読切小説
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俺得物語トゥエンティースリー
それは、ゴールデンウィークの終わりの時だった

「良かったら、一緒に遊園地行かない?」

突然のお誘い、デートのお誘いだ
男として、嬉しくないはずがない

そう、本来なら、その筈だ

「…あー、お前女友達と行ったら?」

「みんなデートだって」

「そうか」

「君はどうせ家でプラモデル作ったりゲームしたりしかしてないし、誰かと出かけたりする予定なんてないよね?」

「ないけど…」

「じゃあ決まり」

華の様な笑顔、とは正にこいつのためにある言葉だろう
実際、街中で歩いていれば30分に1回は声を掛けられる

が、俺は心から同情するし、同情してもらいたい

「明日、楽しみにしてるからね!」

―――お前が女の子だったら、なぁ

何が悲しくて男とデートせにゃならんのだ

・・・

幼馴染同士で家も隣、お互いの部屋は窓で行き来出来る位置だ
料理も上手く、裁縫とかも出来るし、可愛らしいという言葉が昔から似合うのだが…
だが、男だ

私服で一緒に歩いていれば兄妹か恋人に間違えられるわこっちもドギマギさせられる事があっても、こいつは男だ

こんな可愛らしくて、マスコット的な扱いを受けていても、男なのだ

「はぁ〜…」

「どうかしたの?」

アニメ声系で、どう聞いても女の子の声にしか聞こえないのに声変わりもしているとかどういうことなんだろう

「いや…お前と遊園地行くのがな…」

「そんなに嫌がらなくてもいいでしょ!失礼しちゃうなぁ…」

「何が悲しくて男二人で遊園地行かなきゃ行けないんだよ…」

なんでも、商店街のくじ引きだかで当てたタダ券が勿体無かったらしい

「だって…折角タダ券当てたんだよ?行かなきゃ損じゃん」

「だったらクラスの連中に売りつけるとか家族に売りつけるとか親戚に売りつけるとかあっただろうに」

「売る事前提なの!?」

「売って金作ってゲーセン行くとかなんか買いに行くとかの方が堅実だっただろうに」

「いや、勿体無いしそれ違法行為だからね!!」

こいつといるの自体は非常に楽しい
俺に突っ込みを入れてくれるのはこいつ位だし、親友と呼べるのはこいつ位なものだ

そういった意味では、一緒に遊園地だろうがスーパーだろうが行くのは全く問題ない
問題ないのだが―――

「まぁ仮に売らなくても他の奴と一緒に行けばよかったじゃねぇか?俺が遊園地とか苦手なの知ってるだろ?」

「…こうでもしないと、引きこもって家からでないでしょ?おばさんも心配してたよ」

これだ

こいつは、自分からどこかに出かける時には必ず俺と一緒にしか行かない
俺と違い友人がいない訳では無く、友人とカラオケとかに行ったりしているのだから、全くをもって余計なお世話で他の友人との時間を潰しているのだ

「それとも…ボクと行くのいやだった?」

おまけにすぐに涙ぐんでこれだ

「…ハァ」

頭をかきながら、バツが悪く言う

「嫌だったらテコでも動かないの知ってるだろ?ただ、俺の引きこもりを理由にされるのが嫌だっただけだよ」

「うわっ!?」

悔しいから、頭を撫でてやる
―――こいつ、男にしては背もちっちゃいし、ちゃんと飯食ってんのか?

「泣きそうにさせて悪かったな、行こーぜ?」

「も、もう!頭撫でないでよ!」

「ワリィワリィ」

なんだかんだ言っても、頭を撫でてやると少しは機嫌を直してくれるし、こいつのその後の笑顔も可愛い
―――って、だからこいつは男なんだって

ガキの頃から続くこの思いを振り払うように、一緒に遊園地に入っていく事にした

・・・

「うぅ〜…」

「いや、これはマジに悪かった」

現在、俺にしがみつく様にしている男の娘風幼馴染
見ようによっては冴えない男が美少女にしがみ付いてる様に見えるだろう

…なぜこいつが女じゃないのか、とか思いながら近くのベンチまで連れて行く

「お前がはしゃいでたし、自分から行ったから大丈夫なのかなと思ってさ」

「うぅ〜…怖かったよぉ〜」

結論から言うと、絶叫マシンに乗って腰を抜かしたのだ

『怖がってたのだって昔の話だよ?大丈夫だって!』

この言葉を信じた結果、想像以上の恐怖を体験し、現状である

「ったく…つまらん見栄なんか張ってどうするんだよ」

「返す言葉もないです…」

「少し横になれよ」

そう言って膝枕をしてやる
―――本当に同じ性別の生き物なのかと思える位軽い
横になっているのを良い事に、俺は頭を撫でてやる
…正直、めちゃくちゃ撫で心地も良いし、髪もサラサラの艶々って奴なのだ

「…あ、ありがとぅ…」

「良いから少し休め」

その時、幼馴染の顔が真っ赤になってたのを、俺は気付かなかった

・・・

「飯、どーする?」

回復した幼馴染と一緒に歩きながら、いくつかのアトラクションを見て回りながら言う

「んー…どうしよっか?」

「一応金は多めに持ってきてるけど…掛からないに越した事はない」

「…ちなみに使い道は?」

「趣味」

本来なら5月以降に来るプラモラッシュの為にとっておきたいが、まぁ今回のように一緒にどこかに行く事は滅多に無いだろうし、たまには奢ってやっても良いかなと思い、多めに持ってきておいたのだ

「はぁ〜…普段学校の昼食代もケチって貯めたの全部持ってきたの?」

「たまには奢ってやろうと思ってな」

「そ、そうなんだ…」

「…なんで照れてんだよ?」

その言葉をスルーしながら、手に持っていたバックから箱状の何かを取り出した

「一応お弁当作ってきてたんだけどね…」

「なら、それとどっかでサンドイッチとか買って一緒に食うか」

「うん!」

そう話しながら、売店のようなところを見つけ、声をかける

「いらっしゃい!ホットドックいかがですか!!」

「あ、二個ください」

「はいよ!…お、カップルかい?ホットドックにソーセージオマケしとくよ!」

俺が声をかけて買った時、売店の店員が言いながら俺らにホットドックを渡してくれた

「まいどあり!」

その声を背に、俺は思う
―――残念ながら、男二人です

実際、こんな勘違いは良くされていた
一緒に映画を見に行ったり、縁日に行ったり…

考えてみたら、俺はこいつとしか一緒に行動したことがない気もする

―――まぁ、得するから良いんだけどな

「ま、また間違えられちゃったね」

顔を赤くしながら小さく言う幼馴染

「…つまりお前女に見られてるんだぞ?良いのかそれは?」

「それはもう諦めが付いてるから…それよりボクが彼女に見られていやじゃない?」

「…もう慣れたし、損はしてないからいいんじゃないか?」


そんな事を話しながら、レジャーシートとかが開ける場所を見つけた

「ここなら食えそうだな」

「そうだね。待ってて、今敷くから」

「お前ホント良い嫁さんになりそうだよな」

バックの中には小さめのレジャーシートとお弁当、そして実は水筒まで持ってきていたようだ

「そういう君はバックに何を入れてるの?」

「趣味」

「…」

「やめろ、いつも通りだからそうとしかいえないのわかってるだろ?」

「ボクがシート持ってこなかったらそのまま座るつもりだったの?」

普段からカバンにはゲーム機や学校で使うノート、その他諸々の色んなアイテムを入れっぱなしにしている為、実際何が入っているかわかっていない

「まぁ、上着くらいは持ってきてるから、それ敷けばお前はよごれねぇだろ?」

今日入れてきたのは夕方位から冷える可能性をみて上着を持ってきたくらいだ

「えぇ!?悪いよぉ…」

「いや…お前地面に座らせるほうが絵的に危ないから…」

少し考えればわかる事だが、見た目美少女のこいつを地面にそのまま座らせるとか、なぜか良心が痛む

「いいから食おうぜ?」

「あっ、うん…」

そう言って、お互いに紙コップを持ち、水筒の中身を注ぐ

「んじゃ、カンパーイか?」

「そうだね…乾杯♪」

嬉しそうに乾杯をしながら、俺は弁当を見てみる

厚巻卵にアスパラガスのベーコン巻き、コロッケにポテトサラダ…
みんなこいつの得意料理であり、地味に俺の好きなラインナップだ

「お、また美味くなったな」

「えへへ、そうかな?」

「そうだよ」

そう話しながら買ってきたホットドックを食べ始める

「んっ…大きいね」

「…そうだな」

なぜだろう、凄く卑猥に見えてしまった

・・・

そろそろ帰ろうとした時の事だった

「あの…観覧車、のらない?」

その言葉を言った時の幼馴染の鬼気迫る表情に、俺は頷くことしか出来なかった


「「……」」


鬼気迫る表情で迫ってきたのだが、いざ観覧車に乗ったら、黙ってしまっている

まぁ、風景も悪くないしそのままで良いんだが…

「お前、なんか言いたいことがあったんじゃないの?」

「…うん」

そう言いながら、顔を俯かせる幼馴染

「あの…その…」

珍しく言い渋る友人を待っていると、俺の耳にある言葉が届いてきた

「ボクは、君が好き」

「…はぃ?」

その言葉に俺は戸惑った

「あ、あぁ…俺も好きだけど…俺の言う好きとお前の言う好きって…」

「多分違うよ…君のはライクでボクのはラブ…のつもりだったよ」

「まぁ…そう、だよな…」

実際、そう言うネタでからかわれた事は何度もあった
―――小学生のときはそういったネタでいじめられていたこいつを俺が庇ってた部分はある
中学からはこいつも女子にモテ初めてそういったのは少なくなったが、それでも改めて考えても俺と一緒にいる事が多すぎたと思う

「…いつから、だよ」

「…小学校、いや幼稚園位から、かな?ボクも良くわかんないんだ…」

「…家族ぐるみで付き合ってきたから、っていう可能性は?」

「…正直それは無いと思う。だって…」

「あぁうん、そう言う事な顔を赤らめんな気持ちはわかる気もするけど今は我慢しろ」

何度かこいつの部屋に遊びに行った事あるけど、確かにエロ本とかもなかったし、こいつ女っぽいところあったし…

「…ごめん、気持ち悪い、よね…」

「…」

俺は何も言えないでいた
漫画とかなら、『そんな事ない!』とか即答できるんだろう
だが、冷静に考えてきちんと答えたい

「「…」」

お互いに、何も言えない
もうすぐ地上が近づいてきている

「…気持ち悪くは、ない」

俺は正直に答える

「正直言えば…俺も、お前が女だったら間違いなく、告白されてホイホイOKしたと思う…」

「うん…」

「たださ、俺なんかより…良い奴きっといるぜ?」

「そんな事!…そんなこと…ないよ…」

こんなやり取りが終わり、俺達は地上に着いた

・・・

あの後、結局お互いに話をせずに家まで帰った

もやもやした感覚は残っている
が、それをどういって良いのかわからない

―――思い返してみても、あいつが俺に好意を寄せてたのは事実なんだろう

けど、俺があいつに好かれる要素ってあっただろうか?
そんな事を考えながら、改めて考える

実際、あいつが女だったら俺はどうだったんだろうか?
惹かれる部分もあるし、女だったらと考えた事も何回もある
だが、それでも…

「やっぱ…ずっと男友達としてみてたもんなぁ…」

そこが引っかかる部分であるのも事実

そんな事を考えていたら―――コンコン
窓からノックする音がし始めた

まぁ、こんな事するのは一人しかいない

「ん?どうしたよ?」

「…」

「お、おい?」

そこに立っていた幼馴染は、顔が俯いて、体が震えていた
さっき別れたばかりなのに無理して会うからだろうか?

「おい、大丈夫なのか?」

「…あのね」

そう言いながら、突然ベットに押し倒された

「なっ…!おま、え…」

「ボク…おんなのこになった、みたいなんだ」

「…は?」

・・・

「…オーケィ、今なんつった?」

「だから、おんなのこになったみたい…なの…」

俺はあきれたとか、困ったとか、そういった感情を顔に出していたのだろう
幼馴染の表情が曇っていくのがわかる
だが、今回は俺は悪くないはずだ

「あのさ…マジに気持ちは嬉しいよ?嬉しいけどな、嘘はダメだろ?」

「う、うそじゃn「いや、どう考えても無理があるだろ?」

涙目になっていくこいつを前にして、罪悪感が出て来ない訳がない
ないが、流石にこの嘘を認めたら、こいつが不幸になる

―――嘘で付き合っても、きっとこいつが傷つくだけだ

「ほ、ホントだもん…ボ、クも…よくわかんないけど…」

上から涙を流しながら俺に伝えようとする
そして―――俺の手を取り、自分の胸に当ててきた

ふにゅん

「…え?」

明らかに、その感触は、男の胸のそれではなかった
こいつはやせ気味の体系で、こんな贅肉あるような感じではなかった筈で…

「帰った後ね…白い髪の人にあったんだ…」

ぽつぽつと言うように、言葉をつむぎ始めた

「その人にね…気が付いたら、君との事を話したんだ…そしたらね…ボクの願いを叶えてくれる、って…」

「…おまえ」

「これくらい、ボク、ホンキ…なんだよ…」

その言葉の重さは、ヒシヒシと伝わってきた

「〜〜〜!あぁ!もぅ!」

もう片方の手で頭をかきながら俺は伝える

「俺も…お前が女だったらって妄想した事は何回もあった」

「ふぇ?」

「だから…お前が女だったらって妄想して…抜いた事もあるって意味だ…!」

顔が真っ赤になっていくのがわかる
だが、ここまできたらもうなんでもござれだ

「実際今日お前がホットドックを食べてるとこで卑猥な妄想したのも事実だし、お前の笑顔にドギマギしたのも事実だ」

でも、と、俺は伝える

「でも、俺はお前の事を男友達としても好きだったし、お前を傷付けたくなかったんだよ…」

紛れもない本音だ

「男同士で恋愛感情なんて沸かなかったし、それがお前が女になったからそうなるって…身体目的にしかならんだろうし…あぁ俺何言いてぇんだかわかんなくなってきたけど…!」

「…大丈夫だよ」

いつの間にか泣き止んでいたらしく、涙目だけど、俺に笑いかけてくれて―――

「色々驚いた事もあるけど、ボクを大事にしてくれようとしてるのも、ボクの事を考えてくれてるのも、そしてやっぱり君が好きなのもわかったよ」

そう言いながら、身体を倒してくる

「本当に…嬉しいんだよ?」

「…俺も、もやもやした気持ちがなくなった」

暫くの沈黙の時間―――
耳を澄ますと階段を上がってくる音が…まずい!

「まずい!母さんが来る!」

「え…!?」

「多分飯できたとかで呼びにくるはずだから、一旦お前帰れ!」

小声でやり取りをしながら窓をあける

「う、うん…」

「えぇっと…とりあえず二時間後!二時間後にまた俺がお前の部屋行くで良いか!?」

「だ、大丈夫のはず」

幼馴染が自室に戻ったのを確認したのと同時に扉が開く

「ごはんできたよー、下にこい」

「す、直ぐ行きます!」

その言葉を聞いて、直ぐに戻っていく母さんを見た後に、俺は窓の方をみる
あいつと、目が合う
お互い窓を開けて、俺は言う

「とりあえず…また後でな」

「う、うん…」

「…まだ色々混乱してるところがあるけど、覚悟決める時間を少しくれ」

自分でもわかっている
様は、俺がびびってるだけなのだ

あいつは、俺のために性別を変えてくれた
それが後々どんな影響が出るのか解らないのに、俺のために変えてくれたんだ
だったら、俺も覚悟決めなきゃならない

「俺は…よわっちいから…少し時間くれないか?」

「それって…ボク、一緒に居ても、いいの?」

そうだ、それも言ってなかったじゃないか
こいつからしたら同性愛者だからドン引きされると不安になっても仕方ない状態だったはずだ

「少しずつ、一緒に…さ?歩くより遅く感じるかもしれないけど…」

また涙目になってる幼馴染をみて、でも俺は安堵した

だって―――華の様な笑顔なんだから






〜〜〜

遠くから、白銀の髪の女性が二人をみていた
いや、女性なのだろうか?

なぜなら―――彼女は浮いていた

空を舞い、かつて少年だった少女の笑顔を見て、小さく良しと言った
その少女から求愛される少年をみて、彼女はまた小さく言った

「後は…時間が解決するしかないわね」

傍目からしたら、初々しいカップルに見えるし、じれったくも見えるだろう
しかし、人それぞれの歩幅がある

二人の歩幅は、きっと周りにはそう見えるのだろう
だが、それでも―――悲劇になる可能性より、ずっと良い

傍からみたら、彼女の行いは独善や偽善だろう
だが、彼女はそれを善しと思っている

「さて、と…サポートする人が増えるのは大変だけど…やっぱり嬉しいな」

そんな言葉を口ずさみながら、彼女は夜の闇に消えていった

〜〜〜

15/05/12 00:02更新 / ネームレス

■作者メッセージ
お久しぶりです、ネームレスです
作品自体書くのが久しぶりですね…

ちょっとリアルがバタバタしたりテンションが低かったり他の趣味にうつつを抜かしていたりしてました


今回のアルプの話自体、ありきたりかもしれませんが、こんな幼馴染がいたらなぁとか思ったりすることがあったりします
ちなみにこの二人はこの後めちゃくちゃ(ry の流れになるでしょうね

短いですが、今回はこの辺で
ここまで読んで頂き、ありがとうございました!

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