その4
「そろそろか・・・」
懐かしきミスガルズ砦まであと僅か。
遠目で観察したところ、未だミズガルズ砦は陥落していないようだ・・・
急がなくては・・・
砦に着陸した私に警備兵が詰め寄った。
「何者だ!!」
「私はヨルムンガンド。魔王閣下の勅命により貴殿らに助力に参った。
速やかに現在の状況及び作戦展開の情報をくれ。」
「あなたが!?・・・これは失礼しました。・・・隊長、ヨルムンガンド様、ご到着されました!」
「おお!お待ちしておりました。現在の状況と作戦展開ですね・・・
戦況は芳しくありません。そのため今後の作戦も立てられない状態です。
圧倒的劣勢ではあったのですが彼奴らが謎の撤退をしたので今は何とか持ちこたえておりますが・・・
砦前方に展開している教会聖騎士団を撃退出来れば何とか・・・」
「ふむ。なるほど・・・では私が教会聖騎士団を蹴散らそう。
蹴散らしたことを確認したら貴殿らも追い打ちを頼む。」
「はっ!あのヨルムンガンド殿と戦えるなんて・・・光栄です!」
「もう一線は引退しているさ・・・では頼むぞ!」
久々に教会との戦いだ。
先ほどの隊長の話からは教会聖騎士団が罠を張っている可能性もあるが・・・
小賢しい。蹴散らしてくれるわ!
・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・
その頃、教会聖騎士団陣営・・・
「司祭殿!!!敵に増援がきた模様です!!!遠目では竜族のようですが・・・」
「ふふふ・・・きっとあの汚らわしい黒竜でしょう・・・待った甲斐がありました。
諸君、この時のために対黒龍用の最終兵器を用意してあります!もはや黒竜恐るるに足らず!!」
「「「「オオオオオ!!!!」」」」
「ふふふ・・・来なさい、黒竜よ・・・貴様を捕らえて処刑する時が楽しみです・・・」
・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・
砦より飛びたち、教会聖騎士団陣営近くの空から奴らを観察することとしよう。
「ふむ。砦が陥落寸前に追い込まれるだけのことはあるな・・・中々力が入っているではないか。」
しかしこのヨルムンガンドにその程度の戦力では足らぬな。
追い返してくれるわ!
「敵襲!!!黒竜と思しき魔物が単騎で突撃してきました!!」
「来ましたか!こちらの陣営に引き付けるのですよ・・・?」
「はっ!」
おかしい。妙に手応えがない・・・というか、自陣営に攻めこまれているというのに、
誘い込まれているような・・・考え過ぎだろうか?
そんなことを考えながら近くの教団兵を尾で吹き飛ばし、正面の兵を突進で吹き飛ばす。
・・・トールと戦う間に奴の信条が映ってしまったのだろうか・・・
心の中で苦笑しながら陣営の中心を目指す。あの司祭がいるはずだ・・・
次々に襲いかかる教団兵を吹き飛ばしている時、それは起こった。
「!!!!!?」
どうしたというのだ・・・?
力が・・・体に力が入らない・・・
めまいがする。立っていることも辛い。
一体どうしたというのだ・・・?
「くっ・・・」
思わずよろめく。
「今です!!!魔法隊!」
あの司祭か・・・私に神聖魔法など効果がろくにないというのに・・・
そんなことを考えていると、体を凄まじい衝撃が襲った。
「かはっ・・・」
馬鹿な・・・一体何が・・・?
「今です!捕縛なさい!!!」
気が遠くなる中で司祭の声がやけに大きく響いた・・・
「ん・・・?ここは・・・?」
目を覚ますと、薄暗い部屋にいた。
「なんだ、これは・・・?」
これは・・・牢?手足も拘束され、台に寝かされている。
このようなもの・・・引きちぎれるはずが・・・体に力が入らない。
「ん?目が覚めたか?」
「・・・どうやらそのようだな。司祭様をお呼びしよう。」
解らないことは多いが、私は捕らえられたことは事実であるようだ。
しばらくすると牢の番兵が若く、神経質そうな男を連れてきた。
「おや、目を覚ましましたか?おはようございます。」
「・・・おはよう。」
「ほほう、魔物でも挨拶を返せるのですね。これは賢い。」
「・・・馬鹿にしにわざわざ牢まで来たのか?」
「ハハハ、そんなに怒らずともよいでしょう?軽いジョークですよ、ふふふ・・・
おや、何か聞きたそうな顔をしていますね?解りますよ?」
「ここはどこだ?」
「ここはあの砦からほど近い街ですよ。あぁ申し遅れました。私、この街の教会司祭をしております、
ユミルと申します。」
「私はヨルムンガンドだ。もう1つ聞きたい。・・・一体何をした?」
「ふふふ、それを聞いてしまいますか?竜族であるあなたが一体なぜ無力化されているのか?
ふふふ、それは教団の極秘事項ですねぇ〜」
「・・・ならいい。」
「拗ねちゃいました?ふふふ、いいでしょう。これですよ。」
男は何か焦げ付いた札のようなものを持っていた。
「これは・・・?」
「これは非常に珍しい竜封じの札ですよ。ドラゴンスレイヤーなんて呼ぶ者もいるらしいですがね。
別に竜を倒せるわけじゃない。ただしばらくの間無力化するだけです。
そうですね・・・数日ほどでしょうか?」
「そんなものを使ってまで私を仕留めたいとは・・・光栄だな。」
「ええ・・・あなたは自分のことを解っていないようですが・・・
あの砦を守る黒竜の存在はね、この街・・・いやこの国にとって恐怖の象徴なのですよ。
あなたが生きている限り、この国は魔物に対して及び腰になってしまうのです。」
「・・・それは買いかぶりというものだ。」
「さて、どうでしょうね?とにかくあなたは魔王軍でも有力な魔物でしょう。
おびき出して討伐するためにこの札を手に入れるのは大変でしたよ・・・
何せ世界に何枚とないものですからね・・・もしかするとこれが最後かもしれない。」
「そんな貴重なものを使ってよかったのか?」
「ええ。貴重ですがね。それでも神話の怪物を倒せるのであれば・・・ふふふ」
「ほう・・・私を知っているのか・・・」
「竜の中でも特に強い力を持ち、その力は神々に届くとも言う・・・世界蛇とも呼ばれるあなたが相手であればね?
おっと、そうそう聞かれる前に伝えておきましょう。あなたの処刑は明日の正午ですよ。
ここまでおしゃべりが過ぎましたが、冥土の土産というやつです。」
「フッ・・・親切なことだな・・・」
「いえいえ・・・ようやくあの忌々しい黒竜を殺せると思うと気分が高揚しましてね。
寛大なる神に感謝するのですね。」
「フッ、笑わせてくれる。」
「さて、話はそこまでです。明日はとびっきりのショウが見られると思うと胸の高なりを抑えきれません・・・ふふふ」
「楽しみにしておくよ。」
「その取り澄ました顔が苦痛と屈辱と涙に覆われると考えると・・・楽しみですねぇ!!
では最期の夜を楽しんでください。」
司祭が去った後、私は確実に迫りくる死を噛み締めていた。
今まで永劫に等しい時を生きてきたが・・・まさかこんなところで終わってしまうとはな。
あれだけ生きてきたのに・・・あれだけいつ死んでも天命と受け入れる覚悟はできていたというのに。
胸が張り裂けそうだ。
トールに言えなかったな・・・一言謝りたかった。
また一緒に夕飯を食べたかったな・・・部下達とトールと一緒に馬鹿な話をしたかった・・・
殺されるのは仕方ない。私も多くの人間の命を奪ってきた。
しかし・・・一度でもいいからトールに会いたい・・・
また・・・目の前が滲んできた。
私は泣いているのか?悲しいのか・・・
今夜は眠れそうもない・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
次の日、昼近くなって、私は牢から出された。
牢の番兵に引っ立てられ、街の中心部と思しき広場へノロノロと歩いて行く。
その間も浮かぶのはトールのことばかり・・・
広場の中心には鉄格子で囲まれた牢のようなものがあった。
私はあそこに入れられるのか・・・
牢を取り囲んでいた人間たちがこちらに気づいたようで視線が私に突き刺さる。
「あれが魔物か!」「なんという邪悪な視線・・・」「殺せ!」
「なんと汚らわしい・・・」「殺してしまえ!!」
人間たちから石を投げられながら、牢へと引っ立てられる。
いつもの力があれば問題ないはずの投石が痛い。
あぁ。私はこの人間たちに殺されるのだ。
太陽が真上に上った。執行時間だ。
私は手足を拘束されたまま牢に放り込まれている。
一体どうやって私を殺すつもりなのだろう・・・
「執行者を連れてくるのだ!」
「はっ!」
執行者?何をするつもりだ??
「連れて参りました!」
番兵が連れてきたのは。
私と同様手足を拘束された人間数人だった。
身なりからして私と同様牢に入れられていた犯罪者だろうか・・・?
司祭が牢の前で人間たちへと演説を開始した。
「敬虔なる信者の皆様!皆様の祈りが神に届き、ついに神敵である暗黒の竜を捕らえることに成功しました!
この者には断固たる神の裁きを下さなくてはなりません!!!」
「そうだー!」「殺せ!!」
「裁きの執行についてですが・・・執行者は傲慢にも神の御心に逆らいし、罪深き者たちを選びました!」
「はぁ!?」「説明しろ!!」
「皆様、静粛に・・・寛大なる神は罪深き者たちも許します。しかし何も行わない者に神のご慈悲は与えられません・・・
そこで・・・この罪深き者たちが神の裁きを行う・・・神の尖兵となることで神のご慈悲を頂こうと考えています!」
「おぉーー!!!」「殺せ!!」
・・・なるほど、私をとことんまで辱めようというのか・・・
司祭は振り返って近づいてきた。
「と、いうことですよ。」
「下衆め・・・」
「おおっと、怖い。そうそう、ついでにお伝えしましょう。
かの罪深き者たちの罪状ですが・・・罪状に強姦が含まれているものを選りすぐりました。
しばらく牢に閉じ込められ・・・欲望のはけ口のない罪深き者たちに玩具を与えたらどうなるでしょうね・・・?」
「貴様・・・・!」
私は顔が青くなるのを感じた。
ただ殺されるだけでなく・・・弄ばれるということ・・・?
私は人型になってから、人間の男と交わってなどいない。
初めてが・・・晒されての強姦?
嫌だ!嫌だ!!嫌だ!!!
逃げようにも手足は拘束され、体に力は入らない。
恐怖でもがく間にも執行者達はこちらへ引っ立てられてくる。
その表情を見て、私は背筋が凍った・・・
あの欲望にまみれた表情。狼が獲物を見るような捕食者の顔。
怖い。助けて。
誰にも届かない。誰か・・・・
とうとう執行者達が牢に入れられ、鍵がかかる。執行者達は既に手足の拘束を解かれている。
牢の中からギラギラと欲望で光る視線と牢の外から殺意に満ちた視線が私に突き刺さっている。
気を失いそうな恐怖の中、必死でもがいた。
「始め!!!」
掛け声と共に執行者たちが私に襲いかかった。うつ伏せになって抵抗したが、すぐに仰向けにされてしまう。
「へへへ・・・見ろよ、この体・・・」
「美味そうだ・・・・」
嫌だ・・・誰か・・・助けて・・・
「すべすべだぁ〜」
私の体をいやらしく手が這いまわる。
以前男に触れられるのは気が遠くなるほど心地よいと聞いていたが・・・
気持ち悪い・・・嫌だ・・・
「みろよ、こいつ泣いてやがるぜ!」「泣き叫ぶ女を犯すのはたまらないな・・・」
「んんんっ!!!」
脇腹を虫が這うようなな感触が襲う。
「ぺろぺろ・・・甘ぁい!」「ほんとだ甘い・・・!」
舐めている・・・!想像を絶する悪寒が私を襲う。
「もう嫌だ・・・トール・・・」
「ん?男の名前か?」「男がいるのか・・・それにしちゃ初々しい反応だぜ?」「処女か!?」
「やめろぉ・・・」
体をよじって逃げ出そうにもがっちりと腰を掴まれている。
「処女だとすると・・・彼氏を差し置いてもらっちまうのか・・・ヒヒヒ、最高に興奮するぜ!」
「でっかいな・・・」「ああ」「むしゃぶりつきてぇぜ!」
執行者達の視線が胸に集中しているのがわかる。
「見るな・・・!」
「やわらけぇ・・・」「そろそろ脱がすか?」
鱗で覆われた胸に手がかかった。
「やめろ!助けて!トール!!」
・・・私が騙した男の名前を呼ぶ。来るはずもない。あいつはもう『黒竜』を探すために旅だったのだから・・・
「呼んだか?」
懐かしきミスガルズ砦まであと僅か。
遠目で観察したところ、未だミズガルズ砦は陥落していないようだ・・・
急がなくては・・・
砦に着陸した私に警備兵が詰め寄った。
「何者だ!!」
「私はヨルムンガンド。魔王閣下の勅命により貴殿らに助力に参った。
速やかに現在の状況及び作戦展開の情報をくれ。」
「あなたが!?・・・これは失礼しました。・・・隊長、ヨルムンガンド様、ご到着されました!」
「おお!お待ちしておりました。現在の状況と作戦展開ですね・・・
戦況は芳しくありません。そのため今後の作戦も立てられない状態です。
圧倒的劣勢ではあったのですが彼奴らが謎の撤退をしたので今は何とか持ちこたえておりますが・・・
砦前方に展開している教会聖騎士団を撃退出来れば何とか・・・」
「ふむ。なるほど・・・では私が教会聖騎士団を蹴散らそう。
蹴散らしたことを確認したら貴殿らも追い打ちを頼む。」
「はっ!あのヨルムンガンド殿と戦えるなんて・・・光栄です!」
「もう一線は引退しているさ・・・では頼むぞ!」
久々に教会との戦いだ。
先ほどの隊長の話からは教会聖騎士団が罠を張っている可能性もあるが・・・
小賢しい。蹴散らしてくれるわ!
・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・
その頃、教会聖騎士団陣営・・・
「司祭殿!!!敵に増援がきた模様です!!!遠目では竜族のようですが・・・」
「ふふふ・・・きっとあの汚らわしい黒竜でしょう・・・待った甲斐がありました。
諸君、この時のために対黒龍用の最終兵器を用意してあります!もはや黒竜恐るるに足らず!!」
「「「「オオオオオ!!!!」」」」
「ふふふ・・・来なさい、黒竜よ・・・貴様を捕らえて処刑する時が楽しみです・・・」
・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・
砦より飛びたち、教会聖騎士団陣営近くの空から奴らを観察することとしよう。
「ふむ。砦が陥落寸前に追い込まれるだけのことはあるな・・・中々力が入っているではないか。」
しかしこのヨルムンガンドにその程度の戦力では足らぬな。
追い返してくれるわ!
「敵襲!!!黒竜と思しき魔物が単騎で突撃してきました!!」
「来ましたか!こちらの陣営に引き付けるのですよ・・・?」
「はっ!」
おかしい。妙に手応えがない・・・というか、自陣営に攻めこまれているというのに、
誘い込まれているような・・・考え過ぎだろうか?
そんなことを考えながら近くの教団兵を尾で吹き飛ばし、正面の兵を突進で吹き飛ばす。
・・・トールと戦う間に奴の信条が映ってしまったのだろうか・・・
心の中で苦笑しながら陣営の中心を目指す。あの司祭がいるはずだ・・・
次々に襲いかかる教団兵を吹き飛ばしている時、それは起こった。
「!!!!!?」
どうしたというのだ・・・?
力が・・・体に力が入らない・・・
めまいがする。立っていることも辛い。
一体どうしたというのだ・・・?
「くっ・・・」
思わずよろめく。
「今です!!!魔法隊!」
あの司祭か・・・私に神聖魔法など効果がろくにないというのに・・・
そんなことを考えていると、体を凄まじい衝撃が襲った。
「かはっ・・・」
馬鹿な・・・一体何が・・・?
「今です!捕縛なさい!!!」
気が遠くなる中で司祭の声がやけに大きく響いた・・・
「ん・・・?ここは・・・?」
目を覚ますと、薄暗い部屋にいた。
「なんだ、これは・・・?」
これは・・・牢?手足も拘束され、台に寝かされている。
このようなもの・・・引きちぎれるはずが・・・体に力が入らない。
「ん?目が覚めたか?」
「・・・どうやらそのようだな。司祭様をお呼びしよう。」
解らないことは多いが、私は捕らえられたことは事実であるようだ。
しばらくすると牢の番兵が若く、神経質そうな男を連れてきた。
「おや、目を覚ましましたか?おはようございます。」
「・・・おはよう。」
「ほほう、魔物でも挨拶を返せるのですね。これは賢い。」
「・・・馬鹿にしにわざわざ牢まで来たのか?」
「ハハハ、そんなに怒らずともよいでしょう?軽いジョークですよ、ふふふ・・・
おや、何か聞きたそうな顔をしていますね?解りますよ?」
「ここはどこだ?」
「ここはあの砦からほど近い街ですよ。あぁ申し遅れました。私、この街の教会司祭をしております、
ユミルと申します。」
「私はヨルムンガンドだ。もう1つ聞きたい。・・・一体何をした?」
「ふふふ、それを聞いてしまいますか?竜族であるあなたが一体なぜ無力化されているのか?
ふふふ、それは教団の極秘事項ですねぇ〜」
「・・・ならいい。」
「拗ねちゃいました?ふふふ、いいでしょう。これですよ。」
男は何か焦げ付いた札のようなものを持っていた。
「これは・・・?」
「これは非常に珍しい竜封じの札ですよ。ドラゴンスレイヤーなんて呼ぶ者もいるらしいですがね。
別に竜を倒せるわけじゃない。ただしばらくの間無力化するだけです。
そうですね・・・数日ほどでしょうか?」
「そんなものを使ってまで私を仕留めたいとは・・・光栄だな。」
「ええ・・・あなたは自分のことを解っていないようですが・・・
あの砦を守る黒竜の存在はね、この街・・・いやこの国にとって恐怖の象徴なのですよ。
あなたが生きている限り、この国は魔物に対して及び腰になってしまうのです。」
「・・・それは買いかぶりというものだ。」
「さて、どうでしょうね?とにかくあなたは魔王軍でも有力な魔物でしょう。
おびき出して討伐するためにこの札を手に入れるのは大変でしたよ・・・
何せ世界に何枚とないものですからね・・・もしかするとこれが最後かもしれない。」
「そんな貴重なものを使ってよかったのか?」
「ええ。貴重ですがね。それでも神話の怪物を倒せるのであれば・・・ふふふ」
「ほう・・・私を知っているのか・・・」
「竜の中でも特に強い力を持ち、その力は神々に届くとも言う・・・世界蛇とも呼ばれるあなたが相手であればね?
おっと、そうそう聞かれる前に伝えておきましょう。あなたの処刑は明日の正午ですよ。
ここまでおしゃべりが過ぎましたが、冥土の土産というやつです。」
「フッ・・・親切なことだな・・・」
「いえいえ・・・ようやくあの忌々しい黒竜を殺せると思うと気分が高揚しましてね。
寛大なる神に感謝するのですね。」
「フッ、笑わせてくれる。」
「さて、話はそこまでです。明日はとびっきりのショウが見られると思うと胸の高なりを抑えきれません・・・ふふふ」
「楽しみにしておくよ。」
「その取り澄ました顔が苦痛と屈辱と涙に覆われると考えると・・・楽しみですねぇ!!
では最期の夜を楽しんでください。」
司祭が去った後、私は確実に迫りくる死を噛み締めていた。
今まで永劫に等しい時を生きてきたが・・・まさかこんなところで終わってしまうとはな。
あれだけ生きてきたのに・・・あれだけいつ死んでも天命と受け入れる覚悟はできていたというのに。
胸が張り裂けそうだ。
トールに言えなかったな・・・一言謝りたかった。
また一緒に夕飯を食べたかったな・・・部下達とトールと一緒に馬鹿な話をしたかった・・・
殺されるのは仕方ない。私も多くの人間の命を奪ってきた。
しかし・・・一度でもいいからトールに会いたい・・・
また・・・目の前が滲んできた。
私は泣いているのか?悲しいのか・・・
今夜は眠れそうもない・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
次の日、昼近くなって、私は牢から出された。
牢の番兵に引っ立てられ、街の中心部と思しき広場へノロノロと歩いて行く。
その間も浮かぶのはトールのことばかり・・・
広場の中心には鉄格子で囲まれた牢のようなものがあった。
私はあそこに入れられるのか・・・
牢を取り囲んでいた人間たちがこちらに気づいたようで視線が私に突き刺さる。
「あれが魔物か!」「なんという邪悪な視線・・・」「殺せ!」
「なんと汚らわしい・・・」「殺してしまえ!!」
人間たちから石を投げられながら、牢へと引っ立てられる。
いつもの力があれば問題ないはずの投石が痛い。
あぁ。私はこの人間たちに殺されるのだ。
太陽が真上に上った。執行時間だ。
私は手足を拘束されたまま牢に放り込まれている。
一体どうやって私を殺すつもりなのだろう・・・
「執行者を連れてくるのだ!」
「はっ!」
執行者?何をするつもりだ??
「連れて参りました!」
番兵が連れてきたのは。
私と同様手足を拘束された人間数人だった。
身なりからして私と同様牢に入れられていた犯罪者だろうか・・・?
司祭が牢の前で人間たちへと演説を開始した。
「敬虔なる信者の皆様!皆様の祈りが神に届き、ついに神敵である暗黒の竜を捕らえることに成功しました!
この者には断固たる神の裁きを下さなくてはなりません!!!」
「そうだー!」「殺せ!!」
「裁きの執行についてですが・・・執行者は傲慢にも神の御心に逆らいし、罪深き者たちを選びました!」
「はぁ!?」「説明しろ!!」
「皆様、静粛に・・・寛大なる神は罪深き者たちも許します。しかし何も行わない者に神のご慈悲は与えられません・・・
そこで・・・この罪深き者たちが神の裁きを行う・・・神の尖兵となることで神のご慈悲を頂こうと考えています!」
「おぉーー!!!」「殺せ!!」
・・・なるほど、私をとことんまで辱めようというのか・・・
司祭は振り返って近づいてきた。
「と、いうことですよ。」
「下衆め・・・」
「おおっと、怖い。そうそう、ついでにお伝えしましょう。
かの罪深き者たちの罪状ですが・・・罪状に強姦が含まれているものを選りすぐりました。
しばらく牢に閉じ込められ・・・欲望のはけ口のない罪深き者たちに玩具を与えたらどうなるでしょうね・・・?」
「貴様・・・・!」
私は顔が青くなるのを感じた。
ただ殺されるだけでなく・・・弄ばれるということ・・・?
私は人型になってから、人間の男と交わってなどいない。
初めてが・・・晒されての強姦?
嫌だ!嫌だ!!嫌だ!!!
逃げようにも手足は拘束され、体に力は入らない。
恐怖でもがく間にも執行者達はこちらへ引っ立てられてくる。
その表情を見て、私は背筋が凍った・・・
あの欲望にまみれた表情。狼が獲物を見るような捕食者の顔。
怖い。助けて。
誰にも届かない。誰か・・・・
とうとう執行者達が牢に入れられ、鍵がかかる。執行者達は既に手足の拘束を解かれている。
牢の中からギラギラと欲望で光る視線と牢の外から殺意に満ちた視線が私に突き刺さっている。
気を失いそうな恐怖の中、必死でもがいた。
「始め!!!」
掛け声と共に執行者たちが私に襲いかかった。うつ伏せになって抵抗したが、すぐに仰向けにされてしまう。
「へへへ・・・見ろよ、この体・・・」
「美味そうだ・・・・」
嫌だ・・・誰か・・・助けて・・・
「すべすべだぁ〜」
私の体をいやらしく手が這いまわる。
以前男に触れられるのは気が遠くなるほど心地よいと聞いていたが・・・
気持ち悪い・・・嫌だ・・・
「みろよ、こいつ泣いてやがるぜ!」「泣き叫ぶ女を犯すのはたまらないな・・・」
「んんんっ!!!」
脇腹を虫が這うようなな感触が襲う。
「ぺろぺろ・・・甘ぁい!」「ほんとだ甘い・・・!」
舐めている・・・!想像を絶する悪寒が私を襲う。
「もう嫌だ・・・トール・・・」
「ん?男の名前か?」「男がいるのか・・・それにしちゃ初々しい反応だぜ?」「処女か!?」
「やめろぉ・・・」
体をよじって逃げ出そうにもがっちりと腰を掴まれている。
「処女だとすると・・・彼氏を差し置いてもらっちまうのか・・・ヒヒヒ、最高に興奮するぜ!」
「でっかいな・・・」「ああ」「むしゃぶりつきてぇぜ!」
執行者達の視線が胸に集中しているのがわかる。
「見るな・・・!」
「やわらけぇ・・・」「そろそろ脱がすか?」
鱗で覆われた胸に手がかかった。
「やめろ!助けて!トール!!」
・・・私が騙した男の名前を呼ぶ。来るはずもない。あいつはもう『黒竜』を探すために旅だったのだから・・・
「呼んだか?」
12/05/11 01:39更新 / もょもと
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