強者と弱者の境界線
―――俺は歩く
ただ、ひたすらに
満身創痍の体を引き摺り、ひたすら歩く
「くそ…奴ら…裏切りやがって…」
よくある話ではあるが、自分に無縁だと思ってた話
―――他の傭兵と、クライアントの裏切り
まさか、信頼を獲得してると思ってたんだが…
俺は、歩き続けた
・・・
『ここら一帯の魔物の討伐』
それが俺が受けた依頼だった
恨みはないが、こちとら生活もかかってるんだ
人だろうが、魔物だろうが、命の重さは変わらない
だからこそ、俺は双方から仕事を請けることを信条にしている
じゃないと、妄信してしまいそうだから
前回は魔物から依頼を受けたから、今回は人間から
そう考えていた…
が、まさかこれが俺を殺そうとする為の罠だなんて、誰が思うよ
まぁ、返り討ちにしたからいいんだが…
だが、今更になって、毒とかが体に回り始めたり、細かい傷が痛み出したりしたのか…
更に追い討ちを掛けるのが、近くに街はなく、しかも馬車で来てたがそれも馬が逃げて使えない状態だったって事だ
お陰で、俺は歩くことを強要された状態になる
―――正直、何時倒れるかわからない状態だ
俺は自身の死を実感し始めた
―――あぁ、俺もここで死ぬのか
―――今まで、奪った命の分も生きられずに
―――こんな簡単に、死んじまうのか
そう、思いながら、俺は歩いた
・・・
歩き続けた俺は、疲弊しきって、倒れる手前だった
そんな時だった
目の前に、一輪の花が見えたのは
「すぅ…すぅ…」
―――いや、一匹のアルラウネだった
「…んにゃ?」
そのまま通り過ぎようとしたが、目を覚ましたようだ
「ぁ〜…おはよう」
「…おはようさん」
今は誰かに構ってる場合じゃない
だから、俺は行こうとしたが―――
「って、貴方その怪我どうしたの!?って行こうとするな!?」
物の見事にツタで捕まった
「…大した怪我じゃない。気にするな」
「いや、止血し切れてないじゃない!?今手当てするから、そのままにしてなさいよ!?」
と、俺を拘束したアルラウネは、近くの薬草とかを使って、俺を治療し始めた
「…こんな怪我して…毒まで…。貴方、いったい何があったの?」
「…仕事、だ」
彼女は治療し、俺はそれを黙って受ける
お互い、たまに言葉が出る以外、言葉は出なかった
「…これで一応治療できたわ」
「…感謝する。礼は、これ位でいいか?」
俺は彼女に金を渡す
「別にいらないわよ。って、貴方もう行く気なの?」
俺は答えず行こうとする
「せめて休んでいきなさいよ。…応急処置しか出来てないんだから」
「…生憎、俺は誰かの世話になっちゃいけないからな」
そう、魔物だろうが、人間だろうが関係なく殺す俺が、誰かの世話になるのは、許されるわけがない
「なにそれ?そんなチンケなプライドで死ぬ気なの!?」
「プライドじゃない。…俺なりのけじめのつもりだ」
彼女は呆れた顔で俺を見ている
「なら…」
「!?」
と、油断していた
彼女のツタに俺は捕らわれた
「私が貴方を『捕まえて勝手に休ませる』のは、問題ないわよね?」
と、彼女が微笑む
―――そんな綺麗な微笑を、俺に向けないでくれ
「あんた、俺が…」
「いいから黙って『捕まって』なさい。…襲ったりしないから」
俺は、仕方なく捕まる事にした
・・・
「はい、私の蜜を薄めただけだけど」
彼女は俺にやさしくしてくれる
彼女の蜜は―――優しい味だ
「なんで…」
「ん?」
俺は疑問だった
例え魔物でも、俺の姿をみたら傭兵なのがわかるだろうに
「なんで、お前は…」
俺は、助けられる資格なんざないだろうに
「俺を、助けたんだ?」
「怪我してる人間を見捨てるほど、腐ってないだけ」
「お前は…俺が怖くないのか?」
少なくとも、武装してる人間は怖いだろう
普通なら、そのはずだ
「寧ろ怖がってるのは貴方でしょ?」
意味が解らない
「人からの好意が怖いんじゃないの?それを受ける事で、自分の罪から逃げるとか、そんな考えを持ってるんでしょ?」
俺は絶句した
「貴方がどんなことをしてきたのかわからないわ。でも、泣きそうな人を見捨てるのは私の趣味じゃないわ」
「お、れは…」
気がついたら、俺は泣いていた
「今だけでも、私は貴方の味方よ」
彼女は、俺を受け止めてくれた
・・・
あれから2週間―――
俺は彼女の世話になっている
怪我は着実に治ってきているし、彼女といると楽しい
が、俺は不安になる
この幸せが壊れてしまわないか
俺が、幸せになる権利があるのか
俺はうなされる
昔、命を奪った連中の、死に顔がでる
うなされる俺を、彼女は心配してくれる
彼女に、心配をかけてしまう
・・・
さらに2週間たったある日の事だった
「見つけたぞ、『虐殺者』」
目の前には、10人はいる教団騎士
「あの後、連絡が途絶えていたが…まだ生きていたか」
騎士共は剣を抜く
「なぜ、魔物の味方をする!?貴様は金次第で、魔物も人も殺すのだろう!?」
「…命に、差はない」
俺は立ち、答える
「なら、金をくれてやる!そのアルラウネを殺「断る」
俺は即座に答える
「彼女は俺を救ってくれた。だから、俺は彼女に手を出さない」
俺は彼女を見る
彼女は俯いていて、何を考えてるかわからない
「俺は、彼女の為に、剣をふろう。」
俺が剣を構えようとした
「あんた達、いい加減にしなさい」
と、気がついたら俺も奴らもツタで巻き付かれた
「まずあんたらねぇ!この人にもう構わないで!?無事に帰りたいならここでイエスって答えなさい!?じゃなけりゃここに来るハニービーに差し出すわよ!?」
教団騎士達に高らかに言う
「次に、あんた!?なにそのぼろぼろの体で虚勢張ってるのよ!?こんな連中私一人で大丈夫なのよ!?」
彼女が泣きながら言う
「…そいつに、そんな感情があるかよ!?」
教団騎士達から声が上がる
「そいつは金次第で魔物も殺す大悪党だ!?」
「金以外の考えなんざないんだ!?」
「意地汚い、欲に塗れた罪人だ!?」
俺は黙って聞く
半分以上は事実みたいなもんだ
「…ちょうど、よかったわ」
と、近くに羽音が聞こえてきた
「ハニービー達…こいつらを持っていっていいわよ」
・・・
彼女がハニービーに教団の連中を持って行かせているうちに、俺は彼女と話すことになった
「…さっきの話、本当なの?」
「あぁ…俺は金次第で、誰とでも争うし、誰でも殺してきた」
俺は彼女に話す
―――俺がかつて殺してきた者達のことを
「最初は14の時だったかな?…戦場で、兵士を何人も殺した。それから傭兵をしながら、色んな戦地を渡り歩いた。…もう15年以上になると思う」
一息ついて、俺は続ける
彼女も黙って聞いてくれている
「いつからか、俺は魔物の事も助けていた。…最初は人間の味方してなかったがな。なんでか、不平等に感じてな」
「不平等?」
彼女が疑問を投げかける
「あぁ、不平等だ。…だってよ、魔物も、人も、みんな生きてるんだろ?それを一方的に殺すのはおかしい気がしたんだ」
俺は続ける
「だから、俺は人間からの依頼も、魔物からの依頼も、交互に受けることにした。…そんな、どっちつかずなんだ、俺は」
彼女は黙って聞いてくれている
「さっきの連中の言うこともわかるさ。結局、どっちからも金を貰ってるからな。だから、俺は金に汚い、罪人なんだろうさ」
「…なにそれ?そんなのおかしいでしょ?」
彼女は言う
「貴方がしてきた事は、確かに酷いことだし、中途半端だし、いろんな人から恨みを買うわ。…でも、貴方は信念を持ってそれをしてきたんでしょ!?なら、なにも変じゃないわよ!?」
続けて、彼女は言う
「もし、貴方を許さない人がいて、貴方が一生許されないなら、私が変わりに許すし、私が一緒に居るわ。…だから、もう自分を責めなくてもいいんじゃないかしら?」
「お前は…俺が怖くないのか!?俺は金次第で誰でも殺してきた傭兵だぞ!?」
「ただ、人のぬくもりを怖がってる人を怖がる魔物なんて、どこにもいないわよ」
彼女は、万遍の笑みで、俺に言い放った
「私は、貴方のことが怖くない」
〜〜〜
かつて、『虐殺者』と呼ばれた傭兵が居た
その傭兵は、金次第ではそんな汚い仕事もこなし、金のためにだけ生きてきたと言われた
が、殆どの人は知らない
彼が稼いだ金の殆どは、孤児院に寄付されている事実を
彼が、自分のような寂しい人間を生みたくないからと、戦おうとしたかつての志を
彼が、人の愛情に飢えていた、事実を
〜〜〜
俺は今も生きている
彼女と共に
かつて出会った、あの平原で
一人だった俺に、ぬくもりをくれた彼女
だからこそ、守りたい
このぬくもりだけは
俺はそう誓いながら、今日も生きている
ただ、ひたすらに
満身創痍の体を引き摺り、ひたすら歩く
「くそ…奴ら…裏切りやがって…」
よくある話ではあるが、自分に無縁だと思ってた話
―――他の傭兵と、クライアントの裏切り
まさか、信頼を獲得してると思ってたんだが…
俺は、歩き続けた
・・・
『ここら一帯の魔物の討伐』
それが俺が受けた依頼だった
恨みはないが、こちとら生活もかかってるんだ
人だろうが、魔物だろうが、命の重さは変わらない
だからこそ、俺は双方から仕事を請けることを信条にしている
じゃないと、妄信してしまいそうだから
前回は魔物から依頼を受けたから、今回は人間から
そう考えていた…
が、まさかこれが俺を殺そうとする為の罠だなんて、誰が思うよ
まぁ、返り討ちにしたからいいんだが…
だが、今更になって、毒とかが体に回り始めたり、細かい傷が痛み出したりしたのか…
更に追い討ちを掛けるのが、近くに街はなく、しかも馬車で来てたがそれも馬が逃げて使えない状態だったって事だ
お陰で、俺は歩くことを強要された状態になる
―――正直、何時倒れるかわからない状態だ
俺は自身の死を実感し始めた
―――あぁ、俺もここで死ぬのか
―――今まで、奪った命の分も生きられずに
―――こんな簡単に、死んじまうのか
そう、思いながら、俺は歩いた
・・・
歩き続けた俺は、疲弊しきって、倒れる手前だった
そんな時だった
目の前に、一輪の花が見えたのは
「すぅ…すぅ…」
―――いや、一匹のアルラウネだった
「…んにゃ?」
そのまま通り過ぎようとしたが、目を覚ましたようだ
「ぁ〜…おはよう」
「…おはようさん」
今は誰かに構ってる場合じゃない
だから、俺は行こうとしたが―――
「って、貴方その怪我どうしたの!?って行こうとするな!?」
物の見事にツタで捕まった
「…大した怪我じゃない。気にするな」
「いや、止血し切れてないじゃない!?今手当てするから、そのままにしてなさいよ!?」
と、俺を拘束したアルラウネは、近くの薬草とかを使って、俺を治療し始めた
「…こんな怪我して…毒まで…。貴方、いったい何があったの?」
「…仕事、だ」
彼女は治療し、俺はそれを黙って受ける
お互い、たまに言葉が出る以外、言葉は出なかった
「…これで一応治療できたわ」
「…感謝する。礼は、これ位でいいか?」
俺は彼女に金を渡す
「別にいらないわよ。って、貴方もう行く気なの?」
俺は答えず行こうとする
「せめて休んでいきなさいよ。…応急処置しか出来てないんだから」
「…生憎、俺は誰かの世話になっちゃいけないからな」
そう、魔物だろうが、人間だろうが関係なく殺す俺が、誰かの世話になるのは、許されるわけがない
「なにそれ?そんなチンケなプライドで死ぬ気なの!?」
「プライドじゃない。…俺なりのけじめのつもりだ」
彼女は呆れた顔で俺を見ている
「なら…」
「!?」
と、油断していた
彼女のツタに俺は捕らわれた
「私が貴方を『捕まえて勝手に休ませる』のは、問題ないわよね?」
と、彼女が微笑む
―――そんな綺麗な微笑を、俺に向けないでくれ
「あんた、俺が…」
「いいから黙って『捕まって』なさい。…襲ったりしないから」
俺は、仕方なく捕まる事にした
・・・
「はい、私の蜜を薄めただけだけど」
彼女は俺にやさしくしてくれる
彼女の蜜は―――優しい味だ
「なんで…」
「ん?」
俺は疑問だった
例え魔物でも、俺の姿をみたら傭兵なのがわかるだろうに
「なんで、お前は…」
俺は、助けられる資格なんざないだろうに
「俺を、助けたんだ?」
「怪我してる人間を見捨てるほど、腐ってないだけ」
「お前は…俺が怖くないのか?」
少なくとも、武装してる人間は怖いだろう
普通なら、そのはずだ
「寧ろ怖がってるのは貴方でしょ?」
意味が解らない
「人からの好意が怖いんじゃないの?それを受ける事で、自分の罪から逃げるとか、そんな考えを持ってるんでしょ?」
俺は絶句した
「貴方がどんなことをしてきたのかわからないわ。でも、泣きそうな人を見捨てるのは私の趣味じゃないわ」
「お、れは…」
気がついたら、俺は泣いていた
「今だけでも、私は貴方の味方よ」
彼女は、俺を受け止めてくれた
・・・
あれから2週間―――
俺は彼女の世話になっている
怪我は着実に治ってきているし、彼女といると楽しい
が、俺は不安になる
この幸せが壊れてしまわないか
俺が、幸せになる権利があるのか
俺はうなされる
昔、命を奪った連中の、死に顔がでる
うなされる俺を、彼女は心配してくれる
彼女に、心配をかけてしまう
・・・
さらに2週間たったある日の事だった
「見つけたぞ、『虐殺者』」
目の前には、10人はいる教団騎士
「あの後、連絡が途絶えていたが…まだ生きていたか」
騎士共は剣を抜く
「なぜ、魔物の味方をする!?貴様は金次第で、魔物も人も殺すのだろう!?」
「…命に、差はない」
俺は立ち、答える
「なら、金をくれてやる!そのアルラウネを殺「断る」
俺は即座に答える
「彼女は俺を救ってくれた。だから、俺は彼女に手を出さない」
俺は彼女を見る
彼女は俯いていて、何を考えてるかわからない
「俺は、彼女の為に、剣をふろう。」
俺が剣を構えようとした
「あんた達、いい加減にしなさい」
と、気がついたら俺も奴らもツタで巻き付かれた
「まずあんたらねぇ!この人にもう構わないで!?無事に帰りたいならここでイエスって答えなさい!?じゃなけりゃここに来るハニービーに差し出すわよ!?」
教団騎士達に高らかに言う
「次に、あんた!?なにそのぼろぼろの体で虚勢張ってるのよ!?こんな連中私一人で大丈夫なのよ!?」
彼女が泣きながら言う
「…そいつに、そんな感情があるかよ!?」
教団騎士達から声が上がる
「そいつは金次第で魔物も殺す大悪党だ!?」
「金以外の考えなんざないんだ!?」
「意地汚い、欲に塗れた罪人だ!?」
俺は黙って聞く
半分以上は事実みたいなもんだ
「…ちょうど、よかったわ」
と、近くに羽音が聞こえてきた
「ハニービー達…こいつらを持っていっていいわよ」
・・・
彼女がハニービーに教団の連中を持って行かせているうちに、俺は彼女と話すことになった
「…さっきの話、本当なの?」
「あぁ…俺は金次第で、誰とでも争うし、誰でも殺してきた」
俺は彼女に話す
―――俺がかつて殺してきた者達のことを
「最初は14の時だったかな?…戦場で、兵士を何人も殺した。それから傭兵をしながら、色んな戦地を渡り歩いた。…もう15年以上になると思う」
一息ついて、俺は続ける
彼女も黙って聞いてくれている
「いつからか、俺は魔物の事も助けていた。…最初は人間の味方してなかったがな。なんでか、不平等に感じてな」
「不平等?」
彼女が疑問を投げかける
「あぁ、不平等だ。…だってよ、魔物も、人も、みんな生きてるんだろ?それを一方的に殺すのはおかしい気がしたんだ」
俺は続ける
「だから、俺は人間からの依頼も、魔物からの依頼も、交互に受けることにした。…そんな、どっちつかずなんだ、俺は」
彼女は黙って聞いてくれている
「さっきの連中の言うこともわかるさ。結局、どっちからも金を貰ってるからな。だから、俺は金に汚い、罪人なんだろうさ」
「…なにそれ?そんなのおかしいでしょ?」
彼女は言う
「貴方がしてきた事は、確かに酷いことだし、中途半端だし、いろんな人から恨みを買うわ。…でも、貴方は信念を持ってそれをしてきたんでしょ!?なら、なにも変じゃないわよ!?」
続けて、彼女は言う
「もし、貴方を許さない人がいて、貴方が一生許されないなら、私が変わりに許すし、私が一緒に居るわ。…だから、もう自分を責めなくてもいいんじゃないかしら?」
「お前は…俺が怖くないのか!?俺は金次第で誰でも殺してきた傭兵だぞ!?」
「ただ、人のぬくもりを怖がってる人を怖がる魔物なんて、どこにもいないわよ」
彼女は、万遍の笑みで、俺に言い放った
「私は、貴方のことが怖くない」
〜〜〜
かつて、『虐殺者』と呼ばれた傭兵が居た
その傭兵は、金次第ではそんな汚い仕事もこなし、金のためにだけ生きてきたと言われた
が、殆どの人は知らない
彼が稼いだ金の殆どは、孤児院に寄付されている事実を
彼が、自分のような寂しい人間を生みたくないからと、戦おうとしたかつての志を
彼が、人の愛情に飢えていた、事実を
〜〜〜
俺は今も生きている
彼女と共に
かつて出会った、あの平原で
一人だった俺に、ぬくもりをくれた彼女
だからこそ、守りたい
このぬくもりだけは
俺はそう誓いながら、今日も生きている
11/06/12 00:16更新 / ネームレス