エピソードファイナル〜苦しみの頂点〜
「なぜ貴様らは盗賊退治くらいしかまともにできんのだ!!」
怒りながら、僕や第七騎士団に当り散らす、大司教の姿がそこにあった
水晶越しだが、その豪華な食事はよく見える
―――その食事で、何人分の食事が賄える位の金額だろうか
そう思いながら、大司教の言葉を聞いている
「貴様らがもっと働かんから!人々が苦しむのだろうが!!恥を知れ!!」
高いだろうワインの入ったグラスを床に叩きつけながら言うその姿に、説得力は無い
が、それでも―――
「申し訳ありません」
僕には、これしか言えないのだ
・・・
新しい任務は、近くの盗賊の討伐だった
討伐自体は単純だ
ただ、盗賊を捕まえてしまえばいいのだから
だが―――
「住民が、魔物に…」
魔物がいるなら、話は変わってしまう
「お願いです!確かに私達は魔物ですが、いn「黙れ」
僕は、住民を中央に皆を集めさせた
「愚かな魔物たちよ」
僕は、続ける
「罪の塊たちよ、今、断罪の時だ」
心を出来るだけ虚ろにしながら、空にしながら―――
「ふざけるなぁ!」
妻を守ろうとする、勇敢な人を傷つけ、僕は言う
「魔物に魂を売った害悪、貴方から送ってあげましょう」
「やめてよ!その人を放して!!」
泣き叫ぶワーウルフの女性を取り押さえるように指示し、僕は―――
「せめて、安らかなる死を」
罪に塗れた剣を振り下ろす!
―――ガキィン!
不意に、剣が途中で止まる
「また、貴方は…」
「現れましたね、黒勇者!!」
あぁ、また―――
また、希望が僕を止めてくれる
・・・
また、いつもの繰り返しだった
「せめて、安らかなる死を」
そう言いながら、無理やり人を殺めようとする彼を、私はまた止めた
その度に、安堵したあの顔を見せながらも、直ぐに敵意の顔を覗かせる
それを見る度、私は―――
「なんで、こんな事を?」
「魔物は悪、それが教団の教えですから」
私は―――
「それより、話をするだけなら邪魔をしないでください。執行中なんですから」
「それを、本心から言ってくれてるなら…」
私は、悲しくなる
「私の本心は、貴方達魔物を殲滅することだけです」
「…そう」
彼がなぜ本心を隠すのか、解らなくはない
無いが、解らない
なぜ、そこまで―――わざと任務を失敗するのだろう
「…ごめんなさい」
そして、自分にも腹が立つ
「!?逃がすカァ!!」
転移魔法で、他の住民達を逃がしながら、結局彼の事を見捨てる形で逃げる自分が、嫌いになりそうだった
・・・
「また逃がしただと!?」
任務の経過報告をしていると、大司教は完全に怒り狂いながら僕に言う
「盗賊如きしか捕まえられんなんぞ、使えないにもほどがあるわ!!貴様らを作るのに、どれだけの資金を使っていると思っているのだ!!」
「…申し訳ありません」
「ならなぜ戦果をあげん!!そんなだから母親にも売られるのだぞ!!」
その言葉に、僕は心のそこから切り刻まれる感覚を覚える
「もっと尽くせ!もっと殺せ!もっと、もっともっともっと!兵器の自覚を持たぬか!!」
「…申し訳、ありm「謝る暇があるなら魔物を殺せ!もっと己を捨てて働け!!」
一方的に切られる通信
安堵と同時に、吐き気を覚えていた
―――もっと僕が頑張らないと
そう、僕がこの程度で根を上げてたら、騎士団の皆にも、黒勇者にも迷惑が掛かる
もっと、心を強くしないと
もっと、みんなの為に―――
「終わったかい?大将」
「…フォーエンバッハさん」
と、僕が報告を終わったのを見越してか、フォーエンバッハさんが声を掛けに来てくれた
「…また、小言ですかい?」
「任務失敗と同じですから」
そういうと、心底腹を立てた顔で、彼は言う
「ったく…元々の任務は成功してんのに!」
「仕方ない、ですよ…」
彼の怒りは最もだ
「私は、魔物を滅する為にいるんですから…」
だが、それが現実なんだ
「魔物を逃したら、存在意義がなくなりますから」
「…なんで、アンタがそんな重荷を背負わなきゃいけないんだよ!?」
彼は声を荒げて言う
「大将一人で、なんで背負うんだよ!俺たちって、少しは役に立てるだろ!?」
ありがたい、勇気付けられる言葉だった
けど―――
「…すよ」
「え?」
今の僕には、辛かった
「出来るわけ無いですよ!!これ以上、なんで貴方達を苦しめなきゃいけないんですか!?」
僕は、声を荒げて、続けて言う
「僕が何もかもしなきゃいけないんです!!これ以上犠牲を出さない為にも!穢れるのは僕だけで良いんです!!僕以外、これ以上傷ついちゃいけないんだ!!」
ハァハァ…と、息を整えながら、自分の言った事を後悔する
―――こんな事、この人に言いたくないのに
「…今のは忘れてください。僕は訓練をします」
「大将、あんまり無茶をしないでくれよ」
わかってます―――
それだけ言うと、僕は外に出た
・・・
剣を振りながら、僕は考える
今までの自分の行いを、自分の歩んだ道を…
―――始めは、絶望だった
母親に売り飛ばされ、実験体として明け暮れる日々
来る日も来る日も、僕には実験しかなかった
―――そして、憎悪した
僕達だけが理不尽な思いを受けることに、僕達が人間じゃなくなるのにあいつらは幸せなことに、嫉妬して、それを増長して…
―――でも、それを正してくれて
彼女が、黒勇者が体を張って僕達を助けようとしているのをみて、僕は、救いを求めてもいいかもと、救われたいと願ってしまった
―――だけど
僕は、汚れてて、罪に塗れてて…
そんな僕が救われようだなんて、おごがましいにも程がある
けど、他の白勇者は、彼らは…
救われてほしい
せめて、希望を彼女に託したい!
(だから、お前の周りの人を傷つけるんだな)
剣を振りながら、声が聞こえてきた
(最低の偽善者じゃないか!お前は、仲間を売って、皆を堕落させようとしてるんだ!)
素振りをして、僕は紛らわせる
(お前も、あいつらと同類だ!諸悪の根源だ!この世の罪そのものだ!)
「…そう、僕は罪そのものだ」
だったら―――
「だったら、僕が救われる道理はない。でも、他の人達は、他の白勇者は…絶対に違う!」
―――ブオォン!
剣を振って、その声を斬るイメージをする
「もう…僕に何を言っても無駄だ。僕は…迷っちゃダメなんだ」
そう、僕は…
「こんな所にいたんですね、勇者様」
不意に聞こえた声の方を、僕は見る
「シスター…」
「カリムがそろそろ戻ってきてほしいとの事です。…もう冷えますよ?」
そう言いながら、僕に微笑みかけてくれる
―――やめてくれ
「わかりました…」
僕は、貴方の大切な人を傷つけるのに…
「…勇者様?」
彼女は、僕を呼び止める
「なぜ、辛さを一人で抱えるのですか?」
「!?…何のこと、ですか…」
彼女の言葉に、僕は背筋が凍る思いをしている
「貴方は、みんなの為に頑張ろうとしすぎです。…いつか、壊れてしまいますよ?」
「…私が壊れても、代わりはいますから」
彼女は優しい
フォーエンバッハさんが好きになるはずだ
でも、今の僕には…
「代わりなんて、居ません」
彼女がはっきりと言う
「貴方の代わりなんて、どこにもいませんよ。だって…貴方は、この騎士団の『勇者』なんですよ?」
「…でも、私は、僕は…」
「それに、まだ子供なんですから、もっと大人を頼ってください」
ねっ、と、そう言いながら、僕を抱き締めてくれた
その温かさは―――
黒勇者のものと、そっくりだった
・・・
「…すみません、好意に甘えてしまって」
「勇者とは言え、貴方はまだ子供なんですよ?」
そんな話をしながら、騎士団の方へ向かっていた時だった
ガサッ…
草むらから、人が来る音がした
「誰だ!?」
僕が剣を構えて向くと、そこには女性がいた
苦しそうに、うめき声を上げながら倒れそうになる女性に、シスターは近づく
「大丈夫ですか!?今、治療しますから!!」
「…てぇ」
彼女から、僅かに聞こえるうめき声
逃げて?
なぜ―――
そう思った瞬間、僕は見えてしまった
彼女のスカートから、触手が生えてきたのが
「シスター逃げて!!それは―――」
瞬間、彼女から無数の触手が出て―――
「え?」
「それはローパーです!!」
シスターに襲い掛かった
「いやあぁぁぁぁ!!」
触手を斬ろうとしても、直ぐに再生され、シスターを中々はなさない
「ごめんなさい…ごめんなさい…」
うわ言の様に謝り続ける女性
強硬派な魔物に無理矢理卵を植え付けられたのだろうか、自分で人を襲おうとはしていない
が、シスターを守る為だ
僕は触手を斬り捨て―――
「ごめんなさい…」
女性を、思いっきり叩き斬り付けた
・・・
「…検査薬の結果は、陽性。植え付けられましたね…」
騎士団たちの下へ戻り、すぐにシスターが卵を植え付けられていないか確認した
先程のローパーも、辛うじて生きている状態だが、時間の問題だろう
「そんな…」
自身が魔物になる恐怖に震えるシスター
「だ、大丈夫だエリス。なんとかなる方法が、あ、あるって…な、なぁ大将!」
そんなエリスさんを安心させようとして、フォーエンバッハさんは言葉を綴る
「…何を言ってるんですか、フォーエンバッハ騎士団長?」
けど、僕は―――
僕は―――
「それは、魔物ですよ?」
そう言って、対処するしかなかった
「外の魔物を駆除したら、次はそれです」
「た、大将?何言って…」
「勇、者様?」
僕は、自分が思った以上に罪人のようだ
だって―――
神様は、僕から、この人たちまで取り上げるんだから
「なにがおかしいんですか?今までと同じでしょう?」
なんで、僕は狂えないんだろう?
「大将!?気でもおかしくなったんじゃないのか!?彼女は「魔物ですよ」
彼の言葉を遮り、僕は言う
「魔物を殺すのが僕の存在価値なんですよ?教団の存在価値なんですよ?だったら殺さなきゃいけないでしょ?」
僕はどこまで堕ちれば良いんだろう?
「それに、僕らのしてきたことって、そういうことでしょ?今更その中にシスターが加わってなんの問題が?」
僕は…
「大将!!」
剣を構えて、僕に向けるフォーエンバッハさん
そこまでして、彼女を、シスターを守りたいのだろう
「…反逆行為ですから、貴方も駆除しますね」
そう言いながら、彼の剣を、彼を弾いて地面に叩き付ける
「カリム!!」
シスターが彼に近づこうとするが―――
「先ず、貴方からです」
僕は剣で妨げる
「なんで!?何でなんですか!?貴方は、本当は「黙れ、魔物が」
あぁ、神よ―――
この人達を救いたまえ
この人達の罪は僕が背負います
背負わせてください
だから、だから!
「死んでしまえ!」
この剣を、止めて!!
―――ガキィン!
振り下ろした先には…
「…どういうこと?」
「見たまんまですよ…黒勇者!!」
彼女が、いてくれた
・・・
その光景に、私は目を疑った
彼が、キュー君が、自身の味方を殺そうとしているのだ
しかも、壊れたような、狂いそうな笑みを浮べながら
痛々しくて、見ていられなかった
私は、近くに倒れたローパーを転移すると同時に、彼の剣を止める
「…また、貴女ですか」
ホッとしたような、救いを待っていたような、そんな表情を浮かべた彼に、私は言う
「…どういうこと?」
彼は、自虐的に笑いながら、私に言う
「見たまんまですよ…黒勇者!!」
鍔迫り合いながら、彼は言う
「魔物を!処分しようとしてるだけですよ!!」
「処分って…仲間でしょう!?」
「だからどうした!?もう魔物なんだ!!」
彼は、涙を零しながら続ける
「僕には、これしかないんだ!!これ以外の事なんていらないだろ!?」
「そんな事ない!」
「あるんだよ!!」
そう言いながら、彼は私を吹き飛ばす
近くの騎士達が動こうとするが、彼は制止する
「貴方達は動かなくていい!!迷いがある騎士なんて足手まといです!!」
そう言いながら、不自然に私に攻撃してくる
その攻撃は―――
「セイッ!…ハッ!」
とても彼らしくない、幼稚な剣技だった
無理矢理、重い剣を力任せに振るだけの、彼らしくない剣
足元もおぼつかない位、無理矢理振っていた
それを私は―――
「…どういうつもり?」
難なくかわし、彼の喉元に剣を突きつける
「君は、そんな剣を振るう人じゃないはずよ?一体何なの?」
「…せ」
彼は、小さく、そしてかつての憎悪を滾らせながら、私に言う
「殺せ。僕を否定するなら、殺してくれ」
「…ふざけてるの?」
彼の目は、真剣そのものだが―――
私には、嘘を付いてるとしか思えなかった
「ふざけてません。貴女が私を殺せないなら、アレを処分するだけだ」
彼の目には、悲しいけど、決意しかなかった
「…わかったわ」
そう言いながら、私はローパーの彼女と、倒れている騎士の人を転送する
「…他の人達は、どうする?」
騎士達も動揺している
―――いきなり居なくなれば、そうだろう
私の転送先も、彼らからすればどこなのかわからず、地獄かもと思うだろう
「…貴方達は、行けばいいでしょ?」
キュー君が、彼らに言う
「元々、両親が親魔物領と関係がある罪人なんだから、騎士団に不要です」
その言葉に、ざわめきと動揺が更に沸く
「行かなければ、恐らく逃亡補助で貴方達は処刑ですね」
「…たい、しょう?」
「私は勇者だから、まだ生かされますが」
彼は、私を目で射抜き、言う
―――ここまでして、連れて行かないのか
まるで私を試すように、私に願うように、彼は私を見る
その威圧に私は―――
負けてしまった
・・・
黒勇者も、皆も居なくなってから、雨が降ってきた
その雨は、皆を裏切った僕に激しく打ち付ける
「これで、良い」
ポツリと出てきたのは、僕の口から出た言い訳
こんな、傷つけるやり方以外に無かったのか―――
雨が、僕が、僕を責め立てる
「あ、あぁ…」
泣く資格なんて、僕には無いのに
辛がる資格なんて、僕には無いのに!
「あぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁあぁああぁああぁ!!」
僕はその場に崩れ落ち、泣き喚いた
僕が傷つけておいて
助けたいと願っておいて
僕が自分から僕を犠牲にすると決めておいて
それなのに、今更、自分の選択に対して、辛いと思ってしまった
怒りながら、僕や第七騎士団に当り散らす、大司教の姿がそこにあった
水晶越しだが、その豪華な食事はよく見える
―――その食事で、何人分の食事が賄える位の金額だろうか
そう思いながら、大司教の言葉を聞いている
「貴様らがもっと働かんから!人々が苦しむのだろうが!!恥を知れ!!」
高いだろうワインの入ったグラスを床に叩きつけながら言うその姿に、説得力は無い
が、それでも―――
「申し訳ありません」
僕には、これしか言えないのだ
・・・
新しい任務は、近くの盗賊の討伐だった
討伐自体は単純だ
ただ、盗賊を捕まえてしまえばいいのだから
だが―――
「住民が、魔物に…」
魔物がいるなら、話は変わってしまう
「お願いです!確かに私達は魔物ですが、いn「黙れ」
僕は、住民を中央に皆を集めさせた
「愚かな魔物たちよ」
僕は、続ける
「罪の塊たちよ、今、断罪の時だ」
心を出来るだけ虚ろにしながら、空にしながら―――
「ふざけるなぁ!」
妻を守ろうとする、勇敢な人を傷つけ、僕は言う
「魔物に魂を売った害悪、貴方から送ってあげましょう」
「やめてよ!その人を放して!!」
泣き叫ぶワーウルフの女性を取り押さえるように指示し、僕は―――
「せめて、安らかなる死を」
罪に塗れた剣を振り下ろす!
―――ガキィン!
不意に、剣が途中で止まる
「また、貴方は…」
「現れましたね、黒勇者!!」
あぁ、また―――
また、希望が僕を止めてくれる
・・・
また、いつもの繰り返しだった
「せめて、安らかなる死を」
そう言いながら、無理やり人を殺めようとする彼を、私はまた止めた
その度に、安堵したあの顔を見せながらも、直ぐに敵意の顔を覗かせる
それを見る度、私は―――
「なんで、こんな事を?」
「魔物は悪、それが教団の教えですから」
私は―――
「それより、話をするだけなら邪魔をしないでください。執行中なんですから」
「それを、本心から言ってくれてるなら…」
私は、悲しくなる
「私の本心は、貴方達魔物を殲滅することだけです」
「…そう」
彼がなぜ本心を隠すのか、解らなくはない
無いが、解らない
なぜ、そこまで―――わざと任務を失敗するのだろう
「…ごめんなさい」
そして、自分にも腹が立つ
「!?逃がすカァ!!」
転移魔法で、他の住民達を逃がしながら、結局彼の事を見捨てる形で逃げる自分が、嫌いになりそうだった
・・・
「また逃がしただと!?」
任務の経過報告をしていると、大司教は完全に怒り狂いながら僕に言う
「盗賊如きしか捕まえられんなんぞ、使えないにもほどがあるわ!!貴様らを作るのに、どれだけの資金を使っていると思っているのだ!!」
「…申し訳ありません」
「ならなぜ戦果をあげん!!そんなだから母親にも売られるのだぞ!!」
その言葉に、僕は心のそこから切り刻まれる感覚を覚える
「もっと尽くせ!もっと殺せ!もっと、もっともっともっと!兵器の自覚を持たぬか!!」
「…申し訳、ありm「謝る暇があるなら魔物を殺せ!もっと己を捨てて働け!!」
一方的に切られる通信
安堵と同時に、吐き気を覚えていた
―――もっと僕が頑張らないと
そう、僕がこの程度で根を上げてたら、騎士団の皆にも、黒勇者にも迷惑が掛かる
もっと、心を強くしないと
もっと、みんなの為に―――
「終わったかい?大将」
「…フォーエンバッハさん」
と、僕が報告を終わったのを見越してか、フォーエンバッハさんが声を掛けに来てくれた
「…また、小言ですかい?」
「任務失敗と同じですから」
そういうと、心底腹を立てた顔で、彼は言う
「ったく…元々の任務は成功してんのに!」
「仕方ない、ですよ…」
彼の怒りは最もだ
「私は、魔物を滅する為にいるんですから…」
だが、それが現実なんだ
「魔物を逃したら、存在意義がなくなりますから」
「…なんで、アンタがそんな重荷を背負わなきゃいけないんだよ!?」
彼は声を荒げて言う
「大将一人で、なんで背負うんだよ!俺たちって、少しは役に立てるだろ!?」
ありがたい、勇気付けられる言葉だった
けど―――
「…すよ」
「え?」
今の僕には、辛かった
「出来るわけ無いですよ!!これ以上、なんで貴方達を苦しめなきゃいけないんですか!?」
僕は、声を荒げて、続けて言う
「僕が何もかもしなきゃいけないんです!!これ以上犠牲を出さない為にも!穢れるのは僕だけで良いんです!!僕以外、これ以上傷ついちゃいけないんだ!!」
ハァハァ…と、息を整えながら、自分の言った事を後悔する
―――こんな事、この人に言いたくないのに
「…今のは忘れてください。僕は訓練をします」
「大将、あんまり無茶をしないでくれよ」
わかってます―――
それだけ言うと、僕は外に出た
・・・
剣を振りながら、僕は考える
今までの自分の行いを、自分の歩んだ道を…
―――始めは、絶望だった
母親に売り飛ばされ、実験体として明け暮れる日々
来る日も来る日も、僕には実験しかなかった
―――そして、憎悪した
僕達だけが理不尽な思いを受けることに、僕達が人間じゃなくなるのにあいつらは幸せなことに、嫉妬して、それを増長して…
―――でも、それを正してくれて
彼女が、黒勇者が体を張って僕達を助けようとしているのをみて、僕は、救いを求めてもいいかもと、救われたいと願ってしまった
―――だけど
僕は、汚れてて、罪に塗れてて…
そんな僕が救われようだなんて、おごがましいにも程がある
けど、他の白勇者は、彼らは…
救われてほしい
せめて、希望を彼女に託したい!
(だから、お前の周りの人を傷つけるんだな)
剣を振りながら、声が聞こえてきた
(最低の偽善者じゃないか!お前は、仲間を売って、皆を堕落させようとしてるんだ!)
素振りをして、僕は紛らわせる
(お前も、あいつらと同類だ!諸悪の根源だ!この世の罪そのものだ!)
「…そう、僕は罪そのものだ」
だったら―――
「だったら、僕が救われる道理はない。でも、他の人達は、他の白勇者は…絶対に違う!」
―――ブオォン!
剣を振って、その声を斬るイメージをする
「もう…僕に何を言っても無駄だ。僕は…迷っちゃダメなんだ」
そう、僕は…
「こんな所にいたんですね、勇者様」
不意に聞こえた声の方を、僕は見る
「シスター…」
「カリムがそろそろ戻ってきてほしいとの事です。…もう冷えますよ?」
そう言いながら、僕に微笑みかけてくれる
―――やめてくれ
「わかりました…」
僕は、貴方の大切な人を傷つけるのに…
「…勇者様?」
彼女は、僕を呼び止める
「なぜ、辛さを一人で抱えるのですか?」
「!?…何のこと、ですか…」
彼女の言葉に、僕は背筋が凍る思いをしている
「貴方は、みんなの為に頑張ろうとしすぎです。…いつか、壊れてしまいますよ?」
「…私が壊れても、代わりはいますから」
彼女は優しい
フォーエンバッハさんが好きになるはずだ
でも、今の僕には…
「代わりなんて、居ません」
彼女がはっきりと言う
「貴方の代わりなんて、どこにもいませんよ。だって…貴方は、この騎士団の『勇者』なんですよ?」
「…でも、私は、僕は…」
「それに、まだ子供なんですから、もっと大人を頼ってください」
ねっ、と、そう言いながら、僕を抱き締めてくれた
その温かさは―――
黒勇者のものと、そっくりだった
・・・
「…すみません、好意に甘えてしまって」
「勇者とは言え、貴方はまだ子供なんですよ?」
そんな話をしながら、騎士団の方へ向かっていた時だった
ガサッ…
草むらから、人が来る音がした
「誰だ!?」
僕が剣を構えて向くと、そこには女性がいた
苦しそうに、うめき声を上げながら倒れそうになる女性に、シスターは近づく
「大丈夫ですか!?今、治療しますから!!」
「…てぇ」
彼女から、僅かに聞こえるうめき声
逃げて?
なぜ―――
そう思った瞬間、僕は見えてしまった
彼女のスカートから、触手が生えてきたのが
「シスター逃げて!!それは―――」
瞬間、彼女から無数の触手が出て―――
「え?」
「それはローパーです!!」
シスターに襲い掛かった
「いやあぁぁぁぁ!!」
触手を斬ろうとしても、直ぐに再生され、シスターを中々はなさない
「ごめんなさい…ごめんなさい…」
うわ言の様に謝り続ける女性
強硬派な魔物に無理矢理卵を植え付けられたのだろうか、自分で人を襲おうとはしていない
が、シスターを守る為だ
僕は触手を斬り捨て―――
「ごめんなさい…」
女性を、思いっきり叩き斬り付けた
・・・
「…検査薬の結果は、陽性。植え付けられましたね…」
騎士団たちの下へ戻り、すぐにシスターが卵を植え付けられていないか確認した
先程のローパーも、辛うじて生きている状態だが、時間の問題だろう
「そんな…」
自身が魔物になる恐怖に震えるシスター
「だ、大丈夫だエリス。なんとかなる方法が、あ、あるって…な、なぁ大将!」
そんなエリスさんを安心させようとして、フォーエンバッハさんは言葉を綴る
「…何を言ってるんですか、フォーエンバッハ騎士団長?」
けど、僕は―――
僕は―――
「それは、魔物ですよ?」
そう言って、対処するしかなかった
「外の魔物を駆除したら、次はそれです」
「た、大将?何言って…」
「勇、者様?」
僕は、自分が思った以上に罪人のようだ
だって―――
神様は、僕から、この人たちまで取り上げるんだから
「なにがおかしいんですか?今までと同じでしょう?」
なんで、僕は狂えないんだろう?
「大将!?気でもおかしくなったんじゃないのか!?彼女は「魔物ですよ」
彼の言葉を遮り、僕は言う
「魔物を殺すのが僕の存在価値なんですよ?教団の存在価値なんですよ?だったら殺さなきゃいけないでしょ?」
僕はどこまで堕ちれば良いんだろう?
「それに、僕らのしてきたことって、そういうことでしょ?今更その中にシスターが加わってなんの問題が?」
僕は…
「大将!!」
剣を構えて、僕に向けるフォーエンバッハさん
そこまでして、彼女を、シスターを守りたいのだろう
「…反逆行為ですから、貴方も駆除しますね」
そう言いながら、彼の剣を、彼を弾いて地面に叩き付ける
「カリム!!」
シスターが彼に近づこうとするが―――
「先ず、貴方からです」
僕は剣で妨げる
「なんで!?何でなんですか!?貴方は、本当は「黙れ、魔物が」
あぁ、神よ―――
この人達を救いたまえ
この人達の罪は僕が背負います
背負わせてください
だから、だから!
「死んでしまえ!」
この剣を、止めて!!
―――ガキィン!
振り下ろした先には…
「…どういうこと?」
「見たまんまですよ…黒勇者!!」
彼女が、いてくれた
・・・
その光景に、私は目を疑った
彼が、キュー君が、自身の味方を殺そうとしているのだ
しかも、壊れたような、狂いそうな笑みを浮べながら
痛々しくて、見ていられなかった
私は、近くに倒れたローパーを転移すると同時に、彼の剣を止める
「…また、貴女ですか」
ホッとしたような、救いを待っていたような、そんな表情を浮かべた彼に、私は言う
「…どういうこと?」
彼は、自虐的に笑いながら、私に言う
「見たまんまですよ…黒勇者!!」
鍔迫り合いながら、彼は言う
「魔物を!処分しようとしてるだけですよ!!」
「処分って…仲間でしょう!?」
「だからどうした!?もう魔物なんだ!!」
彼は、涙を零しながら続ける
「僕には、これしかないんだ!!これ以外の事なんていらないだろ!?」
「そんな事ない!」
「あるんだよ!!」
そう言いながら、彼は私を吹き飛ばす
近くの騎士達が動こうとするが、彼は制止する
「貴方達は動かなくていい!!迷いがある騎士なんて足手まといです!!」
そう言いながら、不自然に私に攻撃してくる
その攻撃は―――
「セイッ!…ハッ!」
とても彼らしくない、幼稚な剣技だった
無理矢理、重い剣を力任せに振るだけの、彼らしくない剣
足元もおぼつかない位、無理矢理振っていた
それを私は―――
「…どういうつもり?」
難なくかわし、彼の喉元に剣を突きつける
「君は、そんな剣を振るう人じゃないはずよ?一体何なの?」
「…せ」
彼は、小さく、そしてかつての憎悪を滾らせながら、私に言う
「殺せ。僕を否定するなら、殺してくれ」
「…ふざけてるの?」
彼の目は、真剣そのものだが―――
私には、嘘を付いてるとしか思えなかった
「ふざけてません。貴女が私を殺せないなら、アレを処分するだけだ」
彼の目には、悲しいけど、決意しかなかった
「…わかったわ」
そう言いながら、私はローパーの彼女と、倒れている騎士の人を転送する
「…他の人達は、どうする?」
騎士達も動揺している
―――いきなり居なくなれば、そうだろう
私の転送先も、彼らからすればどこなのかわからず、地獄かもと思うだろう
「…貴方達は、行けばいいでしょ?」
キュー君が、彼らに言う
「元々、両親が親魔物領と関係がある罪人なんだから、騎士団に不要です」
その言葉に、ざわめきと動揺が更に沸く
「行かなければ、恐らく逃亡補助で貴方達は処刑ですね」
「…たい、しょう?」
「私は勇者だから、まだ生かされますが」
彼は、私を目で射抜き、言う
―――ここまでして、連れて行かないのか
まるで私を試すように、私に願うように、彼は私を見る
その威圧に私は―――
負けてしまった
・・・
黒勇者も、皆も居なくなってから、雨が降ってきた
その雨は、皆を裏切った僕に激しく打ち付ける
「これで、良い」
ポツリと出てきたのは、僕の口から出た言い訳
こんな、傷つけるやり方以外に無かったのか―――
雨が、僕が、僕を責め立てる
「あ、あぁ…」
泣く資格なんて、僕には無いのに
辛がる資格なんて、僕には無いのに!
「あぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁあぁああぁああぁ!!」
僕はその場に崩れ落ち、泣き喚いた
僕が傷つけておいて
助けたいと願っておいて
僕が自分から僕を犠牲にすると決めておいて
それなのに、今更、自分の選択に対して、辛いと思ってしまった
11/11/26 03:14更新 / ネームレス
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