読切小説
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歌を背中にのせて
―――ブォォォン…

それは、荒野を走る
聞いた事も無い音を出しながら、そのよくわからないものは走っている

ボクはそれをなんとなしに見ていた

その上に男の人が乗っている
それの速さは、見た所ケンタウロスやコカトリスより速そうだ

―――一体、何なんだろう

一つの興味を持って、ボクは彼に近づく事を決めた

・・・

「こんにちは、おにーさん」

そういって、休んでいる彼に、ボクは話しかける

「…」

が、返事が無い
さっきまで乗っていた物をいじってるみたいだけど…

「おにーさん、なにやってるの?」

「…ん?」

どうやら今気付いたみたいだ

「ん?ハーピーか?…にしちゃ随分派手だが…」

「ボクはセイレーンだよおにーさん!」

確かにボク達セイレーンはハーピー種だけど、間違えるのは酷いと思う

「あー悪いな…こっちも色々あって、な。魔物の事殆どわからんのよ」

頭をボリボリかきながら彼は言う

「ふーん…で、それなーに?」

ボクは彼の後ろにある、彼が乗っていた物に話題を変える
魔物を知らないって事には興味あったけど、今はそれよりも乗ってた物について聞きたい

「これか?…あーこれはバイクってんだけど…聞いたことあるか?」

「ばいく?」

なんだろう?聞いたことがない

「おにーさん、ばいくってなに?」

「だよなぁ〜…」

おにーさんはなんか項垂れている
なにか悪いことでもしてしまっただろうか

「あ、すまん。お前が悪いわけじゃないんだ。ただ、これが分かる奴だと、俺にとって少しばかり都合が良いだけだったんだよ」

「ふーん…」

ボクが悪いわけじゃないらしく、内心ホッとした

「で、それはなんでそんなに速く走れるのおにーさん?」

「ん〜…言うのは良いが、一つ、頼まれてくれねーか?」

彼はなにか神妙そうな顔で言ってきた

「こいつの事は他言無用、誰にも言わねーでくれねーか?」

「?なんで?」

彼はなんでそんな事を言うんだろう
こんな速く動ける機械があれば、みんな動くのに苦労しないのに

「もしかして、独り占めする気!?」

だとしたら彼は酷い人だと思う
自分だけラクして動けるようになろうなんて

「ちげーよ…ん〜なんて言ったら良いやら…」

彼がなにか考えている

あーでもないこーでもない言ってるが…

「お前、別の世界とかってあると思う?」

「ほぇ?」

なんか変なこと言ってきた

「こいつはかなり真剣な上に、おまえの質問の答えに関わってるんだ。正直に答えてくれ」

彼はとっても真剣そうだ

「…あったら、良いなとは思うよ」

だからボクも正直に答えた

「オーケー。…それが答えの一部だ」

「へ?」

何を言ってるんだ彼は?

「簡単に言うと、だ。俺は別世界から来た人間なんだよ」

・・・

彼の言うことをまとめるとこうだ

その1、元々自分は別の世界の人間で、バイクと共にこの世界に来た
その2、このバイクは本来動かすのにいる燃料があるが、この世界にはないから、近くにあったサバトにて協力してもらい、魔力で動くようにした
その3、また、自分には魔法具製作の才能があるらしく、しばらく旅をしながら、魔法具を作っていこうとしている

らしい

「…おにーさん、悪いけど、信じられないよ」

「…だよな〜」

大体なんでサバトが手を貸すのかが分からない
魔法具作りが出来るなら余計に重宝されるじゃん

「まずサバトが協力してくれたのは、単純にそのサバトのバフォ様だかってのが俺を間違って召喚しちまったらしい」

「へ〜…って召喚!?」

召喚魔法が使えるバフォメットなんて、そうそういないぞ!

「俺もよくわからんから、俺に聞くなよ?…で、俺はこのバイクで世界を旅するのが昔からの夢でよ…だが、ここにはガソリンがないときた。だから魔力で動くように作り直させてもらった」

「それ、おにーさんのお手製なの!?すっごい!」

ボクはなんかすごい興奮した
だって目の前には本物の魔法具製作者がいるんだよ
世界に数は少ないと言われた、魔法具製作者が!

「まぁ、向こうでも機械いじりはしてたからよ…」

照れくさそうに頬をかく彼

「でもよくサバトから開放されたね」

「まぁ、代わりに修行が終わったら戻ってきて魔法具製作手伝えってさ」

ハハハ、と彼は笑う
なんかムスッとしてるかと思ったら、意外と子供っぽく笑う

「じゃあ、なんでこれを秘密にしなきゃいけないの?」

「…こいつを量産されて、悪用させないためさ」

彼は辛そうに言う

「こいつは人を乗せて速く走る為にある道具だ。けど、世の中そんな奴ばっかじゃない、だろ?」

「…教団の事?」

そうだ、と彼は頷く

そっか…だから

「だから、秘密にしてって言うんだね?」

「聞かれたら答えるが、聞かれないなら自分からは言わねーしな

彼はきっと、このバイクって言う物が大好きなんだ
だから、人殺しの道具に使われる可能性があるのが嫌なんだ

「わかった!誰にも言わないね!」

「ありがとうよ。…えっと」

「フィオナ!おにーさんの名前は?」

「俺は…ライドウってんだ。ササヤマライドウ。よろしくな、フィオナ」

彼は手を伸ばしてくれる

「よろしくね、ライドウ!」


・・・

彼、ライドウがバイクをいじってる所をボクは見る
彼は楽しそうに、真剣にバイクに向かっている

まるで我が子に接しているような、教師が生徒と向き合っているような、そんな感じだ

これを見てたら、ボクもなんとなく歌詞が浮かんできた

それをまとめようかな

「…」

黙々と歌詞をまとめ始めるボク

「…い、おーいフィオナ?」

「ふぇ!?」

「いや、だから飯食うかって聞いてたんだが…」

ライドウはどうやらバイクいじりは終わってたみたいだ

「あたりも暗くなってきたし、危険だろ?」

「一応、ボク魔物なんだけど…」

「でも、女の子だろ?」

その一言に、なぜかボクは緊張してしまう

「それに今から寝床探すのはしんどいぜ?…まぁ、飯の代金は貰うがよ」

「代金…?それってかr「体とかじゃなくて、お前の旅の話やこの世界の事で良いからな!」

顔を真っ赤にしているライドウ
ちょっと可愛いかもしれない

「しっかし、物凄い集中力だな」

「ボク達セイレーンにとって、歌は命と同じくらい大切な物だからね!ライドウのバイクと一緒だよ!」

「…そう、だな」

「ライドウ?」

なぜかすっごく表情が暗くなってしまった
なにがあったんだろう

「っと、そろそろ鍋が煮えそうだ」

近くにある鍋に向かうライドウ

「フィオナはコップとかあるか?」

「一応持ってるよ」

ボクだって旅をしている身だ
そういった物をもってはいる

「はい」

「…未使用品かよ」

大抵、街についてるから、宿をとったりしているから、使ったことはないが

「まぁ、味の保障はできねーが、な」

と、コップにスープを注いでくれた

「ほれ、フォーク。中に肉とか入ってるからよ」

「ライドウは?」

「こいつでいい」

と、ナイフを取り出していた
―――一瞬、嫌な記憶が思い出される

「…大丈夫か?」

「うん…」

とりあえず気を取り直してご飯を食べ始めた

「…美味しい!」

こんなところでクリームシチューみたいなスープが飲めるなんて!
ボクは感動した

「良かった…ストック消費した甲斐があったぜ」

彼もそう言いながら自分のを飲んでいる

「ホント美味しいよ!なんでこんなの作れるの!」

「ネタあかしをするとな…それ、俺が作ったわけじゃねーんだ」

「へ?」

彼によると、元々いた世界では、スープの素があるらしく、それをお湯につけると溶けてシチューみたいになるらしい

でも、美味しいから関係ない

ボク達は、美味しく食事を取った

・・・

食べ終わった後、ボク達はボーっとしていた
食事の余韻に浸っていたのだ

「なぁ、お前昔誰かに襲われたのか?」

「へ?」

ライドウが突然聞いてくる

「聞かないほうが良いんだろうが、ナイフ出した時のお前の顔が、気になってな…」

「…襲われたって言うか、なんていうか…」

正直、この話は言いにくい
今日はじめて会ったばかりの人に言うには重すぎる気もするし…

「…なら、こうしよう」

ライドウが突然言った

「俺もお前に普通なら言えない秘密をバラしてやるよ」

「…強引過ぎない?」

ライドウの意見はとても強引だし、それに―――

「それが嘘じゃないって確証ないじゃん」

「そうだが…お前もなんか聞きたい事あるだろ?それに答えるよ」

むー、なんていうか…

「やっぱ強引だよ…」

「だよなぁ…」

ライドウは髪をかきながら、横になって言う

「…先にボクが聞いてもいいなら、その条件飲むよ」

ここでボクが折れておく
そうしないと前に進めなさそうだし

「…のった」

寝ながら答えるライドウ

「なら質問。昔、バイクでなんかあったの?」

「…やっぱあん時顔にでてたか」

起き上がりながら彼は言う

「自覚はあったんだ」

「俺にとっては、始まりであり、終わりに関係あるから」


意味がわからなかった

「簡単に言えば、俺は愛車と自殺しようとして、な」

「え?」

彼は続ける

「向こうの方で色々あり過ぎてな…仕事はクビになるわ、親友は事故で死ぬわ、挙句彼女にも二股かけられててよ…」

「それは…最後のはご愁傷様」

「んで更には実家に帰っても仕事は見つからないし、両親ともケンカしちまってよ…文字通り放浪してたんだが…」

彼は小さく、なんか、疲れて、な、と言っていた
ボクからは何も言えない

「正直、なんて言えばいいのかわかんないや」

「逆の立場なら、俺もそうだと思う。んで、自殺しようと崖からバイクごと飛び降りたらこの世界にきてよ」

なるほど…

「ライドウも大変だった…で、良いのかな?こーゆー時の言葉」

「わかんね」

彼は残ったスープをコップに入れて飲んでいた

「あー!残ってたなら言ってよ!」

「聞かれなかったからな。それに食べ過ぎると太るぜ、これは」

と、誤魔化しているライドウ
なんていうか…むー

「口つけたのでいいなら、やろうか?」

「え?」

彼はコップを差し出す

「あ、ありがとぅ…」

なんか気恥ずかしい…

「で、俺の質問は答えてくれるか?」

「…このタイミングで言うかな、ふつ〜」

せっかくいい雰囲気なつもりだったのに…

「…まぁ、ボクの方のはシンプルだよ。人間にナイフで襲われた」

「…やっぱk「お父さんに、ね」

彼は驚愕した目で見てくる

「この世界だとたまにある話だよ?魔物とした記憶を忘れて、自分の子供を殺そうとする親は」

そう、反魔物領の一部では良くあることらしい
流石にボクみたいに親魔物領にいたのに起きるケースは稀だが

「教団にね、記憶を消されちゃうんだ。魔物との記憶全部。お母さんと愛し合った記憶も、プロポーズした記憶も、ボクを抱き締めた記憶も、ぜぇんぶ、ね」

教団の過激派は親魔物領で魔物と結婚してる人を誘拐する
その人に、自分の奥さんを殺させる為に

「…なんて言えばいいのか」

「気にしないでいいよ、ライドウ」

空気がドンヨリしている

そりゃあ、お互いネガティブな話しかしていないのだから当然だ

「…よし!」

そう言って、ボクは立ち上がる

「ライドウ、歌おう!」

「はぁ?」

「歌は楽しくなれるよ!ライドウも、バイク乗ってるときは楽しいでしょ!」

そう言って、ボクは歌いだす

「〜〜♪〜〜〜♪〜」

ボクに出来るのは歌うことだけだ
だから、歌う
ライドウに笑ってほしいから

「〜♪…」

歌い終わってみたら、ライドウが泣いてた

「ライドウ…?不快だった?」

首を横に振る彼

「そうじゃねえんだけど、なんだろうな、この気持ち。すっげぇ…あったけぇ」

そう言いながら、彼はボクに近づいて…

「ありがとう」

そう言いながら、抱きついてきた

って、ええぇぇぇぇ!

「ち、ちょっとライドウ!」

「…」

泣きながらボクを抱き締めてくれている

その手はなんか、温かくて…

気がついたら、ボクは眠ってしまっていた

・・・

翌朝、目が覚めるとライドウは出発の準備をしていた

「おはようさん、寒くないか?」

「…おはよう」

…昨日の事もあり、顔を直視できない

「…昨日は、すまなかったな」

「へ?…あ、あぁ、良いよ、大丈夫だから」

そう言って、お互い顔を背けてしまう

「こっちの方に俺は行くが、どうする?」

それはボクが来た方向だった

「申し訳ないけど、ボクが向かうのは別方向だ」

ちょっと苦笑交じりになっていまったが、きちんと笑えただろうか?

「そうか…なら、またいずれ会おうな」

そう言って彼は荷物をしまい続ける

ボクも準備をした

「「それじゃ、また!」」

ボク達はお互いに別々の方向へ向かい始める

空を飛びながら、彼を見る
ライドウは小さくなりながらも、ボクの方をたまに見ながら、自分の道へ進んでいく

さて、ボクも―――

ザクッ!

右の羽に、嫌な感触がした
見たら、矢が、刺さっていた


そのまま、ボクは、墜落した

・・・

名残り惜しくも、俺はフィオナを見ていた

あそこまで一緒にいて落ち着く奴は、元の世界でも、いなかったしな

そうして、フィオナを見ていたら、どこからか矢が発射された

そして、そのまま―――

「フィオナァー!」

フィオナは墜落し始めた

このままだと、フィオナは地面に墜落してしまう
いや、墜落するだけならまだいい

恐らく近くにハンターみたいなのがいるんだろう

そいつの魔の手にフィオナがかかったら…

俺は無意識にアクセルを全快にした

間に合ってくれ!

・・・

気がついたら、ベットの上にいた

「気がついたかい?」

顔をそっちのほうにやると、知らないおじいさんが立っていた

「とりあえず、大丈夫そうじゃが…」

「あの…」

ボクは話を聞こうとした所

「詳しくは外でねとる奴から聞いとくれ。わしはお主の怪我を最大限治しただけじゃ」

そう言って、外に出て行ってしまった
かわりに―――

「フィオナ…」

―――ライドウが入ってきた

「すまない…」

「ライドウ?」

―――ライドウの話だとこうだ
まずボクを射たのは、教団の兵士だったらしい

射られたボクは当然墜落
そのまま地面にぶつかり死ぬところだった

が、寸前のところでライドウがボクをキャッチした
そこまでは良かったのだが…

「キャッチの仕方が悪かったらしくてよ…もう、お前、飛べないんだって」

キャッチした時に矢が変な方に入ってしまい、筋肉を傷つけたそうだ
その為、なんとか治癒魔法とかも使ったのだが…

「辺境のこの町じゃ、治せなかった、と…」

彼は項垂れながら、首を縦に振った

「俺のせいで…すまねぇ!」

彼は泣きながら謝ってくれている

ボクは―――

「なんで謝るの?」

―――心底腹がたった!

「なんでライドウが謝るのさ!ライドウはボクを助けてくれたんだよ!?」

「でも、俺がきちんとキャッチしてれば「そうかもしれないけど、ライドウがいなきゃ死んでたんだよ!ボクはその事に感謝したいよ!」

彼が押し黙る

「もし悪いと思うなら…責任とってボクと旅をしてよ!ボクみたいなチンチクリンじゃ残念かm「良いのか!一緒に旅しても!?」

彼は息を吹き返した魚のように、目を輝かせながら言ってきた

「…ボク、ちっちゃいよ?」

「構わない」

「ワガママ言うよ?」

「それを叶えるのが男の甲斐性らしいぜ?」

「ボク、歌しか歌えないよ?」

「俺なんざ機械しかいじれないぜ?」

ボク達はお互いを見る

「「っぷ」」

同時だったが

「「あっははははは!」」

お互い、笑いあえてた

「あっはは…なら、これからよろしくね、旦那様♪」

「ははは…あぁ、よろs…ってまだ旦那は早いんじゃねーか?」

こんな軽口を、お互いしあっていた

〜〜〜


こんな噂を聞いたことはないだろうか?
不思議な乗り物に乗った人間とセイレーンの噂だ
その人間にかかれば、どんな物もたちどころに直ってしまい
そのセイレーンの歌を聞けば、心が洗われるようにおちつくらしい
そんな二人だが、決まって仕事以外では、夫婦漫才としか思えない位息のあった行動をするそうだ


〜〜〜

「さて、どっちにいくよ?フィオナ」

「風がこっちだから…西に行こう!」

彼らの行き先は、風のみが知っている


11/05/10 23:24更新 / ネームレス

■作者メッセージ
どうも、ネームレスです

さて…

歌とバイク

これほどワクワクする組み合わせがあったでしょうか?

私は知りません

セイレーンを見てて思いついたのが、

「旦那とバイク旅」

でした

なんでだろう・・・?


それでは最後に、ここまで読んで頂き、ありがとうございます!

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