読切小説
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捨て猫と絵描きの奇妙な関係
―――体中が痛い

先ほどから傷がズキズキ痛んでいる
血もかなり流れている

―――人間なんて

私の命も、後僅かなのだろう


もう、未練もなにもない

―――なんで私は、

あるのは後悔、そして

―――黒く生まれたのだろう

自己嫌悪、だけ

雨の中、私の体から流れる血は、まるで私の命を流していくかのように、流れていっている

と、体が倒れてしまった

―――あぁ、これで

ようやく、楽になれるんだ、と私は安堵した
もう、誰からも虐げられない
もう誰からも疎まれない
もう―――愛されない絶望を味わなくていいんだ

そこで、私の意識は途切れた

・・・

―――生まれたときから、私には敵しかいなかった

私たちネコマタは、猫の姿と本来の姿を使い分けながら、人をみて伴侶を決める

だが、私の場合はそれが出来なかった

まず、私は黒猫だった
私の生まれた地域では、黒猫は不吉の象徴だったらしい
おかげで、お父様もお母様も迫害されていた

次に、私達がたどり着いた場所が、反魔物領とか言う場所だった
ここでは、魔物というだけで悪にされ、お父様とお母様は殺された

最後に、私は―――人間が嫌いだった
黒猫だから、と石を投げられ、魔物の姿でも、汚らわしい目でしか見ない者を、なぜ嫌わないでいられるだろうか?


だから、私には敵しかいないのだ

・・・

パチ…パチ…

そんな音が聞こえる場所で、私は目が覚めた

「お、気がついたかな」

目を開けると暖炉と椅子に座る男が見えた
こじんまりしているが、快適そうな部屋だ

「フゥゥ…」

が、私が最初に発したのは、威嚇だ

「まいったなぁ…警戒されてるよ。まぁ、その怪我じゃあ当然だよな」

と、男が言うのと同じく、傷に包帯が巻いてあるのを見えた

「あ〜、とりあえず落ち着きなよ?今ミルクを用意するから」

と、男が立ち上がり、そのままどこかへ行った
逃げたいが、体が動かない
怪我が思った以上に酷そうだ

「ほら、飲みな」

いつのまにか男が戻ってきて、皿にミルクを入れてくれていた

「しっかし、どこの悪ガキだよ。猫いじめて何が楽しいんだか…」

男はぶつくさ言いながら、本を読み始めていた
私は、出されたミルクを飲まない

当然だ、こいつだって、今までの人間と同じ


―――くきゅぅぅぅ

私のお腹から、音がなった

「ぷっ…警戒するのはわかるけど飲みな。少なくとも、俺は敵じゃねーよ」

そういって、何人が私を騙したか…
私は意地でも飲まないつもりだった

…決して、恥ずかしいだけでは、ない

「さて、と大きいだろうがそのシーツは使ってていいから。俺は寝るよ」

と、男は明かりを消して、ソファーの上で寝始めた

どうせ、人間はみんな同じだ
いずれこいつも…

そう思いながら、私は寝ようとした

…ミルクは、そのままに

・・・

目が覚めると、目の前のミルクはまだ温かかかった
いや、温め直されたのだろうか?
湯気が出ている

「はい、ちっちゃくてわりぃが、魚な」

と、男が皿にのった魚を私の前に置いた

が、私は食べ

―――くきゅぅぅぅ

…私は食べないぞ!

「…ったく、どんだけ意地っ張りなんだ、お前…」

恐らく猫の姿でなければ、顔を赤くしているだろう

「仕方ねぇ…先に包帯変えるか」

と、男は皿を下げて、私に近づいてきた

「フゥゥ…!」

「つっ!」

気がついたら、私は、男の手を引っかいていた
男から血がドクドク出ている

「つぅ〜…怖いのはわかるが、少しだけ我慢してくれな」

が、男はそのまま私を抱き上げる
当然私は暴れるが

「今だけ。今だけで良いから俺を信じてくれ…」

傷だらけになりながらも私の包帯を変えようとする男のその声に、私は暴れるのをやめた

「…っと、終わり。ごめんな、怖い思いさせて」

男は私の頭を撫でてくれる

―――なんで?この街では、黒猫は不吉なんじゃないの?

そう思いながらも、私は「フゥゥ…」と威嚇しか出来ないでいた

「さて、と。魚とミルク、置いとくからな」

と男は昨日座っていた椅子に座り、何か書き始めた
―――昨日は気付かなかったが、椅子の前には、何か絵を描くような道具が置いてある

「さて、と。今日は美人のモデルがいるから筆が進むねぇ〜」

と、上機嫌そうに男はなにか描いている
とりあえず、私は寝ることにした

…少し魚とミルクを飲んでから

・・・

また目が覚めると、部屋が酷いことになっていた
何枚も紙が散らばっており、足の踏み場もない

が、男は気にしてないのか、一心不乱になにかを描き続けている

ふと、床の紙が目に入った

―――そこには、シーツに包まった、黒猫が描かれていた

―――え?

私は驚いた
こんな繊細なタッチは見たことがない
こんなに綺麗な色は見たことがない

なにより、私をこんなに綺麗に描いてくれている事に、私は驚いた

―――私はもっと醜くないの?だから皆石をなげるんじゃないの?

そう、私は思った

「…ん?起きたのかい?」

男は描いている絵から目を離す

「って何だこの床は!?」

…なぜお前が言う

「やっちまった…折角モデルが美人でも、絵を乱雑にしちゃ意味ないのに…」

かなりへこんでいるようで、ドンヨリしながら絵を拾い始める

…私も、何気なしに拾いに行こうとした


「っ!」

体が痛む

「おまっ!大丈夫かよ!」

男が慌てて駆け寄ってくる

「まだ体が痛んでるのにあんだけ暴れたんだ。痛みがぶり返してるだろうから、休みな」

そういって私の体を撫でてくれる
―――暖かい

と、私は少し顔を男の手にこすりつけた

「よしよし」

男はまた撫でてくれる

それが堪らなく―――嬉しかった

・・・

気がついたら、もう半年はたっていた
私はあれからずっとこの部屋で暮らしている

男は相変わらず、私をモデルに絵を描いてくれている

だが、それ以外にも色々絵を描いている

男は絵描きの仕事で食っているようだ
風景画がとても綺麗で、私も大好き

だが、男はそうでないらしい

頼まれた絵を描いてるときは、なんともつまらなそうに描く

この男が生き生きしながら絵を描くには―――恥ずかしながら、私の絵だけだった

それが、私にはたまらず不思議で、でも、嬉しかった

が、私は男に正体を見せるのを怖がっていた
それもその筈、ここは―――反魔物領だから

だから、正体をみせたら、男は私を嫌いになる
だから―――

と、考えている内に、気付いてしまった

―――あぁ、私は、この人が好きなんだ
―――だから、怖いんだ
―――でも、この人に本当の私を描いてもらいたい

私は、彼が外にいる今のうちに、変身を解いて待っていた

・・・

「今日も売れなかったなぁ…」

俺はトボトボと家に帰る

―――なんで、黒猫の絵が売れないんだ?

俺は凄まじくへこむ
確かに、俺の絵は下手かもしれない

が、黒猫の絵と聞いて、見すらしないのは本当にムカッとくる

あいつが来てから半年
素晴らしいまでに、俺は夢中で描いていた

あんな綺麗な毛並みは始めてみた

―――あいつが人間になってくれたらなぁ

きっとさぞかし美人なのだろう
俺みたいなうだつが上がらない、しがない絵描きにはもったいないくらいの、美人に違いない

―――まぁ、そうしたら、この街とはおさらばだが、な

この街では、魔物は処刑するべきと考えているらしい

少し前に、魔物を逃がしたシスターがいたとかだが、この街では結局、魔物は虐げる物らしい

―――馬鹿らしい

本当に下らないと思う
そもそも、芸術の原点には、魔物の絵も含まれているし、旧魔王時代にだって、魔物と共存していた地域はあったんだ

今みたいに、一方的に敵対視するのは、違うと思う

と、考え事をしていたら、部屋に着いちまった

―――あいつと生活してから、帰ってくるのが楽しみになっていた

部屋に帰れば、生活費のために書かなきゃならない絵を描かなくても良いんだから

「ただいま〜と」

「おかえり」

―――中から、聞こえるはずのない声が聞こえた

・・・

「ただいま〜と」

「おかえり」

私は、本来の姿で彼を向かいいれた

「え?」

彼が困惑している

当然だろう、目の前にシーツを被った、不審な女がいればそうもなる

「突然ですまないが、お願いがあるんだ」

私は彼にいう

「私を、いつも通り描いてくれないか?…本当の私で」

「え?」

彼は困惑しているだろう

だが、私はそれ以上言わないで、シーツを取った

―――中からは、黒髪の、小柄なネコマタが出てきたことだろう

「っ!?」

彼は驚いている

「脅かしてすまない、私はネコマタという種族だったんだ」

私は彼に言う

「猫としての私を描いてくれていた貴方に、こっちの私も描いてもらいたくて、ね…だめならそれで構わない。騙していた私を教団に差し出すでもいいし、奴隷市に売るでもいい。だから―――」

「…いだ」

彼が何か呟いた

「綺麗だ…」

かなり呆けたような状態で、彼は言ってくれた
―――って、え!?

「わ、私は魔物なんだぞ!?なんでそんなに「魔物でも人間でも、綺麗なのは綺麗なんだよ」

彼は言葉を遮りながら、言ってくれた

「おまえ、やっぱ美人だったんだな」

そういって近づいてくる
―――嬉しいはずなのに、私は恐怖を思い出していた

―――卑下た笑みで近づいてきて、犯そうとする男達
―――下種な考えで近づいてくる、汚い男達

「やぁっ!」

「ってぇ!?」

―――気がついたら、彼を引っ掻いていた

私は恐怖した状態で、腰を抜かしていた

―――彼に嫌われる
―――彼を傷つけた

そんな考えが頭の中をぐるぐ回っている

「ってぇ〜」

しかし、そう言いながらも、彼は近くまで来てくれた

「おまえ、怖かったんだろ?」

え?

「怖いから、またなんかされそうだから、つい手が出ちまったんだろ?もしそうなら気にすんなよ?本気で嫌ってるなら、謝る」

彼は続ける

「この街、黒猫にも、魔物にも厳しいもんな。辛かっただろ?…全部はわかってやれないし、過去を変えれないけど―――俺は味方になってやるから」

そういいながら私に手が届くところまできてくれて

「だから、泣くなよ?な?」

頭を、撫でてくれた

「ふ、えぇぇぇぇぇぇ…」

嬉しかった、私をここまで見てくれる人がいるなんて、考えたこともなかった

「よしよし」

そういって、私を抱き締めてくれながら、私を撫でてくれた

―――あぁ、私は、本当に、幸せだ

・・・

それから少したって、彼は言った

「そーいや、自己紹介まだだったな」

「うん…」

私は彼に抱き締められながら、言う

「私は、クロケット。クロって、お父様とお母様からは呼ばれてた」

「俺はフェルグ。フェルって呼んでくれ」

フェルはそう言いながら、頭を撫でてくれる

「しっかし、ホントクロは可愛いし美人だよなぁ…」

撫でながら、そんな事を言うんだから、こっちは色々大変だ

「絵、今は描けない」

フェルが突然言ってきた

「念のために、ここから出ていこう。クロの絵を買ってくれない街に嫌気もさしてきてたしな」

彼は笑いながら言ってくれる

「でも、いいの?」

だが、私は不安になる
出て行けば二度と戻れないだろうから

「良いよ別に。俺元々ここの人間じゃないし」

「え?」

「俺もクロと同じ、捨てられた人間でさ。孤児院で暮らしてたけど、あんまりダチいなかったし。唯一のダチもこの前街から出てったしな」

そう言いながら、彼は自分の手を見せる

「それに、ちょっと痛むしな」

「ごめん…」

私はホントになんてことをしてしまったんだろう
そう思っていると

「あ、わりぃ…そういうつもりじゃないんだ。それに、クロのぬくもりゲット出来たんだから、むしろこの傷もご褒美じゃねーかな?」

…かなり呑気な事を言ってくれている

「…ふん!」

「拗ねても可愛いから、拗ねても良いぜ?…しまった」

フェルが絶望したように言い始めた

「クロの拗ねた顔、描けねーや…」

…ホント、なんでこの人好きになっちゃったんだろ?

〜〜〜

ある所に、小さなアトリエがあるらしい
そこでは、素晴らしい腕を持った画家が、まるでそこにでもいるかのような錯覚を思わせる風景画を描いているそうだ
彼はサインを書かないが、彼の絵には、必ず、一匹の黒猫がどこかに描いてあるそうだ

〜〜〜

「フェル〜まだ〜?」

「クロ!あと少しだから!もう少しで描き上がるよ」


新作のタイトルは[最愛の妻と我が娘]だったそうな

11/08/17 03:22更新 / ネームレス

■作者メッセージ
ども、ネームレスです


ネコマタ良いね!

かぁーいーよね!

家の近くに野良猫たちがいますが、私は何もしてやれません
フェルみたいな人に拾われるのを願うばかりです


それでは最後に、ここまで読んで頂き、ありがとうございます!

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