特別編
俺は、一人カウンターで考える
―――レイは、元気なのかな?
カウンターで飲んでいたワインにまた口をつけ、物思いにふける
「―――君?大丈夫かい?」
と、行きつけのお店のオーナーであり、シェフの人が、俺に声を掛ける
「なんか、思う事でもあるのかい?」
「あー…なんて言うか…好きな人の事を考えてた、かな?」
思い出すのは、あのケンタウロスの女性
なぜ惹かれたのかわからないが、彼女の事が忘れられない
彼女を忘れた方がラクなのはわかりきった事なのに…
「ほう!ついに春到来かな!?」
「そんな事には…ならないよ…」
俺はうな垂れながら、はっきりと答える
「向こうに行きたくても行けないし、それに…」
と、ここから先は言うのをやめる
―――アレスに対して妬みなんて、俺はなに最低な事言おうとしてんだよ
「…根が深そうだねぇ。話してみなよ?」
「…言っても信じられないと思うよ」
そう、普通物語の登場人物に会ったり、その世界に行ったりなんてしない
しないが…
「レイ…」
彼女が置いていってくれた、お守り
これだけが彼女と俺を繋ぐ、唯一の証明
「レイちゃんって子が好きなのかい?」
「…シェフ、今から言う事を信じてくれるかな?」
シェフは、黙って頷いてくれた
「…信じようと、信じまいと」
俺は、あの出来事を始めて人に話した
―――俺得物語フォースEX〜聖なる夜の小さな奇跡〜―――
「…普通、信じられないよ」
そうシェフは言う
「俺もそう思う。でも、俺には真実なんだ」
そう言うと、俺はワインを一気飲みする
―――勿体無い飲み方なのは解ってるが、やめられなかった
「レイから一杯いろんな物貰ったけど…それでも!彼女と会いたいし!彼女を感じたいんだよ!!」
みっともない、俺の叫び
閉店間際にきて、こんな客の接客をしてくれるシェフには感謝しきれないが、今はそれすら出来ない
「君にとっては、レイって子は、本当に大切なんだね?」
俺は頷く
「だったら…この時間まで君を残してよかったよ」
その言葉の直後だろうか?
閉店した店に入ってくる、一組のお客さん
「あ…」
俺は知っていた
「おや、久しぶりだね」
「あなた、元気にしてた?」
その二人は―――
「あの時の修繕屋さん!?」
俺が探していた、二人でもあったのだから
・・・
席を移動し、この夫婦の前に座る
「このお店には、この時間に来るんだ。…妻が本来の姿で居やすいようにね」
夫の方がそれをいうと、奥さんの方はサキュバスのまんまの姿をしていた
「君には悪いんだけど…君の事情も半分くらいは知ってるんだ」
シェフがそう言いながら、ワインを注いでくれる
「これはサービスだから、ゆっくり話をすると良いよ」
そういうと、奥に行って調理を始めるシェフ
「に、しても…」
と、奥さんの方が言う
「あなた、随分あの子に入れ込んでるのね」
「…です、ね」
「あの後私達の事も含めて思い出して、探し続けてるのあなた位よ?」
その言葉を聞き、改めて思い出す
―――また、レイが覚えてくれてるとは限らない
それに、アレスって夫がいるのに付き纏って…ストーカーじゃないか、これ
「そこまで一途に人を思い続ける事が出来るなんて、今時珍しいよ、君」
夫の方がその言葉を言うが、俺はそれを褒められてると思えなかった
―――やっぱ、気持ち悪いよな
そう思い、彼らにあったら頼もうと思った事を心にしまおうとした時だった
「貴方の思いって、その程度なの?」
奥さんが突然言う
「貴方にとって、レイはその程度の子なの?」
「違う…」
「でも、諦めようとしたわよね?」
その言葉に、胸が痛む
「彼女に夫は要るけど、貴方だって彼女が好きなんでしょ?伝えないの?」
「わかった風に言うなよ!!」
瞬間、俺の感情が爆発した
「諦めたくないよ!俺だってレイの事を愛してるんだ!!でも、現実行く事も出来ない上に、夫がいる女性にこんな思いを伝えたって、向こうに迷惑掛かるだけじゃねーかよ!!」
肩で息をしながら、俺は続ける
「それに情けない話、俺にはレイを振り向かせる魅力なんて…」
その後が続かない
出したくない、出てきてほしくない
息が詰まりそうな中、夫が言葉を言う
「それは、君から見た『君』だろう?」
彼は更に言葉を続ける
「僕から見たら、少なくとも君は人を一途に思える、素晴らしい人だと思うよ?…行動力もあって、少し猪突猛進過ぎな位だけど」
「それに、きちんと思いを言えるじゃない」
奥さんが続ける
「変に着飾らなくても、本心をぶつける事は大事よ」
その言葉を聞いても、俺は…
「自信が出ないみたいだけど、そんな余裕あるかしら?」
そういって、奥さんが水晶を取り出す
幻想の水晶―――
レイがこの世界に来た、始まりのきっかけ
それの中に、映像が見えた
―――島が、リザやルーが襲われている、悪夢のような映像
―――そんな中、レイが
「レイ!?」
レイが、襲われている、映像
「レイ!?そんな、アレスは!?」
俺はパニックになった
こんな話、更新されていない
こんな事、ありえるはずがないのに!?
「このままだと彼女達…」
やめてくれ
「まちがいなく、死ぬわよ」
「そんな…」
俺は崩れそうになるのを抑え、どうにかしようと考える
考えて―――一つだけ、不確かな方法を思いついた
が、それを決行したら、間違いなく俺は―――
「くそっ!?なんでこんなところで怖がるんだよ…」
俺は、この世界に帰って来れなくなるし、死ぬ可能性があるだろう
けど、俺には―――
「俺は、俺は…レイを助けたいんだぁ!!」
瞬間、水晶が光り始めた
「その水晶、不確かな物で作られてるけど!」
夫の方が、大声で言ってくれる
「不確かな物でも、見方によっては確かにあるんだよ!今の君みたいにね!」
その瞬間、どういう意味かようやく解った
「その水晶!貴方の思いから作られたものよ!!気持ちを確かに持って!!」
奥さんの言葉が、確かに届く
「貴女は、彼女を幸せにしたいんでしょ!?」
「俺は―――」
言おうとした瞬間、光が周りを包み―――
俺は、この世界から消えた
〜〜〜
「…はい、前菜だよ」
シェフと呼ばれた男性が、二人にコースの前菜を持ってくる
「なんか光が零れていたけど、大丈夫かい?」
「まさか結界を壊しかねない位の感情とは、ね」
夫の方が言う
「結界を張って、少し感情を出しやすくしたんだけど…これほどとはね」
「あら?貴方の感情の方がずっと強いわよ?」
妻がそういうと、夫はその発言に言う
「感情に上下なんてない、だろ?…君が僕に教えたんじゃないか?」
「そうだけど…夫贔屓したいのよ」
「惚気てもいいけど、俺は一人身なんだぞ〜?」
シェフはそう言いながらも、嬉しそうにワインをあける
「常連が一人居なくなったけど、俺は覚えていてあげないとな」
「…彼には、酷な事もしたと思う」
夫が悲しそうにそういうと、妻が反論した
「それはないわよ。…あれだけ感情を爆発させれたんだから大丈夫」
そう言いながら、三人の小さな宴は続く
一人の人間が旅立った事を祝いながら
〜〜〜
眼が覚めたら、そこは森の中でした
なんて経験は実際にするもんじゃないと心から思った
―――体中が痛い
が、この森は見た事があった
起きて少しぼんやりする頭を覚醒させ―――
「レイ!?」
俺は直ぐに走り出す
ヴェンが住むあの城のほうに向かって只管走る
途中こけそうになるが無視
只管、只管走る
彼らの住居の近くにきて、ふと眼に入る
「ロイス君!」
「え?」
そこには、ラージマウスの女性と一緒に歩いていた少年―――世話になったロイス君がいた
「無事だったのか!?レイや他の人は!?」
俺は彼に掴みかかるように、問い詰める
「ち、ちょっと!?あんたなんなのさ!?」
と、ラージマウスの女性―――ラズが俺を引き離す
「あんた、一体なんな「あなたは!?」
と、ラズが言うのを遮って、ロイス君が言う
「ネームレスさん!?いつ戻ったんですか!?」
「え?ロイス?」
ラズが良く解らないと言った感じだが、ロイス君が俺を忘れてなかったのは、不幸中の幸いだ
「俺の事は良いから、レイは!?」
「あ、えっと…食堂に…」
「解った!!」
瞬間、俺は走り出す
レイの無事を祈りながら、只管走る
だからこそ、この違和感に気付かなかった
「なんで、あんなに焦ってるんだろ?」
「さぁ?」
―――この二人が、平和に歩いてる違和感に
・・・
建物に入って直ぐ、俺は食堂に向かう
思いっきり走って、思いっきりあける
「な、何事だ!?」
と、中には―――
「ヴェン!無事だったんだね!?」
ヴェンとルーとリザ、そして―――
「レ、レス…?」
俺がなんとしても会いたかった人が、愛しの女性が―――
「レイ!!」
レイがそこにいた
「無事だったんだね!?よかった!!」
彼女に近付きながら、歩を緩め始める
「いや…レス君?」
ヴェンが食事を途中に、俺に言う
「無事とは、何の事だね?」
「は?」
瞬間、俺は色々な違和感に気付き始めた
そもそも襲撃されてるなら、なんであの非戦闘員の二人がゆっくりしてる?
なんで、ここでリザやルーがご飯を食べてる?
なんで、ヴェンが穏やかにパンを食べてる?
「…あれ?」
「レス…まず落ち着いてご飯食べよう?」
レイの言葉に、なすがままに俺は席に付いた
・・・
「ここが襲撃されてる!?」
ヴェンに、さっきまで見た光景の事、ここ来た方法を伝えた
「そんな事は無かったから、安心してくれ」
「…色々すみません」
顔が熱い
本気で恥ずかしい
「しかし…またここに来るとは…」
「…どうしても、伝えたい事がありましたから」
もう二度と戻れないだろうけど、とは言わない
その時にはその時で、どこかでなんとかして生きれば良い
そう考えていた時だった
「君は…無茶をするね」
ヴェンは微笑みながら俺に言う
「後は、当人同士で話して貰おう」
そういうと、彼は立ち、部屋からでる
入れ違いに、レイが入ってくる
ヴェンがなにか二、三言言うと、部屋から出て行った
「レス…」
「レイ」
俺は立ち上がりながら、彼女に近付く
「君に、伝えたいことがあってきたんだ」
「うん…」
「その為に、それなりに格好つけてきたつもりだけど、笑わないでほしい」
「いや…似合ってるぞ」
クリスマスということで、普段より良いカッコ―――普段着の上に、黒のお気に入りのコートを着ただけだが―――でよかったと、今ほど思ったことはない
「ありがとう…」
沈黙が場を支配する
いざ言おうとすると、まるで言葉が出てこない
息がつまり、何を言いたかったのかわからなくなる
深呼吸をしようとしても、上手くいかない
と、レイが近付いてきてくれて―――
「大丈夫だ。私は居なくならないから、落ち着いて…」
そっと、抱き締めてくれる
そのちょっとした温もりが、彼女の優しさが―――
懐かしく、忘れられなくて―――
「君が好きだ」
この言葉を、すんなり出させてくれた
「君が好きで仕方なかった。…夫がいる君にこんな事言うのは迷惑かもしれないけど、伝えたかったんだ」
俺は一息ついてから、続ける
「ワガママだけど、君と一緒にいたい。だから…」
その言葉の先は出てこなかった
「レス…本当に、私を?」
レイの声が震えている
これは喜び?それとも悲しみ?
解らないけど、俺は正直に答える
「レイ以外なんて見えない。レイ以外と添い遂げたくない」
自然と、彼女を抱き締める力が増す
「君のためなら…レイを幸せにする為なら…俺は、頑張れるしどんなことでも出来るから」
彼女が泣いている
涙を拭う
拭って、そのまま彼女を見やる
「俺は、レイといてもいいですか?」
レイは泣きながら、でも笑顔を作ってくれて―――
―――レイは、元気なのかな?
カウンターで飲んでいたワインにまた口をつけ、物思いにふける
「―――君?大丈夫かい?」
と、行きつけのお店のオーナーであり、シェフの人が、俺に声を掛ける
「なんか、思う事でもあるのかい?」
「あー…なんて言うか…好きな人の事を考えてた、かな?」
思い出すのは、あのケンタウロスの女性
なぜ惹かれたのかわからないが、彼女の事が忘れられない
彼女を忘れた方がラクなのはわかりきった事なのに…
「ほう!ついに春到来かな!?」
「そんな事には…ならないよ…」
俺はうな垂れながら、はっきりと答える
「向こうに行きたくても行けないし、それに…」
と、ここから先は言うのをやめる
―――アレスに対して妬みなんて、俺はなに最低な事言おうとしてんだよ
「…根が深そうだねぇ。話してみなよ?」
「…言っても信じられないと思うよ」
そう、普通物語の登場人物に会ったり、その世界に行ったりなんてしない
しないが…
「レイ…」
彼女が置いていってくれた、お守り
これだけが彼女と俺を繋ぐ、唯一の証明
「レイちゃんって子が好きなのかい?」
「…シェフ、今から言う事を信じてくれるかな?」
シェフは、黙って頷いてくれた
「…信じようと、信じまいと」
俺は、あの出来事を始めて人に話した
―――俺得物語フォースEX〜聖なる夜の小さな奇跡〜―――
「…普通、信じられないよ」
そうシェフは言う
「俺もそう思う。でも、俺には真実なんだ」
そう言うと、俺はワインを一気飲みする
―――勿体無い飲み方なのは解ってるが、やめられなかった
「レイから一杯いろんな物貰ったけど…それでも!彼女と会いたいし!彼女を感じたいんだよ!!」
みっともない、俺の叫び
閉店間際にきて、こんな客の接客をしてくれるシェフには感謝しきれないが、今はそれすら出来ない
「君にとっては、レイって子は、本当に大切なんだね?」
俺は頷く
「だったら…この時間まで君を残してよかったよ」
その言葉の直後だろうか?
閉店した店に入ってくる、一組のお客さん
「あ…」
俺は知っていた
「おや、久しぶりだね」
「あなた、元気にしてた?」
その二人は―――
「あの時の修繕屋さん!?」
俺が探していた、二人でもあったのだから
・・・
席を移動し、この夫婦の前に座る
「このお店には、この時間に来るんだ。…妻が本来の姿で居やすいようにね」
夫の方がそれをいうと、奥さんの方はサキュバスのまんまの姿をしていた
「君には悪いんだけど…君の事情も半分くらいは知ってるんだ」
シェフがそう言いながら、ワインを注いでくれる
「これはサービスだから、ゆっくり話をすると良いよ」
そういうと、奥に行って調理を始めるシェフ
「に、しても…」
と、奥さんの方が言う
「あなた、随分あの子に入れ込んでるのね」
「…です、ね」
「あの後私達の事も含めて思い出して、探し続けてるのあなた位よ?」
その言葉を聞き、改めて思い出す
―――また、レイが覚えてくれてるとは限らない
それに、アレスって夫がいるのに付き纏って…ストーカーじゃないか、これ
「そこまで一途に人を思い続ける事が出来るなんて、今時珍しいよ、君」
夫の方がその言葉を言うが、俺はそれを褒められてると思えなかった
―――やっぱ、気持ち悪いよな
そう思い、彼らにあったら頼もうと思った事を心にしまおうとした時だった
「貴方の思いって、その程度なの?」
奥さんが突然言う
「貴方にとって、レイはその程度の子なの?」
「違う…」
「でも、諦めようとしたわよね?」
その言葉に、胸が痛む
「彼女に夫は要るけど、貴方だって彼女が好きなんでしょ?伝えないの?」
「わかった風に言うなよ!!」
瞬間、俺の感情が爆発した
「諦めたくないよ!俺だってレイの事を愛してるんだ!!でも、現実行く事も出来ない上に、夫がいる女性にこんな思いを伝えたって、向こうに迷惑掛かるだけじゃねーかよ!!」
肩で息をしながら、俺は続ける
「それに情けない話、俺にはレイを振り向かせる魅力なんて…」
その後が続かない
出したくない、出てきてほしくない
息が詰まりそうな中、夫が言葉を言う
「それは、君から見た『君』だろう?」
彼は更に言葉を続ける
「僕から見たら、少なくとも君は人を一途に思える、素晴らしい人だと思うよ?…行動力もあって、少し猪突猛進過ぎな位だけど」
「それに、きちんと思いを言えるじゃない」
奥さんが続ける
「変に着飾らなくても、本心をぶつける事は大事よ」
その言葉を聞いても、俺は…
「自信が出ないみたいだけど、そんな余裕あるかしら?」
そういって、奥さんが水晶を取り出す
幻想の水晶―――
レイがこの世界に来た、始まりのきっかけ
それの中に、映像が見えた
―――島が、リザやルーが襲われている、悪夢のような映像
―――そんな中、レイが
「レイ!?」
レイが、襲われている、映像
「レイ!?そんな、アレスは!?」
俺はパニックになった
こんな話、更新されていない
こんな事、ありえるはずがないのに!?
「このままだと彼女達…」
やめてくれ
「まちがいなく、死ぬわよ」
「そんな…」
俺は崩れそうになるのを抑え、どうにかしようと考える
考えて―――一つだけ、不確かな方法を思いついた
が、それを決行したら、間違いなく俺は―――
「くそっ!?なんでこんなところで怖がるんだよ…」
俺は、この世界に帰って来れなくなるし、死ぬ可能性があるだろう
けど、俺には―――
「俺は、俺は…レイを助けたいんだぁ!!」
瞬間、水晶が光り始めた
「その水晶、不確かな物で作られてるけど!」
夫の方が、大声で言ってくれる
「不確かな物でも、見方によっては確かにあるんだよ!今の君みたいにね!」
その瞬間、どういう意味かようやく解った
「その水晶!貴方の思いから作られたものよ!!気持ちを確かに持って!!」
奥さんの言葉が、確かに届く
「貴女は、彼女を幸せにしたいんでしょ!?」
「俺は―――」
言おうとした瞬間、光が周りを包み―――
俺は、この世界から消えた
〜〜〜
「…はい、前菜だよ」
シェフと呼ばれた男性が、二人にコースの前菜を持ってくる
「なんか光が零れていたけど、大丈夫かい?」
「まさか結界を壊しかねない位の感情とは、ね」
夫の方が言う
「結界を張って、少し感情を出しやすくしたんだけど…これほどとはね」
「あら?貴方の感情の方がずっと強いわよ?」
妻がそういうと、夫はその発言に言う
「感情に上下なんてない、だろ?…君が僕に教えたんじゃないか?」
「そうだけど…夫贔屓したいのよ」
「惚気てもいいけど、俺は一人身なんだぞ〜?」
シェフはそう言いながらも、嬉しそうにワインをあける
「常連が一人居なくなったけど、俺は覚えていてあげないとな」
「…彼には、酷な事もしたと思う」
夫が悲しそうにそういうと、妻が反論した
「それはないわよ。…あれだけ感情を爆発させれたんだから大丈夫」
そう言いながら、三人の小さな宴は続く
一人の人間が旅立った事を祝いながら
〜〜〜
眼が覚めたら、そこは森の中でした
なんて経験は実際にするもんじゃないと心から思った
―――体中が痛い
が、この森は見た事があった
起きて少しぼんやりする頭を覚醒させ―――
「レイ!?」
俺は直ぐに走り出す
ヴェンが住むあの城のほうに向かって只管走る
途中こけそうになるが無視
只管、只管走る
彼らの住居の近くにきて、ふと眼に入る
「ロイス君!」
「え?」
そこには、ラージマウスの女性と一緒に歩いていた少年―――世話になったロイス君がいた
「無事だったのか!?レイや他の人は!?」
俺は彼に掴みかかるように、問い詰める
「ち、ちょっと!?あんたなんなのさ!?」
と、ラージマウスの女性―――ラズが俺を引き離す
「あんた、一体なんな「あなたは!?」
と、ラズが言うのを遮って、ロイス君が言う
「ネームレスさん!?いつ戻ったんですか!?」
「え?ロイス?」
ラズが良く解らないと言った感じだが、ロイス君が俺を忘れてなかったのは、不幸中の幸いだ
「俺の事は良いから、レイは!?」
「あ、えっと…食堂に…」
「解った!!」
瞬間、俺は走り出す
レイの無事を祈りながら、只管走る
だからこそ、この違和感に気付かなかった
「なんで、あんなに焦ってるんだろ?」
「さぁ?」
―――この二人が、平和に歩いてる違和感に
・・・
建物に入って直ぐ、俺は食堂に向かう
思いっきり走って、思いっきりあける
「な、何事だ!?」
と、中には―――
「ヴェン!無事だったんだね!?」
ヴェンとルーとリザ、そして―――
「レ、レス…?」
俺がなんとしても会いたかった人が、愛しの女性が―――
「レイ!!」
レイがそこにいた
「無事だったんだね!?よかった!!」
彼女に近付きながら、歩を緩め始める
「いや…レス君?」
ヴェンが食事を途中に、俺に言う
「無事とは、何の事だね?」
「は?」
瞬間、俺は色々な違和感に気付き始めた
そもそも襲撃されてるなら、なんであの非戦闘員の二人がゆっくりしてる?
なんで、ここでリザやルーがご飯を食べてる?
なんで、ヴェンが穏やかにパンを食べてる?
「…あれ?」
「レス…まず落ち着いてご飯食べよう?」
レイの言葉に、なすがままに俺は席に付いた
・・・
「ここが襲撃されてる!?」
ヴェンに、さっきまで見た光景の事、ここ来た方法を伝えた
「そんな事は無かったから、安心してくれ」
「…色々すみません」
顔が熱い
本気で恥ずかしい
「しかし…またここに来るとは…」
「…どうしても、伝えたい事がありましたから」
もう二度と戻れないだろうけど、とは言わない
その時にはその時で、どこかでなんとかして生きれば良い
そう考えていた時だった
「君は…無茶をするね」
ヴェンは微笑みながら俺に言う
「後は、当人同士で話して貰おう」
そういうと、彼は立ち、部屋からでる
入れ違いに、レイが入ってくる
ヴェンがなにか二、三言言うと、部屋から出て行った
「レス…」
「レイ」
俺は立ち上がりながら、彼女に近付く
「君に、伝えたいことがあってきたんだ」
「うん…」
「その為に、それなりに格好つけてきたつもりだけど、笑わないでほしい」
「いや…似合ってるぞ」
クリスマスということで、普段より良いカッコ―――普段着の上に、黒のお気に入りのコートを着ただけだが―――でよかったと、今ほど思ったことはない
「ありがとう…」
沈黙が場を支配する
いざ言おうとすると、まるで言葉が出てこない
息がつまり、何を言いたかったのかわからなくなる
深呼吸をしようとしても、上手くいかない
と、レイが近付いてきてくれて―――
「大丈夫だ。私は居なくならないから、落ち着いて…」
そっと、抱き締めてくれる
そのちょっとした温もりが、彼女の優しさが―――
懐かしく、忘れられなくて―――
「君が好きだ」
この言葉を、すんなり出させてくれた
「君が好きで仕方なかった。…夫がいる君にこんな事言うのは迷惑かもしれないけど、伝えたかったんだ」
俺は一息ついてから、続ける
「ワガママだけど、君と一緒にいたい。だから…」
その言葉の先は出てこなかった
「レス…本当に、私を?」
レイの声が震えている
これは喜び?それとも悲しみ?
解らないけど、俺は正直に答える
「レイ以外なんて見えない。レイ以外と添い遂げたくない」
自然と、彼女を抱き締める力が増す
「君のためなら…レイを幸せにする為なら…俺は、頑張れるしどんなことでも出来るから」
彼女が泣いている
涙を拭う
拭って、そのまま彼女を見やる
「俺は、レイといてもいいですか?」
レイは泣きながら、でも笑顔を作ってくれて―――
11/12/24 18:22更新 / ネームレス
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