読切小説
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魔女と男04
 にやにやと笑う魔女殿。
 ゲッパとドッパの獣のような咆哮。
 そして、俺の腕の中で声もなくはらはらと涙するリコ。

 ……?

 俺は困惑していた。
 リコが何故泣くのか判らない。

『フンフンフン! フン!! こぉんな気ん持ちいいゴブリンオスまんこ、一回出したくらいじゃ終われねぇでゲス!
 グェッグェッ!』

『そんなに激しくされるてゴブリンオスまんこから特濃ゴブリン汁がもれちゃうっス! 脂が乗ってとろとろっス!
 が、が、がってん、しょう゛ぢぃぃぃぃぃぃ〜っ!』

 耳に届くゲッパとドッパの声が、彼女を泣かしてしまっているのか。
 確かに泣きたくなる気はする。
 魔女殿は悪趣味だが、気が強く勝気なリコがここまで涙する程の事なのだろうか。

「リコ。どうして泣く?」

 泣いている理由が判らなかったので、訊ねてみた。

 訊ねると、リコはきっと顔を上げて俺を憎々しげに睨みつけた。

『お前なんかに判っか!』

 ごつんと頭突きされた。

 痛かった。

『お前みたいに何言ったってほげーんとしてる癖に実はエロエロでエロいフインキになってもしれーっとしたまま余裕たっぷりにしてる奴なんかに!
 そんなバカもバカで大バカ野郎の上に頭のネジがどっか緩んじまってる奴にあちしがどんな思いで“枝折り”してきたかなんて判るはずねぇんだ!』

 リコは泣きながら怒っていた。
 一体いつ息継ぎをしているのかも判らないほど、勢い良くまくし立ててきた。

 痛む顎をさすりながら、魔女殿をちらりと一瞥する。
 俺が困った時や判らない事に直面した時、いつも魔女殿が教えてくれた。

 魔女殿はワインを瓶から直接呷りながら、

「たわけ。見る相手が違うわ」

 犬でも追うように小さな手をひらひらと振った。

 見る相手が違う。

 魔女殿の言葉に、俺は腕の中にいる彼女を見た。

『ああそうさそうだよ今までちんちん折るばっかでエロいフインキになっちまったらいっぱいいっぱいでリョージョクなんて一度も出来なかったさ!
 第一店に来る奴らはどいつもこいつもロクデナシのクソ野郎ばっかであちしらをゴブリン臭いだの酒が汚いだの洞窟暮らしが不潔だなんて好き勝手言いやがってちっくしょう!』

 とりあえずこの状況で、雰囲気をフインキと使い誤っている点について指摘するのは良くない。
 気がした。

『どうせあちしらは人間と比べてなんの苦労もなく、毎日面白おかしく過ごしてるだなんて思ってんだろ!?
 ふっざけんな!
 ここに店構えっまで一体何回流れてきたと思ってんだ!? 他の魔物だってあちしらの味方なんかじゃねぇんだ!
 他の群れに加えてももらえねぇ、どこに行ってもはみ出しもん扱いでひでぇ仕事ばっかり。見返りなんてこれっぽっちもねぇ!
 そうさ。どうせあちしらははみだしもんさ。はみ出しちまっても生きてかなきゃいかねぇんだ!
 いつまでたっても周りからバカにされねぇようにって、せめて一人前になれるよう、毎日毎日必死だったんだ!』

 リコの絶叫を聞きながら、俺はじっと見つめて考えた。

 彼女が今まで鬱屈したものを抱えてきたというのは判った。
 ゴブリン種はもっと享楽的で、単純な性格をしていると聞き及んでいた。
 リコを見てそう思えないのは、彼女がゴブ一倍苦労を積み重ねてきたゴブリンだからなのだろう。
 
『料金が高い? 吹っ掛けてる? ああそうさ! 吹っ掛けてるさ! でねぇと必要なもんだって買えやしねぇ!
 ゴブリンだからって、はみ出しもんだからって理由で今までどんだけ足元見られてきたか!
 人間なんて物だって売ってくれねぇ。あちしらの姿を見たら剣だの槍を掲げて追い回してくるじゃねぇか!
 騙されねぇように人間の言葉覚えて、仕入れが出来ねぇから店で出すもん自分らで造って、なんとかかんとか今までやってきたんだ!』

 リコの涙が意味する所を理解した。
 悔し涙だ。
 今まで不当な扱いを受け続け、感じた悔しさを溜め込んでいたのだろう。
 溜まりに溜まったそれを、今吐き出している。
 ぼろぼろと涙を流しながら、眉を逆立てて怒るリコの表情。

 その顔を記憶に留めた。

 怒鳴り散らして息が切れたのか、リコは肩で息をしながら俺を押しのけた。
 ベッドの上で膝を抱いて、小さく縮こまってしまった。

『“枝折り”なんて言われてたのが、また半人前のはみ出しもんに逆戻りだ。
 旅人襲ってリョージョク一つ出来ねぇ、小ゴブリンって言われちまうんだ。
 そんなあちしがあいつらの姉ビンだなんて』

 理由は判らないが、ゴブリン種にとって盗賊行為と陵辱はセットになっているようだ。
 それは世間での体面としても作用する。
 そういった文化なのだろう。
 異文化とは、理解し難い体系で構築されているのが常だ。

 “枝折り”と呼ばれ一目置かれていたからこそ、彼女らはここでの生活を守ってこられた。

 それを、俺は完膚なきまでに壊してしまったのか。
 元気に愛嬌よく笑っていたその裏側に、これだけ激しい感情が息づいていたのか。
 ベッドの上でうずくまり、今はもう弱々しく泣き続けるだけ。

 彼女の自尊心を俺が砕いてしまったから。
 そうと知らないままに。

 俺の胸の奥によぎった言葉は一つ。

「すまない」

 俺はリコに、とても申し訳ない事をしてしまったという後悔の念。

「すまない」

 念を押して口にした俺に、リコは顔を伏せたまま小さく左右に振った。

『……もういい。もうお終いなんだ。どうしようもないんだ。ちくしょう』

 謝罪の言葉は彼女に届かない。
 彼女が生きてきた間受けてきた有形無形の苦しみは、こんな短い言葉で慰められる程度ではない。
 何より、リコの苦しみがいかなるものだったのか思いを馳せる事は出来ても、実感としては得られない。

 彼女の苦しみを理解出るとしたら、それは――

「これまで頑張ってきたってのに、もう諦めちまうのかい?」

『……うるせぇ。どうしろってんだ。いい年こいて実は未だに生娘だなんて。
 人間やドワ公だけじゃねぇ。他の魔物たちからだって舐められる。とんだ笑い種だ』
 
「笑いたい奴がいりゃ、笑わせておきゃいい。指を指して笑う奴がいようと、それでも身につけて来たもんは本物だろ?
 王国語を喋って、銭勘定だってしっかりしてる。これまで岩の歯亭を守ってきた実力だって折り紙つきじゃないか。
 そんな“枝折り”のリコ様とあろう者が、人間やドワ公や他の魔物の目が気になるってのかい?」

『何言ってんだ。お前にあちしの何が判るってんだ。偉そうに言いやがって。
 人間やドワ公に何言われたって構うか。魔物が来るってんならぶちのめすだけだ。これまでだってそうして来たんだ。
 あちしが悔しいのは、子分を守れなかったことだ。ゲッパもドッパもおかしくされちまって、なのにあちしはなんも出来なかった』

「今回は相手が悪かっただけじゃねぇかい? そこまで泣くこたぁねぇだろ。
 確かに手も足も出なかったのはこっちだが、俺らはまだ誰も一人として欠けてなんかいねぇぜ?
 命を取られた訳でもねぇのにお終いってのぁ、ちょいとばかし気が早いってもんだ。
 違うかい?」

 リコは膝にぎゅっと押し付けていた顔を上げて、濡れた瞳で俺を睨みつけた。

『好き勝手言いやがって。あちしのこと何にも判ってねぇ癖に』

 俺は節目がちに睨みつけるリコに答える。

「今のは俺が言った言葉ではない」

『あ? 言い訳かよ。人間はいつだってそうだ。自分らは悪くないって思ってて好き勝手しやがる。
 嘘で騙して、責めたら言い訳だ。それが人間の手口じゃねぇか』

「そいつぁちいとばかし言い訳がましい言い草ってもんじゃねぇかい?
 人間嫌いも大概にしとかねぇと、ほんとに大事なもんまで手に入れられなくなっちまうぜ。お嬢」

 答えたのは、やはり俺ではなかった。

 頭の中に直接響くような不思議な男の声。
 俺の声でも、魔女殿の声でもない。
 俺が口を閉ざしたままでも聞こえてきたその声に、リコは目を丸くした。

 声の主は出入り口付近に立っていた。
 ちょこんと佇む小さな体躯。
 ソッパがいつもの表情を浮かべて佇んでいた。

『……ソッパ? あんたが喋ってんのか?』

 リコはすっかり泣き濡れた顔を上げ、彼に訊ねた。

「そこにいる姐さんが、まじないをかけてくれたおかげでな」

 ソッパの尖った鉤爪で指し示された魔女殿は、空になったワイン瓶を覗き込んでいた。

「おお、出た出た。……んむ、甘露甘露♪」

 何とかほじくり出した山葡萄の実を、ちゅぱちゅぱと音をたてて舐めている。

 魔女殿は、全く話を聞いていませんでした。

『な、なんで?』

 魔女殿とソッパを見比べて目を丸くするリコに、俺が答える。

「ただの気紛れ」

 魔女殿が何を考えて魔法を使うかなど、そんなことは魔女殿本人にしか判らない。

「もしくは酔って魔法を掛け間違えたものの、解くのが面倒臭くなっただけだろう」

 今の今までこちらを全く気にせずワインを楽しんでいた魔女殿が、半眼になって俺を見据えた。
 目が座っていたのは、怒りの為か酔いの為か。

「MBよ。ぬしはいつから図星を突くようになったのか」

「図星でしたか。そこは深遠なる意思が働いたと答えて欲しかったです」

「たわけ。わしが一々そんな細かい事を考えて魔法を用いるとでも思うのか?」

「思いません」

「即答するな」

【気熱よ】【爛れよ】【還れ】

「申し訳ありません。痛いです」

「痛い思いをすれば、次はよくよく思慮した上で答えようという気になろう。
 最近、ぬしは脊髄反射で応答している気がする」

「まさか」

「本当か?」

「……まさか」

「言っておくが、ただ間を空ければ思慮したという事にはならんからな? その点は考慮せよ」

「そうでしたか。判りました魔女殿」

 魔女殿と俺のやり取りに、ソッパはやれやれという風に肩をすくめた。

「全く、お二人さんにゃ敵わないぜ」

 本当にそう思ったのか、単に呆れられてしまっただけなのか。
 頭に響いたソッパの声を吟味している間に、彼はちょこちょことベッドの前までやってきた。

「お嬢。そろそろお前さんが背負った肩の荷を、ちっとばかし誰かに預けちまってもいいんじゃねぇか?」

 じっと見上げるソッパに、彼女は我に返ったように慌てた素振りでぐしぐしと顔の涙を拭った。

『な、な、なんだと? 子分の癖に、あちしにそんな口利こうってのか!?』

「今のは子分としてじゃねぇ。お嬢よりちょいと長生きなゴブリンが、年上風を吹かせた忠告って奴だ。
 お嬢のそいつが、お前さん自身を追い詰めてるってことにゃ、気がついてるんだろ? 俺たちが重荷になっちまってる」

 リコは肩をびくりと跳ねさせて後ずさる。
 目に見えてうろたえていた。

『そ、そんなことねぇ! あちしは単にいつまで経っても半人前だって言われるのが嫌で――』

「だったら尚の事じゃねぇか。お嬢が一人前になろうってのに、相手が見ず知らずのロクデナシで満足するってのかい?」

『そ、そりゃあ……』

 リコはちらりと俺に振り返った。
 俺と目が合った瞬間、慌てて視線を逸らした。

『……ゴブリンで、しかもはぐれもんのあちしが、相手なんか選んでられるはずねぇじゃねっか』

 リコは強気な姿勢を保てずにしゅんと俯いてしまう。
 尖った長い耳が傾き、垂れていた。 

「そんなこと誰が決めたんだい?」

 小首を傾げたソッパに、リコが叫ぶ。

『……あちしだよ。そうだ。あちしが決めたんだ。一人前になる為になりふり構わねぇって、あちしが決めたんだ。
 なんか文句あっか!?』

「シシシ」

 怒鳴りつけられたソッパは、あの牙の隙間から洩らす独特の呼気を洩らした。

 笑ったのだろう。
 多分。

「判ってるじゃねぇか。そう、お嬢がそう決めたんだ。
 なら今からだって決められるだろ?」

『な、何をだよ』

「今ここで全部駄目にしちまうか、それとも今から改めて旦那とやり直すか」

 ちらりとソッパが俺を見上げてきた。
 どうやら、旦那というのは俺の事らしい。

 年上のソッパからそのような形容で呼ばれるのは、何やら面映く感じる。
 気がした。

「俺は今まで色んな人間を見てきた。善人から悪党まで、お嬢以上にな。
 旦那は悪い人間じゃねぇぜ。善い人間って訳でもなさそうだが、世の中善人ってのが一番胡散くせぇ。
 神に仕える坊主が、一皮向けば酒乱のペド野郎だった事もあったろ?」

『そりゃあ……そうだけっどよ』

「旦那は――まあちっと、とっぽいとこもあるが」

 ソッパがちらりと俺を一瞥。

『……ちっとか?』

 リコが俺をちらりと一瞥。

「……」

 俺は二人を交互に眺めて、結局口を挟む事はやめた。
 共に暮らしてきた者同士の会話に、部外者の俺が声をかけるのも場違いな気がした。
 とりあえず、俺はとっぽいらしいという事は記憶に留めておいた。

 壁際でグラスを舐めていた魔女殿がにやにやと笑っていた。

「少なくとも、俺たちの流儀に流儀で応えるだけの度量がある。人間でそれが出来る奴なんてそうはいねぇ」

『……』

「なあ、お嬢。受けちまえよ、あの時の流儀をよ。襲うだの陵辱だの一人前だの、そんな事に拘らねぇでよ。
 “枝折り”だの岩の歯団だの、ゴブリンだ人間だってのも脇に置いちまって、ただのリコとしていっぺん旦那と向き合ってみりゃどうだい?」

 流儀という言葉に、ベーコンを差し出した手が払いのけられた事を思い出した。

 岩の歯亭ではゴブ一倍流儀にうるさくて、その事に関しては子分も何もない。
 それがリコの流儀。

『何、言ってんだよ……受けれるはずねぇじゃねっか』

 リコは力なくゆるゆると首を振った。 

「俺たちがいい加減お嬢離れしなくちゃいけねぇってのもありゃ、お嬢だって自分で決めて行動しなきゃならねぇ。
 本当の一人前ってのは、自分で考えて行動するって事じゃねぇかい?」

 そんなリコに、ソッパはじっと見上げて言った。

 その言葉は、俺の頭の中にも殊更大きく響いた。
 気がした。

「周りの目を気にして一人前になろうってのも、別に悪いこっちゃない。誰だってそうやって大人になってくもんだ。
 けどよ、お互いに支え合って一人前になれるんだったら、それに越した事はないんじゃねぇかってな。
 俺が言いたいこたぁそんだけさ。後はお嬢が決めりゃいい。
 旦那と腹ぁ割って話し合ってみて、な」

 ソッパは肩に担いでいた背負い袋をどさりと床に置いた。
 俺が持っていた旅の荷物だった。
 ククリ刀や財布など、全て揃っていた。

 ソッパは尖った鉤爪で自らの頭を掻いた。

「すまねぇな旦那。きょうでぇの流儀を交わしていながら、随分えらい目に遭わしちまった」

 そして、そのナイフのように尖った爪で、俺の足首を縛っていた縄をごしごしと擦り切った。
 尖った見た目通り、切れ味も鋭いようだ。

 俺は少し迷ってから、ソッパにゴブリン語で返す。

『構わない。慣れている』

 簀巻きにされるのも、身包みを剥がれるのも。
 それが喜ぶべきか悲しむべきなのかは理解出来ないが、慣れているので腹は立たなかった。

 それよりも嬉しい事があった。

 ゴブリン種の互いに食した物を分け合うという流儀は、友人ではなく兄弟の契りを交わすという内容だったらしい。
 より正確に、何より彼の言葉で流儀の内容が知れた事は喜ぶべき事だった。

『こちらの方こそ。すまない事をした』

 俺はちらりと魔女殿を一瞥。

「……ああ。まあ、なぁ」

 ソッパがちらりと魔女殿を一瞥。

『ひどいなんてもんじゃねぇ』

 リコもちらりと魔女殿を一瞥。

「何故揃ってわしを見る」

 ワイン瓶を舐めていた魔女殿が、座った目つきで俺たちを睨み返してきた。

『……ふぅ。おらいいこと思いついたでゲス。今度はドッパがおらのゴブリンオスまんこにゴブリン汁どぷどぷするでゲス』

『合点承知っス。おらの腹はだっぷんだっぷんっス。ゲッパに貰った分濃縮還元するっスよ』

 ここにはいない二人の攻守が交代したようだ。

 しばらくの沈黙の後、魔女殿が場の空気を入れ替えるように手を叩いた。

「ふむ、話はまとまったな? 良い良い。まあとにかく色々と、良い。
 あれだな。雨降って地固まると言った所であるな」

「魔女殿が言うのはどうかと思います」
「お前が言うな」
「姐さんに言われたかねぇです」

「やかましいわ」
【気熱よ】【爛れよ】【還れ】【気熱よ】【爛れよ】【還れ】【気熱よ】【爛れよ】【還れ】

「撃たれるのは俺だけなんですね。凄く痛いです」

「凄く痛くしたのだ阿呆。ぬしくらいわしの味方をせんか!」

「やいこらチビ。エムビーに手荒な真似してんじゃねぇぞ!」

「あぁん? 何か言ったか小娘。お望みなら今一度部屋の中を走り回らせてやるが?」

「へっ。そっちこそ。今度は顎ぶん殴ってその口が開かねぇようにしてやっぞ?」

「何故魔女殿の指は俺に向けたままなのですか?」

「お嬢。さりげなく俺を盾にすんのは止めてくれ」

 ぎらぎらとした敵意を剥き出しに睨みあう魔女殿とリコの様子に、俺とソッパは互いに向き合った。

「旦那も苦労してんな」

『ソッパこそ』

 俺たちは揃って深いため息を吐き出した。



「では後の事は若人たちに任せ、邪魔な年寄りはここらで退散すると誰が年寄りだ!」

「自分が口にした事で激怒しないで下さい」

「全く、いつまでも若いと思うなよ? 二〇は矢の如く、三〇は風の如く、四〇を越えると光の如くであるぞ!」

「一〇〇を越えると?」

「四桁に達するまでは大丈夫という事だ。
 そこの豆ゴブよ。供をせい」

「へい、姐さん」

 改めて消音の魔法を掛け直した魔女殿が立ち上がり、呼ばれたソッパがちょこちょこと俺たちから離れる。
 出入り口から垂れ下がった毛皮をめくったところで振り返り、

「旦那。うちのお嬢をよろしく頼まぁ」

 普段通りのにんまり顔で俺を見た。
 頭の中で神妙な響きを伴って響いたその声に、俺は頷いた。

「こちらこそ。魔女殿を頼む。エール以外の酒を与えていれば、大体大人しくされている。
 酒が切れたら色をつけた水で誤魔化しても問題ないだろう」

【赤き舌よ】【白き指先よ】【疾く進め】

 じゅっ。

 三重詠唱と共に、毛皮の奥から発せられた細い熱線が俺の髪を一房焦がした。
 熱線は部屋の壁を溶かして小さな穴を空けた。

 垂れ下がった毛皮に生まれた焦げ穴の向こうから、白く小さな指がひょこりと覗く。

「今、わしが酒乱の上に馬鹿舌だとほざく声が聞こえた気がしたが。気の所為かや?」

「気の所為です、魔女殿」

 熱線の熱を帯び、少しひりつく頬を撫でて答えた。

 傷害の魔弾と違い、復元の効果を含まない純粋な攻撃魔法だった。
 火矢と電熱を組み合わせた、直進する熱線。
 身体に当たれば親指大の穴が空き、おまけに電熱が体内を駆け巡る。
 魔女殿は以前、この魔法を使って森の木々をバターのように撫で斬った事があった。

 指が引っ込んで、穴から赤い瞳がじっとこちらの様子を窺っている。

「とても気の所為です、魔女殿」

「……さよか」

 たっぷりと俺に睨みを利かせた後、赤い瞳は覗き穴から消えた。
 離れていく二人分の足音が不意に途切れたのは、魔女殿の消音魔法の効果範囲に入ったからだろう。

 耳に届いたのは、同じベッドで座るリコの長いため息だけだった。

 視線を向けると、リコはむにむにと唇を歪めてそっぽを向いた。

『も、もう行っちまった、よな?』

 角の根元を掻きながら、出入り口を気にしている。

『恐らく』

 魔女殿は隠れてこそこそと覗くような真似はしない。
 覗く時は逃げも隠れもせず堂々と覗く。
 それを覗きと呼べるのかは別にして。

 魔女殿の魔法のおかげで部屋の中は嘘のように静まり返っていた。
 聞こえてくるのはリコと俺の息遣い。
 多少速い呼吸を聞きながら、角の根元を掻くたびに揺れる彼女の赤毛を見つめていた。

『……わ、わりぃな』

 リコはそっぽを向いたまま、ぶっきらぼうに呟いた。

『なんか、変なこと喚いたりして。お前とはなんも関係ないことだったのにな』

 どこかばつの悪そうな気まずい声音で訥々と呟いた。

 俺は揺らめく赤毛の動きを目で追いながら、

『星落としの秘法だ』

 彼女の胸の中で起きた出来事を例えた。  

『……んあ?』

 くるりと振り返って目をぱちぱちと瞬きさせるリコに、俺は頷いた。

『空に煌く星を地上に落とす魔法』

『星って、あの星を? 地面に落っことすのか?』

『そう。ヒュー。ドカン。ゴゴゴ』

 リコの目の前で握り拳を斜めに移動させ、ベッドの上でぱっと開く。
 流れ星が地表に着弾してどかんと爆発する様子を表現してみた。

『俺も見た事はないが、スカッとするらしい。リコはスカッとしたか?』

 リコは胸元に手を当ててしばらく考え込んだ。

『そっだな。今までずっともやもやしてたもんが、叫んだら吹き飛んじまった。
 スカッとしたな』

『スカッとしたなら何より。つまりそういう事だ』

『……そういや、なんかあのチビがそんなこと言ってたっけな。それってチビの与太話じゃねぇのか?』

 半信半疑のリコに見上げられ、俺はまだ少しひりつく頬を撫でた。

『そういえば、以前聞かされた時も魔女殿は酔っていたな』

 判断が難しいものの、実は冗談だったというオチも考えられないではない。
 魔女殿は意地悪だ。

 リコは腕を組んで、神妙な顔つきになって何度も頷いた。

『星を落とすだなんて、どう考えても酔っ払いのたわ言だと思うぞ。あちし、そういうのいっぱい聞いてきたからなぁ』

『俺もそういう逸話のような話は沢山聞かされてきた』

『でもま、ちっと判り易かった。あちしの胸ん中、星が落ちてドッカンしたんだな』

『伝わってくれれば何よりだ。財布もスカスカにならないから安心だ』

 王国首都にあると言うアカデミックを根こそぎ破壊すれば、どれほどの賠償が請求されるのか。

 余り考えたくない事を考えながらひりつく頬を擦っていると、その手が掴まれた。
 リコが俺の手首を掴んで、顔を覗き込んでいた。

『だいじょぶか?』

『大丈夫』

 覗き込むリコに頷いた。
 余熱を浴びて皮膚の水分が少し持っていかれただけだろう。
 悪くても火傷程度だ。

『……赤くなってんな。触らねぇ方がいっぞ』

『そうか。判った』

『こんくらいなら、舐めときゃすぐ治る』

 言ったが早いかと思うと、リコはひょいと身を乗り出して俺の頬を舐めた。
 リコの柔らかい舌の感触を頬に感じた。

 リコはすぐに元の位置に引っ込んで、ぺろりと唇を舐めた。

『汗の味がすんな。ちょっとしょっぺえ。
 ……どした?』

 見つめているとリコがきょとんと不思議そうな表情を浮かべたので、俺は首を左右に振った。

『いや。なんでも』

 リコは目を丸くしたまま、ちょろりと出していた舌先を口の中に引っ込めた。

『なんだ、人間は痛いとこ舐めたりしねぇのか? 一発で治るぞ。
 この間だって岩で指挟んで――』

 楽しげに過去の体験を語り初めていたリコの言葉が、不意に途切れた。
 急に俺に振り返ると、じっと凝視してくる。

『いいいいいいまあちし何した』

 何やら動揺した様子のリコ。
 俺は彼女がとった行動を思い返した。

『俺の頬を舐めた』

 俺はじっと見つめ返したまま答える。

『キス、口付け、ちゅうと形容してもおおよそ違いはない』

『くけーっ!?』

 リコは奇妙に鳴いて飛び上がり、部屋の中をばたばたと走り回った。
 顔が山葡萄よりも赤くなっていた。

『落ち着いたか?』

『う、あ。う、うん』

 リコは部屋の中をひとしきり走り回った後、ベッドに戻った。
 ちょこんと座って、肩幅を縮めている。
 受け答えに普段の威勢の良さはなく、どこか上の空だ。

 すっかり大人しくなってしまったリコを怪訝に思い、その原因を訊ねてみることにした。

『さっきした事に照れているのか?』

『てててて照れてなんかいねぇぞいねぇかんな! 全然へへへへ平気なんだあちしは!』

『その態度は客観的に見ても照れている』

『ふざざざざざけんな! あちしがちゅうの一つ二つくらいでそそそそそんなことあるわけねぇ!』

『……』

『……んっだよ。なんか言えよ』

『確かにちゅうの一つ二つくらいでリコが照れたりするのはおかしい。
 ちんちん撫で撫でに比べたら、羞恥心を感じる内容として衝撃が弱い』

『ちんっ!?』

『あの時の上気した顔。表情。音をたてて撫で回し、その後手の平を舐めていた姿。舌に絡む粘液。糸を引く様子。
 いずれも妖艶と形容出来る姿であったと』

『記憶無くせっ!』

 頭突きされた。
 痛かった。

 リコは顔を真っ赤にしたまま、はあはあと息を切らして俺を睨みつけてきた。

『忘れたかっ!?』

 忘れていなかった。

『忘れてしまった』

 もんどりうってベッドに片肘をついた俺は、頷いて見せた。
 そう答えておかないと、本当に忘れるまで頭突きをされそうだった。

 これ以上馬鹿になってしまうのは、俺も困る。

 なので忘れたと仮定して、

『忘れてしまったから、もう一度して欲しい』

 素直に申し出た。

 リコの口元が引きつった。
 目をまん丸にして尖った八重歯を覗かせるリコの表情を記憶した。

 俺は身体を起こして座り直し、固まってしまったリコを見つめた。

『うやむやになってしまったが、俺はリコとやり直したいと思っている。リコは俺とやり直したい?』

『やややややり直すって、一体なななな何をやるって!?』

『セックスを』

 言葉を詰まらせて叫んだリコは、今度は表情を翳らせ俯いてしまう。
 俺の言葉に、リコにどんな感情の変化が訪れているのか理解する事は出来なかった。

 ただ、表情がめまぐるしく変わる様子を記憶に留めた。

『……あちしはゴブリンだぞ』

 うめくように呟いたリコに頷いた。

『俺は人間だ。半分だけ』

 結局、残り半分がカモなのかどうか判らない。
 くちばしも羽毛も翼も水掻きも無いのだから、カモではないのだろう。
 もし俺の残り半分がゴブリンだったとしたら、リコの反応はまた違ったものになっていたのだろうか。

 それは判らない。
 リコはゴブリンで、俺の半分が人間である事実に揺るぎはない。

『それでも俺はリコが好きだ』

 互いの生まれの違いと同じく、一貫した事実としてそれがあった。

『リコとセックスをしたいと思っている。リコはどうだ?』

 誰かを知る為には、知って貰う必要がある。
 何かを伝えようと試行錯誤を重ねた結果として、言葉が生まれた。
 だから言葉で伝える努力をする事。
 行動や仕草でも伝わるものはあるが、言葉を怠ってはいけない。

 拙くても、伝える努力をし続ける。
 誤解が生まれたのなら説明を付け加える。
 それでも伝わらず理解して貰えなかったとしても、相手を恨んだり怒ったりしてはいけない。
 異種族異文化コミュニケーションは難しいのだと魔女殿から教えられ、俺自身実感していた。

 リコは顔を伏せたまま黙し、俺は答えを待った。
 岩宿の一室で、燃え続ける松明の芯が時折爆ぜる音を聞いていた。

『今から、やり直すのは……出来ねぇ』

 リコは俯いたまま首を左右に振った。

『そうか』

 俺の思いは、リコに受け入れては貰えなかった。
 俺の胸中で恨みや怒りが湧き上がる事はなかった。
 ただ残念だった。
 とても。

 同時に、鬱屈したものを吐き出して少しは楽になってくれた事を思えば、それで良い気がした。
 彼女は泣いているよりも、元気良く笑っている方が似合っていると思った。

 リコが顔を上げて俺を見た。

『やり直すんなら、もっと前からだ』

 彼女は朗らかに笑っていた。



 俺たちは、彼女の言う所からやり直すことにした。

『どうぞ』

 俺は端っこを齧ったベーコンをリコに差し出した。

『ん』

 リコは差し出したベーコンを受け取り、ぱくりと頬張った。
 一口でぺろりといくのではなく、数回に分けて噛み千切りじっくりと噛み締めた。

『……うめぇな』

 ごくりと咽喉を鳴らしてベーコンを飲み込んだリコは、しみじみと呟いた。

『あん時は意地張っちまったけど、これならもらっときゃよかったな』

『気に入ってくれれば、俺も嬉しい』

 リコははにかんで、木製の小樽と石のグラスを一つずつに取り出した。
 片手に収まる程度の小樽に詰まっているのは、山葡萄から作ったリコ手製のワインだ。
 大体は石瓶に保存して醗酵させているそうだが、ごく少量だけ樽を使い醸成させているらしい。

 流儀をやり直すに辺り、彼女が部屋に隠し持つとっておきを持ち出してきた。

『山葡萄が豊作だった年の……もう三年くれぇ前かな。ずっと寝かしてた奴だ』

 その頃を思い出しているのか、リコは楽しげに語りながら小樽のコルク蓋を引き抜く。
 ぼん、と小気味の良い音と共に、すぐに濃厚なワインの香りが鼻腔をくすぐった。

『へへ。よく漬かってる』
 
『ああ。いい匂いだ』

 深呼吸をしたリコを真似て、アルコールの混じった甘い香りを楽しんだ。

 この芳醇な香りを嗅ぎつけた魔女殿が、部屋に押しかけてくるのではないか。
 そんな思惑がちらりと脳裏をよぎったが、魔女殿が姿を見せる事は無かった。

 リコは小樽から石のグラスへとワインを注ぐ。
 黒に近い赤色の液体が、石のグラスになみなみと注がれた。

 リコはグラスに口をつけて頷くと、

『んっ』

 石のグラスを差し出してきた。

『ありがとう』

 俺はリコからグラスを受け取ると、まずは少量口に含んだ。
 少しどろりとした飲み口で、歯や舌に絡むのが判る。
 そして何より山葡萄の濃厚な香りが口の中全体に広がって、鼻の奥から抜けていくのが判った。
 口に含んだまま舌で転がしてよく味わう。
 その様子を、リコはじっと固唾を呑んで凝視していた。

 味をよく確認した後で飲み込む。
 度数が強いのか、咽喉が熱くなった。

 俺は胃の中で転がる様子を楽しみながら、続けて二口三口とグラスを傾けながら、注がれたワインを飲み干した。

『美味い』

 この一言に尽きた。

『……へへっ』

 緊張した様子だったリコの表情が安堵に緩み、鼻の下を擦った。
 あの時交わせなかった流儀は、今正しく交わされた。

『これでリコと俺は兄弟になったのか?』

 俺はグラスを床に置き、背負い袋から保存食を取り出しながら訊ねた。
 携行食の固焼きビスケット。
 それに細かく刻んだベーコンや、リコがワインと一緒に持ってきたキュウリやニンニクのピクルスを挟んで肴にする。

『ん。んーとな……』

 空になったグラスにワインを注いでいたリコは、何やらくすぐったそうな顔になって角の根元を掻いた。

『違うのか?』

『違うってか、な。男同士なら兄弟、女同士なら姉妹ってので間違いはねぇんだけどもな』

 リコは歯に物が詰まったような口ぶりで、きょろきょろと視線を泳がせる。
 俺たちの場合は、男と女。
 兄弟姉妹という意味ではないのだろうか。

『男と女だとどうなるんだ?』

 俺は具を挟んだビスケットを勧め、リコはその一つをぽいと口の中に放り込んだ。

『……ふ』

 ばりばりと噛み砕きながら、聞き取りにくい声で呟いた。

『すまない、聞こえなかった。もう一度頼む』

 ごくりと飲み込んだ所を見計らい、再度リコに尋ねた。
 リコは二枚目のビスケットに伸ばしていた手をぴたりと止めて、ちらりと俺を一瞥する。
 視線が絡んだのは数秒で、リコはビスケットの代わりにグラスを手にしてぐいっと呷った。

『……夫婦』

 中身を半分ほど一気に飲んだ後、リコは答えた。

『夫婦?』

『聞き返すなバカ!』

 怒られてしまった。

『すまない』

『い、いや。いきなし言ったりすっから、驚いただけで、怒っちゃいねぇんだけど……まあ、つまりそういうこった』

 詫びると、リコはむず痒いようなばつの悪いような表情で視線を伏せる。

『なるほど。そうか』

 同性同士なら兄弟姉妹で、異性同士なら求婚に値するらしい。
 俺は新たに得たゴブリン種の流儀を、記憶に留め置いた。

『リコと俺はこれで夫婦か』

『こここここら! だから言うな!』

『今日はリコと俺の初夜に』

『やめれ!』

『ケーキカットならぬベーコンカット』

『わざとだな? わざとやってるだろ! お前、あちしのことからかってるだろ!?』

『まさか』

『ほんとか!?』

『……少しだけからかった』

『こんにゃろ!』

『痛い。これは夫婦喧嘩になるのか?』

『くけっ!?』

『リコは可愛い』

『お前は憎たらしい!』

 リコは乱暴にグラスを床に置いて、用意したビスケットを貪るように頬張っていく。
 頬袋に溜めるようにぷっくりと膨らんだ彼女の頬を見つめながら、俺はグラスを手にした。

 魔女殿が意地悪な理由はこういう事。
 そんな気がする。

 濃厚なワインの香りと味を楽しみながら、俺は真っ赤になったリコの様子を観察した。

 ワインを回し飲みする内に小樽が空き、肴も切れた頃、どちらからともなくベッドに上がった。

 ベッドは石造りだが、敷かれているのは良くなめした猪の皮に苔がたっぷりと詰められた布団。
 柔らかく弾力もあり、仰向けに転がったリコの身体を受け止めて弾んだ。

『リコ』

 彼女の名を呼ぶ。
 伸ばした手を彼女の赤毛に添えた。
 さらさらとした手触り。
 指で梳くとするりと滑る。
 
 リコの髪は触り心地が良かった。

『な、なあ。その……ほんとにいいのか?』

『何が?』

 リコはぐっと言葉に詰まりながらも、不安そうな表情で俺を見上げてきた。

『あちしは、その……』

『うん』

 言い難そうにもごもごと口ごもるリコに、俺は相槌を打って彼女の言葉を待った。

『ここから何すんのか判んなくて、初めてだし。に、二五にもなってまだ生娘だし……』

 顎を引いて目を伏せてしまった。
 それが、リコが感じているコンプレックスなのだと理解した。

 性交に及ぶまで二五年掛かる事。
 それは果たして早いのか遅いのか。

 原因は理解したものの、気に病む理由としては今一つ理解出来なかった。

 リコは馴染んだゴブリン社会で比較して、遅いと感じている。
 それが問題なのだろう。 

 俺は年齢を気にした事がない。

『そうか。俺は二三〜二八歳くらいだ』

 だから自分の歳さえ曖昧なままだ。

『……なんだそりゃ?』

 きょとんと目を丸くしたリコに、俺は頭を掻いた。

『良く覚えていない。自分の年齢どころか、日付すら定かでない時期があった。
 だからそのくらいなのだろうと言われている』

 そう言っているのは魔女殿を初めとした近しい人たち。
 ある時期から近しくなった人たちで、その時期より以前、かつて最も近しかった人たちはもういない。
 その人たちの記憶から、俺はいなくなってしまった。

 少なくとも、ただの人間でいられたかつての俺は。

『お前もはぐれもんなのか』

『そうだな』

 今はまだ半分が人間だが、人間として溶け込む事は出来なかった。
 魔物としても生きられなかった。

 魔女殿と出会ったおかげで、俺は今の俺になれた。

『そのおかげでリコに会えた』

 別の生き方を見つけていれば、出会いはもっと違った形になっていたのだろう。
 だとしても俺たちはこうして出会って、今は互いに息遣いが肌で判る程の距離にいる。

『俺は幸運だった』

 出会いが縁なのだとしたら、この縁に感謝しよう。
 リコだけでなく、ゲッパやドッパやソッパと出会った事も。
 出会いを感謝し、その感謝を忘れぬ事。
 出会う者たちは俺の人生を形作る欠片であり、人生そのものなのだから。

 リコの顔の輪郭を確認する為に手で撫でる。
 目で見て記憶して、言葉を交わして記憶して、手で触れて記憶する。
 彼女の存在が明確になればなるほど、俺も明瞭に形作られていく。
 気がした。

 リコの悩みを解きほぐす、一助なりともなれただろうか。

 彼女は難しい顔で俺をじっと見つめ、

『歳がわかんねぇんなら、エムビーは二五歳な』

 俺の年齢を断定した。

『二五歳なのか』

『そっだ。
 年下の癖にあちしよりもめっぽうエロエロってのはなんか気に食わねぇし、年上だとからかったりされっと余計腹が立つ。
 だからあちしと同じ二五だ。それなら年下より気に食くわねぇ上に、年上よりも尚更腹が立つ。
 迷わず頭でゴッチン出来っからな』

『それは良い事なのか? 俺の頭にとって』

『いいことなんだよ。知らないことは遠慮なく教えてやれっし、知らないことが遠慮なく訊ける。
 年下だとか年上だとか、キガネしなくていんだ』

『なるほど。リコは賢いな』

『エムビーがバカなんだ』 

『これ以上馬鹿になると困るので、ゴッチンする時はお手柔らかに頼む』

 折角知恵を深めても、馬鹿になってしまったのでは意味がない。
 深刻な問題なのだ。

 リコは口元の八重歯を覗かせてはにかむと、俺の額をぺちりと軽く叩いた。

『良く言うぜ。エムビーだって相当な石頭なんだかんな』

 俺はリコの首元にある石の首飾りを見つめて、その言葉を吟味してみた。

『石のように硬いなら、俺の半分は鉱石なのかもしれないな』 

 その特徴が骨にあるとしたら、外見から見分ける事も出来ない。
 カモよりもよっぽど現実的に思えた。

『バーカ』

 リコがくすくすと笑っていた。

 その尖った八重歯が添えられた無邪気な笑みを、俺は記憶に留めた。



 ワインを飲んで灯りの加減もあってか、リコの肌は赤く色づいていた。

『胸を触る』

 経験の浅いリコに配慮して、これから何をするか伝えるようにした。
 いきなり変な事をするとゴッチンするとも言われた。

 どこまでが変な事かは判らなかったので、逐一許可を求める事にした。 

『う、うん』

 リコが肯いたので、胸に手を伸ばす。
 幾何学的な模様が描かれたさらし布に触れる。
 かすかな膨らみとその柔らかさが、布越しに感じ取れる。

 乳房が控えめなのは、体躯そのものが小柄だからなのだろう。

『んっ、ん』

 指で、手の平で、柔らかく揉み上げる。
 リコは鼻から吐息を洩らしながら、肩がぴくりぴくりと跳ねている。
 控えめではあったものの、布越しでも俺の指の動きで形を変える様子が伝わる。
 強い鼓動を手の平に感じた。

 時間をかけて愛撫する。
 指の腹で乳首をくすぐり、手の平は乳房全体を円く撫でる。
 リコが俺にしてくれたように、優しさを込めたつもりだ。

 やがて乳首が硬くしこりだしたのが、布越しの手触りでも判って来た。

『お、おっぱい好きなのか?』

 上半身を右へ左へとひねりながら、リコに訊ねられた。

『好きだ』

 俺は肯定した。

『このスケベ』

『困った事に』

『ほんとだよ、ったく』

 リコの胸を愛撫しながら、そんな小気味の良い言葉を交わした。

『直接触れる』

『う、うん』

 リコに肩をついて背中に少し空間を空けてもらい、そこに手を滑り込ませて結び目を探した。
 手探りでさらしの結び目を解き、布の張りが緩んだ。

 解けたさらし布をそっとたくし上げる。
 豊かとは言えないかもしれないが、それでもはっきりと胸元の双丘は確認出来る。
 しっとりと汗ばんだリコの乳房は形が整っていて、先端の突起がつんと上を向いていた。

『そそそそそんなじっと見んなよ。見るな!』

 リコが顔を真っ赤にして、怒ったような照れているような、その両方が入り混じった顔で俺を睨んだ。

『見たいし触れたいのでそれは無理だと言っておく』

『ちっくしょう、覚えてろ!』

『忘れる前にまた見て触る事にする』

『こんにゃろ――んくっ』

 しっとりと吸い付くような感触。
 汗の所為だろう。
 リコ自身の肌は張りがあって良く引き締まっている。
 適度な筋肉のおかげで、乳房の形も整っているのだろう。

 乳房の柔らかさも乳首の硬さも胸の奥から感じる鼓動も、直に触れる事でより明確に伝わってきた。

『んっ、はっ。あっ! ……はっ』

 リコはすぐに大人しくなった。
 吐く息は熱っぽく、時折甲高い声が混じる。
 俺を見据えていた半眼も緩やかに輪郭がとろけていく。
 赤土色の瞳が火の明かりを浴びて、潤んでいるのが見て取れた。

『気持ちいい?』

 胸に性感があり、リコも同様である事はすでに知っていたが、俺は訊ねてみた。

 例え性感帯であっても、愛撫の方法が拙ければ官能は得られない。
 だから、言葉を交わす。
 身体の繋がりに心がついてこなければセックスとは呼べないのだと、魔女殿に教えて貰っていた。

『……』

 リコはますます顔を真っ赤にして、小さく頷いた。
 表情や仕草から何かを感じ取り伝えることも、立派なコミュニケーションだ。

『良かった』

 前髪を深く垂らしたリコに頷き返して、

『舐めたり吸ったりする』

 俺は次にする事を告げた。

『ぐぅ。もう好きにしろよ』

 リコはそっぽを向いて唸った。

『好きにしてもいいのか?』

 指で押せば押した分だけ形を変える乳房の動きを観察しながら、訊ねてみた。

 好きにしてもいいと言うなら、今まで知った事を全て試してみたいと思う。
 一晩で足りるだろうか。

『……なんかすっげぇ嫌な予感がすっから、あちしがいいって言ったことの他はダメだ』

『残念だ』

 多岐に渡って思い浮かんだ選択肢の殆どを削って、俺はリコの乳房に口をつけた。

 舌と唇を使う。
 汗の味を感じながら乳房にキスをして音を出す。
 硬く尖った乳首を舌先でつつき、転がし、口に含んだ。

『う、うあっ。あっ、あんっ、ひゃっ』

 リコが発する声に、甲高い響きが混じる割合が多くなってきていた。

 声は岩の部屋の中で反響して踊る。
 リコの口から直接飛び出した声と、壁や床や天上に当たり跳ね返ってきた声とが混じり合って、甘く俺の耳朶をくすぐった。
 俺の聴覚に訴えてくるその甘さが味覚にも作用したのか、リコの肌からかすかな甘みさえ感じていた。

『あく、うんっ。うぁっ、あっ』

 唾液をたっぷりと塗してから、口をもう片方の乳房へ。
 舐め、吸い、含む。

 唾液で濡らした乳房を、その温もりが失われない内に手を伸ばす。
 揉み、摘み、こねる。

 リコの身体は徐々に当初の躊躇いをなくし、大きくうねりだしていた。

 呼吸を整える為、むしゃぶりついていたリコの乳房から口を離す。
 リコは陶然とした表情で小さく身体を震わせた。

『こんな、こんなことすんのか……あちし、ちんちん入れるだけかと思ってた』

『それも間違いではない』

 むしろ魔物との行為は食事や生殖、魔力吸収という意味で、露骨なものになる場合が多かった。

『前戯や後戯が長いのは、俺の趣味だ』

 魔女殿の言う通りなのだろう。
 意図的に行っている部分もある。
 リコのように経験が薄いのなら、挿入に至るまでの緊張を解きほぐせる。
 発情し切った魔物に対しては、まずは落ち着くまで欲望のままに繋がってから後戯に移ればいい話だ。

 何より前戯に時間を掛ければ、こちらも性感帯をじっくりと探す事が出来る。
 気持ち良くなりたいという欲望を持ち合わせているが、相手にも気持ち良くなって欲しいという欲望もある。
 性感に身悶える姿を長時間見続けていられるという利点もあった。

 リコは怒ったような呆れたようなくすぐったそうな表情で、俺を睨んだ。

『判ったぞ。エムビーの残り半分は、エロだ』

『それは性質と言うより性格なので、全部エロだと思う。キスをしても?』

『タチわりぃなぁ。……ちゅうしてくれ』

 くいと顎を上げたリコの唇に吸いついた。

 リコの口は濃厚な山葡萄の味がした。

『ん、んふ、んっ』

 鼻から洩れる吐息が当たり、少しくすぐったい。
 リコの手が伸びてきて、俺の顔を捕まえる。
 俺もリコの頭に手を伸ばし、角の根元をくすぐる。
 空いた手で胸を愛撫し続けた。

 くちゅと唾液が絡む音が聞こえる。
 ワインと唾液が混じりあったリコの口の中を吸い上げる。
 リコの口は濃厚に酔わせる美酒だと思った。

『はっ、あむっ。ん。んちゅっ』

 口付けの抵抗感はないらしく、リコも素直に求めてくる。
 息継ぎをしながら唇を重ね、舌を相手の口に挿し込む。
 舌使いも俺の真似をしながら少しずつぎこちなさがなくなり、唾液と一緒に胸の奥の空気も吸われる。

 臓腑で温められた空気が、俺とリコの身体の中を行き来するのが判った。

『ぷあっ』

 唇を離したとき、リコは目に見えて息を切らしていた。 
 もじもじと内腿を擦り合わせ、肩を縮めながら困ったような表情を浮かべていた。

『お前のちんちんボッキしてる……硬くて、熱くて、あちしの身体に当たってんのが判る』

 恥ずかしそうに呟くリコに、俺は頷いた。

『当てている』

 リコが俺のペニスをじっくりと観察していた様子は一度見ている。
 性器独特の形に慣れるには、触れる事が一番だ。
 まずは布越しに、次に直に。
 段階を踏みながら、リコに性器を慣れさせていく。
 慣れてしまえば狼狽する事もなくなるだろう。

『……そんなエロいちんちんは、こうだ』

 リコは俺の顔から手を離して、ごそごそとお互いの身体の隙間に突っ込む。
 すぐに俺の股間を探り当て、ズボン越しにペニスを撫で回し始めた。

 リコの手で撫でられるのは心地良かった。

『リコもエロくなっている』

『誰がしたんだ、誰が。エムビーがあちしをエロくしたんだ』

『それは今も継続中だ』

『……責任取れよ』

『エロエロにすれば責任を取った事になるか?』

『あちしを女にしろ』

『リコはもう充分女の顔をしている』

 言葉を重ね、肌を重ね、俺たちは睦み合う。

『はぁ、んっ、んむっ。ぁはっ』

 唇を重ね、舌を絡ませ、唾液を吸い合う。
 
『ぁく。おっぱい、気持ちいくて、変な気分になる。むずむずしてくる』

『変な気分になった時のリコの顔は、堪らなく女の顔だ』

『ぅあ、変なことばっか、言って。この、変人』

『良く言われるので気にしない』

 胸を吸い、揉み解し、摘んでこねる。

 その間にリコは俺のベルトを緩め、ズボンの奥に手を突っ込んだ。
 リコの手が俺のペニスに直接触れる。
 棹を握られ縦に扱かれる。
 すでに先走りで濡れていたのもあって、ぬちゃぬちゃと湿った音が聞こえてきた。

『リコ。脚を開いて』

『は、はぁ……うん』

 俺はリコを促し、脚の位置をずらして股の間に膝をつく。

『腰を動かして、リコが擦ってみるといい』

『ど、どこを?』

『股。リコの性器』

 戸惑うリコに、俺はそっとその場所に手を伸ばした。

『ここだ』

 衣服越しにリコの股間に軽く触れた。

『んひぇっ』

 頓狂な声を上げて脚を閉じようとするが、俺の膝を間に挟むので完全には閉じ切れない。

『驚かせたか? すまない』

『……触るなら、触るって言え』

 少し恨めしそうに睨まれ、リコは手の動きを数回早くした。

『判った。そうする』

『で、で。その……そこを、擦るのか?』

『そう。俺がしたように』

『ちんちん当ててきたみたいにか……や、やってみる』

 リコは身体をずらして股間を俺の膝上に当てると、おずおずと腰を動かした。

『ん……』

 ゆっくりと、腰布をめくるように擦り付けてくる。
 リコの股は温かった。

『どうだ?』

『な、なんか……変な感じだ。胸でされるのと、なんか違う』

 くいくいと腰を上下しながら、戸惑ったような表情で答える。
 新たな刺激を得て手の動きは止まってしまっていたが、今はリコの性感を優先する事にした。

 愛撫を続ける。
 手で胸を柔らかく揉み、少しずつ力を加えていく。
 リコに何度もキスをする。
 唇、顎先、頬、耳元、瞼、額、短い角。
 唇を押し付け、舌でじわりと滲んだ汗を舐め取った。

 初めはおっかなびっくりと擦り付けていたリコの腰の動きに、段々迷いや照れがなくなっていった。

『何だこれ、なんだよこれ。変だ。あちし変だ。変なことしてるのに、腰止まらねぇ。
 気持ちいんだ、これ!』

『うん。良かった』

 自らの性感に戸惑いながらもぐいぐいと腰を押し付けるリコの髪を撫で、キスをした。

『はっ、んぷ。はふ、あむっ、んっ』

 もう躊躇いはなく、リコは貪欲に俺の口を吸ってくる。
 押し付けてくる股も熱さを増して、僅かに湿り気を感じた。
 段々濡れてきている。

 俺はリコと口を吸い合いながら、そっと手を伸ばした。
 腰布を解いていく。
 リコは気がついていない。
 気がついているのかもしれないが、口を夢中に吸って咎めたりはしてこなかった。

 リコの小柄な身体を抱き寄せ、横になっても続ける。

『どんな気分?』

『頭、雷落ちたみてぇ…びりびりして……これ好きだ。気持ちいくって』

『うん。ならもっとしよう』

 俺はさらに九〇度ごろりと転がり、はだけていたリコの腰布をするりと抜き取った。

 湿った腰布を取ると、リコの股は予想以上に愛液で濡れていた。
 控えめな逆三角形の恥毛の姿がある。
 髪と同じ色をしたそこは、愛液で濡れててらてらと輝いて見えた。

 俺の腿にまたがる形で上になったリコは、そんな自分の姿を肩で息をしながら見下ろしていた。
 リコの股は温かい。
 肌に直接触れることで、その暑さが直に伝わって来た。
 寝転がり体勢をずらしながら、俺もズボンを下ろしていた。

 陶酔と性感で呆然としたリコの表情に、僅かに羞恥心の色が差した。

『触れるぞ』

 腰の動きを止めたリコに断りを入れて、俺は手を伸ばした。 
 濡れそぼった恥毛に触れると、縮れた毛の硬さととろりと絡む愛液の感触が同時にあった。
 指の腹で恥毛を軽く掻き混ぜ、いきなり核心に触れてリコを驚かせないように準備期間を経てから、指を少しずつ下へ。
 愛液の源泉へ。

『んっ』

 リコの背が小さく跳ねた。

 愛液で随分とふやけてはいるものの、リコの膣口はぴったりと閉じていた。
 閉じた割れ目に沿って指先を這わせると、それだけで愛液が絡む。
 今も少しずつにじみ出てきている。
 俺は手の平で愛液を受けた後、指を戻した。

 秘烈の上部にある小さな突起。
 包皮に包まれて陰核へと。

 愛液でたっぷりと濡らした指の腹で、軽く押さえる。

『んひっ!?』

 リコの反応は著しく、腿に乗った彼女の身体がびくびくと縦に大きく震えた。
 俺は包皮に包まれたままの陰核を指の腹でこねた。

『はひっ、それっ! んひっ、きっ、きつっ、うぁ!? つよっ、ぃんっ!』

 リコはかなり敏感なようだ。
 濡れてはいるものの直接触らない方が良さそうだ。

 俺は包皮を剥かずにリコの陰核を摘み、こねて、回して、くすぐった。

『ひぁっ!? こっ、こんなっ、うぐっ。すごっ。いい、気持ち、い過ぎてっ、えぇ!』

 リコの身体が跳ねる。
 跳ねながら、腿をしっかりと閉じて俺の脚にしがみついている。
 前のめりに倒れこんで、俺の服を掴んだ。
 リコの力は強く痛いほどだったが、余り気にならなかった。

 痛い事には慣れていた。
 
『う、うあっ、あっ、ぁんっ、ああっ! く、くるっ、なんかくっ! 変なの、なんか、頭昇ってくるっ!』 

『大丈夫。流れに逆らわず、委ねてみればいい』

 右手で陰核を集中的に責めながら、左手は俺の肩を鷲づかみに掴むリコの手へ。
 手の甲を撫でて促すと、気がついたのか無意識なのか、俺の手をしっかりと握り締めた。

『あっ!』

 俺の手を握り締めたまま、リコの背が大きく跳ねた。
 摘んだ陰核を、ほんの少しくいっと引いた。

『あっ、ああああ―――っ!』

 リコの口から絶叫がほとばしった。
 背骨が折れてしまうのではないかというほど上半身を反り返らせて、後ろのめりに倒れそうになるのを、握り締めた手を引き体勢を維持する。
 リコの力は強く、身体は軽かったので困難ではなかった。

『あっ、ああ、あっ。あぅ……』

 リコはのけぞった姿勢で、形を失ったうめき声にも似た声を洩らし、身体を小刻みに痙攣させている。
 絶頂を迎えたらしい。
 俺は陰核への刺激を止めて、リコの身体をぐいと引いた。

 引けば引いた分だけリコの身体は前に傾いて、そのままもたれ掛かってきた。
 俺の上でくったりと脱力し、体重を感じる。
 肌の温もりと汗を帯びたリコの身体。
 その重みを感じながら、リコの余韻が収まるのを待った。



 リコの身体からはすっかり硬さが消えて、柔らかい脱力を保っている。
 陰核を刺激して迎えた絶頂の後、抱き合い口づけをし、胸を軽く揉んではペニスを扱く。
 リコの身体に再び性感が馴染むのを待ってから、俺はリコの腰に手を添えた。

『そろそろ、リコの身体も準備が出来た頃だと思う』

『……あれでまだ準備なのか』

 呆れ混じりのため息を洩らしながらも、リコは俺の身体の上で泳ぐように身体をくねらせる。
 肌を擦り合わせているだけも互いの熱が伝わり合い、心地良かった。

『準備は念入りに』

『念を入れ過ぎだっての。ったく』

 悪態をつきながらも、リコの表情に強張りはない。
 落ち着いた様子で、まどろむような笑みをこぼれた。

『リコ』

 俺は角の付け根を掻きながら、彼女の名を呼んだ。

『ん』

 彼女は顔を上げて、穏やかな表情を俺に向けた。

『リコを女にする』

 リコが望む形で。

『……ん』

 リコははにかんだ。
 少し恥ずかしそうな笑顔だった。

 すでに着崩れていた衣服を解いて、リコは俺の上に跨った。
 騎乗位の方が女性側でペースが作れる分、破瓜で痛んだ時も幾分楽になる。
 気がした。

『……この格好、めちゃくちゃ恥ずかしいんだけっど』

 俺の下腹に尻をちょこんと乗せたリコは、唇を尖らせてぼやいた。
 肩越しにちらちらと振り返っているのは、俺のペニスの位置を確認している為のようだ。

『俺はとても眺めがいい』

 リコの控えめで張りのいい乳房。
 引き締まった腹。
 愛液に濡れた柔毛。
 そして何より、照れくさそうに拗ねるリコの顔。

 全て一望出来た。

 リコは俺をじっとりと睨みつけた。

『エロいのも大概にしとけっての』

『エロい事をしているのだから、エロくなるのが当たり前だと思うのだが』

『エムビーの当たり前は信用ならねぇ』

『信用を得るのは難しいな。努力する』

 リコは身体を倒して俺の胸元に耳を当てた。

『ん。信用させてくれ』

 俺の鼓動を聞いているのだろうか。
 耳の少し上から生えた角を見つめて、俺はリコの頭を撫でた。

 俺たちは繋がる為に動く。
 俺はリコの腰を持ち上げ、リコは手でペニスを固定する。
 ゆっくりとペニスでリコの膣を探り、閉じた筋を見つけた。

『最後の確認だ』

 流石に表情を硬くしているリコに、俺は伝える。

『破瓜には痛みが伴うというのが通説だ。痛むだろうが、躊躇せずに挿入した方がいい。
 痛いと判っていながら長引かせても、リコが苦しいだけだ』

 脅かすつもりはないが、破瓜の痛みがどの程度か男の俺では判らないので、そのような説明しか出来なかった。
 リコがごくりと咽喉を鳴らした。

『俺も挿入してすぐに動くような真似はしない。馴染むまで時間をかける。だから、大丈夫だ』

『お、おう』

 腰を上げた格好で、リコは頷いた。
 俺自身、下腹が圧迫されるような異物感を感じている。

 緊張しているのだろうか。

 リコの様子と自身の変化を眺めていて、ふと気がついた。

 そうか。
 処女の女性を相手にセックスをするのは、リコが初めてなのか。

 今まで当たり前に肉欲と快楽を共有出来ていたのが、相手だけに苦痛を強いる事になりかねない。
 それが、俺自身にも緊張を呼んでいる。
 気がした。

 リコは一度長くゆっくりとした深呼吸をしてから、俺を見た。

『じゃ、じゃあ行くぞ』

『……ああ』

 俺はしっかりと頷いて見せて、リコの腰に両手を添えた。

『いっせーの……』

 リコがその瞬間を見定めて声を上げ、

『せっ!』

 それを合図に俺は彼女の腰を力強く引き寄せた。

 リコの腰がぐいっと落ちて、ぶちんと何かを突き破る感触があった。

『あがっ』

 抵抗を感じたのは初めだけで、リコ自身勢い良く腰を落とした事もあり、ずぶんとペニスが膣内に潜り込んでいた。

『あぐっ、うぐぐぐ』

 リコの身体が俺の上で強張り、胸元でぎゅっと手を握り締めている。
 硬く目を閉じて苦痛に耐えている様子で、ぬるりと温かいものが俺の股間を濡らした。

 破瓜の血が少量、太腿を伝っているのが判った。

『リコ』

 身体を小刻みに震わせているリコに手を伸ばす。

『うぐぎ、ぎぎぎぎぎ』

 歯を噛み鳴らしていたリコは、

『――ありゃ?』

 唐突に固く閉じていた目を開けた。

 きょとんとした表情で俺を見る。

『……なあ、もう終わりなのか?』

 ぱちぱちと瞬きをしながら、自らの下腹部と俺の顔を交互に見比べる。
 俺はリコの顔に向けて伸ばしていた手を、下腹部へと移した。

『入っている』

 彼女が小柄な為だろうか、腰から下腹部にかけて肉の盛り上がりを感じる。
 手で触れてみると、俺のペニスが挿入されている状態が思いの他明確に感じ取る事が出来た。

 俺は下腹部で円を描くように撫で、リコもその様子を見つめた。

『なんか、思ったより痛くねぇや。血もちょびっとしか出てねぇし。
 これならあのチビのまじないの方が万倍はいてぇ』

『そうなのか』

 慎重に上体を起こして結合部を見てみると、確かに破瓜の出血は微々たるものでもう止まっていた。
 俺が動くと、リコもねじるようにして身体をくねらせた。

『痛くはないか?』

『まあ、そりゃいてぇけど。ちっとだけだ。それよりなんか、お腹が押されて息苦しいって感じか?
 それにしたって大した事ねぇけど』

 リコは平然としたままいつもの口振りで言った。
 その口調から、強がっている訳でも嘘を言っている様子でもない。

『……』

『……』

 俺たちは繋がったまま、言葉もなく互いに見つめあった。

 やがて、リコがくすりと小さく吹き出した。

『なんだ。今まで散々悩んできたのに、膝小僧擦り剥くようなもんじゃねぇか』

 俺の胸元に手をついて、けらけらと笑っている。
 安堵と言うより拍子抜けして呆れてしまっているようだ。

『痛みが少なかったのなら何よりだ』

 俺は笑うリコの髪を撫でた。
 リコの笑顔を見つめているうちに、俺の下腹に合ったしこりがゆっくりと解れて溶けていくのを感じていた。

『で。こっからはどうすんだ?』

 リコはすぐに好奇心を覗かせて、俺に訊ねて来た。

『この時点で八割方は成功したようなものだが、その前に』

 俺はリコの背に腕を回し、身体を完全に起こした。
 彼女の顔が間近に寄って視界を埋めた。

『おめでとう。リコは女になった』

 リコはきょとんと目を丸くした後、照れくさそうに角の根元を掻いた。

『ちっと、拍子抜けはしちまったけどな。
 そっか……あちし、もう女になっちまったのか』

 これで、リコが自らを抑圧する原因が一つでも減ったのだとしたら、俺も嬉しい。
 嬉しいと思えた。

『あんがとな、エムビー』

『どういたしまして』

 お互いに繋がったまま、抱き合ってキスをした。
 唇を尖らせてついばみ、舌で舐め、唇を重ねた。
 何度も色々なキスをした。

『けど、もいっこだけな』

『うん?』

 リコは俺の肩に齧りつくように抱きついたまま、耳元で囁く。

『忘れんなよ? お前はあちしのもんだかんな』

『そうか。俺も、リコを貰ってもいいのか?』

 訊ねると、リコはくすくすと肩を揺らして笑った。

『お前以外にゃ、誰にもやんねぇよ』

『そうか』

 リコは俺を手に入れて、俺はリコを手に入れた。



 リコの膣内に俺のペニスが馴染んだ頃を見計らって、俺たちはセックスを始めた。

 騎乗位から座位に体位を変えたまま、まずはゆっくりと上下に動く。

『……ぅぐ』

 俺の首元に腕を回したリコが、腰の動きに合わせて小さく呻く。
 気が紛れるよう、胸を愛撫しながらリコの尖った耳を舐めた。

 腰を上下に動かした後は、円を描いてくねらせる。
 互いの腰が密着した時に、陰核を下腹で撫でるのも忘れない。

『はあっ』

 ため息と呼気が半々に入り混じった声。
 ピストンよりもグラインドの方が性感が得られるようだ。

 リコの息遣い、身体の反応を窺いながら、交わり方を手探りに試していく。
 しばらくすると慣れて来たのか、リコ自身も控えめに腰を動かし始めた。

 首筋に唇を押し付け舐め上げながら、リコの様子を観察した。

 縦に動くと言うよりも、小さな振り子のような前後運動。
 密着した際、くいっと腰を持ち上げているのは陰核を擦る為だろう。

 絶頂を得た際の経験からか、陰核からの刺激がリコの好みのようだ。

『はっ、うあ、はっ』

 ペースと性感を得るポイントが理解出来てきたのか、徐々にリコの動きがリズミカルに、小刻みになっていく。
 それと相まって、俺の肩に触れるリコの吐息から明確な熱を感じるようになってきた。

『はっ、ぁく、これ、はあっ、なんか、んっ。ごりごり、してて』

 挿入感を口にしながら、リコは俺の腿の上で身体を弾ませた。

 まだ異物感が強いのだろうか。
 判断を決めあぐねながら、胸への愛撫を続けた。
 身体の動きに合わせて、リコの胸も確かに弾んでいた。

『な、なあ。あちしの、中って、その。ど、どうだ?』

 感覚に慣れて来たのか、リコがそんな事を訊ねて来た。

『狭くて、温かくて、握られている感じだ』

 リコが処女だったからか体格差の為か、膣内は狭い。
 幾分馴染んだものの、まだ少し濡れが足りない気がする。
 締め付けが強い分リコにとっても辛いのではないかと、大きな動きはやめて密着と陰核への刺激に終始した。

 答えた俺に、リコの唇がむにむにと動く。
 度々見せるその表情に、俺は頷いて見せた。

『気持ち良い』

『そ、そっか。んくっ、はっ。ちょ、ちょっと、不安だった、んだ』

 確かな性感が入り混じったリコのはにかみ。
 切れ切れではあるものの、会話するだけの余裕が生まれてきている。
 いい傾向だ。

『リコは? 気持ちいい?』

 首根っこにしがみついて上体を固定し、腰をくねらせながらリコは俺を睨んだ。

『気持ちいいに、決まってんだろ。バーカ』

 怒ったような、くすぐったそうな表情。
 そんなリコの顔を記憶して、胸の奥からこみ上げてくるものを感じた。

『そうか。良かった』

 これが喜びなのかどうか。
 自らの感情の揺れ幅を確認しながら、リコに口付けをした。

『はう、はっ、んっ。あっ、それ。お豆くりくり、気持ちいっ』

『リコはここを弄られるのが特に好きだな』

 胸だけでなく陰核の方も指の腹を使いこねていた。

『ま、また。そんっ、な変なこと、言って。バカ!』

 悪態をつくものの、指から逃れる様子はない。
 自ら押し付けてくる辺り、その刺激にリコは虜になりつつある。
 膣内の濡れも増して滑りが良くなると、今まで抑えがちだったピストンを交える回数も増えた。

 そうなるとリコの締め付けが一気に快楽へと変わる。
 ペニスを引く度に得る絞られるような感覚。
 固く引っかかっていたカリ首が、今はぬめりを帯びた肉壁に溝をなぞられた。

 限界は近づいてきている。

『リコ』

『はふ、ふっ、ふぁ?』

『そろそろ出そうだ』

 リコは陶酔の始まった虚ろな表情で俺を見つめ返してきた。

『何が。ぅくっ。出るんだ?』

『精液が』

 俺は口に、鼻に、頬に口づけをしながら答えた。

『あの透明な汁、か?』

『あれよりも濃いものが』 
 
 リコは腰の動きは止めず、俺も前後左右にうねらせ続けた。

 彼女の赤土色の瞳に、意志の輝きが戻った。

『だいじょぶだ』

 ゆるりと一度頷いた。

『あちしはお前のもんだから、キガネはいらね』

 その言葉で、何かが俺の胸に去来した。
 言葉にし難い何か大きな塊。

 それがごろりと転がって、

『リコ』

 リコの中で射精をしていた。

『はぐっ、あう。あっ、熱いの、いっぱい、届いてっ』

 リコは額を胸元に押し付けて、腰を痙攣させた。
 痙攣は膣内でも起こり、容赦なく貪欲に俺のペニスを絞り上げていく。
 腰が自然と動いて、射精しながら数回リコの腰を突き上げた。

『あっ、あっ』

 数回突き上げた際に洩れ出した短い声。
 それは確かに嬌声と呼べるものだった。

 しばらく続いた射精が収まり、強張っていた身体の筋肉が緩んだ。
 リコも同様に、俺にしなだれかかって呼吸を荒げている。

 無言のまま抱き合った。
 お互いにすっかり汗まみれになっていた。
 くたりと脱力した身体から重みが伝わり、彼女の体重と温もりに心地良さを覚えた。

『……あちしら、セックスしたな』

『ああ』

 これ以上ない程にセックスをしていた。

『エムビーの熱いの、届いたぞ。あちしの胎ん中に』

 リコが顔を上げて俺を見た。

 髪は汗で濡れてすっかり疲労し切っていながらも、はにかむ笑顔は満足げだった。
 
『そう言われると、少し照れ臭い』

 汗の浮いた額を拭った俺に、リコはくすくすと笑い声を洩らした。

『じゃあ、もっと照れ臭いこと言ってやっかんな?』

 悪戯を思いついた少女のように意地悪に、

『もっとしてくれ。お前とのセックスは、気持ちいんだ』

 リコは甘く俺を誘った。

 なるほど。
 確かに照れ臭くなる。

『ああ。もっとセックスをしよう』



 肌を重ねれば重ねるほど、リコは感度を増していった。

『すっげぇ。すげぇな。あちしの胎ん中に、エムビーのちんちんがある。ほら、触ってみっと、動いてんのが判る』

 俺の上に跨り腰を使いながら、リコは両手を自らの下腹部に添える。
 苦しそうな様子はなく、満たされたような陶酔と艶やかな笑みが松明の明かりに照らし出され、壁に映った黒い影が踊る。
 愛液は血の跡を押し流した後も分泌が続き、互いの股をすっかり濡らしていた。

 腰の動きを上下運動から円運動に切り替えたリコに、俺も腹に手を伸ばした。

『うん。判るな』

 腰にひねりを加えると、リコの小さな身体の奥で蠢くのが判る。
 愛液がたっぷりと分泌される膣内は、俺のぺニスを柔軟に受け止め、蠕動しながら圧迫した。

『すげぇ奥まで届く。あっ。あちしの一番奥に、こつんて当たるの、んっ。胎に響くから判るぞ』

『ああ。リコの子宮に届いている。この辺りだな』

 俺は亀頭の先に当たるこつんとした硬い感触の辺りを、手で円く撫でた。
 試しに引いていた腰を突き上げると、こつんと確かな行き止まりを感じた。

 子宮の入り口に触れると、リコの身体は殊更弾んだ。

『んっ。はっ、この。悪戯好きだなっ。んっ』

 リコは眉をしかめた後、にんまりと笑って腰を深く落とした。
 硬い感触を俺のペニスの先端に押し付け、腰をぐりぐりとねじった。
 気持ち良かった。

『あちしの胎ん奥で、んくっ、エムビーのちんちん撫で撫でだ。はぅっ』

 リコが俺の顔を覗き込んで言った。
 その表情は悪戯っぽくも優しく、何より淫らだった。

 腰が震えるのを感じて、俺はリコの子宮の中へ射精した。 

『あっ、あっ、熱っ。あっ』

 リコの身体は俺の上で痙攣し、柔肉で包んだ俺のペニスを絞り上げた。

 

 俺たちの性欲は、一度や二度の射精を迎えたところで満足する事はなかった。

『重くはないか?』

『あちしは力持ちだ。人間が一人くらい乗ったとこで大したことねぇ。けど』

『けど?』

『……この格好、エムビーにリョージョクされてるみてぇだ』 

 俺たちは繋がったまま騎乗位から正常位に体位を変えていた。
 互いの腕力を比べると、石の棍棒を振り回していたリコの方が強い。
 しかし押し倒すような今の格好では、体格差もあってそう見えるだろう。

 リコの開いた脚を掴んでいるので、結合部が良く見えた。

『望むなら、犯すように抱くが?』

 数回、腰をひねりながらピストンした。
 俺のペニスを咥えたままリコの膣から、とろと少しだけ粘液がこぼれた。

 互いの愛液と精液が混じった温い粘液。
 めくれたリコの膣からこぼれる様子、たまらなく淫靡だった。

『……ん。大分慣れたし、今度はエムビーがいっぱい動いてみてくれ』

 リコが俺の首と背に腕を回し、抱き締めてくる。
 ゆるゆると腰を使いながら、俺たちは何度も口付けをした。
 互いの唾液を吸っては唇を噛み、飢えたように、渇いたように吸いあった。

 満たされぬままに口を離し、

『あ、あちしをさ、奪ってくれよ』

 リコは俺に貪欲な口づけをしてきた。

 彼女が望む通りに犯した。
 陵辱するように激しく犯した。

『んっ、んふ、んっ。ちゅむっ、んぐ、んむっ』

 リコの小さな身体を押さえつけ、圧し掛かり、立て続けにペニスで子宮口を小突いた。
 腰を打ちつけ、素早く引いてまた打ち込んだ。
 組み敷いたリコの身体が悶える。
 単純な腰使いをする俺に反して、リコの腰は複雑にうねる。
 俺の動きに合わせて、貪欲に性感を搾り取る。

『ん、んんっ。んん? ん、んんっ』

 俺は唇を押し付けたまま、リコが発する声も悲鳴も嬌声も全て吸い上げ、飲み込んだ。

 荒々しく、リコから何かを奪い取るようにセックスをした。

『ん、んんっ。んんん!? んーっ!』

 我慢するというプロセスを思考から除き、昂ぶるままにリコの体内で三度目の射精をした。
 激しく痙攣するリコの脚が伸びて、指の股が開いた。

 リコから奪い取った何かで、俺の何かが満たされていく。
 そんな気がした。

『これが精液か……』

 三度出してからペニスを引き抜くと、リコの膣内から白い精液が溢れて覗く。
 リコは上気した顔で不思議そうに自らの膣口へと指を寄せた。

『……あったけぇ』

 指で掬った精液をくちゃくちゃと鳴らして指に絡めながら、俺に微笑んだ。
 
 リコは少女の面影を色濃く残したまま、官能を知る女の顔になっていた。



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 あいつに跨って始まり、組み敷かれてリョージョクされたり。
 あちしらは体力が続く限りずっとベッドん上でセックスした。

 獣が交尾するようにもしたし、抱きかかえられてしたりもした。
 何度セックスしたかわかんねぇ。
 
 セックスってもんがどういうもんなのかは良く判った。
 気持ちいくて、あったかくて、なんだか身体ん中が溶けてくような不思議な感覚。
 溶けてくのはあちしの意地とか見栄っ張りなとこで、そういうのが溶けて代わりに入ってきたものがあった。

 あちしの中に入ってきたエムビー。
 この変人で、はぐれもんで、自分の半分は石なのかもしんねぇなんてすっとぼけたこと言い出す変わった奴。
 目を閉じると、そのエムビーが胸の真ん中であちしをじっと見つめてるような。
 そんな感覚。

 まあ、胎ん中にこれでもかってくらい精液仕込まれちまったんだけども。

 あちしはいつの間にか眠っちまってて、あいつん上で裸ん坊のまんま抱き合って眠っちまってた。
 眠ってたんじゃなくって、気ぃ失ったのかもしんねぇ。
 
 目ぇ覚ましても、あいつのちんちんはあちしの胎ん中にあった。

 全く、エロエロ過ぎるってんだよ。

 先に目が覚めたあちしは、エムビーに乗っかって寝顔を眺めてた。
 岩の歯亭は洞窟ん中だけど、ちゃんと光が届くように穴を繋いでる。
 ゴブリンは伊達で洞窟にすんでるわけじゃねぇ。
 ちょっとの光でちゃんと見える目を持ってる。
 だからあいつの顔も良く見えた。

 眠ってても無愛想なエムビーの顔を見つめてた。

『……おはよう』

 見つめてるうちに、エムビーの目が開いた。
 寝起きなのにしっかりした声で、開いた目があちしを向いた。

 ちょっびっとの光を浴びて、きらって光んのが判った。

『おはよ。まだ夜明けだ。早いんだな』

『リコの声が聞こえた』

 あちし、喋ってたか?

『くすくすと笑っていた』

 あ、いけね。
 知らねぇうちに笑っちまってたのか。

『起こしちまったか?』

『リコの声で目が覚めるのは、悪くない』

 こんにゃろ。
 また恥ずかしいこと言いやがって。

『バーカ』

 あちしは真っ直ぐに見つめ返してくるあいつにちゅうをした。
 尖らせた唇を合わせて鳴らすちゅう。
 ちゅうも沢山したけっど、何度しても全然足らない気がしたから、目が覚めても沢山ちゅうをした。

 けど。
 あちしだって目が覚めてあいつの言葉を聞くのも悪い気分じゃなかった。
 耳に慣れたゴブリン語で喋るし。

 王国語とゴブリン語を、多分あちしよりも上手く使い分けてる。
 一体どうなってんだろうな?
 こいつの頭ん中って。

 あちしの下でエムビーの身体がもぞもぞと動いて、くちゃりって音が聞こえた。
 胎からこぼれた精液が、あいつのちんちんに絡む音だ。

『またあちしん中で大きくなってきてっぞ。このスケベ』

 からかい半分に睨みつける。

『朝勃ちと言う。朝は自然に勃起する』

 真面目な顔で答えが返ってくる。

『絶対、それだけじゃねぇだろ』

『それだけじゃない』

『このエロエロ大変人。あちしの胎ん中いっぱいにして、散々種付けして』

『エロエロ大変人か。そう言われたのは初めてだ。リコを名実供に俺のものにしたかった』

『もうあちしはお前のもんだ。ちんちんの形も熱さも、身体が覚えちまった』

『俺もリコの体内の形も熱さも記憶した』

 抱き合ったまま、あちしはあいつとの会話を楽しんだ。
 会話を楽しみながら、脈打つあいつのちんちんも胎ん中で愉しんでいた。

『俺についてきてくれるか?』

 あいつが訊ねた。
 あちしは頷いた。

『うん。エムビーについてく。あちしも一緒にいたい。
 ――けど』

『けど?』

『けじめだけ、つけさせてくれ。子分たちに何も言わずに行くわけにゃいかねぇ』

 なんだかんだで付き合いの長かった子分たち。
 何も言わずにこっから出て行くわけにゃいかなかった。

 だって、やっぱりあちしはあいつらの姉ビンなんだから。

『ああ。判った』

 あいつも頷いてくれて、あちしはほっとため息をついた。

 あちしを見てくれんのも嬉しいけど、子分たちのことだって忘れちゃいない。
 そんなこいつが大好きになっていた。

 それから。

『ん。じゃあその前に、もっかいしようぜ? ちんちん元気になってっし』

 こいつとするセックスも大好きになっちまってた。

 エムビーの手が伸びてきて、あちしの角の根元を指先で掻いた。
 これ好きだ。

『リコはいい女だな』

『エムビーはスケベで変わった奴だ』

 そんなこの男が、大好きになっていた。

 エムビーの腰がうねり出す。
 あちしの股のお豆が身体と擦れて、頭ん中がぴりぴりとする。
 自然とあちしの腰も動いていて、胎ん中のちんちんをひねったり締め付けたりし始めていた。

 一回だけで我慢出来っかな?

 エロエロなこいつも、スケベになっちまったあちしも。



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 結局目が覚めてからも繋がったまま俺は三度射精し、リコも引っ込んでいた汗が全身を濡らすまでセックスをした。

 俺も絶倫らしいが、リコも充分に絶倫だと思った。

 濡らした布を手にして、互いの汗を綺麗に拭き取った。
 その際リコの膣口からとめどなく精液が溢れて腿を伝い、顔を真っ赤にして唸る彼女に肩や胸元をぽかぽかとやられた。

 可愛い仕草に反してリコの握り拳は存外堪えた。

 それはともかく、俺たちは岩の歯亭のカウンター前にいた。

「……ぐぅ。頭が痛む」

 魔女殿は眉間に皺を寄せると、額を押さえて唸った。
 結局、ソッパを相手に一晩中飲み続けていたらしい。

「飲み過ぎです。財布の中身とご自身の年齢を考えて下さい」

「なにっ――あたたたた。
 ……おのれ、わしが二日酔いと見計らってかような追い討ちをかけるとは」

「弱ったところを全力で叩け。魔女殿の訓えです」

 沸かした湯を啜っていた魔女殿は、じろりと俺を睨み上げた。

「覚えておくがいい。魔女とは総じて執念深く、心に閻魔帳を持つのだ」

「もう知っています。忘却の魔法以外では忘れられません」

 魔女殿とぼそぼそとした小声でやり取りをしながら、向かい合うリコたちを少し離れた場所から見つめていた。

『ってことだ。あちしは、エムビーについてこうと思う。
 どこにいくのかもわかんねぇ旅だ。もう岩の歯亭は続けらんねぇ。
 だから――』

 経緯の説明と自らの思惑を述べ終えたリコは、言葉を切ってゲッパドッパソッパの三ゴブリンをそれぞれ見回した。

 彼女らはこれまでの苦労や共に過ごした思い出を振り返っているのだろう。
 神妙で辛そうで、だがどこか毅然とした空気が店内を漂っている。
 気がした。

『だから、これからはあんたらが守ってくんだ。この岩の歯亭をじゃねぇ。
 あんたらの生き方を守って、しっかり生きてくんだ。いいな!?』

 リコはその小さな身体から、威勢の良い元気な声を張り上げた。

『へい姉ビンでゲス!』
『合点承知っス!』
「シシシ!」

 三人は力強く、大きく一度頷いた。

 じっと真剣な表情を浮かべていたリコが、そこで苦笑いを一つ。

『まあ、ちょびっと心配なんだけどな。あんたらバカだかんな』

『そりゃないでゲスよ! おらも大切なもんを見つけたでゲス! 身近にあるって気がついたでゲスよ!』
『そうっス! 愛は無敵っス! 胸焼けするくらいの純愛っスよ!』
「シババ」

 しっかりと手を繋いで力説するゲッパとドッパに、ソッパは肩をすくめて首を左右に振って見せた。

 別れの言葉に際してしめやかな空気はあったものの、誰も涙は見せなかった。
 岩の歯団の結束の固さは、別れに直面しても揺らぐことはなかった。

 リコの気懸かりは取り除かれて、契約に必要な経路が整えられた。

「リコ」

 和やかに子分たちと談笑する彼女の名を呼ぶ。

「ん」

 彼女が振り返って、俺を見た。
 迷いの晴れたすっきりと清々しい笑顔で、俺はそれを記憶に強く焼き付けた。

「好きだ」

 契約経路を繋げる。

「あちしも、大好きだ。エムビー」

 尖った八重歯を覗かせるはにかみ笑いと共に、契約が交わされた。

 俺に仕込まれた魔法陣が展開する。
 俺の血と肉と骨に直接刻み込まれた魔術痕。
 魔女殿直筆の魔法陣は、展開から発動まで秒すら掛けずに履行された。

 岩の歯亭に吹き込んだ一陣の強い風が過ぎる頃には、リコの姿はなくなっていた。

「契約完」



 すぽぽぽんっ。



「……了」

 展開した魔方陣は、リコだけでなくその背後にいたゲッパドッパソッパの三人も一緒に吸い込んでしまっていた。
 小気味良い感じに。

 魔法陣は展開した際と同じく、一瞬で折り畳まれて再び魔術痕に戻った。
 俺は自分の胸元を凝視したまま数度撫で、今起きた現象の説明を求めて魔女殿を見た。

 一連の契約儀式に対して、魔女殿も驚いた様子で目を丸くしていた。

「……あー、そうか。
 わしの魔法陣は、あの子分のゴブリンたちを小娘の所持品として認識したようだな」

 そういえば、リコはソッパを盾扱いしていたような。

「彼らはリコの装備品ですか」

「消耗品扱いではないのかのぉ。ほれ、薬草とか毒消し草とか、一回使うとなくなる系の。
 ……多分」

 魔女殿は消えた彼らがいた辺りを眺めて、ずずずと音をたてて湯を啜った。

「それは切ないですね」

 俺も同じ場所を凝視して、頬を掻いた。

 契約は、大体成立したので良しとする事にした。



 本日の成果。
 種族:ゴブリン種。鬼亜人型。
 遭遇位置:山地洞窟。岩の歯亭内。
 個体数:四。
 契約名:リコ。ゲッパ。ドッパ。ソッパ。

 以上。



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 わしは男を伴い旅を続ける。

「魔女殿」

 ゴブリンの宿を出てしばらくした頃、山を越える為の峠道であやつが呼んできた。

「なんぞ。文句なら聞かんぞ? わしのような弱った美少女を背負って歩くなど、男冥利に尽きるというもの。
 重いと抜かしおったら、脳をバター風味にソテーしてくれる」

 二日酔いで歩くのが億劫だったので、男にわしを背負わせていた。
 男は視線は前に向けたまま、つむじを睨みつけるわしに答える。

「魔女殿は愛らしい美少女の上に、羽根のように軽いです」

 うむ。
 判っておるではないか。

「弱る理由が二日酔いというのは、雅に欠けると思いますが」

 うむ。
 誰がオチをつけろと言ったか。

「ええい、ぬしは――あたたたっ」

「叫ばれると二日酔いに響きます。
 後、魔女殿の愛らしさも軽さも理解していますので、それを訊ねている訳ではありません」

 口ばかり上手くなりおってからに。
 まあこちらも軽いだのバター風味などは、口を突いて出てきただけの冗談だ。

 重いといったら脳をプリンにしてくれる。

 わしはまだまだ乙女心を持ち合わせた魔女ゆえ、体重問題に関しては一切容赦せんぞ!

 わしは割れ鐘のように響く頭痛をやり過ごし、片目で目の前の頭を睨む。

「では何を聞こうとしておったのか?
 ――もそっと揺らさぬように歩け」

「リコの事についてです。
 はい、努力します」

 男の努力はすぐさま発揮され、揺れ幅が大きく減った。
 元々腰から上を殆ど揺らさずに歩く男の背中は揺れが少なかったが、足運びも変えたようだ。
 魔術の才はからっきしだが、そういう事だけはめっぽう覚えが早かった。

「あのゴブ娘がどうした?」

「はい。リコはどうして異種族である人間との性交を望んでいたのでしょうか。
 繁殖という意味なら、相手は同種内に求めるのが普通かと思います」

「ま、理由は境遇だの文化風俗の違いなど色々あろうがな。魔王の影響が大きい」

「魔王ですか」

「うむ。サキュバス化についてはぬしも知っておろう。女を淫乱にして精を魔力として搾り取る」

「はい。搾り取られました」

「力果てるまで淫行の限りを尽くした後に、寝起きに三発であるからな。いや、若い若い」

「恐縮です」

「とにかく、魔王の影響を受けた物は人間、魔物に関わらずそれぐらい性欲が強められる。だがそれだけではない」

「?」

 首をひねったあやつの頭を、ぺしぺしと平手で叩く。

「相手は魔王であるぞ? 人間に対して友好的だとでも思うか?
 魔物を人間に差し向けるのが魔王であろう。故に魔物とて人間の男に対して欲情するのだ。
 種族的に女しかおらんが故、繁殖に人間の男を利用してきた魔物もおるがな」

「混血が進めば、種の保存もままならないのではないですか?」

「魔王を甘く見てはならんぞ? 魔物の血の濃さもな。
 確かに人間の因子は含まれようが、どれだけ血が交わろうと生まれてくる者には必ず母体の因子が表に出る。
 人間とゴブリンの間に子を設ければ、生まれてくる子は人の因子を含んだゴブリンだ」

「因子ですか」

「うむ。ちなみに組み合わせが逆ならば、ゴブリンの因子を含んだ人間の子が生まれてくる。
 ま、因子ゆえに外見は人と変わらぬし、せいぜい人と比べて若干小柄な程度。後は……ゴブリン娘に心惹かれ易くなるやもしれんといった所か。
 姿形がそれほど変わる訳ではなく、大部分は目に見えぬものを含んでいるに過ぎん」

「なるほど」

「因子を多く含めば、同一種内でもより多様化が進む。種の保存を望むなら、むしろ異種族間でばんばん孕ませ合った方が良い。
 単一種族のみでは血が細り衰えていくだけだ。故に人間の男を求める衝動が本能として刻まれる」
 
「そういう理由があったのですね」

「うむ。あったのだ。ぬしは甘い誘惑に誘われるがまま、ゴブ娘の蜜壷に見事にハメられたという訳だ。
 銘酒、処女殺しといった所か。けけけ」

「否定はしませんが、その物言いは下品です」

「蜜といえばミードが飲みたくなった。結局ありつけんかったからの」

「下の話の次は酒ですか。下品が過ぎれば魔女殿の愛らしさが損なわれるのではないかと心配です」

「それでも尚わしは美少女である。どうだ、凄いであろっ――あたたたたっ」

「魔女殿が豪語しようとして頭痛に見舞われるのは、何やら目に見えない因子の働きのように思えますね」

 こやつめ。

「覚えておれよ?」

「はい。忘れた頃に思い出します」

 それもまた因子の働きやも知れぬな。

 わしはくつくつと笑い、背を殆ど揺らさず歩く男の首根っこにしがみついた。

「MBよ」

「はい、魔女殿」



「明日も、新たな世界を知ろうではないか」


09/10/27 02:10更新 / 紺菜

■作者メッセージ
〜お・ま・け〜


<登場人物紹介>

“枝折り”のリコ
ゴブリンガルな彼女はみなしゴブリン。「それが言いたかっただけちゃうんかと」はい。見た目ロリなお姉さん。でも処女。婚期が遅れてすっごい焦ってるんだけど、エッチなフインキでいっぱいいっぱい。
「“枝折り”すっぞ!」マッガーレ! そんな感じ。


ゲッパ、ドッパ、ソッパ
名前が適当。扱いも適当。適当に扱ったらああなった。元ネタは紅の豚? ゲッパとドッパはマンマユート団。ソッパはポルコ。位置的にそんな感じ。



〜魔女殿フィルター仕様であのシーンを〜



MB「ゴブゴブ」

リコ「ゴォブ?」

魔女「……」

リコ「ゴゴゴゴゴブゴブ!?」

MB「ゴブ。ゴブゴブーリン、ブリゴブブ」

リコ「ゴッブゥゴブ!」

MB「ゴブリコゴブ。ゴブゴブブリリブン。ゴブ?」

リコ「ゴブッ」



魔女(……わしだけのけ者にされておるようで、つまらん。台無しにしてくれよう)



 これがホモゴブリンの真相。多分。
 後私は両刀使いではありません。ありませんったらありません。



〜モン生舞台裏劇場〜



「今回契約したゴブリン種のリコです」

「お、おう。リコだ」

「魔物娘SS第二回がゴブリンというのもまた王道であるな。ゴブリンといえば冒険者と最も馴染みの深いモンスターである。
 洞窟潜れば二分でご飯(経験値的に)である」

「ゴブリン種の今後が危ぶまれます」

「人間は嫌いだ。でもドワ公は見るのも嫌だ」

「大抵敵対的に描写されるからの。それを踏襲したという訳だ。
 某指輪な物語でも数に任せてドワーフ王国を滅ぼしたりしておったろう」

「魔女殿、あれはオークです」

「……そうであったか?」

『やっぱり、こいつただの酔っ払いなんじゃねぇか?』

「ゴブゴブ言いおって。このゴブリンガルが!」

「うっせえな、このチビ!」

「俺を挟んで喧嘩しないで下さい」

「ふんっ!」

「へっ!」

「本来単純で子供っぽいのがゴブリン娘ではあるものの、苦労したという背景を背負わせる事によって、成長したという設定です」

「そりゃ人間騙したり追い剥ぎとかもすっけど、ゴブリンだって苦労してんだぞ、ってこった」

「ボコォ! 表現があるものの、そこはファンタジーである。突っ込んではならぬ」

『……エムビーに孕まされたみてぇだった。胎ん中、いっぱい精液出されちまったし』

『少し照れくさい』

「まあ実際に突っ込んだ訳であるがな!」

『責任取れよ。あちしを女にしたんだからな』

『判った。リコは魅力的な女だ』

「……」

「イチャイチャ」

「ウフフ」

「な、なんだよぉー! なんだよぉーぅ!
 わしだってなぁ! ボコォやヒギィは得意分野な上に、超アヘ顔なんだからな!?」

「魔女殿。そういう陵辱系は、ちょっと」

「へへーン。エムビーはなぁ、あちしを優しくリョージョクしてくれたんだぞ?」

「阿呆め阿呆共め! わしは正ヒロインであるから濡れ場がまだないだけで、その時が来たら心にメテオストライクをお見舞いしてやる!」

「ってか。濡れ場がねぇなら、お前実はヒロインじゃねんじゃねーの?」

「……!」

「……う、うわぁん! この万年常春発情和姦スキヤどもめ!
 チーズの青かびが脳に回って死ね!」

「魔女殿。何も泣かなくても」

「いひひひ。ざまみれ。
 さ、邪魔なチビがいなくなったし、その……セックスしよ。あちし、なんかコツが判ってきた気がすんだ」

「……リコ。あれを」

「ん?」

『ゴッブウウゥゥゥ! 堪らんでゲス堪らんでゲス! ドッパのゴブリンキノコの傘がおらの中で開いてるでゲス!』
『ブッリィィィィン! 熱膨張っス熱膨張っス! ゲッパのゴブリンオスマンコにキノコ狩りされそうっス!』

「……」

「リコ?」

『台無しだ。せっかくのフインキが台無しだあああっ!』

「リコ。何も泣かなくても」

「シシシ」

「ソッパ。お互い苦労するな」

「シッ」



 これはひどい二段落ち。

 誤解がないよう言っておきますが、私はホモ好きなのではなくホモネタできゃっきゃ言って遊んでるだけです。
 ほんとですよ。

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