読切小説
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四畳半妖精の国
「今日も待機ってどういうことなのよー!」
 四畳半のぼろアパートの一室で、一人の少女が叫ぶ。その先には、一台の携帯電話。
 電話の前に仁王立ちし、怒った顔は不動明王を思わせる厳しさだ。
「は、はい、すいません……」
 通話先の相手が、申し訳なさそうに答える。ぺこぺこと頭を下げている様子が、姿が見えなくても想像できる。
「もう一年以上待機しっぱなしじゃない!私は早く妖精の国に帰りたいのー!」
 両手で電話の側面をつかみ、がたがたと震わせながら抗議する。
「ほら、ピクシーちゃんやめてよー。電話が壊れちゃうよ?」
 怒っている少女のもとに、もう一人の少女がやってきて嗜める。彼女たち二人の羽が、ぱたぱたと震える。
 彼女の身長は、二十センチメートルほどしかない。魔物娘、ピクシーとフェアリーである。
「とにかく!今日もちゃんとこっちに来なさいよね!」
 ピクシーがそう叫ぶと、勢いよく通話終了のボタンを平手で叩いた。

 彼女たちが、先ほどの電話の相手から呼び出されたのは、去年の七月のことである。
 彼の『私の世界で魔物娘の宣伝をしてくれませんか』という誘いに、二人は何も考えることなく了承してしまったのだ。
 妖精の国は慢性的な男不足だったため、魔物になったばかりのフェアリーと、元々魔物だったピクシーにとって欲望の解消されない場所であったこと、そして、『日本魔物娘宣伝部長』を名乗る彼が二人の好みにぴったりだったことが、快諾の理由であった。
 彼女たちの仕事は、魔物娘を広めるための番組に参加すること。ファンから届いた手紙を読む内容で、全三回が予定されていた。日本に来たその日のうちに、無事に一回目を撮り終えることができた。
 しかし、二回目、三回目の呼び出しがいつまで経っても来なかった。
 宣伝部長は、『主催者が別の活動で忙しいため』と言っていたが、それ以上は言葉を濁してしまう。あっという間に一年が経過してしまった。

 通話を終えてから三十分後、二人のいる部屋に、一人の男がやってきた。
「遅かったじゃない」
 眉をひそめ、ピクシーがつぶやく。
「お兄ちゃん、いらっしゃーい」
 対するフェアリーはにこにこと嬉しそうに微笑んで歓迎する。
「すいません。渋滞に引っかかってしまって」
 やって来た男、魔物娘宣伝部長は、頬をかいてうつむき答える。今日は三連休の初日である。旅行に出かけようとする家族連れやカップルなどの車が作る渋滞に、見事にかかってしまったようだ。
 だが、彼女にとってはそういうことは関係がない。そもそも、毎日が日曜日みたいな妖精の国で生活していたので、祝日や休日の感覚がよく分からないのだ。
「そんなの関係ないわよ」
 ピクシーがジトっと彼を睨む。
「ほら、早くこっちに来なさい!」
 ふよふよと浮遊しつつ、彼の右手人差し指を両手でつかむ。そのまま部屋の奥へ引っ張る。それにならって、フェアリーも反対側の人差し指をつまんだ。
 人間が住まない部屋のため、四畳半の和室はとても殺風景である。妖精サイズの小さな家具が、木箱で作られた隅のスペースに入れられているばかりで、他にあるのは、中央の布団のみである。
「ほぉら、早くちんちん出しなさいよぉ」
 8の字に飛び踊り、開帳をせがむピクシー。男はいそいそと、ズボンと下着を脱ぎ下ろした。下着に押さえつけられていたペニスが、ばね仕掛けであるかのように
「うわー、もうちんちんバキバキピクピクしてるじゃない」
 情欲に目を潤ませ、ピクシーがうっとりした声を上げる。フェアリーも、「わっわぁっ……」と両手を口に当て、感嘆の声を出す。
「まさか、期待してるの?これから私たちにされること、来る途中に考えて、こんな風になっちゃったの?」
 上目遣いで、彼女が彼を責めるように言う。
 図星であった。彼は彼女に呼ばれここに来るまでの間、これからされることを想像して暴発寸前だったのだ。魔物娘の性技は、人間の女性とは比べ物にならないほどの上手さである。
「まったく、あんたは本当に我慢の効かないのね」
 ため息をつきながら、ピクシーの口元には笑みが浮かんでいる。
「それじゃあ、こうやって……」
 彼女が勃起ペニスにぎゅっとしがみつく。可愛らしい女の子座りでしがみつくと、あご先がちょうど尿道口のそばについた。
「ぎゅっぎゅって抱きしめて、一緒に上下にこすって……」
 力強くしがみつき、ピクシーが膝や腰のバネを使って上下に擦る。
「うっ、ふぅっ」
 動き始めてすぐ、男はたまらずに声を上げてしまった。ピクシーにとってこれは必殺技と言ってもいい性技である。小さな体を余すところ無く使い、小ぶりな胸の柔らかさと、レオタード生地のすべすべを有効活用しての擦り上げは、すっかり魔物娘の体に堕ちてしまった男にとってたまらないものであった。
「まったく、本当にあんたってば、これが好きなんだね……」
 うっとりと頬を染め、彼女が責め上げる。彼女の批難の声を聞き、ペニスがピクピクと細かく震える。
「ほら、フェアリーもこっち来て」
 息を荒げ、男の感じている表情を眺めていたフェアリーを呼びつけた。
「そう、私の反対側に抱きついて……一緒に」
 フェアリーはピクシーの言われた通りに、ペニスを挟んで彼女の反対側に抱きついた。そして、二人が同時に上下する。
「ほらっ、ほらっ、どう?妖精二人同時こすりどう?いい?気持ちいいの?」
 声の大きさを上げ、ピクシーが問い詰める。男はガクガクと、何度も何度もうなずいた。
「ふふん、当たり前だよね。魔物娘だもん。私たち、魔物だもんっ」
 そう言うやいなや、彼女は尿道口からぷっくりと漏れていた我慢汁に吸い付いた。
「うあっ……くぁっ」
 新たな刺激にまたもや彼は喘ぐ。
「んっ、ちゅぅっ、じゅぅぅぅっ!」
 先端の穴にぴったりと唇を合わせ、一滴残さず粘液を吸い尽くす。
 すると、カリに回して弱い部分をなでなでしていた右腕を離し、フェアリーの後頭部を引き寄せた。
「あっ、ピクシーちゃ……んっ」
 彼女の声が途切れた。ピクシーに唇をふさがれたからだ。たっぷりとピクシーの口内に溜め込まれた我慢汁が、口移しでフェアリーの中へと流れ込む。
「んっ、んん……んぅ……」
 初めは驚いて見開かれていた瞳が、徐々にとろける。薄いながらも確かに粘液に染み込んだ精が、彼女の思考を瞳と同じくとろけさせる。
「れるっ、んぱぁ……どう、美味しい?」
 ピクシーがたずねると、フェアリーはとろけた表情を浮かべたまま、小さく一回こくりとうなずいた。
「そうだよね、こいつのだもんね。フェアリーってば、毎日こいつのこと考えてオナニーしてるもんね」
 男のペニスが硬さを増すのと、フェアリーの顔が羞恥にさらに赤く染まるのは同時だった。
「ちょ!ちょっと!ピクシーちゃん!」
「何よ、本当のこと言っただけじゃない。この布団の枕に顔をうずめてさ、『お兄ちゃん、お兄ちゃん』って、とろっとろの顔をしながらおまんこ擦ってるじゃない」
 あまりの恥ずかしさに、フェアリーが顔を真っ赤にさせたままうつむく。
「だからさ、早く出してもらおうよ。我慢汁よりもっと美味しい、ザーメン出してもらってさ、ごくごく飲もうよ」
 その言葉を聞いて、フェアリーがこくりと小さくうなずく。
 ラストスパート。ペニスの下側にいるピクシーは、裏筋に何度もキスをあびせる。反対側のフェアリーは、尿道口に吸い付き、我慢汁を喉を鳴らして飲んでいく。さらに、二人の四本の腕が、カリの一番谷になっている部分を、さわさわとなでる。
「ちゅっ、れるっ、ほら、ほらぁ、早く出しなさいよぉ……」
 ピクシーが責める。
「ごくっ、ごくぅ……お兄ちゃん、好きっ、好きぃ……」
 完全にスイッチの入ったフェアリーが、自分の世界に没頭しながら吸い付く。
「ぐっ、うぅっ、で、でっ、るっ!」
 男はたまらず声を上げた。ギブアップと同時に、尿道を駆け上がる精液が外に噴出す。
「きゃっ!」
「わぁっ!」
 驚きと、喜びの声が妖精たちから漏れ出した。
 頭に、顔に、そして体に、白い粘液が飛び散り付着する。
「あーあ、出ちゃった……」
 ピクシーがそう言いながら、自分の体についた精液を舐め取る。
「お兄ちゃん、お兄ちゃぁん……」
 フェアリーは、自分が精液まみれなのを一切気にすることなく、掃除フェラにいそしんでいた。
「ほんと、フェアリーはこいつのことになると周りが見えなくなるんだから」
 ピクシーはそう言って、彼女に染み付いた精液を拭い取った。
「あっ……」
 ピクシーの手に乗り、口に運ばれていく精液を見つめて、彼女が少し残念そうな声を上げた。
「ほら、次はこっちでしょ?」
 ピクシーがフェアリーをペニスから離し、彼女の股間に手を伸ばす。
「ひゃぁ!」
 敏感な部分を突然触れられて、彼女は悲鳴を上げた。
「ほらぁ、大好きな『お兄ちゃん』に、おまんこずぽずぽされる時間だよ?」
 後ろから抱きつかれ、くちゅくちゅと性器を弄くられ、耳元に囁かれ、フェアリーの表情が次第にとろりと熱を帯びてきた。
「おまんこ、ずぽずぽ……」
 ピクシーに言われた言葉を反芻する。
「そうだよ。ちっちゃくてきつきつの妖精まんこに、人間ちんちんが入っちゃうんだよ?奥をこつこつ叩かれて、子宮に亀さんが入っちゃって、びゅぅびゅぅって、せーえき出されちゃうんだよ?」
 うっとりと目を細め、ピクシーが囁く。
「はぁ……はぁ……」
 欲情し、全身に力が入らなくなったフェアリーは、ピクシーに体を預け、荒く息をつく。かくかくと膝が震え、彼女に弄くられている部分の音もどんどん大きくなっていく。
「ほら、あんた、フェアリーを持ってあげて」
 ピクシーが男を言葉で促す。うなずいた彼は、そっと優しく、フェアリーの体を両手で包み込んだ。
「お兄ちゃん……」
 潤んだ瞳でフェアリーは男を見つめる。
「私、大丈夫だから……だから、お兄ちゃんの好きなように、突いて……」
 彼の手の力が強くなった。先ほどまでの恋人のような優しさではなく、道具として使うような、容赦のない握り。
「あっ……お兄ちゃんが、入って……ふぁぁぁ!」
 オナホのようにためらい無く一気に貫かれ、フェアリーは悲鳴を上げた。膣道を通り、子宮口を割り入り、一気に子宮の奥の壁を亀頭が叩いた。勃起で上に反り返っているため、それにより彼女のおなかがボコっと膨れる。
「あぁぁ……はぁぁ……」
 内臓が裂けるのではないかというほどおなかが膨れているのに、彼女は淫らな笑みを浮かべるのみである。伸縮性に富む妖精たちの生殖器は、ぴったりと相手の性器に貼り付きつつ、自在に形を変えることができる。人間の男性を受け入れるために、魔物化と同時に性質が変化するのだ。
「くっ、あぁっ、フェアリーの、すごいっ」
 男が声を漏らし、両手をがつがつと上下させる。それに合わせ、ぬぽっぬぽっ、くちゅっくちゅっと粘液が泡立ちこすれる音が響く。
「はっ、はっ、はっ、んっ」
 荒く息をつく彼の唇がふさがれた。いつの間にか人間の少女ほどに巨大化したピクシーが口付けたからである。
「んちゅっ、れるっ……フェアリーばっかり、気持ちいい思いしてずるいんだから」
 彼の両頬を、愛しそうに両手で包み込む。フェアリーの淫気にすっかり中てられて、普段の刺々しさが一切無い、甘えた声色になっている。
 男は両手を激しく動かしてオナホ妖精の快楽に浸りながら、淫魔の甘いキスに酔いしれた。
「はぅっ、きゅぅんっ!お兄ちゃぁん……イくぅ、オナホにされて絶頂来ちゃうぅ……」
 ごつごつと容赦なく最奥を叩かれ、ぐったりとしたフェアリーが限界を訴えた。一番気持ちいいところを突付かれ、彼女の視界が、脳内が、桃色のもやとバチバチとした白い星で満たされる。
「うっ、くぁっ……私ももう、出そう、ですっ……」
 絶頂寸前の子宮の締め付けに、男の方もそろそろ限界が近くなっているようだ。
「はっはっ、じゃあ、一緒に、イこうねぇ……ぜっちょー、しようねぇ、おにいちゃぁん」
 さらにフェアリーを一往復、二往復。そして三往復目で、二人は同時絶頂をした。
 彼女の腰に両手の人差し指と親指を回し、それらにぐっと力を入れ、子宮の最奥のさらに奥までペニスをねじ込んだ。
「きゃっ、あぁっ、あ゛ーっ!」
 肺がつぶれそうになるほどの圧迫に、彼女の絶頂の声は濁って吐き出された。あふれ出す精液は、卵巣まで届こうかというほど子宮を満たし、子宮口を抜け、膣道を駆け下り、接合部から勢いよく噴出した。
「はぁあ……はっ、あはっ……」
 強烈な絶頂に神経が焼き切れ、彼女は淫らに笑った。男はしばらくピクシーと舌を絡ませ、息を整える。一息落ち着くと、挿入する前と同じく、優しくフェアリーを解放した。
「あぅっ」
 彼女が小さく声を上げるが、それ以上は反応しない。ただ小さく胸を起伏させ、寝息を立てていた。そのたびに、ぽっこりと膨らんだおなかから膣を通り、精液がぶぴゅっと下品な音を立て漏れ出る。
「あーあ、すごい出しちゃったね……フェアリー、妊娠してるみたいじゃない」
 喉をごくりと鳴らしながら、ピクシーが言った。
 『まったく、しょうがないんだから』と言いつつ、彼女がフェアリーを部屋の隅の木箱に持っていく。箱を開け、中に備え付けられた小さなベッドに、そっとフェアリーを横たわらせた。
「ほら、次は私の番だよ。小さくなるのも面倒だから、このままするね」
 作業を終えると、いそいそとピクシーが男の下へ戻り、つぶやいた。
「んしょっ、と……じゃあ、入れるからね」
 レオタードを脱ぐ時間も惜しいらしく、彼女は股間部分を横にずらして性器を露出させ、男が答える間もなく挿入させた。
「はぁぁ……」
 挿入されると同時に、彼女が安心しきったようなため息を漏らす。
「やっぱりぃ……あんたのちんちん、気持ちいい……」
 ぺたんと彼女の尻が彼の臀部に触れると同時に、彼女はくてんと彼の胴体に前のめりに倒れてしまった。
「あ、あれ……?」
「ど、どうしたんですか?」
 男は驚いた。普段だったら、彼女は挿入したら踊るように腰をくねらせて、ゲーム感覚でセックスをするのだ。だが、彼女はいつまで経っても動かない。
「ご、ごめん……どうしよう……ははっ、いれただけで……イっちゃった……」
 全身に力が入らず、彼女はただ体を細かく震わせるだけで、何もできなかった。膣肉がきゅっきゅっと何度も収縮し、精液をせがむ。
 ぞくりと、男の背筋が震えた。今まで彼女には責められてばかりだったが、初めて思うままにできるという状況に、心の奥底にあった彼女に対する嗜虐心が芽生え始めたのだ。
「えっ、あっ……きゃっ」
 彼は無言で彼女と上下を逆転させる。正常位の体勢になった。
「ちょっと……あんた何やって」
「ピクシー、動くぞ」
 さえぎるように発せられた男の言葉に、ピクシーはびくっと震えて口をつぐんだ。どんなときも決して丁寧な口調を崩さない彼が言った、ぶっきらぼうなセリフ。彼女はそれに、男らしさを感じた。
 彼女のこわばった体から、すっと力が抜ける。
「うん……好きなように、動いて」
 言い終わると同時に、男は彼女の体に覆いかぶさった。まんぐり返しのように、膝が胸にくっつくくらいに持ち上げられ、上から餅つきのように抜き差しされる。
「んっ、はっ、はぁぁ!」
 いつもとはまったく違う、責められる感覚に、彼女はとまどいながらも喘ぎを漏らさざるを得なかった。
「なにっ、これぇ……!いつもよりっ、きゅぅん、気持ち、いい!」
「ピクシーの中、すごく、いいっ……くっ、奥を突くたびに、まんこ肉がきゅって、締まって!」
 それを聞き、彼女はぽっと頬を染める。
「ちょっ、とっ!そんなこと言わないでよバカぁ!」
 そう言いつつも、もっともっととせがむように、両足は彼の腰にがっちりと回り、腕も彼の首をぎゅっと寄せる。
「はぁ、あぁっ、うぅぅっ、ふぅんっ!」
 やがて、彼女の口からは言葉が出なくなり、互いに獣のような荒い息が漏れるのみとなった。その他に部屋に聞こえるのは、ぱちゅんぱちゅんという、性器同士がぶつかり奏でる音のみである。
「うぅ、またイくぅ!まんここつこつ叩かれてイくぅ。ちんちんぱちゅぱちゅされてイくぅ!」
 四肢が縮こまり、彼女の瞳から涙がこぼれる。責められる慣れていない快楽に、早くも音を上げてしまった。だが、事実上のギブアップ宣言を聞いても、男は腰の動きを止めなかった。むしろ、一気に限界まで駆け上がろうと、さらに腰の上下を速めていく。
「ふっ、くっ、ぐぅっ!」
 ぎりぎりとかみ締められた歯の間から、彼が息を漏らす。男も限界間近であった。
「イくのぉ?あんたも、はぅ、イくのぉ?じゃあ、一緒だよぉ。フェアリーみたいに、私とあんた、一緒にぃ、いっしょぉにぃっ!」
 その言葉が引き金だった。男がぎゅっと彼女に顔を寄せると、彼女の唇を自らのものでふさいだ。それと同時に、射精を行う。
「ふぅぅっ!きゅぅぅぅ!」
 彼女も絶頂を迎え、膣肉をポンプのように収縮させる。搾乳機に入れられた牛の乳首のように、彼の尿道を駆け下りた精液が、彼女の子宮へと余すところ無く注がれた。
「あむっ、れるぅ、ちゅぅぅ……」
 二人は互いに相手の顔を両腕で両手で固定させ、息が苦しくなるのも構わずに、キスを交し合った。

「ピクシーちゃん、すごかったね」
 男が帰った後、木箱に戻ってきたピクシーを、フェアリーが迎えた。
「何だ、ファアリー起きてたの?」
 自分のベッドの縁に腰掛けつつ、彼女が問う。フェアリーは、こくりとうなずいた。
「うん、ピクシーちゃん、いつもと違ったね。私みたいにお兄ちゃんに責められてた」
 彼女がそう言うと、先ほどの痴態を思い出したピクシーが、ぽっと頬を赤く染める。
「ま、まあ、たまにはああいうこともいいかもね」
 ツンと冷たい反応を返すが、にやけ顔が止まらない様子だ。彼女は、できることならもう一度彼に責められたいと思っていた。彼女は責められる悦びを覚えてしまったのだ。
「ねぇ、話は変わるけどさ」
 彼女の心の変化に微笑みつつ、フェアリーが問う。
「お仕事終わったら、どうする?」
「どうするって……」
 ピクシーは彼女に問われるまでもなく、何度も同じことを考えたことがある。しかし、最近はめっきりそんなこととはご無沙汰だった。何しろ、一年近く経っても、仕事が終わる気配がないのだ。いつまで経っても待機だし、いつまで経っても彼女たちの世界は四畳半の和室なのだ。
「この前、先輩のバフォメットさんに聞いたんだ」
 先輩とは、彼女たちがオファーを受けた番組の、前のパーソナリティのことである。
「お仕事が終わったら、パートナーとずっと一緒にいられるようになるんだって」
「パートナー?」
 ピクシーが問い返すと、フェアリーは大きくうなずいた。
「うん、お仕事でお世話になった男の人のお嫁さんになれるんだって。それって、お兄ちゃんのことだよね?」
 はっとして、ピクシーは目を見開いた。そして、ごくりと喉が大きく鳴る。
「お仕事が終わったら、私たち、お兄ちゃんのお嫁さんになれるんだよ」
「そ、そう……」
 彼女の受け答えはもはや上の空であった。彼女の頭の中では、教会の鐘がリンゴーンと荘厳な音を鳴らしていた。
「お嫁さんに、なろうね。一緒に、お兄ちゃんのお嫁さん……毎日、一緒に、えっちな遊び……」
 二人は無邪気なものとは程遠い、とろけた笑みを浮かべ、いつ叶うとも知れない夢に想いを馳せた。
11/09/29 02:09更新 / 川村人志

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