連載小説
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共に歩むもの…[前編]
「ふ、フランシスカ様ぁ!大変ですぅ!!」

いつもと変わらない日常、平和で静かな夜…ソレは突然の来訪者により終わりを迎えた。

「…何ですって?屋敷の中庭に見たことない男が倒れていた?」

いつも通り執務室で書類と戦っていたフランシスカは突然駆け込んで来たローパーの使用人の言葉に怪訝そうに尋ねる。
入って来たローパーは荒い息を整えながらフランシスカに一礼し、説明を始めた。

「はいっ!見た事ない服を着てまして…あとこの間にフランシスカ様が回収された武器に使われている物と似た物を所持していました!おそらく次元の歪みから同じ世界から引き込まれたと…」

またなの!?しかも今回は全く気付かなかったんだけど…

「ちっ、厄介なのが入り込んだわね…その男はどうしてるの?」

「身体中を怪我してまして気を失ってます。今スライムの生体治療が終わったばかりです。」

ローパーの報告、それは余りいいモノじゃなかった。
異世界の人間がこの屋敷の敷地に血塗れで倒れていたらしい。
エリニアの話によれば遭遇した異世界人は此方を躊躇せずに攻撃を仕掛けて来たそうだ。
敵わないと知ったのちに自爆までしたとか…あの惨状を見れば正気の沙汰とは思えない行動だ。
今回来た者がどんな輩かわからないが…警戒するに越した事はない。

「…私の剣を、その男の様子を見に行くわ。」

「あ、はい!只今…部屋は5号室になります。」

とりあえずどんな人間なのか見極める必要がある、ローパーに自らの剣を取るように指示を出せば立ち上がった。
椅子にかけていたマントを羽織り、扉へと向かう。
ローパーは器用に鞘に納められていた細身の剣を触手で取るとフランシスカに手渡す。

「…あの部屋に暫く誰も入れない様に、良いわね?」

「はい、了解しました。但し何かありましたら直ぐに声をおかけ下さい。」

受け取った剣のベルトを腰に止め、漆黒のマントを翻しながらローパーへ指示を出す。
頭を下げるローパーを横目に未知の存在がいる部屋へと向かった…


……………………

…おーい、もうへばったのか?ハドソンはホントに酒に弱いなぁ…

うるせぇ、お前が強過ぎんだよぉ…うぇぇ…

…こんな所で吐くな、周りの迷惑だ。

…こらクラスト、キツく言い過ぎよ。ハドソンは無理矢理飲まされたのにその言い方は酷いよ。

…う、悪い。

…相変わらずホノカに弱いな、クラストは。しかしルイス、程々にしておけ。拳をお見舞いするぞ?

…すみません隊長調子に乗り過ぎましたから拳は勘弁して下さいお願いします。

…はっはっはっ!分かれば宜しい、飲むなら皆楽しく、だ。解ったな?



…ああ、皆と飲みに行った時の記憶だ。

あの時は辛かったけど楽しかったなぁ…皆で笑いあって、騒いで…
でも…何で今思い出したんだろうか?
あぁ…俺たちのヘリが墜とされたんだったな。
コレが死際に見る生前の記憶って事か…短かい一生だった…

……………………


…ん?あれ…?
ふと目覚ざめた俺、目の前には白い綺麗な天井が見える。
少なくともヘリの天井でないのは間違いない。
体の違和感に気付き体を見れば服は脱がされ、代わりに包帯が巻いてあるのが見える。
誰かが助け出して手当てしてくれたのだろうか?

「…此処は天国か?人殺しが天国に行けるなんてなんか悪りいなぁ…」

「此処は天国でも地獄でもないわ、彼方は生きているのよ。」

のんびりとボヤいた俺へ掛けられた声、俺はゆっくり振り向いた。

俺の寝るベットのそば…そこにある椅子に腰掛けた女性がいた。
黒いマントを羽織り、腰に細身の剣を下げた美しい女性。少し小柄な体からまだ相当若いように見えるが…この人は誰だ?

「あのぅ、そこの綺麗な方。此処は何処で俺は誰なんだ?」

「…彼方が誰かなんて私がわかるわけないじゃない。此処は私の屋敷よ、彼方は私の屋敷の敷地内に怪我して倒れていた…そう聞いたわ。」

むぅ、冷静に突っ込まれた…乗りツッコミぐらい欲しかったのだが…

静かに説明する彼女、ゆっくりとした動作で立ち上がれば真紅の瞳を俺に向け、キリッと睨む。

「う…そうなのか、不法侵入になるなぁ…それは迷惑を掛けた……で、お嬢さんの名前は?俺はハドソン、ハドソン・ビックスだ。」

「あら、名を聞く際に名乗るとは意外としっかりしてるわね。私はフランシスカ・レオドル…この屋敷の主のヴァンパイアよ。あと…お嬢さんはやめて貰える?彼方より遥か長く生きているんだから。」

睨まれ、少し狼狽えながら尋ねる。
お嬢さんという言葉にすこしムッとしながらも自己紹介をする彼女。

しかし今ヴァンパイアって…?

「え、ヴァンパイア?あの血を吸うヴァンパイアなのか?」

「えぇ、この通り…夜の王ヴァンパイアよ。でも襲ったりしないわ、安心しなさい…彼方はヴァンパイアを知ってるようね。」

ニッと唇を釣り上げて笑って見せるフランシスカ、その口からは二本の長い犬歯が姿を覗かせる。
うん、ヴァンパイアに間違い無いようだ。

「知ってるも何も…本や伝承にある程度の知識だけならあるが…実物を見るのは初めてだ。だって空想の魔物だしな……何だかスゲぇ。」

って、ちょっと待てよ?俺はヘリに乗ってて撃墜されたんだよな。
なのに…今はヴァンパイアと名乗る美女と会話してる。

マジで此処は何処なんだ!?

「なぁ、フランシスカさん。此処の事を詳しく教えて貰えないか?ちょっと情報が欲しい…なんか訳わかんなくて頭が痛くなって来たから…」

「…そうね、教えてあげるわ。此処の事や私の知る事を…それで思考の整理をしなさい。」

頭を押さえてパニックを起こしそうな俺を見たフランシスカさんは側に座れば静かに説明を始める。
それを俺は静かに、整理するように聞き入っていた。



…どうやらエリニアの遭遇した連中とは違う奴みたいね…特に攻撃的な人間でもないみたい。

レオドルの事やこの間の次元の歪みの事に対して出来事を詳しく説明する彼女。
ソレを真面目な顔で聞く大男を詮索する様に眺める。

栗毛の短かい髪に温和な顔つき。
体格はかなり良く重戦士向き、しかし抜けた表情とかが戦いなどに全く合わない不思議な人間だ。
…おそらく根本的には優しい人間なのかもしれないわね。

「…っとまぁコレが私の知る全て。わかったかしら?」

私の知る事を簡潔に伝え終わると目の前の若い男は礼を述べる。

「わざわざありがとうな…あぁ、つまりはこの世界は別世界で尚且つ魔物が沢山いて、俺は次元を超えてこの世界に来たって事なんだろ?」

「簡単に言えばそうよ、理解は出来たようね。」

「…理解は、なぁ…」

私の言葉に言葉を濁す彼、どうやら何かまだあるらしい。

「どうしたの?まだ何か納得がいかない?」

「…隊長や仲間の皆は居なかったんだなって思ってさ。辛くなっちまったんだ…」

「発見されたのは貴方だけよ、他には誰も居なかったわ。」

どうしたのかと尋ねる私にボソリと呟く。
その顔には悲しみがハッキリと現れていた、余程大切な仲間たちだったのだろう。

「今迄、どんな戦場も5人で戦って来たんだ。死にかけたり怪我したりした、でもなんとか5人で生き延びて……でも、でも…もう皆は居ないと思うと……うっ、うぅっ…!」

俯いて話す彼の唇が震え、次第に声まで震えて来る。
そして終いには涙を流して泣き始めたのだ。

…大の大人が泣くなんてみっともないわね…でも、気持ちはわからなくもない。信頼していた仲間たちを失うのは、私だって辛いもの…

自分にとっては私を慕う者やエリニアを失う事と同じ事だろう、それなら辛すぎるのも分かる。
涙を流すハドソンを見ながらふぅと溜息を一つ。そして…

ぎゅっ……

「…え?フランシスカさん…?」

気付いたら泣きじゃくる彼の頭を優しく抱きしめていた。
そしてあやすように頭を撫でる…

「辛い時は思いっきり泣きなさい。そっちの方がスッキリするわ…それまで暫くこうしているから…」

「う、うぅ…悪い……フランシスカさんはいい人、いや…いいヴァンパイアだな…」

「私が一族の変わり者だったのに感謝しなさい。この館の主が私じゃなければ彼方なんか見向きもしなかったはずよ。あと!…さん付けはやめて頂戴、何だか憤ゆいわ…彼方の呼びやすい様に好きに呼びなさい。」

全く、外見の割には子供っぽいわね…

自分の胸元で嗚咽を上げているハドソンへ苦笑しながら告げ、ゆっくり体を離した。
もう大分落ち着いたのか彼は少し気恥ずかしそうにしながら頬を掻く。

「わりぃ、みっともない所を見せた……」

「別に気にしてないわ、それより彼方は暫く安静にしてなさい。スライムに治療して貰ったとはいえまだ血や体力など減ったままよ…暫く休んでから彼方の処遇を考えるから。」

静かに告げて腰を上げる私、その時だった。

…え、エリニア様!フランシスカ様が今はだれも入れるなと…
…えぇい、煩い!今はそれどころじゃないのじゃ…!

外が妙に騒がしい、どうやらエリニアが何か慌てて居るようだ。

ばぁんっ!!

勢いよく扉が開かれ、中へ小さな友人が駆け込んでくる。
余程急いできたのだろう、その息はとても荒い。

「フランシスカ!大変じゃ、ティアマトの森に次元の歪みが見つかった……ってあれ?誰じゃそいつは…?」

中に入るなりエリニアはハドソンを見て固まる。一方ハドソンの方は…

「…なぁ、あの変態ロリ仮面は何なんだ?」

エリニアを指差し私へ訪ねて来る、まぁ初見じゃそう思うのは仕方ない…

…露出の高い服装に黒いマント、そして極めつけはヤギの頭骨の仮面…
正直変態と思われても仕方ない、エリニアには悪いけど弁解の余地は無い。

「な、なななななんじゃとぉ〜!?貴様!初見の相手に何ちゅう物言いじゃ!」

「…いや、エリニア。何も知らない人間がみたら間違いなく同じ反応するわ。彼はハドソン、異世界からの客人よ。貴女の会った奴らと違って温和な方だから心配はいらないわ」

怒りを露わにする友人を宥めながらハドソンを紹介する。
そしてハドソンの方を向くと笑みを浮かべて友人を紹介した。

「そして彼女はバフォメットのエリニア。私の無二の友人よ、同じく彼方より遥かに長い時を生きてるわ。そして彼女もまた上位の魔物…怒らせると血祭りに上げられるわよ?」

「え、マジ?そんな凄いのか?」

私の説明を聞き、キョトンとする彼。
そのままエリニアの方をゆっくり向く。
やっぱり信じれないらしい、何も知らないなら…当然よね?

「…この幼女が?」

「お主がワシを敬う意思を見せなければ、ワシはお主を破壊尽くすだけじゃぁ!」

「アホウ、お前は脅迫するなっ!」

どうも信じられないハドソンにズイッと顔を近づけ、低い声で脅すエリニアの頭に拳骨を落す。
パカンといい音が響きエリニアの顔が涙目になった。

「きゃんっ!?ワシをぶったなぁ!親父にもぶたれた事ないのにっ!!」

「…何処の白い悪魔の人よ。全く、妙な雰囲気になったじゃない。」

涙目になって訴えるエリニアに目を細め、呆れた溜息を吐く私。

「ぷっ、ふふ…あはははっ!」

そんな私達のやり取りを見ていたハドソンが笑いを堪えきれず笑い出す。
ちょっと、そんなに面白かったのかしら…?

「…く、ふふふふっ♪何やってるのかしら、私達…うふふ…」

「…あは、うははははっ!」

その笑いにつられるように私とエリニアも笑ってしまう。

ホント馬鹿馬鹿しいわね、私たち…

部屋の中には暫く楽しげな笑いが響いた。


…………………

「…と、いう訳じゃ。だからワシが確認に行こうと思う。しかし観測出来ぬ歪みもあるとはのぅ…コレは他にも迷い込んでいるとみたほうが良いかもしれぬな。」

一通り笑いあったのち、変態仮めn…改めてバフォメットのエリニアの報告を聞く俺たち。

ティアマトの森というのは凶悪なドラゴンが住まう場所らしい…そこに俺や中東のゲリラの連中が巻き込まれたような次元の歪みが出来たそうだ。

「観測した時間からすると…時間は大体ハドソンが見つかったのと同時刻ね、もしかするとハドソンの仲間じゃないかしら?」

エリニアの報告にふと呟くフランシスカ。
実は俺もそんな気がしていた、しかしそれが当たりなら不味い事になる…

凶悪なドラゴンと誰かが対峙する可能性があるからだ。

クラストや隊長ならどうにかなるだろうがルイスやホノカだったらかなり危険だ。

ルイスは圧倒的に火力不足、ホノカは接近戦がてんでダメ。

…そう言う俺も接近戦が苦手、フランシスカやエリニアに会えてホント運が良いとしか言えない。

「まぁワシが確認に行くゆえじきにハッキリとするじゃろう、万が一の事があればあの一帯が焼け野原になるだけじゃしの。助けるかどうかは状況次第じゃな…」

流石に無関係の者を助ける気は無いのだろう。
エリニアは静かにそう告げる。

「それで構わない、出来たらで良い…エリニアの身の安全が第一だ。」

「あら、懇願してでも助けてくれって言うと思っていたけど…少し意外ね。」

少し驚きを見せるフランシスカ。
そりゃそうだ、さっきあんな姿を見たらそう思うだろう。
でもエリニアとフランシスカには赤の他人なのだ、領民でもない俺たちの為に危険に陥るマネはして欲しくない。

「…俺たちは軍人だからな、いつ死んでもおかしくない。だから…皆一応覚悟はしている。」

「ふぅん、さっき泣きじゃくっていた奴のセリフとは思えないわねぇ…」

ニヤリと笑いながらフランシスカは俺を見る、先程とは違う意地悪い笑みだ。
ちょ、おま…ソレを今言うなよ…

「…そうなのか?この大男が?ぶはははっ!想像したら笑いが止まらんっ!くくくっ♪」

「ほらほら、笑うのも良いけど確認に行ってらっしゃい…弄るのは帰ってからでも良いでしょう?」

「おぉそうじゃった…くくくっ…それではいって来る。」

…俺は弄られ要員なのか…?

何だか胃が痛くなりそうだ…

案の定俺の泣く姿を想像し、笑い出すエリニアを宥めるフランシスカ。
一方のエリニアは笑いを堪えながら何やら宙に印を描き始める。
素早く宙を走るエリニアの指先からの光の糸が複雑な模様の様な印を形成。
それが完成すればエリニアの姿は消え、光の印も消滅した。

「…今のは転移魔術よ。長距離用の難しいタイプなんだけど見事ね、流石はエリニアだわ。」

「そんなに難しいのか?」

「人間の魔法使いが熟練せずに使えば間違いなく訳のわからない所に飛ばされるわ。最悪石の中よ…私も多少の誤差がでるもの。」

「…よくわからないがエリニアが凄いと、魔法もそんなに便利じゃないってのは解った。」

フランシスカの説明になんと無くと頷く。
魔法も便利なもんじゃないんだな…化学と一緒か…

「さて、ハドソン。動けるかしら?貴方に渡しておきたいモノがあるのよ…私の執務室に来て欲しいのだけど」

俺に尋ねるフランシスカ、俺は体を起こしてみる。
少し重い気がするが動かすのに支障はない。

「あぁ、大丈夫みたいだ…ちょっと待って…おろろっ!?」

ベッドから下り、立ち上がろうとするが立ちくらみに襲われて膝を付いた。
どうやら予想以上の血を失ってたようだ。

「やっぱり血が足りなかったかしら?仕方ないわね…ほら、私に捕まりなさい」

「す、すまねぇ…余りにも立ちくらみが酷くて……しかし大丈夫か?俺、重いぞ?」

俺の隣にしゃがみ込み、肩を貸す彼女に腕を回す。
華奢な肩を片手で掴みながら大丈夫かと尋ねるが何事も無いように立ち上がってみせた。
呆気にとられる俺にニコリと笑うフランシスカ。

「何、問題ないわ。その気になれば片手で貴方をぶん投げる事だって出来るわよ。」

「…そりゃおそろしい…」

…絶対逆らう様な真似はしないでおこう…
そう心に決めた俺だった。


「へぇ、此処がフランシスカの執務室か…」

小綺麗にされた大きな机に載った書類。そして沢山の書類や書籍が詰まった本棚…

いかにも仕事をする部屋って感じだ。
その部屋にある来客用のソファに座らせて貰いながら俺は部屋を見渡していた。

「見ても楽しくはないわよ?…あとついさっき決めたのだけど、貴方は私の護衛兼執事になりなさい。この館には男は居ない、余り男は入れたくなかったけど…護衛は彼方なら適役でしょう。」

「はぇ?執事ぃ?…俺は兵士だぜ?そんなの無理無理。」

いきなりの発言に手を振り首を振る、今まで戦う事しか知らなかった人間がそんな事出来るのだろうか?

「大丈夫、私が一から仕込んであげる。ソレにこの世界の事…特に私達魔物について詳しく知る必要があるわ。私が側にいれば他の魔物が言い寄ったりしないでしょう。」

そう話すフランシスカは自分の書籍の一つを引き抜き、俺に手渡す。
それはこの世界に住む魔物達について書かれた図鑑だった。
それをペラペラとめくる、中にはイラストと偶然なのかアルファベットに近い文字や単語が書かれていた。

「魔物のフランシスカが何で図鑑を…何とか読めそうだ、まぁご期待に添えれるよう頑張ってみるさ。それじゃお嬢様、まずは何からやりましょうかね?」

パタンと図鑑を閉じ、とりあえず執事らしく振舞おうと背筋を伸ばしてみた。

そして改めてフランシスカを見る。
うん、やっぱりフランシスカは小さいな…いや単に俺がデカイだけなんだが、領主様よりお嬢様がよく似合う。

「その図鑑は親魔物領に住む魔物や人間は皆持ってるわ。自分達の事をより知って貰いたいからね?…あとお嬢様はやめて、領主様よ。もしくはフランシスカ様!」

「いやいや、お嬢様で良いじゃないか〜可愛いし、悪くないと思うぞ?」

やっぱりお嬢様に食らいついて来たフランシスカ。
領主だからプライドが高いと思っていたが…やっぱりお嬢様は少し抵抗があるらしい。

「か、可愛い!?……うぅ…どうしてもやめる気は無いのかしら?」

「もち、こっちの方がしっくりくるし。俺がそう呼びたい!」


俺の言葉に驚き、呆れながらも暫く考える。
そして根負けしたような溜息を漏らした。

「はぁ…いいわ。お嬢様で……」

「うっしゃぁ!ありがとうお嬢様!」

「…全く……それじゃあ、彼方は図鑑を読んで休んで良いわ。明日の昼に街の会議とギルドに向かうからそれまで体力を回復させてなさい。」

「ラジャー!…お嬢様は?」

「そうね、私は…うっ……私も少し休む、ちょっと疲れてるからね。それじゃ…また明日部屋へ迎えに行くわ。」

そう言い残すとそそくさと部屋を後にするフランシスカ。何故か少し顔が紅い気がするがどうしたのだろうか?

多分疲れてんだな、この書類を全て一人でどうにかしてたんだから。

机の上に綺麗に小積まれた書類に目線を向ける。
よし、俺も早く仕事覚えてフランシスカの手伝いを出来るようになるぞ!助けて貰った恩もあるしな!

俺は決意を新たに執務室を後にした…のだがフラついてすぐさま壁に頭をぶつける。

「あだっ!?そういや…まだ余り動けなかったっけ…」

戻るのにこいつは苦労しそうだと苦笑しながら俺は部屋へ向かった。




「…ハァ、ハァ……全く……」

部屋に戻るなりベッドに腰を降ろす。
どうやらハドソンの体に触れたりした事で本能が疼いてしまったようだ。
妙にソワソワする。

「全く、疲れてたりストレス溜まってたら直ぐにコレだから……早く発散させないと…」

よく欲求不満やストレスが溜まりその影響で男の側にいた場合こうなる事もある。
だから自らで慰める事も多くない。その為この部屋には防音の術式が施されている。

だって、他の奴に聞かれたくないもの…聞いたら間違いなく乱交になるわ…

一度だけ何も知らないローパーが入って来た事があったが…私の痴態と嬌声に当てられたお陰で触手攻めを受ける事になった事も…

あの時は大変だった…ホント死ぬかと思ったもの…

立ち上がると扉に鍵を掛け近くに置いてある箱を開ける。
その中は冷気で満たされており、血を入れた瓶を保管出来るようになっている。

エリニアが私の為に作ってくれた魔道具だ。

それからいつも飲む血とは別の…男の血を取り出す。

私が職務の間に飲む血は女の物、味は男の物に劣る。
しかし男の血は職務中には飲めたモノではない。
…だって発情して仕事にならないからだ…

瓶の蓋を外し、私はソレを一気に嚥下する。
口に広がるこの世の物とは思えない甘味な味…

「はぁぁ♪すごぃ…蕩けるぅ…♪」

同時に来る甘い痺れ、フワフワとした快感に表情が緩む。

「…こ、コレだからぁ…飲めないのよ…はぁ♪」

空の瓶を机に置き、フラフラとベッドに向う。
そして力なく倒れ込むとすぐさま服のボタンに手を掛ける。

あぁ、早く!早く弄りたい…!

欲望に突き動かされる手、服のボタンを外してしまえば露わになる私の胸。
サキュバスとかに比べれば全然小さなその胸の頂…硬く勃った乳首を軽く触れる。

「きゃふぅん!あぁん!」

痺れる様な快感が体を走り、私は鳴き声を漏らした。
次は両手で強く胸を揉む…

「んんんッ!はふぅ…♪」

ジワジワ来る快感、ビクビクと体を震わせて快感を楽しむ私。

…あ、ショーツを脱ぎ忘れた……

ふと下着を脱ぎ忘れた事に気付いた私、すぐ様スカートをめくる。
だが時既に遅し、私の蜜壺から溢れ出した体液でお漏らしをしたかの様にショーツはしたなく濡れていた。

「あぁん…もう、ぐちょぐちょじゃない……んっ…」

悪態をつきながらショーツを下げる。
体液が糸を引き、強くなる濃いメスの匂い…それに私の思考は更に溶けていく…
もはや今の私はヴァンパイアではなく、淫らに快楽を求めるサキュバスと同じだ。

「あはっ…凄い、私…凄いエッチな匂いをばら撒いてるぅ……ショーツも、こんなに私の蜜を吸っちゃってぇ…はむっ、ちゅる…んふっ…」

脱いだ自分のショーツの匂いに堪らずしゃぶりつく私、口の中に広がる私の味…

気付けば片手を自分の秘部へと伸ばしていた。
硬くしこったクリトリスを指先でこね、陰唇を他の指で拡げて揉む。

「ふぅん♪…ちゅ、んっ…おいふぃい♪…んふぅ、んんっ♪」

クリトリスからの刺激に体がビクビクと震え、ショーツをしゃぶる私はくぐもった喘ぎを漏らした。

「…んはぁ!…も、もうイきたい!もっとオマンコぐちゅぐちゅしてイきたいよぉ!」

もう我慢の限界だった。ショーツを口から離し、もう片方も秘部へ伸ばす。
そして蜜壺へ指を奥…自分の一番感じる場所へ沈み込ませれば思いっきり掻き回す。

グチュグチュグチュ…!

「はっ、あっ…ひっ!あっうぁっ…!!!!」

掻き回す度に体液が止めどなく溢れ、激しい快感に目を見開き声にならない喘ぎがも漏れた。
チリチリと頭の中が痺れる。
限界、が…くるっ…!

だ、ダメ…っ!もう……!!

「いっくぅぅううううううぅっ!!!!!」

ぷしゃぁぁっ!!

身を強張らせるように大きく身を縮め、限界を超えた私は体を大きく仰け反らせ悲鳴の様な喘ぎを上げた。
吹き出した潮が手を濡らし、シーツにシミを作る。

「はぁ、はぁ、はぁ……」

果てた余韻に浸りながらも荒い息を整えながら蜜壺からゆっくり指を引き抜き、自らの顔の前まで持ってくる。
トロリと粘性の高い体液が指だけでなく手まで濡らし、月光を浴びてヌメヌメと艶かしく光る。
ホント…イヤラしい眺め…

「はぁ…はぁ……はぁ………」

…こうなるから、側に男を置かなかったのにね……
何で…彼を側に置こうと思ったのかしら…?

…まあ良い、彼は…悪くないし、ね…

シーツが汚れるのも気にせず手をそのまま落とし、私は襲い来る睡魔に身を任せた…


………………………


「ふむふむ…なかな面白いなぁ、この世界の魔物は。」

なんとか壁に凭れながら自室…というか俺が寝かされていた部屋にたどり着いた。その部屋のベッドに横たわりながら図鑑をペラペラとめくっていく。

この図鑑から得られた情報は多い。

この世界の魔物は魔王がサキュバス、つまり淫魔が魔王となった為にその魔力を受け全て女になってしまった。
それだけじゃなく性質も淫魔に近いモノとなったそうな。

魔王は人と魔物が殺し合い、お互いに害なす存在としてでなく愛し合い、淫らに交わり合いながらも共に生きる世界を目指しているらしい。

しかしまだそれは上手くいっておらず魔物と人間の間に生まれるのは魔物…つまり女だけになってしまっている。
ソレを魔王も問題視している為自らの力を蓄えているそうだ、その理をぶち壊す為に…

いやはや、凄い奴だなぁ…魔王は。ホント人間より好感が持てるし…

…俺達を使い捨てのコマとして扱う指揮官達を思えば天と地程の差があるしな…

あと魔物と人間が共に暮らすことを良しとしない主神崇拝者達の協会と争いも絶えないと書いてある。

「…その中でフランシスカは人間と共に生きようと決めたのか。大変だっただろうな……ん?」

ペラペラとページを捲りながら改めて恩人の偉大さを感じていたが、ふとページをめくる手が止まる。

その項目はヴァンパイア、フランシスカの種族の項目だ。

ヴァンパイアは誇り高くプライドも高い種族、人間なぞ下劣な民としか思っていないらしい。いやはや本当にフランシスカが変わり者で良かったよ。
しかし…

「何々?人間の、男の血を飲むと発情してしまうのか。魔王の影響でサキュバス化した為かぁ……ん?…気に入った男性を見つけると食料兼召使いにする、か…」

…私の護衛兼執事になりなさい…

ふとフランシスカの言葉を思い出すが首を振る。
いやいや、フランシスカはこのパターンに当てはまらない、そのつもりなら真っ先に吸血しているはずだしな。

彼女は彼女で出来る事を俺にしてくれているのだろう。
自分の側に置けば話してた様に他の魔物から襲われる事もない、尚且つこの場所や生活にいち早くなれる事もできるしな。
しかし…魔物である以上俺が長時間一緒にいる訳にはいかない。
このまま側にいればフランシスカに良からぬ負担を増やしてしまう事になる。
何れか此処を早く出よう…
それからでも充分恩返しできるはずだ。

「…さっきは手伝えるようになりたいと思ってたけどよ…まさか側に居るだけで負担になるとは思ってなかったな…」

それと、皆は無事だろうか…

とりあえず真水とニンニクはタブーだと言う事を頭に入れると図鑑を閉じ、灯りを消すと仲間を思いながら俺は眠りに落ちた…

………………

「さくばんはおたのしみでしたのぅ♪」

茶化す友人の言葉に起こされた私…寝ぼけ眼を覚ますように手で目を押さえる。

「…人の部屋にいきなり現れて何を言い出すのよ、あんたは…」

身を起こすとニヤニヤと笑いながら此方を見るエリニア。
脱ぎ散らかされた衣服、真っ裸の私やシーツのシミ、体液の跡でカピカピの体や部屋に残った発情したメスの香り…まぁ気付かれても仕方ない状況なのだが…

…でも普通は言わないでしょうが…

「悪かったわね、私だって女なのよ。自慰ぐらいしたくなるわ。」

「…ハドソンという奴のせいかのう?」

「さてね、どうだか…何時もの自慰と変わらなかったから関係ないんじゃない?」


身を起こし、汚れた体を洗う為にシャワールームへ向かう私にエリニアはニヤニヤしながらしつこく尋ねるが私は静かにそう答える。
意識しても…特に何とも思わないからきっとそんな事はないのだろう。

「昨晩の報告聞かせてもらえる?…そういえば彼はどうしてるの?もう起きてるかしら?」

シャワールームに入り、シャワーのバルブを捻る。吸血鬼の私が感じたりしないよう真水ではなく特殊な薬品を加えてある、お陰でシャワーで悶えるなんて事はない。
冷たい水が体の汚れを洗い流す快感に目を閉じながら昨晩の事とハドソンについて尋ねた。

「うむ、案の定ハドソンの仲間の可能が高いのう…名はルイスと言うが彼奴も仲間を探していると話しておったからな。因みにティアマトと交戦しておった…まさか勝つとは思わんかったがのう…」

「何?人間がティアマトに勝ったですって?傭兵も命惜しさに依頼を受けなくなった程の恐竜を?」

エリニアの報告は予想外過ぎた、あの蒼炎のティアマトが倒されるとは…しかしお陰で此方の仕事は減った。本当に有難いわ。

「じゃが、今度はこのレオドルに向かっておる。仲間探しなのだろうが何も知らぬ奴らから見れば侵略になるかもしれぬな…」

なんて事、一番嫌な仕事が来るとは…一難去ってまた一難ね…

その言葉に頭が重くなり、シャワーを浴びながら壁に手をつき、思わず溜め息が漏れた。

「しかし昨晩はホント凄かったぞぉ?あのティアマトの乱れ様。ホントメストカゲそのものじゃったよ♪思わず録画しちゃったのじゃ♪」

…ホント、いい趣味してるわ…
奴が知ったら戦争でも起きそうね…しられない事を切に願おう。

「それとハドソンじゃが…この間回収した武器の鑑定及び修理をして貰っておる。彼の世界の武器に間違いないそうじゃ。」


報告は以上、と締めくくるエリニア。
私はシャワーを止めると掛けてあるタオルを取り、体を拭き、体に巻きつけるとシャワールームから出てくる。

「しかし彼奴は凄いのぅ…構造を熟知しておるようでな、あの金属の塊をものの数秒で分解したんじゃ。本人曰く分解し易い様に出来ているそうじゃが…サイクロプスも難儀していたのにのぅ」

「その手のプロなんでしょ、彼は……さて、今日はギルドと街の議会に顔を出して来るわ。勿論彼も一緒にね?」

「ほほぉう!お主にしては側に男を置くのは珍しい…護衛役かのう?」

「それもあるわ、後はこの街の案内よ…此処へ来た以上早く慣れて欲しいからね?」

バスタオルを外し、裸体を晒しながら新しい下着と服を身に付ける。
エリニアには何度もこういう所は見られている為たいして気になったりはしない。
まぁ彼女とはそれだけ仲が良いと言う事だ。

「くくくっ、随分と世話を焼くのじゃな、お気に入りなのか?」

「そうでもないわ、事情を知る私が出来る事をやっているだけよ。」

茶化すように話すエリニア、ソレをいつもの様に静かに返した。

「果たしてそうかの〜♪」

「ホントしつこいわよ、その気は無いと話したでしょうが…ほら、私はもう行くわ。貴女も自分の仕事と婿探ししてなさい。」

相変わらず弄られるのは私みたいね…
溜め息を漏らしながらも服を整え、腰に自衛の剣を下げると扉へ手をかける。

「やれやれ、言ってくれるのう…ワシが部屋を片付けておいてやる。気にせず先に行くといい。」

「…ありがと、それじゃあ行ってくるわ。」

部屋に残る友人へ感謝の言葉を告げ、私は部屋を後にした。



「…お主が婿を取らぬ限り、安心して身を固められんわい……」

仕事…個を殺し公の為に生きて来た友人。
そんな友人を差し置いて幸せなど手に入れたくもないわ。

「…さて、隠しておいた録画球の回収じゃ♪さーて今回はどんな事をしていたのか楽しみじゃのう♪」

此処に残った本当の理由…気付かれにくい位置に置かれ、ベットがよく見える位置に置かれた録画用の魔道具を拾うとすぐさま自室に転送。
シーツや脱ぎ捨てられた服を洗濯所へ転送させると窓を開け、部屋の片付けを始めた…


…………………………

…おお、フランシスカ様じゃ。今日も美しいのう…

…おぅ、領主様!何時も俺たちの為にすまねぇな!コレは礼だ、時間のある時でも良いから食ってくれ!…

…領主様、この間人間の彼と式を挙げさせて貰いました。領主様も早くお相手が見つかると良いですね♪…

中世ヨーロッパ辺りの街並みに近く、いかにもファンタジーな市街地を歩く俺ら。
エリニアに回収したという銃火器、AKMやRPKなどの状態の選別や使えるパーツを集め修理をしていればフランシスカがやって来た。
昨晩話したとおり今日はギルドと議会に顔を出すらしい。そのついでに街を案内してくれるそうだ。
それで今に至る。

フランシスカを見た人達は挨拶や労いの言葉を交わす。中には差し入れを差し出す者や、結婚報告をする魔物の姿もあった。

…しかしフランシスカの人望は凄いな。余程彼らに尽くして来たのか…

市民から声を掛けられ、笑顔で言葉を交わすフランシスカを見つめながらしみじみと思う。

…ママ〜、何だか怪しい人が居るよ〜?

…しっ、ダメよ。見ちゃだめ!…

…何なんだ?あの筋肉モリモリマッチョマンの変態は…


…対して俺の扱いは酷くね?俺、変態じゃないよ?

フランシスカの少し後ろを歩く俺に向けられた対照的な視線に頭が痛くなる。
まぁ角刈りにグラサン掛けた筋肉質の大男がタキシード姿でRPKを持っていればいれば…普通はそんな反応するのか?
俺がタキシード姿なのは軍装では目立つから、尚且つ貴族の付き人には改まった服装が良いだろうと言う事なんだが…

「だから言ったじゃない、サングラスなんて掛けるから余程変に見られるのよ…」

どうも市民の声がフランシスカに聞こえて居たらしくやや呆れ顔でそう話す。
流石に変態と一緒に居ると言われたくないからだろう。

いや、だから変態じゃないんだよ?俺は…

「いや、お嬢様。護衛にはサングラスは必需品なんだって…しかし俺より遥かに強いお嬢様に護衛なんて必要なのか?」

なにせ目線を読まれにくい、視線を彷徨わせてもサングラスをつけていれば目の動きが読めないのだ。
つまり、怪しい奴にも気付かれにくく色んなトコを警戒できる、しかも強い閃光も軽減出来るという優れものなんだが……そもそも護衛の必要あんのか?

「…私はヴァンパイアよ、図鑑を読んだなら自ずと分かるはずだけど?」

「…あぁ〜日の光を浴びると普通の女性ぐらいに力が落ちるんだよな。すっかり忘れてたわ…」

「…………貴方が真水とニンニクを持ってこない事を切に願ってるわ…」

そんな妙なやり取りをしながら街並みを歩いていれば広場へとでる。
この街の中央、大きな噴水がある綺麗な広場だ。
子連れの魔物やカップルなども多いその広場の前、そこに立つ大きな建物。
おそらくあれがフランシスカの話していた中央議会だろう。

「まずは議会に行くわ、まぁこの間の決定稿を許可した書類を出しに行くんだけどね。その後にギルドにティアマトの依頼を取り消しに行く…議会の方々とのやり取りの間は暇でしょうから外でコーヒーでも飲んでて。」

「イェッサー、それじゃ俺は近くで待機してる。」

大きな入り口の前まで来るとフランシスカは俺の空いた手を取ると掌に銀貨を数枚乗せる。
そして貰った差し入れを俺に預け、踵を返すと俺に気にせずそのまま建物の中にはいっていった。
その後ろ姿は先程までの姿相応のものとは違い、威厳に満ち溢れた姿に見えた…

「可愛い姿なのにあの気迫と威厳…あれがヴァンパイアなんだろうな。」

一人残された俺はサングラスを外し、ポツリと呟きを漏らす。
さて、此処からは自由時間…とはいえ、何もしたい事は無い。

RPKのスリングを持ち、背に背負うと広場をブラブラと歩いてみる。
実は俺のメイン装備もあったのだが、流石に護衛に使えないと判断して置いてきた。
こいつはAKMと弾薬やマガジンの互換もある。今ある武器で気楽に撃てるのはこいつぐらいだ。

…大体俺達は陸軍と共同で作戦に当たるつもりだったから向こうの仕様に合わせてたんだよなぁ…補給しやすい様に…

結局意味なかったなと溜め息を漏らしながらも辺りを見回した。

…大好き、何時までも側に居てね?
…勿論さ、マイハニー♪

…ずっと、ずーっと一緒だよ。お兄ちゃん♪
…ええっと、お兄ちゃんはまずく無いかい?一応僕のお嫁さんなんだからさ…

…ウホッ、いい男…
…やらないか

様々なカップルがいちゃ付いているのがみれる。
なんかそれ以外が見えた気もするがそこは無視したほうが良いだろう…俺はノンケなんだ、関わりたく無い。

…しかし独り身は中々辛い光景だな、でも平和でいいこった…

今まで居た銃弾の飛び交う戦場。それとは違い各々が恋と愛に生きる世界…

…ホント、魔王は凄いな。

改めてこの世界の凄さと魔王の影響力の強さを感じていた。

「…お、彼処にオープンテラスのカフェがあるな。丁度中央議会もよく見える…此処でのんびりするか。」

そんなこんな考え事をしながらぶらついていた俺の目にふと目に付いたカフェ、看板の牛のデフォルメされたイラストが可愛い店だ。

「…いらっしゃいませぇ〜♪注文は何にしましょうかぁ〜?」

その店の一番見晴らしの良い席に座ると奥からはのんびりとした声が出迎えてくれる。

店のカウンターからひょっこりと現れたのは頭に小さな角を生やし、垂れた耳とけしから…豊満な胸を持つ女性。
たしかホルスタウロスとかいう魔物だったか、人と共に生きる事を選んだミノタウロスの亜種とか…とても温厚でミルクが美味いと書いてあったなぁ…

図鑑に乗っていた内容を思い出し、ゆったりと近寄って来る女性を待つ。

「お待たせしましたぁ〜。それではご注文をどうぞ〜♪」

「そうだな…カフェオレを一つ。」

実は俺、ブラックコーヒーが苦手なのだ。何故か腹が痛くなる…
何時もミルクと砂糖を多めに入れるか、カフェオレしか飲まない。

…お子様だと笑わないでくれよ?

「畏まりました〜♪少しお待ちくださいねぇ〜」

「あぁ、ゆっくり待たせてもらうよ。」

パタパタと奥へ走るホルスタウロスを見送りながら背もたれにゆっくり体を預ける。

そして運ばれて来たカフェオレの美味さに驚きながらも俺はのんびりとした時間を堪能した。



「…次はギルドよ、此処は傭兵がわんさか来てるし正直柄がいい連中ばかりじゃないわ。多少何か絡まれると思っておきなさい。」

議会が終わり、出入り口から現れたフランシスカを出迎える。
そして歩きながら差し入れを食べ、そのままギルドへ向かうらしく来た道とは別の道へ進んで行く程人は減り、色々と装備した傭兵などとすれ違うのも多くなる。

「…ラジャー…」

「正直、此処からが護衛の本番よ。傭兵は素性の解らない奴等ばかり、殆どエリニアが炙り出してるけど万が一逃れていた協会の犬がいる可能性があるわ。気を抜かない事ね…」

「了解、お嬢様。」

サングラスを再び掛けるとRPKを手に持つ。
そしてフランシスカの少し後ろから辺りを警戒しながら人気の少ない場所を歩いていく。

なるほど、こりゃあ気は抜けないな…

辺りから感じる此方を見る視線、それは先程感じていたものとは違い警戒の色が感じ取れる。

改めて決意したその時、フランシスカの足が止まった。

目の前にあるのはそこそこ大きな建物。
中央議会は美しい石材で出来た建物だったが、此方は木材で作られた質素な作り。しかし頑丈に作られていてちょっとやそっとで壊れそうにない。

その建物の看板にはギルド、レオドルの文字が見える。

此処がギルドか…如何にも野郎どもの溜り場って感じがするな。

「…行くわよ、用意は良い?」

「…何時でもどうぞ、お嬢様。」

訪ねるフランシスカに俺はRPKを軽く揺らして同意をつたえる。
フランシスカは戸を開き、中へと…

「あらーん♪フランシスカちゃんじゃないの!お久しぶりね、元気にしてたかしらぁ♪」

「ヘブっ!?むぐぐっ!!」

入った瞬間フランシスカを出迎えたのは姉御口調でアフロでガチムチで尚且つ黒いレザー服のおっさんの胸筋だった。
フランシスカをみるなりその華奢な体を暑っ苦しい体(大柄な俺が言うのも何だが…)で抱き締める。
フランシスカはその中でもがくが筋肉の壁は逃がしてくれない。

その光景に唖然となるだけの俺…ってか、この人誰?

「…あら?いい男じゃない♪フランシスカちゃんもやるわねぇ…こんないい男捕まえるなんておじさん大喜びだわぁ♪」

俺に気付いたおっさん、此方をみれば妙に色っぽい瞳で此方をみるなりフランシスカを開放する。
何、このキモい人…凄く怖い…

「…けほっ…ダッチ…いい加減私を見るなり抱き付くのはやめてくれない…ホント、気分が悪くなるから……あと彼は私の伴侶じゃない、唯の護衛よ…」

「あら、可愛い娘にはそれ相応の愛情表現してあげないと♪…それにしても…今まで男を側に置かなかった貴女が男の護衛、ねぇ…うふふ〜♪」

「ハドソンです…はい。」

やっと解放され、げっそりしたフランシスカはダッチというおっさんに抗議する。
ついでに俺も距離を置きながら自己紹介をした。
俺まで抱き付かれちゃたまったものじゃない。

「あら、ならおじさんも彼を狙えるって事かしら?それは嬉しいわねぇ♪」

「…お好きにどうぞ、私は止めないわ。」

「あらホント?今晩どーお♪」

「マジ勘弁してくださいお願いします…てかダッチさん、あんたは何者?」

ウインクして誘って来るおっさん、いやマジ本能的に嫌だから勘弁してくれ…ってか、フランシスカも其処は止めろっ!

話をそらす為、俺はダッチさんについて尋ねた。

「…彼はこのギルドのマスター、なりといいこの性格といい変人だけど仕事はきっちりこなしてくれる方よ。」

「そーよ、お兄さん。アタシはダッチ、ダッチ・レイよ。宜しくね♪」(キラッ☆)

ヤベェ…凄い寒気がする……

星を飛ばしてウインクするガチムチのおっさんにドン引きしながらもギルドの中を見回す。

中は軽い酒場の様にもなっている、おそらく此処で一杯やりながら仲間を募ったり疲れを癒したりしているのだろうか…?

野郎どもばかりかと思えばそうでもなく、図鑑で読んだリザードマンやミノタウロス、サラマンダーなど交戦的な魔物もちらほら見れる。


…アレが此処の領主?何だが随分と若い魔物さんね。ヴァンパイアはとてもプライドが高いって聞いてたけどそう見えない…

…でも貴方よりは年上よ。あの子が変わり者なのもあるけど相手があのダッチだからよ、それに昼間は唯の女の子なの。ヴァンパイアはね……


ふと聞こえたフランシスカについてと思われる話し声…すぐさま其方へ視線をサングラス越しに向けた。
一応警戒するに越した事はないからな。

声が聞こえた方向…少し離れた所のテーブル。其処で話をする美女とフランシスカと同年代に見える若い女性がいた。
お互い頭部に角、腰に羽、尻に尾を持つ事から図鑑の始めに乗っていたサキュバスだろうと思われる。

こんな処にサキュバスなんて居るのか…何だか意外だ。ん?

だが…もう一人、あの若いサキュバスは何かおかしい。
控えめな胸を隠す短い黒いタンクトップに深紅のジャケット。黒のショートパンツにブーツという露出の高い服装は図鑑に書いてあったサキュバスの好む男を誘う為のものでなく、動き易さを追求したようなもの。
戦いを意識したような、そんな姿だ。
そして…身体中にある紋様、もう一人のサキュバスにもあるがそれとは形式が異なり、規模も違う。
尻尾も少し太い…気がする、個体差があるだろうがあのサキュバスよりは全然太い。

何より…ポニーテールの長い銀髪に少し鋭い青い瞳。それが何かに引っ掛かる…

…あれ、クラストの特徴にそっくりなんだよな。

そう、俺の仲間の一人、クラスト・ブレイブスに似ているのだ。見た感じが何となく……

…貴方だって初見に抱き付かれてあわあわしてたじゃない?可愛かったわよ〜♪
…だ、だっていきなりセクハラ紛いな事されたら驚くでしょ!?あと少しでカウンター入れる所だったんだから…!

サキュバスに茶化され、感情的になりながら反論する若いサキュバス。
…いや、気のせいだろう。クラストは男だし、あんな感情的になる奴でもないし…

「……ハドソン、どうしたのかしら?さっきから何処か見ていた様だけど?」

「きっと新入りの娘に見惚れていたのよぉ♪あの娘キュートで凄く可愛いからねぇ…フランシスカと同じぐらい気に入っちゃったもん♪」

さっきから黙って二人を見ていた俺に尋ねて来るフランシスカ、それを茶化すおっさん。

「少し、友人に似てて…俺の気のせいみたいだ。気にしないで本題に入ってくれ。」

「…わかったわ。今日来たのはね、ダッチ…依頼に出していたティアマト討伐依頼は消してくれない?その必要はなくなったから。」

俺の言葉にチラリと俺が見ていた話すサキュバスの二人を見たのち、フランシスカはダッチに本題を伝える。

「あらん、ティアマトちゃんは討伐されちゃったの?色を知る前に死んじゃうなんて可哀想…」

「…誰も死んだって話してないでしょ、ティアマトは戦いに負けて…本能に逆らえず男を襲って女に目覚めたらしいわ。これで他の魔物娘と同じよ…しかし、流石に何のお咎め無しには出来ないわ。」

「あら、素敵ねぇ♪やっと王子様があの子のドラゴンを倒してあの子のお姫様を解放したのね。ん〜よかったわ〜♪…でも、死罪だけは勘弁してあげてね?」

「私も出来るならそうしたい、しかしティアマトの犯した罪は重いわ…周りが認めないならせざるを得ないわね。」

「やぁん、折角幸せを掴んだというのにぃ…」

「…沢山の人の幸せを奪ったのも事実。何らかしらの罰は必然なの。」


悲痛な表現をするおっさんに対してフランシスカは冷静に告げる。
確かにそうだ、この地方を治める者として罪人は裁かねばならない。
今まで集落を襲ったりしていたのだ、彼女は領主として当然の対応を取っている。

…恋人が可哀想だが、仕方のない事だ。

「とりあえずそういう事、ティアマトの討伐依頼の取り消しは任せたわ。」

「…わかったわよぅ、なるべく温情を与えてあげてね?」

「言ったでしょう、努力はすると…それじゃハドソン、行きましょう。」

「了解しました、お嬢様…それじゃ、また。」

まだ納得してないおっさんへフランシスカは静かに告げる。
用は済んだら長居する必要はない、フランシスカは踵を返して俺に戻るよう命令した。

「またいらっしゃいな♪お酒の一杯奢ってあげるから♪またね、フランシスカちゃんにハドソン♪」

そんな俺らを笑顔で見送るおっさん。

…そのおっさん声に反応する若いサキュバスは立ち上がり、すぐさま扉へと駆ける。
その時には既に俺は背を向けていた。

「ハド、ソン…ホントに、ハドソンなの?」

…その呟きと、胸元に輝くドッグタグに俺は気付かなかった。

11/07/05 06:57更新 / RPK74
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■作者メッセージ
この物語のほぼメインになりますフランシスカさんのお話です。
一回で終わらせようと思ったら随分と長くなりそうなので二つに分けました。

最後に出たサキュバス?は誰なのか、レオドルに向かうティアマト達とはどうなるのか?
実は作者もわからなかったり…勿論冗談ですがティアマト達は後編で消化予定です。

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