第一章終節 王女と英雄
初代魔王。
それ以前の魔王を全て存在しない事にしてしまった、歴代最強の魔王である。
彼は一度振るえば天を裂き、地を割り、万の軍を滅ぼす魔剣を自ら創り出したという。
四英雄との戦いでは最後の一人、名も無き五人目によってその魔剣を盗まれた事が、彼が敗北した最大の要因だったという事は想像に難くないだろう。
しかしその後、件の魔剣は歴史上から姿を消してしまう。それだけ強力な魔剣がいったい何処へ行ってしまったのか。所有していたであろう、五人目の英雄はいったい何処へ消えたのか。
――今となってはその謎を解こうという者すら絶えて久しい、古い古い時代の話である。
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アランは魔剣を持つ腕を静かに下ろした。
血肉と骨肉を固めたかのような異形の魔剣は面白そうに、愉快だとでも言いたげに巨大な瞳でフォリーを見ている。
――あの魔剣には、間違いなく悪意が有る。
怖い、おぞましい。あんなモノと戦ったら、自分は絶対に死んでしまう。
フォリーはそんな恐怖を、意思の力で抑え込んだ。自分がここで臆してしまえば、アランはきっと、容赦無くあのゴーレムを殺してしまう。それは、嫌だ。目の前で、誰かが死ぬのは嫌だ。いや、目の前でなくても、誰かが死んでしまうのが嫌だ。あのゴーレムは間違えたかもしれないけれど、悪い事をしてしまったけれど、それでも、改心して反省が出来るかもしれない。いや、改心させる。絶対に。死んで責任を取るだなんて、死んで責任から逃げるだなんて、絶対に許せない。彼女には是が非でも――幸せに、なって貰わなくては。
「――まあ、先ずは落ち着いて、話し合いでもしましょうか」
血気に逸る様を見て取ったのか、アランが落ち着いた声音を発した。
「多少前後してしまいましたが、私がこのゴーレム――そうですね、今はこの姿ですし、暫定的に彼女と呼びましょうか。彼女を何故破壊しようとするのか、それを聞きたかった、で宜しいのですよね?」
「……うん」
そうだ、落ち着け。
今の自分の力では、何をどうしたって、逆立ちしたってアランの力にはきっと勝てないだろう。
――なら、力以外の手段で勝つしかない。諦めるという選択肢は、最初から無いのだから。
「端的に言えば、危険だからです。彼女の存在は、争いの種に成る。いえ、争いを激化させる、と言った方が正しいでしょうか」
「それは、彼女がまた暴れるかもしれない、ということ?」
「いいえ。本質的な問題はそこではありません。確かにそこも懸念すべき点ではありますが、その場合ならば事が起こってしまってから対処しても充分でしょう」
平然と言ってくれる。その事が起こったからこそ、今回の騒動が有るというのに。
つまりは、最低でもこれ以上の事が起こるというのか。
「なら、いったいなにが危険だって言うの?」
アランはさらりと、なんという事も無さ気に答えた。
「彼女は初代魔王と呼ばれる存在が作成した、量産を前提とした次期主力兵器の試作品です。先程、停止命令を出す際に確認しました」
なんか色々、凄い事を言われた。
初代魔王、という事はあのゴーレムが作られたのは何千年か、あるいは何万年も前の事になる。
それだけでも十分に凄いが、あの悪名名高い初代魔王が作ったのなら、彼女の驚異的な性能にも納得が出来た。なにせ世界の半分を支配した魔王が次期主力兵器にしようとしていた代物である。今で例えるなら、うちの四女と愉快な仲間達みたいなモノなのだろう。――少し違う気もするが、まあ多分、それくらいの脅威度である。少なくとも人類側にとってみれば。
だけどきっと、アランが問題視しているのはこれらではなく。
「量産……」
「はい。状況が特殊だったとはいえ、貴女が苦戦したゴーレムを最低でも数百万、恐らくは数千万単位で生産するつもりだったと考えられます」
「……お、多過ぎない?」
ちょっと桁、間違ってない?
「最終的に、数十億での運用を計算していた痕跡も有りました」
「いったい何と戦うつもりだったんだ……」
何もかもが狂っている。実は正気を失っていたんじゃないか、初代魔王。
「まあ彼がどう考えていたのかはこの際どうでも良いのです。大事なのは、それが可能な設計になっている、その一点です」
「……えっと、つまり、アランが言いたい事っていうのは」
アランは、こくりと、頷いた。
「例えばこれが人間側、それも教団側の手に渡ったとして。量産されてしまったら、とんでもない事になるでしょう」
「とんでもないこと……」
「大戦争が、起こるでしょう」
「だいせんそう……」
いやまあ、うん。えらい事だ。
なんかもうスケールが大きすぎてイマイチ想像が出来ないけど、かなりこう、大騒動だ。
「魔物が……負けるっていうの?」
「いえ、負けはしないでしょう。所詮このゴーレムも魔物ですから、幾ら魔力に耐性が有ると言えども最終的にはこの彼女のように淫魔化してしまう筈です。ましてや現在の教団の技術力では耐性の再現も不完全な物に為らざるを得ないでしょうし」
……良かった。とりあえず、最悪の事態にはならないのか。
そう安心した、安心してしまった私を見透かすかのように、アランが続けて言葉を放つ。
「それまでに、かなりの数の魔物や、魔物側の人間が殺される事でしょうが。戦う力なんて持たない只の夫婦者達が無残に引き千切られ、痛みと苦しみの中で愛する者のその姿に絶望して行く事でしょうが」
……何一つ良くねえ。最悪だ。
ただまあ、今の話から分かった良い材料も一応ある。
「つまりアランは、そういった被害者が出る事を防ごうと思っているわけなんだよね?」
「まあ、有体に言えばそうなります」
……良し。
それは要するに、アランは魔物の敵ではない、むしろ味方という事のはずだ。
それなら、説得の余地は十分に有る。
「確かに、人間というか教団側の手に渡すのがマズイって事は分かった。でもそれなら、魔物の側が引き取って保護をすれば――」
「同じ事ですよ」
遮るように、アランが言う。
「魔物の側にも、彼女を量産しそうな輩は居る筈です。過激派、と呼ばれている方達なんてどうでしょうね。善意から、貴女の言う、御節介から彼女を量産させて、人間側にけしかけたりなんてしないと言い切れますか?」
……言えねえ。
すげえやりそう。
「で、でも! 魔物なら過激派だって不要な暴力は振るわせないよ! ましてや、誰かを殺したりなんて絶対に!」
「これも先程言った事ですが、加えられる力が強くなれば、それに対する反発も強くなる事がまま有ります」
言うまでもなく、アランは表情を変えなかった。
「魔物が彼女を量産したなら、私はそれを防ぐ側、と言うよりも、殲滅する側に回ります」
「な……なんで!?」
「何でも何も。強い力で蹂躙されそうな人々が居る訳ですよ? 相手の意向を鑑みず、力で強制しようという者達が居るのなら、それを打ち倒す事が私にとっての正義です」
「……正義」
「ええ。勘違いされているかも知れませんので訂正して置きますが、私は魔物の味方ではありません。弱者の味方です。人間と魔物で見るのなら、むしろ人間の味方であって、魔物の敵です」
「……魔物、嫌いなんだっけ」
「はい。人間よりも、強いですからね」
弱者を守る。
成程それは、分かりやすい正義の形だ。
「だけど……強い側をより強い力で押し潰す事が本当に貴方の正義なの?」
「厳密には、少し違います。悪を為す側を、悪を持って排除するのが私の正義です」
「正義、なのに悪なの?」
「はい。もし、正義と悪を反対の物だと思って居らっしゃるのでしたらそれは――」
アランが、ほんの少しだけ、笑みを見せた。
「――素敵で愉快な勘違いです。正義の反対は不義。悪の反対は善。基本的には別の物です」
「べつの……」
「故に、正義の為に悪を為す事は矛盾しません。私は、悪という手段を持って正義を成す。もし私に、目的という物が有るのなら。それはこの世界全ての悪を滅ぼし切る、という事です」
「…………でも、アラン、それは――」
「話が脱線し過ぎましたね。今は私の事よりも、彼女の処遇についてです」
また、話を遮られた。
今、何か酷い矛盾、暗い破滅を見た気がしたのに。
「ともあれ、魔物が彼女を引き取れば、私は幾千か幾万か、あるいはそれ以上の彼女、正確には彼女の同族を殺す事に為ると、そう想定をしなければいけない訳です。それに私以外の、私のような者達も動くでしょう。無論、それに対応して魔物側の実力者達もきっと動く。此方は此方で、結局の所また戦争に為るだけです」
「そんなの、量産なんてさせなければ良い! ちゃんと管理して、情報が漏れたりしないようにすれば――」
「出来ますか? それが、貴女に」
「……っ、私には出来ないかもしれないけど! でも! 私の家族ならやってくれる!」
舐めんなこちとら魔物の王女だ。
親の威光頼りではあるけれども魔物の一人や二人、保護して出来ない筈が無い。
「成程。信頼出来る御家族が居るという事は良い事です。ですが、それでも一つ問題が有ります」
「問題?」
「はい。残念ながら、私は貴女の御家族を信用出来ない」
「なっ……」
当人に直接そういう事を言うかこの野郎!
「貴女の事は、フォリーさんの事は信頼しています。少なくとも、人間性の面に置いては信じています。だけど、それと貴女が信じる人を信じるかは全く別の話です」
「なら直接紹介するわよ! 好きなだけ親睦を深めてよ! なんだったら一緒に住んでよ!」
「いえ、それは遠慮をさせて頂きます」
「しないでよ!?」
全部一気に解決する妙案だよいっそ!
「それに、よしんば私が貴女の御家族を信じたとしても、矢張り任せる事は出来ません」
「……なんで?」
「私が人間で、貴女が魔物だからです」
アランの声が、酷く冷たい物に感じた。
「私は人間として、人間側の立場で動いて居ます。しかも個人的にではなく、依頼を受けて。そうである以上、人間側の命運を大きく分けかねない事態を魔物側に委ねる、という判断をする訳には行きません」
「そんな……!」
「貴女も魔物の、しかも王女だと言うのならば、魔物の側として人間の側に任せてしまうべきではない。だから此処で、彼女には初めから無かった事に為って貰う。それが一番、両者にとって都合が良いのです。少なくとも、現状の力関係を崩さずに済む。大きな争いに、為らないで済む」
「……そのために、彼女を生け贄にしろと言うの?」
「はい。彼女自身に罪は無い。しかし、彼女という存在自体に問題が有る。そして時期が悪かった。もっと未来の、魔物の側がほぼ勝利している時代であったら。もっと過去の、魔物の在り方を変えようとしていた時であったら。彼女にも、きっと居場所は有ったでしょう。だけどそうはならなかった。だから、こうするしか無いんです」
「……最初に、私を手伝ってくれた事は、どうして?」
「仮にも同じパーティーの仲間だから、というのまあ一つ。私の遣り方だけでは、捕まっていた人達をも巻き込む公算が大きかった、というのがまた一つ。それと、貴女が彼女を御し切れるのなら、まあ私は見なかった事にして任せてみても大丈夫かも知れない、と思ったのが一つですね」
……つまり、私は見限られたのか。
こいつには任せておけない、やはりこのゴーレムは殺すしかない、と。
なんだ結局、私の力不足が原因なのか。
どうしようもない、この……無能め。
「なんで私、こんなダメな奴なのかな……」
「そう御気を落とさず。まだ御若いのですから、上手く行かないのはむしろ当然の事ですよ。私なんて今でも度々失敗していますし」
「……まあ、そうだよね。若い内は色々と失敗をして、誰かに助けて貰う物だよね?」
「そうですね。まあ誰しもが助けてくれる訳ではありませんから、そういった相手への感謝は欠かせませんが」
「分かった。感謝もする。お礼だってする。……だからアラン、助けて」
「……はい?」
「私には、彼女を助けられなかった。だから貴方が、彼女を助けて」
「いやいや、これまでの会話は何だったんですか。だから立場的に無理なんですって」
「アランは、人間だから魔物に任せられないんでしょう? なら、人間のアランに任せる分には、アランに問題は無いんでしょう?」
「いやですから、魔物の王女である貴女がそういう事を言い出す事がですね」
「私の立場なんて、どうでも良いよ、この際。全部ぽーいだよ。なんだったら臣籍降下というか臣籍降嫁しちゃうよいっそ」
「そんな貴女、簡単に」
「私の事を考えてくれるのは嬉しいけどさ、それで誰かが犠牲になるのは絶対ダメだよ。それは私じゃなくても、私の家族でも同じだと思う。ううん、絶対同じ事を言うよ。だから、お願い」
「え、えー……」
アランが、慌てている。
これまで殆ど無表情だった彼が、明らかに困惑していた。
「アランが言っていた通り、教団に取られたら大変な事になるかもしれない。だから、そうならない、安全な場所にアランは心当たりが無いの?」
「……いや、まあ、有りますけれども」
さすが。
「ですけど、私がその場所というか、相手をどう思っていようとですね。フォリーさんがどう思うかと言うか、いえフォリーさんがどう思っていようとも王女として魔物側に対する責任が」
「私はアランを信じるし、アランが信じる人を信じるよ。他の魔物達にだって、信じて貰う。それに、それが誰かを助けるためなら、人間や魔物だなんて事、皆関係無いんだよ」
「い、良いのですか? そんな、種族の総意を代弁するような事を言って」
「いいの」
こちとら王女様だ。親と姉以外に誰を恐れる事があろうか。
それに私は、魔物達の事も信じている。誰もが幸せになる事を、皆きっと願っているって。
「う、うーん……嗚呼、そうだ。捕まって居た人達だって、このままで済ませては納得しないでしょうし」
「いや、俺達の事は気にしないでくれ」
と、答えたのはリーダーらしき男である。
「助けて貰った相手の意向だ、否は無え。それにその姫さんの言う通り、誰も犠牲が出ないならそれに越した事は無い」
なあ? と彼が声を掛けると、他の人達も全員同意しているようであった。
少なくとも、表立って反対している者は居ない。
「……甘いなぁ。時代ですかねぇ、これも。やだやだ、良い時代に為っちゃってもう……歳は取りたくないですねえ」
「そこはむしろ、長生きはする物だって言うべきじゃない?」
「いやぁ。周囲に上手く合わせられないって、これはこれで辛いんですよ? まあ私、昔っからそんな感じでは有りましたけど。むしろ私が甘いと言われる位でしたからねぇ」
そうしてアランは、魔剣を持った右手を軽く上げた。
魔剣の目は、さっきよりも愉快そうにフォリーを見ている。
……ひょっとしたらあの魔剣も、結構良い奴なのかもしれない。
未だに恐怖は薄れないけど、フォリーはそんな風にも感じていた。
大体にして初代魔王よりも、アランの手元に在る事を選んだ訳だし。
「さて、ではまあ、そうですねえ」
周囲を見回し、アランは少し考える。
そして言った。
「取り敢えず、全部無かった事にしてしまいましょうか」
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数日後。
行方不明者を出していたある遺跡が、突然の消失をしたと関係各所を騒がせた。
それに前後して行方不明者達が近隣で発見されたが、彼等は意識と記憶に混濁が見られ、いったい何が起こったのかは不明だという。
後日派遣される予定だった捜索隊に先行して派遣された冒険者の報告に寄ると、遺跡その物の暴走が原因と思われるが詳細は不明。
ほぼ調査前の段階であり、何一つ発見は出来ていなかったという。
なお余談であるが、近隣に逃げ込んだと思われる盗賊団も消息を断っており、あるいは遺跡の消失に関係しているのでは、という意見も出ているとの事。
なんにせよ遺跡その物が消失してしまった為、今後もこれらの真相が判明する事は無いと思われる。
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「大分、元気になってきたね」
液体に満たされた、巨大なガラス管。
その中に浸かっている件のゴーレムの姿を見ながら、フォリーが嬉しそうに笑っていた。
「そうですねえ」
珈琲を片手に、アランはぼんやりとそれに答える。
あの後、捕まっていた者達に口裏を合わせるよう取り付け、遺跡内の機材やら情報やらを持ち出し、遺跡その物を魔剣で消し去り。
それから飛行魔術でこの研究所というか、まあ自分の拠点へと一気に飛んで、知人というかまあ色々と複雑な仲の研究者にゴーレムの修復と研究を依頼して。
まあ投げっぱなしもなんなので自分でも手伝える所は手伝って、それでようやく、ゴーレムの肉体的な治療はおおよそ終わりそうという所である。
なんだかんだで数日掛かってしまったが、まあ物が物だけにそれは仕方が無い所だろう。いわば古代兵器みたいな代物を数日で修復しました、とかむしろ頭がおかしい早さな気もするが、自分的には割と日常茶飯事である。ひょっとすると頭がおかしいのは自分なのかもしれないが、気にしたら負けな気がするので気にしないでおく。
これでただ修復したのではなく、暴走の危険性が無いか調査し時に調整しながら修復した、という事実も無視しておこう。なにせ魔力耐性が凄まじいので、とりあえず魔物の魔力に任せておけば何とかなる、が通用しないのだ、厄介な事に。全く、なんて物を作ってくれたのだ、あの野郎。いったい何と戦う気だったんだ。大体想像付くのが凄く嫌だぞ。
「肉体的な修復は、元々無かった両腕も含めてほぼ完了といった所でしょう。ただ後は内面、頭脳やあるいは心、精神、といった部分も作り込まないといけませんが」
しかも元々は兵器として作られていた個体なので、その辺の元データは殆ど使い物にならないのだ。まあゴーレムに心を植え付けよう、だなんて発想、今ですらも殆ど無いが。基本、勝手に芽生えているだけだしな、そこらのゴーレム。なんというお手軽さよ。
「まあ、そっちの方は私にはどうしようも有りませんので、私の仕事は此処までです。後はまあ、ドクターに任せて置きましょう」
「そっか……じゃあアランは、これからいったいどうするの?」
「どうするもこうするも、また冒険者としての活動をしますよ。フォリーさんはどうされるんです? 彼女が完成するまで此処に居るんですか?」
助ける事を願った手前、責任を感じるのもまあ、分からなくはない。最後まで見届けたい、という気持ちもまあ分かる。別に何の役にも立っていないが。単なる自己満足にしかなっていないが。毎日せっせと見舞っている事も、このゴーレムにはどの程度の意味が有ったものか。
「んー……そうしてあげたい気もするんだけどね。アランが行くなら、私も付いて行くよ」
「え、何でです?」
今更私に付いて来る事もあるまいに。
割と素でそう思ったのだが、どうやら彼女はご立腹のようであった。相変わらず、感情は読みやすい子だ。思考はいまいち読めないけれども。
「私達! 仲間! パーティー!」
「え、それまだ継続していたのですか?」
素でびっくり。
事も終わったし、自然消滅かと思っていた。
「解散宣言してないでしょー!? それに私、恥ずかしながらまだまだ未熟なので、アランにフォローして貰わないといけないのです!」
「いえ、それは私の手に余る難業かと」
「それにアラン、放っておくと何をやらかすのか分からないから、私が見張っておかないといけないのです!」
「それもある意味、私の手に余る難業かと」
「なんでよ!?」
なんでもなにも。
まあ言い合いになると大体私が負ける気がするので、あんまり拒絶するつもりもないが。自分、押しに弱いのだろうか。
「分かりました。付いて来たいと仰るのでしたら、御一緒しましょう。でも私と一緒ですと、何かと大変な目に遭うと思いますよ?」
「だいたいしってる」
それは結構。へこたれない精神力はとても立派だ。
「そういう訳だから、しばらく来れないかも。ごめんね」
言って、ゴーレムに謝るフォリー嬢。
ゴーレムはそれに、こくりと一つ頷きを返した。
うん、そんな命令、組んでないよね?
怖いなー魔物。予想通りに行かないからなー。
「うん、よし。それじゃあね」
言って、ゴーレムから離れるフォリー嬢。
こちらに駆け寄るフォリー嬢。
こちらに口付けするフォリー嬢。
……いや、なんでさ。
「そういう訳で、よろしくねアラン!」
笑顔で手を差し出される。完全に勝利宣言染みた感じがするのは被害妄想か。
「まあ、はい。不束者ですが、よろしく御願いします」
差し出された手を握る。まだ少女の物とは思えない、小さくても力強い手であった。
16/04/11 05:00更新 / 森
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