時凍る
冬吉(とうきち)は落胆した。
猛吹雪の山中。視界は雪に完全に塞がれ、自分の手すらよく見えない。
しかし、顔を上げると視線の先には暖かな光が見える。冬吉はそれを見て落胆したのだ。
彼にとって、その光――小さな山小屋の窓から漏れる灯り――は、希望ではなく、絶望の象徴であった。
「おかえりなさい」
女の声がする。その声は嬉しそうだったが、この山のような冷たい印象を与える。
彼にとっては聞き覚えのある、しかし、今最も聞きたくない声だった。
小屋の入り口である扉の前に、一人の女が立っていた。
冬吉が頭を上げ、彼女の顔を見ると、彼女は柔らかく微笑んだ。
雪を思わせる真っ白な着物。同じく真っ白で綺麗な髪。人間ではあり得ない色なのに、着物の白と合う薄青い肌。
彼が小さい頃、親から聞かされた通りの姿……雪女であった。
「風花(ふうか)……」
冬吉は、目の前の彼女の名を呼んだ。
「何故、俺を帰らせてくれない……」
寒さと飢えで、声が力なく震える。
「そんな場所にいては、凍えてしまいますわ。お話は後で聞きますから。さあ、中にお入りください」
そう言うと、扉をゆっくりと開けた。木がきしむ音がする。
中を覗くと、小屋の中央に囲炉裏があり、その上では鍋が湯気を立て煮えていた。
「帰ってくる頃合だと思っておりましたから、ご飯をご用意して待っておりました」
風花に導かれるままに、小屋の中に入る冬吉。
敷居をまたぐ瞬間に、大きくため息をついた。
――また、ここに戻ってきてしまった。
冬吉が初めてこの小屋にやって来たのは、二週間ほど前である。
この山は、冬になると氷の魔法石が取れることで有名であり、毎年何人もの人間が、命がけで登りにやって来る。
彼も、そんな命知らずの一人であった。
分厚い藁を着込み、山を登ること半日。魔法石が取れる場所までもう少しという所で、吹雪に襲われた。
方向が分からず、しかしいつ止むか分からない以上、その場で立ち往生するわけにも行かない。
一歩一歩、方向を確かめながら前に歩き続けた。
何時間か経ち、意識が朦朧とし始めた頃。目の前に、柔らかい灯りが現れた。
――山小屋だ……
彼は助けを求め、その扉を開けた。それが、冬吉と風花の出会いである。
「嬉しいですわ。また私の所に戻っていただけて……」
茶碗にご飯を盛りながら、風花は言った。
頬を赤く染めて、恥ずかしそうに俯いている。しかし、瞳はこみ上げる嬉しさに輝いている。
対する冬吉も、同じく俯いていたが、こみ上げる感情は彼女と真逆であった。
これまで三度、この山小屋から、この冬山から脱出を図ったが、ことごとく失敗した。
半刻も歩けば、吹雪に視界を奪われ、気がついたら山小屋の前に居る。
二度目の脱出の時は、吹雪の中、立ち止まって一歩も動かないでいた。
しかし、吹雪が明けると、目の前にはこの山小屋が建っていたのである。
二週間前のあの日。一夜限りと宿を借りたあの日。
あの時から、彼女の様子は少しおかしかった。
「あの、近いんですけど……」
冬吉は戸惑いながら言った。
初めて会った間柄であるので、囲炉裏を挟んで対面するのが普通であろう。
しかし、風花は彼の肩に、ぴったりと自分の肩を寄せてきた。二人の食器もぴったり寄り添っている。
「その……私寒がりですから。なるべく人の近くに居たいんです」
「は、はぁ……」
よく分からない答えをする彼女であったが、彼はとりあえずうなずくしかなかった。
何しろ、こんな山奥に暮らしている魔物である。人間の常識が通用する相手ではない。
何とはなしに彼女の方に顔を向けていた彼であったが、ふと顔を赤く染めると、慌てて目をそらした。
彼女の瞳を覗き込むと、何か狂おしいほどの情念が、欲望の炎が、めらめらと燃え上がる感覚がして、怖くなったのだ。
人間ではありえないほど、青ざめた肌であったが、彼女はとても綺麗だった。
いや、むしろ、人間でないからこそ、人間離れした美しさでいられるのだろう。
目の前の白米を噛み、温かい野菜汁を啜りながら、彼は左肩に彼女の体温を感じていた。
氷のように冷たい。彼の体温がどんどん吸い取られていく。
「ああ、暖かい……そういえば、冬吉様は、雪女を見ても驚かれないのですね」
彼女はそう言いながら、白米を口に運んだ。口内で吐息を浴びた米はたちどころに凍り、噛むたびにしゃくしゃくという音がする。
「え、ええ。ここに居る雪女は、人を襲ったりしない、怖くない魔物だ。と聞いていますから」
「あら、そうですか。それは嬉しいですわ」
彼女は微笑んだ。
横目で彼女の顔を見た冬吉は、それを見てまた急いで目をそらした。彼女の笑顔は、雪の中で育った儚げな一本の花を思わせた。
彼の故郷に伝わる雪女伝説は、我々が知るものとは少々毛色が違う。
――ある男が、冬の山に登っている最中に猛吹雪に襲われた。
――前後不覚になりながら更に歩を進めると、一軒の山小屋を見つけた。
――そこには一人の雪女が住んでいた。一夜の宿を頼むと、彼女は快く承諾し、ご飯と寝床を用意してくれた。
――翌朝。彼は彼女の手厚いもてなしに感激し、お礼として、山を越えた目的地に運ぼうとしていた炎の魔法石をひとつ、彼女に渡した。
――すると、彼女はある方向を指差し、目的地までの道のりを教えてくれた。
――彼女の言うとおりに歩くと、ものの半刻で目的地にたどり着くことができた。
「人でない存在でも、決して区別することなく、優しく接さないといけないのだよ」
この話を語った後、母親が必ず言った言葉を、冬吉は思い返した。
彼の住む地方では、山から降りて来たり、空から降りてきたりと、魔物の存在が珍しくない。
人間よりも大きな力を持ち、好色な彼女たちを差別することなく生活していけるのは、こういった小さな頃からの教育のおかげである。
その後、幾度か他愛のない会話をし、彼らは夕食を食べ終えた。
腹が満たされ、彼の瞼が重くなったその時、彼女の手が彼の着物の胸元に入り、素肌に触れた。
あまりの冷たさに、彼の体がびくりと震える。
「な、何やってるんですか」
「寒くて仕方がないんです……人肌が恋しくて、恋しくて……ですから、冬吉様、私を、暖めてくださいませんか?」
そのまま彼女は、彼の胸元にしな垂れかかった。
もう片方の手も、彼の胸板に差し入れ、器用に着物の上半身を脱がした。
「あ、暖まるなら、何故俺の着物を、脱がせ……」
「夜に男女が二人きりで、暖めあうといえば、方法はひとつしかありませんわ」
そう言いながら、彼女は冬吉の顔に吐息を吹きかけた。
その瞬間、彼の手足はまるで氷付けになったかのように、動かすことができなくなってしまった。
しかし、それまで理性で何とか押さえ込み、燻っていた情念の炎が、一気に燃え上がるのを感じた。
――彼女と一緒に暖まりたい。いや、彼女を抱きたい。
思考が鈍り、視界は霞がかかり、脳内は桃色に満たされた。
「冬吉様は、何もしなくてよろしいですわ。私に心も、体も、全て預けてくださいませ」
風花は彼の体を横たわらせ、片方の手で上半身を優しく愛撫しながら、もう 片方の手で彼の着物の帯を解いた。
冬吉は戸惑った。
――雪女がこんな事するなんて、聞いた事がない……
母や祖父母から聞いた御伽噺に登場する雪女は、どれも人間に友好的で、清楚であった。
だが、目の前の雪女、風花はどうだ。目を潤ませ、頬を朱に染め、視線は先ほどまで下着に隠されていた、冬吉の硬くそそり立った逸物に注がれている。
「もう、先から滴が……れろぉ……」
彼女は、彼の先走り液が滲む亀頭を、躊躇うことなく舐め上げた。
彼女の舌は、氷嚢を押し当てられたかのように冷たかった。しかし、それ以上に気持ちよかった。
「うぅっ……あっ……」
ため息を漏らし、冬吉の体は海老反った。彼女の舌遣いは、電流のような快楽を彼の脳に送る。
「とっても敏感ですわね。舐めただけでそんなに震えてしまわれて……」
目を細め、大きく鼻から息を吸い、匂い立つ性臭を嗅ぎながら、今度は竿の根元から舐め上げる。何度も舐め上げる。
冬吉は快楽の吐息を漏らし、舌が裏筋に触れるたびに、大きく呻いた。
「あらあら、滴が止まりませんわね……涎みたいに垂れて……もったいないですわ。はむぅ……」
舌を絡ませながら、彼女は口内に陰茎をくわえ込んだ。
「じゅぽっ、じゅぽっ、じゅぽっ……冬吉様のこれ、とっても暖かいですわ……」
目を潤ませ、まるで極上の美味を味わうかのように、口を蠢かせる。
特に、我慢汁があふれ出る尿道口を、丹念に集中的に舌で攻撃する。
「あうぅ……ぐぅ……」
自身の体温を奪われ、股間の感覚が徐々に麻痺し始めた。だが、舌による愛撫は、強烈な快感を彼にもたらす。
「ふふ……亀頭が膨らんできましたわ。もう漏らしてしまわれるのですね」
陰茎を口に含んだまま、嬉しそうに声を上げる。
冬吉は顔を赤らめた。早漏と非難されているようで、恥ずかしくなったのだ。
彼はいまだ独身である。彼の住む村では、成人と認められると、村の長老や両親たちが勝手に男女をくっつけて、婚約させてしまうのだが。
不運なことに、彼の世代は男子比率が異常に高く、お嫁さんを貰う事ができなかったのだ。
よって、当然童貞である。
「もう、出るっ!」
「んふぅっ!ごくっ、ごくっ……熱い……それに、とってもこってり……」
口から肉棒を離した風花は、天を仰ぎながら、大事に大事に、口内に射精された精液を飲み干した。
とても幸せそうに精液を飲み込んでいく姿を見て、彼の逸物はまた勃起した。
「ああ、尿道に残った精液が、溢れ出て……もったいないですわ」
小さく脈動した鈴口からこぼれた残り物を、彼女は急いで舌で舐めとった。
――さっきより、少し暖かい……
猫が皿に入れられた水を舐めるように、ちろちろと亀頭を這う舌は、最初よりも温度が高くなっていた。
「私は、精液を体内に放たれると、それだけ暖かくなれるのです。ですから、もっと、もっと……いっぱい私の中に放出してください……」
「何で、俺を里に帰してくれないんだ」
冬吉は風花をにらみつけた。
冬の山を毎年踏破し、背負い籠にいっぱいの魔法石を持ち帰る彼のにらみは、狼すら怯ませる凄みがある。
しかし、彼女はそれに動じることなく、ぽっと頬を赤く染めた。彼女にとっては、彼に見つめられるだけで幸せいっぱいなのである。
「それは、私の結界のせいですわ。私たち雪女は、こんな山奥に住んでいるので、男性に出会うこと自体が稀なのです」
だから……と彼女は続けた。
「だから、一度この山小屋に入った男性は、ここから一定距離離れると、吹雪と共に舞い戻ってしまう結界が作られるのです」
「ふざけるな!」
冬吉は床を叩いた。
「俺は、麓の里に家族を残してるんだ。この山の魔法石をな、持って帰って金に換えて。そうしないと、みんな冬を生きていけないんだ!」
力強く握ったこぶしを、ぶるぶると震わせた。
「そうは言っても、本当は……私の事を好いておられるのでしょう?」
震えるこぶしに手を添え、彼女は言った。
「いくら男性に出会えない私たちでも、相手の意志に反するような事は致しませんわ。私たちの結界は、簡単に抜けることができるのです」
「ど、どうやって……」
「雪女には一生出会いたくない。雪女なんか嫌いだ。そう思えば、簡単に抜けることが出来ますわ」
身を乗り出し、冬吉の胸にそっと抱きついた。
「だから、心の奥底では、冬吉様は私の事を愛しているのです。私が冬吉様の事を愛しているように……」
「そ、そんな事、あるはずがっ」
ない!と叫ぼうとしたが、途中で口をつぐんでしまった。
――本当に、彼女を愛していないのだろうか。
そして、彼の頭に浮かぶ疑問。
自分はここから逃れようとする時、何を考えていたのか。彼女に襲われた時、自分は嫌々ながらも、彼女の体を抱いたではないか。
いや、そもそも、嫌々だったのか……
確かに、最初は戸惑った。御伽噺の中の、清廉潔白な雪女とはあまりにも似ても似つかぬ淫乱さに、自分の心は混乱した。
しかし、己の欲望の塊を口に含まれ、その上放出した液体を、至上の幸福とばかりに受け止めた時の彼女の顔を見て……
射精するたびに、彼女の体は温かくなっていった。
騎乗位に組み敷かれ、彼女の胸を揉みしだきながら、何度も何度も射精した。
終盤になると、彼女の皮膚は少しずつ青みが減り、玉のような汗を滲ませ、魔性の瘴気のごとく、彼女の体から湯気が立ち上っていた。
その時、自分は何を思い彼女を抱いていたのであろう。
――寒がっていた彼女を助けるため……己の凝り固まっていた性欲を放出するため……
――いや……
「俺は風花を、愛しく想っていた……」
名を呼ばれた彼女は、はっとして彼を見上げた。目には涙を浮かべている。
彼を一目見たときから、風花は彼に惚れていた。今まで味わったことのない、 身体が蕩け切ってしまう程の劣情を感じたのだ。
彼女はまさに、彼が幼い頃に聞いた、雪女伝説に登場する雪女である。
普通の男には――伝説にはない、淫らな交接があっただろうが――行き先を示し、遭難から助ける優しい魔物であっただろう。
一冬に一夜精を貰えば、それで彼女は生活していくことが出来たのだ。
いくら男性に会うのが稀であっても、ここは氷の魔法石の産地。他の山よりも、やってくる男の絶対数は多い。
しかし、彼を見た時は違った。彼女は彼を決して帰したくはないと思ったのだ。
一生、彼とここで添い遂げたい。そう思ったのだ。
「だが!だがな!俺には家族がいるんだ!麓で待ってるんだ!いくらお前が愛しくても……帰らないわけには、いかないだろうが……」
怒気を込めた声が、最後の方はすすり泣くような声に変わっていた。
「確かに、私はこの山から出ることは出来ません。だから、麓で一緒に暮らすことも出来ません」
しかし……彼女は言う。
「しかし、冬吉様が、家族の心配をする必要はないのです。何故なら、ここには氷の魔法石が豊富に存在するからです」
「どういう意味だ」
冬吉は眉間に皺を寄せながら呟いた。
「氷の魔法石は、その名の通り、周りの空気を冷やし、作物を凍らせ、水を凍らせ、保存する事が出来ます。
そして、物を凍らすことが出来るなら、時を凍らせる事も出来ましょう」
「時を……凍らせる?」
彼は首を傾げる。
「はい。つまり、冬吉様がこの結界に入ってから、まだ一刻も、半刻も、刹那すらも、時間が経っていないのです」
「なっ……」
冬吉は目を丸くした。とても信じる事の出来ない言葉である。
時を止める?外の時間は刹那すら経っていない?
だが、確かにそれが本当ならば、彼の心配は消え失せる事になる。
「信用、していないようですね」
彼女はため息をついた。
「そりゃあ、まあ……いきなりそんな事を言われても、信用は出来るわけがない」
「まあ、それもそうですわね……分かりました」
再びため息をつくと、彼女は今居る囲炉裏の部屋から土間に入り、そこからこぶし大の石を持ってきた。
青く輝き、冷気が発せられている……氷の魔法石である。
「この魔法石には、私の魔力が込められています。どうぞ、手に持ってみて下さい」
彼女は彼に、その魔法石を差し出した。彼はそれを、緩慢な動作で受け取る。
「それで、これからどうすれば……」
そう言った彼の言葉は、途中で止まってしまった。
風花は、手を差し出した状態のまま、微動だにしない。
「え……え?」
彼は始め、彼女の悪戯だと思った。俺と一緒に居たいから、嘘をついているのだろう、と思っていた。
彼女の体をぺちぺちと触る。腕を動かそうとする。氷の彫刻のように、微動だにしない。
髪の毛をまさぐる。彼の手に持ち上げられた髪の毛が、重力に逆らい、彼の手に動かされた時のまま、落ちてこない。
更に、彼の手に当たって頭から抜けた彼女の髪飾りが、空中で静止したのを見て、彼は確信した。
――時が、本当に止まっている!
「うわぁ!」
彼はその瞬間、驚きのあまりひっくり返り、手から魔法石を落とした。
それと同時に、彼女の髪が降り、髪飾りが音を立てて床に落ちた。
彼女はしゃがんで髪飾りを拾いながら、彼に向かって微笑んだ。
その時確信した。彼女の言っている事は、全て真実である。
しゃがみこんだ風花と、尻餅をついている冬吉の視線が交わった。
止まった時の世界に、動いているのは自分たち二人だけ。
外の世界の心配は一切しなくていい。そして、無限の時の中で、二人は愛し合っている。
彼は吹っ切れた。彼は彼女の両肩を掴むと、そのまま彼女の体を後ろに倒した。
息を荒げながら、彼女の着物の帯を解こうとする。しかし、興奮で手が震え、上手く解く事が出来ない。
風花はそんな彼を見て微笑むと、自らの体を起こして、器用に帯を解いていった。
拘束が解け、彼女の裸があらわになる。
絹のような肌質、大きくたわわに実った果実を思わせる乳房、なだらかな曲線を描く腰のくびれ……
そして、わずかに毛が生え、ぴっちりと閉じた女性器。
冬吉はごくりと唾を飲み込んだ。
「何度見ても……綺麗だ……」
彼の熱の篭った視線に、彼女は淫らに微笑んだ。
彼女は再び上半身を横たえると、ゆっくりと股を開いていった。正常位の体勢。
全てを彼に任せるという意思表示。隙あれば逃げ出そうとしたあの時では考えられない体勢であった。
彼は彼女の立てられた両膝を掴むと、ぐいと広げて、彼女の女陰にむしゃぶりついた。
「んんっ!あふっ……」
強烈な快楽と温かさに、彼女は思わず太ももを締めた。
柔らかい太ももが、彼の側頭部をやんわりと締め付ける。
彼女の恥ずかしい谷を押し広げ、穴の中に容赦なく舌を掻き入れる。舌の先で膣壁をごしごしとこすり上げる。
ここ数日は、彼女の誘惑を振り切って性交を行わなかったので、中は氷のように冷たい。
彼女の快楽漬けで歪んだ顔を覗き込む冬吉からは、荒い息が白く立ち上る。
愛する男からの積極的な愛撫に、風花は歓喜の涙を流した。
「あっ、あっ、あっ……あぐぅぅぅぅぅ!」
だから、冬吉がぷっくりと飛び出した陰核を甘噛みした瞬間、彼女はあっけなく絶頂を迎えた。
足の指をきゅっと閉じ、両手で彼の後頭部を押さえつけ、更に奥に導く。
「ああ……飲まれてる……私の、恥ずかしい液……そんなにごくごく……」
冬吉は、彼女から溢れ出る愛液を、陰唇に唇をぴったりとくっ付けて、喉を鳴らして飲み干した。
更に舌をねじ入れて、中に残った液も飲もうとする。その刺激に、彼女はまた全身を震わせた。
しばらく舐め回すと、彼はようやく口を離した。
粘度の高い愛液が、糸を引いて滴った。
彼の体が、彼女の荒く息づいた体に覆いかぶさった。
「風花」
「はい」
二人の白い息が混じり合い、霧のように互いの顔を霞ませる。
ゆっくりと、男は男自身を女の中に挿入した。
二人とも、股間に甘く広がる感覚に顔を歪ませる。
「うう、冷たい……」
冬吉が呟いた。
「だって、最近、冬吉様が私を避けていらっしゃいましたから……」
「ああ、すまん……その分、今日からいっぱい出してあげるから……」
「約束ですよ」
冬吉がうなずくと、腰をゆっくりと前後させた。
「うぅ……あふっ、冬吉様の、温かいです……」
「中だけじゃなくて、外も温めてあげないとな」
そう言って、彼は風花をぎゅっと強く抱きしめた。
彼女も冬吉の背中に両手を回し、それに応える。
呻くような喘ぎと共に、二人は腰を動かし、快楽を求める。肉体がぶつかる音が小屋に響く。
ひだの一枚一枚が、肉棒を刺激し、蠢き、締め付ける。
「すまん、もう……出そうだ……久しぶりだったから……」
呻きながら、彼は言った。
「はいっ、んふっ、遠慮なく、私の中に……あんっ、お漏らし、下さい……」
無意識に、彼女は彼の腰に両足を回し、腰を引かせないようにした。
「うぐっ、出る……」
「あああっ、温かいのが……いっぱい……」
風花は冬吉の頭を抱き寄せ、口を吸った。
「ちゅるっ、ちゅっ……舌も、唇も、温かい……」
「風花のも、温かいよ……」
ひとしきり口付けを交わすと、彼は抜かずにまた腰を動かし始めた。
「あっ、抜かずに二回目、ですか?嬉しい……」
予想外の二回目に、彼女は全身を身悶えして喜んだ。
「さっき、約束したからっ!風花の中に、何度でも、何度でも、出すから!蠢く口の中にも、柔らかい胸にも、気持ちいい穴の中にも、何度でも、何度でも!」
「はいっ!何度でも、何度でも、出して下さいませ!私の口も、胸も、穴も全て、冬吉様の好きにして下さいませ!」
永遠に止まった時の中で、昼も夜も、朝も夕もない世界で、二人は永遠に交わり、愛し合った。
これから、風花の体が冷え切ることは、一瞬たりともないであろう。
猛吹雪の山中。視界は雪に完全に塞がれ、自分の手すらよく見えない。
しかし、顔を上げると視線の先には暖かな光が見える。冬吉はそれを見て落胆したのだ。
彼にとって、その光――小さな山小屋の窓から漏れる灯り――は、希望ではなく、絶望の象徴であった。
「おかえりなさい」
女の声がする。その声は嬉しそうだったが、この山のような冷たい印象を与える。
彼にとっては聞き覚えのある、しかし、今最も聞きたくない声だった。
小屋の入り口である扉の前に、一人の女が立っていた。
冬吉が頭を上げ、彼女の顔を見ると、彼女は柔らかく微笑んだ。
雪を思わせる真っ白な着物。同じく真っ白で綺麗な髪。人間ではあり得ない色なのに、着物の白と合う薄青い肌。
彼が小さい頃、親から聞かされた通りの姿……雪女であった。
「風花(ふうか)……」
冬吉は、目の前の彼女の名を呼んだ。
「何故、俺を帰らせてくれない……」
寒さと飢えで、声が力なく震える。
「そんな場所にいては、凍えてしまいますわ。お話は後で聞きますから。さあ、中にお入りください」
そう言うと、扉をゆっくりと開けた。木がきしむ音がする。
中を覗くと、小屋の中央に囲炉裏があり、その上では鍋が湯気を立て煮えていた。
「帰ってくる頃合だと思っておりましたから、ご飯をご用意して待っておりました」
風花に導かれるままに、小屋の中に入る冬吉。
敷居をまたぐ瞬間に、大きくため息をついた。
――また、ここに戻ってきてしまった。
冬吉が初めてこの小屋にやって来たのは、二週間ほど前である。
この山は、冬になると氷の魔法石が取れることで有名であり、毎年何人もの人間が、命がけで登りにやって来る。
彼も、そんな命知らずの一人であった。
分厚い藁を着込み、山を登ること半日。魔法石が取れる場所までもう少しという所で、吹雪に襲われた。
方向が分からず、しかしいつ止むか分からない以上、その場で立ち往生するわけにも行かない。
一歩一歩、方向を確かめながら前に歩き続けた。
何時間か経ち、意識が朦朧とし始めた頃。目の前に、柔らかい灯りが現れた。
――山小屋だ……
彼は助けを求め、その扉を開けた。それが、冬吉と風花の出会いである。
「嬉しいですわ。また私の所に戻っていただけて……」
茶碗にご飯を盛りながら、風花は言った。
頬を赤く染めて、恥ずかしそうに俯いている。しかし、瞳はこみ上げる嬉しさに輝いている。
対する冬吉も、同じく俯いていたが、こみ上げる感情は彼女と真逆であった。
これまで三度、この山小屋から、この冬山から脱出を図ったが、ことごとく失敗した。
半刻も歩けば、吹雪に視界を奪われ、気がついたら山小屋の前に居る。
二度目の脱出の時は、吹雪の中、立ち止まって一歩も動かないでいた。
しかし、吹雪が明けると、目の前にはこの山小屋が建っていたのである。
二週間前のあの日。一夜限りと宿を借りたあの日。
あの時から、彼女の様子は少しおかしかった。
「あの、近いんですけど……」
冬吉は戸惑いながら言った。
初めて会った間柄であるので、囲炉裏を挟んで対面するのが普通であろう。
しかし、風花は彼の肩に、ぴったりと自分の肩を寄せてきた。二人の食器もぴったり寄り添っている。
「その……私寒がりですから。なるべく人の近くに居たいんです」
「は、はぁ……」
よく分からない答えをする彼女であったが、彼はとりあえずうなずくしかなかった。
何しろ、こんな山奥に暮らしている魔物である。人間の常識が通用する相手ではない。
何とはなしに彼女の方に顔を向けていた彼であったが、ふと顔を赤く染めると、慌てて目をそらした。
彼女の瞳を覗き込むと、何か狂おしいほどの情念が、欲望の炎が、めらめらと燃え上がる感覚がして、怖くなったのだ。
人間ではありえないほど、青ざめた肌であったが、彼女はとても綺麗だった。
いや、むしろ、人間でないからこそ、人間離れした美しさでいられるのだろう。
目の前の白米を噛み、温かい野菜汁を啜りながら、彼は左肩に彼女の体温を感じていた。
氷のように冷たい。彼の体温がどんどん吸い取られていく。
「ああ、暖かい……そういえば、冬吉様は、雪女を見ても驚かれないのですね」
彼女はそう言いながら、白米を口に運んだ。口内で吐息を浴びた米はたちどころに凍り、噛むたびにしゃくしゃくという音がする。
「え、ええ。ここに居る雪女は、人を襲ったりしない、怖くない魔物だ。と聞いていますから」
「あら、そうですか。それは嬉しいですわ」
彼女は微笑んだ。
横目で彼女の顔を見た冬吉は、それを見てまた急いで目をそらした。彼女の笑顔は、雪の中で育った儚げな一本の花を思わせた。
彼の故郷に伝わる雪女伝説は、我々が知るものとは少々毛色が違う。
――ある男が、冬の山に登っている最中に猛吹雪に襲われた。
――前後不覚になりながら更に歩を進めると、一軒の山小屋を見つけた。
――そこには一人の雪女が住んでいた。一夜の宿を頼むと、彼女は快く承諾し、ご飯と寝床を用意してくれた。
――翌朝。彼は彼女の手厚いもてなしに感激し、お礼として、山を越えた目的地に運ぼうとしていた炎の魔法石をひとつ、彼女に渡した。
――すると、彼女はある方向を指差し、目的地までの道のりを教えてくれた。
――彼女の言うとおりに歩くと、ものの半刻で目的地にたどり着くことができた。
「人でない存在でも、決して区別することなく、優しく接さないといけないのだよ」
この話を語った後、母親が必ず言った言葉を、冬吉は思い返した。
彼の住む地方では、山から降りて来たり、空から降りてきたりと、魔物の存在が珍しくない。
人間よりも大きな力を持ち、好色な彼女たちを差別することなく生活していけるのは、こういった小さな頃からの教育のおかげである。
その後、幾度か他愛のない会話をし、彼らは夕食を食べ終えた。
腹が満たされ、彼の瞼が重くなったその時、彼女の手が彼の着物の胸元に入り、素肌に触れた。
あまりの冷たさに、彼の体がびくりと震える。
「な、何やってるんですか」
「寒くて仕方がないんです……人肌が恋しくて、恋しくて……ですから、冬吉様、私を、暖めてくださいませんか?」
そのまま彼女は、彼の胸元にしな垂れかかった。
もう片方の手も、彼の胸板に差し入れ、器用に着物の上半身を脱がした。
「あ、暖まるなら、何故俺の着物を、脱がせ……」
「夜に男女が二人きりで、暖めあうといえば、方法はひとつしかありませんわ」
そう言いながら、彼女は冬吉の顔に吐息を吹きかけた。
その瞬間、彼の手足はまるで氷付けになったかのように、動かすことができなくなってしまった。
しかし、それまで理性で何とか押さえ込み、燻っていた情念の炎が、一気に燃え上がるのを感じた。
――彼女と一緒に暖まりたい。いや、彼女を抱きたい。
思考が鈍り、視界は霞がかかり、脳内は桃色に満たされた。
「冬吉様は、何もしなくてよろしいですわ。私に心も、体も、全て預けてくださいませ」
風花は彼の体を横たわらせ、片方の手で上半身を優しく愛撫しながら、もう 片方の手で彼の着物の帯を解いた。
冬吉は戸惑った。
――雪女がこんな事するなんて、聞いた事がない……
母や祖父母から聞いた御伽噺に登場する雪女は、どれも人間に友好的で、清楚であった。
だが、目の前の雪女、風花はどうだ。目を潤ませ、頬を朱に染め、視線は先ほどまで下着に隠されていた、冬吉の硬くそそり立った逸物に注がれている。
「もう、先から滴が……れろぉ……」
彼女は、彼の先走り液が滲む亀頭を、躊躇うことなく舐め上げた。
彼女の舌は、氷嚢を押し当てられたかのように冷たかった。しかし、それ以上に気持ちよかった。
「うぅっ……あっ……」
ため息を漏らし、冬吉の体は海老反った。彼女の舌遣いは、電流のような快楽を彼の脳に送る。
「とっても敏感ですわね。舐めただけでそんなに震えてしまわれて……」
目を細め、大きく鼻から息を吸い、匂い立つ性臭を嗅ぎながら、今度は竿の根元から舐め上げる。何度も舐め上げる。
冬吉は快楽の吐息を漏らし、舌が裏筋に触れるたびに、大きく呻いた。
「あらあら、滴が止まりませんわね……涎みたいに垂れて……もったいないですわ。はむぅ……」
舌を絡ませながら、彼女は口内に陰茎をくわえ込んだ。
「じゅぽっ、じゅぽっ、じゅぽっ……冬吉様のこれ、とっても暖かいですわ……」
目を潤ませ、まるで極上の美味を味わうかのように、口を蠢かせる。
特に、我慢汁があふれ出る尿道口を、丹念に集中的に舌で攻撃する。
「あうぅ……ぐぅ……」
自身の体温を奪われ、股間の感覚が徐々に麻痺し始めた。だが、舌による愛撫は、強烈な快感を彼にもたらす。
「ふふ……亀頭が膨らんできましたわ。もう漏らしてしまわれるのですね」
陰茎を口に含んだまま、嬉しそうに声を上げる。
冬吉は顔を赤らめた。早漏と非難されているようで、恥ずかしくなったのだ。
彼はいまだ独身である。彼の住む村では、成人と認められると、村の長老や両親たちが勝手に男女をくっつけて、婚約させてしまうのだが。
不運なことに、彼の世代は男子比率が異常に高く、お嫁さんを貰う事ができなかったのだ。
よって、当然童貞である。
「もう、出るっ!」
「んふぅっ!ごくっ、ごくっ……熱い……それに、とってもこってり……」
口から肉棒を離した風花は、天を仰ぎながら、大事に大事に、口内に射精された精液を飲み干した。
とても幸せそうに精液を飲み込んでいく姿を見て、彼の逸物はまた勃起した。
「ああ、尿道に残った精液が、溢れ出て……もったいないですわ」
小さく脈動した鈴口からこぼれた残り物を、彼女は急いで舌で舐めとった。
――さっきより、少し暖かい……
猫が皿に入れられた水を舐めるように、ちろちろと亀頭を這う舌は、最初よりも温度が高くなっていた。
「私は、精液を体内に放たれると、それだけ暖かくなれるのです。ですから、もっと、もっと……いっぱい私の中に放出してください……」
「何で、俺を里に帰してくれないんだ」
冬吉は風花をにらみつけた。
冬の山を毎年踏破し、背負い籠にいっぱいの魔法石を持ち帰る彼のにらみは、狼すら怯ませる凄みがある。
しかし、彼女はそれに動じることなく、ぽっと頬を赤く染めた。彼女にとっては、彼に見つめられるだけで幸せいっぱいなのである。
「それは、私の結界のせいですわ。私たち雪女は、こんな山奥に住んでいるので、男性に出会うこと自体が稀なのです」
だから……と彼女は続けた。
「だから、一度この山小屋に入った男性は、ここから一定距離離れると、吹雪と共に舞い戻ってしまう結界が作られるのです」
「ふざけるな!」
冬吉は床を叩いた。
「俺は、麓の里に家族を残してるんだ。この山の魔法石をな、持って帰って金に換えて。そうしないと、みんな冬を生きていけないんだ!」
力強く握ったこぶしを、ぶるぶると震わせた。
「そうは言っても、本当は……私の事を好いておられるのでしょう?」
震えるこぶしに手を添え、彼女は言った。
「いくら男性に出会えない私たちでも、相手の意志に反するような事は致しませんわ。私たちの結界は、簡単に抜けることができるのです」
「ど、どうやって……」
「雪女には一生出会いたくない。雪女なんか嫌いだ。そう思えば、簡単に抜けることが出来ますわ」
身を乗り出し、冬吉の胸にそっと抱きついた。
「だから、心の奥底では、冬吉様は私の事を愛しているのです。私が冬吉様の事を愛しているように……」
「そ、そんな事、あるはずがっ」
ない!と叫ぼうとしたが、途中で口をつぐんでしまった。
――本当に、彼女を愛していないのだろうか。
そして、彼の頭に浮かぶ疑問。
自分はここから逃れようとする時、何を考えていたのか。彼女に襲われた時、自分は嫌々ながらも、彼女の体を抱いたではないか。
いや、そもそも、嫌々だったのか……
確かに、最初は戸惑った。御伽噺の中の、清廉潔白な雪女とはあまりにも似ても似つかぬ淫乱さに、自分の心は混乱した。
しかし、己の欲望の塊を口に含まれ、その上放出した液体を、至上の幸福とばかりに受け止めた時の彼女の顔を見て……
射精するたびに、彼女の体は温かくなっていった。
騎乗位に組み敷かれ、彼女の胸を揉みしだきながら、何度も何度も射精した。
終盤になると、彼女の皮膚は少しずつ青みが減り、玉のような汗を滲ませ、魔性の瘴気のごとく、彼女の体から湯気が立ち上っていた。
その時、自分は何を思い彼女を抱いていたのであろう。
――寒がっていた彼女を助けるため……己の凝り固まっていた性欲を放出するため……
――いや……
「俺は風花を、愛しく想っていた……」
名を呼ばれた彼女は、はっとして彼を見上げた。目には涙を浮かべている。
彼を一目見たときから、風花は彼に惚れていた。今まで味わったことのない、 身体が蕩け切ってしまう程の劣情を感じたのだ。
彼女はまさに、彼が幼い頃に聞いた、雪女伝説に登場する雪女である。
普通の男には――伝説にはない、淫らな交接があっただろうが――行き先を示し、遭難から助ける優しい魔物であっただろう。
一冬に一夜精を貰えば、それで彼女は生活していくことが出来たのだ。
いくら男性に会うのが稀であっても、ここは氷の魔法石の産地。他の山よりも、やってくる男の絶対数は多い。
しかし、彼を見た時は違った。彼女は彼を決して帰したくはないと思ったのだ。
一生、彼とここで添い遂げたい。そう思ったのだ。
「だが!だがな!俺には家族がいるんだ!麓で待ってるんだ!いくらお前が愛しくても……帰らないわけには、いかないだろうが……」
怒気を込めた声が、最後の方はすすり泣くような声に変わっていた。
「確かに、私はこの山から出ることは出来ません。だから、麓で一緒に暮らすことも出来ません」
しかし……彼女は言う。
「しかし、冬吉様が、家族の心配をする必要はないのです。何故なら、ここには氷の魔法石が豊富に存在するからです」
「どういう意味だ」
冬吉は眉間に皺を寄せながら呟いた。
「氷の魔法石は、その名の通り、周りの空気を冷やし、作物を凍らせ、水を凍らせ、保存する事が出来ます。
そして、物を凍らすことが出来るなら、時を凍らせる事も出来ましょう」
「時を……凍らせる?」
彼は首を傾げる。
「はい。つまり、冬吉様がこの結界に入ってから、まだ一刻も、半刻も、刹那すらも、時間が経っていないのです」
「なっ……」
冬吉は目を丸くした。とても信じる事の出来ない言葉である。
時を止める?外の時間は刹那すら経っていない?
だが、確かにそれが本当ならば、彼の心配は消え失せる事になる。
「信用、していないようですね」
彼女はため息をついた。
「そりゃあ、まあ……いきなりそんな事を言われても、信用は出来るわけがない」
「まあ、それもそうですわね……分かりました」
再びため息をつくと、彼女は今居る囲炉裏の部屋から土間に入り、そこからこぶし大の石を持ってきた。
青く輝き、冷気が発せられている……氷の魔法石である。
「この魔法石には、私の魔力が込められています。どうぞ、手に持ってみて下さい」
彼女は彼に、その魔法石を差し出した。彼はそれを、緩慢な動作で受け取る。
「それで、これからどうすれば……」
そう言った彼の言葉は、途中で止まってしまった。
風花は、手を差し出した状態のまま、微動だにしない。
「え……え?」
彼は始め、彼女の悪戯だと思った。俺と一緒に居たいから、嘘をついているのだろう、と思っていた。
彼女の体をぺちぺちと触る。腕を動かそうとする。氷の彫刻のように、微動だにしない。
髪の毛をまさぐる。彼の手に持ち上げられた髪の毛が、重力に逆らい、彼の手に動かされた時のまま、落ちてこない。
更に、彼の手に当たって頭から抜けた彼女の髪飾りが、空中で静止したのを見て、彼は確信した。
――時が、本当に止まっている!
「うわぁ!」
彼はその瞬間、驚きのあまりひっくり返り、手から魔法石を落とした。
それと同時に、彼女の髪が降り、髪飾りが音を立てて床に落ちた。
彼女はしゃがんで髪飾りを拾いながら、彼に向かって微笑んだ。
その時確信した。彼女の言っている事は、全て真実である。
しゃがみこんだ風花と、尻餅をついている冬吉の視線が交わった。
止まった時の世界に、動いているのは自分たち二人だけ。
外の世界の心配は一切しなくていい。そして、無限の時の中で、二人は愛し合っている。
彼は吹っ切れた。彼は彼女の両肩を掴むと、そのまま彼女の体を後ろに倒した。
息を荒げながら、彼女の着物の帯を解こうとする。しかし、興奮で手が震え、上手く解く事が出来ない。
風花はそんな彼を見て微笑むと、自らの体を起こして、器用に帯を解いていった。
拘束が解け、彼女の裸があらわになる。
絹のような肌質、大きくたわわに実った果実を思わせる乳房、なだらかな曲線を描く腰のくびれ……
そして、わずかに毛が生え、ぴっちりと閉じた女性器。
冬吉はごくりと唾を飲み込んだ。
「何度見ても……綺麗だ……」
彼の熱の篭った視線に、彼女は淫らに微笑んだ。
彼女は再び上半身を横たえると、ゆっくりと股を開いていった。正常位の体勢。
全てを彼に任せるという意思表示。隙あれば逃げ出そうとしたあの時では考えられない体勢であった。
彼は彼女の立てられた両膝を掴むと、ぐいと広げて、彼女の女陰にむしゃぶりついた。
「んんっ!あふっ……」
強烈な快楽と温かさに、彼女は思わず太ももを締めた。
柔らかい太ももが、彼の側頭部をやんわりと締め付ける。
彼女の恥ずかしい谷を押し広げ、穴の中に容赦なく舌を掻き入れる。舌の先で膣壁をごしごしとこすり上げる。
ここ数日は、彼女の誘惑を振り切って性交を行わなかったので、中は氷のように冷たい。
彼女の快楽漬けで歪んだ顔を覗き込む冬吉からは、荒い息が白く立ち上る。
愛する男からの積極的な愛撫に、風花は歓喜の涙を流した。
「あっ、あっ、あっ……あぐぅぅぅぅぅ!」
だから、冬吉がぷっくりと飛び出した陰核を甘噛みした瞬間、彼女はあっけなく絶頂を迎えた。
足の指をきゅっと閉じ、両手で彼の後頭部を押さえつけ、更に奥に導く。
「ああ……飲まれてる……私の、恥ずかしい液……そんなにごくごく……」
冬吉は、彼女から溢れ出る愛液を、陰唇に唇をぴったりとくっ付けて、喉を鳴らして飲み干した。
更に舌をねじ入れて、中に残った液も飲もうとする。その刺激に、彼女はまた全身を震わせた。
しばらく舐め回すと、彼はようやく口を離した。
粘度の高い愛液が、糸を引いて滴った。
彼の体が、彼女の荒く息づいた体に覆いかぶさった。
「風花」
「はい」
二人の白い息が混じり合い、霧のように互いの顔を霞ませる。
ゆっくりと、男は男自身を女の中に挿入した。
二人とも、股間に甘く広がる感覚に顔を歪ませる。
「うう、冷たい……」
冬吉が呟いた。
「だって、最近、冬吉様が私を避けていらっしゃいましたから……」
「ああ、すまん……その分、今日からいっぱい出してあげるから……」
「約束ですよ」
冬吉がうなずくと、腰をゆっくりと前後させた。
「うぅ……あふっ、冬吉様の、温かいです……」
「中だけじゃなくて、外も温めてあげないとな」
そう言って、彼は風花をぎゅっと強く抱きしめた。
彼女も冬吉の背中に両手を回し、それに応える。
呻くような喘ぎと共に、二人は腰を動かし、快楽を求める。肉体がぶつかる音が小屋に響く。
ひだの一枚一枚が、肉棒を刺激し、蠢き、締め付ける。
「すまん、もう……出そうだ……久しぶりだったから……」
呻きながら、彼は言った。
「はいっ、んふっ、遠慮なく、私の中に……あんっ、お漏らし、下さい……」
無意識に、彼女は彼の腰に両足を回し、腰を引かせないようにした。
「うぐっ、出る……」
「あああっ、温かいのが……いっぱい……」
風花は冬吉の頭を抱き寄せ、口を吸った。
「ちゅるっ、ちゅっ……舌も、唇も、温かい……」
「風花のも、温かいよ……」
ひとしきり口付けを交わすと、彼は抜かずにまた腰を動かし始めた。
「あっ、抜かずに二回目、ですか?嬉しい……」
予想外の二回目に、彼女は全身を身悶えして喜んだ。
「さっき、約束したからっ!風花の中に、何度でも、何度でも、出すから!蠢く口の中にも、柔らかい胸にも、気持ちいい穴の中にも、何度でも、何度でも!」
「はいっ!何度でも、何度でも、出して下さいませ!私の口も、胸も、穴も全て、冬吉様の好きにして下さいませ!」
永遠に止まった時の中で、昼も夜も、朝も夕もない世界で、二人は永遠に交わり、愛し合った。
これから、風花の体が冷え切ることは、一瞬たりともないであろう。
11/06/26 01:04更新 / 川村人志