それからの俺たちは、などと、エピローグ的に話は終わらない。
　これは人間と魔物が出会ったなどというおとぎ話ではなく、ただのリーマンに性欲過多な彼女が出来たという下世話なマンミーツガールである。めでたしで流せるほど日々の生活は軽くないのだ。

　当然、性器で繋がったまま告白した俺は、なし崩し的に3回戦に挑むことになったし、白熱し過ぎて後背位やら対面座位やら様々な体位を試しながらの4回戦にもつれ込んだし、そうなった頃には他の人格も目を覚ましてしまってて、不満げな紫カオルを押し退け出てきた淫乱ピンク神官女さんは「オオトリとは美味しいところをごめんなさいね」と、手と口と股間という３点バースト限界耐久種付けプレスを強要してきて、そのドギつい喘ぎっぷりとだらしなさすらある柔らかな媚肉があまりにもドストライクで、思わず熱が入った抽送でアヘ顔ＫＯを叩き出した結果、蛇的に嫉妬深いカオルの不況を買い、乳首舐め素股で延々と空撃ちをさせられた後、乳首舐めという雄の匂いを味わいつつマーキングまで行える行為を大変お気に召したご様子のライオン王女に全身という全身を舐められ、じゃあ私の乳首も舐めて欲しいとかつての雄の記憶と雌の喜びが混ざり合ったハイブリッド性癖勇者がえげつない手淫と一緒に乳首を差し出してきたりした。
　猿が如く性欲に溺れたと言えばそれまでだが、実害は洒落にならないもので。
　告白からおよそ８時間後。俺はようやく解放された。
　冷静に時間を数えられるあたり、インキュバスと化した自分の体力が空恐ろしい。

「大遅刻じゃねえか……」

　時計を見て、スマホの履歴を見て、脱力する。ゴンゴンと唸るエアコンの冷気が要らないくらい脳が冷えていた。
　救いなのは、昨日の体調不良(のような様子)を見た上司からの「調子悪いなら仕方ないけど連絡くらい寄越せ」というお叱りのメールが来ていたことである。無断欠勤に違いはないが、心境の差は大きい。あれだけ無茶をしていたのに、コンディションが万全なのは既に人外と化している影響だろうか。
　異様なまでに絶好調だが、汗はかく。カオルはまだ寝ているのでエアコンの設定はいじらず、まずはシャワーを浴びることにした。
　諸々を洗い流した後、職場に電話で詫びを入れ、正式に休みをいただく。普段の態度が功を奏したのか、下手な追及はされなかった。
　ひと息つき、部屋に戻る。部屋はエアコン独特の空気の中に、雄雌の体臭がドギついことになっていた。シャワーで嗅覚をリセットしたせいで余計に際立って思える。窓を開けるか迷うが、その前に彼女の様子を伺う。
　カオルは、汗やら白いアレやらに塗れたベッドの上で寝入っていた。原理は分からないが、いつの間にか魔物のパーツは無くなり、人型に戻っている。おっぱいが鏡餅がごとく重なっている光景は大変に眼福ではあるが、冷静に見返してみれば、マットもシーツもえらいことになっている。買い替えも視野に入るレベル。
　後悔はないが、やるべきことが増えたと凹んでいると、カオルの目がパチリと開いた。のそのそとシーツを掻き抱きながら身体を起こす。
　しゅるしゅると髪色が変わっていった。ピンクである。どういう理屈だろうか。

「おはようございます、キタガミさん♪」
「お、おはよう」

　何とか挨拶を返して、ぐっと唾を呑み込んだ。このカオルはなんだか妙に、油断ならない雰囲気をまとっているのである。
　初めて出会ったのは４日前、酔って帰ったその時で、詳細は覚えていない。たぶん何もなかったのだと思う。ただ、昨晩の絡みっぷりは、一人だけ異彩を放っていた。誘われるがまま覆いかぶさったのは俺の方だが、内なる凶暴性を暴かれたというか、うまく煽られたというか。正直あそこまでやる気はなかった。結局、再度の気絶を味わったのは彼女だけだ。

「え、っと。ごめん。昨日っていうか今日っていうか」
「はい？　なんのことでしょう？」

　思わず謝罪が飛び出たが、彼女は不思議そうに首を傾げた。あれ、そういう感じ？

「ああ、いや、なんでも」

　口に出して言わないと分かりません、なんて言われたら藪蛇である。羞恥心に耐えられない。なので俺は言葉を濁すことにした。誠意よりも気恥ずかしさが勝るのだ。許して。

「シャワー使えるよ。ゆっくり休んで」
「まあ♪　ありがとうございます」

　誤魔化すように告げる。彼女はシーツに転がった布切れ――ピンクのベビードールだ――を掴むと、俺の脇を抜けて洗面所に向かった。と、

「激しいのは大歓迎ですよ♥」
「――っ！？」

　すれ違い様に、パンイチの俺の股間を手が撫でていく。いたずらっぽく舌を出す彼女に、俺は硬直した。ついでに息子も硬直した。
　洗面所へ消える彼女の姿を追いながら、まあ気にしてないなら良かったと安堵した矢先。
　ガラリと再び扉が開いて頭だけ出したのは、紫メッシュのカオルである。刺すような視線を俺に寄越して、

「私も」
「はい」

　ピシャリと閉じられる扉。縮み上がった肝とは裏腹に調教済みの股間はますますいきり立っていた。もはや主導権はあちらにある。
　ともあれ急な休みになったわけだが、やることは山積みである。このアパートは一人用なので、同棲するとなれば引っ越しの手配をする必要があるし、多少気は早いが、籍を入れるとなれば会社への申請だってしなければならない。
　どこから手をつけたものかとメモ帳を引っ張り出していると、背後から声がかかった。

「ねえ。誰か忘れてない？」

　青肌黒髪の悪魔美女、篠宮さんが立っていた。
　黒いベビードールは既に脱いでいて、鈍い光沢を放つ金属プレートを身体に這わせている。鎧という表現は論外、服と呼ぶのもはばかられる露出度だ。スタイリッシュビキニアーマーとでも言うべきか。
　暢気な思考の片隅で、羽音のようなシャワー音が聞こえる。カオルの不在をついてきたのだろうか。

「忘れてませんよ」
「あらそう。あんまりあの子たちと夢中なものだから、不安になっちゃったじゃない」

　すっ、と片腕が俺の首に回された。紅い鉤爪が俺の頬にひたりと当てられる。ついでとばかりに、ぐにゅりとしたハリのある弾力の塊を押し付けてくる。
　篠宮さんは顔を寄せてくる。キスが出来るほど近く、桃色の吐息を嗅がせるように。

「どうだった？」
「最高でした」

　正直な答えだ。忘れられない夢の時間だったし、一生を賭して守り抜きたいと思えた。これまでの価値観も、これからの価値観も、カオルより上にくることはないだろう。
　彼女なしでは生きられない。本気でそう思う。

「ええ、そうでしょうとも。わたし自慢の娘たちだもの」

　篠宮さんは満足げに笑む。当然の答えだと言わんばかりだ。

「けど」

　と、笑顔の質が変わる。慈愛すら含んでいた笑みが、嗜虐の色へ。

「忘れたとは言わせないわ。わたしとの契約を、ね」

　契約。
　昨日、カオルを抱くと腹に決めてから、俺は篠宮さんと契約を交わした。劣情に思考が奪われない為の防護壁と、特性コンドームをいただく代わりに、３つの決め事をしたのだ。

　ひとつ。カオルの用意している設定にはなるべく従うこと。怪しまれない為に。
　ふたつ。用意した秘密兵器は全て使い切ること。これが肝なので絶対遵守。
　みっつ。無駄弾は許さない。出すときはすべてカオルの中で出すこと。なんかムカつくから。

　ふわっとした内容ではあるが、これらはきちんと誓約を結んだものである。判断基準は互いの認識。うわべで誤魔化すことはできず、双方が納得し合うことで条件クリアとなる。

「ひとつめ。カオルは"家に遊びに来た彼女"を演じてた筈よ。途中で告白をするなんて想定外だと思わない？」
「愛の告白なんて、いつしたっていいでしょう。友達以上恋人未満の関係かも知れませんよ」
「ふふ。まあ私もちょっかい掛け過ぎたし。おあいこでいいかしら」

　ずいぶん甘い。いや、契約はひとつでも破ればアウトだった。つまり、

「ふたつ。ゴムはちゃんと使い切った？」
「いちおうは」

　4回分のコンドーム。繋がりっぱなしで替えるタイミングには難儀したものの、ちゃんとそれぞれの人格……4人に対して、ゴムありでやれた。やる意味があったかは知らないが、おかげで今の俺にはカオルの魔力が行き渡っている。
　魔物娘は魔力を、インキュバスは精力を渡して循環させる。これが彼女たちの根幹だと聞いている。

「じゃあ……みっつめ」

　ギリ、と鋭い歯が噛み合う。美人の怒り顔はえらい迫力だ。

「無駄弾、してたわよね」

　否定できない。
　主に、乳首舐めと素股の合わせ技でだいぶ持っていかれたし、授乳手コキプレイでも相当数が中空へ放たれていった。

「あなたの子種は何をもってしても代え難い至高の甘露だというのに、ドブに捨てるような真似をよくも……あら、それはそれで興奮するけれどそれはそれとして」

　エロけりゃなんでもいい、とはならないらしい。

「契約通り。あなたの魂をいただくわ」

　ニンマリと、三日月形に口元が歪む。背筋の凍るような邪悪な顔立ちだ。

「奴隷という話では？」
「決め台詞みたいなものよ。同じことでしょう？」
「そうですか」

　俺のイメージだが、魂をとられるというのは、無気力な抜け殻にされるみたいな印象だった。ポワンと口から人魂が出る的な。だが篠宮さん的には、生涯を捕らえるという意味らしい。どちらにしても自由意志を奪われるのは同じだろう。
　それは看過できない。

「先延ばしにはできませんか？」
「あら、寿命が延びたのを利用する気？　ダメよ、今ここで裁くわ」
「じゃあ、ひとつだけ聞かせてください」

　頬に当てられた指を掴む。鋭利な爪の見た目をしている癖に、やけに素肌に馴染む硬さだった。

「あなたは誰なんですか？」
「なに？」

　なにを急に、と鼻で笑う表情。当てずっぽうだと思われてるのか。それは侮りというものだ。俺だって、ただ漫然とカオルを抱いていたわけじゃない。

「カオルと同じ匂いがします。あなたから」
「……」
「シャワーの音、聞こえてますよね。カオルがさっき入ったんです。でも、音しか聞こえない」

　鋭敏になったインキュバスの感覚なら、床に直当たりする音と、肌を伝って落ちる音くらいの区別はつく。確かめずとも分かる、シャワーは垂れ流しているだけだ。勿体ねえ、すぐに止めたい。
　だがそれは、目の前の疑問を解消してからだ。

「責める気はありません。納得もできます。俺はただ、カオルのことが知りたいだけだ」
「……うん」

　握っていた指から力が抜けた。その次の瞬間、むくむくと膨らみだす。
　はたしてそこには、正体を出したキマイラの姿があった。
　昨日と決定的に違うのは、片眼が白目が黒く反転した紅になっていることと、篠宮さんの背にあった、黒色の羽が生えていることだった。

「話すよ。全部」


　○■○


「私は悪魔が変じた蛇」

　カオルが口を開く。その髪色は紫に、黒のメッシュが入っていた。

「私たちは、ある魔術師に生み出された魔獣。元は、3人の人間と1匹の悪魔。魂を獣の器へ入れ込まれた」
「人間……」

　勇者、神官、王女。
　喫茶店でさらりと聞いたが、まさか本当に、元は人間だというのか。

「私たちの世界では、人が魔物に変じるなんてありふれた話。あなた達の世界にだって、人が獣になったり、獣が人になったりするでしょう」
「いや、それはおとぎ話だ」
「おとぎ話が目の前にいる」
「んぐ」

　そりゃそうだ。

「私はもともと、その魔術師の使い魔として喚ばれてた。それなりに力がある悪魔だったけれど、そいつはもっと強大で、凶悪で、狂ってた。
　かつては勇者だったって聞いてる。でも、力に憑りつかれて、知識の探求にばかりのめり込んで、触れちゃいけないものに触れちゃったみたい」

　カオルは、どこか悲し気に語る。その魔術師に思うことがあるのか、自分の扱いを思い出しているのか。

「そのうち、人を攫うようになった。色んな実験に使っては次を捕まえて、ついには、王女を誘拐した。このあたしをね」

　不意に口調が変わる。髪色が変じて、亜麻色へ。

「どうも、人間の適正を区別してたらしいよ。私は偶然、そいつのお眼鏡に適っちゃったってわけ。難なく攫われちゃって、そりゃーまあ泣いたし叫んだし悲しかったよ。ワタクシが何をしたんですってね」
「っ！」

　冷や水を浴びせられた感覚だった。自覚すると同時、自分の愚かさに強い怒りを覚える。
　当たり前だ、"そういう"話だこれは。

「ごめん、無理に聞く気はないんだ。辛いなら話さなくても、」
「んっんー」

　ぴとりと、唇を指で止められる。

「だいじょーぶ。ぶっちゃけ、今の今まで忘れてたし。キタガミが力をくれたから、はっきり思い出せるんだ。今は怖くないし、嬉しいくらいだよ。だから聞いて欲しいな」
「……そう、か」

　釈然としないが、カオルが言うなら。
　俺は上げかけた腰を下ろし、再び耳を傾ける。

「そんで、王女の危機に立ち上がったのが、この私です」

　するりと声音が変わる。髪は濃藍色だ。

「その頃はまだ男でした。民を守り、魔王を討つ為、私は魔物を成敗することを生き甲斐としていた。現魔王のひとつ前、まだ魔物が人に仇をなしていた時代のことです」

　魔物が人の形をとり人と交わるようになったのは、時代の転換点があったせいとは聞いている。それまでは、血で血を洗う関係……正直言えば、ゲーム的にそちらのが理解しやすい。

「その魔術師は、もはや人間とは言えませんでした。力に狂い、欲に溺れていた。王女の件でようやく感知され、私は知り合いの神官を伴い、討伐に向かったのです。あ、別に恋人とかじゃありませんよ？　ビジネスライクなお付き合いというやつです」

　凛々しい目元がふにゃりと柔らかくなり、急にこちらへしな垂れかかってくる。ピンクの髪を寄せるようにして、俺の腕にしがみついた。

「うぉ！」
「んふふ♪　照れたお顔もカッコイイですねぇ」

　ぐりぐりと指が胸元をいじってくる。なすすべもなく、昨晩さんざっぱら弄られた箇所が疼いてきた。

「いちおう、そういうことに興味はありましたけどぉ。勇者さんは好みから外れてました。キタガミさんと違って無愛想だし、ねぇ？」
「あ、えっと」
「お前の実力を買っていただけだ、罰当たりめ。司祭を篭絡して地位を得たと聞いているぞ。みなが何と呼んでいたか、知らんわけではあるまい。キタガミさん、騙されてはいけませんよ」
「いや、その」

　目まぐるしい。ひとり言に違いはないのだろうが、声のトーンに表情も変わるからホントに別人のようだ。別人なのだけど。よく出来た小芝居を見ているような気分になってくる。慣れるのに時間が要りそうだ。

「魔女、でしょう？　べつに何と呼ばれたって構いませんけれど、私の信仰にケチをつけないでくださいな。少なくとも、薄汚れた親父なんかに髪の毛一本だって許しておりません。
　ねえキタガミさん？　私の処女、いかがでした？」
「んんっ！？」

　突然、噛みつかんばかりに顔が寄ってくる。なに言ってんだこの人。
　一見にこやかな笑顔なのだけど、妙なプレッシャーがあるのは、瞳の奥に他の人格が宿っているせいだろうか。

「大事に大事に、とって置いたんですよ。私だってそれなりに生きてはおりましたから、ちょびっと魔が差しそうなことはありましたけどぉ……やっぱり最初は、好いた殿方に捧げたくて♥」
「ぇあっ、うん、良かった、です、はい」
「あらあらあら嬉しいお顔をありがとうございます♥　今からでも続きをいたしたいところですけれど、説明があるから。アナタはもう黙ってて」

　急に能面のような表情になって、冷たい口調を浴びせてくる。俺に言ったのかと思った。びっくりだよ。
　ただ、興奮が伝播しているのか、その顔は紅潮していた。どういう原理になっているかは後で聞くとしよう。
　ともあれ、説明が続く。

「悪魔を従えた魔術師が王女を攫った。勇者と神官が組んで討伐に向かった。ここまでは大丈夫？」
「ああ」

　よくあるお話。違うのは、俺が知っているのは勧善懲悪のおとぎ話で、彼女らのは現実に起こった事件ということ。

「その後はシンプル。勇者たちは敗けて、王女と悪魔ともども、魔獣に変えられた」
「……」

　悪は栄えない、なんてのはただの理想で。
　現実は平等で冷徹だ。

「ひとつ付け加えると、悪魔は自分の『半分』を逃がした。人間と違う構造だからできた芸当。それが私」

　自分の胸元に手を当て、カオルが言う。

「喫茶店で、俺と契約を結んだのは？」
「私から分離した私。分かれて混ざったせいで、性格も変わっちゃったのよ。身体を混ぜることはできるけど、固まった人格は戻せない。私が悪魔で。私が蛇」

　程度の差はあれど、人の性格だって、環境が変われば変化するものだ。他の人格と混ざり合ったケースと、それを逃れたケースなんて、想像もつかないが。

「蛇には感謝しています。私たちが心を砕かずにいれたのは、彼女の尽力のおかげです。魔獣に堕ちることは、人間の身には耐え難いものでした。名前を呼び続けて、支えてくれた」
「名前を？」
「うん。実感は湧かないんだけど、なんか落ち着くんだよね。『だいじょうぶ。ここにいるよ』って、ずっと声をかけてくれたんだ」
「うん」
「あれには勇気づけられました。色んな記憶が混ざり合って、名前も分からずにいた私たちの、生きる指標になってくれましたから」
「そうか」
「勘違いしないで欲しい。私は私を守るのに必死だっただけ。あなたたちの自我が強すぎて、私を侵食しそうだったから」

　自分を守るため、というのは真実だろう。だけどそれは、誰によるでもない、褒められるべき偉業である。
　それは、ひとりで成し得たことではない。全員が力を尽くした結果だ。

「……がんばったな」
「褒めるなら私を褒めてちょうだいな。言葉も喋れなかったこの子たちの面倒をずっと見てたのは私よ？」
「めんどくせえな！」

　褒めようとした手を引っ込める。母子一緒とかややこしいわ。
　篠宮さん……カオルは、俺の憤慨を面白そうに笑った。

「うん、めんどくさいよ、私たち。アナタに覚悟はある？」

　気軽に言ってくれる。そんなもの、あるに決っているのに。

　ただ俺は、返事の代わりに。

　カオルの身体を抱き寄せて、その口を食べてやった。

　驚きに舌を引っ込めたのをしてやったりと思ったのは一瞬で、人が変わったように、カオルの全身が俺を歓迎してくる。隙を突くのも容易じゃない。

　まったく、長い一日になりそうだ。

■作者メッセージ
長いことお待たせいたしました。
完結です。
ここまで読んでいただきありがとうございました。