モスマンの恩返し?(第三話)
翌日から、マユは大変甲斐甲斐しく働いてくれた。
まず彼女が取り組んだのは、食事だった。
朝、マユが何やら台所回りの収納をゴソゴソと漁っていたので、どうしたのかと聞くと、朝食を作るための食材を探しているという。
俺は、保管棚に無造作に置かれた巨大な干し肉の塊を指さした。
彼女が不思議そうに、お野菜は? と聞いてきたので、いつも干し肉を齧って食事としていることを正直に告げた。
途端に、マユはぷりぷりと怒り出した。
「いけません! そのような偏った食事ばかりしていては、体調を崩してしまします!」
そして、しばしお待ちを、と言って裏口から山に向かって飛び出していってしまった。
今日は厚い雲が出ていて太陽が隠れているとはいえ、夜行性であるモスマンにとって昼間は辛い環境なのではあるまいか。
半刻もせずに戻ってきた彼女の手の中には、数種類の山菜と果実が握られていた。
彼女は収穫の半分を使って、簡単な朝食を作ってくれた。
久しぶりに食べた植物由来の食べ物は、身体が求めていた味だと感じられた。
朝食が終わると、マユは掃除を始めた。
どこから引っ張り出してきたのか、彼女は俺のお袋の割烹着を着こんでいた。
お袋の割烹着は後ろで紐を結んで固定するタイプのものなので、彼女の白い翅を傷めることはない。
両親がいなくなってから埃がたまる一方であった我が家は、俺が食後の睡眠から目覚める頃には見違えるほど綺麗になっていた。
また、普段使わないような荷物も片付けられ、家が少し広くなったようにも感じられた。
片付けられた荷物は、両親の所有物含め床下収納や使っていなかった棚に見事に収められており、マユが家にあったものを勝手に捨てたということは無かった。
さらに彼女は洗濯もできた。
桶に水を張り、溜まりに溜まった洗濯物を何度かに分けて揉み洗いをする。
マユは日光があまり得意ではないので、洗い物は室内干しをすることにした。
天井に縄を張り、狭い室内を自在に飛び回りながら凄い速さで洗濯物を掛けていくマユを、地に這いつくばるしかない俺はぼんやりと眺めていた。
彼女はあらゆる家事を次々と手際よくこなしていき、俺が半年間サボっていた仕事の山はあっという間に片付いていった。
流石に申し訳なくなり、何か手伝おうとしても「お気遣いなく」と笑顔で返してくる。
確かに俺が手伝っても足手纏いであることは確実であるので、結局俺はその言葉に甘え、いつも通り寝室に籠りうつらうつらしながら一日を過ごした。
そして、夕飯の用意が出来る頃には山積みだった仕事の約半分が片付いていた。
夕食は、今朝とってきた山菜の残りを、味付けを変えて干し肉と炒めたものだった。
マユは食事の席で、「明日は台所の雑巾がけと収納戸の整理をいたします」と何故か楽しそうに話していた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
夕飯を終えた俺は、いつものように寝室でゆっくりと時の流れを楽しんでいた。
マユは夕食を終えるや否や、裏の山に食材の調達に行ってしまった。
今朝採ってきた食材はすべて使ってしまったし、明日はもっと多品目の食事を作ると張り切っていた。
村の焦点が使えればいいのだが、この村の人々は教団よりであるため、彼女を買い物に行かせる訳にはいかない。
俺が買いに行ければいいのだが、あいにく指輪買い取り金の受け取り日以外は、外に出る気が起きなかった。
今日一日で、俺の生活は大分人間らしいものへと変わったと思う。
家に魔物がやってきて、「人間らしく」変わったというのもおかしな話ではあるが。
(なんだか今日は疲れたな……)
いろいろと慣れないことがあったからだろうか。
俺は、ゆっくりとまどろみの世界に落ちていった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
真夜中。
俺は何やら人の気配で目を覚ました。
暗闇の中、枕元に腰掛け、俺に笑みを送るマユ。
明りといえば、窓から漏れる月明かりのみ。
だがそんな中にいて、彼女は昼間よりもだいぶ妖艶に見えた。
「あら、起こしてしまいましたか?」
「マユ? 帰ってきたのか……」
寝ぼけ眼で応答する。
「ふふ、山から戻ってきたのなんて、随分前ですよ? 旦那様が随分と穏やかなお顔で眠られていたので、暫し見入ってしまっていたのです」
「そうなのか……。もう遅いし、疲れただろう。君も休んだ方がいい……」
「私はモスマンですよ? むしろ、これからが活動時間です」
寝ぼけていらっしゃるのね、と、彼女は私の頬を撫でた。
柔らかい感触が首筋をくすぐる。
なにやら心地よい感触に、俺は自ら彼女の手に頬を擦り付けた。
「ふふ、そんなに甘えないで下さいませ」
彼女は少し嬉しそうな声色で、今度は俺の耳の辺りをくすぐる。
熟れた果実のような甘いにおいが、鼻孔をくすぐった。
なんとも官能的な香りに。俺の中で劣情がむくむくと頭をもたげた。
マユの触覚がピクリと震える。
「あら? これはまぁ……」
耳を撫でていた彼女の柔らかな指先が、つーっと首を下り、胸を撫で、へそを通り過ぎて、俺の股間へと触れる。
うっ、と小さく声を漏らしてしまった。
「昨晩はそのまま眠ってしまわれたので、もしや魔物には興味が無いのかと思っていたのですが……」
マユがゆっくりと体を倒す。
暗闇でもはっきりと分かる、柔らかそうな、唇。
それが、ゆっくりと近づいてくる。
(うわ……、うわぁ)
俺は物心ついた時から家の中に籠りがちだった。同年代の女の子とも殆ど話した経験はなく、普通に話したことのある女なんて母親ぐらい。
昨日からの急展開に頭が追いついていなかったが、今、ようやく自分が魔物の女の子と一つ屋根の下暮らすことになったのだと実感する。
(キス、キスされる……)
俺は固く目を閉じて、その瞬間を待った。
が、俺の期待に反して、彼女の唇は顔の側面を通り過ぎた。
「もしかして、私を気遣ってくれていたんですか?」
マユが、耳元で囁く。
触られてもいないのに、身体がびくんと跳ねた。
マユが、耳元でフフッと笑う。
「旦那様は、耳がお好きなようですね」
ふぅ、と彼女の吐息が耳を撫でた。
「うぅ〜〜〜!!」
快感が耳から入り、背骨をって体内に広がる。体がびくびくと震える。
マユは、クスクスと笑いながら体を起こす。
昼間に甲斐甲斐しく尽くしてくれた彼女といは、全く別のオーラが感じられた。
「マユさん、なんで……」
俺は、痺れる意識の中、彼女に問いかけた。何を聞こうとしているのか、自分でもよく分からなかったが、何か聞かなくてはと思った。
「マユさん、だなんて呼ばないで下さい。私は先程お夕飯をご一緒しましたマユでごさいますよ」
旦那様が昨晩私に下さった名前です、と、うっとりとした顔で続ける。
「マユ、なんでこんなことを……」
「旦那様の夜のお世話も私の仕事でございます。――それとも、これでは恩返しにはなりませんか?」
マユの右手が、股間にいきり立つソレを寝巻の上から撫で上げる。
「ぐ、そんなことはないけど……」
よかった、と彼女は右手に続き、左手を俺の胸元に這わせ始める。
そのなめらかな指が、寝巻の隙間を潜り抜け、直に俺の肌に触れる。
「あぁっ」
おれはまた声を出してしまった。
マユは嬉しそうに口元をゆがめる。
「旦那様に喜んでいただけているようで、マユも大変うれしく思います……♪」
「でも旦那様? まだこちらには殆ど触れておりませんよ?」
マユの右手が、今度はその存在を確かめるように、寝巻の上から俺の股間のモノをまさぐってくる。
「まだまだ夜は長いですのに、こんなにビクビク悶えて声まで出して、大丈夫ですか? お住まいが村はずれにあって良かったです。そうでなければ、ご近所さんに旦那様の喘ぎ声を全部聞かれてしまうところでした」
左手の指先が、俺の乳首に直に触れた。おれはひゃあ! と情けない声を上げてしまう。
「マユ、マユは……」
俺は絞り出すように声を出した。
「マユは、こういうことに慣れているのか……?」
これは、どちらかというと純粋な疑問だった。マユは一昨日羽化したばかりのはず。なぜ、これほどまでに男の扱いに長けているのか。
たえず俺の身体を弄り回していた手が止まる。一瞬、マユの顔に動揺の色が浮かぶ。
「モスマンは……繭の中で眠っているとき、色々な夢を見ます。そして、それらの夢から知識を得ます」
山で育った私が炊事洗濯ができるのも、その時に勉強したからです、と続けた。
「こうして旦那様のお相手ができるのも、夢の中で学んだからです。そして、なによりも私が魔物だからです。」
「実際に試すのは今日が初めてになります。もし、ご不満な点やおかしな点がありましたら、その都度申し上げて頂けると……助かります」
俯いたその顔に、若干の不安の色が浮かぶ。一瞬、先程までの淫靡な気配が霧散し、昼間のマユに戻った、と思った。
何か言うなら今しかないと思い口を開いた。
が、言葉を発する前に、マユに唇を奪われる。
同時に、口内にぬるりとマユの舌が侵入する。
「〜〜〜〜!! 〜〜!!」
俺はマユを引きはがそうともがいたが、無防備な粘膜が柔らかな舌と唾液に蹂躙されるうちに、徐々に抵抗する気力が失せていく。
次に彼女が俺から身を離したとき、その瞳は淫蕩に曇り、頬は火照り赤みが増していた。
そしてまた、熟れた果実のような香り。霧散したはずの淫靡な雰囲気が、濃度を増して再び寝室を満たす。
「そのかわり、気持ちがいいときは正直にそう仰って下さいね♪」
淫蕩な笑みとは不釣り合いな悪戯な口調に、俺は力なく頷いたのだった。
まず彼女が取り組んだのは、食事だった。
朝、マユが何やら台所回りの収納をゴソゴソと漁っていたので、どうしたのかと聞くと、朝食を作るための食材を探しているという。
俺は、保管棚に無造作に置かれた巨大な干し肉の塊を指さした。
彼女が不思議そうに、お野菜は? と聞いてきたので、いつも干し肉を齧って食事としていることを正直に告げた。
途端に、マユはぷりぷりと怒り出した。
「いけません! そのような偏った食事ばかりしていては、体調を崩してしまします!」
そして、しばしお待ちを、と言って裏口から山に向かって飛び出していってしまった。
今日は厚い雲が出ていて太陽が隠れているとはいえ、夜行性であるモスマンにとって昼間は辛い環境なのではあるまいか。
半刻もせずに戻ってきた彼女の手の中には、数種類の山菜と果実が握られていた。
彼女は収穫の半分を使って、簡単な朝食を作ってくれた。
久しぶりに食べた植物由来の食べ物は、身体が求めていた味だと感じられた。
朝食が終わると、マユは掃除を始めた。
どこから引っ張り出してきたのか、彼女は俺のお袋の割烹着を着こんでいた。
お袋の割烹着は後ろで紐を結んで固定するタイプのものなので、彼女の白い翅を傷めることはない。
両親がいなくなってから埃がたまる一方であった我が家は、俺が食後の睡眠から目覚める頃には見違えるほど綺麗になっていた。
また、普段使わないような荷物も片付けられ、家が少し広くなったようにも感じられた。
片付けられた荷物は、両親の所有物含め床下収納や使っていなかった棚に見事に収められており、マユが家にあったものを勝手に捨てたということは無かった。
さらに彼女は洗濯もできた。
桶に水を張り、溜まりに溜まった洗濯物を何度かに分けて揉み洗いをする。
マユは日光があまり得意ではないので、洗い物は室内干しをすることにした。
天井に縄を張り、狭い室内を自在に飛び回りながら凄い速さで洗濯物を掛けていくマユを、地に這いつくばるしかない俺はぼんやりと眺めていた。
彼女はあらゆる家事を次々と手際よくこなしていき、俺が半年間サボっていた仕事の山はあっという間に片付いていった。
流石に申し訳なくなり、何か手伝おうとしても「お気遣いなく」と笑顔で返してくる。
確かに俺が手伝っても足手纏いであることは確実であるので、結局俺はその言葉に甘え、いつも通り寝室に籠りうつらうつらしながら一日を過ごした。
そして、夕飯の用意が出来る頃には山積みだった仕事の約半分が片付いていた。
夕食は、今朝とってきた山菜の残りを、味付けを変えて干し肉と炒めたものだった。
マユは食事の席で、「明日は台所の雑巾がけと収納戸の整理をいたします」と何故か楽しそうに話していた。
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夕飯を終えた俺は、いつものように寝室でゆっくりと時の流れを楽しんでいた。
マユは夕食を終えるや否や、裏の山に食材の調達に行ってしまった。
今朝採ってきた食材はすべて使ってしまったし、明日はもっと多品目の食事を作ると張り切っていた。
村の焦点が使えればいいのだが、この村の人々は教団よりであるため、彼女を買い物に行かせる訳にはいかない。
俺が買いに行ければいいのだが、あいにく指輪買い取り金の受け取り日以外は、外に出る気が起きなかった。
今日一日で、俺の生活は大分人間らしいものへと変わったと思う。
家に魔物がやってきて、「人間らしく」変わったというのもおかしな話ではあるが。
(なんだか今日は疲れたな……)
いろいろと慣れないことがあったからだろうか。
俺は、ゆっくりとまどろみの世界に落ちていった。
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真夜中。
俺は何やら人の気配で目を覚ました。
暗闇の中、枕元に腰掛け、俺に笑みを送るマユ。
明りといえば、窓から漏れる月明かりのみ。
だがそんな中にいて、彼女は昼間よりもだいぶ妖艶に見えた。
「あら、起こしてしまいましたか?」
「マユ? 帰ってきたのか……」
寝ぼけ眼で応答する。
「ふふ、山から戻ってきたのなんて、随分前ですよ? 旦那様が随分と穏やかなお顔で眠られていたので、暫し見入ってしまっていたのです」
「そうなのか……。もう遅いし、疲れただろう。君も休んだ方がいい……」
「私はモスマンですよ? むしろ、これからが活動時間です」
寝ぼけていらっしゃるのね、と、彼女は私の頬を撫でた。
柔らかい感触が首筋をくすぐる。
なにやら心地よい感触に、俺は自ら彼女の手に頬を擦り付けた。
「ふふ、そんなに甘えないで下さいませ」
彼女は少し嬉しそうな声色で、今度は俺の耳の辺りをくすぐる。
熟れた果実のような甘いにおいが、鼻孔をくすぐった。
なんとも官能的な香りに。俺の中で劣情がむくむくと頭をもたげた。
マユの触覚がピクリと震える。
「あら? これはまぁ……」
耳を撫でていた彼女の柔らかな指先が、つーっと首を下り、胸を撫で、へそを通り過ぎて、俺の股間へと触れる。
うっ、と小さく声を漏らしてしまった。
「昨晩はそのまま眠ってしまわれたので、もしや魔物には興味が無いのかと思っていたのですが……」
マユがゆっくりと体を倒す。
暗闇でもはっきりと分かる、柔らかそうな、唇。
それが、ゆっくりと近づいてくる。
(うわ……、うわぁ)
俺は物心ついた時から家の中に籠りがちだった。同年代の女の子とも殆ど話した経験はなく、普通に話したことのある女なんて母親ぐらい。
昨日からの急展開に頭が追いついていなかったが、今、ようやく自分が魔物の女の子と一つ屋根の下暮らすことになったのだと実感する。
(キス、キスされる……)
俺は固く目を閉じて、その瞬間を待った。
が、俺の期待に反して、彼女の唇は顔の側面を通り過ぎた。
「もしかして、私を気遣ってくれていたんですか?」
マユが、耳元で囁く。
触られてもいないのに、身体がびくんと跳ねた。
マユが、耳元でフフッと笑う。
「旦那様は、耳がお好きなようですね」
ふぅ、と彼女の吐息が耳を撫でた。
「うぅ〜〜〜!!」
快感が耳から入り、背骨をって体内に広がる。体がびくびくと震える。
マユは、クスクスと笑いながら体を起こす。
昼間に甲斐甲斐しく尽くしてくれた彼女といは、全く別のオーラが感じられた。
「マユさん、なんで……」
俺は、痺れる意識の中、彼女に問いかけた。何を聞こうとしているのか、自分でもよく分からなかったが、何か聞かなくてはと思った。
「マユさん、だなんて呼ばないで下さい。私は先程お夕飯をご一緒しましたマユでごさいますよ」
旦那様が昨晩私に下さった名前です、と、うっとりとした顔で続ける。
「マユ、なんでこんなことを……」
「旦那様の夜のお世話も私の仕事でございます。――それとも、これでは恩返しにはなりませんか?」
マユの右手が、股間にいきり立つソレを寝巻の上から撫で上げる。
「ぐ、そんなことはないけど……」
よかった、と彼女は右手に続き、左手を俺の胸元に這わせ始める。
そのなめらかな指が、寝巻の隙間を潜り抜け、直に俺の肌に触れる。
「あぁっ」
おれはまた声を出してしまった。
マユは嬉しそうに口元をゆがめる。
「旦那様に喜んでいただけているようで、マユも大変うれしく思います……♪」
「でも旦那様? まだこちらには殆ど触れておりませんよ?」
マユの右手が、今度はその存在を確かめるように、寝巻の上から俺の股間のモノをまさぐってくる。
「まだまだ夜は長いですのに、こんなにビクビク悶えて声まで出して、大丈夫ですか? お住まいが村はずれにあって良かったです。そうでなければ、ご近所さんに旦那様の喘ぎ声を全部聞かれてしまうところでした」
左手の指先が、俺の乳首に直に触れた。おれはひゃあ! と情けない声を上げてしまう。
「マユ、マユは……」
俺は絞り出すように声を出した。
「マユは、こういうことに慣れているのか……?」
これは、どちらかというと純粋な疑問だった。マユは一昨日羽化したばかりのはず。なぜ、これほどまでに男の扱いに長けているのか。
たえず俺の身体を弄り回していた手が止まる。一瞬、マユの顔に動揺の色が浮かぶ。
「モスマンは……繭の中で眠っているとき、色々な夢を見ます。そして、それらの夢から知識を得ます」
山で育った私が炊事洗濯ができるのも、その時に勉強したからです、と続けた。
「こうして旦那様のお相手ができるのも、夢の中で学んだからです。そして、なによりも私が魔物だからです。」
「実際に試すのは今日が初めてになります。もし、ご不満な点やおかしな点がありましたら、その都度申し上げて頂けると……助かります」
俯いたその顔に、若干の不安の色が浮かぶ。一瞬、先程までの淫靡な気配が霧散し、昼間のマユに戻った、と思った。
何か言うなら今しかないと思い口を開いた。
が、言葉を発する前に、マユに唇を奪われる。
同時に、口内にぬるりとマユの舌が侵入する。
「〜〜〜〜!! 〜〜!!」
俺はマユを引きはがそうともがいたが、無防備な粘膜が柔らかな舌と唾液に蹂躙されるうちに、徐々に抵抗する気力が失せていく。
次に彼女が俺から身を離したとき、その瞳は淫蕩に曇り、頬は火照り赤みが増していた。
そしてまた、熟れた果実のような香り。霧散したはずの淫靡な雰囲気が、濃度を増して再び寝室を満たす。
「そのかわり、気持ちがいいときは正直にそう仰って下さいね♪」
淫蕩な笑みとは不釣り合いな悪戯な口調に、俺は力なく頷いたのだった。
14/12/28 14:44更新 / 万事休ス
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