連載小説
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ひと休み
 無防備にベッドの上で仰向けに寝転んだ狼少女。
 それはいわゆる、彼らの始めの体位というヤツだった。いつもは乳首のあたりの硬い外皮が解除されて、胸から優しく愛撫するというのが作法である。
 しかし今回は、街で買った軽装備を身に着けていた。薄手のインナーに革ベルトで締め付けたような意匠で、ヴォルフはさながらブラジャーを外すかのような手つきで、シュルシュルとそれを緩めていく。
「なーんかいやらしいなぁこれ♥」
 おどける少女に反論もできない。ベッドの上のまぐわいは野外のそれよりも幾分は丁寧にこなしているつもりだったが、衣装を脱がすという工程は始めてのことだった。何気ないこの動きが入るだけでこうもいかがわしくなるのかと、ヴォルフにも意外なくらいだ。行為に至るまでの道筋が焦れるほど、結果への期待が募るほど、その道程はより淫靡なモノになるのだろう。
 やがてベルトが緩め終わり、ヴォルフは少女のインナーを捲って見せた。両腕を上げて少女もそれを手伝い、プルンとハリのある巨乳がまろび出てくる。同時に、ムワッと香る強烈な汗の匂い。
「ハハッ、くっせ♥」
 屈託なく笑う少女とは裏腹に、ヴォルフはビキビキと股間に力が籠るのを感じた。どうにも少女の汗の匂いは脳髄にクる。一も二もなく腰を突き出したい誘惑に敗けそうになる。
 どうにか堪え、深呼吸。またしても強烈な少女の匂いにやられて暴発の危険が迫るが、それも堪える。ヴォルフにとって少女とのまぐわいは我慢に我慢を積み重ねる、我慢の連続なのだ。
 少女の暗褐色の肌に手を這わせ、掬い上げるようにその乳房を揉む。優しく、握り過ぎないように、タプタプと弾力と重さを味わう。そうして幾度か試していくと、その先端がプックリと充血していくのが分かった。黒い肌のおかげか、少女の美しい桜色の乳首は見事に対比が映えていた。
 触れるか触れないかのギリギリで、その先っぽを指で掠めてやる。ピクン、と少女の身体が震えるのを腕で感じた。これが好きだ、とは少女のかつての言葉である。だから何度か繰り返してやろうとヴォルフは指に神経を注ごうとしたが。
「なあ」
 遠慮がちな少女の声に動きを止めた。
 何事かと目を合わせると少女は、ニィっと歯を見せて笑う。
「今日はなんか……痛くしろ。オレを躾けてみろよ」
 その挑戦とも言える言葉に、ヴォルフは理性の糸がブチンと千切れるのを聞いた。
「後悔するなよ」
「させてみろってんだ──んあっ♥」
 ギュっと乳首を摘まんで口元に引き寄せてやる。釣鐘のように持ちあがった乳房は歪み、見る見る間に先端の桜を朱に染めていった。そうして敏感になった先を舌で舐めてやる。愛撫ではなく、舌をヤスリのように見立ててゾリゾリと乱暴にしゃぶった。
「あぁ──っイィ♥」
 悶える少女。片方の乳を抓り上げて舐める一方で、もう片方は握りつぶすほどに根元を掴んでやる。ギリギリと肉が零れるのも構わず、後が残るほどに握力を込める。そうして歪ませた乳房をダップダップと揺らして遊ばせた後、交代とばかりに口を移してその先端に噛みついてやった。
「きゃん♥ ──ってめ」
 さすがに噛まれるのは想定外だったらしい。悪い気はしたが、躾けてみろと言われたのだから跡を残すのは当然だろうとヴォルフは開き直っていた。
「そっちがその気ならよぉ、こっちも我慢しねえぞ♥」
 言うが早いか、少女はぐいと身体を起こしてヴォルフの首元に吸い付いた。ぢぅーっと痛いほどに吸い上げ、その肌に赤いキスマークをつける。
「ハハ、真っ赤でやんの」
 少女は噛みつき癖があるが、キスマークをつけるのが一番のお気に入りだ。特に首という急所に跡を残すのが好きらしく、執拗にヴォルフの顎下に顔を寄せる。
 身体を寄せられて舌を使えなくなったので、仕方なく、乳首責めは指で行うことにする。人差し指と中指で乳輪を挟み込むようにして、親指の腹でコシュコシュと磨いてやった。
「っあー♥ イイ、それ♥ イイ♥」
 お気に召したらしい。少女は悩まし気に腰をくねらせ、ますますヴォルフに密着した。跨ぐらを太腿に乗せ、じゅくじゅくと熱した中身を引っ掻く。もどかし気に尻をごしごし動かす少女にヴォルフは手を貸してやりたくなった。
「おい、腰を上げろ」
「ん」
 普段の生意気な態度からは考えられないほど、驚くくらい素直に従う少女である。浮いた腰に両手をやって、ヴォルフは少女の下履きを脱がしてやった。膝から下は獣毛で覆われていて難儀したが、どうにか布を外してやる。
 いつもの少女であればまどろっこしいとばかりに燃やして破り捨てていたかも知れない。だがお気に入りの服だからか、暴れて疲弊しているからか、黙ってされるがままにヴォルフの導きに従っていた。その殊勝な態度がどうにもこしょばゆく、ヴォルフの中の献身性と呼べるものが刺激されていた。
 良い子にはご褒美を。この世の摂理だ。
「そのままだ、腰浮かせとけ」
「んん……? ──っぃひ♥」
 ジュプっと熱く湯だった急所に優しく指を掻き入れてやる。幾度かの交わりで、少女の"お気に入り"は何箇所か当たりがついているのだ。いつもは浅く抽挿することでかき回すところを指で優しく、執拗に撫で擦ってやる。
「あっあっあっあっ♥」
 少女の呼吸が浅く早まっていく。達する合図とばかりにキュウと入口が狭まった。
 不意に、寸止めしてやろうかという悪戯心が芽生えた。躾けてみろ、という挑戦を思えば、ギリギリで止めて焦らしてやるという手もあるかと。
 しかし全身をヴォルフに預け、無防備に剥き出しの性感を享受している少女の幸せそうな顔を見ていると、その気は失せていた。
 いくらでも、何度でも。満足するまでイカせてやる。
 ヴォルフは指を一気に差し入れ、少女のGスポットを正確に射抜いた。
「──んあああああ!?♥」
 唐突に浴びせられた一層深い刺激に、少女はあっさり陥落した。足をピンと引き延ばし、びくんびくんを腰を振るわせてだらしなく舌を突き出す。
 そうして目の焦点が合わなくなった少女の口元に顔を寄せ、ヴォルフは告げた。
「いれるぞ」
 返事はない。待つ気もない。辛抱が効かなかった。
 ヴォルフは少女の艶姿を受けてさらに硬くそり立った剛直を、熱い女壺にゆっくりと差し入れた。ぞぶりと、煮えたぎり蕩けた油脂のような堪らない感触。トロトロと滑りの良い愛液が歓迎するようにあふれ出て、キツくはあるものの、抵抗らしい引っかかりはまるで感じない。どこまでも貪欲にヴォルフを飲み込んでいく。
「ふぁぁぁぁ♥」
 湯水に肩から浸かったような媚び声が甘く響く。ヴォルフは歯を食いしばって耐え、最奥までなんとか到達した。ギュウっと柔らかく締め付けられ、反射的にすぐにかき回したい衝動をどうにか抑える。
 少女の様子を窺うと、彼女はハフハフと、熱いものを口に入れたときのように口を縦に横に広げて呼吸をしていた。声にならない声だが、ヴォルフはその目から訴えを読み取った。
 動きやがれ、と。いや。動けるもんなら動いてみろ、だろうか。
「上等だよ──」
 ヴォルフは深く息を吸って止めると、全身で大きくしなりを作って、さながら鞭のように腰を引くと同時に素早く打ち付けた。ズパァンッと肉と肉のぶつかり合う音が響き、男女の混ざり合った汗がはじけ飛んだ。
「ンッああッ♥」
 甘い嬌声が上がる。
 まだまだこんなものではないと、呼吸を止めた無酸素運動で、ヴォルフは無心で次から次へとピストンを繰り出していった。
 肉のはじける音、汁が溢れ出る音、女が啼く音、男が呻く音。
 すべてが混然一体と混ざり合う、激烈な運動であった。
 ヴォルフはやがて限界を悟り、ぶはぁと息をついた。同時、膣が急速に収縮し、スペルマの放出に合わせて更に深く男根を飲み込む。
 ドクンドクンと、心臓が股間に移ったのではないかと錯覚するほどの熱い脈動は長く続いた。少女の子宮は限界まで下がり切り、ひと粒も逃すまいと、喉を鳴らすようにして子種を収めていく。
 そうして射精を終えた後、1人と1匹は不意に見つめ合い。
 どちらからともなく、舌を絡めた。


 ○


 ぱちんぱちんと、少女の双乳がクラップ音を響かせる。間の抜けた手拍子のようなそれは、ヴォルフが後背位の体勢で少女の腕を掴んで突いている為で、抑えるもののない乳房が踊り狂って音を奏でているのである。
 最初の射精を正常位で交わしてから、横にしたり、抱きかかえたり、寝転がせたりと次々に姿勢を変えて少女とまぐわうヴォルフだったが、何とも言えない違和感を覚えていた。
 驚くほどの短い間隔で何度も射精できている、ということは驚きには値しない。既に魔界と化したこの空間、しかも階下で元凶が交わっているという状況で、ヴォルフの精力は底抜けになっているからだ。
 不思議なのは、少女の殊勝すぎる態度だった。素直に服を脱いだり、激しくしろと言ったり、もっと出せとせがんだりはするものの、積極的にマウントをとってこようとして来ない。別に消極的というわけではなく、むしろいつもより長く挿入を促してくるのだが、主導権を握ろうとして来ないのだ。
 それは普段の彼女ではなかった。天国にも上るようなセックスの中で、それがシコリのようにヴォルフの喉に引っかかっていた。
 かといって「いったいどうした?」なんて直裁に聞いては藪蛇になることをヴォルフは女への扱い方として察していた。だから自分の小さな疑問は捨て置いて、少女の望むままに行為を続けようと割り切る。
 だが、ついにというべきか。
 5度目の発射を終え、呼吸を整えていたヴォルフに、少女が口火を切った。
「……なあ」
「どうした」
「オレの身体、気持ちいいよな?」
「……」
 何を馬鹿な、と思わず返しそうになって口をつぐむ。
 そして普段の少女らしからぬ態度と、争い合ったときの状況と、この街に来てからの振る舞いを思い返す。
 魔に変じつつ長い間絡み合っていたせいか、何度も味わった少女との身体の思い出ごと、意識は遥か遠くにまで遡った。それはヴォルフ・ウォーレンという聖騎士が死に、少女と出会うまでの欠片。
 ケチな栄誉に目が眩んだ同僚に騙され、聖騎士団から追われたこと。
 戦犯者として懸賞を掛けられ、命からがら国から逃げ出したこと。
 追っ手に追われて逃げた先の洞窟で少女に庇われ、命を救われたこと。
 寝床にいたのだからお前はオレのもんだと告げられ、それから旅を供にした。
「そうだな……」
 じっと考える。少女は息を呑んで答えを待っている。
 街に来る前、少女は自信満々にお前はオレのモノだと言っていた。
 妙な女に会って、少女は自分のモノに手を出すヤツは許さないと怒っていた。
 そしてカタコンベに駆けつけてくれたとき、少女が怒っていたのはおそらく。
 ヴォルフは考え、自分なりの答えを出した。不安げに見つめてくる少女を、思っていた以上に大事に感じていたことに初めて向き合う。
「最高だよ。さすがは俺のもんだ」
「──っ」
 キュル、と少女の瞳孔が細まるのを見て、ヴォルフは恰好つけ過ぎたかと後悔する。だがその瞳が、まるで雨粒のように潤んだのを見て、撤回しないことを決めた。
 不意に少女の脚が曲がり、ヴォルフの腰に巻きつく。背筋と腹筋とを器用につかって仰向けから身を起こした少女は、繋がったまま、ヴォルフの顔を見つめた。
「ばーか。お前のもんは、こんなもんじゃねえよ♥」
 らしくなってきたな、とヴォルフは降参するように仰向けに寝転がった。
 その上で、少女は満面の笑みで腰を振り下ろす。

 おとがいをそらした狼少女は、先の鐘の音に負けない声量で遠吠えを上げた。夜の帳を切り裂いて、狼の鳴き声はあまねく響く。

 その声こそは一夜にして魔都市を築いた傾国の魔犬の証である。

 事件はやがてアンデッドフールの目玉の演目となり、長く市民に愛されたという。
24/08/15 19:40更新 / カイワレ大根
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■作者メッセージ
ここまで読んでくださりありがとうございました

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