私の約束
―――古来より、私は恐れられていた
他の種族よりも優れた知能と力
圧倒的なまでの魔力、破壊
地上の王者と呼ばれた我々ドラゴン
その中でも、私は特に恐れられていた
恐れられ、崇められ、そして…退屈だった
対決できる人間もいなく、力だけを持て余らせていた
魔王交代の、あの日までは
魔王の交代により、私は脆弱な姿と、人間に対して力を振るえない『呪い』を受けてしまった
が、それでも―――
私は退屈で、孤独だった
・・・
「ば、バケモノめぇ!」
人間のオスが剣を振り上げ、私に切りかかってくる
あまりに遅く、あまりに弱いその剣は、私の手に受け止められ、少し力を入れただけで砕け散った
「こんな物なのか?」
溜息を交えながら、そのオスに言う
「大方、私の宝を奪いに来たんだろ?そのくせその程度の力なのか、人間?」
恐怖に支配され、もはや動けないでいるようだ
まぁ―――
「木偶を何人揃えても、全く意味がないぞ」
30人全員を同じように倒したのだから、仕方ないか
「一回しか言わん…失せろ」
その言葉に、オスどもは蜘蛛の子を散らすように逃げていった
―――あっけない
あまりに脆弱
あまりに腑抜け
そんな脆弱な生き物と共に生きようとする現魔王は何を考えているのだろうか
そんな事を考えながら、後ろから斬りかかろうとする殺気に応戦してやった
「ぐあっ!」
「失せろ、と言った筈だが?」
尻尾で一撃をくれてやり、振り返った先には―――
「…まだ子供の癖に、なにをしているんだ?」
まだオスになりきれていない人間が転がっていた
「う…うるさ…い…」
剣を杖代わりに、なんとか立ち上がる
「他の木偶どもは帰ったんだ。一人でなにも出来んだろ?」
「だ…まれ…ま…魔物が…」
その眼には、他の連中と違い、闘志が死んでいなかった
―――トクン
その眼をみて、私は一瞬止まる
憎しみと重圧、責任感や使命感
これらの感情が入り混じったその眼差しは、私の胸を高鳴らせるのには十分な物だった
―――久しぶりに、骨がある奴が来たようだ
このような強者の原石、現魔王になってから見ていなかった為、久々に心が躍りそうになっていた
「…その傷で、私に敵うとでも?」
「関係…ない!俺は…忘れ…て…ないぞ!」
無理して剣を構え、続ける
「俺の…故郷を…滅ぼした貴様を!!」
「…は?」
「もん…ど…う、むよう!」
そのまま剣を担ぐようにしながら突進をしてくるその姿は、久しぶりに感じる戦いの感覚を消し去るには十分な、しかししっかりとした戦闘の意思だけは見られる物だった
「…弱い」
そう言いながら、私は彼の剣を止める
「ぐ…うぅ…」
「さっきの連中の何人かを庇ったのは貴様だろ?そんな満身創痍で私に敵うと思うのか?」
先ほどの木偶どもの何人かの攻撃を、代わりに防御したり、変わりに受けていた者がいる事は気づいていた
一番強かったそれが誰なのかまで気にも留めなかったが…
「…せめてその傷を癒してから戦え。そうしてからなら、戦ってやる」
そう言って、彼を突き飛ばし気絶させる
彼は一撃で倒れてしまったが、それでも剣は放さないでいた
「ほぅ…」
その状況をみて、私は―――
「久しぶりに、楽しませてくれるかな?」
宝物庫にある治療薬を取りにいく事を考えていた
・・・
「う…うぅん…」
「眼が覚めたか?」
うっすらと眼を開け始めた彼に、私は声を掛ける
掛けた瞬間、警戒を強め剣を取ろうとしたが―――
「つっ!?」
怪我により、持てなかった
「その怪我ではまともに剣が振れんだろうよ。…これを飲め」
そういって、宝物庫で一番質がよかった治療薬を投げてやる
「…魔物の施しなんかいらない」
そう言って、私に突っ返してくる
「人間、恩は受けておいたほうが身のためだぞ」
私が軽く脅しても…
「お前なんかの施しなんか受けない」
逆に殺気を返してくる
―――何という気高さ
―――何という驕り
そんな感情が同時に沸き、久々に愉快になった
「…なにが可笑しいんだ、魔物」
「いや…貴様みたいな人間を見るのが久々でな」
クツクツと浮かび上がってくるこの感情は、中々止められず、私を支配する
「最近は貴様みたいな純粋な戦士を見てなくてな…財宝に眼がくらんだバカ共しか見てないから嬉しいんだよ」
そう言いながら、彼を寝かせているベットに座る
「一つ、聞いていいか?」
彼は無言のままだ
「お前の年齢は、何歳だ?」
「…聞いてどうする」
彼は私を睨み付けながら聞く
「私が村や街、都市を滅ぼしたのは…最後が300年前くらいだからな。貴様がそんな長寿に見えないんだよ」
私は正直に答える
―――最後に街を滅ぼしたのは、正確には378年前
目の前の人間がそんな長寿には到底見えない
人魚の血を使えば別だろうが、そんな気配もない
そもそも、それだけ長寿なら、あんな無駄な戦闘すらしないだろう
私の、本来の姿や特性を知ってるはずなんだから
「…けるな」
と、彼が搾り出すように声を出した
「ふざけるな…俺の故郷を10年前に滅ぼしておいて…」
「10年前か…故郷の街の名は?」
「自分が襲った街の名前もわからないのかよ!?」
そう言いながら、彼は起き上がり、私の胸倉を掴んできた
「10年前…魔物と共存する為に作られた街だ…忘れたなんて言わせない…」
そう言いながら、掴んだまま彼は続ける
「ファルスって街は、お前ら魔物を受け入れる為に立ち上がったのに…お前は…お前は!!」
そう言いながら崩れそうになる自分を何とか抑えている彼
―――その気丈さに感服すら覚え始める
「…ファルス?」
が、それ以上に気になったのが、彼が言った街の名前だった
「ファルス…ファルス…あぁ、あの街か」
「ようやく思い出したか、魔物め…」
その街のことを思い出すと同時に、最後に彼に確認しないといけないことが二つも出来た
「お前は生き残りなのか?」
彼は頷いた
「教団に、引き取られて…」
「名は?」
押し黙るように、彼は何も言わない
「お前の名前だ、無いわけじゃないだろ?」
「…ヴルムだ。ヴルム=リンドクルム」
それを聞いた私は、どんな表情をしただろうか
「そうか…これを飲んで置けよ」
そう言って、私は直ぐにその場から立ち去る
逃げるように、立ち去った
・・・
洞窟の出入り口付近まで来て、私はふと思い出す
―――10年前の、忌まわしい記憶を
〜〜〜〜〜〜
始まりは20年前…
私はここの周辺で住み始めた人間達と魔物達に呼ばれた
「…私に、何のようだ?」
私が凄んで声を掛けると、殆どの魔物と人間が震え上がり、何も言えなくなっていた
「いやぁ、ドラゴンの貴女にお願いがあってきたんだ」
すると、男が私に声をかけた
―――腰の剣に、鎧とマント
見た目から、男は典型的な騎士だった
「これから、新しい街を作るんだが…貴女もそこに住まないか?」
男は、何の躊躇いもなく言い切った
そして、次の言葉も、言い切った
「俺は、皆が笑顔になれるようにする為に、新しい街を作るつもりなんだ。そこには貴女も居てくれると凄く嬉しいと思っている」
「…なぜ、私なんだ?」
「古くからこの地を護っていたドラゴンなのだろ?…そんな奴も、平和に暮せる街にしたいと思ってるからさ」
そう言いながら、周りの人間や魔物を見て、男は言う
「俺達で、新しい街を始めていこう!」
その言葉に、嘘偽りは無かったのだろう
だが、私は―――
「すまないが、私は行かない」
私は、断った
「私は、私達ドラゴンは人間には力の象徴としても見られる事があるだろ?…そんな平和を象徴する街に、私達は似つかわしくない」
その言葉を聞いて、全員が落胆していた
しかし、と私は続ける
「私は約束しよう。お前達が本当に共存できる街を作った時、そしてその街が危険な時には、必ず力を貸そう」
「…ありがとう、ドラゴンよ」
「騎士よ、お前の名は?」
「ジーク…ジーク=リンドクルム。貴女が住める様、平和な街を必ず作ろう」
〜〜〜〜〜〜
―――その言葉に、本当に嘘偽りは無かった
が、偽りを作ってしまったのは、私だった
〜〜〜〜〜〜
「これは…」
10年前のあの日、あまりに惨たらしい光景を目の当たりにさせられた
教団とか言う連中が、あの街を襲っているのだ
それはあまりにも一方的な、蹂躙だった
「やめろぉ!!」
私はその行為を見逃せず、すぐさま昔の姿に戻り、一人でも多くの住民を助ける為飛び回った
飛び回り、助け回ったが…
その助かった中に、ジークの姿は無かった
〜〜〜〜〜〜
あれから10年がたっていた事にヴルムの言葉で思い出させられた
10年―――
人間達からしたら、相当な年月なのだろう
その間、あの子は一体どの様に暮らし、どの様に考えてきたのだろうか
あの子は教団に拾われたと言っていたが、恐らく魔物に街が滅ぼされたと考えるように教育させられたのだろう
「…おい」
と、後ろから声を掛けられた
かけてきたのは…
「ヴルムか…」
私は立ち上がり、振り返る
そこには、先程まで床についていたヴルムが、武器をもちこちらを睨んでいた
「俺を気安く呼ぶな…」
「薬は飲んだらしいな」
ヴルムは黙って頷き、腰にある剣を抜く
剣は2本、両方とも正規の剣よりやや短いが―――
その気からは、倍以上の剣にも見えてくる
「お前ら魔物が、俺の故郷を滅ぼしたんだ…父さんも、母さんも!」
その眼には、私はどう写っているだろうか?
醜悪な魔物?邪悪なドラゴン?
「お前が殺したんだろ!?違うのかよ!?」
そう言いながら、剣を振るうヴルム
「…そうだな。私が殺したような物か」
約束を守れず、助けられなかった
それは―――
「私が、殺したも同然だな」
そう思いながら―――タァン!
何かが破裂したような音を聞き、私は倒れた
・・・
「よくやりましたヴルム!邪悪なドラゴンを追い詰めてくれてありがとう!」
そう言いながら歩いてきたのは、手に何か持った神父風な男だった
後ろから、何人もの人間が付いてくる
「神父様!なぜここに!?」
「貴方がドラゴンに負けたと聞いたからですよ」
そう言いながらヴルムの横に着くその男からは、嫌な懐かしいにおいがした
「貴様…あの時の…」
―――タァン!
また音が何回も聞こえてくる
その度、私の体を何かが貫く
「神父様!?何を「敵は確実に仕留めないといけないでしょう?だから新型の武器の実験をかねてるんですよ」
そういうと、ヴルムに向きかえり、男が続ける
「これは貴方の街を滅ぼした張本人なんですよ?情けなどかける必要ありません」
そう言いながら、男は周りの人間に指示を出す
「宝を持っていくのと、ドラゴンの血を持っていくのを忘れるな!?」
そう言いながら、私に近付いてくる
「あの時は、よくも邪魔をしてくれましたね」
「黙れ…」
私は振り絞って、声を出す
「貴様が…あの街を攻めたんだろうが…」
「え?」
私は、少しでも彼に真実を教えなければならない
「10年前、確かに私は街へ行った…貴様ら教団から守るためにな…」
男は黙り、ヴルムも聞いている
「他の者がその子を育てるのなら構わない…」
なんとか立とうとするが、力が入らない
「だが…貴様がその子に関わるのだけは許さん…許さんぞ!」
「…今更そんな事を」
男がそう漏らす
「し、神父様?…嘘ですよね?俺の故郷を滅ぼしたのは…」
「あぁ、私たちだよ」
そう言いながら、男は手に持った何かをヴルムに向け―――
また撃ち放った
「ヴルムっ!!」
男は小さく、しかし下卑た笑いを上げながら言葉を続ける
「バカなガキだ。貴様の両親の仇の言葉を妄信し、かつて自分を助けようとした者を傷つけているのだからな」
「き…さま…!」
撃たれたヴルムからは血が溢れ、動かないでいる
私は地べたに這い蹲るようにしながら、男を睨む
「そもそも、元々親魔物領の人間だった貴様如きをここまで育てたんだ。感謝こそされても良いが、憎まれたり疑問を持たれる事自体あってはならんのだよ」
そう言って、またヴルムを撃とうとするが…
「じゃあ…俺がしてきた事は…無駄だったのかよ…」
「あ?」
ヴルムのその言葉に、男はまた笑いを上げる
「ハッハッハッハッハッハッ!無駄ではないさ!私を笑わせることができたのだからなぁ!」
その言葉に、私は―――
「いい加減にしろよ、下種が」
完全に、怒りを露にした
・・・
「ほぅ…まだそんな体力が残っていたのか」
怒りに燃える私は、ヴルムを抱き上げ、宙からこいつらを見下ろす
「だが…これを食らってもそんな口を聞けるか!?」
その言葉と共に、一斉に攻撃が放たれた
が―――
「愚かだな、人間ども」
それらは、私に吸収されていった
「ここの歴史を…私のことをきちんと調べなかったのか?」
唖然としているこいつらに、ヴルムに私の血を飲ませながら伝える
「我が名はフォトナ…魔喰らいの光竜フォトナなり!」
その言葉と共に、私は告げる
「私の大切なものを傷つけたのだ…狩り取らせてもらうぞ、貴様らの驕りを!」
ヴルムを床に寝かせ、私は本来の姿へと戻っていく
黒かった髪は、魔力を吸い白銀に
黒かった羽は、再び光を取り戻し
そして―――
本来の姿である、ドラゴンの姿に
・・・
『人間ドモ、二回シカ言ワヌゾ…失セロ』
10年振りだった
この姿になり、再び誰かを守ることになると、夢にも思わなかった
しかし、その感覚が―――
かつて自分がやりきれなかったこの行いが―――
堪らなく、心地よい
『ヴルムヲ置イテ去レ。ソウスレバ見逃シテヤル』
「クックックッ…図に載るなよ化け物!!」
男が私に言い、他の者たちのざわめきも消える
「確かに、魔力が食われるのはわかった。…だが、先程ダメージを食らったのもまた事実!またこれをくれてやるわ!!」
そう言って、先程私を貫いた物を撃ってくる
が―――
『ホゥ…筒ニ魔力ヲ込メテ鉄ヲ打チ出スノカ』
「な…なんだと!?」
その手に握られた物からは鉄が出る事は無かった
『我ノ言葉ヲ忘レタカ、我ハ魔喰ライ』
私が発する一つ一つの言葉に、こいつらは怯え、恐れ―――
『魔力ハ、我ニ喰ワレルノダ』
戦意を失っていく
『二度目ダ…失セロ』
全身の魔力をブレスを吐く事に集中し、全員を脅す
その光景に、他の者達は蜘蛛の子を散らすように逃げていった
「ば、バカな…私は教団のエリートなんだぞ!私に逆らって良いと思ってるのか!?」
そんな戯言をほざきながら、私に武器を向けてくる
「貴様ら魔物は、私達に狩られ「三度目ハ、無イゾ」
耳障りなその声を上げているそれの横に、ブレスを打ち放つ
ブレスは横を通り過ぎ、男の斜め後ろで爆散した
それをみて、男は奇妙な声を上げながら洞窟から出て行った
竜化を解き、私は直ぐにヴルムの元に向かう
ドラゴンの血は生命力を高めることが出来るが、傷を癒してくれるかはわからない
急いで治療薬を飲ませようと思い近付いた
「…」
その時のヴルムの顔は―――死人のようだった
・・・
「俺…なに勘違いしてたんだろうな…」
傷が塞がらないのに、無理に立とうとして、しかし立ち上がれないヴルム
「無理をするな!傷が塞がらないと治らんぞ!」
「俺なんか…治らなくて良いよ…」
その言葉に、血の気が引いた
「勝手に貴女を恨んで…魔物を恨んで…最低じゃないか…」
その眼からは生きようとする意志も消えそうになり、ただ只管後悔しか写っていなかった
「父さんみたいな騎士になろうとしたのに…これじゃあ…」
「諦めるな!!」
私は厳しく叱咤する
「そんな簡単に諦めるな!お前は、間違いに気付けた!それならまたやり直せるだろ!?」
「でも…俺は…」
「私こそ、お前に償なわなければならない」
私は、しっかりヴルムを見て言う
「お前達を守ると言いながら、守れなかった…お前を間違った道に行かせたのは私だ…」
こんなことは初めてだった
震えて、声が出せなく鳴りそうになったのは
「お前の両親を守れず、殺したような物だ…私は…私は!」
堪えきれず、泣き崩れる
ドラゴンの威厳も無く、只管に許しを乞うように
「その後だって、人間と関わって同じ思いをするのを怖がってここに閉じこもったんだ!私は…わたしは…」
「貴女は、なにも悪くない」
ヴルムから零れる、許しの言葉
「俺のせいで…辛い思いをさせてごめんなさい」
「私の辛さなど、お前に比べたら…」
そう言って、私達は―――
〜〜〜
はるか昔、魔力を喰らうドラゴンがいた
ドラゴンの中でも異端なその竜は、普段は黒竜の様に黒く
しかし魔力を喰らうと白竜の様に白くなったそうだ
このドラゴン、他のドラゴン以上に縄張り意識が強く
その縄張りに勝手に入れば殺されるとも言われていた
しかし、このドラゴン
その異端さからずっと一人だったと言われている
そのドラゴンすらも安らかに暮せるようにと奮闘した者達がいた事は
歴史から消されてしまった
〜〜〜
「今更…貴方をどうこう言うつもりはありませんし、貴方を許す事は…」
「それでも、俺は…」
そうヴルムが言っている最中に、扉は閉じられる
「また、だめだったか…」
「だが、お前の誠意は伝わっただろう」
ヴルムの横に付くように、私は傍による
あの事件の後、傷も癒えたヴルムは謝罪の旅に出るといった
自分がしてきた事を、償いたいと言って聞かなかった
そこで私は条件をだした
「…でも、フォトナはよかったの?」
「私も、お前に償わなくてはならないからな」
私と同行する事、そして―――
「それに、お前は私に勝ち、私を娶ったのだぞ?妻を一人にするのか?」
私に勝つ事
「それは…言われるとキツイな…」
ヴルムの全力と私の全力
互いにぶつかり合い、最後に勝ったのは、ヴルムの意地だった
悔しい反面、嬉しくもある
「そもそも、娶る話は聞いて無かったよ?」
「言ってなかったからな」
二人でのどかに話しながら、次の目的地に向かおうとするが―――
「教団だー!教団が攻めてきたぞ!」
その言葉に、ヴルムは二本の剣を抜く
「フォトナ…みんなを頼む。俺は少しでも気を引くから」
「そうは言っても、ここもいつも通り二人でさっさと片付けたほうがラクだと思うぞ?」
そんな軽口を言いながら、私は竜化を始める
「私がいるのに…ここを攻めようとは。その驕り、狩り取らせてもらうぞ!」
その言葉と共に、私は彼を背に乗せ―――
再び守るために飛翔した
他の種族よりも優れた知能と力
圧倒的なまでの魔力、破壊
地上の王者と呼ばれた我々ドラゴン
その中でも、私は特に恐れられていた
恐れられ、崇められ、そして…退屈だった
対決できる人間もいなく、力だけを持て余らせていた
魔王交代の、あの日までは
魔王の交代により、私は脆弱な姿と、人間に対して力を振るえない『呪い』を受けてしまった
が、それでも―――
私は退屈で、孤独だった
・・・
「ば、バケモノめぇ!」
人間のオスが剣を振り上げ、私に切りかかってくる
あまりに遅く、あまりに弱いその剣は、私の手に受け止められ、少し力を入れただけで砕け散った
「こんな物なのか?」
溜息を交えながら、そのオスに言う
「大方、私の宝を奪いに来たんだろ?そのくせその程度の力なのか、人間?」
恐怖に支配され、もはや動けないでいるようだ
まぁ―――
「木偶を何人揃えても、全く意味がないぞ」
30人全員を同じように倒したのだから、仕方ないか
「一回しか言わん…失せろ」
その言葉に、オスどもは蜘蛛の子を散らすように逃げていった
―――あっけない
あまりに脆弱
あまりに腑抜け
そんな脆弱な生き物と共に生きようとする現魔王は何を考えているのだろうか
そんな事を考えながら、後ろから斬りかかろうとする殺気に応戦してやった
「ぐあっ!」
「失せろ、と言った筈だが?」
尻尾で一撃をくれてやり、振り返った先には―――
「…まだ子供の癖に、なにをしているんだ?」
まだオスになりきれていない人間が転がっていた
「う…うるさ…い…」
剣を杖代わりに、なんとか立ち上がる
「他の木偶どもは帰ったんだ。一人でなにも出来んだろ?」
「だ…まれ…ま…魔物が…」
その眼には、他の連中と違い、闘志が死んでいなかった
―――トクン
その眼をみて、私は一瞬止まる
憎しみと重圧、責任感や使命感
これらの感情が入り混じったその眼差しは、私の胸を高鳴らせるのには十分な物だった
―――久しぶりに、骨がある奴が来たようだ
このような強者の原石、現魔王になってから見ていなかった為、久々に心が躍りそうになっていた
「…その傷で、私に敵うとでも?」
「関係…ない!俺は…忘れ…て…ないぞ!」
無理して剣を構え、続ける
「俺の…故郷を…滅ぼした貴様を!!」
「…は?」
「もん…ど…う、むよう!」
そのまま剣を担ぐようにしながら突進をしてくるその姿は、久しぶりに感じる戦いの感覚を消し去るには十分な、しかししっかりとした戦闘の意思だけは見られる物だった
「…弱い」
そう言いながら、私は彼の剣を止める
「ぐ…うぅ…」
「さっきの連中の何人かを庇ったのは貴様だろ?そんな満身創痍で私に敵うと思うのか?」
先ほどの木偶どもの何人かの攻撃を、代わりに防御したり、変わりに受けていた者がいる事は気づいていた
一番強かったそれが誰なのかまで気にも留めなかったが…
「…せめてその傷を癒してから戦え。そうしてからなら、戦ってやる」
そう言って、彼を突き飛ばし気絶させる
彼は一撃で倒れてしまったが、それでも剣は放さないでいた
「ほぅ…」
その状況をみて、私は―――
「久しぶりに、楽しませてくれるかな?」
宝物庫にある治療薬を取りにいく事を考えていた
・・・
「う…うぅん…」
「眼が覚めたか?」
うっすらと眼を開け始めた彼に、私は声を掛ける
掛けた瞬間、警戒を強め剣を取ろうとしたが―――
「つっ!?」
怪我により、持てなかった
「その怪我ではまともに剣が振れんだろうよ。…これを飲め」
そういって、宝物庫で一番質がよかった治療薬を投げてやる
「…魔物の施しなんかいらない」
そう言って、私に突っ返してくる
「人間、恩は受けておいたほうが身のためだぞ」
私が軽く脅しても…
「お前なんかの施しなんか受けない」
逆に殺気を返してくる
―――何という気高さ
―――何という驕り
そんな感情が同時に沸き、久々に愉快になった
「…なにが可笑しいんだ、魔物」
「いや…貴様みたいな人間を見るのが久々でな」
クツクツと浮かび上がってくるこの感情は、中々止められず、私を支配する
「最近は貴様みたいな純粋な戦士を見てなくてな…財宝に眼がくらんだバカ共しか見てないから嬉しいんだよ」
そう言いながら、彼を寝かせているベットに座る
「一つ、聞いていいか?」
彼は無言のままだ
「お前の年齢は、何歳だ?」
「…聞いてどうする」
彼は私を睨み付けながら聞く
「私が村や街、都市を滅ぼしたのは…最後が300年前くらいだからな。貴様がそんな長寿に見えないんだよ」
私は正直に答える
―――最後に街を滅ぼしたのは、正確には378年前
目の前の人間がそんな長寿には到底見えない
人魚の血を使えば別だろうが、そんな気配もない
そもそも、それだけ長寿なら、あんな無駄な戦闘すらしないだろう
私の、本来の姿や特性を知ってるはずなんだから
「…けるな」
と、彼が搾り出すように声を出した
「ふざけるな…俺の故郷を10年前に滅ぼしておいて…」
「10年前か…故郷の街の名は?」
「自分が襲った街の名前もわからないのかよ!?」
そう言いながら、彼は起き上がり、私の胸倉を掴んできた
「10年前…魔物と共存する為に作られた街だ…忘れたなんて言わせない…」
そう言いながら、掴んだまま彼は続ける
「ファルスって街は、お前ら魔物を受け入れる為に立ち上がったのに…お前は…お前は!!」
そう言いながら崩れそうになる自分を何とか抑えている彼
―――その気丈さに感服すら覚え始める
「…ファルス?」
が、それ以上に気になったのが、彼が言った街の名前だった
「ファルス…ファルス…あぁ、あの街か」
「ようやく思い出したか、魔物め…」
その街のことを思い出すと同時に、最後に彼に確認しないといけないことが二つも出来た
「お前は生き残りなのか?」
彼は頷いた
「教団に、引き取られて…」
「名は?」
押し黙るように、彼は何も言わない
「お前の名前だ、無いわけじゃないだろ?」
「…ヴルムだ。ヴルム=リンドクルム」
それを聞いた私は、どんな表情をしただろうか
「そうか…これを飲んで置けよ」
そう言って、私は直ぐにその場から立ち去る
逃げるように、立ち去った
・・・
洞窟の出入り口付近まで来て、私はふと思い出す
―――10年前の、忌まわしい記憶を
〜〜〜〜〜〜
始まりは20年前…
私はここの周辺で住み始めた人間達と魔物達に呼ばれた
「…私に、何のようだ?」
私が凄んで声を掛けると、殆どの魔物と人間が震え上がり、何も言えなくなっていた
「いやぁ、ドラゴンの貴女にお願いがあってきたんだ」
すると、男が私に声をかけた
―――腰の剣に、鎧とマント
見た目から、男は典型的な騎士だった
「これから、新しい街を作るんだが…貴女もそこに住まないか?」
男は、何の躊躇いもなく言い切った
そして、次の言葉も、言い切った
「俺は、皆が笑顔になれるようにする為に、新しい街を作るつもりなんだ。そこには貴女も居てくれると凄く嬉しいと思っている」
「…なぜ、私なんだ?」
「古くからこの地を護っていたドラゴンなのだろ?…そんな奴も、平和に暮せる街にしたいと思ってるからさ」
そう言いながら、周りの人間や魔物を見て、男は言う
「俺達で、新しい街を始めていこう!」
その言葉に、嘘偽りは無かったのだろう
だが、私は―――
「すまないが、私は行かない」
私は、断った
「私は、私達ドラゴンは人間には力の象徴としても見られる事があるだろ?…そんな平和を象徴する街に、私達は似つかわしくない」
その言葉を聞いて、全員が落胆していた
しかし、と私は続ける
「私は約束しよう。お前達が本当に共存できる街を作った時、そしてその街が危険な時には、必ず力を貸そう」
「…ありがとう、ドラゴンよ」
「騎士よ、お前の名は?」
「ジーク…ジーク=リンドクルム。貴女が住める様、平和な街を必ず作ろう」
〜〜〜〜〜〜
―――その言葉に、本当に嘘偽りは無かった
が、偽りを作ってしまったのは、私だった
〜〜〜〜〜〜
「これは…」
10年前のあの日、あまりに惨たらしい光景を目の当たりにさせられた
教団とか言う連中が、あの街を襲っているのだ
それはあまりにも一方的な、蹂躙だった
「やめろぉ!!」
私はその行為を見逃せず、すぐさま昔の姿に戻り、一人でも多くの住民を助ける為飛び回った
飛び回り、助け回ったが…
その助かった中に、ジークの姿は無かった
〜〜〜〜〜〜
あれから10年がたっていた事にヴルムの言葉で思い出させられた
10年―――
人間達からしたら、相当な年月なのだろう
その間、あの子は一体どの様に暮らし、どの様に考えてきたのだろうか
あの子は教団に拾われたと言っていたが、恐らく魔物に街が滅ぼされたと考えるように教育させられたのだろう
「…おい」
と、後ろから声を掛けられた
かけてきたのは…
「ヴルムか…」
私は立ち上がり、振り返る
そこには、先程まで床についていたヴルムが、武器をもちこちらを睨んでいた
「俺を気安く呼ぶな…」
「薬は飲んだらしいな」
ヴルムは黙って頷き、腰にある剣を抜く
剣は2本、両方とも正規の剣よりやや短いが―――
その気からは、倍以上の剣にも見えてくる
「お前ら魔物が、俺の故郷を滅ぼしたんだ…父さんも、母さんも!」
その眼には、私はどう写っているだろうか?
醜悪な魔物?邪悪なドラゴン?
「お前が殺したんだろ!?違うのかよ!?」
そう言いながら、剣を振るうヴルム
「…そうだな。私が殺したような物か」
約束を守れず、助けられなかった
それは―――
「私が、殺したも同然だな」
そう思いながら―――タァン!
何かが破裂したような音を聞き、私は倒れた
・・・
「よくやりましたヴルム!邪悪なドラゴンを追い詰めてくれてありがとう!」
そう言いながら歩いてきたのは、手に何か持った神父風な男だった
後ろから、何人もの人間が付いてくる
「神父様!なぜここに!?」
「貴方がドラゴンに負けたと聞いたからですよ」
そう言いながらヴルムの横に着くその男からは、嫌な懐かしいにおいがした
「貴様…あの時の…」
―――タァン!
また音が何回も聞こえてくる
その度、私の体を何かが貫く
「神父様!?何を「敵は確実に仕留めないといけないでしょう?だから新型の武器の実験をかねてるんですよ」
そういうと、ヴルムに向きかえり、男が続ける
「これは貴方の街を滅ぼした張本人なんですよ?情けなどかける必要ありません」
そう言いながら、男は周りの人間に指示を出す
「宝を持っていくのと、ドラゴンの血を持っていくのを忘れるな!?」
そう言いながら、私に近付いてくる
「あの時は、よくも邪魔をしてくれましたね」
「黙れ…」
私は振り絞って、声を出す
「貴様が…あの街を攻めたんだろうが…」
「え?」
私は、少しでも彼に真実を教えなければならない
「10年前、確かに私は街へ行った…貴様ら教団から守るためにな…」
男は黙り、ヴルムも聞いている
「他の者がその子を育てるのなら構わない…」
なんとか立とうとするが、力が入らない
「だが…貴様がその子に関わるのだけは許さん…許さんぞ!」
「…今更そんな事を」
男がそう漏らす
「し、神父様?…嘘ですよね?俺の故郷を滅ぼしたのは…」
「あぁ、私たちだよ」
そう言いながら、男は手に持った何かをヴルムに向け―――
また撃ち放った
「ヴルムっ!!」
男は小さく、しかし下卑た笑いを上げながら言葉を続ける
「バカなガキだ。貴様の両親の仇の言葉を妄信し、かつて自分を助けようとした者を傷つけているのだからな」
「き…さま…!」
撃たれたヴルムからは血が溢れ、動かないでいる
私は地べたに這い蹲るようにしながら、男を睨む
「そもそも、元々親魔物領の人間だった貴様如きをここまで育てたんだ。感謝こそされても良いが、憎まれたり疑問を持たれる事自体あってはならんのだよ」
そう言って、またヴルムを撃とうとするが…
「じゃあ…俺がしてきた事は…無駄だったのかよ…」
「あ?」
ヴルムのその言葉に、男はまた笑いを上げる
「ハッハッハッハッハッハッ!無駄ではないさ!私を笑わせることができたのだからなぁ!」
その言葉に、私は―――
「いい加減にしろよ、下種が」
完全に、怒りを露にした
・・・
「ほぅ…まだそんな体力が残っていたのか」
怒りに燃える私は、ヴルムを抱き上げ、宙からこいつらを見下ろす
「だが…これを食らってもそんな口を聞けるか!?」
その言葉と共に、一斉に攻撃が放たれた
が―――
「愚かだな、人間ども」
それらは、私に吸収されていった
「ここの歴史を…私のことをきちんと調べなかったのか?」
唖然としているこいつらに、ヴルムに私の血を飲ませながら伝える
「我が名はフォトナ…魔喰らいの光竜フォトナなり!」
その言葉と共に、私は告げる
「私の大切なものを傷つけたのだ…狩り取らせてもらうぞ、貴様らの驕りを!」
ヴルムを床に寝かせ、私は本来の姿へと戻っていく
黒かった髪は、魔力を吸い白銀に
黒かった羽は、再び光を取り戻し
そして―――
本来の姿である、ドラゴンの姿に
・・・
『人間ドモ、二回シカ言ワヌゾ…失セロ』
10年振りだった
この姿になり、再び誰かを守ることになると、夢にも思わなかった
しかし、その感覚が―――
かつて自分がやりきれなかったこの行いが―――
堪らなく、心地よい
『ヴルムヲ置イテ去レ。ソウスレバ見逃シテヤル』
「クックックッ…図に載るなよ化け物!!」
男が私に言い、他の者たちのざわめきも消える
「確かに、魔力が食われるのはわかった。…だが、先程ダメージを食らったのもまた事実!またこれをくれてやるわ!!」
そう言って、先程私を貫いた物を撃ってくる
が―――
『ホゥ…筒ニ魔力ヲ込メテ鉄ヲ打チ出スノカ』
「な…なんだと!?」
その手に握られた物からは鉄が出る事は無かった
『我ノ言葉ヲ忘レタカ、我ハ魔喰ライ』
私が発する一つ一つの言葉に、こいつらは怯え、恐れ―――
『魔力ハ、我ニ喰ワレルノダ』
戦意を失っていく
『二度目ダ…失セロ』
全身の魔力をブレスを吐く事に集中し、全員を脅す
その光景に、他の者達は蜘蛛の子を散らすように逃げていった
「ば、バカな…私は教団のエリートなんだぞ!私に逆らって良いと思ってるのか!?」
そんな戯言をほざきながら、私に武器を向けてくる
「貴様ら魔物は、私達に狩られ「三度目ハ、無イゾ」
耳障りなその声を上げているそれの横に、ブレスを打ち放つ
ブレスは横を通り過ぎ、男の斜め後ろで爆散した
それをみて、男は奇妙な声を上げながら洞窟から出て行った
竜化を解き、私は直ぐにヴルムの元に向かう
ドラゴンの血は生命力を高めることが出来るが、傷を癒してくれるかはわからない
急いで治療薬を飲ませようと思い近付いた
「…」
その時のヴルムの顔は―――死人のようだった
・・・
「俺…なに勘違いしてたんだろうな…」
傷が塞がらないのに、無理に立とうとして、しかし立ち上がれないヴルム
「無理をするな!傷が塞がらないと治らんぞ!」
「俺なんか…治らなくて良いよ…」
その言葉に、血の気が引いた
「勝手に貴女を恨んで…魔物を恨んで…最低じゃないか…」
その眼からは生きようとする意志も消えそうになり、ただ只管後悔しか写っていなかった
「父さんみたいな騎士になろうとしたのに…これじゃあ…」
「諦めるな!!」
私は厳しく叱咤する
「そんな簡単に諦めるな!お前は、間違いに気付けた!それならまたやり直せるだろ!?」
「でも…俺は…」
「私こそ、お前に償なわなければならない」
私は、しっかりヴルムを見て言う
「お前達を守ると言いながら、守れなかった…お前を間違った道に行かせたのは私だ…」
こんなことは初めてだった
震えて、声が出せなく鳴りそうになったのは
「お前の両親を守れず、殺したような物だ…私は…私は!」
堪えきれず、泣き崩れる
ドラゴンの威厳も無く、只管に許しを乞うように
「その後だって、人間と関わって同じ思いをするのを怖がってここに閉じこもったんだ!私は…わたしは…」
「貴女は、なにも悪くない」
ヴルムから零れる、許しの言葉
「俺のせいで…辛い思いをさせてごめんなさい」
「私の辛さなど、お前に比べたら…」
そう言って、私達は―――
〜〜〜
はるか昔、魔力を喰らうドラゴンがいた
ドラゴンの中でも異端なその竜は、普段は黒竜の様に黒く
しかし魔力を喰らうと白竜の様に白くなったそうだ
このドラゴン、他のドラゴン以上に縄張り意識が強く
その縄張りに勝手に入れば殺されるとも言われていた
しかし、このドラゴン
その異端さからずっと一人だったと言われている
そのドラゴンすらも安らかに暮せるようにと奮闘した者達がいた事は
歴史から消されてしまった
〜〜〜
「今更…貴方をどうこう言うつもりはありませんし、貴方を許す事は…」
「それでも、俺は…」
そうヴルムが言っている最中に、扉は閉じられる
「また、だめだったか…」
「だが、お前の誠意は伝わっただろう」
ヴルムの横に付くように、私は傍による
あの事件の後、傷も癒えたヴルムは謝罪の旅に出るといった
自分がしてきた事を、償いたいと言って聞かなかった
そこで私は条件をだした
「…でも、フォトナはよかったの?」
「私も、お前に償わなくてはならないからな」
私と同行する事、そして―――
「それに、お前は私に勝ち、私を娶ったのだぞ?妻を一人にするのか?」
私に勝つ事
「それは…言われるとキツイな…」
ヴルムの全力と私の全力
互いにぶつかり合い、最後に勝ったのは、ヴルムの意地だった
悔しい反面、嬉しくもある
「そもそも、娶る話は聞いて無かったよ?」
「言ってなかったからな」
二人でのどかに話しながら、次の目的地に向かおうとするが―――
「教団だー!教団が攻めてきたぞ!」
その言葉に、ヴルムは二本の剣を抜く
「フォトナ…みんなを頼む。俺は少しでも気を引くから」
「そうは言っても、ここもいつも通り二人でさっさと片付けたほうがラクだと思うぞ?」
そんな軽口を言いながら、私は竜化を始める
「私がいるのに…ここを攻めようとは。その驕り、狩り取らせてもらうぞ!」
その言葉と共に、私は彼を背に乗せ―――
再び守るために飛翔した
12/01/11 00:12更新 / ネームレス