読切小説
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『見えない境界線』
 魔物はなぜ、姿を人間の様に変えたのでしょう。
 そう思ったことはありませんか?
 答えは簡単です。
 人間に理解してもらいたいからもっとも親しみ易い姿になった――ただ、それだけ。
 例えば、犬や猫が人間にじゃれつくのは当然ですよね。だけど、液状のスライムが人間にすり寄るのは襲われているようにしか見えません。
 そう、この違いこそが人間の姿になった理由の一つ。

 それじゃあ、元々人間だったのに人より魔力が強いだけで魔女呼ばわりされてきた私の一族はどうすれば受け入れられてもらえるのだろうか?


『見えない境界線』


 今、私は新都(その地方で最も栄えた都市)の大正門前に続く大きな鞄を背負った人や荷馬車の列の中にいる。この列は原因は、お祭りや大がかりな礼拝ではく、教会の勢力の強い都市では魔物との必要以上の干渉を避けるために検問を設置し、人間かどうかを確かめることになっているのだ。

 その列から顔を出してみるが、まだ先の方に十数人見える。一応、ボディチェックなどの配慮されているのか途中から男性の列と女性の列を別けられていたのはありがたい。

 並んでいる人数は相当だが列の進みはそこそこ良い、特に女性列は男性よりも少なくスムーズだ。この列の進み具合だと、検査自体は簡単な物ですぐに通れるようになっているのだろう。

 城壁ほどあるだろうかと思ってしまうくらい立派な外壁からから顔を出すように時計台や教会などの大きな建物が見えるほど大きな町だ。外部からの出入りも多いのだろう。一人ずつ真面目にやっていたら日が暮れても終らなさそうだ。

                           ◇

 何のトラブルもなく淡々と列が進み、とうとう次は私のようだ。
 簡易的な組み立て式のテントから「次の方どうぞ」と声をかけられた。

 このテントも個人的情報の流出を避けるための配慮なんだろうと思いつつ、入口を開けて入る。中はテント独特の薄暗さがあるものの、不便のないくらいの明るさを保っていた。そこに女性の係が二人、あとは簡単に設置された長い机と休憩用の椅子があった。

「荷物を確認させてもらいます」

 そう言って一人の女性が私の荷物を預かり、鞄の中を物色し始め、もう一人は失礼と一言向けて私の体を調べ始める。
 
 危険物を持ち込んでいないかより、しっぽは生えていないか、耳は生えていないかを簡単に調べているのが見ていてすぐに分かる。
 
 マニュアル通りの無駄のない動き。この二人は私が人間じゃないなんて思ってもいないだろう。さっと目を通したのか「ご協力ありがとうございます」と荷物が手元に返された。

 そして最後に、こう質問された。

「あなたは人間ですか?」

 普通の人間からしてみれば、何を当たり前のことを、と思うがこれは擬似化魔法の疑いがあるからだ。擬人化の魔法は嘘を吐くと解ける仕組みになっている。その対策にマニュアルに組み込まれているのだろう。だから、私は胸を張って答えた。

「私は人間です」

 半分嘘で、半分本当。それが真実。
 それを聞くと係員の女性二人が「どうぞお通り下さい」と向こうに抜ける出口を広げてくれた……人間と同じ対応で。彼女達は終始、私を人間だと思い込んでいたはずだ。

                           ◇

 テントを出ると目の前は新都の大きな門が目の前に広がっていた。
 この先は自由だ。より目立つことをして警備隊に目を付けられなければ大抵のことは許される。だから、最後に抵抗しておきたいことがあった。

 鞄の底を二重にして隠していた魔女の帽子を被って、振り返ってテントの中の人間に言ってやる。

「ね、魔女の帽子とマントがなければ魔女かどうかなんて分からないでしょ?」

 人間と魔物の境界線なんて見た目くらいなんだ。同じ心を持って、同じ言葉で話せる。

 魔物は十分人間に歩み寄った。姿を変え、コミュニケーション手段を変えた。次は人間が歩み寄る番だ。お互いが向き合わなければ、人間と魔物の間に敷かれた境界線は存在し続けるだろう。
 
 いつしか、自分を偽らなくてもいい日が来るのを信じて私は新都の門をくぐった。
10/05/04 17:20更新 / nagisa82_s

■作者メッセージ
魔物はなぜ人間の姿になったのだろう? というコンセプトから気が付いたら魔物と人間とは……というものに変わっていました。魔女視点で淡々と描いているので面白いかと言われたら……。やっぱり登場人物同士話合わせないと面白くないよなぁ〜。
一応、前回次はハッピーエンドの話を作ると豪語してた割に挫折しまくりこんな作品になりました。

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