白勇者と黒勇者
僕は、魔物達に宣言する
「これは、聖なる裁きです」
彼女達は、彼女の夫達は震え上がる
「人間だった頃から、貴方達も同じ事をしてきたでしょう?」
その顔は絶望に染まり
「それが、自分に降りかかっただけ、でしょう」
全てを諦め始めている
「仮に、元から魔物だったら、余計に許されるわけがありません」
―――あぁ、早く
「今、私が」
―――僕を、止めてくれ
「断罪してあげましょう」
―――早く!?
「死ね!?」
僕は、剣を振り下ろす
―――ガキン!?
が、その剣は何者かに阻まれ、金属同士のぶつかり合う音を奏でる
「…そう、簡単に人を殺したらダメなんじゃないかしら?―――白勇者、さん」
「現れましたか」
―――来てくれた
―――僕は、貴女を待ち焦がれていたんだ
「―――黒勇者」
・・・
〜〜〜
いつからか、教団内で噂になっている存在がいた
白銀の髪と翼をもつ、黒い衣の剣士
魔物達からは、尊敬と、教団への哀れみをこめて、こう呼ばれていた
―――黒勇者、と
〜〜〜
「…で、また邪魔をするのですか、貴女は」
内心では、邪魔をしてくれたことに感謝しながら、彼女に言い放つ
「貴方が、本当に勇者として活動してくれれば、私も邪魔はしないわよ」
彼女は言いながら、その細身の剣を構える
―――美しい
僕は思わず思ってしまう
―――その、弱き者の為に戦う姿も
―――その、華奢ながらも凛とした闘志も
―――隙もなく構える、その姿も
全てが、僕には美しく見えた
「…貴女ならわかるでしょう?人間と魔物は相反する存在。互いに憎みあい、殺し合い、滅ぼしあうのが本当の姿だと」
そんな、思いもしていないことでも、言わなければならない
―――僕は、勇者なのだから
「…それを本心から言ってるなら、もっと簡単に倒しやすいのに」
彼女に対して、僕も構え始める
彼女の剣と違い、太く、一見すると板にしか見えない、長方形の僕の愛剣を
「…っと、もういいかな?」
と、彼女を中心に魔方陣が展開していく
「!?…させるか!」
意図に今更気付いた僕は走り出し、彼女に斬りかかる
が、それでも間に合わず
「―――ごめんね、次こそは」
彼女は、村人達とどこかにいってしまった
・・・
『また任務に失敗したのか!?』
「申し訳ありません、大司教」
僕は任務の結果報告をしている
僕を管理している大司教に
『貴様、何度失敗すれば気が済むのだ!?それでも洗礼を受けた勇者か!?』
僕は何もいえない
『この役立たずが!?』
と、持っていたコップをこちらに投げてくる
が、当たらない
そもそも遠隔通信の水晶越しなのだから当たり前だ
『貴様ごときの為に、騎士団まで使わせているのだぞ!?』
「真に、申し訳ありません」
そもそも、僕の考えと似た騎士団なので、教団でも階級も待遇も劣悪だが
『そんな事だから、村も壊滅し、親に売られるのだぞ!?「No.93」!?』
「!?…仰る、通り、です」
『もっと励め!?もっと教団の為に働け!?それ以外、貴様に存在価値なんぞないのだぞ!?』
そう言って、一方的に通信を切る大司教
「…終わったかい、大将」
「今、終わりました…」
声を掛けてくれたのは、騎士団の騎士団長を務める、フォーエンバッハさんだ
彼は、今の教団に疑問を持つ、数少ない騎士の一人だが、魔物に弟さんを殺されたか奪われたかしている
その為、魔物を敵として見ている部分もあり、その事で苦しんでいる
―――いや、彼だけじゃない
僕が率いる、フォーエンバッハさんの騎士団『第7自由騎士団』には、同じように魔物に何かしらの考えを持って苦しんでいる人が殆どだ
「…大将、仕方ないことですよ。そもそも今回ばかりはあの黒勇者の言う通りだと思いますぜ」
「ですが、彼らは魔物と共に…」
そう言って、僕らは無言になる
「大将、このままだと「解っています」
僕は遮り、彼に言う
「次こそは、黒勇者もろとも、魔物を退治し、任務を完遂します。…それが勇者である、私の存在価値ですから」
「…俺が言いたいのはそうじゃなくて!?これ以上はアンタの心が「そんな物は、必要ないんです」
また遮り、彼に告げる
「私に必要なのは、任務を完遂する事。それ以外なんて…なにもいらないんです!?魔物を殺す以外なんて、必要ないんですよ僕には!?」
息を荒げながら、僕は続ける
「僕には!?そうして貴方達の地位も向上させないといけないんです!?魔物を一人残らず殺しきらないといけないんです!?それ以外の存在価値なんて!?いらないんですよ!?」
「大将…」
「…醜態をさらしました。私は鍛錬をする為に外に居ます。…他の方は休ませて上げてください」
「でも、アンタがいちば「これは、命令です」
彼が言い切る前に、命令とだけ告げ、僕は外に出た
・・・
外に出てから、僕は素振りをする
雑念を、魔物化した人を見捨てられるように、心を強くするために
「ハッ!?…セイッ!?」
そして、僕の心に奥にある、僕の戦う理由を、思い出す為に
〜〜〜〜〜〜
元々、僕は南の地方の小さな村の住人だった
父と母と、仲良く暮らしていた
暮らしていける、筈だった
近くの村に、ホーネットが住み始めた
そのホーネット達は、あろう事か村の男達をさらい始めた
その中に、父もいた
それからは村の収入も減り、近くの村の乞食をしたり、娼婦まがいの事をして暮らす人が殆どになっていた
そんな生活に嫌気がさした母は、せめて僕だけでもいい生活をと思ったのか、教団に僕を預けた
―――いや、美談にするのはよそう
売ったのだ
その手に、金が入っているだろう袋を受け取っているのを、僕は見たのだから
それからの人生は、悪夢だけだった
〜〜〜〜〜〜
「勇者様」
僕が素振りをしていると、声を掛けてくる女性が居た
「シスター…どうかしましたか?」
僕らの騎士団の治療をする為に教団から派遣されてきた、僧侶の女性
…確か、フォーエンバッハさんと仲がよかったのは覚えている
「騎士団長から、そろそろ戻ってほしいとの事で…」
そんなに長い時間素振りをしていただろうか?
「…わかりました」
そう、剣を収めようとした時だった
―――ガサリ
近くで、何かが動いた
「ハァ…ハァ…」
出てきたのは、村娘のような少女だ
「貴女、どうかしたの?」
と、シスターが近づいていく
「…!?シスター!それはローパーです!?」
「え?」
シスターが声を上げるのと同時に、彼女から出ていた触手が更に出て、シスターを襲う
「いやあぁぁぁぁ!?」
シスターも抵抗するが、ほぼ無意味だろう
「ごめんなさい…ごめんなさい…」
ローパーがうわ言の様に言いながら、シスターに卵を植え付けようとしている
「放せ!?この…魔物がぁ!?」
そう言いながら、僕は剣を横薙ぎに振り、ローパーを切り捨てる
ローパーは流石にダメージがデカかったのか、一撃で吹き飛び、倒れている
「…ごめん」
そう言いながら、僕はそのローパーを葬った
・・・
「卵を、植えつけられていますね」
それは、他の騎士が検査薬を使った、結果だった
「そんな…」
自分の事のように、嘆くフォーエンバッハさん
「どうしよう、カリム…」
「なぁ、大将。シスターを、エリスを助けられないのかよ!?」
フォーエンバッハさんとシスターが僕に懇願してくる
「…何を言ってるんですか?」
「「え?」」
僕が二人に声を掛けると、二人は声を出す
「フォーエンバッハさん、『それ』はもう、魔物なんですよ」
僕は剣を抜きながら、彼に伝える
「!?大将、な、何のまねだよ…」
「シスターエリスは、ローパーになった。つまりは…」
僕は、わざと溜めて言う
彼に、恨んでもらえるように
来る筈がない彼女が来るのを待つ為に
「それは、もう敵なんですよ」
「大将ぅ!」
フォーエンバッハさんが剣を抜く
当然だろう
―――愛する人を、守るのが騎士の役目なのだから
だが、僕は彼を追い詰めないといけない
この騎士団に見限ってもらう為に
―――この騎士団が、僕の敵になる為に
「なぜ、今更『魔物』を庇うんですか?」
「!?」
僕は努めて、冷静に、そして時間を稼ぐように、彼に言う
「今までだって魔物化した女性を何人も殺してきたじゃないですか?その中にシスターエリスが加わるだけですよね?何の問題がありますか?」
「そ、れは…」
「カリム…」
ここまで言っても、フォーエンバッハさんはシスターから離れない
そこまで愛し合ってる仲なのだ
―――正直、羨ましい
「シスターも、今まで直接手を下さなかっただけで、これに加担してたんですから、文句ないですよね?」
「わ、私…」
―――あぁ、神よ
―――貴方は、僕から大切な人をどれだけ奪えば気が済むのですか
―――この人たちを、助けたい
―――でも、勇者の『私』が
―――村を滅ぼされた『ぼく』が
「今更それで命乞いだなんて…」
―――それを許してくれない
「図々しいにも、程がある」
そう言いながら、フォーエンバッハさんに一撃を打ち込む
「グハッ!?」
「カリム!?」
シスターは直ぐに彼の元へ行く
「他の騎士達も、動かず見ていなさい。…これが、僕達の仕事なんですから」
そう、彼らに命令しながら僕はゆっくり二人に近づく
「せめて、一撃でラクにして…あげますよ!?」
そう言いながら、僕は振り下ろす
―――ガキン!?
また、金属に阻まれ、この悪の刃を弾いてくれた
「あなた、それでも…勇者なの!?」
「私の使命は、魔物を殲滅することですよ。黒勇者!?」
また、彼女は救ってくれた
・・・
「…貴方、自分のしようとした事がわかってるの?」
黒勇者が、僕に問いただす
「魔物と、背信者の粛清ですが、なにか?」
『勇者』としての、僕は告げる
「…さっきまで、仲間だったんでしょ!?なんで簡単に「それが、私の使命ですから」
彼女の言葉を遮り、それだけ告げると、僕は構える
「他の騎士達は手を出さないように。…貴方達では、無駄な犠牲になります」
そんな事はない
彼らは、そこらの騎士の何十倍も強い
けど、その力を―――
「私以外、本来必要ないんですから」
―――教団の為に振るわせていいのか、僕にはわからなかった
「…とんだ自信家ね」
彼女は激しく怒っているだろう
こんな格下になめた態度を取られているのだから
「ただの事実、です」
僕達は構え、対峙する
こんな茶番、とっとと終わらせよう
―――彼女の、勝ち、で
「てりゃぁ!?」
僕は自分から斬りかかる
まるで初心者が斬りかかる様に周りからは見えるだろう
事実、僕は自分から斬りかかる事に関しては素人以下、才能すらないだろう
「…フッ!?」
簡単に
「ぐっ!?」
彼女に防がれ、挙句、倒され
「これでチェックメイト、かしら?」
簡単に剣を首に当てられるのだから
「…殺しなさい、魔物」
僕は、告げる
内なる願いを込めて
「…なんで、こんな茶番を?」
「なんのこt「貴方、わざと負けてるでしょ?」
僕は背筋が凍った
「貴方と何回戦ってると思ってるの?…貴方が自分から攻めるのが大の苦手な事位、私でも見抜けるわよ」
僕は、俯き、なにもしゃべれない
「…ま、予想は出来るわよ。大方、この人達を親魔物領に連れて行かせるのが目的でしょ?」
「…ただ、足手まといがいらないだけです」
僕は、俯きながら、みんなにそう告げる
いや、そう告げないといけない
「魔物と戦う事に疑問を持った兵士など、教団には必要、ないですから」
「…」
彼女は何もしゃべらない
しゃべらず、黙って剣を収め
「なら、この人達連れて行くから」
と、転移魔法を使って、みんなを連れて行った
「これで、よかったんだ…」
僕は、誰もいないその場で、そう呟いた
・・・
「貴様、もう一度言ってみろ…!」
大司教に事の顛末を報告していた最中の事だった
「『第7自由騎士団』は、魔物の手におちてしまい…グッ」
言っている最中に蹴りを食らった
「なにをしているんだ!?この役立たず!?」
何回も、何回も、僕は蹴られる
「も、申し訳…」
「貴様を育て!?勇者にしてやり!?挙句勇者としての異名と!?番号をくれてやったのに!?このザマはなんだ!?」
僕は暴力を受けながら、大司教の言葉を聞く
「貴様に、DespairLance(ディスペアランス)の称号と!?No.93の番号をくれてやった恩を!?忘れたのか!?」
大司教に踏み付けられながら、僕は話を聞くしか出来なかった
「貴様に!?CounterReflect(カウンターリフレクト)をくれてやったのも!?忘れたのか!?」
「申し…訳…」
しばらくすると、暴力は無くなっていた
「誰か!?これを牢屋にでも入れておけ!?」
その声の後、衛兵達が入ってきた
「…大司教、この方は」
「任務に失敗したんだ、しばらく懲罰房か牢にでも入れておけ」
それを、黙って聞くしかなかった
・・・
「これで、全員かしら?」
私は、連れてきた騎士団の皆に聞く
「これで全員、です…」
みんなショックを隠しきれない
当然だろう
嘘とは言え、信頼していた人間から不要などと言われたら、誰でもそうなるだろう
「一人怪我をしてたみたいだけど…」
「俺は大丈夫だ」
と、この騎士団の騎士団長の人がなんとか立ち上がる
「カリム、無理は…」
「エリス、大丈夫だ。…大将、かなり加減してくれたみたいだからな」
そうだろう
本来、身の丈もある板で殴られたような物だ
こんな、軽症の筈がない
「やっぱり…あの子は…」
「黒勇者、お願いがあるんだ」
と、突然騎士団長さんが私に話しかけてきた
「大将を…あの子を救ってやってくれ!?」
と、突然座り込み、頭を下げて頼んできた
「え!?ち、ちょっと!?」
と、私が混乱していると彼は言った
「もう、あの子が自分を殺していくのを…見てられないんだ!?」
涙を流しながら、嗚咽しながら、彼は確かに言った
「…詳しく、聞けるかしら」
〜〜〜〜〜〜
思えば、この任をお母様から授けられた時からの縁だった
「貴方が、白勇者ね!?」
「貴女は?」
「私は黒勇者!?」
恥ずかしげもなく彼にそう名乗った時の、彼の顔
―――まるで、待ち焦がれた英雄をついに見れたようだった
〜〜〜〜〜〜
「…つまり」
「あの子は、本当は魔物だろうが人間だろうが傷つけたくないんだ…」
騎士団長さんから聞いたそれは、とても悲しい彼の記録だった
元々、彼は地方のホーネットの行き過ぎた行為で両親を無くし―――
更には教団からはモルモットとして扱われ―――
任務を失敗するたびに―――
聞いていて、気分が悪くなる話しか、なかった
彼は、魔物を殺したくない
でも、それを自分自身が許せない
そして…
「勇者なんて言われてるが、実際はただの実験経過を見る為のモルモットでしかないんだ」
目の前の男から聞き出した、彼の悲しみの正体
「名前でなんて呼ばれない…番号がある事で優劣を決められる、商品みたいなもんでよ…しかも」
彼が呼ばれていた名前
DespairLanceは、ただの番号と、同意義だった
「DespairLance、絶望を与える槍」
私は呟く
絶望を、彼が?
彼が、いつ、絶望を与えていた?
彼は―――
みんなを笑顔にしようとしてなかったか?
「…けないで」
不意にこぼれる、私の感情
「ふざけないで!?」
「ひっ!?」
他の魔物娘達も、騎士団の人達も、皆怖がってしまっていた
が、構わず続ける
「なにがDespairLanceよ!?あの子が、彼がどれだけ皆に、希望を与えようとしたと思うのよ!どれだけ、その為に傷ついたと思うのよ!?」
私は、堪えられなかった
「どれだけ…ヒック…傷つけちゃった、のよ…」
〜〜〜〜〜〜
「くっ!?」
「今回も、私の勝ちね!?」
この時には、確か魔物娘をどこかに運ぼうとしていた、その時の護衛だったようだ
子供ばかり捉えて、汚い人間達だ
「皆、大丈夫だった?」
「うん!?白い服のお兄ちゃんがご飯くれたから!?」
「え?」
〜〜〜〜〜〜
「どれだけ…辛かったのよ…」
〜〜〜〜〜〜
「今回は、共同でするわよ」
「魔物と手を組みたくはありませんが、皆を守るためです。…今回だけですよ」
その時は、魔女が魔法具を暴走させてしまった時だったか
彼は、私が怪我をしないように、守ってくれていた
〜〜〜〜〜〜
「どれだけ…優しくしてるのよ…」
〜〜〜〜〜〜
人間達が、私を捕まえる為に、こんな罠まで…
―――バキン!
「…以前の借りは、確かに返しましたよ」
そういって、彼は私を逃がした
〜〜〜〜〜〜
私は、彼との記憶を思い返し、更に泣いた
あの時から、彼はずっとSOSを出していたんだ
あの、最初の時から―――
・・・
「ごめんなさいね、取り乱して…」
私は、皆に謝罪する
勝手に取り乱し、挙句みんなに心配掛けたのだから
「俺らはどうって事ねーよ」
『おぅ!?』
騎士団の人達は言う
「我々も、驚きましたが…大丈夫です」
「寧ろリリス様、もっとみんなを頼っていいんですよ」
魔物娘達も、言ってくれた
「ありがとう…」
私は、皆にお礼を言う
「これより、リリス=ファストサルドの命により…彼を救出するべく行動します!?」
おぅ!?
そう、みんなが叫んでくれた
―――私が指示を出す、この砦の皆に、先ほどの話をした
した所、皆が協力してくれることになった
中には、かつて彼にご飯を貰ったという魔物娘も居たらしい
他にも、彼が長い演説をして、わざと私を来させようとした事実をしってくれた魔物娘も居た
だが、だからこそ私は思った
「全軍は簡単な陽動後、即撤退!…救出は、私一人で行います」
周りから、反対意見が出るのは承知だった
だが、私は皆に言う
「彼の、『心』も救出しないと…だから、私は単身で彼を説得してきます」
―――反対意見は、押し黙ってくれた
・・・
目を覚ますと、僕は懲罰房のベットの上だった
武器とかはそのままで、懲罰房に入れられている
正直、もう慣れた事だ
大司教に暴力を振るわれ、ここに入れられ、その後は実験―――
もう、いつもの事だった
―――ドォン
遠くから、砲台の音が聞こえる
外で戦闘でも行われているのだろうか
―――カチャ!
と、後ろの扉の鍵が開いた
「…実験ですよね。今から向かいます」
そう、告げて振り向いた先には―――
「そんな事、もうさせない…」
黒勇者が、立っていた
・・・
「なんで、貴女が…」
僕は驚愕しかしなかった
ここに、魔物が入ること自体問題だし、なにより、彼女が危ない
「貴方を、連れ出す為よ」
彼女は、きっぱり言い放った
「…解ってるんですか?私は、貴女の敵なんですよ?」
「えぇ。…自分を押し殺して、勇者を演じてるのも、貴方の村のことも」
…恐らく、フォーエンバッハさん達だろう
「なら、なぜ…」
「…貴方の魂が、綺麗なのに、悲しい色だから」
彼女は続ける
「貴方はとても慈愛に満ちた色をしている。…なのに、同時にとても冷たい、暗い色もしている。…その色を見ていて、私も辛かった」
僕は彼女の言葉を聞く
「貴方の、本当の色を―――」
「そこまでだ」
突然、彼女の言葉を遮り、彼女は拘束魔法で拘束された
「残念だったな、魔物」
―――大司教が、そこに立っていた
・・・
「さぁ、No.93!?その魔物を殺すのです!?」
大司教が叫ぶ
「貴様は、魔物に絶望を与える『だけ』の槍、DespairLanceの称号を持つ勇者なのだ!?それ以外に、存在価値などないのだぞ!?」
何度も聞かされたその言葉
そう、僕は…
「そんな事ない!?」
と、彼女が叫ぶ
「貴方は、皆に希望を振りまく事もしてきた!絶望なんて、殆ど振りまいてない!」
「ほざけ魔物が!?No.93、魔物の言葉など聞いてはならん!?」
「私は!?貴方に、笑ってもらいたいのよ!?」
「これに!?感情なんていらんわ!?」
二人がしゃべっている言葉に、僕は揺れる
昔から言われ続けた、呪縛と
初めて言われた、祝福と
二つが、僕の中に存在する
「えぇい!?こんなゴミ位、わしが片付けてくれるわ!?」
そう言って、彼女に魔法が放たれる
「!?」
気がついたら―――
・・・
彼を束縛する男が魔法を放った瞬間、私は目を瞑ってしまった
―――これで、もう彼に話しかけられないんだ
そう思いながら、魔法を受ける覚悟をしていた時だった
―――パキィン!?
ガラスが割れるような、何かが打ち返される音が目の前でした
「…」
「どういうつもりだ!?」
目を開くと、彼が目の前に立っていた
「彼女は…本当の勇者は…傷つけさせない!?」
彼は愛剣を構え、そう宣言した
「血迷ったかNo.93!?貴様にはそのCounterReflect以外、戦闘方法がないだろうが!?」
CounterReflect、魔法をそのまま打ち返す技法らしいが…
「えぇ、そのお陰で戦えます」
そう、力強く彼は言う
「なら、その魔物を守りながら…死ねぇ!?」
そう男が言うのと同時に、魔法が飛んできて、更に騎士が何人か飛び出してきた
この波状攻撃では、彼も―――
「セイッ!」
と、男が放った魔法をそのままカウンターし―――
「グハッ!?」
「ぐげっ!?」
「ゴフッ!?」
きた騎士たちも、全員カウンターで倒してしまった
「CounterReflect。これのお陰で僕はカウンター技が上手くなりました」
と、私の拘束魔法も解ける
「さぁ、これでにげ―――」
彼が言い終わることは、なかった
・・・
「さぁ、これでにげ―――」
そう言い切ろうとした時だった
僕の腹に、何本かの槍が刺さったのは
「く、くくく…」
大司教が笑っている
「騎士はまだ何人も居るぞ」
体の半分が魔法で怪我をしながらも、僕らに言い放った
「貴様みたいな欠陥品や魔物なんぞ、この世界にいらん!?まとめて粛清してくれる!?」
と、騎士が更に6人はいた
槍を持っているのは、もういなかった
つまり、僕に槍を刺した後、直ぐに放したのだろう
腹が熱い
でも…
「黒勇者は…僕が守りきる!?」
僕に出来ること、僕がしたいことなんて、それしかないのだから
「あ、あぁ…」
彼女が、後ろで泣きそうになっている
「心配、しないで…ください…」
努めて、僕は普段どおりに言う
「貴女、には、指、一本触れ…させません」
もはや虚勢であるが、構わない
僕は剣を構え―――
「許さない」
と、後ろから恐ろしいまでに怖い声が聞こえてきた
「貴方達、許さない…」
と、騎士たちが突然倒れ始めた
顔が恍惚としているが…
と、僕の意識も遠のき始めた
デモ、カのジょをマモラない、ト…
・・・
「気がついたかしら…」
目が覚めると、僕はどこかの部屋に寝かされていた
「く、黒勇者…」
僕は起きようとするが、彼女が制止する
「まだ傷が癒えてないわ。無理はダメよ」
と、見てみると、腹に大量の包帯が巻かれている
―――あの後、いつも通り転送魔法を使い、僕を自分の砦まで運でくれたそうだ
そして、怪我の治療も…
「…なぜ、私を」
「言ったでしょ?貴方に笑ってもらいたいし、貴方の本当の魂の色を見たいのよ」
そう、微笑んでくれた
「…に、しても」
と、彼女がいたずらっぽい笑みに変わる
「『私』じゃなくて、本当の自分の言い方してほしいなぁ〜」
そう、いたずらっぽく微笑み、頬を赤らめている
―――可愛い
今まで美しい印象だったのが、とても可愛らしい女性に、見えてしまった
「…」
だけど、僕は答えない
見ほれているのと同時に、恐怖も感じた
「…なんて、ね」
と、彼女がまた美しい笑みに変わる
「私、リリス=ファストサルド」
手を伸ばし、握手を求める
「…名前は、もうないんです」
僕は、応じられなかった
僕には、名前がないから
「勇者になると同時に、名前はNo.93かDespairLanceしかなかったですから」
僕は、俯くしか、出来なかった
「…なら、私から送らせて」
彼女は、突然言う
「今後、未来の旦那様を名前で呼べないのは不便だわ。だから…ホープ」
「ホープ…?」
「貴方のDespairの対義語、希望って意味よ」
「それは…」
そんな大層な名前、僕にはふわしくない
そう言おうとした時だった
「貴方は、今まで、自分を殺してまで『勇者』を演じ、皆を私に助けさせたわ。…そんな貴方が、私には希望に見えてたのよ」
横になっている僕にもたれ掛かりながら、彼女は言う
「白と黒、反する色だし意味も異なるけど…」
一呼吸してから、彼女は告げる
「私達は、同じ勇者なんだから、貴方は『希望』で間違いないわよ」
そう、微笑んでくれた
〜〜〜
かつて、白き勇者と黒き勇者が長き戦いをしていたそうだ
白き勇者は、秩序の為
黒き勇者は、自由の為
立場は違えど、互いに慈愛の心、そして
本当の勇気をもった、素晴らしい勇者だった
しかし、ここで疑問が残る
果たして、どちらが正しかったのか?
また、二人が協力すれば、世界は―――
どんなに素晴らしくなっていくのか
〜〜〜
僕は、空を見ている
こんなに穏やかに、空を見られるのは、初めてかもしれない
「そんな所で一人じゃ、寂しくないかしら?」
と、ジパングの着物をきたリリスが、僕の横にきた
「いえ、空を見てましたから」
「…私より、空のほうが魅力的?」
彼女は拗ねたように聞いてくる
答えなんて、わかってるくせに…
「…貴女より魅力がある物なんて、ほかにないじゃないですかリリス」
「フフッ」
彼女は笑ってくれた
「ジパングも、良い所ですね…」
「私も、お気に入りなの♪」
怪我の療養でジパングに滞在しているが、季節の移り変わり、風の優しさが、リリスに似ていい場所だ
「ここの安らぎは…まるで貴女のようですね、リリス」
「…///」
ふと、リリスを褒めるとこうやって照れてしまう
まるで綺麗な夕暮れを見ているみたいで、本当に美しい
―――そして、可愛らしい
「僕は、永久に貴女を愛しますよ」
「…私もよ、ホープ」
風が、優しく僕らを包む
「これは、聖なる裁きです」
彼女達は、彼女の夫達は震え上がる
「人間だった頃から、貴方達も同じ事をしてきたでしょう?」
その顔は絶望に染まり
「それが、自分に降りかかっただけ、でしょう」
全てを諦め始めている
「仮に、元から魔物だったら、余計に許されるわけがありません」
―――あぁ、早く
「今、私が」
―――僕を、止めてくれ
「断罪してあげましょう」
―――早く!?
「死ね!?」
僕は、剣を振り下ろす
―――ガキン!?
が、その剣は何者かに阻まれ、金属同士のぶつかり合う音を奏でる
「…そう、簡単に人を殺したらダメなんじゃないかしら?―――白勇者、さん」
「現れましたか」
―――来てくれた
―――僕は、貴女を待ち焦がれていたんだ
「―――黒勇者」
・・・
〜〜〜
いつからか、教団内で噂になっている存在がいた
白銀の髪と翼をもつ、黒い衣の剣士
魔物達からは、尊敬と、教団への哀れみをこめて、こう呼ばれていた
―――黒勇者、と
〜〜〜
「…で、また邪魔をするのですか、貴女は」
内心では、邪魔をしてくれたことに感謝しながら、彼女に言い放つ
「貴方が、本当に勇者として活動してくれれば、私も邪魔はしないわよ」
彼女は言いながら、その細身の剣を構える
―――美しい
僕は思わず思ってしまう
―――その、弱き者の為に戦う姿も
―――その、華奢ながらも凛とした闘志も
―――隙もなく構える、その姿も
全てが、僕には美しく見えた
「…貴女ならわかるでしょう?人間と魔物は相反する存在。互いに憎みあい、殺し合い、滅ぼしあうのが本当の姿だと」
そんな、思いもしていないことでも、言わなければならない
―――僕は、勇者なのだから
「…それを本心から言ってるなら、もっと簡単に倒しやすいのに」
彼女に対して、僕も構え始める
彼女の剣と違い、太く、一見すると板にしか見えない、長方形の僕の愛剣を
「…っと、もういいかな?」
と、彼女を中心に魔方陣が展開していく
「!?…させるか!」
意図に今更気付いた僕は走り出し、彼女に斬りかかる
が、それでも間に合わず
「―――ごめんね、次こそは」
彼女は、村人達とどこかにいってしまった
・・・
『また任務に失敗したのか!?』
「申し訳ありません、大司教」
僕は任務の結果報告をしている
僕を管理している大司教に
『貴様、何度失敗すれば気が済むのだ!?それでも洗礼を受けた勇者か!?』
僕は何もいえない
『この役立たずが!?』
と、持っていたコップをこちらに投げてくる
が、当たらない
そもそも遠隔通信の水晶越しなのだから当たり前だ
『貴様ごときの為に、騎士団まで使わせているのだぞ!?』
「真に、申し訳ありません」
そもそも、僕の考えと似た騎士団なので、教団でも階級も待遇も劣悪だが
『そんな事だから、村も壊滅し、親に売られるのだぞ!?「No.93」!?』
「!?…仰る、通り、です」
『もっと励め!?もっと教団の為に働け!?それ以外、貴様に存在価値なんぞないのだぞ!?』
そう言って、一方的に通信を切る大司教
「…終わったかい、大将」
「今、終わりました…」
声を掛けてくれたのは、騎士団の騎士団長を務める、フォーエンバッハさんだ
彼は、今の教団に疑問を持つ、数少ない騎士の一人だが、魔物に弟さんを殺されたか奪われたかしている
その為、魔物を敵として見ている部分もあり、その事で苦しんでいる
―――いや、彼だけじゃない
僕が率いる、フォーエンバッハさんの騎士団『第7自由騎士団』には、同じように魔物に何かしらの考えを持って苦しんでいる人が殆どだ
「…大将、仕方ないことですよ。そもそも今回ばかりはあの黒勇者の言う通りだと思いますぜ」
「ですが、彼らは魔物と共に…」
そう言って、僕らは無言になる
「大将、このままだと「解っています」
僕は遮り、彼に言う
「次こそは、黒勇者もろとも、魔物を退治し、任務を完遂します。…それが勇者である、私の存在価値ですから」
「…俺が言いたいのはそうじゃなくて!?これ以上はアンタの心が「そんな物は、必要ないんです」
また遮り、彼に告げる
「私に必要なのは、任務を完遂する事。それ以外なんて…なにもいらないんです!?魔物を殺す以外なんて、必要ないんですよ僕には!?」
息を荒げながら、僕は続ける
「僕には!?そうして貴方達の地位も向上させないといけないんです!?魔物を一人残らず殺しきらないといけないんです!?それ以外の存在価値なんて!?いらないんですよ!?」
「大将…」
「…醜態をさらしました。私は鍛錬をする為に外に居ます。…他の方は休ませて上げてください」
「でも、アンタがいちば「これは、命令です」
彼が言い切る前に、命令とだけ告げ、僕は外に出た
・・・
外に出てから、僕は素振りをする
雑念を、魔物化した人を見捨てられるように、心を強くするために
「ハッ!?…セイッ!?」
そして、僕の心に奥にある、僕の戦う理由を、思い出す為に
〜〜〜〜〜〜
元々、僕は南の地方の小さな村の住人だった
父と母と、仲良く暮らしていた
暮らしていける、筈だった
近くの村に、ホーネットが住み始めた
そのホーネット達は、あろう事か村の男達をさらい始めた
その中に、父もいた
それからは村の収入も減り、近くの村の乞食をしたり、娼婦まがいの事をして暮らす人が殆どになっていた
そんな生活に嫌気がさした母は、せめて僕だけでもいい生活をと思ったのか、教団に僕を預けた
―――いや、美談にするのはよそう
売ったのだ
その手に、金が入っているだろう袋を受け取っているのを、僕は見たのだから
それからの人生は、悪夢だけだった
〜〜〜〜〜〜
「勇者様」
僕が素振りをしていると、声を掛けてくる女性が居た
「シスター…どうかしましたか?」
僕らの騎士団の治療をする為に教団から派遣されてきた、僧侶の女性
…確か、フォーエンバッハさんと仲がよかったのは覚えている
「騎士団長から、そろそろ戻ってほしいとの事で…」
そんなに長い時間素振りをしていただろうか?
「…わかりました」
そう、剣を収めようとした時だった
―――ガサリ
近くで、何かが動いた
「ハァ…ハァ…」
出てきたのは、村娘のような少女だ
「貴女、どうかしたの?」
と、シスターが近づいていく
「…!?シスター!それはローパーです!?」
「え?」
シスターが声を上げるのと同時に、彼女から出ていた触手が更に出て、シスターを襲う
「いやあぁぁぁぁ!?」
シスターも抵抗するが、ほぼ無意味だろう
「ごめんなさい…ごめんなさい…」
ローパーがうわ言の様に言いながら、シスターに卵を植え付けようとしている
「放せ!?この…魔物がぁ!?」
そう言いながら、僕は剣を横薙ぎに振り、ローパーを切り捨てる
ローパーは流石にダメージがデカかったのか、一撃で吹き飛び、倒れている
「…ごめん」
そう言いながら、僕はそのローパーを葬った
・・・
「卵を、植えつけられていますね」
それは、他の騎士が検査薬を使った、結果だった
「そんな…」
自分の事のように、嘆くフォーエンバッハさん
「どうしよう、カリム…」
「なぁ、大将。シスターを、エリスを助けられないのかよ!?」
フォーエンバッハさんとシスターが僕に懇願してくる
「…何を言ってるんですか?」
「「え?」」
僕が二人に声を掛けると、二人は声を出す
「フォーエンバッハさん、『それ』はもう、魔物なんですよ」
僕は剣を抜きながら、彼に伝える
「!?大将、な、何のまねだよ…」
「シスターエリスは、ローパーになった。つまりは…」
僕は、わざと溜めて言う
彼に、恨んでもらえるように
来る筈がない彼女が来るのを待つ為に
「それは、もう敵なんですよ」
「大将ぅ!」
フォーエンバッハさんが剣を抜く
当然だろう
―――愛する人を、守るのが騎士の役目なのだから
だが、僕は彼を追い詰めないといけない
この騎士団に見限ってもらう為に
―――この騎士団が、僕の敵になる為に
「なぜ、今更『魔物』を庇うんですか?」
「!?」
僕は努めて、冷静に、そして時間を稼ぐように、彼に言う
「今までだって魔物化した女性を何人も殺してきたじゃないですか?その中にシスターエリスが加わるだけですよね?何の問題がありますか?」
「そ、れは…」
「カリム…」
ここまで言っても、フォーエンバッハさんはシスターから離れない
そこまで愛し合ってる仲なのだ
―――正直、羨ましい
「シスターも、今まで直接手を下さなかっただけで、これに加担してたんですから、文句ないですよね?」
「わ、私…」
―――あぁ、神よ
―――貴方は、僕から大切な人をどれだけ奪えば気が済むのですか
―――この人たちを、助けたい
―――でも、勇者の『私』が
―――村を滅ぼされた『ぼく』が
「今更それで命乞いだなんて…」
―――それを許してくれない
「図々しいにも、程がある」
そう言いながら、フォーエンバッハさんに一撃を打ち込む
「グハッ!?」
「カリム!?」
シスターは直ぐに彼の元へ行く
「他の騎士達も、動かず見ていなさい。…これが、僕達の仕事なんですから」
そう、彼らに命令しながら僕はゆっくり二人に近づく
「せめて、一撃でラクにして…あげますよ!?」
そう言いながら、僕は振り下ろす
―――ガキン!?
また、金属に阻まれ、この悪の刃を弾いてくれた
「あなた、それでも…勇者なの!?」
「私の使命は、魔物を殲滅することですよ。黒勇者!?」
また、彼女は救ってくれた
・・・
「…貴方、自分のしようとした事がわかってるの?」
黒勇者が、僕に問いただす
「魔物と、背信者の粛清ですが、なにか?」
『勇者』としての、僕は告げる
「…さっきまで、仲間だったんでしょ!?なんで簡単に「それが、私の使命ですから」
彼女の言葉を遮り、それだけ告げると、僕は構える
「他の騎士達は手を出さないように。…貴方達では、無駄な犠牲になります」
そんな事はない
彼らは、そこらの騎士の何十倍も強い
けど、その力を―――
「私以外、本来必要ないんですから」
―――教団の為に振るわせていいのか、僕にはわからなかった
「…とんだ自信家ね」
彼女は激しく怒っているだろう
こんな格下になめた態度を取られているのだから
「ただの事実、です」
僕達は構え、対峙する
こんな茶番、とっとと終わらせよう
―――彼女の、勝ち、で
「てりゃぁ!?」
僕は自分から斬りかかる
まるで初心者が斬りかかる様に周りからは見えるだろう
事実、僕は自分から斬りかかる事に関しては素人以下、才能すらないだろう
「…フッ!?」
簡単に
「ぐっ!?」
彼女に防がれ、挙句、倒され
「これでチェックメイト、かしら?」
簡単に剣を首に当てられるのだから
「…殺しなさい、魔物」
僕は、告げる
内なる願いを込めて
「…なんで、こんな茶番を?」
「なんのこt「貴方、わざと負けてるでしょ?」
僕は背筋が凍った
「貴方と何回戦ってると思ってるの?…貴方が自分から攻めるのが大の苦手な事位、私でも見抜けるわよ」
僕は、俯き、なにもしゃべれない
「…ま、予想は出来るわよ。大方、この人達を親魔物領に連れて行かせるのが目的でしょ?」
「…ただ、足手まといがいらないだけです」
僕は、俯きながら、みんなにそう告げる
いや、そう告げないといけない
「魔物と戦う事に疑問を持った兵士など、教団には必要、ないですから」
「…」
彼女は何もしゃべらない
しゃべらず、黙って剣を収め
「なら、この人達連れて行くから」
と、転移魔法を使って、みんなを連れて行った
「これで、よかったんだ…」
僕は、誰もいないその場で、そう呟いた
・・・
「貴様、もう一度言ってみろ…!」
大司教に事の顛末を報告していた最中の事だった
「『第7自由騎士団』は、魔物の手におちてしまい…グッ」
言っている最中に蹴りを食らった
「なにをしているんだ!?この役立たず!?」
何回も、何回も、僕は蹴られる
「も、申し訳…」
「貴様を育て!?勇者にしてやり!?挙句勇者としての異名と!?番号をくれてやったのに!?このザマはなんだ!?」
僕は暴力を受けながら、大司教の言葉を聞く
「貴様に、DespairLance(ディスペアランス)の称号と!?No.93の番号をくれてやった恩を!?忘れたのか!?」
大司教に踏み付けられながら、僕は話を聞くしか出来なかった
「貴様に!?CounterReflect(カウンターリフレクト)をくれてやったのも!?忘れたのか!?」
「申し…訳…」
しばらくすると、暴力は無くなっていた
「誰か!?これを牢屋にでも入れておけ!?」
その声の後、衛兵達が入ってきた
「…大司教、この方は」
「任務に失敗したんだ、しばらく懲罰房か牢にでも入れておけ」
それを、黙って聞くしかなかった
・・・
「これで、全員かしら?」
私は、連れてきた騎士団の皆に聞く
「これで全員、です…」
みんなショックを隠しきれない
当然だろう
嘘とは言え、信頼していた人間から不要などと言われたら、誰でもそうなるだろう
「一人怪我をしてたみたいだけど…」
「俺は大丈夫だ」
と、この騎士団の騎士団長の人がなんとか立ち上がる
「カリム、無理は…」
「エリス、大丈夫だ。…大将、かなり加減してくれたみたいだからな」
そうだろう
本来、身の丈もある板で殴られたような物だ
こんな、軽症の筈がない
「やっぱり…あの子は…」
「黒勇者、お願いがあるんだ」
と、突然騎士団長さんが私に話しかけてきた
「大将を…あの子を救ってやってくれ!?」
と、突然座り込み、頭を下げて頼んできた
「え!?ち、ちょっと!?」
と、私が混乱していると彼は言った
「もう、あの子が自分を殺していくのを…見てられないんだ!?」
涙を流しながら、嗚咽しながら、彼は確かに言った
「…詳しく、聞けるかしら」
〜〜〜〜〜〜
思えば、この任をお母様から授けられた時からの縁だった
「貴方が、白勇者ね!?」
「貴女は?」
「私は黒勇者!?」
恥ずかしげもなく彼にそう名乗った時の、彼の顔
―――まるで、待ち焦がれた英雄をついに見れたようだった
〜〜〜〜〜〜
「…つまり」
「あの子は、本当は魔物だろうが人間だろうが傷つけたくないんだ…」
騎士団長さんから聞いたそれは、とても悲しい彼の記録だった
元々、彼は地方のホーネットの行き過ぎた行為で両親を無くし―――
更には教団からはモルモットとして扱われ―――
任務を失敗するたびに―――
聞いていて、気分が悪くなる話しか、なかった
彼は、魔物を殺したくない
でも、それを自分自身が許せない
そして…
「勇者なんて言われてるが、実際はただの実験経過を見る為のモルモットでしかないんだ」
目の前の男から聞き出した、彼の悲しみの正体
「名前でなんて呼ばれない…番号がある事で優劣を決められる、商品みたいなもんでよ…しかも」
彼が呼ばれていた名前
DespairLanceは、ただの番号と、同意義だった
「DespairLance、絶望を与える槍」
私は呟く
絶望を、彼が?
彼が、いつ、絶望を与えていた?
彼は―――
みんなを笑顔にしようとしてなかったか?
「…けないで」
不意にこぼれる、私の感情
「ふざけないで!?」
「ひっ!?」
他の魔物娘達も、騎士団の人達も、皆怖がってしまっていた
が、構わず続ける
「なにがDespairLanceよ!?あの子が、彼がどれだけ皆に、希望を与えようとしたと思うのよ!どれだけ、その為に傷ついたと思うのよ!?」
私は、堪えられなかった
「どれだけ…ヒック…傷つけちゃった、のよ…」
〜〜〜〜〜〜
「くっ!?」
「今回も、私の勝ちね!?」
この時には、確か魔物娘をどこかに運ぼうとしていた、その時の護衛だったようだ
子供ばかり捉えて、汚い人間達だ
「皆、大丈夫だった?」
「うん!?白い服のお兄ちゃんがご飯くれたから!?」
「え?」
〜〜〜〜〜〜
「どれだけ…辛かったのよ…」
〜〜〜〜〜〜
「今回は、共同でするわよ」
「魔物と手を組みたくはありませんが、皆を守るためです。…今回だけですよ」
その時は、魔女が魔法具を暴走させてしまった時だったか
彼は、私が怪我をしないように、守ってくれていた
〜〜〜〜〜〜
「どれだけ…優しくしてるのよ…」
〜〜〜〜〜〜
人間達が、私を捕まえる為に、こんな罠まで…
―――バキン!
「…以前の借りは、確かに返しましたよ」
そういって、彼は私を逃がした
〜〜〜〜〜〜
私は、彼との記憶を思い返し、更に泣いた
あの時から、彼はずっとSOSを出していたんだ
あの、最初の時から―――
・・・
「ごめんなさいね、取り乱して…」
私は、皆に謝罪する
勝手に取り乱し、挙句みんなに心配掛けたのだから
「俺らはどうって事ねーよ」
『おぅ!?』
騎士団の人達は言う
「我々も、驚きましたが…大丈夫です」
「寧ろリリス様、もっとみんなを頼っていいんですよ」
魔物娘達も、言ってくれた
「ありがとう…」
私は、皆にお礼を言う
「これより、リリス=ファストサルドの命により…彼を救出するべく行動します!?」
おぅ!?
そう、みんなが叫んでくれた
―――私が指示を出す、この砦の皆に、先ほどの話をした
した所、皆が協力してくれることになった
中には、かつて彼にご飯を貰ったという魔物娘も居たらしい
他にも、彼が長い演説をして、わざと私を来させようとした事実をしってくれた魔物娘も居た
だが、だからこそ私は思った
「全軍は簡単な陽動後、即撤退!…救出は、私一人で行います」
周りから、反対意見が出るのは承知だった
だが、私は皆に言う
「彼の、『心』も救出しないと…だから、私は単身で彼を説得してきます」
―――反対意見は、押し黙ってくれた
・・・
目を覚ますと、僕は懲罰房のベットの上だった
武器とかはそのままで、懲罰房に入れられている
正直、もう慣れた事だ
大司教に暴力を振るわれ、ここに入れられ、その後は実験―――
もう、いつもの事だった
―――ドォン
遠くから、砲台の音が聞こえる
外で戦闘でも行われているのだろうか
―――カチャ!
と、後ろの扉の鍵が開いた
「…実験ですよね。今から向かいます」
そう、告げて振り向いた先には―――
「そんな事、もうさせない…」
黒勇者が、立っていた
・・・
「なんで、貴女が…」
僕は驚愕しかしなかった
ここに、魔物が入ること自体問題だし、なにより、彼女が危ない
「貴方を、連れ出す為よ」
彼女は、きっぱり言い放った
「…解ってるんですか?私は、貴女の敵なんですよ?」
「えぇ。…自分を押し殺して、勇者を演じてるのも、貴方の村のことも」
…恐らく、フォーエンバッハさん達だろう
「なら、なぜ…」
「…貴方の魂が、綺麗なのに、悲しい色だから」
彼女は続ける
「貴方はとても慈愛に満ちた色をしている。…なのに、同時にとても冷たい、暗い色もしている。…その色を見ていて、私も辛かった」
僕は彼女の言葉を聞く
「貴方の、本当の色を―――」
「そこまでだ」
突然、彼女の言葉を遮り、彼女は拘束魔法で拘束された
「残念だったな、魔物」
―――大司教が、そこに立っていた
・・・
「さぁ、No.93!?その魔物を殺すのです!?」
大司教が叫ぶ
「貴様は、魔物に絶望を与える『だけ』の槍、DespairLanceの称号を持つ勇者なのだ!?それ以外に、存在価値などないのだぞ!?」
何度も聞かされたその言葉
そう、僕は…
「そんな事ない!?」
と、彼女が叫ぶ
「貴方は、皆に希望を振りまく事もしてきた!絶望なんて、殆ど振りまいてない!」
「ほざけ魔物が!?No.93、魔物の言葉など聞いてはならん!?」
「私は!?貴方に、笑ってもらいたいのよ!?」
「これに!?感情なんていらんわ!?」
二人がしゃべっている言葉に、僕は揺れる
昔から言われ続けた、呪縛と
初めて言われた、祝福と
二つが、僕の中に存在する
「えぇい!?こんなゴミ位、わしが片付けてくれるわ!?」
そう言って、彼女に魔法が放たれる
「!?」
気がついたら―――
・・・
彼を束縛する男が魔法を放った瞬間、私は目を瞑ってしまった
―――これで、もう彼に話しかけられないんだ
そう思いながら、魔法を受ける覚悟をしていた時だった
―――パキィン!?
ガラスが割れるような、何かが打ち返される音が目の前でした
「…」
「どういうつもりだ!?」
目を開くと、彼が目の前に立っていた
「彼女は…本当の勇者は…傷つけさせない!?」
彼は愛剣を構え、そう宣言した
「血迷ったかNo.93!?貴様にはそのCounterReflect以外、戦闘方法がないだろうが!?」
CounterReflect、魔法をそのまま打ち返す技法らしいが…
「えぇ、そのお陰で戦えます」
そう、力強く彼は言う
「なら、その魔物を守りながら…死ねぇ!?」
そう男が言うのと同時に、魔法が飛んできて、更に騎士が何人か飛び出してきた
この波状攻撃では、彼も―――
「セイッ!」
と、男が放った魔法をそのままカウンターし―――
「グハッ!?」
「ぐげっ!?」
「ゴフッ!?」
きた騎士たちも、全員カウンターで倒してしまった
「CounterReflect。これのお陰で僕はカウンター技が上手くなりました」
と、私の拘束魔法も解ける
「さぁ、これでにげ―――」
彼が言い終わることは、なかった
・・・
「さぁ、これでにげ―――」
そう言い切ろうとした時だった
僕の腹に、何本かの槍が刺さったのは
「く、くくく…」
大司教が笑っている
「騎士はまだ何人も居るぞ」
体の半分が魔法で怪我をしながらも、僕らに言い放った
「貴様みたいな欠陥品や魔物なんぞ、この世界にいらん!?まとめて粛清してくれる!?」
と、騎士が更に6人はいた
槍を持っているのは、もういなかった
つまり、僕に槍を刺した後、直ぐに放したのだろう
腹が熱い
でも…
「黒勇者は…僕が守りきる!?」
僕に出来ること、僕がしたいことなんて、それしかないのだから
「あ、あぁ…」
彼女が、後ろで泣きそうになっている
「心配、しないで…ください…」
努めて、僕は普段どおりに言う
「貴女、には、指、一本触れ…させません」
もはや虚勢であるが、構わない
僕は剣を構え―――
「許さない」
と、後ろから恐ろしいまでに怖い声が聞こえてきた
「貴方達、許さない…」
と、騎士たちが突然倒れ始めた
顔が恍惚としているが…
と、僕の意識も遠のき始めた
デモ、カのジょをマモラない、ト…
・・・
「気がついたかしら…」
目が覚めると、僕はどこかの部屋に寝かされていた
「く、黒勇者…」
僕は起きようとするが、彼女が制止する
「まだ傷が癒えてないわ。無理はダメよ」
と、見てみると、腹に大量の包帯が巻かれている
―――あの後、いつも通り転送魔法を使い、僕を自分の砦まで運でくれたそうだ
そして、怪我の治療も…
「…なぜ、私を」
「言ったでしょ?貴方に笑ってもらいたいし、貴方の本当の魂の色を見たいのよ」
そう、微笑んでくれた
「…に、しても」
と、彼女がいたずらっぽい笑みに変わる
「『私』じゃなくて、本当の自分の言い方してほしいなぁ〜」
そう、いたずらっぽく微笑み、頬を赤らめている
―――可愛い
今まで美しい印象だったのが、とても可愛らしい女性に、見えてしまった
「…」
だけど、僕は答えない
見ほれているのと同時に、恐怖も感じた
「…なんて、ね」
と、彼女がまた美しい笑みに変わる
「私、リリス=ファストサルド」
手を伸ばし、握手を求める
「…名前は、もうないんです」
僕は、応じられなかった
僕には、名前がないから
「勇者になると同時に、名前はNo.93かDespairLanceしかなかったですから」
僕は、俯くしか、出来なかった
「…なら、私から送らせて」
彼女は、突然言う
「今後、未来の旦那様を名前で呼べないのは不便だわ。だから…ホープ」
「ホープ…?」
「貴方のDespairの対義語、希望って意味よ」
「それは…」
そんな大層な名前、僕にはふわしくない
そう言おうとした時だった
「貴方は、今まで、自分を殺してまで『勇者』を演じ、皆を私に助けさせたわ。…そんな貴方が、私には希望に見えてたのよ」
横になっている僕にもたれ掛かりながら、彼女は言う
「白と黒、反する色だし意味も異なるけど…」
一呼吸してから、彼女は告げる
「私達は、同じ勇者なんだから、貴方は『希望』で間違いないわよ」
そう、微笑んでくれた
〜〜〜
かつて、白き勇者と黒き勇者が長き戦いをしていたそうだ
白き勇者は、秩序の為
黒き勇者は、自由の為
立場は違えど、互いに慈愛の心、そして
本当の勇気をもった、素晴らしい勇者だった
しかし、ここで疑問が残る
果たして、どちらが正しかったのか?
また、二人が協力すれば、世界は―――
どんなに素晴らしくなっていくのか
〜〜〜
僕は、空を見ている
こんなに穏やかに、空を見られるのは、初めてかもしれない
「そんな所で一人じゃ、寂しくないかしら?」
と、ジパングの着物をきたリリスが、僕の横にきた
「いえ、空を見てましたから」
「…私より、空のほうが魅力的?」
彼女は拗ねたように聞いてくる
答えなんて、わかってるくせに…
「…貴女より魅力がある物なんて、ほかにないじゃないですかリリス」
「フフッ」
彼女は笑ってくれた
「ジパングも、良い所ですね…」
「私も、お気に入りなの♪」
怪我の療養でジパングに滞在しているが、季節の移り変わり、風の優しさが、リリスに似ていい場所だ
「ここの安らぎは…まるで貴女のようですね、リリス」
「…///」
ふと、リリスを褒めるとこうやって照れてしまう
まるで綺麗な夕暮れを見ているみたいで、本当に美しい
―――そして、可愛らしい
「僕は、永久に貴女を愛しますよ」
「…私もよ、ホープ」
風が、優しく僕らを包む
11/06/28 14:39更新 / ネームレス