結婚は人生の墓場である
結婚は人生の墓場という言葉がある。
他人と人生の大半を共にし、互いに束縛しあう関係であるということを揶揄したものである。
私はつい最近まで、この標語の熱心な信奉者であった。私は昔から一人で過ごす方が得意であったし、好きだったからだ。
だが、先ほどの言葉を借りるなら、その墓場というものに足を突っ込まざるを得なくなってしまった。
「魔界性睾丸肥大症ですね」
恥を忍んで向かった泌尿器科で、医者からそう宣告された。
魔界性睾丸肥大症。この世界が、人ならざる者たちが存在する世界とつながってから数十年。その間に生まれた新たな病である。
向こうの世界は、こちらの世界で言う中世と同等の科学力そして文明であったのだが、それを補って余りあるほど、魔法が発展していた。どうやら、こちらの世界には存在しない、目に見えない『魔力』と呼ばれるものが満ちているかららしい。
そして、二つの世界がつながると同時に、こちらの世界へその魔力が流れ込んできた。未知の物質が突然大量に入り込んでくることにより、様々な異変が起こるようになった。その内の一つが、新型の病である。
魔界性睾丸肥大症とは、濃厚な魔力が向こうの世界の住人にとって最も重要な存在である『精』と結びついて起こる病気である。当然、男が精を作っているのは睾丸であるため、そこに異常が現れるのだ。
その異常とは、病名の通り睾丸の肥大化である。日常生活が満足に行えなくなるほど睾丸が大きくなり、ついに痛みに耐えかね、私はこの病院の門を叩いたのだ。
ある程度予想の付いた医者の回答であったが、私はいまだ衝撃から覚められずにいた。
目の前の医者に言われるまでもなく、この病気の治療法は知っている。
「溜まった精を、吐き出さないといけないですな」
「いらっしゃいませ」
『市営結婚相談所』という、ありふれた書体のシールが貼られた自動ドアをくぐると、カウンターに座っている受付嬢が笑顔で出迎えた。絶妙なカーブを描き頭から伸びる二本の角を隠しもせず、堂々とさらしている彼女に、私は清々しさと、さらに神々しささえ覚えた。彼女はサキュバスであった。
「こちらのお席へどうぞ」
彼女の手の先に導かれるまま、私はたどたどしい足取りで彼女の目の前の椅子に腰掛ける。新築特有の、建材の匂い。
辺りを見渡したが、自分以外の客も、彼女以外の社員も、視界には入らなかった。声が聞こえるのみ。
各テーブルはパーティションで仕切られており、半個室となっていた。パーティションは、曇りガラスのようにザラザラとした見た目の透明なプラスチックで出来ていた。隣に座る客の黒赤のシルエットを映すだけである。
「本日はどのようなご用件でしょうか」
営業職らしい、柔らかな声が私の体をなでた。制服にラッピングされながらも、自己主張するように豊満なバストが揺れる。左胸には『平井小夢』と書かれたバッジをつけていた。それが彼女の名前なのだろう。
「あ、ああ……お見合い相手を、探しにきたんですが……」
額に脂汗をにじませ、時折走る痛みをこらえながら、何とか言い切った。
医者の残酷な宣告から二日経ち、睾丸のふくらみがさらに大きくなっていた。痛みと圧迫のせいで、今はがに股でないと歩けないほどだ。
受付嬢はそういった客を何人も相手にしているらしく、営業スマイルを崩すことなく応対を続けた。
「でしたら、こちらはいかがでしょうか」
彼女は失礼しますとつぶやきながら、足元の引き出しから一冊のファイルを取り出す。斜め前にかがむその仕草は、制服のブラウスの胸元があらわになりそうで、清楚な服装でありながら隠しきれない魔の性的魅力にあふれていた。魔物娘という存在は、ごく自然な動作ですら、たまらない劣情を男に呼び起こさせる天性の才を持っている。
彼女がデスクに載せたのは、薄い紫色のファイルであった。あらかじめ決められたビニールのページに、紙を挿し入れるタイプである。表紙の右上隅に、小さく『魔』という字が丸印に囲まれて書かれていた。どうやら、彼女はすでに私がどういう状態なのかを察しているらしい。
魔界性睾丸肥大症は、魔物娘との性交でしか治療できないのだ。
どうぞ。と心なしか声が艶っぽさを増したような気がする彼女の声に従うまま、ファイルを開いた。
息を呑んだ。
A4のどこにでもあるコピー用紙に印刷された、お見合い相手募集中の魔物娘。彼女たちは、こちらの世界の人間女では見たことがないほど、絶世の美女だらけであった。
――こんな美人が余る時代になったのか。
世の中の流れに疎い私は、驚きの余り口を閉じるのを忘れ、写真に見入ってしまった。
しかし数瞬後、忘我の彼方から意識が返った。この中から、私はお見合い相手そして結婚相手を探さなくてはならない。
一ページは上段、中段、下段に分けられており、左側に三人の魔物娘の写真、右側にプロフィールが記入されていた。それが二十ページほど。
さすがに全員を相手にするわけにはいかない。とりあえずは、何人か直感でピックアップしていかないといけないだろう。
厚手のビニールの柔らかな音が響く。何度かページをめくっているうちに、目を惹く女性を見つけた。
結婚相談所というものは、こう言ってはなんだが、行き遅れ焦った者が利用する場所である。よって、写っている魔物娘のほとんどが、妖艶な成熟した女性の色気をかもし出しているのだが、その中に一人、どう見ても十代に見えないほどの幼い女性が写っていた。
『氏名:野槌亜美』
異世界から来た魔物娘たちであるが、日本人と変わらない名前であることももう珍しくはなくなった。今この世界にいる魔物娘の大半は、異世界からやって来た最初の世代――通称第〇世代――の子供である第一世代なのだ。
第〇世代の彼女たちは、この世界の苗字という制度を大変気に入った。好きな人の名前をもらえるなんて素敵!ということらしい。
それに伴い、親となった彼女たちは、苗字だけでなく名前もその国に合ったものにしようと考えたのだ。
視線が名前の隣に移る。
『年齢:35歳』
――三十五歳?これで?
思わず目を見開いたが、次の瞬間納得に変わった。
『種族:ドワーフ』
魔物娘のドワーフは、よくあるファンタジー世界の髭の生えた背の低い筋骨隆々の姿ではなく、万年ロリといっていいほど、幼い頃から肉体的な成長をしない種族である。
プロフィールを読み進める。見た目通りの慎ましいスリーサイズと、少女を思わせる可愛らしい趣味が書かれていた。
さらに視線を下に移す。
『自己アピール:毎日手コキで癒してあげます。母親仕込みのテクニック、味わってみませんか?』
そして特徴は、手先が器用。
魔物娘らしく、このファイルに書かれている自己アピールは、どれも風俗情報誌もかくやという淫語が飛び交っている。
ドワーフは見た目に反して、姉御肌が多いと聞いたことがある。
――お姉さん気質で手コキねぇ……
耳元で囁かれながら、巧みに手指を使って精液を搾り取られるところを想像して、股間に血液が集まりだしてしまった。陰茎のふくらみと共に、鋭い痛みが走る。
それをごまかすため、さらにページをめくっていった。
『氏名:間宮風鈴 年齢:21 9歳』
――何だよ、 9歳って……
『種族:グール』
グールとは、亡くなった人間に魔力が入り込み魔物化した種族だったか。確か、アンデッドと呼ばれる種類だったはずだ。
――なるほど、アンデッドは享年と魔物になってから何年経ったかまで書いてあるのね。
市営にしてはやけに詳しい情報に、魔物娘たちの性や結婚に対する本気の度合いを見て取ることができた。
彼女の自己アピールを見る。
『毎朝、愛情たっぷりのおはようフェラで起こしてあげます』
グールという種族は、口淫が得意であると聞く。
うっとりとした目でこちらを見上げながら、心底嬉しそうな表情でイチモツを舐めしゃぶり、口内で頬張るグールを想像して、またも股間に痛みが走った。
自己アピール欄を見ると、どうしてもそれをされている自分を想像してしまっていけない。
情欲をごまかすために、少し勢いをつけてページをめくった。
「あれ」
ページをめくる手が止まった。ページを戻してみる。
やはりそうだ。何か違う。今までのページとは、めくるときの感触が違う。
些細なことだが、なぜかとても気になった。目を閉じ、何度もそのページだけを右に左にめくってみる。
――わかった。これは……
違和感の正体に気付いた。ページ本体と、プロフィールの書かれた印刷用紙の間に、もう一枚紙が挟まっている。
視線だけを上げて、応対しているサキュバスの顔を覗いた。微笑みから、営業的な義務感が薄れた気がする。心なしか、彼女の頬が上気しているように見える。
とりあえず、確かめても咎められることはないと感じた。なので、ためらうことなくページのビニールの中に指を突っ込んだ。
――やはり、もう一枚紙が入っている。
コピー用紙よりも分厚くて、小さい紙だ。だから感触として伝わったのだろう。指でそれをつまむと、一気に引き出した。
初めは何かの冗談であると思った。
なぜなら、紙の左に載っている写真、それは今目の前にいる受付嬢のものであったからだ。
『氏名:平井小夢』
名前も一緒だ。
もう一度、視線を上げる。受付嬢のサキュバスは、視線に気付くとペロリと舌を出し、唇を舐めた。そしてため息。
ふわりと甘い香りが鼻腔をくすぐった。
彼女は何も言わない。ただ物欲しげな目をしつつ、微笑むだけ。
なぜか問い詰める気がなくなってしまった私は、仕方なく視線を手元に戻した。
構成は他のプロフィールと同じである。左に写真。右に文字。
『年齢:ひみつ』
『種族:サキュバス』
『スリーサイズ:B93_W60_H86』
ずいぶんと豊満である。ごくりと喉を鳴らし、ちらりと彼女の胸元を見た。暴力的な脂肪が、ボタンをはちきれんばかりに布を引っ張っている。
『趣味:自分磨き(将来の旦那様のために)』
『好きなタイプ:あなた』
ゾクッと、背筋に寒気が走った。これは、まさか。
『自己アピール:見つけてくれてありがとう』
直後、音が消えた。他の客たちの声も、空調の作動音も、通りを走る車の音も、全てがなくなった。代わりに聞こえてくるのは、パチパチと炎が爆ぜる音。
「ここは……」
見渡すと、そこはレンガでできた部屋であった。赤茶色のごつごつしたフォルム。石の柱。そして眼前に広がるは、赤々と燃え暖かな空気を運んでくる暖炉。
そして次の瞬間、自分は真っ白なシーツがひかれたベッドの上に座っていることに気付いた。スプリングがしっかりしているのだろう、今年の定期健診でやや太ったと診断された私の体を、柔らかく受け止めている。
周りの様子は分かった。だが、何故ここにいるのか。
「それは今、重要ではありません」
声が聞こえたと同時に、私の体は、意思に反してベッドの上に横にされてしまった。だが、無理矢理されたという気持ちは湧かない。どちらかといえば、本能が横になりたいと思ったのを、理性が感知しなかったという感じか。
「あなたは、私のプロフィールを見てくれた。読んでくれた。それで十分ではありませんか」
同じ女性の声が聞こえる。しかし、姿は見えない。
「何年も何年も、お待ちしておりました、愛しい旦那様……」
まず、触覚が刺激を受けた。柔らかくて、温かい感触。それはほどよく湿っていた。視覚が彼女の姿を捉えたのは、その後であった。
「んっ、ちゅっ」
眼前。焦点が合わずにぼやけている中、先ほどまであの場所で面と向かっていたサキュバスのまぶたが見えた。
目を閉じ、長い黒々としたまつ毛が小さく上下する。
「はむぅ」
下唇が、彼女の唇に挟まれる。吸い付くように食んだ後、ちろりと舌先でくすぐられ、解放された。
顔が離れたが、それでもまだ距離は近い。鼻先がかすかに触れ合うほどの距離に、彼女の顔があった。
彼女のまぶたが上がる。興奮によるものなのか、その瞳はしっとりと濡れている。それに、先ほどから彼女の吐息が顔にかかる。決して不快ではない。むしろ、熟した果実のようなさわやかでそれでいて甘い香りが、癖になりそうであった。
「どうしますか?」
不意に、彼女が問いかけた。『何を』が抜けていたので、どう答えていいのか分からず、沈黙が続く。
「あなたの睾丸、痛いんですよね?ぱんぱんにふくらんで、とっても痛そう……」
眉をひそめ、心底心配している口調で、彼女の視線が下を見る。
今まで気付かなかったが、いつのまにか、私の股間は露出しており、赤黒く変色した部分があらわになっていた。キスと彼女の魔力のせいか、陰茎はすでに重力に逆らって挙立している。そして、テニスボール大にふくらんだ二つの睾丸。確かに、見ただけで異常だと分かるし、見ただけで痛みが分かるだろう。
「これ、私が治して差し上げます。ですから……」
視線を私の顔に戻し、彼女が微笑んだ。
「当然全部して差し上げますけども、最初はどこがいいですか?」
あーん、と口を大きく広げる。
「お口の中でごしごし、してほしいですか?」
それとも、と制服のボタンを外す。
「おっぱいの中でむにゅむにゅ、ですか?」
もしくは、とタイトスカートをたくし上げ、ベージュのストッキングにラッピングされた黒いパンティを見せ付ける。
「早速、おまんこしますか?」
伏目がちになり、彼女の頬が染まる。
喉が鳴った。それらのどれもが、あまりにも魅力的な提案だった。血液がどんどん股間に集まり、痛みをもろともせず、目の前の美女と交わろうと股間を隆起させる。
「あ、あ……う……」
声とも、うめきともつかぬ声が漏れる。
「どうしました?……もしかして、私とは……嫌、ですか?」
目の潤みが強くなった。寂しそうな表情を浮かべ、今にも泣きそうである。
全力で首を左右に振った。
――違う、そうじゃなくて!
答えなかったのは、彼女が思っている理由ではない。全てしてほしくて、どれを最初にすればいいのか迷っているのだ。
「え……ああっと……じゃ、じゃあ、口で……」
散々迷った末、出てきた言葉がそれだった。回答を聞いた彼女の表情がぱっと晴れる。
「はいっ、承知しました。それでは、失礼いたします」
丁寧にお辞儀をすると、彼女は自分の唇を私の股間へを寄せた。
「うわぁ、本当に、痛そうですね……こんなに大きくされて……今治して差し上げますね」
そう言うと、彼女は大きく口を開いて、右の睾丸を口に含んだ。
「ぐっ」
圧迫され、鈍痛が走る。足の指が無意識の内にぎゅっと強く握られた。
「申し訳ありません。しかし、まずはこの玉の中で溜まりきった精液を、私の魔力で柔らかくしないといけないので……」
しばらく唇と舌を使って湿らすと、今度は左のものにも同じことをした。
「ちゅぽっ……どうですか?」
唇を離し、彼女が問う。唾液が陰嚢全体にまぶされ、てかてかと湿り光っている。気化熱により、すーすーと慣れない冷たさが這う。だが、確かに、痛みは少し引いている。
「ちょっと、よくなった、かな……」
後を引くわずかな痛みに顔をしかめつつ答えた。
「そうですか、それはよかったです。では……」
ふっと柔らかく微笑み、彼女は先ほどと同じように、陰嚢を舐め回した。
「くうっ」
今度は痛みが薄れ、快感が分かるようになった。柔らかい舌の腹が、袋に当てられ優しくしごく。
「ふもっ、まだちょっと、痛むようですね……それじゃあ、こんなのはいかがでしょう?」
すると、彼女は舐めを行いつつ、右手で竿をしごき始めた。手首の返しを巧みに使い、触れるか触れないかという力で上下させる。
時折、親指と人差し指で作られた輪が、カリを引っ掛ける。
「あむぅ、れるっ……気持ち、よさそうですね」
こちらを見上げた彼女の目が、嬉しそうに細まった。私のとろけた顔を見たのだろう。
それからはしばらく互いに無言だった。私は彼女によってもたらされる快楽に、小さくうめき声を上げるだけだった。そのたびに、彼女が微笑む。彼女に対する愛しさが、少しずつ増していった。
「んぽぉ……はぁ、だいぶ、ほぐれてきましたね。それでは……」
彼女の口が、少し上がった。睾丸を離れ、我慢汁があふれねとねとになっている亀頭に向かう。
「出したくなったら、いつでも出していいですから。何も遠慮せずに、私の口の中に、出してくださいね」
舌を小さく出しつつ、彼女は口内に亀頭を挿入させた。
まず舌先が、裏筋に触れる。つつつ……と先が筋を通り抜け、竿の中ほどまで届く。それと同時に、きゅっと口内全体がすぼまった感触がした。
舌全体が凹を描くように丸まり、ペニスの下半分を包み込む。頬肉が狭まり、横をぎゅっと抑える。その状態で、彼女の顔が上下に激しく動いた。
「んっ、じゅっ、ぼっ、じゅるっ、ぽっ、ぐじゅっ、じゅぽっ」
粘液のこすれと空気の抜ける、下品な音が鳴る。
「くあっ、ぐぅっ!」
自然と私の口から声が漏れてしまっていた。だが、それは痛みからではない。完全に快楽によって発せられるものだった。
――これが、魔物の……!
戦慄した。暴力的な快楽が、股間から脳へ、直接ぶつけられているような感覚。
今まで何回かソープで女性を抱いたことはあったが、それとは段違いの気持ちよさであった。
「んぐっ」
徐々に彼女の首の振り幅が大きくなる。挿入するときは喉奥を先端が叩く。
「じゅぅぅ!」
抜くときは空気を吸い込み、強烈な吸引刺激を与えられる。
右手はペニスの根元に回り、幹を支えつつその下側……尿道に近い部分をぐにぐにと親指で押す。
左手は玉袋を包み、絶妙な力加減で揉み解している。
「はぁぁ……」
吐息が漏れた。コリがほぐれていくような、安らぐ気持ちがそうさせた。
「じゅっぽっ、きもひいいれふか?んじゅぷっ、おくのこってりとひたしぇーえき、だひてくらはいね……」
「あっ、はぁ、あぁぁ……」
気付いたら漏れていた。その言葉が一番似合うであろう。
濃厚な魔力と結びつき、粘度が過剰に高まり排出されなかった精液が、彼女の魔力によって相殺された。その結果、とっくの昔に貯蔵量の限界を超えていた分の精液が、自然と漏れ出してしまったのだ。
「んくっ、んくっ……んっ、ごくっ、ごくっ……」
彼女は目を閉じ、頬を染め、色っぽい吐息を漏らしつつそれを飲み干していく。
「ぷあっ……どうでしたか?気持ちよかったですか?」
ぺろりと唇を舐め、彼女が妖艶に微笑む。
「あ、ああ……」
私はただ、小さくうなずくことしかできなかった。痛みからの解放。そして、それ以上にこんなに大量に吐き出し、なおかつ気持ちのいい射精は初めてだったからだ。頭に霞がかかったようで、目の前の映像がぼやけてしまっている。
「そんなにとろけた顔をなされて……私も、旦那様に気持ちよくなってもらえて、とても嬉しいです」
では……と彼女はブラウスのボタンを全て外し、それを脱ぎ捨てた。パンティと揃いの、黒のレースのついたブラジャーである。それが、たゆんと重そうに揺れる乳房をしっかりと支えていた。
「次は、おっぱいですね」
「えっ、そんな、連続は……」
さすがに無理だ、と言おうと思ったが、自分の股間を見て驚いた。
何週間ぶりかの射精をし、ほぼ通常時と同程度まで縮んだ睾丸。しかし、陰茎のほうはまだ膨張を終えてはいなかった。最近めっきり力の衰えてしまった分身とは思えぬほど、それは硬さを保ったままであった。
「うふふ、おちんちんはまだ、精液出し足りないみたいですね」
目を細める彼女。
「ちょうど、舐めて差し上げた後で湿っていますから、このまま、おっぱいでご奉仕いたしますね……」
きゅっと両肘を使って乳房を挟むと、肉がみっしりと詰まったそれをペニスに下ろした。
「くぅあっ……」
「どうですか?射精なさった後だと、これくらいの刺激がちょうどいいと思いますが」
確かに、彼女の言う通りだった。自在に動き、強烈な吸引刺激を与えてきた口とは違い、乳房の圧力は一定で優しいものである。
だが、それが射精直後には程よかった。じんわりとした熱が伝わってくる。それに……
「分かりますか?私の鼓動」
彼女の心臓の鼓動が、しっかりと伝わってくる。とくとくと早く強く鳴っているのが分かった。
「旦那様は、私の運命の人なんです。あなたは、隠されたメッセージを見つけてくださった……」
彼女は目を潤ませた。今にも涙があふれそうだ。
「あなたにとっては、今の行為はただの治療なのかもしれません……でも、私にとってこれは、愛の儀式なんです」
はらりと一筋、涙がこぼれる。
「自分勝手だというのは分かってます。勝手に私だけ舞い上がって、こんなこと言って……迷惑かもしれません。でも……」
きゅっと一瞬、口を結んだ。
「でも、もう、私には、あなたしか考えられません。私にはもう、あなた以外の人間は必要ないんです……」
静かに涙をこぼし続けた。
――ここまで言われたら……
確かに、私は今まで結婚なんてしようと思わなかったし、そもそも考えすらもしなかった。両親からの催促にも適当に返事を返すだけ。
このまま、自分は独身のまま死ぬのだろうとさえ思っていた。
しかし、今は違う。
今まで結婚しなかったのは、彼女とするためなのではないかという考えが湧いてきていた。
こんな献身的に接してくれて、私の病をまるで自分のことであるかのように心配してくれる。もう自分以外はいらないとまで言ってくれている。そんな彼女を捨て置くほど、私は非情な男ではなかった。
「大丈夫」
私の声に、彼女は顔を持ち上げた。下唇を噛み締め、ぽろぽろと大粒の涙をあふれさせている。
「私も、同じ気持ちだ。ここまでされて、嫌いになれるわけ、ないじゃないか……」
しばしの沈黙。彼女の目が大きく見開かれた。
「ほ、ほ、ほ……本当、ですか?」
心配そうな顔でこちらを見つめてくる。
「その、私のこと、困らせないようにと……」
「そんなわけ、ない、だ、ろっ……!」
男らしく彼女の涙を止めてあげようと思ったが、そういう余裕は無かった。ビクンと一度、大きく腰が持ち上がり、彼女の胸の奥に勢いよく精液を吐き出してしまったからだ。
まったく胸を動かしていなかったのに。優しい熱と圧力と、彼女への気持ちだけで、絶頂を迎えてしまったのだ。
「あ……」
心ここにあらずという状態で、彼女が吐息を一つ漏らす。直後、一度止まっていたはずの涙が、さらに大粒となってこぼれ落ちた。
「えっ、あっ、ごめん……」
「違うんです」
ふるふると小さく、何度も首を左右に振る。
「嬉しいんです……あなたの気持ちが……私と同じ気持ちが、分かったから……」
ぼろぼろとこぼし、微笑む。そのまま、彼女はゆっくりと胸を引いていった。
ぬぽっと音がして、二連続で射精した陰茎があらわになる。
「また、こんなにも、がんばってくださったんですね……はぁぁ」
嬉しそうに息をつき、再びペニスに顔を寄せる。
「きれいにいたしますね」
あむっ、とためらうことなく、どろどろになったペニスを口に含んだ。
「んじゅっ、れるっ、んっ、じゅうぅ……」
最初のフェラチオとは違い、今度は舌を重点的に用いた優しげなものであった。こびりついた精液を舐め取り、亀頭に吸い付いて尿道に残ったものを飲み干す。
「んはぁ……旦那様、好きです……」
あふれ出た精液を舐め尽すと、彼女は亀頭に口付けをした。
「ちゅっ、ちゅっ……大好きです……んっ、ちゅぅ。好き、好き……」
とろりと表情をとろけさせ、何度も何度もキスをする。そのたびに、ぴくんと無意識の内にペニスが小さく跳ねた。
「はぁぁ……」
大きく熱い息を吐くと、彼女が起き上がり、私の股間にまたがった。
「それでは、最後に挿入させていただきますね」
そう言うと、彼女はストッキングを乱暴に破り、股間部を大きく広げた。漆黒のパンティのクロッチをずらし、女性器を露出させる。
「旦那様は、そのままでいてくださいね。私が、全てして差し上げます」
ゆっくりと腰を下ろす。愛液が我慢できずに糸を引き、亀頭にねっとりとかかった。メープルシロップを思わせる粘り気。そして濃厚な甘い香り。
ひたりと亀頭と女陰の粘膜が触れ合った。熱くたぎり、ぬめぬめとしている。
「んっ、ふぅっ!」
腰の重みだけで、すんなりと挿入された。ぶちぶちという感覚が、ペニスを通して伝わる。
「あ、これは……」
今までプロの女性しか相手にしたことがないので、完全に推測によるものなのだが、この感触は……
「そうです。処女……ですよ?」
恥ずかしがることなく、彼女がつぶやいた。その表情からは、苦悶の色が見えない。
「ずっと、破ってくださる男性を、待っていたんです……」
「その、痛くは、ないのか?」
何とも間抜けな質問である。
「そんなこと、んっ、ないですよ?はぅ、これが、性交、なんですね……旦那様の、熱くて、硬くて、気持ちよくて……!」
今まで以上に彼女の表情がとろけた。
――全く、魔物娘というものは……
魔物娘の、性に対するあまりにも高い適応力に驚くと共に感心してしまった。
「では、動きますねぇ……」
言葉を言い終わるや否や、彼女の腰が上下、前後、左右と自在に動き始めた。
上下に動くと、細かいひだがカリに引っかかり、ぞりぞりとこすり上げる。
前後に動くと、裏筋をひだが舌のように舐め、ぬるぬるとぬめる。
左右に動くと、子宮口が降りてきて、ぐりぐりと圧迫する。
全ての動きが、とても処女とは思えないほどの上手さであった。
「くあぁっ、ほ、本当に、処女……!?」
そう言うと、彼女が少しむっとした表情をした。
「あぅ、そう、ですよ?旦那様のため、にっ、毎日毎日ぃ、勉強してたんですからぁ……っ!」
彼女の上半身がこちらに倒れこむ。次の瞬間には、私の唇は彼女のものでふさがれていた。
「んんっ、れるっ、ぬるぅ」
ファーストキスとは違い、今度は舌を絡ませあう官能的なものとなった。
「ちゅっ、んんっ、んっ!」
唇をつなげ、唾液と吐息を飲み合い、腰が乱暴にぶつかる。今、私たちは相手のこと、そしてセックスのことしか考えられない二匹の獣になっていた。
「じゅぅっ、ぷあっ、まずいっ、もう……」
「はいぃ、私もぉ……もぅいくぅ……!」
ばつばつと、粘液を飛び散らせつつ力強く腰をぶつけ合い、わずか数往復で私たちは一緒に絶頂してしまった。
「んっ、んんんっ……!」
私の顔に頬擦りするようにベッドマットに顔をうずめ、彼女は何度も何度も震えた。
「ふっ、うぅっ、うぅぅ……!」
魔物娘としての最大の幸福……膣内射精。初めてそれを受けたせいで、耐え切れなくなったのだろう。その後しばらく、彼女は快楽のうめきを漏らし続けた。
あれからいくばくか経ち。私は彼女……小夢と二人で暮らすことになった。
旧時代的な考えを持つ両親はあまりいい顔をしなかったが、そんなことは関係がない。私たちの顔を見て、結婚を思いとどまらせることは無理と考えたのだろう。渋々了承してくれた。
これで晴れて新婚生活が送れると思った矢先、会社の辞令により、地方への出張が決まってしまった。期間は三ヶ月。
そして今日、ついに出張が終わり久々の家路についたのだった。
「くっ」
痛みが走り、吐息として漏れる。
魔界性睾丸肥大症というものは、一度かかると癖になるらしい。三ヶ月もの間彼女と関係を持てなかったせいで、私の睾丸は彼女に出会う前と同じくらいぱんぱんにふくらんでしまっていた。
何度も走る痛みをこらえつつ、玄関扉を開ける。
「おかえりなさいませ」
扉を開けてすぐ、靴脱ぎ場のすぐ奥に、彼女がいた。正座をし、三つ指立てて頭を垂れている。
「ただいま」
帰宅の挨拶をすると、彼女はゆっくりと顔を上げた。満面の笑み。
「ご飯になさいますか?お風呂になさいますか?それとも……まずはご奉仕ですね、ふふっ」
大きくふくらんだ股間を見て、彼女は嬉しそうに声を上げた。
他人と人生の大半を共にし、互いに束縛しあう関係であるということを揶揄したものである。
私はつい最近まで、この標語の熱心な信奉者であった。私は昔から一人で過ごす方が得意であったし、好きだったからだ。
だが、先ほどの言葉を借りるなら、その墓場というものに足を突っ込まざるを得なくなってしまった。
「魔界性睾丸肥大症ですね」
恥を忍んで向かった泌尿器科で、医者からそう宣告された。
魔界性睾丸肥大症。この世界が、人ならざる者たちが存在する世界とつながってから数十年。その間に生まれた新たな病である。
向こうの世界は、こちらの世界で言う中世と同等の科学力そして文明であったのだが、それを補って余りあるほど、魔法が発展していた。どうやら、こちらの世界には存在しない、目に見えない『魔力』と呼ばれるものが満ちているかららしい。
そして、二つの世界がつながると同時に、こちらの世界へその魔力が流れ込んできた。未知の物質が突然大量に入り込んでくることにより、様々な異変が起こるようになった。その内の一つが、新型の病である。
魔界性睾丸肥大症とは、濃厚な魔力が向こうの世界の住人にとって最も重要な存在である『精』と結びついて起こる病気である。当然、男が精を作っているのは睾丸であるため、そこに異常が現れるのだ。
その異常とは、病名の通り睾丸の肥大化である。日常生活が満足に行えなくなるほど睾丸が大きくなり、ついに痛みに耐えかね、私はこの病院の門を叩いたのだ。
ある程度予想の付いた医者の回答であったが、私はいまだ衝撃から覚められずにいた。
目の前の医者に言われるまでもなく、この病気の治療法は知っている。
「溜まった精を、吐き出さないといけないですな」
「いらっしゃいませ」
『市営結婚相談所』という、ありふれた書体のシールが貼られた自動ドアをくぐると、カウンターに座っている受付嬢が笑顔で出迎えた。絶妙なカーブを描き頭から伸びる二本の角を隠しもせず、堂々とさらしている彼女に、私は清々しさと、さらに神々しささえ覚えた。彼女はサキュバスであった。
「こちらのお席へどうぞ」
彼女の手の先に導かれるまま、私はたどたどしい足取りで彼女の目の前の椅子に腰掛ける。新築特有の、建材の匂い。
辺りを見渡したが、自分以外の客も、彼女以外の社員も、視界には入らなかった。声が聞こえるのみ。
各テーブルはパーティションで仕切られており、半個室となっていた。パーティションは、曇りガラスのようにザラザラとした見た目の透明なプラスチックで出来ていた。隣に座る客の黒赤のシルエットを映すだけである。
「本日はどのようなご用件でしょうか」
営業職らしい、柔らかな声が私の体をなでた。制服にラッピングされながらも、自己主張するように豊満なバストが揺れる。左胸には『平井小夢』と書かれたバッジをつけていた。それが彼女の名前なのだろう。
「あ、ああ……お見合い相手を、探しにきたんですが……」
額に脂汗をにじませ、時折走る痛みをこらえながら、何とか言い切った。
医者の残酷な宣告から二日経ち、睾丸のふくらみがさらに大きくなっていた。痛みと圧迫のせいで、今はがに股でないと歩けないほどだ。
受付嬢はそういった客を何人も相手にしているらしく、営業スマイルを崩すことなく応対を続けた。
「でしたら、こちらはいかがでしょうか」
彼女は失礼しますとつぶやきながら、足元の引き出しから一冊のファイルを取り出す。斜め前にかがむその仕草は、制服のブラウスの胸元があらわになりそうで、清楚な服装でありながら隠しきれない魔の性的魅力にあふれていた。魔物娘という存在は、ごく自然な動作ですら、たまらない劣情を男に呼び起こさせる天性の才を持っている。
彼女がデスクに載せたのは、薄い紫色のファイルであった。あらかじめ決められたビニールのページに、紙を挿し入れるタイプである。表紙の右上隅に、小さく『魔』という字が丸印に囲まれて書かれていた。どうやら、彼女はすでに私がどういう状態なのかを察しているらしい。
魔界性睾丸肥大症は、魔物娘との性交でしか治療できないのだ。
どうぞ。と心なしか声が艶っぽさを増したような気がする彼女の声に従うまま、ファイルを開いた。
息を呑んだ。
A4のどこにでもあるコピー用紙に印刷された、お見合い相手募集中の魔物娘。彼女たちは、こちらの世界の人間女では見たことがないほど、絶世の美女だらけであった。
――こんな美人が余る時代になったのか。
世の中の流れに疎い私は、驚きの余り口を閉じるのを忘れ、写真に見入ってしまった。
しかし数瞬後、忘我の彼方から意識が返った。この中から、私はお見合い相手そして結婚相手を探さなくてはならない。
一ページは上段、中段、下段に分けられており、左側に三人の魔物娘の写真、右側にプロフィールが記入されていた。それが二十ページほど。
さすがに全員を相手にするわけにはいかない。とりあえずは、何人か直感でピックアップしていかないといけないだろう。
厚手のビニールの柔らかな音が響く。何度かページをめくっているうちに、目を惹く女性を見つけた。
結婚相談所というものは、こう言ってはなんだが、行き遅れ焦った者が利用する場所である。よって、写っている魔物娘のほとんどが、妖艶な成熟した女性の色気をかもし出しているのだが、その中に一人、どう見ても十代に見えないほどの幼い女性が写っていた。
『氏名:野槌亜美』
異世界から来た魔物娘たちであるが、日本人と変わらない名前であることももう珍しくはなくなった。今この世界にいる魔物娘の大半は、異世界からやって来た最初の世代――通称第〇世代――の子供である第一世代なのだ。
第〇世代の彼女たちは、この世界の苗字という制度を大変気に入った。好きな人の名前をもらえるなんて素敵!ということらしい。
それに伴い、親となった彼女たちは、苗字だけでなく名前もその国に合ったものにしようと考えたのだ。
視線が名前の隣に移る。
『年齢:35歳』
――三十五歳?これで?
思わず目を見開いたが、次の瞬間納得に変わった。
『種族:ドワーフ』
魔物娘のドワーフは、よくあるファンタジー世界の髭の生えた背の低い筋骨隆々の姿ではなく、万年ロリといっていいほど、幼い頃から肉体的な成長をしない種族である。
プロフィールを読み進める。見た目通りの慎ましいスリーサイズと、少女を思わせる可愛らしい趣味が書かれていた。
さらに視線を下に移す。
『自己アピール:毎日手コキで癒してあげます。母親仕込みのテクニック、味わってみませんか?』
そして特徴は、手先が器用。
魔物娘らしく、このファイルに書かれている自己アピールは、どれも風俗情報誌もかくやという淫語が飛び交っている。
ドワーフは見た目に反して、姉御肌が多いと聞いたことがある。
――お姉さん気質で手コキねぇ……
耳元で囁かれながら、巧みに手指を使って精液を搾り取られるところを想像して、股間に血液が集まりだしてしまった。陰茎のふくらみと共に、鋭い痛みが走る。
それをごまかすため、さらにページをめくっていった。
『氏名:間宮風鈴 年齢:21 9歳』
――何だよ、 9歳って……
『種族:グール』
グールとは、亡くなった人間に魔力が入り込み魔物化した種族だったか。確か、アンデッドと呼ばれる種類だったはずだ。
――なるほど、アンデッドは享年と魔物になってから何年経ったかまで書いてあるのね。
市営にしてはやけに詳しい情報に、魔物娘たちの性や結婚に対する本気の度合いを見て取ることができた。
彼女の自己アピールを見る。
『毎朝、愛情たっぷりのおはようフェラで起こしてあげます』
グールという種族は、口淫が得意であると聞く。
うっとりとした目でこちらを見上げながら、心底嬉しそうな表情でイチモツを舐めしゃぶり、口内で頬張るグールを想像して、またも股間に痛みが走った。
自己アピール欄を見ると、どうしてもそれをされている自分を想像してしまっていけない。
情欲をごまかすために、少し勢いをつけてページをめくった。
「あれ」
ページをめくる手が止まった。ページを戻してみる。
やはりそうだ。何か違う。今までのページとは、めくるときの感触が違う。
些細なことだが、なぜかとても気になった。目を閉じ、何度もそのページだけを右に左にめくってみる。
――わかった。これは……
違和感の正体に気付いた。ページ本体と、プロフィールの書かれた印刷用紙の間に、もう一枚紙が挟まっている。
視線だけを上げて、応対しているサキュバスの顔を覗いた。微笑みから、営業的な義務感が薄れた気がする。心なしか、彼女の頬が上気しているように見える。
とりあえず、確かめても咎められることはないと感じた。なので、ためらうことなくページのビニールの中に指を突っ込んだ。
――やはり、もう一枚紙が入っている。
コピー用紙よりも分厚くて、小さい紙だ。だから感触として伝わったのだろう。指でそれをつまむと、一気に引き出した。
初めは何かの冗談であると思った。
なぜなら、紙の左に載っている写真、それは今目の前にいる受付嬢のものであったからだ。
『氏名:平井小夢』
名前も一緒だ。
もう一度、視線を上げる。受付嬢のサキュバスは、視線に気付くとペロリと舌を出し、唇を舐めた。そしてため息。
ふわりと甘い香りが鼻腔をくすぐった。
彼女は何も言わない。ただ物欲しげな目をしつつ、微笑むだけ。
なぜか問い詰める気がなくなってしまった私は、仕方なく視線を手元に戻した。
構成は他のプロフィールと同じである。左に写真。右に文字。
『年齢:ひみつ』
『種族:サキュバス』
『スリーサイズ:B93_W60_H86』
ずいぶんと豊満である。ごくりと喉を鳴らし、ちらりと彼女の胸元を見た。暴力的な脂肪が、ボタンをはちきれんばかりに布を引っ張っている。
『趣味:自分磨き(将来の旦那様のために)』
『好きなタイプ:あなた』
ゾクッと、背筋に寒気が走った。これは、まさか。
『自己アピール:見つけてくれてありがとう』
直後、音が消えた。他の客たちの声も、空調の作動音も、通りを走る車の音も、全てがなくなった。代わりに聞こえてくるのは、パチパチと炎が爆ぜる音。
「ここは……」
見渡すと、そこはレンガでできた部屋であった。赤茶色のごつごつしたフォルム。石の柱。そして眼前に広がるは、赤々と燃え暖かな空気を運んでくる暖炉。
そして次の瞬間、自分は真っ白なシーツがひかれたベッドの上に座っていることに気付いた。スプリングがしっかりしているのだろう、今年の定期健診でやや太ったと診断された私の体を、柔らかく受け止めている。
周りの様子は分かった。だが、何故ここにいるのか。
「それは今、重要ではありません」
声が聞こえたと同時に、私の体は、意思に反してベッドの上に横にされてしまった。だが、無理矢理されたという気持ちは湧かない。どちらかといえば、本能が横になりたいと思ったのを、理性が感知しなかったという感じか。
「あなたは、私のプロフィールを見てくれた。読んでくれた。それで十分ではありませんか」
同じ女性の声が聞こえる。しかし、姿は見えない。
「何年も何年も、お待ちしておりました、愛しい旦那様……」
まず、触覚が刺激を受けた。柔らかくて、温かい感触。それはほどよく湿っていた。視覚が彼女の姿を捉えたのは、その後であった。
「んっ、ちゅっ」
眼前。焦点が合わずにぼやけている中、先ほどまであの場所で面と向かっていたサキュバスのまぶたが見えた。
目を閉じ、長い黒々としたまつ毛が小さく上下する。
「はむぅ」
下唇が、彼女の唇に挟まれる。吸い付くように食んだ後、ちろりと舌先でくすぐられ、解放された。
顔が離れたが、それでもまだ距離は近い。鼻先がかすかに触れ合うほどの距離に、彼女の顔があった。
彼女のまぶたが上がる。興奮によるものなのか、その瞳はしっとりと濡れている。それに、先ほどから彼女の吐息が顔にかかる。決して不快ではない。むしろ、熟した果実のようなさわやかでそれでいて甘い香りが、癖になりそうであった。
「どうしますか?」
不意に、彼女が問いかけた。『何を』が抜けていたので、どう答えていいのか分からず、沈黙が続く。
「あなたの睾丸、痛いんですよね?ぱんぱんにふくらんで、とっても痛そう……」
眉をひそめ、心底心配している口調で、彼女の視線が下を見る。
今まで気付かなかったが、いつのまにか、私の股間は露出しており、赤黒く変色した部分があらわになっていた。キスと彼女の魔力のせいか、陰茎はすでに重力に逆らって挙立している。そして、テニスボール大にふくらんだ二つの睾丸。確かに、見ただけで異常だと分かるし、見ただけで痛みが分かるだろう。
「これ、私が治して差し上げます。ですから……」
視線を私の顔に戻し、彼女が微笑んだ。
「当然全部して差し上げますけども、最初はどこがいいですか?」
あーん、と口を大きく広げる。
「お口の中でごしごし、してほしいですか?」
それとも、と制服のボタンを外す。
「おっぱいの中でむにゅむにゅ、ですか?」
もしくは、とタイトスカートをたくし上げ、ベージュのストッキングにラッピングされた黒いパンティを見せ付ける。
「早速、おまんこしますか?」
伏目がちになり、彼女の頬が染まる。
喉が鳴った。それらのどれもが、あまりにも魅力的な提案だった。血液がどんどん股間に集まり、痛みをもろともせず、目の前の美女と交わろうと股間を隆起させる。
「あ、あ……う……」
声とも、うめきともつかぬ声が漏れる。
「どうしました?……もしかして、私とは……嫌、ですか?」
目の潤みが強くなった。寂しそうな表情を浮かべ、今にも泣きそうである。
全力で首を左右に振った。
――違う、そうじゃなくて!
答えなかったのは、彼女が思っている理由ではない。全てしてほしくて、どれを最初にすればいいのか迷っているのだ。
「え……ああっと……じゃ、じゃあ、口で……」
散々迷った末、出てきた言葉がそれだった。回答を聞いた彼女の表情がぱっと晴れる。
「はいっ、承知しました。それでは、失礼いたします」
丁寧にお辞儀をすると、彼女は自分の唇を私の股間へを寄せた。
「うわぁ、本当に、痛そうですね……こんなに大きくされて……今治して差し上げますね」
そう言うと、彼女は大きく口を開いて、右の睾丸を口に含んだ。
「ぐっ」
圧迫され、鈍痛が走る。足の指が無意識の内にぎゅっと強く握られた。
「申し訳ありません。しかし、まずはこの玉の中で溜まりきった精液を、私の魔力で柔らかくしないといけないので……」
しばらく唇と舌を使って湿らすと、今度は左のものにも同じことをした。
「ちゅぽっ……どうですか?」
唇を離し、彼女が問う。唾液が陰嚢全体にまぶされ、てかてかと湿り光っている。気化熱により、すーすーと慣れない冷たさが這う。だが、確かに、痛みは少し引いている。
「ちょっと、よくなった、かな……」
後を引くわずかな痛みに顔をしかめつつ答えた。
「そうですか、それはよかったです。では……」
ふっと柔らかく微笑み、彼女は先ほどと同じように、陰嚢を舐め回した。
「くうっ」
今度は痛みが薄れ、快感が分かるようになった。柔らかい舌の腹が、袋に当てられ優しくしごく。
「ふもっ、まだちょっと、痛むようですね……それじゃあ、こんなのはいかがでしょう?」
すると、彼女は舐めを行いつつ、右手で竿をしごき始めた。手首の返しを巧みに使い、触れるか触れないかという力で上下させる。
時折、親指と人差し指で作られた輪が、カリを引っ掛ける。
「あむぅ、れるっ……気持ち、よさそうですね」
こちらを見上げた彼女の目が、嬉しそうに細まった。私のとろけた顔を見たのだろう。
それからはしばらく互いに無言だった。私は彼女によってもたらされる快楽に、小さくうめき声を上げるだけだった。そのたびに、彼女が微笑む。彼女に対する愛しさが、少しずつ増していった。
「んぽぉ……はぁ、だいぶ、ほぐれてきましたね。それでは……」
彼女の口が、少し上がった。睾丸を離れ、我慢汁があふれねとねとになっている亀頭に向かう。
「出したくなったら、いつでも出していいですから。何も遠慮せずに、私の口の中に、出してくださいね」
舌を小さく出しつつ、彼女は口内に亀頭を挿入させた。
まず舌先が、裏筋に触れる。つつつ……と先が筋を通り抜け、竿の中ほどまで届く。それと同時に、きゅっと口内全体がすぼまった感触がした。
舌全体が凹を描くように丸まり、ペニスの下半分を包み込む。頬肉が狭まり、横をぎゅっと抑える。その状態で、彼女の顔が上下に激しく動いた。
「んっ、じゅっ、ぼっ、じゅるっ、ぽっ、ぐじゅっ、じゅぽっ」
粘液のこすれと空気の抜ける、下品な音が鳴る。
「くあっ、ぐぅっ!」
自然と私の口から声が漏れてしまっていた。だが、それは痛みからではない。完全に快楽によって発せられるものだった。
――これが、魔物の……!
戦慄した。暴力的な快楽が、股間から脳へ、直接ぶつけられているような感覚。
今まで何回かソープで女性を抱いたことはあったが、それとは段違いの気持ちよさであった。
「んぐっ」
徐々に彼女の首の振り幅が大きくなる。挿入するときは喉奥を先端が叩く。
「じゅぅぅ!」
抜くときは空気を吸い込み、強烈な吸引刺激を与えられる。
右手はペニスの根元に回り、幹を支えつつその下側……尿道に近い部分をぐにぐにと親指で押す。
左手は玉袋を包み、絶妙な力加減で揉み解している。
「はぁぁ……」
吐息が漏れた。コリがほぐれていくような、安らぐ気持ちがそうさせた。
「じゅっぽっ、きもひいいれふか?んじゅぷっ、おくのこってりとひたしぇーえき、だひてくらはいね……」
「あっ、はぁ、あぁぁ……」
気付いたら漏れていた。その言葉が一番似合うであろう。
濃厚な魔力と結びつき、粘度が過剰に高まり排出されなかった精液が、彼女の魔力によって相殺された。その結果、とっくの昔に貯蔵量の限界を超えていた分の精液が、自然と漏れ出してしまったのだ。
「んくっ、んくっ……んっ、ごくっ、ごくっ……」
彼女は目を閉じ、頬を染め、色っぽい吐息を漏らしつつそれを飲み干していく。
「ぷあっ……どうでしたか?気持ちよかったですか?」
ぺろりと唇を舐め、彼女が妖艶に微笑む。
「あ、ああ……」
私はただ、小さくうなずくことしかできなかった。痛みからの解放。そして、それ以上にこんなに大量に吐き出し、なおかつ気持ちのいい射精は初めてだったからだ。頭に霞がかかったようで、目の前の映像がぼやけてしまっている。
「そんなにとろけた顔をなされて……私も、旦那様に気持ちよくなってもらえて、とても嬉しいです」
では……と彼女はブラウスのボタンを全て外し、それを脱ぎ捨てた。パンティと揃いの、黒のレースのついたブラジャーである。それが、たゆんと重そうに揺れる乳房をしっかりと支えていた。
「次は、おっぱいですね」
「えっ、そんな、連続は……」
さすがに無理だ、と言おうと思ったが、自分の股間を見て驚いた。
何週間ぶりかの射精をし、ほぼ通常時と同程度まで縮んだ睾丸。しかし、陰茎のほうはまだ膨張を終えてはいなかった。最近めっきり力の衰えてしまった分身とは思えぬほど、それは硬さを保ったままであった。
「うふふ、おちんちんはまだ、精液出し足りないみたいですね」
目を細める彼女。
「ちょうど、舐めて差し上げた後で湿っていますから、このまま、おっぱいでご奉仕いたしますね……」
きゅっと両肘を使って乳房を挟むと、肉がみっしりと詰まったそれをペニスに下ろした。
「くぅあっ……」
「どうですか?射精なさった後だと、これくらいの刺激がちょうどいいと思いますが」
確かに、彼女の言う通りだった。自在に動き、強烈な吸引刺激を与えてきた口とは違い、乳房の圧力は一定で優しいものである。
だが、それが射精直後には程よかった。じんわりとした熱が伝わってくる。それに……
「分かりますか?私の鼓動」
彼女の心臓の鼓動が、しっかりと伝わってくる。とくとくと早く強く鳴っているのが分かった。
「旦那様は、私の運命の人なんです。あなたは、隠されたメッセージを見つけてくださった……」
彼女は目を潤ませた。今にも涙があふれそうだ。
「あなたにとっては、今の行為はただの治療なのかもしれません……でも、私にとってこれは、愛の儀式なんです」
はらりと一筋、涙がこぼれる。
「自分勝手だというのは分かってます。勝手に私だけ舞い上がって、こんなこと言って……迷惑かもしれません。でも……」
きゅっと一瞬、口を結んだ。
「でも、もう、私には、あなたしか考えられません。私にはもう、あなた以外の人間は必要ないんです……」
静かに涙をこぼし続けた。
――ここまで言われたら……
確かに、私は今まで結婚なんてしようと思わなかったし、そもそも考えすらもしなかった。両親からの催促にも適当に返事を返すだけ。
このまま、自分は独身のまま死ぬのだろうとさえ思っていた。
しかし、今は違う。
今まで結婚しなかったのは、彼女とするためなのではないかという考えが湧いてきていた。
こんな献身的に接してくれて、私の病をまるで自分のことであるかのように心配してくれる。もう自分以外はいらないとまで言ってくれている。そんな彼女を捨て置くほど、私は非情な男ではなかった。
「大丈夫」
私の声に、彼女は顔を持ち上げた。下唇を噛み締め、ぽろぽろと大粒の涙をあふれさせている。
「私も、同じ気持ちだ。ここまでされて、嫌いになれるわけ、ないじゃないか……」
しばしの沈黙。彼女の目が大きく見開かれた。
「ほ、ほ、ほ……本当、ですか?」
心配そうな顔でこちらを見つめてくる。
「その、私のこと、困らせないようにと……」
「そんなわけ、ない、だ、ろっ……!」
男らしく彼女の涙を止めてあげようと思ったが、そういう余裕は無かった。ビクンと一度、大きく腰が持ち上がり、彼女の胸の奥に勢いよく精液を吐き出してしまったからだ。
まったく胸を動かしていなかったのに。優しい熱と圧力と、彼女への気持ちだけで、絶頂を迎えてしまったのだ。
「あ……」
心ここにあらずという状態で、彼女が吐息を一つ漏らす。直後、一度止まっていたはずの涙が、さらに大粒となってこぼれ落ちた。
「えっ、あっ、ごめん……」
「違うんです」
ふるふると小さく、何度も首を左右に振る。
「嬉しいんです……あなたの気持ちが……私と同じ気持ちが、分かったから……」
ぼろぼろとこぼし、微笑む。そのまま、彼女はゆっくりと胸を引いていった。
ぬぽっと音がして、二連続で射精した陰茎があらわになる。
「また、こんなにも、がんばってくださったんですね……はぁぁ」
嬉しそうに息をつき、再びペニスに顔を寄せる。
「きれいにいたしますね」
あむっ、とためらうことなく、どろどろになったペニスを口に含んだ。
「んじゅっ、れるっ、んっ、じゅうぅ……」
最初のフェラチオとは違い、今度は舌を重点的に用いた優しげなものであった。こびりついた精液を舐め取り、亀頭に吸い付いて尿道に残ったものを飲み干す。
「んはぁ……旦那様、好きです……」
あふれ出た精液を舐め尽すと、彼女は亀頭に口付けをした。
「ちゅっ、ちゅっ……大好きです……んっ、ちゅぅ。好き、好き……」
とろりと表情をとろけさせ、何度も何度もキスをする。そのたびに、ぴくんと無意識の内にペニスが小さく跳ねた。
「はぁぁ……」
大きく熱い息を吐くと、彼女が起き上がり、私の股間にまたがった。
「それでは、最後に挿入させていただきますね」
そう言うと、彼女はストッキングを乱暴に破り、股間部を大きく広げた。漆黒のパンティのクロッチをずらし、女性器を露出させる。
「旦那様は、そのままでいてくださいね。私が、全てして差し上げます」
ゆっくりと腰を下ろす。愛液が我慢できずに糸を引き、亀頭にねっとりとかかった。メープルシロップを思わせる粘り気。そして濃厚な甘い香り。
ひたりと亀頭と女陰の粘膜が触れ合った。熱くたぎり、ぬめぬめとしている。
「んっ、ふぅっ!」
腰の重みだけで、すんなりと挿入された。ぶちぶちという感覚が、ペニスを通して伝わる。
「あ、これは……」
今までプロの女性しか相手にしたことがないので、完全に推測によるものなのだが、この感触は……
「そうです。処女……ですよ?」
恥ずかしがることなく、彼女がつぶやいた。その表情からは、苦悶の色が見えない。
「ずっと、破ってくださる男性を、待っていたんです……」
「その、痛くは、ないのか?」
何とも間抜けな質問である。
「そんなこと、んっ、ないですよ?はぅ、これが、性交、なんですね……旦那様の、熱くて、硬くて、気持ちよくて……!」
今まで以上に彼女の表情がとろけた。
――全く、魔物娘というものは……
魔物娘の、性に対するあまりにも高い適応力に驚くと共に感心してしまった。
「では、動きますねぇ……」
言葉を言い終わるや否や、彼女の腰が上下、前後、左右と自在に動き始めた。
上下に動くと、細かいひだがカリに引っかかり、ぞりぞりとこすり上げる。
前後に動くと、裏筋をひだが舌のように舐め、ぬるぬるとぬめる。
左右に動くと、子宮口が降りてきて、ぐりぐりと圧迫する。
全ての動きが、とても処女とは思えないほどの上手さであった。
「くあぁっ、ほ、本当に、処女……!?」
そう言うと、彼女が少しむっとした表情をした。
「あぅ、そう、ですよ?旦那様のため、にっ、毎日毎日ぃ、勉強してたんですからぁ……っ!」
彼女の上半身がこちらに倒れこむ。次の瞬間には、私の唇は彼女のものでふさがれていた。
「んんっ、れるっ、ぬるぅ」
ファーストキスとは違い、今度は舌を絡ませあう官能的なものとなった。
「ちゅっ、んんっ、んっ!」
唇をつなげ、唾液と吐息を飲み合い、腰が乱暴にぶつかる。今、私たちは相手のこと、そしてセックスのことしか考えられない二匹の獣になっていた。
「じゅぅっ、ぷあっ、まずいっ、もう……」
「はいぃ、私もぉ……もぅいくぅ……!」
ばつばつと、粘液を飛び散らせつつ力強く腰をぶつけ合い、わずか数往復で私たちは一緒に絶頂してしまった。
「んっ、んんんっ……!」
私の顔に頬擦りするようにベッドマットに顔をうずめ、彼女は何度も何度も震えた。
「ふっ、うぅっ、うぅぅ……!」
魔物娘としての最大の幸福……膣内射精。初めてそれを受けたせいで、耐え切れなくなったのだろう。その後しばらく、彼女は快楽のうめきを漏らし続けた。
あれからいくばくか経ち。私は彼女……小夢と二人で暮らすことになった。
旧時代的な考えを持つ両親はあまりいい顔をしなかったが、そんなことは関係がない。私たちの顔を見て、結婚を思いとどまらせることは無理と考えたのだろう。渋々了承してくれた。
これで晴れて新婚生活が送れると思った矢先、会社の辞令により、地方への出張が決まってしまった。期間は三ヶ月。
そして今日、ついに出張が終わり久々の家路についたのだった。
「くっ」
痛みが走り、吐息として漏れる。
魔界性睾丸肥大症というものは、一度かかると癖になるらしい。三ヶ月もの間彼女と関係を持てなかったせいで、私の睾丸は彼女に出会う前と同じくらいぱんぱんにふくらんでしまっていた。
何度も走る痛みをこらえつつ、玄関扉を開ける。
「おかえりなさいませ」
扉を開けてすぐ、靴脱ぎ場のすぐ奥に、彼女がいた。正座をし、三つ指立てて頭を垂れている。
「ただいま」
帰宅の挨拶をすると、彼女はゆっくりと顔を上げた。満面の笑み。
「ご飯になさいますか?お風呂になさいますか?それとも……まずはご奉仕ですね、ふふっ」
大きくふくらんだ股間を見て、彼女は嬉しそうに声を上げた。
12/01/07 04:33更新 / 川村人志