初遭遇、初交戦、そして初失敗
「黒…勇者…」
目の前の教団騎士は、私を睨み付けている
「…ふざけるな!!」
「ふざけてないわよ、なんにも」
私はリザードマンを抱き抱えて、彼に答える
彼女の体は傷だらけで、見ていてとても痛々しいものだった
―――かつては綺麗だったのだろうその鱗は血に汚れ
―――鎧も、持つ手も、切られ、突かれ
―――生きているのも、不思議なくらいだった
「貴様ら魔物が…勇者を語るな!」
そう叫ぶ彼の顔には、今までに無い位憎悪に満ちていた
―――まるで、親の仇を見るみたいなその表情は、いやに私の印象に残った
「貴様らさえいなければ…いなければぁぁぁ!」
彼はその体に似つかわしくない、ギロチンのような大剣で私に斬りかかる
が、私は―――
「…なるほど、そういうことか」
彼の斬撃を難なくかわした
「転移魔術…。それが貴女の特技ですか」
その言葉に、私は驚いた
「たった二回でわかるなんて…貴方、ただの騎士ではないわね」
「私は…白勇者ですから」
そう、彼は悲痛そうな顔で私に告げた
・・・
―――それは、私達が彼女達を助けに行く少し前の事だった
お母様―――いや、魔王様から任を受けた後、私は自分の統治する領地に戻り、その旨を側近のデュラハンに報告しようとしていた
「戻りましたか、リリス様」
「今戻ったわ。…性も貰って、ね」
「それは!…まことにおめでとうございます!」
側近のデュラハン―――リートは自分の事のように嬉しそうに言う
「ありがとうリート」
彼女はこの領地を私が作ってからずっと私を支えてくれた、いわば親友とも、信頼できる副官とも言える
そんな彼女だからこそ、お互いに喜び合えるのだろう
「祝杯の前に、来客でございます」
と、応接室に行くと、そこには最近良く見る顔がいた
「リリス様、今日もすまぬの」
「アリシア…きてくれたのね」
そこには、かつて私に転移魔術を教えてくれた師であり、この国と貿易を盛んにしてくれる領地の頭脳にして、私がリートの他に親友と呼べるバフォメット、アリシア=ウォーデンの姿があった
「今日は少し寄ったのと…新しい情報を、と、思っての」
「ふふ…。旦那様は居ないみたいだけど、いいのかしら?」
「アリフ兄上(にいうえ)は呼べんよ。…情報のでいでな」
そう彼女は言うと、真面目な顔をして私に言った
「また、新しい兵士が投入されているようじゃ」
「…それは、もしかして」
「兄上と同じような者なのかがはっきりしないが…」
と、アリシアは水晶から何枚かの画像を見せてくれる
「この白い服を着た者たち…『白勇者』と呼ばれているらしい」
「白勇者?」
聞いたことの無い言葉に、私は聞き返す
「わしが教団に隕石を落とした後から出てきた、異常な戦闘能力をもつ集団じゃよ」
隕石―――
少し前に、教団の人体実験施設に隕石が落ちた事件があった
それにより、教団の一部は壊滅的被害を受けたと言われ、更には非人道的な実験が明るみになった
その犯人こそ、目の前のサバトの皇、アリシアなのだ
しかも理由が『惚れた男の自由の為』なのだから、いかにも魔物らしい
そんな事を思い出しながら、私は彼女に聞いた
「で、その白勇者もそうなの?」
「そこまでは解らんが…わしはそうm「リリス様!大変です!!」
突然アリシアの言葉が遮られ、席を外していたリートが大慌てで入ってきた
「どうしたのリート?」
「近くの村が襲われているとの事です!」
それを聞いて、私はすぐさまリートについて行った
「この者が命掛けで…」
「なっ…」
ついた私は、絶句した
―――片腕は無くなり、息も絶え絶えのケンタウロスが、そこに居たのだ
「こ…このような…姿で…申し訳ありませんが…」
―――私達の村を、あの人を助けてください!
その言葉を聞いた私は、直ぐに向かった
・・・
「そう、貴方が…」
「私は…いや、私達白勇者は、貴様ら魔物を殲滅するため『だけ』に存在してします」
そう言いながら、彼は悲痛そうに続ける
「貴様ら魔物さえいなければ…」
それは、まるでぼやくような、それでいて世界を呪う…呪詛のようだった
「改めて宣言します」
彼は剣を構え、私に告げる
「白勇者が一人、No.93『DespairLance(ディスペアランス)』が―――」
―――貴女を、滅します
その言葉が、私達の開戦の始まりだった
・・・
先に動いたのは私だった
手の中にいた彼女と大怪我した彼女を転移魔術で城に移転し、すぐさま行動を開始した
「これでも―――」
転移魔術で上空に移動し、魔力の塊を四つ作りだし―――
「喰らいなさい!」
それを四方向からぶつかるように撃ち放つ
「―――無駄ですよ」
が、それを難なく防ぎ、更には私に打ち返した
「クッ!?」
それを辛うじて避け、すぐさま転移魔術で死角に潜り込み、彼を斬り付ける!
―――が、それも防がれてしまう
「貴方…やるわね…!」
彼は興味なさげに私の斬撃を受け止める
「この程度の攻撃なら、私には簡単に防げますよ」
「でしょう…ねっ!!」
彼の剣を弾こうとするが、すぐさま構えなおされてしまう
「なるほどね…。」
彼の異常性、それが見えてきた
「確かに、その絶対的な防御力は凄まじいわね」
「…」
彼は沈黙を守り、私に剣を構える
―――そう
彼の異常性、それは絶対的なまでの防御力だ
しかもただの防御ではない
それは、カウンター
あらゆる技を跳ね返し、反撃するその異常なまでの鉄壁振りは、もはや異常としか思えない
「ほぼタイムラグ無しのカウンター…。しかも魔法すらも反射するなんて、ね」
「…Despairの名は伊達ではありませんからね」
―――その鉄壁はまさに絶望だろう
DespairLance、絶望の槍の名前にふさわしいその一撃と鉄壁は、とても勝ち目が見えないだろう
「無駄な抵抗はもうやめてください。…せめて一撃で楽にしてあげますから」
「そうね、確かに貴方に勝てそうにないわね。…けど」
―――いったい、勝たねばならないと、誰が決めただろう
「そもそも、勝つのが目的じゃないから」
と、後ろの村人達のいるところが魔方陣の光に包まれ始める
「ナッ!?…させるかぁ!!」
彼が剣で私を斬り付けに来るが―――
「今回は、私の勝ちね。…『白勇者』さん」
私は、村人全員とこの場を去った
・・・
「お疲れ様でした、リリス様」
領地の城に帰ると、リートが出迎えてくれた
「救護班の準備は?」
「既に手配は完了してます。近隣の治癒魔術師と、アリシア様のサバトからも応援が来てくれるとの事です」
「ありがとうリート。相変わらずいい仕事してくれるわ」
最早以心伝心と言って良い位、彼女の有能振りには助けられている
正直、リートが居なければ私は、安心して出撃できなかったとさえ、今改めて思っている
「ケンタウロスの彼女は?」
今回の事を伝えてくれた彼女の安否を確認すると、なんとも言えない返答が帰ってきた
「命は助かりましたが…恐らく、もう走ることは…」
「…そう」
「…医者も彼女の意志の強さを褒めていました。あの怪我で、ここまで走ってきたこと自体、奇跡だと…」
それを聞いても、私は―――
私自身を許すことができそうに無かった
「もっと、私が教団を警戒していれば…そうs「リリス様、おやめください」
私の言葉を、リートは遮り続ける
「貴女が居なければ、もっと罪の無い命が奪われていました…。貴女は、あの村の者達からすれば、立派な『勇者』なのですよ」
優しく、諭す様に私に告げる
「次の対策を立てましょう。次こそは、犠牲を無くすように」
「そう…ね。ありがとう、リート」
―――貴女が副官で、本当によかった
心の中で、彼女にそう告げる
今更彼女に言うのは、違う気がしたから
「リリス様!」
と、兵の一人が私に声を掛けてくる
「大変です!直ぐこちらに!」
その兵の慌てた様子に、なにか尋常でない物を感じた私は、すぐさまその後をついて行った
リートも後ろからついて来てくれる
「…もは…いの…」
なにやらもめている様な、騒がしいような所に、私は連れて行かれた
「一体、どうしたの?」
「リ、リム様…」
それは、先程のリザードマンだった
怪我も治っていないのに、剣を持ってどこかにいこうとしているようだ
「貴女、まだ怪我の治療受けていないの?」
「そんな事より、私達の…私達の子供が…」
「え?」
子供?
いったい、何のことだというのだろう?
嫌な予感がよぎりながら、彼女に聞いた
「子供が、どうしたの?」
「教団の連中に…」
彼女は涙を零しながら、しかしはっきりと伝えてくれた
「教団の連中に、さらわれたんだ!」
目の前の教団騎士は、私を睨み付けている
「…ふざけるな!!」
「ふざけてないわよ、なんにも」
私はリザードマンを抱き抱えて、彼に答える
彼女の体は傷だらけで、見ていてとても痛々しいものだった
―――かつては綺麗だったのだろうその鱗は血に汚れ
―――鎧も、持つ手も、切られ、突かれ
―――生きているのも、不思議なくらいだった
「貴様ら魔物が…勇者を語るな!」
そう叫ぶ彼の顔には、今までに無い位憎悪に満ちていた
―――まるで、親の仇を見るみたいなその表情は、いやに私の印象に残った
「貴様らさえいなければ…いなければぁぁぁ!」
彼はその体に似つかわしくない、ギロチンのような大剣で私に斬りかかる
が、私は―――
「…なるほど、そういうことか」
彼の斬撃を難なくかわした
「転移魔術…。それが貴女の特技ですか」
その言葉に、私は驚いた
「たった二回でわかるなんて…貴方、ただの騎士ではないわね」
「私は…白勇者ですから」
そう、彼は悲痛そうな顔で私に告げた
・・・
―――それは、私達が彼女達を助けに行く少し前の事だった
お母様―――いや、魔王様から任を受けた後、私は自分の統治する領地に戻り、その旨を側近のデュラハンに報告しようとしていた
「戻りましたか、リリス様」
「今戻ったわ。…性も貰って、ね」
「それは!…まことにおめでとうございます!」
側近のデュラハン―――リートは自分の事のように嬉しそうに言う
「ありがとうリート」
彼女はこの領地を私が作ってからずっと私を支えてくれた、いわば親友とも、信頼できる副官とも言える
そんな彼女だからこそ、お互いに喜び合えるのだろう
「祝杯の前に、来客でございます」
と、応接室に行くと、そこには最近良く見る顔がいた
「リリス様、今日もすまぬの」
「アリシア…きてくれたのね」
そこには、かつて私に転移魔術を教えてくれた師であり、この国と貿易を盛んにしてくれる領地の頭脳にして、私がリートの他に親友と呼べるバフォメット、アリシア=ウォーデンの姿があった
「今日は少し寄ったのと…新しい情報を、と、思っての」
「ふふ…。旦那様は居ないみたいだけど、いいのかしら?」
「アリフ兄上(にいうえ)は呼べんよ。…情報のでいでな」
そう彼女は言うと、真面目な顔をして私に言った
「また、新しい兵士が投入されているようじゃ」
「…それは、もしかして」
「兄上と同じような者なのかがはっきりしないが…」
と、アリシアは水晶から何枚かの画像を見せてくれる
「この白い服を着た者たち…『白勇者』と呼ばれているらしい」
「白勇者?」
聞いたことの無い言葉に、私は聞き返す
「わしが教団に隕石を落とした後から出てきた、異常な戦闘能力をもつ集団じゃよ」
隕石―――
少し前に、教団の人体実験施設に隕石が落ちた事件があった
それにより、教団の一部は壊滅的被害を受けたと言われ、更には非人道的な実験が明るみになった
その犯人こそ、目の前のサバトの皇、アリシアなのだ
しかも理由が『惚れた男の自由の為』なのだから、いかにも魔物らしい
そんな事を思い出しながら、私は彼女に聞いた
「で、その白勇者もそうなの?」
「そこまでは解らんが…わしはそうm「リリス様!大変です!!」
突然アリシアの言葉が遮られ、席を外していたリートが大慌てで入ってきた
「どうしたのリート?」
「近くの村が襲われているとの事です!」
それを聞いて、私はすぐさまリートについて行った
「この者が命掛けで…」
「なっ…」
ついた私は、絶句した
―――片腕は無くなり、息も絶え絶えのケンタウロスが、そこに居たのだ
「こ…このような…姿で…申し訳ありませんが…」
―――私達の村を、あの人を助けてください!
その言葉を聞いた私は、直ぐに向かった
・・・
「そう、貴方が…」
「私は…いや、私達白勇者は、貴様ら魔物を殲滅するため『だけ』に存在してします」
そう言いながら、彼は悲痛そうに続ける
「貴様ら魔物さえいなければ…」
それは、まるでぼやくような、それでいて世界を呪う…呪詛のようだった
「改めて宣言します」
彼は剣を構え、私に告げる
「白勇者が一人、No.93『DespairLance(ディスペアランス)』が―――」
―――貴女を、滅します
その言葉が、私達の開戦の始まりだった
・・・
先に動いたのは私だった
手の中にいた彼女と大怪我した彼女を転移魔術で城に移転し、すぐさま行動を開始した
「これでも―――」
転移魔術で上空に移動し、魔力の塊を四つ作りだし―――
「喰らいなさい!」
それを四方向からぶつかるように撃ち放つ
「―――無駄ですよ」
が、それを難なく防ぎ、更には私に打ち返した
「クッ!?」
それを辛うじて避け、すぐさま転移魔術で死角に潜り込み、彼を斬り付ける!
―――が、それも防がれてしまう
「貴方…やるわね…!」
彼は興味なさげに私の斬撃を受け止める
「この程度の攻撃なら、私には簡単に防げますよ」
「でしょう…ねっ!!」
彼の剣を弾こうとするが、すぐさま構えなおされてしまう
「なるほどね…。」
彼の異常性、それが見えてきた
「確かに、その絶対的な防御力は凄まじいわね」
「…」
彼は沈黙を守り、私に剣を構える
―――そう
彼の異常性、それは絶対的なまでの防御力だ
しかもただの防御ではない
それは、カウンター
あらゆる技を跳ね返し、反撃するその異常なまでの鉄壁振りは、もはや異常としか思えない
「ほぼタイムラグ無しのカウンター…。しかも魔法すらも反射するなんて、ね」
「…Despairの名は伊達ではありませんからね」
―――その鉄壁はまさに絶望だろう
DespairLance、絶望の槍の名前にふさわしいその一撃と鉄壁は、とても勝ち目が見えないだろう
「無駄な抵抗はもうやめてください。…せめて一撃で楽にしてあげますから」
「そうね、確かに貴方に勝てそうにないわね。…けど」
―――いったい、勝たねばならないと、誰が決めただろう
「そもそも、勝つのが目的じゃないから」
と、後ろの村人達のいるところが魔方陣の光に包まれ始める
「ナッ!?…させるかぁ!!」
彼が剣で私を斬り付けに来るが―――
「今回は、私の勝ちね。…『白勇者』さん」
私は、村人全員とこの場を去った
・・・
「お疲れ様でした、リリス様」
領地の城に帰ると、リートが出迎えてくれた
「救護班の準備は?」
「既に手配は完了してます。近隣の治癒魔術師と、アリシア様のサバトからも応援が来てくれるとの事です」
「ありがとうリート。相変わらずいい仕事してくれるわ」
最早以心伝心と言って良い位、彼女の有能振りには助けられている
正直、リートが居なければ私は、安心して出撃できなかったとさえ、今改めて思っている
「ケンタウロスの彼女は?」
今回の事を伝えてくれた彼女の安否を確認すると、なんとも言えない返答が帰ってきた
「命は助かりましたが…恐らく、もう走ることは…」
「…そう」
「…医者も彼女の意志の強さを褒めていました。あの怪我で、ここまで走ってきたこと自体、奇跡だと…」
それを聞いても、私は―――
私自身を許すことができそうに無かった
「もっと、私が教団を警戒していれば…そうs「リリス様、おやめください」
私の言葉を、リートは遮り続ける
「貴女が居なければ、もっと罪の無い命が奪われていました…。貴女は、あの村の者達からすれば、立派な『勇者』なのですよ」
優しく、諭す様に私に告げる
「次の対策を立てましょう。次こそは、犠牲を無くすように」
「そう…ね。ありがとう、リート」
―――貴女が副官で、本当によかった
心の中で、彼女にそう告げる
今更彼女に言うのは、違う気がしたから
「リリス様!」
と、兵の一人が私に声を掛けてくる
「大変です!直ぐこちらに!」
その兵の慌てた様子に、なにか尋常でない物を感じた私は、すぐさまその後をついて行った
リートも後ろからついて来てくれる
「…もは…いの…」
なにやらもめている様な、騒がしいような所に、私は連れて行かれた
「一体、どうしたの?」
「リ、リム様…」
それは、先程のリザードマンだった
怪我も治っていないのに、剣を持ってどこかにいこうとしているようだ
「貴女、まだ怪我の治療受けていないの?」
「そんな事より、私達の…私達の子供が…」
「え?」
子供?
いったい、何のことだというのだろう?
嫌な予感がよぎりながら、彼女に聞いた
「子供が、どうしたの?」
「教団の連中に…」
彼女は涙を零しながら、しかしはっきりと伝えてくれた
「教団の連中に、さらわれたんだ!」
11/10/01 00:50更新 / ネームレス
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