戦闘は火力
俺が召喚されてから一週間が経った。
自室も貰ったが、いまのところルーサバト運営本部であるダンジョンからほぼ外出せずに、ずっと能力の使用方法の研究や、魔女達の操る木人を相手に錆び付いた格闘技の腕を磨き直していた。
最寄りの街へ行くまでにも野盗が出るし、反魔物領から違法入国した自称勇者がこのダンジョンを目指してくる事があるそうだからだ。
気軽に買い物にすら行けやしない。
まぁルーの母親が張った幻惑の結界に阻まれてダンジョンまで到達する事はほぼ無い。
野盗連中は反魔物領から流れてくる余所者がほとんどだ。
連中は魔物相手だったら何をしてもいいと思っている。
越境して盗賊行為を行う奴らは国の恥でしか無いので、奴らの国も取り締まるべきなんだが
奴らの国自体が魔物相手にはなにしてもいいという方針なので、こちらで対処するしかない。
リザードマンやケンタウロスで構成された勤勉な国境警備隊が巡回しているが、運良くそれをすり抜ける者もいる。
そう言ったモノから自分やルーを守るためにも最低限の戦う力が欲しかった。
買い物にも行きたいし、観光だってしたい!
それに最寄りの城砦都市ゼリア市にいるルーの家族にも会いに行きたい。
自衛すらできない者に娘を任せるとも思えないからもっと頑張らなきゃ。
ルーに戦わせるなんて論外だ。
「ハッ!」
木人が振り下ろして来た右腕を、左手で左へ受け流しつつ手首をつかむ。受け流された事で生じた右脇の空間へ屈みながら身体をねじ込み木人の身体に俺の背中を密着させる、右肩で木人の腕を背負う。
左手で掴んだ腕を下へ引っ張りつつ屈んだ身体を一気に伸ばす!
一本背負いだ。
相手は木人だし、練習した技は試合ではなく実戦で使用するため受け身をとりやすくする引き手は付けない。
投げられた木人は叩きつけられた衝撃で足が取れていた。
人間よりは衝撃に対して脆いので仕方ない。
「「おぉおおお!!!!」」
観戦していた魔女やその伴侶達から歓声があがる。
何度やっても驚いてくれるので結構嬉しいw
ルーにいたっては眼をまん丸にして声すら出ないほど驚いている。
俺よりも頭3つほど大きくて重い木人を投げ飛ばす様子は西洋人であるルー達には、それこそ魔法のように見えるのだろう。
「大兄様スゴイです!」
「ウチのお兄ちゃんにもそれ教えて欲しいです!」
「あぁ〜、あたしのセヴァスチャンがぁ・・・(T ^ T)」
木人には名前があったらしい。
柔道に関しては感がもどった。
苦手だった一本背負いを、柔道的動きをしない相手にちゃんとかけられたしね。
ちなみに俺の得意技は体落とし。
背負い投げからの変化技で、背負い投げを躱して体勢の崩れた相手にかける追い討ち技だ。
まぁ実戦における柔道の使用法は「崩し」が主だ。
体勢を崩してから投げに入ると相手は躱し様が無い。
逆に言えば体勢が崩れていれば、別に投げなくとも蹴りでも殴りでもなんでもキマる。
「さて、ちょっと工具借りるね」
セヴァスチャンの取れた足を拾い、胴体に繋ぎ直す。
金属の関節同士を木材の骨組みで繋いでるだけなので
木材が折れなければすぐ直る。
なぜかセヴァスチャンの持ち主である魔女は俺の事を眼を見開いてみていた。
投げ技を見ていたとき以上の驚いた顔だ。
なんだろう?そんな高度な修理か??
「(すごく優しいデス・・・)」
ボソッと何かを呟いていたが、俺には聞こえなかった。
「ん?なに?」
「な、なななな!なんでも無いデス!!(ダメなのデスよ、大兄様はバフォ様のお兄様なのデスよ。あたしはセヴァスチャンをもっと改良して理想のお兄ちゃんを自分で作るんデス!!コレを参考にry)」
なにやらブツブツと自分の世界に入ってしまった。
「あ、忘れておった。兄上、注文しておいた武器が仕上がったそうじゃ。工房へ取りに行こうではないか。」
ルーに手を取られて、もっと技を見せろとブー垂れる魔女達を背景にダンジョンの廊下を引っ張られて行く。
相変わらず暖かくて柔らかい手だ。
サバトには様々な種族が所属している。
基本的にはロリっ子(実年齢は幼く無いので合法)と人間の男の出逢いの場なのだが、稀に愛くるしいモノが大好きな女性も加入してくる。
工房にいる長髪のサイクロプス「風になびく髪(と言う名前)」もそうだ。
彼女はネイティブアメリカンのような衣装を纏い大地の精霊を崇める精霊信仰の少数民族の出身だ。
むろん、現在のような精霊達が生まれる前の宗教だ。
斧や弓の製造に長けている彼女に護身用の武器を作って貰っておいた。
炉の高熱でむせ返るような工房に入ると
ルーを見て、一つしか無い代わりに大きい眼を輝かせて手をワキワキと動かしているいるサイクロプスがいた。
かなりキモイ。
風になびく髪の求める報酬は、少々の現金と「依頼主の魔女などを一定時間抱きしめながらあちこち弄ったり、いろんなコトをする」と言うモノだ。
俺の場合はルーが支払うコトになる。
あの動きさえなければ可愛いのに、とても残念な印象になっている。
「・・・クロスボウ、出来てる。矢はあっち。」
俺に向かって話しているのだが、目線はずっとルーだw
普通なら恋人に手を出されそうと感じるのだろうけど、百合も大好きな俺にはむしろご褒美です。w
寝取られは大嫌いだけどね。
工房の作業机の上に注文通りの品があった。
この世界の技術でも製造可能で、プレートメイルも貫通する強力な武装。
クロスボウだ。
ただし最新鋭の軍用クロスボウを参考に滑車付きの弓に替えて弦を引きやすく、ライフルストックを採用して構えやすくした。
ストックは俺の持ち込んだエアガンを参考に自分で作った。
機関部を入れる溝を掘るのに失敗して3個ほど無駄にしてしまったが満足行く仕上がりになった。
弦を引いて空撃ちをする。
「引きは軽いね。トリガーは若干重いけど引き切るときの感触が分かって良い感じだ。
試し撃ち出来る?」
風になびく髪はなにも言わずに部屋の隅に立てかけてあるラウンドシールドを指す。
目線はずっとルーだw
なんだか呼吸も荒く、眼も血走ってきている。
完全にルーは蛇に睨まれたカエルの様に固まっている。
そんなに嫌なら手を引っ張って連れてこなくとも良いと思うんだが最近わかった。
本音は何かと理由をつけて手を繋ぎたいだけなんだ。
俺の方から手を繋いでルーを安心させてやる。
だが風になびく髪に払う報酬はルーに対する抱擁だw
弦を引いてから机の上にある数種類の矢から、スタンダードな鏃のモノを選んでクロスボウにつがえる。
距離は5mと無い。
バンッ!と弦がなり
矢は盾を貫通した。
刺さったのではなく貫通だった。
つぎは非殺傷用の鉄球がついた矢を取り盾に撃つ
ゴッ!と言う音とともに盾が球体状に凹んだ。
人に当たれば骨くらい砕けそうだな。
頭には当てない様にしよう。
つぎの矢は屋内では撃てないので外に出る。
「ルー、風になびく髪もちょっと外に出よう。」
ルーはそのひとことで安心したようだったが
「野外もイイかも・・・」ポッと頬を赤らめながら言う風になびく髪を見て再度青ざめていた。
ダンジョンのメインゲート前。
先代のサバトマスターであるルーの母親が結界を破って侵入してきた勇者と戦ったために雑草一つ生えていない荒地になっている。
ちなみにその勇者は現在キルケの夫だ。
「さて、あの樹でイイかな」
特別製の矢をクロスボウにつがえ、荒地の一番端にある枯れた大樹を狙う。
サバトの魔法石とミリオタ知識で設計し、風になびく髪に作ってもらった
HEATボルトだ。
先端部の微小な魔石は衝撃を受けて砕けると周囲に小さな火を撒き散らす。
その火でボルト内の火薬に火がつき爆発すると言うモノだ。
錬金術と魔術の融合で我々の世界の中世よりも火薬は発達しているが、やっと無煙火薬が発明された程度のため、爆発そのものの威力は今ひとつだ。
しかし円錐状に敷き詰めた火薬は、モンロー効果とノイマン効果によって凄まじい威力となる。
理論的にはドラゴンの鱗も撃ち抜ける筈だ。
クロスボウで30m離れた枯れ木に狙いを定めて
撃つ。
バンッ!
飛んで行く矢を目視したと思ったつぎの瞬間
ドバンッ!!!
と爆炎が上がり煙で枯れ木が見えなくなった。
能力で魔力に流れを作り、風を起こす。
※魔力の流れにつられて微風程度に空気がうごくだけ。変な犯罪には使えません。
風によって煙が晴れるとそこには幹に顔程の穴が空いた枯れ木があった。
射入口は顔くらいの大きさだが、裏側の射出口はその三倍程だ。
程なくして自重に耐えられなくなった枯れ木が崩れ落ちた。
「やっぱり戦闘は火力だな。このボルトならハインドだって撃墜できる。」
重いので着弾地点が狙ったところよりもかなり下だがこの距離を飛んでくれれば問題無い。
ルーと風になびく髪は、唖然としていた。
「な、なぜあの程度の火薬であんな大穴が空くんじゃ!?」
魔法で学校の授業を覗き見して勉強していたルーだが、さすがにモンロー効果は普通の学校じゃ習わない。
「さっきも説明したでしょ。爆炎を一点に集中するとああなるんだって。ルーの魔法でも同じ事できると思うよ。」
俺も戦闘以外には使用方法が思いつかなので多分ルーは使わないと思うが。
「風になびく髪。構造を説明しただけなのにここまで再現しちゃうだなんてすっごいねぇ。」
「・・・図もくれたし分かりやすかったから・・・」
目を逸らしながら呟く。
おそらく褒められて照れているんだと思う。
「でもスゴイって。クロスボウもスゴく引きが軽いのに威力はあるし。」
この世界の文明からすると、威力のあるクロスボウを引くには専用の巻上げ機構が付いていたり、足で押さえて全身の筋肉で引く必要があるモノばかりだったはずだ。
作ってもらったクロスボウは滑車を巧みに配置して
引きは軽く、弦の戻り方は強烈になっている。
これはオーパーツに近いな。
「それよりも・・・報酬は?」
ルーの身体がビクンッと跳ねる。
「あ、兄上ぇ・・・」
とても不安そうな顔で見上げられてしまった。
そんな潤んだ目で見ないでくれw
とりあえずルーと手を繋いで安心させておく。
「その事なんだけどさ・・・見てわかると思うんだけど、ルーがすっごく怯えてるからさ・・・」
ルーはすっかり俺の後ろに隠れてしまっていた。
「無しにしてくれとは言わないよ。コレ。」
持ってきていたバスケットを見せながら
「完成記念にここで昼食会にしようよ。」
「報酬はルーを膝に乗せてサンドイッチを食べさせる権利ってことでどう?
バフォメットを膝に乗せて食事の世話なんてそうそう出来る経験じゃないと思うよ?」
「え!?あ、兄上ぇ!?わしを売るのか!??」
動揺するルーの耳元でそっと言う
「するコトを指定しておかないとナニをされるか分からないでしょ?
それに俺の作ったサンドイッチ食べたくない?」
あまり凝った物は作れないが、焼いた食パンを使ったサンドイッチ。ピクルスの微塵切りが入ったタマゴサンドやマスタードとバターを混ぜた物を薄く塗ったハムレタスサンド、デザートにフレンチトーストを用意してきた。
飲み物はミルクティーだ。
ルーがゴクリとつばを飲み込むのが聞こえた。
「万一の時には、絶対に守るから」
ルーは俺の手をギュっと握って
「期待しておるぞ?」
風になびく髪はかなり乗り気なようで
空を虚ろな目で見ながら、デヘッ、デヘヘヘと笑っている。
色んな意味で、本当に残念な娘だw
昼食後、俺は身につけた能力を存分に発揮したコトを付け加えておく。
自室も貰ったが、いまのところルーサバト運営本部であるダンジョンからほぼ外出せずに、ずっと能力の使用方法の研究や、魔女達の操る木人を相手に錆び付いた格闘技の腕を磨き直していた。
最寄りの街へ行くまでにも野盗が出るし、反魔物領から違法入国した自称勇者がこのダンジョンを目指してくる事があるそうだからだ。
気軽に買い物にすら行けやしない。
まぁルーの母親が張った幻惑の結界に阻まれてダンジョンまで到達する事はほぼ無い。
野盗連中は反魔物領から流れてくる余所者がほとんどだ。
連中は魔物相手だったら何をしてもいいと思っている。
越境して盗賊行為を行う奴らは国の恥でしか無いので、奴らの国も取り締まるべきなんだが
奴らの国自体が魔物相手にはなにしてもいいという方針なので、こちらで対処するしかない。
リザードマンやケンタウロスで構成された勤勉な国境警備隊が巡回しているが、運良くそれをすり抜ける者もいる。
そう言ったモノから自分やルーを守るためにも最低限の戦う力が欲しかった。
買い物にも行きたいし、観光だってしたい!
それに最寄りの城砦都市ゼリア市にいるルーの家族にも会いに行きたい。
自衛すらできない者に娘を任せるとも思えないからもっと頑張らなきゃ。
ルーに戦わせるなんて論外だ。
「ハッ!」
木人が振り下ろして来た右腕を、左手で左へ受け流しつつ手首をつかむ。受け流された事で生じた右脇の空間へ屈みながら身体をねじ込み木人の身体に俺の背中を密着させる、右肩で木人の腕を背負う。
左手で掴んだ腕を下へ引っ張りつつ屈んだ身体を一気に伸ばす!
一本背負いだ。
相手は木人だし、練習した技は試合ではなく実戦で使用するため受け身をとりやすくする引き手は付けない。
投げられた木人は叩きつけられた衝撃で足が取れていた。
人間よりは衝撃に対して脆いので仕方ない。
「「おぉおおお!!!!」」
観戦していた魔女やその伴侶達から歓声があがる。
何度やっても驚いてくれるので結構嬉しいw
ルーにいたっては眼をまん丸にして声すら出ないほど驚いている。
俺よりも頭3つほど大きくて重い木人を投げ飛ばす様子は西洋人であるルー達には、それこそ魔法のように見えるのだろう。
「大兄様スゴイです!」
「ウチのお兄ちゃんにもそれ教えて欲しいです!」
「あぁ〜、あたしのセヴァスチャンがぁ・・・(T ^ T)」
木人には名前があったらしい。
柔道に関しては感がもどった。
苦手だった一本背負いを、柔道的動きをしない相手にちゃんとかけられたしね。
ちなみに俺の得意技は体落とし。
背負い投げからの変化技で、背負い投げを躱して体勢の崩れた相手にかける追い討ち技だ。
まぁ実戦における柔道の使用法は「崩し」が主だ。
体勢を崩してから投げに入ると相手は躱し様が無い。
逆に言えば体勢が崩れていれば、別に投げなくとも蹴りでも殴りでもなんでもキマる。
「さて、ちょっと工具借りるね」
セヴァスチャンの取れた足を拾い、胴体に繋ぎ直す。
金属の関節同士を木材の骨組みで繋いでるだけなので
木材が折れなければすぐ直る。
なぜかセヴァスチャンの持ち主である魔女は俺の事を眼を見開いてみていた。
投げ技を見ていたとき以上の驚いた顔だ。
なんだろう?そんな高度な修理か??
「(すごく優しいデス・・・)」
ボソッと何かを呟いていたが、俺には聞こえなかった。
「ん?なに?」
「な、なななな!なんでも無いデス!!(ダメなのデスよ、大兄様はバフォ様のお兄様なのデスよ。あたしはセヴァスチャンをもっと改良して理想のお兄ちゃんを自分で作るんデス!!コレを参考にry)」
なにやらブツブツと自分の世界に入ってしまった。
「あ、忘れておった。兄上、注文しておいた武器が仕上がったそうじゃ。工房へ取りに行こうではないか。」
ルーに手を取られて、もっと技を見せろとブー垂れる魔女達を背景にダンジョンの廊下を引っ張られて行く。
相変わらず暖かくて柔らかい手だ。
サバトには様々な種族が所属している。
基本的にはロリっ子(実年齢は幼く無いので合法)と人間の男の出逢いの場なのだが、稀に愛くるしいモノが大好きな女性も加入してくる。
工房にいる長髪のサイクロプス「風になびく髪(と言う名前)」もそうだ。
彼女はネイティブアメリカンのような衣装を纏い大地の精霊を崇める精霊信仰の少数民族の出身だ。
むろん、現在のような精霊達が生まれる前の宗教だ。
斧や弓の製造に長けている彼女に護身用の武器を作って貰っておいた。
炉の高熱でむせ返るような工房に入ると
ルーを見て、一つしか無い代わりに大きい眼を輝かせて手をワキワキと動かしているいるサイクロプスがいた。
かなりキモイ。
風になびく髪の求める報酬は、少々の現金と「依頼主の魔女などを一定時間抱きしめながらあちこち弄ったり、いろんなコトをする」と言うモノだ。
俺の場合はルーが支払うコトになる。
あの動きさえなければ可愛いのに、とても残念な印象になっている。
「・・・クロスボウ、出来てる。矢はあっち。」
俺に向かって話しているのだが、目線はずっとルーだw
普通なら恋人に手を出されそうと感じるのだろうけど、百合も大好きな俺にはむしろご褒美です。w
寝取られは大嫌いだけどね。
工房の作業机の上に注文通りの品があった。
この世界の技術でも製造可能で、プレートメイルも貫通する強力な武装。
クロスボウだ。
ただし最新鋭の軍用クロスボウを参考に滑車付きの弓に替えて弦を引きやすく、ライフルストックを採用して構えやすくした。
ストックは俺の持ち込んだエアガンを参考に自分で作った。
機関部を入れる溝を掘るのに失敗して3個ほど無駄にしてしまったが満足行く仕上がりになった。
弦を引いて空撃ちをする。
「引きは軽いね。トリガーは若干重いけど引き切るときの感触が分かって良い感じだ。
試し撃ち出来る?」
風になびく髪はなにも言わずに部屋の隅に立てかけてあるラウンドシールドを指す。
目線はずっとルーだw
なんだか呼吸も荒く、眼も血走ってきている。
完全にルーは蛇に睨まれたカエルの様に固まっている。
そんなに嫌なら手を引っ張って連れてこなくとも良いと思うんだが最近わかった。
本音は何かと理由をつけて手を繋ぎたいだけなんだ。
俺の方から手を繋いでルーを安心させてやる。
だが風になびく髪に払う報酬はルーに対する抱擁だw
弦を引いてから机の上にある数種類の矢から、スタンダードな鏃のモノを選んでクロスボウにつがえる。
距離は5mと無い。
バンッ!と弦がなり
矢は盾を貫通した。
刺さったのではなく貫通だった。
つぎは非殺傷用の鉄球がついた矢を取り盾に撃つ
ゴッ!と言う音とともに盾が球体状に凹んだ。
人に当たれば骨くらい砕けそうだな。
頭には当てない様にしよう。
つぎの矢は屋内では撃てないので外に出る。
「ルー、風になびく髪もちょっと外に出よう。」
ルーはそのひとことで安心したようだったが
「野外もイイかも・・・」ポッと頬を赤らめながら言う風になびく髪を見て再度青ざめていた。
ダンジョンのメインゲート前。
先代のサバトマスターであるルーの母親が結界を破って侵入してきた勇者と戦ったために雑草一つ生えていない荒地になっている。
ちなみにその勇者は現在キルケの夫だ。
「さて、あの樹でイイかな」
特別製の矢をクロスボウにつがえ、荒地の一番端にある枯れた大樹を狙う。
サバトの魔法石とミリオタ知識で設計し、風になびく髪に作ってもらった
HEATボルトだ。
先端部の微小な魔石は衝撃を受けて砕けると周囲に小さな火を撒き散らす。
その火でボルト内の火薬に火がつき爆発すると言うモノだ。
錬金術と魔術の融合で我々の世界の中世よりも火薬は発達しているが、やっと無煙火薬が発明された程度のため、爆発そのものの威力は今ひとつだ。
しかし円錐状に敷き詰めた火薬は、モンロー効果とノイマン効果によって凄まじい威力となる。
理論的にはドラゴンの鱗も撃ち抜ける筈だ。
クロスボウで30m離れた枯れ木に狙いを定めて
撃つ。
バンッ!
飛んで行く矢を目視したと思ったつぎの瞬間
ドバンッ!!!
と爆炎が上がり煙で枯れ木が見えなくなった。
能力で魔力に流れを作り、風を起こす。
※魔力の流れにつられて微風程度に空気がうごくだけ。変な犯罪には使えません。
風によって煙が晴れるとそこには幹に顔程の穴が空いた枯れ木があった。
射入口は顔くらいの大きさだが、裏側の射出口はその三倍程だ。
程なくして自重に耐えられなくなった枯れ木が崩れ落ちた。
「やっぱり戦闘は火力だな。このボルトならハインドだって撃墜できる。」
重いので着弾地点が狙ったところよりもかなり下だがこの距離を飛んでくれれば問題無い。
ルーと風になびく髪は、唖然としていた。
「な、なぜあの程度の火薬であんな大穴が空くんじゃ!?」
魔法で学校の授業を覗き見して勉強していたルーだが、さすがにモンロー効果は普通の学校じゃ習わない。
「さっきも説明したでしょ。爆炎を一点に集中するとああなるんだって。ルーの魔法でも同じ事できると思うよ。」
俺も戦闘以外には使用方法が思いつかなので多分ルーは使わないと思うが。
「風になびく髪。構造を説明しただけなのにここまで再現しちゃうだなんてすっごいねぇ。」
「・・・図もくれたし分かりやすかったから・・・」
目を逸らしながら呟く。
おそらく褒められて照れているんだと思う。
「でもスゴイって。クロスボウもスゴく引きが軽いのに威力はあるし。」
この世界の文明からすると、威力のあるクロスボウを引くには専用の巻上げ機構が付いていたり、足で押さえて全身の筋肉で引く必要があるモノばかりだったはずだ。
作ってもらったクロスボウは滑車を巧みに配置して
引きは軽く、弦の戻り方は強烈になっている。
これはオーパーツに近いな。
「それよりも・・・報酬は?」
ルーの身体がビクンッと跳ねる。
「あ、兄上ぇ・・・」
とても不安そうな顔で見上げられてしまった。
そんな潤んだ目で見ないでくれw
とりあえずルーと手を繋いで安心させておく。
「その事なんだけどさ・・・見てわかると思うんだけど、ルーがすっごく怯えてるからさ・・・」
ルーはすっかり俺の後ろに隠れてしまっていた。
「無しにしてくれとは言わないよ。コレ。」
持ってきていたバスケットを見せながら
「完成記念にここで昼食会にしようよ。」
「報酬はルーを膝に乗せてサンドイッチを食べさせる権利ってことでどう?
バフォメットを膝に乗せて食事の世話なんてそうそう出来る経験じゃないと思うよ?」
「え!?あ、兄上ぇ!?わしを売るのか!??」
動揺するルーの耳元でそっと言う
「するコトを指定しておかないとナニをされるか分からないでしょ?
それに俺の作ったサンドイッチ食べたくない?」
あまり凝った物は作れないが、焼いた食パンを使ったサンドイッチ。ピクルスの微塵切りが入ったタマゴサンドやマスタードとバターを混ぜた物を薄く塗ったハムレタスサンド、デザートにフレンチトーストを用意してきた。
飲み物はミルクティーだ。
ルーがゴクリとつばを飲み込むのが聞こえた。
「万一の時には、絶対に守るから」
ルーは俺の手をギュっと握って
「期待しておるぞ?」
風になびく髪はかなり乗り気なようで
空を虚ろな目で見ながら、デヘッ、デヘヘヘと笑っている。
色んな意味で、本当に残念な娘だw
昼食後、俺は身につけた能力を存分に発揮したコトを付け加えておく。
11/01/21 15:28更新 / ミニたん
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