死が二人を別けてから
―――ワイワイ
―――ガヤガヤ
沢山の人で賑わい、みんなが楽しく酒を飲んだり料理を食べたりしている
それはとても楽しく、好まれるものだろう
「よっ!飲んでるか!?」
「あぁ、楽しく飲んでるよ」
友人が僕に話しかけてきた
彼には感謝しないといけないだろう
この飲み会も、僕のために開いてくれ、今でも心配してくれているのだから
最も、彼の好意は私にとって、余計なお世話になっているのもまた事実だが…
「で、良さ気な娘は居たかよ?」
「…」
「…ハァ〜」
彼はため息をつきながら言い始めた
「いや、お前の気持ちもわかるよ?でももう新しい出会いに目を向けても…」
「…君には、僕のこの気持ちだけはわからない」
向きになって、強い言葉を使ってしまった
が、どうしても言わなければならなかった
「彼女以外考えられないんだ」
「…どうしようもない馬鹿野郎だよ、お前はさ」
そう言いながらも、彼は理解してくれている
彼は僕と彼女との事をよく知っているからだ
「死んだ女をいつまでも思いながら、ずっと一人でいるつもりかよ?」
「そんな馬鹿が一人くらい、いてもいいだろ?」
「…参った、馬鹿野郎じゃなくて、とんでもない大馬鹿野郎だったか」
「ありがとう、最高のほめ言葉だ」
そう言いながら、互いに酒を飲む
「すみませーん、コープス・リバイバー一つ」
彼が店員にあるカクテルを頼む
持ってこられたそのカクテルを私に渡した
「意味は『死んでもあなたと』だってよ」
「…なるほど、僕にはぴったりだね」
そう言いながら、カクテルを飲む
・・・
彼女と出会ったのは、いつだろうか?
彼女とは幼馴染だった
気が付いたら、一緒にいる事が多かった
小学校、中学校、高校―――
気が付いたら、大学でも一緒にいる事が多かった
お互いに、性的な意識はしてなかった
なかったが、お互いに居心地が良かった
互いに、別の人と付き合ってた時期もあった
それでも、お互い、気が付いたら一緒にいる事が多かった
そして…気が付いたら僕は彼女が好きになっていたんだ
それは彼女も同じだったらしい
なぜなら…お互いに意識した日に僕たちは結ばれたからだ
―――これが、僕たちの幸せの絶頂だったのかもしれない
僕たちが結ばれて、1年か2年たったある日の事だ
彼女が交通事故に巻き込まれた
事故を起こした相手も、その事故で死んでしまった
原因は長時間労働、長時間運転による注意力散漫だったらしい
僕にとってはどうでもいいことだった
事故に巻き込まれた彼女は、植物状態で辛うじて生きていた
生きていたが、彼女は眠り続けた
事故を起こした会社から多少の金銭はもらったが、それでも、植物状態の彼女を生かし続けるには、莫大な費用が掛かる
僕は働いたお金や、貯金の殆どを使ってでも、どうにかしたいと思った
けど、彼女の両親は―――彼女を生かすのを諦めた
『気持ちは嬉しい、君が娘を愛してくれて、本当に感謝している。けど…それで君の人生を縛ったら、娘は悲しむ』
だから、諦めてくれ―――
泣きながら、彼女の両親は僕に言った
僕は、頷くしか出来なかった
・・・
それから、僕は彼女の事が忘れられなかった
忘れられなくて、一人で暮らしている
見かねた友人が今回みたいに、合コンみたいなものを開いたりしてくれているおかげで、人との繋がりは切れないでいた
だが、新しい恋人を作る気は起きないし、彼女を忘れる事ができないでいた
「今のお前をみて、あいつが喜ぶと思うか?」
「喜ばないだろうね」
「なら幸せになる事を考えろよ!」
「…これは、僕の意地なんだ」
友人と何度も交わしたこの会話だ
「何度も言った通り、僕は彼女と生きたかったんだ…できないなら…一人でいい…」
彼とは高校からの付き合いだが、僕と彼女の事をよく知っていてくれている
彼女との結婚式での仲人を頼もうと思ったくらいだ
「…でもよ!あいつの事も考えてやれよ!お前を束縛して喜ぶわけ…」
「わかってても…どうしようもない事があるんだよ」
そう言って、僕は変える準備をし始めた
「ごめん…やっぱり二次会は出れない」
「…いや、俺もわかってたはずなんだけどな…毎度おせっかい悪いな」
その言葉を背に受けて、僕は店を後にした
〜〜〜
「くっそ…どうしたら良いんだよ…」
幹事を務めた男性は頭を悩ませていた
彼の友人、いや、親友と言っても過言ではない人物の幸せのためにはどうすればいいのか
理想を言えば、彼の恋人が生き返るとかなのだろう
が、そんなことはできない
そんな自然の摂理に反することができたら、とっくにやっているだろう
だが、現実はどうだろうか?
そんな事はできない
だったら新しい出会いに目を向ける方が健全な方法だと思われる
が、彼の友人はそれをしない
「…荒れてますね、先輩」
「ん?…あぁ…」
「あの帰った先輩の友人の方ですか?」
「…そうだ」
彼は後輩と飲みながら話す
後輩は、彼の友人の事を知っていた
「ん〜…新しい出会いかぁ…」
「おまえ、なんかいい方法ないか?」
「…」
後輩は押し黙りながら、何かを考えているようだ
「…あるんですけど、俺の言う事、信じてもらえます?」
「なんだよ?そんな眉唾物のつもりか?」
「いやだって―――」
―――死者がよみがえるかも、って言ったって信じないでしょ?
後輩はそう言った
〜〜〜
友人との飲み会も終わり、僕は帰路についていた
まだ少し早い時間だけど、家に帰って休むことにした
そんな中、電話が鳴った
「…誰だ?」
登録していない電話番号が、僕の電話に写る
「もしもし?」
「…元気?」
その声を聞いて、僕は止まった
だって、その声は―――
「どうかしたの?」
「誰だ…誰がやってる!?」
彼女の声、なのだから
「…うん、そういう反応になるのはわかってるよ」
彼女の声が続けて言う
「でも…本当に私なんだよ」
困ったように言うその声も、少し笑いを含んだようなその言葉使いも…
彼女の癖、そのものだ
「…いつも私のお墓と骨壺のとこに、花を置いてくれてたよね?」
「!?」
その言葉に、僕は驚いた
そう、彼女が死んでから毎日、僕は花を贈っていた
必ず、毎日、自分の手で持っていくようにしていた
そして、それを知っているのは、彼女の両親と、友人だけだ
友人が悪ふざけでも、こんなことをするわけがない
つまり―――
「…私たちの家で待ってるから」
その言葉とともに、電話が切れた
そして、それと共に僕は走り出した
彼女が言った、私たちの家
それは今僕が住んでいる家だ
彼女と、同居して、一緒に暮らしていくと決めた、抜け殻の僕が住んでいる家だ
現実には、そんな事有り得ないのはわかっている
死者が生き返ることはあり得ない
わかっているが、それでも、0に近い可能性にかけたくなる
―――彼女が戻ってきた
家に近付くにつれて、冷静になり始めた
死者が生き返るわけがない
つまり、誰かが悪意を持って彼女のふりをしている
まして、家に不法侵入しているんだ
―――許せない
彼女と僕の記憶を嘲笑ったんだ
場合によっては…
そう思いながら、家に入ろうとした時、ある事に気付いた
―――鍵が開いている
つまり、中に誰かが入っているのだ
「ふざけやがって…」
そう呟きながら、僕は家に入っていった
入ってすぐ、居間が見える
そこに誰かが座っている
「なんのつもりなんだ!?だれだ!」
怒鳴りながら、座っている相手に近付く
「…うん、私も同じ立場なら…同じこと言ってると思うよ」
そう言って立ち上がった人物をみて、僕は驚いた
その人物は明らかに人ではない姿をしていた
女性的な姿でありながら、体が骨と何かを継ぎ足して出来たような見た目で…
顔は、彼女だった
・・・
「だ、だれだ!お前は誰なんだ!?」
「うん…その反応も全く予想通りだよ」
そう言って、彼女に似た何かが近づいてきた
その足取りは頼りなく、でも、僕を目指していた
近付いてくる彼女の姿は、以前と違ってて、でもその表情や眼差しは当時のままで…
「う、嘘だ…だって…死んだ人は…」
「ホント、君の反応は予想通りだね」
そう言いながら、彼女に似た何かとの距離が近付いて―――
〜〜♪〜〜〜♪
ちょうど、クリスマス当日を時計が指した時だった
「サァイレントナーイトー♪、ホーリィナーイト♪」
その歌は、彼女が毎年クリスマスに歌っていた歌だった
「この時計…イベント毎に流れて、これからのイベントを一緒に過ごして行こうってこれにしたんだよね…まだ使ってくれてたんだ」
その言葉に、その微笑んだ横顔に、僕は確信した
「ほんとうに…君なのか?」
「…疑う気持ちも分かるけど、もう少し彼女を信じてよね」
そう言いながら泣いている彼女を僕は―――
「ごめ…ヒグッ…」
「無理して言わなくて良いんだよ…」
彼女の身体には、人の温もりとかはあまり感じない
けど、確かに命の鼓動が伝わってきた気がする
―――死んだ彼女が、戻ってきた
そう認識した瞬間、声を上げて泣き始めた
・・・
「落ち着いた?」
「…」
あれからどの位時間がたったか分からない
僕は彼女を抱き締めながらひたすら泣いていた
彼女も泣いていたが、僕ほど泣かず、僕が泣き止むのを待っていた
「久々に貴方の泣いてる所が見れて、なんとなく安心したよ」
「…」
恥ずかしさから、僕は何もいう事が出来ない
「あの葬式以来、貴方は泣かなくなったし、心から笑う事もなかったよね?」
「…君が隣に居ない、それだけでなにも見えなくなったようだった、から」
その言葉に、彼女は僕を抱き締める力を強める
「ホントにゴメンね…」
その言葉に、僕は首を横に振り―――
「君が帰ってきてくれただけで、どれだけ幸せか」
その言葉と一緒に、彼女のおでこにキスをした
「…そうやって私を口説き落として楽しいのかー」
「何回でも、何年でも、君と居られるなら」
彼女が伸ばした口調をする時は、恥ずかしい時
だから僕はより恥ずかしい事をいって、彼女との再会を喜ぶ
「うぅー」
恥ずかしそうにしているが、同時に嬉しがってる
長年一緒に居たから、それもわかる
「…」
「…」
お互いに、沈黙する
彼女が沈黙する理由はいくつか考えられるが、僕の沈黙の理由は決まっていた
―――なんで、生き返ったのか
自然の摂理に反しているし、なにより姿が全く違う
なにより、今の彼女の姿はまるで―――
「私ね、スケルトンってモンスターになったんだって」
彼女が言う
「信じられないだろうけど、ずっと貴方の事をみてたんだよ?」
彼女が言葉をつむぐ
「毎日貴方が花を届けてくれて、でも生気がない姿で…ずっとこうして貴方の事を励ましたかった…元気付けたかった、抱きしめて癒したかった!…でも、私は生きてなくて…両親を騙して元気な振りをするあなたを助けたくても何も出来なくて…そうしらたね、あの人がきたの」
「あの人?」
「白銀って言うのかな?綺麗な髪をした女の人…両親の前で私をスケルトンにして…向こうの世界の事とか話したり…」
「向こうの世界?」
「よくわかんないけど、他の世界には私みたいな人が沢山居て…えーっと…とにかく沢山いる話」
「…忘れたんなら素直に言いなさい」
「ぁぅ…」
彼女のいう事を信じるなら、異世界から来たおそらくモンスターを作れる人かネクロマンサーだったかが彼女を生き返らせたのだろう
「うん、君を見ないと現実味がない話、だね」
「だと思う…あと、ね…」
急に彼女がモジモジし始めた
「えと、ね…」
上目遣いで目を潤ませて、心なしか頬も赤くなっていた
「その人が言うにはね…私とかと同じ人たちはね…さきゅばすだかってモンスターの特性もあってね…」
「…ん?」
いま、妙な言葉が聞こえた気がした
「サキュバス?」
「うん、さきゅばす」
確かエロ漫画とかにも出てくるエロいモンスターで、人間の精を糧にして…
そこまで考えて、思考がとまった
―――精が必要?
―――精って…
「まさか…」
「うん…」
―――私と、して
彼女からその言葉が出てきた時、驚きと喜びが同時に来た
彼女が死んでから僕はまるで性欲がなくなったように、何も感じなくなっていた
それが急激に水を吸収するスポンジのように、急速に性欲が滾り始める
そして、不覚にも勃起してしまい―――
「…ごめん」
「…うぅん、実は嬉しかったりする」
彼女の言葉に更に興奮し、より硬くなった気がする
「昔に比べたら胸小さくなったし…全体的に細くなったし…だから興奮してくれて…嬉しい」
その言葉を最後に、僕は理性を手放した
・・・
「…う、ぁん…」
気が付いた僕はベットに寝ていた
「…そっか、そう…だよな…」
あんな奇怪な夢を見るくらい、僕は追い込まれているのか
そんなに、彼女を求めてやまないのか
「そう…だよな…彼女が…生き返るわけ…」
確か、机の中にはさみがあったはずだ
―――もう、疲れた
彼女がいないのに、生きても―――
「あ、起きた?」
その声と共に、ドアが開け放たれる
そのドアの向こうには、昨晩見た姿と同じ、彼女がいてくれた
「朝ごはん作ったけど…食べるでしょ?」
その何気ない言葉に…僕は泣き始めた
「ど、どうしたの!?」
「…君が、生き返ったのが真実で…それが嬉しくて…」
情けなく写るだろう
たかだか少し離れてただけで、ここまで怖がり、絶望するのだ
「君が生き返ったのが…夢じゃないかって…怖くて…」
「…君が嫌がろうと、喜び踊ろうと…」
―――私が生きているのは、事実なんだよ
そういって僕に飛びついてきた彼女を抱きとめた時
僕も、生き返った気がした
―――ガヤガヤ
沢山の人で賑わい、みんなが楽しく酒を飲んだり料理を食べたりしている
それはとても楽しく、好まれるものだろう
「よっ!飲んでるか!?」
「あぁ、楽しく飲んでるよ」
友人が僕に話しかけてきた
彼には感謝しないといけないだろう
この飲み会も、僕のために開いてくれ、今でも心配してくれているのだから
最も、彼の好意は私にとって、余計なお世話になっているのもまた事実だが…
「で、良さ気な娘は居たかよ?」
「…」
「…ハァ〜」
彼はため息をつきながら言い始めた
「いや、お前の気持ちもわかるよ?でももう新しい出会いに目を向けても…」
「…君には、僕のこの気持ちだけはわからない」
向きになって、強い言葉を使ってしまった
が、どうしても言わなければならなかった
「彼女以外考えられないんだ」
「…どうしようもない馬鹿野郎だよ、お前はさ」
そう言いながらも、彼は理解してくれている
彼は僕と彼女との事をよく知っているからだ
「死んだ女をいつまでも思いながら、ずっと一人でいるつもりかよ?」
「そんな馬鹿が一人くらい、いてもいいだろ?」
「…参った、馬鹿野郎じゃなくて、とんでもない大馬鹿野郎だったか」
「ありがとう、最高のほめ言葉だ」
そう言いながら、互いに酒を飲む
「すみませーん、コープス・リバイバー一つ」
彼が店員にあるカクテルを頼む
持ってこられたそのカクテルを私に渡した
「意味は『死んでもあなたと』だってよ」
「…なるほど、僕にはぴったりだね」
そう言いながら、カクテルを飲む
・・・
彼女と出会ったのは、いつだろうか?
彼女とは幼馴染だった
気が付いたら、一緒にいる事が多かった
小学校、中学校、高校―――
気が付いたら、大学でも一緒にいる事が多かった
お互いに、性的な意識はしてなかった
なかったが、お互いに居心地が良かった
互いに、別の人と付き合ってた時期もあった
それでも、お互い、気が付いたら一緒にいる事が多かった
そして…気が付いたら僕は彼女が好きになっていたんだ
それは彼女も同じだったらしい
なぜなら…お互いに意識した日に僕たちは結ばれたからだ
―――これが、僕たちの幸せの絶頂だったのかもしれない
僕たちが結ばれて、1年か2年たったある日の事だ
彼女が交通事故に巻き込まれた
事故を起こした相手も、その事故で死んでしまった
原因は長時間労働、長時間運転による注意力散漫だったらしい
僕にとってはどうでもいいことだった
事故に巻き込まれた彼女は、植物状態で辛うじて生きていた
生きていたが、彼女は眠り続けた
事故を起こした会社から多少の金銭はもらったが、それでも、植物状態の彼女を生かし続けるには、莫大な費用が掛かる
僕は働いたお金や、貯金の殆どを使ってでも、どうにかしたいと思った
けど、彼女の両親は―――彼女を生かすのを諦めた
『気持ちは嬉しい、君が娘を愛してくれて、本当に感謝している。けど…それで君の人生を縛ったら、娘は悲しむ』
だから、諦めてくれ―――
泣きながら、彼女の両親は僕に言った
僕は、頷くしか出来なかった
・・・
それから、僕は彼女の事が忘れられなかった
忘れられなくて、一人で暮らしている
見かねた友人が今回みたいに、合コンみたいなものを開いたりしてくれているおかげで、人との繋がりは切れないでいた
だが、新しい恋人を作る気は起きないし、彼女を忘れる事ができないでいた
「今のお前をみて、あいつが喜ぶと思うか?」
「喜ばないだろうね」
「なら幸せになる事を考えろよ!」
「…これは、僕の意地なんだ」
友人と何度も交わしたこの会話だ
「何度も言った通り、僕は彼女と生きたかったんだ…できないなら…一人でいい…」
彼とは高校からの付き合いだが、僕と彼女の事をよく知っていてくれている
彼女との結婚式での仲人を頼もうと思ったくらいだ
「…でもよ!あいつの事も考えてやれよ!お前を束縛して喜ぶわけ…」
「わかってても…どうしようもない事があるんだよ」
そう言って、僕は変える準備をし始めた
「ごめん…やっぱり二次会は出れない」
「…いや、俺もわかってたはずなんだけどな…毎度おせっかい悪いな」
その言葉を背に受けて、僕は店を後にした
〜〜〜
「くっそ…どうしたら良いんだよ…」
幹事を務めた男性は頭を悩ませていた
彼の友人、いや、親友と言っても過言ではない人物の幸せのためにはどうすればいいのか
理想を言えば、彼の恋人が生き返るとかなのだろう
が、そんなことはできない
そんな自然の摂理に反することができたら、とっくにやっているだろう
だが、現実はどうだろうか?
そんな事はできない
だったら新しい出会いに目を向ける方が健全な方法だと思われる
が、彼の友人はそれをしない
「…荒れてますね、先輩」
「ん?…あぁ…」
「あの帰った先輩の友人の方ですか?」
「…そうだ」
彼は後輩と飲みながら話す
後輩は、彼の友人の事を知っていた
「ん〜…新しい出会いかぁ…」
「おまえ、なんかいい方法ないか?」
「…」
後輩は押し黙りながら、何かを考えているようだ
「…あるんですけど、俺の言う事、信じてもらえます?」
「なんだよ?そんな眉唾物のつもりか?」
「いやだって―――」
―――死者がよみがえるかも、って言ったって信じないでしょ?
後輩はそう言った
〜〜〜
友人との飲み会も終わり、僕は帰路についていた
まだ少し早い時間だけど、家に帰って休むことにした
そんな中、電話が鳴った
「…誰だ?」
登録していない電話番号が、僕の電話に写る
「もしもし?」
「…元気?」
その声を聞いて、僕は止まった
だって、その声は―――
「どうかしたの?」
「誰だ…誰がやってる!?」
彼女の声、なのだから
「…うん、そういう反応になるのはわかってるよ」
彼女の声が続けて言う
「でも…本当に私なんだよ」
困ったように言うその声も、少し笑いを含んだようなその言葉使いも…
彼女の癖、そのものだ
「…いつも私のお墓と骨壺のとこに、花を置いてくれてたよね?」
「!?」
その言葉に、僕は驚いた
そう、彼女が死んでから毎日、僕は花を贈っていた
必ず、毎日、自分の手で持っていくようにしていた
そして、それを知っているのは、彼女の両親と、友人だけだ
友人が悪ふざけでも、こんなことをするわけがない
つまり―――
「…私たちの家で待ってるから」
その言葉とともに、電話が切れた
そして、それと共に僕は走り出した
彼女が言った、私たちの家
それは今僕が住んでいる家だ
彼女と、同居して、一緒に暮らしていくと決めた、抜け殻の僕が住んでいる家だ
現実には、そんな事有り得ないのはわかっている
死者が生き返ることはあり得ない
わかっているが、それでも、0に近い可能性にかけたくなる
―――彼女が戻ってきた
家に近付くにつれて、冷静になり始めた
死者が生き返るわけがない
つまり、誰かが悪意を持って彼女のふりをしている
まして、家に不法侵入しているんだ
―――許せない
彼女と僕の記憶を嘲笑ったんだ
場合によっては…
そう思いながら、家に入ろうとした時、ある事に気付いた
―――鍵が開いている
つまり、中に誰かが入っているのだ
「ふざけやがって…」
そう呟きながら、僕は家に入っていった
入ってすぐ、居間が見える
そこに誰かが座っている
「なんのつもりなんだ!?だれだ!」
怒鳴りながら、座っている相手に近付く
「…うん、私も同じ立場なら…同じこと言ってると思うよ」
そう言って立ち上がった人物をみて、僕は驚いた
その人物は明らかに人ではない姿をしていた
女性的な姿でありながら、体が骨と何かを継ぎ足して出来たような見た目で…
顔は、彼女だった
・・・
「だ、だれだ!お前は誰なんだ!?」
「うん…その反応も全く予想通りだよ」
そう言って、彼女に似た何かが近づいてきた
その足取りは頼りなく、でも、僕を目指していた
近付いてくる彼女の姿は、以前と違ってて、でもその表情や眼差しは当時のままで…
「う、嘘だ…だって…死んだ人は…」
「ホント、君の反応は予想通りだね」
そう言いながら、彼女に似た何かとの距離が近付いて―――
〜〜♪〜〜〜♪
ちょうど、クリスマス当日を時計が指した時だった
「サァイレントナーイトー♪、ホーリィナーイト♪」
その歌は、彼女が毎年クリスマスに歌っていた歌だった
「この時計…イベント毎に流れて、これからのイベントを一緒に過ごして行こうってこれにしたんだよね…まだ使ってくれてたんだ」
その言葉に、その微笑んだ横顔に、僕は確信した
「ほんとうに…君なのか?」
「…疑う気持ちも分かるけど、もう少し彼女を信じてよね」
そう言いながら泣いている彼女を僕は―――
「ごめ…ヒグッ…」
「無理して言わなくて良いんだよ…」
彼女の身体には、人の温もりとかはあまり感じない
けど、確かに命の鼓動が伝わってきた気がする
―――死んだ彼女が、戻ってきた
そう認識した瞬間、声を上げて泣き始めた
・・・
「落ち着いた?」
「…」
あれからどの位時間がたったか分からない
僕は彼女を抱き締めながらひたすら泣いていた
彼女も泣いていたが、僕ほど泣かず、僕が泣き止むのを待っていた
「久々に貴方の泣いてる所が見れて、なんとなく安心したよ」
「…」
恥ずかしさから、僕は何もいう事が出来ない
「あの葬式以来、貴方は泣かなくなったし、心から笑う事もなかったよね?」
「…君が隣に居ない、それだけでなにも見えなくなったようだった、から」
その言葉に、彼女は僕を抱き締める力を強める
「ホントにゴメンね…」
その言葉に、僕は首を横に振り―――
「君が帰ってきてくれただけで、どれだけ幸せか」
その言葉と一緒に、彼女のおでこにキスをした
「…そうやって私を口説き落として楽しいのかー」
「何回でも、何年でも、君と居られるなら」
彼女が伸ばした口調をする時は、恥ずかしい時
だから僕はより恥ずかしい事をいって、彼女との再会を喜ぶ
「うぅー」
恥ずかしそうにしているが、同時に嬉しがってる
長年一緒に居たから、それもわかる
「…」
「…」
お互いに、沈黙する
彼女が沈黙する理由はいくつか考えられるが、僕の沈黙の理由は決まっていた
―――なんで、生き返ったのか
自然の摂理に反しているし、なにより姿が全く違う
なにより、今の彼女の姿はまるで―――
「私ね、スケルトンってモンスターになったんだって」
彼女が言う
「信じられないだろうけど、ずっと貴方の事をみてたんだよ?」
彼女が言葉をつむぐ
「毎日貴方が花を届けてくれて、でも生気がない姿で…ずっとこうして貴方の事を励ましたかった…元気付けたかった、抱きしめて癒したかった!…でも、私は生きてなくて…両親を騙して元気な振りをするあなたを助けたくても何も出来なくて…そうしらたね、あの人がきたの」
「あの人?」
「白銀って言うのかな?綺麗な髪をした女の人…両親の前で私をスケルトンにして…向こうの世界の事とか話したり…」
「向こうの世界?」
「よくわかんないけど、他の世界には私みたいな人が沢山居て…えーっと…とにかく沢山いる話」
「…忘れたんなら素直に言いなさい」
「ぁぅ…」
彼女のいう事を信じるなら、異世界から来たおそらくモンスターを作れる人かネクロマンサーだったかが彼女を生き返らせたのだろう
「うん、君を見ないと現実味がない話、だね」
「だと思う…あと、ね…」
急に彼女がモジモジし始めた
「えと、ね…」
上目遣いで目を潤ませて、心なしか頬も赤くなっていた
「その人が言うにはね…私とかと同じ人たちはね…さきゅばすだかってモンスターの特性もあってね…」
「…ん?」
いま、妙な言葉が聞こえた気がした
「サキュバス?」
「うん、さきゅばす」
確かエロ漫画とかにも出てくるエロいモンスターで、人間の精を糧にして…
そこまで考えて、思考がとまった
―――精が必要?
―――精って…
「まさか…」
「うん…」
―――私と、して
彼女からその言葉が出てきた時、驚きと喜びが同時に来た
彼女が死んでから僕はまるで性欲がなくなったように、何も感じなくなっていた
それが急激に水を吸収するスポンジのように、急速に性欲が滾り始める
そして、不覚にも勃起してしまい―――
「…ごめん」
「…うぅん、実は嬉しかったりする」
彼女の言葉に更に興奮し、より硬くなった気がする
「昔に比べたら胸小さくなったし…全体的に細くなったし…だから興奮してくれて…嬉しい」
その言葉を最後に、僕は理性を手放した
・・・
「…う、ぁん…」
気が付いた僕はベットに寝ていた
「…そっか、そう…だよな…」
あんな奇怪な夢を見るくらい、僕は追い込まれているのか
そんなに、彼女を求めてやまないのか
「そう…だよな…彼女が…生き返るわけ…」
確か、机の中にはさみがあったはずだ
―――もう、疲れた
彼女がいないのに、生きても―――
「あ、起きた?」
その声と共に、ドアが開け放たれる
そのドアの向こうには、昨晩見た姿と同じ、彼女がいてくれた
「朝ごはん作ったけど…食べるでしょ?」
その何気ない言葉に…僕は泣き始めた
「ど、どうしたの!?」
「…君が、生き返ったのが真実で…それが嬉しくて…」
情けなく写るだろう
たかだか少し離れてただけで、ここまで怖がり、絶望するのだ
「君が生き返ったのが…夢じゃないかって…怖くて…」
「…君が嫌がろうと、喜び踊ろうと…」
―――私が生きているのは、事実なんだよ
そういって僕に飛びついてきた彼女を抱きとめた時
僕も、生き返った気がした
14/12/24 23:59更新 / ネームレス