言われたかしら?」
そんなやり取りをしながら、ガヴィエルは僕に体重を預ける
―――彼女が僕に甘えたい時のサインだ
「どれだけの人から言われようと…君から勇者と思われないなら僕には何も価値が無いよ」
「…そうやって言い切るから私は恥ずかしいのよ、バカ」
彼女を後ろから抱きしめる
彼女の羽がくすぐったく、心地よい
「僕は君がいたから…この『力』も手に入れたし、No.39の呪縛から解き放たれたんだ。それ位言っても罰なんて当たらないだろ?」
「…それも、全部私のせいで「君のせいじゃない」
彼女が言葉を紡ぐ前に、僕は遮る
彼女の口から、自身を貶める言葉を聞きたくないから
「今の教団は間違ってしまっているんだ。君は何も悪くない」
彼女を先程より強く抱きしめる
自分自身を見失わない為に
「ホープ…少し痛い」
「あ…ご、ごめん!」
「フフッ…うそよ。…そのまま抱き締めて」
少し見えた彼女の顔は、無理して笑おうとしたものだった
彼女が、彼女でいられる様に、僕は彼女を抱きしめる
〜〜〜〜〜〜
「GEIS?」
「そう…遥か昔の勇者達が使っていた誓約魔法ね」
ガヴィエルが僕に神託をしたあの日から幾日か立った時―――
彼女は僕にある魔法を教えてくれた
「元々は誓いを立てて、それにより力を手にする物だったらしいけど…私が知るこれは『心』を見る魔法らしいわ」
そう言いながら、その魔方陣を僕に見せてくれる
「正しき心を持つ物なら、その向こうの力を手にするだろう…そう言われてるわ」
「成る程ね…これを使えば、自分が本当の勇者としてやっていけるかわかるって訳だ」
そう言いながら、僕はそれに手をかざし―――
「我、誓約により―――悪しき者以外を傷つけない事をここに誓う」
「!?ホープ!何をしてるの!?」
そう言って、GEISを自分にかけた
「いや…悪しき者しか討つ必要ないし」
「だからって…いきなりしないでよ…。GEISは本当に厳しいんだから」
そう言いながら、僕の心配をしてくれるこの天使を見て―――
僕はドギマギし始めた
可愛らしいその表情からは慈愛とかそういうものだと思うけど―――
素晴らしいまでに愛情に満ちた何かを感じた
それを曇らせることになった自分に腹も立つし、他の人にこんな表情を向けてほしくないといった、汚らしい感情も芽生えた
「ホープ、顔が赤いよ?」
そう言って僕のおでこに手を当てる彼女に、余計にパニックになった僕は
「だ、だだだいじょうぶだから!なんでもない!元気元気!」
「そ、そう?」
余計に心配させてしまった
・・・
「ついに…手にしたんだ…」
「そうね…貴方なら会得できると思ってたけど、ここまで短期間なんて…」
GEISをかけてから半年―――
自分でも信じられないが、僕は新しい力を手にしていた
「…今でも信じられないよ」
自分自身、信じられなかった
が―――自分の右手を見る
そこには、間違いなく―――新しい力が宿っていた
「貴方だからこそ…魔物すら助けようとする貴方だからこそ手に出来たのよ…。おめでとう、ホープ!」
自分の事のようにはしゃぐ天使と、ささやかな、そして最後の喜びを、互いに噛締めあっていた
〜〜〜〜〜〜
「あの時は、僕も予想出来なかったよ」
ガヴィエルを抱き締めながら、僕は言う
「まさかこの力のせいで、No.39なんて番号を得るなんてね」
「そうね…でも、そのお陰で得した事も一つだけあるでしょ?」
悪戯っぽくいうガヴィエルのその眼に、少なくても罪の意識が隠れているのを、僕は見逃さなかった
「まぁ…前向きに考えたら得だよね。ずっと22歳の見た目でいられるのなんて、普通じゃ考えられないしね」
そう言いながら、自分の手を見る
―――もう直ぐ60にはなろうとしているのに、未だに若い時のままの、皺の無い手だ
「お陰で未だに女の子に声を掛けられる…男としては嬉しい事だね」
「…むぅ」
「いや、ガヴィがむくれないでよ。君が言い始めたんだから」
最も、それが嬉しい僕には、ご褒美でしかないのだが…
「…少し、寒くなってきたね。毛布出そうか?」
「そうね…貴方と一緒に包まりたいな…」
「喜んで、天使様」
そう言いながら、僕は荷物の中の毛布を一つ出しながら、焚き火に木片を追加する
ガヴィエルが少しでも暖かく出来るようにする為だ
「…暖かいね、ホープ」
「そうだね…ガヴィ」
〜〜〜〜〜〜
「どういうつもりだ、ホープよ…」
「…」
大司教が僕に問い詰める
原因は解っているが答えは変わらない
故に、答えられない
「貴様…その力をなぜ魔物に使わないのだ!?」
「…それは先程からはなしt「もういい!貴様のその力…有効に使わせてもらうぞ!!」
同じ事の繰り返しで頭にきたのか、大司教は僕の言葉を遮り、また始める
「39回目の実験だ…今度こそ成功しろ!」
そう、人体実験の始まりだった
・・・
GEISによって与えられた新たな力は、確かに強大な力だった
しかし、その力は…魔物に振るわれる事が無かった
どういう訳か、それは味方である筈の教団の兵を巻き込む事が殆どだったのだ
「39回目の実験だ…今度こそ成功しろ!」
その事に痺れを切らした大司教は、僕を捕らえ―――
人体実験を繰り返していた
「ついに…完成したぞ…」
そこには、妄信と狂気に取り付かれた、哀れな男が立っていた
「ホープ…貴様のお陰でついに成功だ!これで教団は戦い続けられるぞ!」
狂気に満ちた声を上げながら、大司教は笑う
これでもかと言わんばかりに笑い続ける
「貴様は今日からNo.39…もはや白勇者と呼ばれた英雄ではないわ!」
そう言いながら、今までの実験の結果をまとめる大司教
「そうだ…貴様に良いことを教えてやろう」
その言葉を聞いた僕は、激しい怒りに飲まれていた
「貴様に神託を告げた偽者の天使、明日処刑執行だ」
「!?どういうことだ!?約束と違うじゃないか!」
そう、僕がおとなしく実験を受けるなら、ガヴィエルは救われ、何も問題がない扱いになるという約束
その為だけに、僕は耐え続けたのに…
「元々貴様らが魔物も救おうなどと考えたのが間違いなのだ。それを証明する為にも、あの天使が貴様を誑かしたとして処刑する」
そこで区切って、大司教は言った
「なにも間違いは無いだろ?無能な元勇者よ」
そう言いながら、笑いながら部屋を出て行く大司教
「待て!彼女は間違ってなんかない!ガヴィは何も悪くないんだ!待てえぇぇぇぇぇぇ!」
僕がどんなに叫んでも、その言葉は届かなかった
〜〜〜〜〜〜
彼女を抱き締めながら、僕はあの処刑の日を思い出す
―――かつて自分達を希望と言っていた人達、手のひらを返したように罵声を浴びせる姿
―――何の疑いも感じず、ただ与えられた情報のみを妄信するその姿
だからこそ、僕の力は―――
「ホープ?」
「…起こしちゃったかい?ガヴィ」
「…貴方のせいじゃないのよ」
その言葉で、僕があの処刑場を思い出しているのがガヴィにも伝わっている事に気付いた
「…僕は大丈夫。大丈夫だから…」
そう言いながら、彼女の温もりを噛締める
〜〜〜〜〜〜
牢で拘束され、僕は動けないでいた
外の見張りの兵も、かつての戦友だったが―――
「頼む…ここをあけてくれ…!」
「…貴方の頼みでも、それだけは出来ません」
ここから、出る事は出来なかった
そんな時だった
「…ここかね?ホープ=スペランツェリアの牢は」
懐かしい声だった
「…ミヒャエル枢機卿!?何でこんなところに!?」
「司祭、さま?」
かつて勇者として活躍した、僕の憧れだった司祭様―――ミヒャエル=クレッセントがそこにいた
「…ホープ」
「司祭様!お願いです!ここから出してください!お願いします!」
「なぜだね?君は罪人なのだろ?」
司祭様はまるで僕を試すように言う
「君をこんな風にした原因はあの天使なのだろう?ならばなぜ助けようとする?」
「彼女が正しいからに決まってるじゃないですか!?彼女はみんなの為に傷ついてるんですよ!?」
僕は半狂乱気味に言う
「今の教団は間違ってる!魔物達は決して悪意だけで行動なんてしていない!それが貴方だってわかってるんでしょ!?」
司祭様と戦友は黙っている
「彼女達魔物は決して人を故意に傷つけようとしない!僕ら人間を愛しているんだ!お互い歩み寄れるはずなんだ!!」
ガヴィエルと行動していて、直に魔物達と話をして、その事だけは確信を持って言える
「それをしようとした彼女が処刑されるなんておかしい事…僕は認めない!認めちゃいけないんだ!」
「なら…その為に自らを犠牲にする覚悟もあるのだな?」
司祭様の言葉に耳を傾ける
「その為に…かつて勇者と呼ばれた地位も、名誉も捨て…魔物に与した罪人になると、言えるのだな!?」
「…構いません。僕は…」
その言葉を聞いて、僕の決心はより固まった
「僕は―――」
僕なんかを勇者と言ってくれた
「彼女を―――」
僕の為に捕まってしまった
「ガヴィエルを…本当の天使を―――」
僕の愛する彼女を―――
「真に正しいと証明する為に!僕は全てを捨てても構わない!!」
「…よく言ってくれた、ホープ」
そういうと、司祭様が動く
―――音も無く崩れる戦友
「ただの当て身だ…」
そう言って、牢の鍵を開け、僕の拘束を解いてくれる
拘束を解きながら僕の剣と鎧を持ってきてくれていた
かつて、『真の白き者』と言われた、僕の装備を…
「私にも、君のような志があれば…彼女を傷つけはしなかったのだろうな…」
「司祭様?」
「いや…なんでもない。行きなさい…これからどんなに過酷でも、あきらめちゃいけないよ…」
彼のその言葉を聞いて、僕は走り出した
〜〜〜〜〜〜
彼女と野宿で眠りながら、近くで気配を感じた僕は、眼を覚ます
「ホープ=スペランツェリアだな?」
そう言いながら、一人の男が、兵を連れて前に出る
「…いや、僕はホープ=スペランツェリアではないよ」
そう言いながら僕は起き上がり、そいつを睨む
「僕は…ホープF(フェイク)。ホープ=F=スペランツェリアだ」
「どちらでも関係ない…No.39、貴様を廃棄する」
そう言って、後ろの兵達が前に出始める
―――彼らの顔に生気は感じられない
「まだ、そんな事を続けてるのか…貴方達は…!」
「貴様等人造勇者から得たデータを元に作られた量産兵達だ…。そう簡単には―――」
その言葉の最中、何人かが斬りかかって来る
「倒れてはくれないぞ?」
僕の後ろにはまだガヴィエルがいる為、避ける選択肢は無い
―――ガキィンッ!
剣を弾き、他の兵の攻撃も同じようにさばく
―――僕が教団からガヴィエルを助け出して逃げ出した後も、実験は続いていた
人工的に勇者を作り出す為に、大司教はGEISの向こう側の力の一部を解析したらしい
皮肉にも、『白勇者』の名前を計画名につかって、だ
「…ホープ!」
「ガヴィ!援護をお願い!!」
僕が剣で彼等の攻撃を弾きながら、彼女に援護を任せると―――
「―――ハァ!」
ガヴィエルが放った神聖魔法によって、彼等は弾かれる
―――GEISの誓約以降、僕は基本的に攻撃をしなくなっていった
それは、誰かを傷つけない『護る』戦い方の為でもある
が、それ以上に―――
「えいっ!」
ガヴィエルの魔法の方が相手を気絶させたりしやすいのが一番の理由だ
そうこうしてるが、一向に数は減らない
20人は倒したくらいで、向こうの指揮をする男が言う
「命を奪わず、量産兵を倒すか…。余裕のつもりか?」
兵たちは一旦動きを止める
「貴様等がいくら足掻こうと、最早魔物の殲滅は重大事項!殺さなければならないのだ!!」
「そうやって!なぜ解り合おうとしないんだ!?」
「貴様は見てこなかったのか?魔物は所詮魔物しか生まん!どんなに人間と交わっても、魔物は魔物なのだ!!」
そう言いながら、量産兵を見る
「貴様等人造勇者には感謝しているよ…お陰でこれだけの兵力を整える事が出来たのだから!」
そう言いながら、虚ろな眼をした兵たちをみて続ける
「貴様等白勇者と違って、こいつらは優秀だよ…。何でも言う事を聞くのだからな!」
その狂気じみた笑みに、かつて覚えた嫌悪感を思い出す
「それに…そこの天使紛いも解っているのだろ?もう自分が魔物な事も…」
ガヴィエルは押し黙る
そう、天使は地上に居続けると―――魔物の魔力に侵食されていく
結果、魔物と同じ存在になってしまう
「堕ちたものだな…かつては救世の天使と言われていても、所詮魔物と同類の下等な存在なのだからなぁ!」
その言葉に僕は―――
「…いしろ」
「は?」
「訂正しろと言ってるんだ偽善者が!!」
ついに怒りを堪えられなくなった
「そうやって、偽りの教えを振りまいて!挙句本当に人々を助けてきた彼女を貶めて!優越感に浸ってるつもりか偽善者が!!」
そう言いながら、剣の柄を―――思い切り引っ張り伸ばす
―――パキィン!
瞬間、刀身が砕け、中から溢れんばかりの光が出てき始めた
「見せてやるよ…彼女がもたらした、世界の希望を!」
光が集まりだし、やがて―――
「HOPE-STRIKE(ホープストライク)!」
強大な、それこそ巨人が持つ短刀くらいの大きさの―――
光の剣を、僕は振るった
・・・
HOPE-STRIKE―――
かつて手にしたGEISの向こう側の力
この力は単純明快だ
『悪のみを斬る力』
悪しき心に満ちてしまっていたり、妄信してしまっていたり―――
愛を忘れてしまっている者のみを、そうなってしまっている原因のみを斬る事の出来る能力だ
僕を起点に、その力を、思い切り振りぬく
当然、量産兵と呼ばれた彼等彼女等の術を―――
そして、指揮していた偽善者を―――
範囲に入っていた略奪者も―――
全てを斬りぬいた
「ホープ!」
ガヴィエルが倒れそうになる僕を抱きとめてくれる
「…ガ、ヴィ…ごめ、ん…つい、使っちゃ、った…」
「喋らないで!今回復させるから!!」
抱き締めながら、彼女は僕に回復魔法を使ってくれる
人体実験の影響で、僕自身の生命力、魔力は大幅に増えた
だが、それを回復する能力は極度に落ちてしまった
それだけならまだしも、その影響か―――
外見の年齢などは、全く年を取らなくなってしまった
過剰な魔力の投与によって、体が変質したのかも知れない
OverdoseSoldier(オーバードーズソルジャー)
最初期の、僕の実験名だ
彼女に抱き締められながら、辺りを見る
周りにいた者達は、全員倒れていた
掛けられた術を解かれ、その反動で倒れているのだろう
その中で、完全に白目を向いて倒れているのは、先程の偽善者だった
―――一番心があくに染まっていたのだろう
彼女の回復魔法に身を任せながら、僕はそっと眼を閉じた
〜〜〜
昔々、ある所に一人の青年がいました
その青年は、勇者に憧れ、皆を護りたいと考えていました
そんな彼が成長し、彼は騎士として働いていきました
そんな時です
彼の元に天使がやってきていいました
「貴方は勇者に選ばれたのです」
彼は大変喜びました
今まで、勇者になって、人々を護るのが夢だったのですから
彼は勇者として益々頑張りました
そして彼は他の勇者と大きく違いました
彼は、敵である魔物や、悪い者達も全力で護り、助けていたのです
天使や、皆は聞きました
「どうして、悪い奴まで助けるの」
彼は言いました
「私は、世界中の全ての命の笑顔のために戦っているのです。皆が笑顔でいてほしいから」
彼は笑いながら言いました
ですが、そんな彼をみて面白く感じない者たちも居ました
彼等は悪い魔法を使い、彼を悪者だと全ての人達に吹き込みました
今まで仲良くしてくれた人達も、みんな彼を悪者だと言い、石を投げたり乱暴をしたりしました
天使は、それをみてとても悲しくなりました
けれど、彼は言いました
「悲しまないで。私は貴方にも笑顔になってほしいのだから」
天使は目を疑いました
皆に傷つけられ―――
皆に裏切られ―――
それでも、彼は笑顔でみんなの為に戦おうとしているのです
それを見ていた天使はとても苦しくなりました
どんな誰よりも傷ついてるのに―――
誰よりも辛いのに―――
彼は、笑顔を絶やさないようにしていたのです
傷だらけになっても戦うその姿を見て、みんなは考え始めました
―――自分達は何をしているんだろう
―――彼は、いつまでも勇者じゃないか
いつしか悪い魔法が皆から消え始め、みんなが彼の事を思い出し始めました
いつしか彼はこう呼ばれていました
傷だらけになりながらもみんなを護る、『傷だらけの守護者』
そして、真に正しき者―――白勇者と
〜〜〜
回復してもらった後、僕等は急いであの場を離れた
あのままいたら、他の魔物達や近くの街―――ファストサルド領に捕まるだろうから
僕達は悪い事をしていなくても、もう死んだ人間も同然なのだ
二人で、ゆっくり旅をしながら、自らが招いてしまった事を正したい
「っと、そうだ」
二人で歩きながら、僕は言いだす
―――始めてあった時から、もう35年も言えずにいた言葉
「どうしたの、ホープ?」
「ずっと言おうと思ってた事があったんだ」
今日、丁度出会って35年目―――
遅すぎるけど、そろそろ言いたい言葉だ
「ガヴィエル…この二人の人生という名のワルツを―――僕と踊って頂けませんか?」
そう、プロポーズの言葉だ
ずっと言おうとしていながら、今まで言う機会が中々なくて言えなかった言葉
彼女はポカン、とした表情を浮かべ―――
「今更遅いわよ、バカ」
僕に勢いよく抱きついてきた
「何十年待ったと思ってるのよ!もうそんな言葉も要らない位貴方しか見えてないのよ私は!バカ!バカバカ!」
「…今日、出会って35周年だから、さ」
「遅いし区切りが悪いわよバカ!」
そう言いながら、ガヴィエルは顔を上げ―――
「貴方を他の誰にも渡さないんだから!私の勇者!」
その言葉と一緒に、天使のKissを僕にくれた
かつて白勇者と呼ばれた由縁、その象徴を
それは彼が発しているあの光―――GEIS(ゲッシュ)の向こう側の力だ
あの光こそ、かつて―――
「ホープ?」
「ん?どうかしたかい、ガヴィ?」
記憶を掘り起こしていると、横から声をかけられる
そちらを向くと、僕の旅の同行者―――ガヴィエルが心配そうに見ている
「…僕は大丈夫。むしろ嬉しくて仕方ないよ?だって…」
そう言いながら、僕は思い出す
「だって、歪められた本当の白勇者が正しい道にすすめてるんだもの」
かつて、僕が弱かったせいで、歪められた―――僕の罪を
「…貴方は弱くない。貴方だから私は今のままでいられるのよ」
「ありがとう。僕も君が居てくれるから―――」
勇者でいられるんだ…
〜〜〜〜〜〜
小さい頃から、僕は教会に通っていた
熱心な信者と勘違いされるが、実際は元勇者の司祭様に色々な話を聞きたかったからに過ぎない
あくまで、実際に戦いに向かった司祭様の実際の話を聞いて、その上で教団の役に立ちたかった
「司祭さま!」
「おや…ホープ、君か」
「またお話が聞きたいのです!ぼくも貴方みたいに立派になりたいのです!」
「…私は、立派などではないよ」
司祭様はそう言いながら僕の頭を撫でてくれる
かつて自分の大切な人を傷つけたからと必要以上に色々な人を助けようと駆け回る司祭様は、僕の憧れだった
「それに、話を聞くだけではダメだ。…言わなくてもわかってるみたいだがね」
そう言いながら、手にある木剣をみながら微笑んでる司祭様
「今日もお願いして良いんですか!?やったー!」
この時の僕は、かつての司祭様と同じ、盲信状態だった
〜〜〜〜〜〜
昔を思い出しながら、僕は同行者のガヴィをみる
「?…どうかした?」
「ん…いや…」
その金色の髪は旅で手入れもあまりされてないはずなのに、その美しさは変わらない
幼さを残しながらもしっかりした女性らしい雰囲気も、彼女の性格を表してる
なにより―――
その羽の穢れの無さは、他の物達が言うような堕ちし者とは思えない
「ガヴィは昔から綺麗だなって考えてた」
「!?い、いきなりなに言うのよ!」
「ん?事実だけど?」
顔を真っ赤にしながら彼女は抗議する
そんな彼女が愛おしい
「本当、ガヴィは昔と変わらず綺麗だ…」
「ホープ…」
僕は彼女と始めて出会ってから、何一つ変わらない
僕を導く―――天の使いだ
〜〜〜〜〜〜
「ぐわっ!」
「剣を捨てて下さい!これ以上の抵抗は虚しいだけです!」
あれから月日が立ち―――
僕は憧れていた教団騎士として戦っていた
教団騎士として、様々な人々を救う事が、当時の僕の夢だった
「教団なんかに…屈してなるものか!妻や家族を殺させない!」
そう言いながら剣を捨てない相手を、どうにか説得しようとするが―――
「…クソッ…」
結局、説得できず―――挙句、命まで奪ってしまっていた
「よく戦ってくれた、ホープ」
後ろから賞賛の声を掛けてくるのは、ある大司教
サンクチュアリ教団教会の大司教を任せられ、魔物殲滅に命をかけている司教だ
「大司教様…」
「よく魔物に心を奪われ、同胞たる人間を堕落させる罪人を浄化してくれた」
「いえ、僕は「何も言わなくていい。お前の働きは主神様も喜んでおられる」
そう言いながら、僕が命を奪った人を見下しながら、言葉を続ける
「向こうに逃げた魔物達の浄化も完了した…さぁ祝おうじゃないか」
そう言いながら、嬉しそうに帰りの方向に向かう大司教
―――気持ち悪い
少なくとも、僕はそう感じた
例え相手が敵だからって、命を失った事を喜ぶなんておかしい事だ
まして、それが―――命の尊さを伝える、神職の者が言ってはならないはずだ
彼らにだって、生活はあったはずだ
―――それを僕らが脅かしているのではないか?
―――魔物は、本当に悪なのか?
そんな事を考えながら、帰路に着こうとした時だった
「ようやく見つけましたよ…新たな勇者」
その声はまるで鈴のようで―――
遠くから聞こえた気がするのに、はっきり聞こえて―――
振り向くと、そこには―――
「私はガヴィエル…貴方に勇者のお告げをする為に遣わされた者です」
純白の天使がいた
〜〜〜〜〜〜
焚き火を焚きながら、僕らは語る
昔を懐かしむように
「あの時は驚いたなぁ…僕にお告げが来るなんて思わなかったもの」
「そういう所も、貴方が選ばれた理由なのよ?」
「そうかな?僕は少なくともそんな立派な人物じゃないよ」
「そう言って、一体どれだけの人達から貴方こそ勇者だと言われたかしら?」
そんなやり取りをしながら、ガヴィエルは僕に体重を預ける
―――彼女が僕に甘えたい時のサインだ
「どれだけの人から言われようと…君から勇者と思われないなら僕には何も価値が無いよ」
「…そうやって言い切るから私は恥ずかしいのよ、バカ」
彼女を後ろから抱きしめる
彼女の羽がくすぐったく、心地よい
「僕は君がいたから…この『力』も手に入れたし、No.39の呪縛から解き放たれたんだ。それ位言っても罰なんて当たらないだろ?」
「…それも、全部私のせいで「君のせいじゃない」
彼女が言葉を紡ぐ前に、僕は遮る
彼女の口から、自身を貶める言葉を聞きたくないから
「今の教団は間違ってしまっているんだ。君は何も悪くない」
彼女を先程より強く抱きしめる
自分自身を見失わない為に
「ホープ…少し痛い」
「あ…ご、ごめん!」
「フフッ…うそよ。…そのまま抱き締めて」
少し見えた彼女の顔は、無理して笑おうとしたものだった
彼女が、彼女でいられる様に、僕は彼女を抱きしめる
〜〜〜〜〜〜
「GEIS?」
「そう…遥か昔の勇者達が使っていた誓約魔法ね」
ガヴィエルが僕に神託をしたあの日から幾日か立った時―――
彼女は僕にある魔法を教えてくれた
「元々は誓いを立てて、それにより力を手にする物だったらしいけど…私が知るこれは『心』を見る魔法らしいわ」
そう言いながら、その魔方陣を僕に見せてくれる
「正しき心を持つ物なら、その向こうの力を手にするだろう…そう言われてるわ」
「成る程ね…これを使えば、自分が本当の勇者としてやっていけるかわかるって訳だ」
そう言いながら、僕はそれに手をかざし―――
「我、誓約により―――悪しき者以外を傷つけない事をここに誓う」
「!?ホープ!何をしてるの!?」
そう言って、GEISを自分にかけた
「いや…悪しき者しか討つ必要ないし」
「だからって…いきなりしないでよ…。GEISは本当に厳しいんだから」
そう言いながら、僕の心配をしてくれるこの天使を見て―――
僕はドギマギし始めた
可愛らしいその表情からは慈愛とかそういうものだと思うけど―――
素晴らしいまでに愛情に満ちた何かを感じた
それを曇らせることになった自分に腹も立つし、他の人にこんな表情を向けてほしくないといった、汚らしい感情も芽生えた
「ホープ、顔が赤いよ?」
そう言って僕のおでこに手を当てる彼女に、余計にパニックになった僕は
「だ、だだだいじょうぶだから!なんでもない!元気元気!」
「そ、そう?」
余計に心配させてしまった
・・・
「ついに…手にしたんだ…」
「そうね…貴方なら会得できると思ってたけど、ここまで短期間なんて…」
GEISをかけてから半年―――
自分でも信じられないが、僕は新しい力を手にしていた
「…今でも信じられないよ」
自分自身、信じられなかった
が―――自分の右手を見る
そこには、間違いなく―――新しい力が宿っていた
「貴方だからこそ…魔物すら助けようとする貴方だからこそ手に出来たのよ…。おめでとう、ホープ!」
自分の事のようにはしゃぐ天使と、ささやかな、そして最後の喜びを、互いに噛締めあっていた
〜〜〜〜〜〜
「あの時は、僕も予想出来なかったよ」
ガヴィエルを抱き締めながら、僕は言う
「まさかこの力のせいで、No.39なんて番号を得るなんてね」
「そうね…でも、そのお陰で得した事も一つだけあるでしょ?」
悪戯っぽくいうガヴィエルのその眼に、少なくても罪の意識が隠れているのを、僕は見逃さなかった
「まぁ…前向きに考えたら得だよね。ずっと22歳の見た目でいられるのなんて、普通じゃ考えられないしね」
そう言いながら、自分の手を見る
―――もう直ぐ60にはなろうとしているのに、未だに若い時のままの、皺の無い手だ
「お陰で未だに女の子に声を掛けられる…男としては嬉しい事だね」
「…むぅ」
「いや、ガヴィがむくれないでよ。君が言い始めたんだから」
最も、それが嬉しい僕には、ご褒美でしかないのだが…
「…少し、寒くなってきたね。毛布出そうか?」
「そうね…貴方と一緒に包まりたいな…」
「喜んで、天使様」
そう言いながら、僕は荷物の中の毛布を一つ出しながら、焚き火に木片を追加する
ガヴィエルが少しでも暖かく出来るようにする為だ
「…暖かいね、ホープ」
「そうだね…ガヴィ」
〜〜〜〜〜〜
「どういうつもりだ、ホープよ…」
「…」
大司教が僕に問い詰める
原因は解っているが答えは変わらない
故に、答えられない
「貴様…その力をなぜ魔物に使わないのだ!?」
「…それは先程からはなしt「もういい!貴様のその力…有効に使わせてもらうぞ!!」
同じ事の繰り返しで頭にきたのか、大司教は僕の言葉を遮り、また始める
「39回目の実験だ…今度こそ成功しろ!」
そう、人体実験の始まりだった
・・・
GEISによって与えられた新たな力は、確かに強大な力だった
しかし、その力は…魔物に振るわれる事が無かった
どういう訳か、それは味方である筈の教団の兵を巻き込む事が殆どだったのだ
「39回目の実験だ…今度こそ成功しろ!」
その事に痺れを切らした大司教は、僕を捕らえ―――
人体実験を繰り返していた
「ついに…完成したぞ…」
そこには、妄信と狂気に取り付かれた、哀れな男が立っていた
「ホープ…貴様のお陰でついに成功だ!これで教団は戦い続けられるぞ!」
狂気に満ちた声を上げながら、大司教は笑う
これでもかと言わんばかりに笑い続ける
「貴様は今日からNo.39…もはや白勇者と呼ばれた英雄ではないわ!」
そう言いながら、今までの実験の結果をまとめる大司教
「そうだ…貴様に良いことを教えてやろう」
その言葉を聞いた僕は、激しい怒りに飲まれていた
「貴様に神託を告げた偽者の天使、明日処刑執行だ」
「!?どういうことだ!?約束と違うじゃないか!」
そう、僕がおとなしく実験を受けるなら、ガヴィエルは救われ、何も問題がない扱いになるという約束
その為だけに、僕は耐え続けたのに…
「元々貴様らが魔物も救おうなどと考えたのが間違いなのだ。それを証明する為にも、あの天使が貴様を誑かしたとして処刑する」
そこで区切って、大司教は言った
「なにも間違いは無いだろ?無能な元勇者よ」
そう言いながら、笑いながら部屋を出て行く大司教
「待て!彼女は間違ってなんかない!ガヴィは何も悪くないんだ!待てえぇぇぇぇぇぇ!」
僕がどんなに叫んでも、その言葉は届かなかった
〜〜〜〜〜〜
彼女を抱き締めながら、僕はあの処刑の日を思い出す
―――かつて自分達を希望と言っていた人達、手のひらを返したように罵声を浴びせる姿
―――何の疑いも感じず、ただ与えられた情報のみを妄信するその姿
だからこそ、僕の力は―――
「ホープ?」
「…起こしちゃったかい?ガヴィ」
「…貴方のせいじゃないのよ」
その言葉で、僕があの処刑場を思い出しているのがガヴィにも伝わっている事に気付いた
「…僕は大丈夫。大丈夫だから…」
そう言いながら、彼女の温もりを噛締める
〜〜〜〜〜〜
牢で拘束され、僕は動けないでいた
外の見張りの兵も、かつての戦友だったが―――
「頼む…ここをあけてくれ…!」
「…貴方の頼みでも、それだけは出来ません」
ここから、出る事は出来なかった
そんな時だった
「…ここかね?ホープ=スペランツェリアの牢は」
懐かしい声だった
「…ミヒャエル枢機卿!?何でこんなところに!?」
「司祭、さま?」
かつて勇者として活躍した、僕の憧れだった司祭様―――ミヒャエル=クレッセントがそこにいた
「…ホープ」
「司祭様!お願いです!ここから出してください!お願いします!」
「なぜだね?君は罪人なのだろ?」
司祭様はまるで僕を試すように言う
「君をこんな風にした原因はあの天使なのだろう?ならばなぜ助けようとする?」
「彼女が正しいからに決まってるじゃないですか!?彼女はみんなの為に傷ついてるんですよ!?」
僕は半狂乱気味に言う
「今の教団は間違ってる!魔物達は決して悪意だけで行動なんてしていない!それが貴方だってわかってるんでしょ!?」
司祭様と戦友は黙っている
「彼女達魔物は決して人を故意に傷つけようとしない!僕ら人間を愛しているんだ!お互い歩み寄れるはずなんだ!!」
ガヴィエルと行動していて、直に魔物達と話をして、その事だけは確信を持って言える
「それをしようとした彼女が処刑されるなんておかしい事…僕は認めない!認めちゃいけないんだ!」
「なら…その為に自らを犠牲にする覚悟もあるのだな?」
司祭様の言葉に耳を傾ける
「その為に…かつて勇者と呼ばれた地位も、名誉も捨て…魔物に与した罪人になると、言えるのだな!?」
「…構いません。僕は…」
その言葉を聞いて、僕の決心はより固まった
「僕は―――」
僕なんかを勇者と言ってくれた
「彼女を―――」
僕の為に捕まってしまった
「ガヴィエルを…本当の天使を―――」
僕の愛する彼女を―――
「真に正しいと証明する為に!僕は全てを捨てても構わない!!」
「…よく言ってくれた、ホープ」
そういうと、司祭様が動く
―――音も無く崩れる戦友
「ただの当て身だ…」
そう言って、牢の鍵を開け、僕の拘束を解いてくれる
拘束を解きながら僕の剣と鎧を持ってきてくれていた
かつて、『真の白き者』と言われた、僕の装備を…
「私にも、君のような志があれば…彼女を傷つけはしなかったのだろうな…」
「司祭様?」
「いや…なんでもない。行きなさい…これからどんなに過酷でも、あきらめちゃいけないよ…」
彼のその言葉を聞いて、僕は走り出した
〜〜〜〜〜〜
彼女と野宿で眠りながら、近くで気配を感じた僕は、眼を覚ます
「ホープ=スペランツェリアだな?」
そう言いながら、一人の男が、兵を連れて前に出る
「…いや、僕はホープ=スペランツェリアではないよ」
そう言いながら僕は起き上がり、そいつを睨む
「僕は…ホープF(フェイク)。ホープ=F=スペランツェリアだ」
「どちらでも関係ない…No.39、貴様を廃棄する」
そう言って、後ろの兵達が前に出始める
―――彼らの顔に生気は感じられない
「まだ、そんな事を続けてるのか…貴方達は…!」
「貴様等人造勇者から得たデータを元に作られた量産兵達だ…。そう簡単には―――」
その言葉の最中、何人かが斬りかかって来る
「倒れてはくれないぞ?」
僕の後ろにはまだガヴィエルがいる為、避ける選択肢は無い
―――ガキィンッ!
剣を弾き、他の兵の攻撃も同じようにさばく
―――僕が教団からガヴィエルを助け出して逃げ出した後も、実験は続いていた
人工的に勇者を作り出す為に、大司教はGEISの向こう側の力の一部を解析したらしい
皮肉にも、『白勇者』の名前を計画名につかって、だ
「…ホープ!」
「ガヴィ!援護をお願い!!」
僕が剣で彼等の攻撃を弾きながら、彼女に援護を任せると―――
「―――ハァ!」
ガヴィエルが放った神聖魔法によって、彼等は弾かれる
―――GEISの誓約以降、僕は基本的に攻撃をしなくなっていった
それは、誰かを傷つけない『護る』戦い方の為でもある
が、それ以上に―――
「えいっ!」
ガヴィエルの魔法の方が相手を気絶させたりしやすいのが一番の理由だ
そうこうしてるが、一向に数は減らない
20人は倒したくらいで、向こうの指揮をする男が言う
「命を奪わず、量産兵を倒すか…。余裕のつもりか?」
兵たちは一旦動きを止める
「貴様等がいくら足掻こうと、最早魔物の殲滅は重大事項!殺さなければならないのだ!!」
「そうやって!なぜ解り合おうとしないんだ!?」
「貴様は見てこなかったのか?魔物は所詮魔物しか生まん!どんなに人間と交わっても、魔物は魔物なのだ!!」
そう言いながら、量産兵を見る
「貴様等人造勇者には感謝しているよ…お陰でこれだけの兵力を整える事が出来たのだから!」
そう言いながら、虚ろな眼をした兵たちをみて続ける
「貴様等白勇者と違って、こいつらは優秀だよ…。何でも言う事を聞くのだからな!」
その狂気じみた笑みに、かつて覚えた嫌悪感を思い出す
「それに…そこの天使紛いも解っているのだろ?もう自分が魔物な事も…」
ガヴィエルは押し黙る
そう、天使は地上に居続けると―――魔物の魔力に侵食されていく
結果、魔物と同じ存在になってしまう
「堕ちたものだな…かつては救世の天使と言われていても、所詮魔物と同類の下等な存在なのだからなぁ!」
その言葉に僕は―――
「…いしろ」
「は?」
「訂正しろと言ってるんだ偽善者が!!」
ついに怒りを堪えられなくなった
「そうやって、偽りの教えを振りまいて!挙句本当に人々を助けてきた彼女を貶めて!優越感に浸ってるつもりか偽善者が!!」
そう言いながら、剣の柄を―――思い切り引っ張り伸ばす
―――パキィン!
瞬間、刀身が砕け、中から溢れんばかりの光が出てき始めた
「見せてやるよ…彼女がもたらした、世界の希望を!」
光が集まりだし、やがて―――
「HOPE-STRIKE(ホープストライク)!」
強大な、それこそ巨人が持つ短刀くらいの大きさの―――
光の剣を、僕は振るった
・・・
HOPE-STRIKE―――
かつて手にしたGEISの向こう側の力
この力は単純明快だ
『悪のみを斬る力』
悪しき心に満ちてしまっていたり、妄信してしまっていたり―――
愛を忘れてしまっている者のみを、そうなってしまっている原因のみを斬る事の出来る能力だ
僕を起点に、その力を、思い切り振りぬく
当然、量産兵と呼ばれた彼等彼女等の術を―――
そして、指揮していた偽善者を―――
範囲に入っていた略奪者も―――
全てを斬りぬいた
「ホープ!」
ガヴィエルが倒れそうになる僕を抱きとめてくれる
「…ガ、ヴィ…ごめ、ん…つい、使っちゃ、った…」
「喋らないで!今回復させるから!!」
抱き締めながら、彼女は僕に回復魔法を使ってくれる
人体実験の影響で、僕自身の生命力、魔力は大幅に増えた
だが、それを回復する能力は極度に落ちてしまった
それだけならまだしも、その影響か―――
外見の年齢などは、全く年を取らなくなってしまった
過剰な魔力の投与によって、体が変質したのかも知れない
OverdoseSoldier(オーバードーズソルジャー)
最初期の、僕の実験名だ
彼女に抱き締められながら、辺りを見る
周りにいた者達は、全員倒れていた
掛けられた術を解かれ、その反動で倒れているのだろう
その中で、完全に白目を向いて倒れているのは、先程の偽善者だった
―――一番心があくに染まっていたのだろう
彼女の回復魔法に身を任せながら、僕はそっと眼を閉じた
〜〜〜
昔々、ある所に一人の青年がいました
その青年は、勇者に憧れ、皆を護りたいと考えていました
そんな彼が成長し、彼は騎士として働いていきました
そんな時です
彼の元に天使がやってきていいました
「貴方は勇者に選ばれたのです」
彼は大変喜びました
今まで、勇者になって、人々を護るのが夢だったのですから
彼は勇者として益々頑張りました
そして彼は他の勇者と大きく違いました
彼は、敵である魔物や、悪い者達も全力で護り、助けていたのです
天使や、皆は聞きました
「どうして、悪い奴まで助けるの」
彼は言いました
「私は、世界中の全ての命の笑顔のために戦っているのです。皆が笑顔でいてほしいから」
彼は笑いながら言いました
ですが、そんな彼をみて面白く感じない者たちも居ました
彼等は悪い魔法を使い、彼を悪者だと全ての人達に吹き込みました
今まで仲良くしてくれた人達も、みんな彼を悪者だと言い、石を投げたり乱暴をしたりしました
天使は、それをみてとても悲しくなりました
けれど、彼は言いました
「悲しまないで。私は貴方にも笑顔になってほしいのだから」
天使は目を疑いました
皆に傷つけられ―――
皆に裏切られ―――
それでも、彼は笑顔でみんなの為に戦おうとしているのです
それを見ていた天使はとても苦しくなりました
どんな誰よりも傷ついてるのに―――
誰よりも辛いのに―――
彼は、笑顔を絶やさないようにしていたのです
傷だらけになっても戦うその姿を見て、みんなは考え始めました
―――自分達は何をしているんだろう
―――彼は、いつまでも勇者じゃないか
いつしか悪い魔法が皆から消え始め、みんなが彼の事を思い出し始めました
いつしか彼はこう呼ばれていました
傷だらけになりながらもみんなを護る、『傷だらけの守護者』
そして、真に正しき者―――白勇者と
〜〜〜
回復してもらった後、僕等は急いであの場を離れた
あのままいたら、他の魔物達や近くの街―――ファストサルド領に捕まるだろうから
僕達は悪い事をしていなくても、もう死んだ人間も同然なのだ
二人で、ゆっくり旅をしながら、自らが招いてしまった事を正したい
「っと、そうだ」
二人で歩きながら、僕は言いだす
―――始めてあった時から、もう35年も言えずにいた言葉
「どうしたの、ホープ?」
「ずっと言おうと思ってた事があったんだ」
今日、丁度出会って35年目―――
遅すぎるけど、そろそろ言いたい言葉だ
「ガヴィエル…この二人の人生という名のワルツを―――僕と踊って頂けませんか?」
そう、プロポーズの言葉だ
ずっと言おうとしていながら、今まで言う機会が中々なくて言えなかった言葉
彼女はポカン、とした表情を浮かべ―――
「今更遅いわよ、バカ」
僕に勢いよく抱きついてきた
「何十年待ったと思ってるのよ!もうそんな言葉も要らない位貴方しか見えてないのよ私は!バカ!バカバカ!」
「…今日、出会って35周年だから、さ」
「遅いし区切りが悪いわよバカ!」
そう言いながら、ガヴィエルは顔を上げ―――
「貴方を他の誰にも渡さないんだから!私の勇者!」
その言葉と一緒に、天使のKissを僕にくれた
12/05/09 23:08更新 / ネームレス
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