再交戦、救えなかった命、救済の誓い
リザードマンから話を聞いた私は、全力で移動する
教団の連中が、魔物の子供をさらってやることなんて、予想はついている
―――恐らく、生体実験だろう
先程の白勇者や新しい兵器の開発の実験に使われたり、最悪…
その不快な考えを振り払い、私は再び羽を羽ばたかせる
―――一刻の猶予も、存在し得なかった
・・・
一人先行した私を待ち構えていたのは、二人の白勇者だった
「また、貴女ですか」
一人は先程対峙した少年―――まだ幼さも残るその顔に、似合わない憎悪の仮面をつけ、無理やり戦おうとする、傷ついた魂が見え隠れする
「キュー…。こいつは大物じゃんかよ」
もう一人は彼より年上なのが解る以外、ある意味奇妙な見かけだった
二人とも、白勇者と名乗るだけあってか、白いマントを肩にかけ、白い隊服に、軽装鎧をしているが…
先程対峙した少年―――93と名乗っていたか―――は、板やギロチンを髣髴とさせる大剣を
もう一人は、腰に何か筒のような物を四つ付けていた
―――いや、あれは水筒か？
「こいつ、リリムじゃねーかよ…」
もう一人が、私の種族を言い当てる
「…なるほど。道理で強い個体な訳ですね」
彼も、剣を構える
「…俺がせめっから、フォロー頼んだぜ」
「解りました、No.17」
17といわれた青年は、一歩前に出て、私に言う
「魔王の娘が、一体何のようだよ！？」
彼は無理やり粗暴な言い方をしている様な、少し滑稽な言い方で私に聞いてきた
「貴方達が誘拐した魔物の子供を、親の元に連れ戻しに来たわ」
「…あ？」
瞬間―――彼から冷たい冷気が漂い始める
「…自分らは誘拐しまくるくせに…人間様に楯突こうってのかよ」
そこに居るのは、悪鬼
そうとしか言いようの無い位、憎しみが溢れ出していた
「No.17…WaterCreator(ウォータークリエイター)」
―――絶望しながら、俺を恨んで死ね
新しい戦闘の、始まりの合図だった
・・・
「オラァ！！」
彼が水筒から水をぶちまけると、中から無数の剣が出てきた
すかさず転移魔法で逃げるが
「逃がしませんよ」
逃げた先には、93と名乗った少年が
「クッ！？」
彼の剣に掠りそうになりながら、私はまた避ける
「あめぇんだよ！！」
と、先程の青年の水が変化し―――
「いくらなんでも…反則過ぎるでしょ」
一匹の生き物を作り出していた
「WaterCreat…Creatofsummon!(クリエイトオブサモン)」
彼が言い終わると、蛇のような、ドラゴンのような―――
なんと言っていいのか、解らない生物を作り出していた
「食らい尽くせ！リヴァイアサン！！」
彼が作り出したそれは、まるで意思を持つかのように私に食い付こうとする
無言で攻めてくるそれは、恐怖の根源の様でもあった
それの攻撃を辛うじてよけるが…
「そいやっ！」
「セイッ！！」
水で作られただろう剣と、ギロチンを髣髴とさせる剣の二重奏が待ち構えている
私は何とか避けるが、何時まで持つかわからない
なにより辛いのが―――
この二人の、コンビネーションだ
片方が攻め、片方が守り―――
先程私が上手くいったのは、正に17と言う人物が居なかったお陰なのだろう
…実際、あのまま続けていたら、恐らく私も危なかったのだから
93には攻め手がない分、他が攻めてしまえば欠点は無くなる
正に、最強のコンビネーションだろう
―――最も、この程度の困難を超えられないのなら、他のお姉さまや、これから生まれてくる妹達に面目が立たない
私はリリム
魔王の娘、リリス＝ファストサルドなのだ
「…これ位で、根をあげられないわ！」
私は魔力を纏っただけの魔力弾を撃ち、なんとか応戦する
前は4発だったが、今回必要なのは物量だ
とにかく、小さくても大量の弾を撃ち放つ
「だから…無駄ですって」
が、それを全て打ち返されてしまう
「…知ってるわ。寧ろ、それが狙いだもの」
―――そう言いながら、17と名乗った青年の首筋に、剣を当てた
・・・
まるで、時間が止まったかのような静寂だった
「…なるほど。キューを翻弄して、魔物を逃がしたのもその転移魔術だな」
その静寂を破ったのは、剣を突きつけられている本人
「動かないで。…死にたくなければ、そのままよ」
93と名乗った少年―――キューと呼ばれているが―――も、彼を人質に取られ、動けずに居た
「…てめぇ、勘違いしてないか？」
「え？」
剣を首筋に当てられているのに、彼は強気に言う
「確かに、キューは俺の命を大事にしてくれているが―――俺まで、そうだなんて…」
誰が決めた？
―――彼が言い終わる瞬間、水で出来た怪物は動き始める
私目掛けて、襲い掛かる
「なっ！？」
その牙が届こうとする瞬間、私は転移魔法で距離をとる
「ぐがあぁぁ！！」
私が見たのは―――
「アクアス！！」
自らの技によりダメージを受ける青年と、彼に駆け寄る少年だった
「く…ぐぅ…」
「ここは撤退しよう。じゃないと…」
「俺の…命なんか…いらねぇんだよぉ！！」
そう叫びながら、寄り添う少年を突き飛ばし、私に向かってくる彼
「お前らさえ！お前らさえ居なければあぁぁぁ！！」
水を剣に変え、斬りかかって来る
その剣を、私は自分の剣で受け止める
―――瞬間、おかしなことに気付いた
彼が、白い息を吐いているのだ
まるで、凍えているかのように…
「貴方、なんで…」
「てめえらを殺すために…俺は体温だろうが命だろうが捨ててやる…捨ててやるさ！！」
―――瞬間、彼の攻撃を理解した
彼は水を操る代償に、体温が下がっているのだ
こんな危険な術は、見た事もない
その瞬間、アリシアの言葉を思い出す
―――恐らく、彼も…あの少年も…
人工的に、その能力を付与されたのだろう
「お前らに奪われた…。親父も！兄貴も！！」
拮抗していた力が、次第に彼の優勢になり始める
「なんでお前らなんだ！？なんで幸せにお前らだけが！！」
「だからって、他の幸せを奪ってもいいの！？」
「奪われたんだから奪い返す！略奪し返す！！」
彼の剣に押されそうになった瞬間、その声は聞こえてきた
「やめて！！」
そこには―――
「…逃げ出しやがったか、魔物がぁ…」
小さな、サキュバスの少女が立っていた
・・・
サキュバスの子供がここに居るって事は…
恐らく、強襲作戦が成功したのだろう
今回、立てた作戦―――私自身を囮にした、他の部隊による救出作戦だった
転移魔法で一緒に来てもよかったが、それだと混戦状態になる可能性と―――
彼ら、白勇者と言う不安要素による、甚大な被害が、それを止めさせた
私一人なら、最悪転移魔術で逃げられるし、一度白勇者との戦闘を体験している
その事実が、今回の作戦を決行させたのだ
「お兄ちゃんも、リリム様も止めて！！」
彼女はそのまま私達に近づいてくる
「魔物がぁ…殺してやる」
そう、言いながら彼は水を操作し、槍のような物を作り始める
私は剣を突きつけようとするが、冷たい何かに拘束されていた
「お前ら動くなよ…。まずはガキ、てめえからだ…」
恐らく彼は本気なのだろう
「貴女、逃げなさい！」
「やです…」
私がそう言うが、彼女は逃げない
「私が逃げちゃったら、お兄ちゃんは…お兄ちゃんは誰が助けるの？」
―――瞬間、彼の動きがとまる
「俺を…助ける…？」
「そっちで寝てるお兄ちゃんも、お兄ちゃんも…とても悲しそうだよ？なんで？」
気絶しているキューと呼ばれた少年と、アクアスと言われた彼を見て、彼女は言った
「お兄ちゃん達、なんでそんなに辛そうなの？なんで苦しいの？」
「う、うるさい！！俺は苦しんでなんか！！「じゃあなんで泣きそうな顔してるの！？」
―――一人の純粋な少女の言葉に、私もハッとする
そう、彼らの魂を見てみると…
―――そこには、傷ついて、辛くて、悲しみに塗れた、綺麗な魂がそこにあった
本当なら、きっと優しい色を出していただろう二人の魂は、しかし―――
憎しみや、絶望といった不の感情に飲まれ、とても痛々しい物になっていた
「閉じ込められていた時だって、無理して言ってたのわかってた…自分だけを恨んでなんて、優しい人じゃないと言わないよ…」
「う、うるさい…」
動揺した彼は、そのまま倒れそうになりながら…
「俺は…俺はぁ！」
最後の咆哮を上げ、水を爆散させ…
「おにいちゃん！！」
彼は、崖から落ちそうになっていた
・・・
「な…んで…」
自身の力の暴走によって投げ出された彼を、私とサキュバスの少女は助けようとしていた
彼が投げ出された瞬間、自身のことを省みずに真っ先に飛んでいった少女によって、なんとか落ちずにいたが、すぐさま私も彼女を支えに向かった
空中で、二人を支えるのは正直体への負担が大きすぎる
転移魔術で何とかしたいが、彼のことを転移させようとしても、なにかに阻害されるように彼だけを転移できない状態になる
「うぅ…」
彼女の負担も、相当きている
「…ぅ…いい」
不意に、彼から出た言葉
「もう…いいんだ…」
「なに…いってるのよ…」
彼は自ら手を離そうとする
「おにい…ちゃん…い、やだ…よ…」
「最後くらい…勇者、やらせてくんねーか」
その言葉に、私は怒りを露にする
「ふざけ…ないで！自己犠牲が…勇者のすることなの！？」
「ふざけてねーよ」
はっきりと、彼は告げる
「お前らに助けられて生き恥を晒したくねーし…ようやく楽になれんだぜ？」
「うそ…言わないでよぉ…」
「泣くなよ…」
泣き始めた少女に、優しい声をかけ―――
「せめて…お前と、キューは幸せになってほしい、な…」
瞬間、水が少女の手を少しだけ傷つける
それにとっさに反応してしまった彼女の手から彼は離れ―――
「おにいちゃぁぁぁぁん！」
彼は、崖の下の森に落ちていってしまった…
・・・
泣きじゃくる彼女をつれて、私は先程までの戦場に戻る
「また…貴女達は…」
そこには、先程まで気絶していたキューと呼ばれた少年がたっていた
その瞳に、憎しみとやりきれない思い―――
そして、絶望と苦悩を抱えながら
「八つ当たりなのは…分かっています」
彼は剣を抜き、私に言う
「気絶していた僕が悪いのも…わかってる。弱い僕が悪いのも…分かってる」
まるでうわ言の様に、彼は言葉をつづる
「でも！分かっていても！お前らを恨まずにいられないんだ！！」
「…返す言葉もないわ」
「なんでお前らは僕から大切なものを奪っていくんだ！？返せよ！！…返してくれよぉ！！」
叫びながら、斬りかかってくる彼はまるで―――
愛情を知らない、悲しい子どもそのものにしか見えなかった
そんな彼を前にして、私は―――
「ごめんなさい…」
彼女を城に連れて行くことを優先し、彼を置き去りにしてしまった
・・・
城に帰った私は、様々な魔物の親達から感謝の言葉を受けていた
が、私自身の心は、沈んでいた
あの後直ぐに崖の下を捜索しようとしたが、捜索作業は教団に阻まれ難航している
さらには―――
「助けずに…私は…」
助けられるかもしれない彼を、助けずに私は逃げてきた
その事実が、自分自身を攻め立てる
「リリス様？」
私の心情に気付いたのか、リートが近くに来て、小声で聞いてくる
「…なにか、あったんですね？」
「…助けられなかった」
私は、感情を殺しながら言おうとする
「二人も苦しんでいる人間がいたのに…一人は崖に落とし、もう一人からは逃げてきたわ」
リートは黙って聴いてくれる
「お母様から、勇者の救済も言われていたのに…」
「…では、このままあきらめますか？」
なきそうになる私に、彼女は厳しい言葉をかける
「私の知っているリリス＝ファストサルド様なら…どんなに辛くても、必ず彼らを救おうと必死になられます」
彼女は、リリムである私でさえも惚れそうな笑みを浮かべ、続ける
「一度の失敗がなんですか。貴女なら、きっと救えるはずですよ。…あなたの支えになるべくして、私も全力をかけますから」
「リート…」
「今は少しお休み下さい…。捜索隊の再編成も、私がやっておきますので」
そういって、リートは離れようとしたが…
「いえ、もう一つだけ…手伝ってもらえるかしら？」
「構いませんが…何用で？」
私は周りにいるみんなにも見えるようにしながら、私は、自分の剣を抜き放ち、宣言する
「今ここに、白勇者を救済するものとして…魔物の勇者として、改めて宣言する！」
「私はリリス！誇り高き魔王の娘にして―――全ての自由の為に戦う者なり！」
「今この時より！偽りの純白を、真実の自由へ誘う為！私は自身をこう名乗ろう！」
「私は黒勇者！黒勇者リリスなり！」
―――宣言を終え、辺りは静寂に包まれる
が、数秒後…
―――ワアァァァァァァ！！
辺りは、歓声に満ち溢れだした
「リリス様…。未熟ながら、お供いたしますよ」
「貴女が未熟なら、私も未熟よ。リート」
―――この時が本当の始まりだと今では思う
―――私黒勇者と
―――絶望の異名を持つ幼き白勇者の
お互いの、交わり合い
その、宣言式だったんだと…
教団の連中が、魔物の子供をさらってやることなんて、予想はついている
―――恐らく、生体実験だろう
先程の白勇者や新しい兵器の開発の実験に使われたり、最悪…
その不快な考えを振り払い、私は再び羽を羽ばたかせる
―――一刻の猶予も、存在し得なかった
・・・
一人先行した私を待ち構えていたのは、二人の白勇者だった
「また、貴女ですか」
一人は先程対峙した少年―――まだ幼さも残るその顔に、似合わない憎悪の仮面をつけ、無理やり戦おうとする、傷ついた魂が見え隠れする
「キュー…。こいつは大物じゃんかよ」
もう一人は彼より年上なのが解る以外、ある意味奇妙な見かけだった
二人とも、白勇者と名乗るだけあってか、白いマントを肩にかけ、白い隊服に、軽装鎧をしているが…
先程対峙した少年―――93と名乗っていたか―――は、板やギロチンを髣髴とさせる大剣を
もう一人は、腰に何か筒のような物を四つ付けていた
―――いや、あれは水筒か？
「こいつ、リリムじゃねーかよ…」
もう一人が、私の種族を言い当てる
「…なるほど。道理で強い個体な訳ですね」
彼も、剣を構える
「…俺がせめっから、フォロー頼んだぜ」
「解りました、No.17」
17といわれた青年は、一歩前に出て、私に言う
「魔王の娘が、一体何のようだよ！？」
彼は無理やり粗暴な言い方をしている様な、少し滑稽な言い方で私に聞いてきた
「貴方達が誘拐した魔物の子供を、親の元に連れ戻しに来たわ」
「…あ？」
瞬間―――彼から冷たい冷気が漂い始める
「…自分らは誘拐しまくるくせに…人間様に楯突こうってのかよ」
そこに居るのは、悪鬼
そうとしか言いようの無い位、憎しみが溢れ出していた
「No.17…WaterCreator(ウォータークリエイター)」
―――絶望しながら、俺を恨んで死ね
新しい戦闘の、始まりの合図だった
・・・
「オラァ！！」
彼が水筒から水をぶちまけると、中から無数の剣が出てきた
すかさず転移魔法で逃げるが
「逃がしませんよ」
逃げた先には、93と名乗った少年が
「クッ！？」
彼の剣に掠りそうになりながら、私はまた避ける
「あめぇんだよ！！」
と、先程の青年の水が変化し―――
「いくらなんでも…反則過ぎるでしょ」
一匹の生き物を作り出していた
「WaterCreat…Creatofsummon!(クリエイトオブサモン)」
彼が言い終わると、蛇のような、ドラゴンのような―――
なんと言っていいのか、解らない生物を作り出していた
「食らい尽くせ！リヴァイアサン！！」
彼が作り出したそれは、まるで意思を持つかのように私に食い付こうとする
無言で攻めてくるそれは、恐怖の根源の様でもあった
それの攻撃を辛うじてよけるが…
「そいやっ！」
「セイッ！！」
水で作られただろう剣と、ギロチンを髣髴とさせる剣の二重奏が待ち構えている
私は何とか避けるが、何時まで持つかわからない
なにより辛いのが―――
この二人の、コンビネーションだ
片方が攻め、片方が守り―――
先程私が上手くいったのは、正に17と言う人物が居なかったお陰なのだろう
…実際、あのまま続けていたら、恐らく私も危なかったのだから
93には攻め手がない分、他が攻めてしまえば欠点は無くなる
正に、最強のコンビネーションだろう
―――最も、この程度の困難を超えられないのなら、他のお姉さまや、これから生まれてくる妹達に面目が立たない
私はリリム
魔王の娘、リリス＝ファストサルドなのだ
「…これ位で、根をあげられないわ！」
私は魔力を纏っただけの魔力弾を撃ち、なんとか応戦する
前は4発だったが、今回必要なのは物量だ
とにかく、小さくても大量の弾を撃ち放つ
「だから…無駄ですって」
が、それを全て打ち返されてしまう
「…知ってるわ。寧ろ、それが狙いだもの」
―――そう言いながら、17と名乗った青年の首筋に、剣を当てた
・・・
まるで、時間が止まったかのような静寂だった
「…なるほど。キューを翻弄して、魔物を逃がしたのもその転移魔術だな」
その静寂を破ったのは、剣を突きつけられている本人
「動かないで。…死にたくなければ、そのままよ」
93と名乗った少年―――キューと呼ばれているが―――も、彼を人質に取られ、動けずに居た
「…てめぇ、勘違いしてないか？」
「え？」
剣を首筋に当てられているのに、彼は強気に言う
「確かに、キューは俺の命を大事にしてくれているが―――俺まで、そうだなんて…」
誰が決めた？
―――彼が言い終わる瞬間、水で出来た怪物は動き始める
私目掛けて、襲い掛かる
「なっ！？」
その牙が届こうとする瞬間、私は転移魔法で距離をとる
「ぐがあぁぁ！！」
私が見たのは―――
「アクアス！！」
自らの技によりダメージを受ける青年と、彼に駆け寄る少年だった
「く…ぐぅ…」
「ここは撤退しよう。じゃないと…」
「俺の…命なんか…いらねぇんだよぉ！！」
そう叫びながら、寄り添う少年を突き飛ばし、私に向かってくる彼
「お前らさえ！お前らさえ居なければあぁぁぁ！！」
水を剣に変え、斬りかかって来る
その剣を、私は自分の剣で受け止める
―――瞬間、おかしなことに気付いた
彼が、白い息を吐いているのだ
まるで、凍えているかのように…
「貴方、なんで…」
「てめえらを殺すために…俺は体温だろうが命だろうが捨ててやる…捨ててやるさ！！」
―――瞬間、彼の攻撃を理解した
彼は水を操る代償に、体温が下がっているのだ
こんな危険な術は、見た事もない
その瞬間、アリシアの言葉を思い出す
―――恐らく、彼も…あの少年も…
人工的に、その能力を付与されたのだろう
「お前らに奪われた…。親父も！兄貴も！！」
拮抗していた力が、次第に彼の優勢になり始める
「なんでお前らなんだ！？なんで幸せにお前らだけが！！」
「だからって、他の幸せを奪ってもいいの！？」
「奪われたんだから奪い返す！略奪し返す！！」
彼の剣に押されそうになった瞬間、その声は聞こえてきた
「やめて！！」
そこには―――
「…逃げ出しやがったか、魔物がぁ…」
小さな、サキュバスの少女が立っていた
・・・
サキュバスの子供がここに居るって事は…
恐らく、強襲作戦が成功したのだろう
今回、立てた作戦―――私自身を囮にした、他の部隊による救出作戦だった
転移魔法で一緒に来てもよかったが、それだと混戦状態になる可能性と―――
彼ら、白勇者と言う不安要素による、甚大な被害が、それを止めさせた
私一人なら、最悪転移魔術で逃げられるし、一度白勇者との戦闘を体験している
その事実が、今回の作戦を決行させたのだ
「お兄ちゃんも、リリム様も止めて！！」
彼女はそのまま私達に近づいてくる
「魔物がぁ…殺してやる」
そう、言いながら彼は水を操作し、槍のような物を作り始める
私は剣を突きつけようとするが、冷たい何かに拘束されていた
「お前ら動くなよ…。まずはガキ、てめえからだ…」
恐らく彼は本気なのだろう
「貴女、逃げなさい！」
「やです…」
私がそう言うが、彼女は逃げない
「私が逃げちゃったら、お兄ちゃんは…お兄ちゃんは誰が助けるの？」
―――瞬間、彼の動きがとまる
「俺を…助ける…？」
「そっちで寝てるお兄ちゃんも、お兄ちゃんも…とても悲しそうだよ？なんで？」
気絶しているキューと呼ばれた少年と、アクアスと言われた彼を見て、彼女は言った
「お兄ちゃん達、なんでそんなに辛そうなの？なんで苦しいの？」
「う、うるさい！！俺は苦しんでなんか！！「じゃあなんで泣きそうな顔してるの！？」
―――一人の純粋な少女の言葉に、私もハッとする
そう、彼らの魂を見てみると…
―――そこには、傷ついて、辛くて、悲しみに塗れた、綺麗な魂がそこにあった
本当なら、きっと優しい色を出していただろう二人の魂は、しかし―――
憎しみや、絶望といった不の感情に飲まれ、とても痛々しい物になっていた
「閉じ込められていた時だって、無理して言ってたのわかってた…自分だけを恨んでなんて、優しい人じゃないと言わないよ…」
「う、うるさい…」
動揺した彼は、そのまま倒れそうになりながら…
「俺は…俺はぁ！」
最後の咆哮を上げ、水を爆散させ…
「おにいちゃん！！」
彼は、崖から落ちそうになっていた
・・・
「な…んで…」
自身の力の暴走によって投げ出された彼を、私とサキュバスの少女は助けようとしていた
彼が投げ出された瞬間、自身のことを省みずに真っ先に飛んでいった少女によって、なんとか落ちずにいたが、すぐさま私も彼女を支えに向かった
空中で、二人を支えるのは正直体への負担が大きすぎる
転移魔術で何とかしたいが、彼のことを転移させようとしても、なにかに阻害されるように彼だけを転移できない状態になる
「うぅ…」
彼女の負担も、相当きている
「…ぅ…いい」
不意に、彼から出た言葉
「もう…いいんだ…」
「なに…いってるのよ…」
彼は自ら手を離そうとする
「おにい…ちゃん…い、やだ…よ…」
「最後くらい…勇者、やらせてくんねーか」
その言葉に、私は怒りを露にする
「ふざけ…ないで！自己犠牲が…勇者のすることなの！？」
「ふざけてねーよ」
はっきりと、彼は告げる
「お前らに助けられて生き恥を晒したくねーし…ようやく楽になれんだぜ？」
「うそ…言わないでよぉ…」
「泣くなよ…」
泣き始めた少女に、優しい声をかけ―――
「せめて…お前と、キューは幸せになってほしい、な…」
瞬間、水が少女の手を少しだけ傷つける
それにとっさに反応してしまった彼女の手から彼は離れ―――
「おにいちゃぁぁぁぁん！」
彼は、崖の下の森に落ちていってしまった…
・・・
泣きじゃくる彼女をつれて、私は先程までの戦場に戻る
「また…貴女達は…」
そこには、先程まで気絶していたキューと呼ばれた少年がたっていた
その瞳に、憎しみとやりきれない思い―――
そして、絶望と苦悩を抱えながら
「八つ当たりなのは…分かっています」
彼は剣を抜き、私に言う
「気絶していた僕が悪いのも…わかってる。弱い僕が悪いのも…分かってる」
まるでうわ言の様に、彼は言葉をつづる
「でも！分かっていても！お前らを恨まずにいられないんだ！！」
「…返す言葉もないわ」
「なんでお前らは僕から大切なものを奪っていくんだ！？返せよ！！…返してくれよぉ！！」
叫びながら、斬りかかってくる彼はまるで―――
愛情を知らない、悲しい子どもそのものにしか見えなかった
そんな彼を前にして、私は―――
「ごめんなさい…」
彼女を城に連れて行くことを優先し、彼を置き去りにしてしまった
・・・
城に帰った私は、様々な魔物の親達から感謝の言葉を受けていた
が、私自身の心は、沈んでいた
あの後直ぐに崖の下を捜索しようとしたが、捜索作業は教団に阻まれ難航している
さらには―――
「助けずに…私は…」
助けられるかもしれない彼を、助けずに私は逃げてきた
その事実が、自分自身を攻め立てる
「リリス様？」
私の心情に気付いたのか、リートが近くに来て、小声で聞いてくる
「…なにか、あったんですね？」
「…助けられなかった」
私は、感情を殺しながら言おうとする
「二人も苦しんでいる人間がいたのに…一人は崖に落とし、もう一人からは逃げてきたわ」
リートは黙って聴いてくれる
「お母様から、勇者の救済も言われていたのに…」
「…では、このままあきらめますか？」
なきそうになる私に、彼女は厳しい言葉をかける
「私の知っているリリス＝ファストサルド様なら…どんなに辛くても、必ず彼らを救おうと必死になられます」
彼女は、リリムである私でさえも惚れそうな笑みを浮かべ、続ける
「一度の失敗がなんですか。貴女なら、きっと救えるはずですよ。…あなたの支えになるべくして、私も全力をかけますから」
「リート…」
「今は少しお休み下さい…。捜索隊の再編成も、私がやっておきますので」
そういって、リートは離れようとしたが…
「いえ、もう一つだけ…手伝ってもらえるかしら？」
「構いませんが…何用で？」
私は周りにいるみんなにも見えるようにしながら、私は、自分の剣を抜き放ち、宣言する
「今ここに、白勇者を救済するものとして…魔物の勇者として、改めて宣言する！」
「私はリリス！誇り高き魔王の娘にして―――全ての自由の為に戦う者なり！」
「今この時より！偽りの純白を、真実の自由へ誘う為！私は自身をこう名乗ろう！」
「私は黒勇者！黒勇者リリスなり！」
―――宣言を終え、辺りは静寂に包まれる
が、数秒後…
―――ワアァァァァァァ！！
辺りは、歓声に満ち溢れだした
「リリス様…。未熟ながら、お供いたしますよ」
「貴女が未熟なら、私も未熟よ。リート」
―――この時が本当の始まりだと今では思う
―――私黒勇者と
―――絶望の異名を持つ幼き白勇者の
お互いの、交わり合い
その、宣言式だったんだと…
12/02/14 00:16更新 / ネームレス
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