後編
それからしばらくの間、ハダリーはレットと共に冒険者として活動を続けた。
未だ不調の直らないハダリーを気遣ってか、レットはなるべく戦闘の起こりにくそうな依頼を選んでいるようだった。その甲斐あって、これまでのところハダリーはその活動に支障を来さずに済んでいる。……表面上は。
実際には、依然として彼女の中で魔力の不足は進行していた。消費量に対して供給量が追いつかないのだから当然だ。現在はまだ問題なく動けているが、これが完全に尽きてしまったら……
◯
「本当にありがとうございました。あの、これ、約束の報酬になります」
そう言って、依頼者の女は持参していた銀貨の袋を差し出した。レットが進み出て受け取る。
今度の依頼はこの女性の護衛だった。レットたちに依頼が回ってきたのは、人数が少なくて報酬が安く済むこと、そしてなによりパーティにハダリーという女性がいたことが大きいだろう。“命を狙われている”という依頼者の話に疑問を持ったレットが方々に当たり、それが彼女の思い込みだと突き止めたために依頼としては途中で終わったものの、結果として依頼者は彼らの働きに満足してくれたらしい。それは報酬の額に現れている。
「こちらこそありがとう。またなにかあればどうぞ……って言っても、貴女にとっちゃなにもない方がいいだろうけど」
そう言うレットに笑いで答え、もう一度頭を下げてから、依頼者は店を出ていった。依頼は昼のうちに終わり、彼女は今回は報酬を渡しに来ただけだ。ここは堅気の人間が長居する場所ではないとレットは言う。
依頼者を見送った彼は、銀貨袋を掴んでハダリーを振り返った。報酬は最初に予定されていた額には届かないものの、それでも日数から考えたら随分と多く支払われている。これでまたしばらくは日銭に頭を悩ませなくていいだろう。
「ハダリーもお疲れ様。金も入ったことだし、今日はどっか食べに行くか」
「はい、かしこまりました」
「俺はここのマスターとちょっと話があるから、先に部屋に戻っといてくれ」
「かしこまりました」
両手を身体の前に重ねて腰を折る。レットに向かって頭を下げてから、ハダリーは階段を二階の客室へ向かって上っていった。
彼女とパーティを組むようになって、レットはいつも二人部屋を取っている。扉を開けて中へ入り、手前のベッドがレットのもの、ハダリーのは衝立を回った奥だ。ハダリーはその手前側のベッドを前に膝を折り──そして、深く息をついた。
「ふ……っ」
自分の腰を抱くように腕を引き寄せる。僅かに眉を寄せたその表情は、人が見れば憂いを帯びて見えるだろうか。
この依頼が始まってからずっとだった。主人が依頼人の女に視線を向けるたびに、彼女の意識の中で経路が実行されて感情が動く。胸を走る微かな痛みを抑え込んで、ハダリーはずっと護衛を遂行していたのだった。おそらくは誰にも気づかれていないはずだ。なにしろ(女性ということもあるだろうが)依頼者など時にレットよりも彼女の方を頼りにしていたくらいだから。
しかしそれも魔力が足りていたときのこと。枯渇が進んでいくのに従って、ハダリーが表面を取り繕うことは次第に難しくなっていた。意図しないプログラムが動いている。自分の思考が──感情が制御できない。
「ぁ……」
背後で扉がノックされた。レットの声が「入るぞ、ハダリー」と告げ、一呼吸置いてノブが回る。ハダリーは慌ててベッドに腕をついた。立って出迎えないといけない。
扉が開く。部屋に入ってきた彼は、床の上に蹲ったハダリーに目を見開いた。レットを見上げて絞り出したハダリーの声は、彼女自身のものではないかのように掠れ、上擦っていた。
「レット……様」
「レット……様」
床の上に蹲ったハダリーに、レットは目を見開いた。
彼女の様子は明らかに普通ではなかった。頬が上気し、呼吸が浅い。まるで熱でもあるようだ。そしてなにより、瞳が──普段は深い紫に澄んだ瞳が、今はどろりとピンク色に濁っている。濁った瞳で彼を見上げるハダリーの表情を見て、レットは思わずごくりと喉を鳴らした。
これまでレットはこの新しい仲間に、色気というようなものを感じたことはなかった。人形の彼女は綺麗でこそあったが、今の、こんな男の本能に訴えかけるような美しさは持っていなかったはずだった。桃色に染まった頬は人間の女よりも女らしい。頭に浮かんだ考えを、……しかしすぐに頭から追い出し、彼女の傍に屈み込む。
「大丈夫か。例の、魔力不足ってやつか」
「そのようです。……申し訳ありません、このような」
「謝るな。気づいてやれなかった俺が悪い。なにか俺にできることはあるか?」
「──を……いえ……」
なにかを言いかけて、ハダリーはそれを言葉にする前に口を噤んだ。レットが支えようと差し出した腕をやんわりと解き、立ちあがろうともがく。レットは、彼女と視線を合わせて言葉を重ねた。
「遠慮しなくていい。なんでも言ってくれ」
「っ……レット、様の、……精、を」
「ん、うん?」
「精を、ください……」
消え入るような声でそう告げて、彼女は思考の固まったレットの前で身体を起こす。合わせるように腰を上げた彼を、ハダリーは、まるで抱きつくような格好でベッドに座らせた。その白い手が伸びてレットのベルトを触る。
「待っ、待て、ハダリー」
レットの制止にほんの少しためらう様子を見せたものの、ハダリーは彼のベルトを緩める手を止めようとはしていなかった。吐息が深い。なにかに突き動かされているようだ。まるで……
魔物、という言葉が浮かんで、遅まきながらようやくレットは状況に気がついた。魔力を使って動く彼女がその影響で魔物化しているというのなら、これまでのハダリーの不調にも当たりがつく。彼女は消費した魔力を大気中から補給しているといつか言っていた。だが──もしハダリーが魔物なら、魔力補給の正しい方法はそうではない。
カチャカチャとハダリーがベルトを外す。レットは顔が熱くなるのを感じて歯を食いしばった。なにしろ、魔物の技巧は桁が違うという話だ(若干一名の自己申告ではあるが)。しかもレットはもう、彼女の舌が肌を這うあの感触を知ってしまっている。刺激を期待してズボンの下、彼女が至近距離から見つめる前で、レットのそこが昂っているのは明らかだった。生地を下から押し上げるそれを、磁器のような手がするりと撫でる。
「っ、ハダリー……」
レットは呻いた。彼女を止めようという意志は既に折れている。この官能を前にして踏みとどまることは、男には不可能だ。ハダリーの手が彼の下着の紐を解き、布地の中に忍び込む。ひやりと冷たい刺激にレットの肩が跳ねる。そのままハダリーは、小鳥の羽に触れるような繊細な手つきで中のモノを引き出した。はち切れそうに膨らんで脈の浮いたレットの男根に、白く細い指が絡んでいる。
ハダリーが顔を近づけ、口を開いて、
「ン……」
れる、と濡れた快感が訪れた。
片方の手を先に添えながら、彼女は目を細めて一心に竿を舐めている。裏筋をなぞり、亀頭に舌を這わせる。そしてときおり啄むような口づけを落とす。男根のようなカタチのものを舐めるには、以前のように舌の先だけを覗かせるのでは足りない。普段の清廉さをどこかへ置いてきたように口を開け、舌の腹を使ってレットを愛撫する。彼は、ハダリーが人間への奉仕のために造られたオートマトンであることを改めて理解した。それほどの舌遣いだった。
腰が浮くような刺激に吐息を漏らすと、それを感じ取ったらしいハダリーが視線だけをこちらへ向けた。薄いピンクの眼と視線が合う。表情から彼が気持ちよくなっていることを読み取ったことを、レットは彼女の表情から読み取った。普段から内心を表に出さない彼女だが、今この瞬間だけはどうしてかその感情がわかった。──悦んでいる。
根元に舌を這わせていたハダリーは、一度頭を上げてレットの男根を正面から見つめる位置に動かした。長い白髪を耳にかける。髪の先が腿にさわさわと触れてくすぐったい。ハダリーはそのまま顔を近づけ、充血した鈴口に唇が触れる、寸前──口を開け、それを根元までぐっぷりと咥え込んだ。
「っ、ぐ」
熱い。そして柔らかい。造り物とは思えない肉の感触が股を包んでいる。そしてさっきまでレットを撫でていた舌が、今はぐいぐいと容赦なく責め立てていた。唇が竿を往復する。たちまちのうちに射精感が込み上げてきて、レットは股に顔を埋めたハダリーの髪に手を置いた。
「ハダリー、一旦離れろ」
レットの“命令”を、しかしハダリーは聞かず、それどころか彼女は口に含んだそれをじゅうっと音がするほど強く吸い上げた。腿に力を込めて堪えようとするが、一度爆発の方へと傾いた衝動は止められない。腰骨を強烈な快感が這い回る。レットは焦った。ハダリーに離す気配はない。
「ハダリー、おい、ハダ……っ」
背中を撓めて、彼はハダリーの口の中で破裂した。
尿道を精液が走り抜ける感覚があった。どく、どく、と脈動が繰り返す。飽きるほどにレットの射精は続いた。食い縛った歯の間から息が漏れる。快感に思わず閉じていた両目を薄く開くと、ハダリーは未だ彼の男根を咥え、その全てを口の中に受け止めているところだった。
ようやく射精が終わり、ハダリーが口を離す。レットの眺める目の前で、おとがいを上げた白い喉がこくりと動き、彼女がレットの吐き出したものを嚥下したことがわかった。
喉を塞いでいたものがなくなり、ハダリーは肩で息をした。
再び舌を伸ばして、勃ち上がったままの男根に触れる。刺激を受けてひくんと跳ねる男根の、周囲に塗れた精液をハダリーは丁寧に舐め取っていった。彼女のプログラムはこれを美味だと感じている。人間の子どもが甘いものを好むのと同じ理屈だ。生きものの身体には、必要なものを美味と感じる機能が備わっている。ほとんど陶然となるほどだった。
だが、足りない。全く足りない。なぜならそれを食べるための本来の器官はそこではないからだ。正しい場所に注いでもらわないといけない。彼女は、生まれたばかりの淫魔のように渇いていた。ずっとずっと、渇いていたのだ。
「レッ……ト、さま」
うわごとのように口から言葉が零れ落ちる。ハダリーは、自分のスカートを腰のところで摘んだ。周囲の他の女の冒険者とは違い、オートマトンである彼女は下着をつけていない。ゆっくりとスカートをたくし上げていきながら、ハダリーはレットの肩に片手を当てて、彼をそうっとベッドの上に押し倒し──
「ひゃ……!?」
ぐるん、と世界が回って、ハダリーは思わず高い声を上げた。魔力不足ではない、レットが彼女を抱き止めるように身体を起こし、反対にベッドへ押し倒したのだった。
腕の中に閉じ込められる。鼻と鼻が触れそうなくらい近くから見つめる。見つめられる。その眼差しから、彼女はレットの興奮と欲情を読み取った。
ハダリーの中で思考が走った。その感情の意味が、今、ようやくわかった。
嬉しい。
嬉しい。
主人が自分を求めている、そのことが嬉しい。従僕と魔物としての本能が一致することが嬉しい。服の上からレットがハダリーに触れる。駆動炉(しんぞう)の回転が疾くなる。彼の手が、ハダリーの服の裾にかかる。
「ぁ……」
薄く開いた彼女の口から、意思の制御を漏れた小さな声がぽろりと零れた。
レットの手が停まる。ハダリーの手が、彼を遮るように自身の服を押さえていた。ここまで彼女の方から迫ってしまってこそいたが、彼女自身が拒絶を表に出したのは初めてだ。興奮に掠れた声で、レットが訊いた。
「嫌か」
「いえ」
「嫌なら言え。……努力する」
「……私の体では、レット様を不快にさせてしまうかもしれませんから……」
そう言ってハダリーが目を伏せると、レットは束の間口を噤んだ。
そう、ハダリーは人形だ。肩も肘も人間の女とは違って、いかにも造り物めいて接ぎ目から内部が覗いている。この造形は肉体が魔物に作り変えられても変わることはなかった。今は服で隠れているが、目の当たりにしてしまえば彼だって意欲が削がれてしまいはしないか。彼女はそれを心配していたのだった。
レットは身を引いて、ハダリーの傍に腰を下ろした。服から手を離し、代わりに彼女の肩に置く。
「……初めて会ったとき」
そして、彼は口を開いた。
「俺はきみの……躰を見た。綺麗だと思った。接いだ腕も、磨かれた肌も……。俺は、それに目を奪われた」
「……!」
「見たい。また。駄目か?」
さっき喜びを告げた経路が再び強く呼び出され、胸の奥、身体の中心から爪先までぴりぴりと甘い疼きを走らせた。彼は、自分のこの体までも受け入れてくれた。ハダリーにとって、もう躊躇う理由は何もなかった。
ハダリーが服を光に返して、彼の前にはあのときと同じ、一糸纏わない彼女が横たわっている。レットは内心で苦笑した。脱がせることもまた男にとっては楽しみだと考える発想はまだ彼女にはないらしい。
華奢な手脚、豊かな胸、美しく曲線を描く腰。彼女の体は、しかしレットが一度だけ目撃したときとはいくらか様子が違っていた。さっきの運動の名残か、もしくは内心の恥じらいの表現か──事実、彼女は今もいくらか自分の体を晒すことを恥ずかしげにしていた──白かった肌は薄らと紅く火照っている。だが、最もレットの目を引いたのは、今も彼の腕の中にある彼女の胸部だった。以前は滑らかな形だけだった胸の膨らみの頂に、芽のように薄く色づいた突起がつんとその存在を主張している。
そもそもオートマトンであるハダリーには、乳を出す器官としての乳首は必要ない。だから彼女のこれは、快感を得るための──そして、男を惹きつけるためだけの器官だ。手を伸ばして柔らかい胸に手を沈めると、ハダリーは瞼を震わせて吐息を漏らした。
「んっ……」
レットの手の中で乳房が形を変えるたびに、ぴくんぴくんと面白いようにハダリーが反応する。頬は紅潮し、形のいい眉が寄せられている。普段の感情を抑えた様子からは想像できない反応だった。固く立ち上がったてっぺんの突起に触れ、手のひらで潰すように転がす。堪らず上がった声をすぐに抑え込んだ彼女を見ながら、レットはくびれた脇腹へと右の手を滑らせた。
ハダリーの肌は滑らかで、手に吸いつくようだった。ひやりと冷えているがずっと触れているとじんわりと温かさが感じられる。接ぎ目の縁に指が触ったところで、進む方向を身体の中心へと変える。両脚の間、ぴったりと閉じた割れ目は、これも以前見たときにはなかったはずのものだ。既に濡れて光っているその入り口を、レットは、指の先でぬるりと撫で上げた。
「ふあっ、ふ、んぅっ」
顎を上げて、ハダリーは明確な嬌声を発した。なんとか唇を閉じて声を閉じ込めようとするものの、レットが筋をなぞるたびにその試みは失敗してしまうらしかった。彼女はやがて、それまでシーツを掴んでいた両手で口を覆ってしまった。指の間から熱っぽい吐息が漏れている。
「声は、出さないのか」
「この部屋の、壁では……一定以上の声量の場合、隣室に聞こえると、か、考えられ……」
それが恥ずかしいということか。レットにとっては宿の壁が薄いなどいつものことで、隣の部屋から情事の物音が聞こえてくることなど今さら気にしたりはしない。……だが、ハダリーが続けて口に出したのは、そういうことではないようだった。覚束ない視線をレットに合わせ、息を震わせながら、彼女は言う。
「私は……レット様のものです。体も、声も……すべて、レット様だけの」
「──っ」
どくん、と感情が迫り上がった。
片方の手を彼女の柔らかい頬に添える。不思議そうにこちらを見上げたハダリーは、彼の親指が唇の端に触れると、素直に口を開けて指を咥えた。そうしておいて、レットは──残った方の手で、秘所への責めを再開した。
「あっ!? あ、ひぁっ!」
さっきまでとは一転、目を見開いてハダリーは乱れた。口に入れられたレットの指を噛むわけにもいかず、彼女には身体の奥から湧き上がってくる声を抑えるすべもなかった。高い嬌声が部屋の中に響き渡る。
「や、レットさま、らぇ、駄えで、ふああっ」
閉じられない口に唾液が溜まり、それがとうとう口から溢れて顎を伝った。その様子を眺めながら、レットは秘所を責めている指をつぷりと曲げた。既にとろとろに溶けたそこは彼の指を簡単に受け容れる。
姿勢を変えて、彼女の中を掻き回す。ハダリーは、もはや口を閉じるのを妨げていた指がなくなっても声を抑えられないようだった。中を探っている指をそのままに、レットは、彼女のやはり人間のようにぷくりと膨らんだ陰核に触れた。
「レット様、っあ、レッ、ぁ、あっ……」
指が締めつけられる。中と外を同時に責められて、ハダリーは簡単に絶頂した。
びく、びく、と彼女は痙攣を繰り返す。レットは身体を起こして、自らの男根を彼女の中心に合わせた。一度射精を済ませたはずのそれは、ここまでハダリーの痴態を目の当たりにする間に再び勃ち上がっている。彼の動作に気づいたらしいハダリーが、緊張と期待に満ちた視線をこちらに向けた。
「いいか、ハダリー」
「来て……くださ……っ、あ……!」
レットはゆっくりと腰を進めた。
みちみちと彼の膨れた剛直が、肉の壁を押し広げていく。彼女の中はまるで別の生き物のように彼を包み込んだ。彼は、歯を食い縛って射精に耐えた。先に出していなければいくらも経たずにまた爆発してしまっただろう、そのくらいに強烈な快楽だった。
「っ、ぐ……」
「はっ、はあっ、」
一番奥まで到達して、レットは今度はゆっくりと腰を引いた。彼女の中が逃すまいと締めつけるのへ、また腰を沈めていく。彼はだんだんと往復を速くしていった。ぎしぎしとベッドが軋みを立てる。身体と身体がぶつかり合う、明らかな行為の音が部屋中に響く。
「ハダリー、ハダリー」
「レッ、トっ、様ぁっ……!」
ハダリーが一際高く鳴いて、中が締まる。レットの方も限界が近い。彼は男根を深く、彼女の一番深いところまで突き立てた。ハダリーの身体が弓形に反る。乳房が揺れる。彼女の中に搾られるまま、レットは一滴残らず射精した。
◯
「……これなどいかがでしょう。隊商の護衛ですが、相場と比較していい条件だと判断できます」
たくさんの依頼の貼りつけられた壁の前で、二人並んで仕事を見繕う。ハダリーはそう言って、中の一枚を指差した。
「いいけど、ちょっと拘束期間が長くないか?」
「現在の金銭事情を鑑みるに、報酬には多少余裕を見た方がいいのではないでしょうか。帰路でも同じような依頼を探すこともできますし」
「正しい判断だなあ。わかった、ならそれにするか」
彼女の提言に頷いて、彼はその依頼書を壁から剥がした。
あの後、彼女たちの予想した通り、ずっと続いていたハダリーの魔力不足は覿面に回復した。これはつまり、これからは魔力の消費を気にすることなく活動できるということだ。レットに迷惑をかけずに済む。もちろんそのためには、減った分を都度“補給”しないといけないわけだが……それはハダリーにとっては差し障りにはならない。レットにとっても同じだといいと、思う。
色々あったが、二人のパーティはようやく形になった。ハダリーはようやくこの時代で、レットの側で生きていくすべを手に入れたのだ。そのことを、ハダリーは喜んでいた。
「マスターに話つけでくるから、ちょっと待っててくれるか」
「いえ、私もお供します」
「……そうか。じゃあ、一緒に行こう」
依頼書を手に持って、レットがカウンターへと歩き出す。その少し後ろについて、ハダリーもまた歩き始めた。
未だ不調の直らないハダリーを気遣ってか、レットはなるべく戦闘の起こりにくそうな依頼を選んでいるようだった。その甲斐あって、これまでのところハダリーはその活動に支障を来さずに済んでいる。……表面上は。
実際には、依然として彼女の中で魔力の不足は進行していた。消費量に対して供給量が追いつかないのだから当然だ。現在はまだ問題なく動けているが、これが完全に尽きてしまったら……
◯
「本当にありがとうございました。あの、これ、約束の報酬になります」
そう言って、依頼者の女は持参していた銀貨の袋を差し出した。レットが進み出て受け取る。
今度の依頼はこの女性の護衛だった。レットたちに依頼が回ってきたのは、人数が少なくて報酬が安く済むこと、そしてなによりパーティにハダリーという女性がいたことが大きいだろう。“命を狙われている”という依頼者の話に疑問を持ったレットが方々に当たり、それが彼女の思い込みだと突き止めたために依頼としては途中で終わったものの、結果として依頼者は彼らの働きに満足してくれたらしい。それは報酬の額に現れている。
「こちらこそありがとう。またなにかあればどうぞ……って言っても、貴女にとっちゃなにもない方がいいだろうけど」
そう言うレットに笑いで答え、もう一度頭を下げてから、依頼者は店を出ていった。依頼は昼のうちに終わり、彼女は今回は報酬を渡しに来ただけだ。ここは堅気の人間が長居する場所ではないとレットは言う。
依頼者を見送った彼は、銀貨袋を掴んでハダリーを振り返った。報酬は最初に予定されていた額には届かないものの、それでも日数から考えたら随分と多く支払われている。これでまたしばらくは日銭に頭を悩ませなくていいだろう。
「ハダリーもお疲れ様。金も入ったことだし、今日はどっか食べに行くか」
「はい、かしこまりました」
「俺はここのマスターとちょっと話があるから、先に部屋に戻っといてくれ」
「かしこまりました」
両手を身体の前に重ねて腰を折る。レットに向かって頭を下げてから、ハダリーは階段を二階の客室へ向かって上っていった。
彼女とパーティを組むようになって、レットはいつも二人部屋を取っている。扉を開けて中へ入り、手前のベッドがレットのもの、ハダリーのは衝立を回った奥だ。ハダリーはその手前側のベッドを前に膝を折り──そして、深く息をついた。
「ふ……っ」
自分の腰を抱くように腕を引き寄せる。僅かに眉を寄せたその表情は、人が見れば憂いを帯びて見えるだろうか。
この依頼が始まってからずっとだった。主人が依頼人の女に視線を向けるたびに、彼女の意識の中で経路が実行されて感情が動く。胸を走る微かな痛みを抑え込んで、ハダリーはずっと護衛を遂行していたのだった。おそらくは誰にも気づかれていないはずだ。なにしろ(女性ということもあるだろうが)依頼者など時にレットよりも彼女の方を頼りにしていたくらいだから。
しかしそれも魔力が足りていたときのこと。枯渇が進んでいくのに従って、ハダリーが表面を取り繕うことは次第に難しくなっていた。意図しないプログラムが動いている。自分の思考が──感情が制御できない。
「ぁ……」
背後で扉がノックされた。レットの声が「入るぞ、ハダリー」と告げ、一呼吸置いてノブが回る。ハダリーは慌ててベッドに腕をついた。立って出迎えないといけない。
扉が開く。部屋に入ってきた彼は、床の上に蹲ったハダリーに目を見開いた。レットを見上げて絞り出したハダリーの声は、彼女自身のものではないかのように掠れ、上擦っていた。
「レット……様」
「レット……様」
床の上に蹲ったハダリーに、レットは目を見開いた。
彼女の様子は明らかに普通ではなかった。頬が上気し、呼吸が浅い。まるで熱でもあるようだ。そしてなにより、瞳が──普段は深い紫に澄んだ瞳が、今はどろりとピンク色に濁っている。濁った瞳で彼を見上げるハダリーの表情を見て、レットは思わずごくりと喉を鳴らした。
これまでレットはこの新しい仲間に、色気というようなものを感じたことはなかった。人形の彼女は綺麗でこそあったが、今の、こんな男の本能に訴えかけるような美しさは持っていなかったはずだった。桃色に染まった頬は人間の女よりも女らしい。頭に浮かんだ考えを、……しかしすぐに頭から追い出し、彼女の傍に屈み込む。
「大丈夫か。例の、魔力不足ってやつか」
「そのようです。……申し訳ありません、このような」
「謝るな。気づいてやれなかった俺が悪い。なにか俺にできることはあるか?」
「──を……いえ……」
なにかを言いかけて、ハダリーはそれを言葉にする前に口を噤んだ。レットが支えようと差し出した腕をやんわりと解き、立ちあがろうともがく。レットは、彼女と視線を合わせて言葉を重ねた。
「遠慮しなくていい。なんでも言ってくれ」
「っ……レット、様の、……精、を」
「ん、うん?」
「精を、ください……」
消え入るような声でそう告げて、彼女は思考の固まったレットの前で身体を起こす。合わせるように腰を上げた彼を、ハダリーは、まるで抱きつくような格好でベッドに座らせた。その白い手が伸びてレットのベルトを触る。
「待っ、待て、ハダリー」
レットの制止にほんの少しためらう様子を見せたものの、ハダリーは彼のベルトを緩める手を止めようとはしていなかった。吐息が深い。なにかに突き動かされているようだ。まるで……
魔物、という言葉が浮かんで、遅まきながらようやくレットは状況に気がついた。魔力を使って動く彼女がその影響で魔物化しているというのなら、これまでのハダリーの不調にも当たりがつく。彼女は消費した魔力を大気中から補給しているといつか言っていた。だが──もしハダリーが魔物なら、魔力補給の正しい方法はそうではない。
カチャカチャとハダリーがベルトを外す。レットは顔が熱くなるのを感じて歯を食いしばった。なにしろ、魔物の技巧は桁が違うという話だ(若干一名の自己申告ではあるが)。しかもレットはもう、彼女の舌が肌を這うあの感触を知ってしまっている。刺激を期待してズボンの下、彼女が至近距離から見つめる前で、レットのそこが昂っているのは明らかだった。生地を下から押し上げるそれを、磁器のような手がするりと撫でる。
「っ、ハダリー……」
レットは呻いた。彼女を止めようという意志は既に折れている。この官能を前にして踏みとどまることは、男には不可能だ。ハダリーの手が彼の下着の紐を解き、布地の中に忍び込む。ひやりと冷たい刺激にレットの肩が跳ねる。そのままハダリーは、小鳥の羽に触れるような繊細な手つきで中のモノを引き出した。はち切れそうに膨らんで脈の浮いたレットの男根に、白く細い指が絡んでいる。
ハダリーが顔を近づけ、口を開いて、
「ン……」
れる、と濡れた快感が訪れた。
片方の手を先に添えながら、彼女は目を細めて一心に竿を舐めている。裏筋をなぞり、亀頭に舌を這わせる。そしてときおり啄むような口づけを落とす。男根のようなカタチのものを舐めるには、以前のように舌の先だけを覗かせるのでは足りない。普段の清廉さをどこかへ置いてきたように口を開け、舌の腹を使ってレットを愛撫する。彼は、ハダリーが人間への奉仕のために造られたオートマトンであることを改めて理解した。それほどの舌遣いだった。
腰が浮くような刺激に吐息を漏らすと、それを感じ取ったらしいハダリーが視線だけをこちらへ向けた。薄いピンクの眼と視線が合う。表情から彼が気持ちよくなっていることを読み取ったことを、レットは彼女の表情から読み取った。普段から内心を表に出さない彼女だが、今この瞬間だけはどうしてかその感情がわかった。──悦んでいる。
根元に舌を這わせていたハダリーは、一度頭を上げてレットの男根を正面から見つめる位置に動かした。長い白髪を耳にかける。髪の先が腿にさわさわと触れてくすぐったい。ハダリーはそのまま顔を近づけ、充血した鈴口に唇が触れる、寸前──口を開け、それを根元までぐっぷりと咥え込んだ。
「っ、ぐ」
熱い。そして柔らかい。造り物とは思えない肉の感触が股を包んでいる。そしてさっきまでレットを撫でていた舌が、今はぐいぐいと容赦なく責め立てていた。唇が竿を往復する。たちまちのうちに射精感が込み上げてきて、レットは股に顔を埋めたハダリーの髪に手を置いた。
「ハダリー、一旦離れろ」
レットの“命令”を、しかしハダリーは聞かず、それどころか彼女は口に含んだそれをじゅうっと音がするほど強く吸い上げた。腿に力を込めて堪えようとするが、一度爆発の方へと傾いた衝動は止められない。腰骨を強烈な快感が這い回る。レットは焦った。ハダリーに離す気配はない。
「ハダリー、おい、ハダ……っ」
背中を撓めて、彼はハダリーの口の中で破裂した。
尿道を精液が走り抜ける感覚があった。どく、どく、と脈動が繰り返す。飽きるほどにレットの射精は続いた。食い縛った歯の間から息が漏れる。快感に思わず閉じていた両目を薄く開くと、ハダリーは未だ彼の男根を咥え、その全てを口の中に受け止めているところだった。
ようやく射精が終わり、ハダリーが口を離す。レットの眺める目の前で、おとがいを上げた白い喉がこくりと動き、彼女がレットの吐き出したものを嚥下したことがわかった。
喉を塞いでいたものがなくなり、ハダリーは肩で息をした。
再び舌を伸ばして、勃ち上がったままの男根に触れる。刺激を受けてひくんと跳ねる男根の、周囲に塗れた精液をハダリーは丁寧に舐め取っていった。彼女のプログラムはこれを美味だと感じている。人間の子どもが甘いものを好むのと同じ理屈だ。生きものの身体には、必要なものを美味と感じる機能が備わっている。ほとんど陶然となるほどだった。
だが、足りない。全く足りない。なぜならそれを食べるための本来の器官はそこではないからだ。正しい場所に注いでもらわないといけない。彼女は、生まれたばかりの淫魔のように渇いていた。ずっとずっと、渇いていたのだ。
「レッ……ト、さま」
うわごとのように口から言葉が零れ落ちる。ハダリーは、自分のスカートを腰のところで摘んだ。周囲の他の女の冒険者とは違い、オートマトンである彼女は下着をつけていない。ゆっくりとスカートをたくし上げていきながら、ハダリーはレットの肩に片手を当てて、彼をそうっとベッドの上に押し倒し──
「ひゃ……!?」
ぐるん、と世界が回って、ハダリーは思わず高い声を上げた。魔力不足ではない、レットが彼女を抱き止めるように身体を起こし、反対にベッドへ押し倒したのだった。
腕の中に閉じ込められる。鼻と鼻が触れそうなくらい近くから見つめる。見つめられる。その眼差しから、彼女はレットの興奮と欲情を読み取った。
ハダリーの中で思考が走った。その感情の意味が、今、ようやくわかった。
嬉しい。
嬉しい。
主人が自分を求めている、そのことが嬉しい。従僕と魔物としての本能が一致することが嬉しい。服の上からレットがハダリーに触れる。駆動炉(しんぞう)の回転が疾くなる。彼の手が、ハダリーの服の裾にかかる。
「ぁ……」
薄く開いた彼女の口から、意思の制御を漏れた小さな声がぽろりと零れた。
レットの手が停まる。ハダリーの手が、彼を遮るように自身の服を押さえていた。ここまで彼女の方から迫ってしまってこそいたが、彼女自身が拒絶を表に出したのは初めてだ。興奮に掠れた声で、レットが訊いた。
「嫌か」
「いえ」
「嫌なら言え。……努力する」
「……私の体では、レット様を不快にさせてしまうかもしれませんから……」
そう言ってハダリーが目を伏せると、レットは束の間口を噤んだ。
そう、ハダリーは人形だ。肩も肘も人間の女とは違って、いかにも造り物めいて接ぎ目から内部が覗いている。この造形は肉体が魔物に作り変えられても変わることはなかった。今は服で隠れているが、目の当たりにしてしまえば彼だって意欲が削がれてしまいはしないか。彼女はそれを心配していたのだった。
レットは身を引いて、ハダリーの傍に腰を下ろした。服から手を離し、代わりに彼女の肩に置く。
「……初めて会ったとき」
そして、彼は口を開いた。
「俺はきみの……躰を見た。綺麗だと思った。接いだ腕も、磨かれた肌も……。俺は、それに目を奪われた」
「……!」
「見たい。また。駄目か?」
さっき喜びを告げた経路が再び強く呼び出され、胸の奥、身体の中心から爪先までぴりぴりと甘い疼きを走らせた。彼は、自分のこの体までも受け入れてくれた。ハダリーにとって、もう躊躇う理由は何もなかった。
ハダリーが服を光に返して、彼の前にはあのときと同じ、一糸纏わない彼女が横たわっている。レットは内心で苦笑した。脱がせることもまた男にとっては楽しみだと考える発想はまだ彼女にはないらしい。
華奢な手脚、豊かな胸、美しく曲線を描く腰。彼女の体は、しかしレットが一度だけ目撃したときとはいくらか様子が違っていた。さっきの運動の名残か、もしくは内心の恥じらいの表現か──事実、彼女は今もいくらか自分の体を晒すことを恥ずかしげにしていた──白かった肌は薄らと紅く火照っている。だが、最もレットの目を引いたのは、今も彼の腕の中にある彼女の胸部だった。以前は滑らかな形だけだった胸の膨らみの頂に、芽のように薄く色づいた突起がつんとその存在を主張している。
そもそもオートマトンであるハダリーには、乳を出す器官としての乳首は必要ない。だから彼女のこれは、快感を得るための──そして、男を惹きつけるためだけの器官だ。手を伸ばして柔らかい胸に手を沈めると、ハダリーは瞼を震わせて吐息を漏らした。
「んっ……」
レットの手の中で乳房が形を変えるたびに、ぴくんぴくんと面白いようにハダリーが反応する。頬は紅潮し、形のいい眉が寄せられている。普段の感情を抑えた様子からは想像できない反応だった。固く立ち上がったてっぺんの突起に触れ、手のひらで潰すように転がす。堪らず上がった声をすぐに抑え込んだ彼女を見ながら、レットはくびれた脇腹へと右の手を滑らせた。
ハダリーの肌は滑らかで、手に吸いつくようだった。ひやりと冷えているがずっと触れているとじんわりと温かさが感じられる。接ぎ目の縁に指が触ったところで、進む方向を身体の中心へと変える。両脚の間、ぴったりと閉じた割れ目は、これも以前見たときにはなかったはずのものだ。既に濡れて光っているその入り口を、レットは、指の先でぬるりと撫で上げた。
「ふあっ、ふ、んぅっ」
顎を上げて、ハダリーは明確な嬌声を発した。なんとか唇を閉じて声を閉じ込めようとするものの、レットが筋をなぞるたびにその試みは失敗してしまうらしかった。彼女はやがて、それまでシーツを掴んでいた両手で口を覆ってしまった。指の間から熱っぽい吐息が漏れている。
「声は、出さないのか」
「この部屋の、壁では……一定以上の声量の場合、隣室に聞こえると、か、考えられ……」
それが恥ずかしいということか。レットにとっては宿の壁が薄いなどいつものことで、隣の部屋から情事の物音が聞こえてくることなど今さら気にしたりはしない。……だが、ハダリーが続けて口に出したのは、そういうことではないようだった。覚束ない視線をレットに合わせ、息を震わせながら、彼女は言う。
「私は……レット様のものです。体も、声も……すべて、レット様だけの」
「──っ」
どくん、と感情が迫り上がった。
片方の手を彼女の柔らかい頬に添える。不思議そうにこちらを見上げたハダリーは、彼の親指が唇の端に触れると、素直に口を開けて指を咥えた。そうしておいて、レットは──残った方の手で、秘所への責めを再開した。
「あっ!? あ、ひぁっ!」
さっきまでとは一転、目を見開いてハダリーは乱れた。口に入れられたレットの指を噛むわけにもいかず、彼女には身体の奥から湧き上がってくる声を抑えるすべもなかった。高い嬌声が部屋の中に響き渡る。
「や、レットさま、らぇ、駄えで、ふああっ」
閉じられない口に唾液が溜まり、それがとうとう口から溢れて顎を伝った。その様子を眺めながら、レットは秘所を責めている指をつぷりと曲げた。既にとろとろに溶けたそこは彼の指を簡単に受け容れる。
姿勢を変えて、彼女の中を掻き回す。ハダリーは、もはや口を閉じるのを妨げていた指がなくなっても声を抑えられないようだった。中を探っている指をそのままに、レットは、彼女のやはり人間のようにぷくりと膨らんだ陰核に触れた。
「レット様、っあ、レッ、ぁ、あっ……」
指が締めつけられる。中と外を同時に責められて、ハダリーは簡単に絶頂した。
びく、びく、と彼女は痙攣を繰り返す。レットは身体を起こして、自らの男根を彼女の中心に合わせた。一度射精を済ませたはずのそれは、ここまでハダリーの痴態を目の当たりにする間に再び勃ち上がっている。彼の動作に気づいたらしいハダリーが、緊張と期待に満ちた視線をこちらに向けた。
「いいか、ハダリー」
「来て……くださ……っ、あ……!」
レットはゆっくりと腰を進めた。
みちみちと彼の膨れた剛直が、肉の壁を押し広げていく。彼女の中はまるで別の生き物のように彼を包み込んだ。彼は、歯を食い縛って射精に耐えた。先に出していなければいくらも経たずにまた爆発してしまっただろう、そのくらいに強烈な快楽だった。
「っ、ぐ……」
「はっ、はあっ、」
一番奥まで到達して、レットは今度はゆっくりと腰を引いた。彼女の中が逃すまいと締めつけるのへ、また腰を沈めていく。彼はだんだんと往復を速くしていった。ぎしぎしとベッドが軋みを立てる。身体と身体がぶつかり合う、明らかな行為の音が部屋中に響く。
「ハダリー、ハダリー」
「レッ、トっ、様ぁっ……!」
ハダリーが一際高く鳴いて、中が締まる。レットの方も限界が近い。彼は男根を深く、彼女の一番深いところまで突き立てた。ハダリーの身体が弓形に反る。乳房が揺れる。彼女の中に搾られるまま、レットは一滴残らず射精した。
◯
「……これなどいかがでしょう。隊商の護衛ですが、相場と比較していい条件だと判断できます」
たくさんの依頼の貼りつけられた壁の前で、二人並んで仕事を見繕う。ハダリーはそう言って、中の一枚を指差した。
「いいけど、ちょっと拘束期間が長くないか?」
「現在の金銭事情を鑑みるに、報酬には多少余裕を見た方がいいのではないでしょうか。帰路でも同じような依頼を探すこともできますし」
「正しい判断だなあ。わかった、ならそれにするか」
彼女の提言に頷いて、彼はその依頼書を壁から剥がした。
あの後、彼女たちの予想した通り、ずっと続いていたハダリーの魔力不足は覿面に回復した。これはつまり、これからは魔力の消費を気にすることなく活動できるということだ。レットに迷惑をかけずに済む。もちろんそのためには、減った分を都度“補給”しないといけないわけだが……それはハダリーにとっては差し障りにはならない。レットにとっても同じだといいと、思う。
色々あったが、二人のパーティはようやく形になった。ハダリーはようやくこの時代で、レットの側で生きていくすべを手に入れたのだ。そのことを、ハダリーは喜んでいた。
「マスターに話つけでくるから、ちょっと待っててくれるか」
「いえ、私もお供します」
「……そうか。じゃあ、一緒に行こう」
依頼書を手に持って、レットがカウンターへと歩き出す。その少し後ろについて、ハダリーもまた歩き始めた。
23/02/26 05:04更新 / 睦
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