連載小説
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事の始まり…
魔王が代変わりして一世紀、人々と魔物はお互いを害する事無く愛し合う世の中となった。
しかし未だに主神を祀る教会とは争いが耐えず、魔物に対しての偏見が抜け切っていない。それでも共に生きようとする者達がいる…そんなこの世界の一都市、レオドル。

ジパングとの貿易港を持ち、様々な親魔物都市との貿易路を持つ交易都市でレオドル領を治める首都である。
出来て60年程の若い都市であるが移住した魔物達のもたらす技術や術式、労働力によりすぐさま中規模ながら裕福な都市へと成長し、現在は数ある親魔物領の中でも割と生活しやすい都市へとなっている。

その都市の離れにある山に立つ屋敷。
レオドルを一望でき、目立つ位置に立つ領主の館である。
美しい白い壁で出来た屋敷の一角。領主の執務室では一人の女性が報告書や議定書と格闘していた。
美しい金色のショートボブ、少女と女性の中間にあたる身体をもつ美女…レオドル領主のヴァンパイア、フランシスカ・レオドルは頭を抱えて溜息を漏らす。

「レオドル領最北端に住まう蒼炎のティアマトにより付近の集落の被害甚大、対策を検討して頂きたい…か、全くあの時代遅れの恐竜は何をやってるの。もう…」

地方守備隊の報告書に書かれた文字に呆れたように溜息を漏らす。

蒼炎のティアマト…かつての旧世代に魔王軍で暴れていたドラゴンだ。
街を焼き、人を喰らい、破壊の限りを尽くした竜。
単純な力や魔力なら上位陣に入るだろう。
そのティアマトが最近レオドルの最北端にある古城に住み着いたのだ。
魔王が変わり、魔物娘化した事で力は多少は落ちたのだが…激しい気性は相変わらず。

これ程旧世代の気性を残した魔物は珍しい、だが平和にいきたいと願う者達にとっては厄介極まりない存在だ。

同じ魔物としてティアマトの存在が魔物の評価を下げる事にもなるため頭が痛くなる…

こればかりは好ましくない、私は人と共に生きると決めたのだから。

「仕方ない、私達魔物の信用を失うわけにはいかないもの…近々守備隊の先鋭の魔物達を送りましょう。私自ら狩りに行きたいけど流石に領主不在はまずいものね…」

自分が行けば封印や無害化は可能性だろうが、立場上そうはいかない。
教会や反魔物領の奴らもこの都市を奪おうと目を光らせてるのだ、私が不在となると忽ち勇者や大軍を送り込むに違いないだろう。
書類に兵を用意するとサインを入れ、ソレを封筒へと仕舞った。

「ふぅ…それにしても此処も随分大きくなったわね、私や他の仲間たちと作った時はまだ小さな街だったのに」

窓の外から見える人々の営みの灯りを眺めながら感慨深く呟きを漏らす。

魔王が変わり、人と争う事も無く生きれる様になったと解った私は同志を集い、此処を作った。

人と魔物が共に暮らす都市、お互いに平等で幸せになれる場所を…

まぁ同族からは一斉に非難や下劣な言葉を送られたけど…
私は人が居なければ今の我々は存在できない事を早々に受け入れた。
私は変わり者だったから素直にそれを受けいれる事が出来たが…他のヴァンパイアが皆そうではないのが現状。
それでも人と魔物が共に手を取り合い生きて行く為の場所を作ろうと思った。

この都市が模範となれば、他の反魔物領や偏見をもつ人間も考えを改めるきっかけになる。
そう信じているのだ。

まぁ…その道のりは簡単にではなかったが。
絶え間ない勇者の襲撃…
魔物を恐れる人々への説明だの、好色や気性の荒い魔物達への説得だの色々あったりしたものだ。

法整備の際に多数の魔物からも反発があったのも良い思い出ね…そりゃ魅了や襲う事を禁じたら非難が集中するのはわかってたけど。

色々と昔を思い出しながらメガネを外し、机の上に置いてある血の入ったグラスを手に取れば一口飲む。
体にしみ込む血の味、この世のどんな物より甘美な味に思わず溜息が漏れた。

「ふぅ…生き返る…血は美味い、しかも人と共に生きれば飲み放題なのよねぇ」

「…其れがお主の本音ではなかろうな?」

どこからともなく聞こえる幼い声、それに動じる事なくまた一口飲む。

「んっ…いきなり現れないで頂戴、私じゃなければ貴女に魔術ぶつけてるわよ…それにそんな訳ないわ。人々が居なければ私達は増える事も生きる事も出来ないのだから…所でどうしたの?エリニア」

休憩しようとゆっくりくつろいでいたフランシスカへの突然の横槍。
突然の来訪に溜息をつき、視線を部屋の隅へ向ける。
その先にはヤギの角を持ち、露出度の高い衣装に身を包んだ幼女…
バフォメットと呼ばれる魔物のエリニアが立っていた。
ただ他のバフォメットとは違い髪をポニーテールにしており、山羊の頭骨を仮面の様に付けている…本人曰く個性だそうだ。
彼女はこのレオドルにあるサバトの支部の長、レオドルを作ったメンバーの一人でスパイ対策や各都市のサバトを通じて諜報活動を行っているレオドルの闇の管理者…そしてフランシスカの無二の友人である。

「正論じゃな、流石はヴァンパイアの変わり者じゃのう……実は幾つか報告があっての、その為に来たんじゃ」

「仲間からもよく言われるわ、人間の様な下等種族を同類と見るお前は同族ではないとまでね?皆プライドが高すぎるのよ、時代に合わせて柔軟にいくべきだわ…それで、報告は何?また私を狩ろうと勇者ご一行が派遣されたとかかしら?」

「しかし低すぎるのもどうかと思うが……うむ、ご一行は確かに派遣されたが我々サバトが捕獲したわ。只今魔女達のお兄様に相応しい様に調教中じゃ♪……其れでなくてな、実はなサバト本部からの連絡なのだが…なんとレオドルにリリム様が来られるようじゃ」

「リリム様が…で、どのリリム様が此方に?」

エリニアの言葉に目を細める。どうやらリリムが来るのが好ましくないようだ。

「ツヴェルフ様だという話を聞いておる。下手に人間を魔物化する様なお方ではないが…他のリリムと同様に好色には変わりないじゃろう。恐らく婿探しに来たのだろうな」

エリニアの報告、それを静かに聞くとふぅと溜息をつく。
リリムは魔王の娘、我々と比べ物にならない程の魔力を持つ彼女等が下手に魔力を溢れさせれば忽ちレオドルぐらいは魔界となってしまうだろう。
それ程膨大な魔力を持つリリム、しかしコントロールしている分はダークマターよマシだと思える。
この都市を中立に保っておきたいフランシスカにとってはちょっとした問題である。
何れかは魔界化するがまだ今は早過ぎる…刺激しないようにしなければ…
本人にそんな事言ったら粛清されるかもしれないけど。

「…早く婿が抱えて見つかると良いわね。この都市的に」

「ふむ、まったくじゃな。まぁワシ的には別に魔界になってもかまわn…冗談じゃよ、そう睨むでない」

クックックッと笑うバフォメットをフランシスカはキッと睨みながら大きな溜息をつく…
こんなろくでもない冗談を言う目の前の友人だが、誰よりも私を裏から支えてくれている。
協会側のスパイの対策や対処だってそうだし、他の都市や国の情報を手に入れてくれている。
それは感謝してもしきれないぐらいだ。

「…疲れておるな、フランシスカ。顔が酷いぞ?」

不意に此方の顔を覗き込む様に見てくるエリニア、突然の事に少し私は驚く。

「い、いきなり何よ…貴女の顔よりマシよ…私は沢山の生活を預かる身、最近は街の議会の者達との会議に引っ張りだこでロクに休んで……ってそういば幾つかの報告があるって言ってたわね。まだ何かあるのかしら?」

最近は新しい交易路の整備や街の治安など、様々な問題やら要望やらを耳に入れる為に昼は議会へ。
そしてその情報や案を元に法案や整備企画などを夜纏める…そんな日々の連続だった。
確かに少し疲れているがソレを茶化すようにしながらエリニアに尋ねる。

私はこの都市のトップだ、いくら友人とはいえ弱身を見せるわけにはいかないのだから。

「はぁ、それならワシに話せば良かろうに…議会の一つ二つ、ワシが変わりに出たんじゃが。大体のう、お前は全て自分でやり過ぎじゃ!もう少しワシらを頼らんか!」

「お断りよ、私の義務を友人に押し付ける気はサラサラ無いわ。それに貴女が議会に出たらサバトの動きやすい様に持ち出すでしょうが…で?残りの報告は?」

殆ど説教の様に私へ告げるエリニア。
殆ど説教の様にみえるが疲れた私を気遣ってこう話してくれる。
こう説教するのも私の為、ホントにいい友人…その気遣いだけ受け取るわ。

ありがと。

「馬鹿者、私も同じ古参じゃ。少しは頼れい。妙な所でプライドが高い奴じゃ…で残りの報告のじゃが、レオドルの郊外で最近次元の歪みが観測されてのう。確認されたのは街道の南とこの城の北側3レード(大体3キロ)の距離じゃな。魔女に確認に向かわせたが特に異変は見当たらなかった…」

「次元の歪み?私は気付かなかったわ。どういう事かしら?」

エリニアの言葉に首をかしげる、この城から3レードの距離と言った遠くもなし近くもない距離。
そんな距離での時空の歪み程の異変に気付かない筈がない。

「気付かないのも無理はない、規模的にはほんの少し、ピンの針先以下の歪みじゃよ。微細な魔力や次元の異常を感知する魔道具でやっと確認出来たんじゃからな」

「ふぅん、何かの予兆かしら?それとも協会側の魔道兵器?警戒しておいても損はないわね」

「そう言うだろうと思って既に魔女達に警戒させておる。各地方のサバトにも連絡しておるから何らかの動きがあれば…む、何じゃ?」

「…これは……城の近くの森の方ね、見て見ましょう」

不思議がるフラシスカにワシも気付かなかったと苦笑し、エリニアがフランシスカの机に座った瞬間。
ピリッと空気が割れるような…妙な力を感じて二人は勢い良く立ち上がる。
力を感じた方の窓を開くとそこには…

「な、なんじゃ…あれは…!?」

「まさか…次元の歪み?いや、もはや亀裂だわ…!」

二人の目に入ったのは揺らぐ世界に現れた亀裂。
そこから輝きが漏れ、強い閃光を放てば強い輝きと共にソレは消え去っていた…

「次元の亀裂だなんて、どういう事?…誰か高位の転移魔法を使ったの?そんな気配は感じなかったけど」

「わからぬ…ソレばかりは確認せねばな。ワシが確認してこよう、この事象に非常に興味が湧いからの」

「正気?貴女も見たでしょう
、何かが此方に来ている可能性があるわ。貴女が先に動いて何かあったらどうするのよ?」

「他の者を向かわせてもワシやフランシスカのような強者はおらぬだろう?何かしら被害が出る…ならば直々に確認した方が早いわ。お主だって解っておるだろう?…それに、危険ならばそれを考えるだけでワシはワクワクが止まらぬ♪」

「はぁ…悪いクセが出たわね…確かにね。言っても聞かないだろうし私は此方側から事態の収集にあたる事にしましょう、貴女に魔王様の加護があらん事を…」

ワクワクしている友人顔、こうなればエリニアは絶対いう事を聞かないのだ。
溜息を漏らしながらフランシスカはやれやれとを首を振る。
そしてエリニアはマントを翻し、部屋の扉を勢い良く開けて部屋を後にした。

…口元には不気味な笑みを浮かべて…



「はぁ…見回りも楽じゃないなぁ…さっさと終わらせて酒飲もうぜ〜?」

「…だとしても見回りをやめる訳にはいかない。私達は他の者の生活を守る義務がある…仕事はきっちり済ますぞ?」

「あいよ〜。ホントつまんね〜けど街に住む奴らの為だからな〜」

森の中を歩く二つの影…一つは重厚な鎧に身を包み、一つは服と呼べるどうか際どい服装をした女性。
街を守る守備隊のデュラハンとオーガだ。
二人は守備隊のエース、最近活発化した野盗と守備隊との衝突が多発した為に出る事になった。
まぁ片方は暴れたいが為、片方はこれ以上の狼藉に耐えられなくなった為だが…
しかしつまらなそうに文句を垂れるオーガを静かに宥めるデュラハン、オーガはつまらなそうではあるが再び見回りを再開した。
何人もの衛兵が野盗と遭遇し交戦しているのにも関わらず、二人は未だかつて遭遇した事がない…タイミングが悪いのか避けられているのか…それは解らない。
その為にオーガは退屈しており、デュラハンは中々野盗に遭遇しない為気を抜けないでいた。

「なぁ、奴らきっとルートを変えたんじゃね?他の奴らと何度もやり合ってたそうだしな」

「…それも考えられるな。もしくはこの地域から撤収したか…むっ!?」

その時である、ふと二人の足元が揺らいだ。
立ち眩みに近く、しかし激しい揺れの様なモノ…経験の無いものだ。

「んなぁ?!いっ!地震かっ!!?」

「否っ!アレをみろ!!」

突然の事に驚いたオーガは膝をつき、デュラハンは剣を杖代わりにさして前を見る。
すると余りにも奇妙な光景に二人は固まった。

目の前には歪む景色、そしてソレがひび割れるように亀裂が入ればビキビキと音を立てて光が溢れる…其処から見えたものは…

「さ、砂漠だと!?此処は大陸の端だ、砂漠は此方から正反対の位置にあるはず…!」

「んな事はどうでもいいっ!また何か起きるぞ!!クソっ!!」

「「うおぉおおお!?」」

亀裂から映る景色に目を見開くデュラハン、しかし何かを察したオーガがすぐさま視界を覆うとデュラハンも目を閉じると共に亀裂から眩い輝きが辺りを白く染めた。

「くっ…何なんだ…今のは…?」

「アタシも知るかっての、ん?…おい、アレは…」

「どうした…な?!人だと?」

光が収まれば光に眩んだ目を押さえながらデュラハンは剣を引き抜く。しかし何かを見つけたオーガ、その声に反応したデュラハンは目を見開く。
其処にいたのは砂漠地帯に住む人間だった。自分が知る者たちと多少衣装が違うが似た様な服装なので間違いはない。ただ一つだけ異なる物がある…

手に持つ、金属と木や未知の物質で出来た長い武器…なのか?武器なら見た事のない武器だ。
よく見れば装備自体も見たことないもの…なんなんだあれは?

「おいおい…何だありゃ……彼奴ら何だか訳わからない事言ってやがる。此処にきた事に戸惑っているらしいな」

「…聞いた事のない言葉だ。こんな言葉はこの世界に聞いた事がない……っ!?気をつけろ、奴らは我々に襲いかかる気だ!」

「お、同じ読みじゃねぇか。彼奴ら…何かを殺した後だ……血の匂いをプンプンさせてやがる。きっとやばい奴らだな…」

驚き、慌てふためく男達を見れば警戒する二人。そして奴らの一人が此方を見ればすぐさま皆が此方を向き……

「来るぞ!応戦準備しろっ!」

「おうよっ!…ぐぁあっ!!?」

「ぐぅぅっ!!?」

此方に武器を向けた瞬間に身構えた二人…その二人を大量の鉛玉が襲った。
回避しようと跳び上がるオーガの肌を貫き、デュラハンの装甲を閃光と共に削る。激痛に落ちたオーガを救おうとすぐさまデュラハンは傷付いたオーガの盾になるように盾を構え立ち塞がる。
銃弾の衝撃に身体が痛み、衝撃と痛みに目の前が霞む。

「クッ!なんて衝撃だっ!!ルカ、大丈夫かっ!?」
「かはっ…じゅ、銃…なのか?アレは…」
「喋るな!お前の傷は深い!此処は一旦、ぐぅ!?クソッ!!」

オーガは腕や腹部などに傷を負っている。頑丈なオーガにダメージを与える銃…これ程迄に異常に連射がきく銃なんて聞いた事がない!
コレは明らかに不利だと感じたデュラハンは退こうと身を引いたその時、焼け付く痛みが足に走る。装甲の隙間を撃たれたらしい、つまり関節をやられたのだ。
苦痛に表情を歪めそのまま膝をつく…

「まずった…こりゃ絶対絶命じゃね?…ゴホッ…」
「しっかりしろ!何としてでもお前を逃がして…」
「ばか言え…お前が、いけよ。アタシより…軽傷だろう?」
「…足の関節をやられた、私もすぐには動けん…」
「…あはは、手詰まり…て事かい?」
「だな、だがデュラハンの…騎士の意地を奴らに見せてやる!」

膝をつくデュラハン。背後のオーガは身を起こし、その背にもたれかかる様にして尋ねる。
それに剣を構えて答えたその時、緑色の閃光が二人の前…人間達の前に弾けた。


「何故だ、此処は何処だ!?」

「我々は聖戦から凱旋していた筈だ、何故森にいる!?」

彼らはとある中東の狂信者、その戦士達が聖戦という名の無差別攻撃を行った帰りだった。突然の閃光に目を閉じ、目を開けば見た事の無い森の中…訳のわからない出来事に混乱する。は

「お、おい!アレをみろ!」

「何だ…あ、あれは何だ!?化け物だっ!」

「頭から角を生やしているっ!ソレにあの卑猥な服は…悪魔だ!ヤツは悪魔だ!!」

「我々で討ち取るぞ!悪魔を打ち取れば我々はアッラーの戦士として認められる!これはアッラーの試練なのだっ!!」

デュラハンとオーガを見つけた一人の兵士が指差す。それを皆が見ればオーガの容姿に驚く兵士だが、鼓舞する兵士に乗せられた兵士は次々に武器…AKMやRPK(AKの分隊支援火器仕様)などを二人に向けた。

閃光と共に撃ちだされた弾が身構えた二人を襲い、射線から逃れようとするオーガの身体を鮮血で染める。
だが前に盾を手にしたデュラハンが立ち塞がった為に致命打を与えられない…しかしそのデュラハンも足に弾を受けて地に膝を付いた。

「あと一押しだ!あと一押しで悪魔どもを討ち取れる!!」

「アッラーの戦士の我々が、貴様ら悪魔など滅してくれるわぁ!!」


「……ワシらの同胞を、良くも此処まで痛めつけてくれたのう…」

「な?…ぎゃぁぁぁぁっ!!!」

弾を撃ち切ったマガジンを変え、再び二人へ攻撃を開始しようとした際に聞こえた幼い声。それと共に緑色の閃光と共に起こった爆発に狂信者達は吹き飛ばされ、木に叩きつけられたり地に転がった。
威力は加減してあるらしく怪我をしてるものはいるが死人は居ないようだ。

そして傷付いた二人の前に小さな影が降り立つ…山羊の頭骨を被り、モフモフの手足を持つ幼女。
しかし彼女の現れた事で辺りの空気が重く変わる。
臨戦態勢の彼女の体から溢れる魔力による重圧に戦士達がたじろぐ。

「え、エリニア殿!?」

「な?!…サバトの長が、何でこんな所に…?」

「今夜はお主らが巡回じゃったか、ご苦労…何、久しぶりに暴れられる。そんな気がしたからのう、遊びに来たんじゃよ」

「エリニア殿、顔が物凄く恐ろしいのだが…」

上位魔族の登場に聞こえた驚く二人、その二人に唇を吊り上げて笑いを浮かべれば指を鳴らす。すると二人の足下に忽ち魔方陣が現れた、どうやら二人を移動させるつもりらしい。

「お主らはゆっくり療養せい、あとはワシに任せるのじゃ♪」

「ちょ、エリニア殿!暴れるのは程ほd」

何かを言いかけたデュラハンに気にせず二人をレオドルの医療所へと送る。そして消えたのを確認すると振り向こうと…

「あ、悪魔め…!!」

振り向くと同時にエリニアの頭が仰け反る。起きた兵士の一人がドラグノフでエリニアの額を撃ったのだ。フラつくエリニア、しかし…

「痛いのぅ…しかし、ワシには効かんな。ワシを討ち取りたければもっと威力がなくてはなぁ?」

「…な……ひぃ!?」

「先程の者とワシを同列に見ないほうが良いぞ?ワシは上位魔族…奴らより上の存在なのだからな」

ゆっくりと態勢を整えるエリニア。山羊の骨を撃ち抜き、弾は額に被弾した。
だがその額には潰れた弾丸が…それはポロリと何も無かったように地に落ちる。それを見た狂信者達は一瞬にして悟った。

…今自分たちの戦う相手は全く次元の違う者だと…

「さて、次はワシの番じゃな?どれくらい楽しませてくれるか楽しみじゃ♪」
「ひぃ!!くそったれ!!!!」

非常に楽しそうに笑うエリニア。拳を握り、地を蹴ると勢いよく懐へ潜り込んで武器が効かない事に恐れを感じ、怯えた兵士の鳩尾へ一撃。
兵士の身体が浮き上がり息が詰まる。
エリニアは他のバフォメットと違い自らの肉体で戦う事を好み、レオドルの闘技場にも現れる程戦いが好きなのだ。
故に戦闘の最前線に立つ事も珍しくない…フランシスカと同じく彼女もまた変わり者だった。

「がはぁっ!…はぐぅ?!」

「みっともないのぅ、幼子一人にマトモに戦えぬのか?そんなのでは…ワシの兄上どころが魔女の兄上にもなれぬなぁ!!」


そのまま首を掴んで男を別の男に投げつけ、吹き飛ぶ二人を横目に再び地を蹴り。別の男の懐へと飛び込んだ。

「ハッ!」
「ぐぁっ!」
「デヤァッ!」
「ウグゥッ!?」
「とっておきじゃあ♪」
ポーヒー…デデーン☆
「アッー!」

そのまま一人を殴り飛ばし、銃を構える兵士の腹部へ身体を翻して蹴りをぶち当ててまた吹き飛ばす…AKを構える前にすぐさま近寄り、攻撃を仕掛ける。
こんな肉迫した接近戦では最早銃は使い物にならない、集団ゆえ撃てば仲間に当たる為だ。
銃床で殴ろうも、バヨネットで斬りつけようが巧みに腕で受け流されカウンターを決められる。
反撃もままならぬまま一人また一人と倒れていく。
そして気付けば立っているのはエリニアのみという状態になっていた。

「呆気ない、もう少し楽しめると思ったんじゃが…お主らは己の武器に頼りすぎじゃ」

地に這いつくばる男を見下ろしながらつまらなそうに話す。
男たちの武器は蹴り飛ばしたり投げ飛ばしたりした為、最早攻撃する事は出来ないだろう。

しかしなんじゃ?胴体を殴り付けた際の違和感は…何か硬いものじゃった気がする…

ふと違和感を感じていたその時だった、兵士達は自らの服に手を入れて何かを引き抜く。
ソレは手榴弾のピンだった。
手榴弾は自爆用の爆弾へと括り付けてある…最終手段の自爆テロ用の爆装。

「アッラーよ!我々の生き様を、とくとご覧あれぇ!!」

「何じゃ?ソレは……むっ!!?」

兵士が皆此方へ殺到する姿を見ながら首を傾げたエリニア。
ふとエリニアが違和感に気付いた瞬間だった。
爆発の閃光が辺りを包み、激しい爆音を響かせて近くの木々を吹き飛ばした。

「自爆じゃと…あやつら、命を何とも思っとらんのか!?……恐ろしい奴らじゃ…」

立ち上がる爆煙の中、爆発の際になんとか球体型バリアで身を守ったエリニアは姿を表す。緑色の魔力の球体の中から辺りを見回すと舌打ちした。
バラバラの人間だったモノが爆発の凄まじさを物語り、バリアを張らなければ自分も無事ではなかったと痛感させられる。
バリアを解き、爆発で少し低くなった地に降りると近くに落ちているRPKを拾った。
銃床が爆発でおれているが他はまだ使えそうに見える。

「異世界の武器、異世界の人間か……今回のこの事はサバトを通じて中央に連絡せねば。次元の歪みといい、この事件はきっと序章に過ぎぬ気がする…」

「エリニア様ぁ!ご無事ですかぁ!?」
「リークさんとルカさんから聞きました!さっきの爆発は何ですか!!魔力を感じなかったんですが…!」

険しい表情でRPKを見つめた後に視線を空へと移した。
その時に街の方角から声が聞こえ、視線を移すと視界に入ったのは守備隊のブラックハーピーと、サバトの魔女達だった。
近付く部下達に笑みを浮かべて手を振り、無事をアピールする。

「おーよく来たのう♪爆発の説明は後で話す…ワシは無事じゃ、それよりあの二人はどうしておる?」

「二人とも怪我が酷いですが…生きてはいます。しかし直ぐに復帰は難しいかと…」

「そうか…暫くは絶対安静にしているようにワシが言っておったと二人に話しておけい。あの二人は直ぐに動き出そうとするじゃろう…」

降り立ったブラックハーピーに怪我を負った二人の話を聞く。ひとまず生きている事に安堵しながらハーピーに指示を出した。
デュラハンは任務に戻ろうと、オーガは退屈凌ぎに何かしらやらかすのが目に見えている。

「あ、ついでに慰安夫を呼んでおけ。ルカにつけていればきっと抜け出すなんて愚かなマネはせんはずじゃ…」

そうでもせねば絶対病院を抜け出したりするだろう。
まぁその分激しい交わりで傷の治りが遅くなりそうだが…下手に騒がれるよりはマシだ。


「解りました、それでは後続に連絡して来ます。」
「おー宜しく頼んだぞ〜♪」

飛び立つブラックハーピーを見送ると魔女達に向き直り、コホンと小さく咳払いした。

「よいか、お前達は此処に転がる武器やその破片を集めるのじゃ。因みにコレは銃の様じゃから扱いはくれぐれも慎重に…」

「うわっ、これ凄く大きい…コレは何かな?」
「こっちは凄いよ♪連射して撃てるもん。ほら、木がボロボロになった!あ…撃てなくなっちゃった…」

指示を出そうと思っていた矢先、既に魔女達は思い思いに落ちている武器をオモチャの様に扱っていた。
まぁ未知の物故に好奇心に駆られて致し方無いのだろうが…
もう少し警戒心を持たんかっ、普通は警戒するじゃろうが!


「お前らぁぁっ!人の話を聞かんかぁぁぁ!!」

「えっ?きゃっ!?」

怒りの余りに叫ぶエリニア。その時RPGを弄っていた魔女の一人が構えたまま振り返る…その時だった。
勢いの余り引き金を引いてしまい、凄まじいバックブラストと共にロケット弾がエリニアに向かって放たれた。くねりながらもロケット弾はエリニアへと飛翔し…

「えっ?…」

「ばっ!?ばーかーなぁぁぁああぁぁあぁ…!!?」

突然の事に防御すら出来なかったエリニアへロケット弾は着弾。爆発と断末魔と共にエリニアは空へと舞った…


その後、吹き飛ぶエリニアの姿を屋敷から発見したフランシスカは慌てながら私兵を率いて現場に向かった。
黒焦げになって目を回すエリニアに安堵しながら彼女を回収。ゲリラの装備の残りや破片も回収した。
あのRPGを撃った魔女は後ほどタップリとエリニアにお仕置き(もちろん性的な)され、別の意味で頭を抱える存在になったのはまた別の話…

「エリニアさまぁ〜もっとダメダメな私におしおきしてくださぁい〜♪…おまんこ疼くのぉ…」

「えぇい、どうしてこうなったっ!?ちょ、ま… 服を脱がすでない!やっ?ちょ!そこはらめぇぇぇぇ!!」




「…異世界との接触、か……エリニアが話していたように何だかまた何かが起きる気がするわ…杞憂で終われば良いけど」

机の上にある回収した銃火器を眺めながら呟くフランシスカ。エリニアの報告とこの武器を見れば技術力が桁違いに違うのが見て取れる。
コレは他の同じ銃の部品規格が殆ど同じ、稼働部のパーツや外装まで全て均一に作られている

……職人がワンオフで作る物とは違う、大量生産で作られたような…機械的な作り。
サイクロプスもコレを見るなり技術力の違いに驚きを隠せないでいた。
彼女曰く、コレを作る事なら出来る。
しかし一本作るのにかなりの手間が掛かる故に大量生産するとなると莫大なコストと手間が掛かるそうだ。
外装は圧縮して曲げて形を作ってあり、一部のパーツは綺麗に削られている。
手作業ではこれ程均一に作れないらしい。
ソレをこれ迄均一に作り上げているのだ、どんな方法で作っているのだろうか…

私達の遭遇した者達の世界ではきっとこの様な武器を沢山所持しているのだろうか?

もしその様な奴らと戦いになったら私達はどうなるだろうか?

正直、解らない。

「しかし、何が起きようともこの都市だけは守らなくては……此処に住む者達の為にも。それだけは変わらないわ」


私はこの都市の領主。
此処の人々の生活を預かる身、その様な事になれば私は全力で戦うつもりだ。
此処に住む皆の為にも…私の使命であり、皆の幸せを願う者として…

窓を開け、人々の暮らしに光輝くレオドルの街を眺めながら気持ちを新たにして心に決めたのだった。



「…何々、魔物の為の性処理娯楽施設が欲しい?却下に決まってるでしょう!全く…誰よこんな要望出したのは…」

魔物と人の生活を守る若きヴァンパイアの領主。
今日もまた皆の幸せを願いながら自分の屋敷で書類と格闘するのであった。



〜同時刻、中東のとある市街地〜

「良いかっ!我々の任務は正規陸軍の援護。及び現地での民間人の救出だ!ただしあくまで援護だ、陸軍より目立つ行動は控えろっ!!」

「「「「了解!」」」」

とある陸軍レンジャー部隊と過激派との激戦区へ向け飛ぶブラックホーク、その中で一人の男が若い部下達に命令を伝える。
無精髭を生やした短髪黒髪の30代のロシア人の男、彼は鋭い目で一人一人の部下達の顔を見る。

金髪で若さの残る好青年。
銀髪で細身の無表情の青年。
がっしりした体格に温厚な顔が似合わない青年。
真面目で感情豊かな若い女。


「…何があっても生きて帰るぞ。その時は俺の奢りで一杯やろう。」

「勿論ですよ、隊長。今迄このチームで出来なかったミッションは無い。無事に帰れますって!」

「…ただし、油断は禁物だ。」

「後方の援護は任せて下さいっす!」

「皆無茶だけはダメだからね?絶対に皆で帰ろうっ!」

表情を崩す隊長の一言に隊員が思い思いの言葉を告げる。

もし、何かあろうものなら…こいつ等だけでも生かしてやらなければな……

自分を慕う若い部下達、彼は改めて覚悟した。

その時だった、機内に鳴り響くアラーム

「シット!奴らSAMを持ってやがった!ロックされたぞっ!!」

ブラックホークのパイロットの悲痛な声が響いた。
運命は非常だ…機内に鳴り響くロックオンされた事を告げるブザー。
それに各隊員の表情が変わる。

「パイロット!数は!?」

すぐさまコックピットへ状況を確認しにいく隊長、その顔には明らかに焦りが見える。

「4発じゃきかねぇ!フレアとチャフをばら撒いてみるが多分一、二発しか撒けない!」

パイロットもタダでは墜ちる気は無いらしく、なるだけ被害を少なくしようと手を尽くす。
機体を急旋回させた為激しく揺れ、ミサイルが側をかする。

「…シット!もう無理だっ!被弾する!衝撃に備えろぉ!!」

それと同時に聞こえる爆音と激しい揺れ、被弾したブラックホークはコントロールを失い機体を回転させながら地表へと落下した…

地表にぶつかると共に目の前が眩い閃光に包まれる…

撃墜され、炎上するブラックホーク。

…しかし中には誰も居なかったかの様に人影は見えなかった…


12/08/16 21:05更新 / RPK74
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■作者メッセージ
やあ (´・ω・`)
ようこそ。
この5.45×39弾はサービスだから、まず乱射して落ち着いて欲しい。
うん、まだエロが無いんだ。
次当たりで入れる予定ですが満足して貰えるかどうか…
其れではまた次回に…


びみょ〜に修正を致しました。

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