読切小説
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パイポイズン
 彼女とつながってからずっと、目の前にある二つの乳房が気になって仕方がない。
 触りたい、と口に出して言いたいが、それは叶わない。何故ならば、彼女によって注射された毒により、体の自由が利かないためである。
「あはぁ……お前のちんぽ、いい。すごくいいぞ」
 ぺろりと彼女は自分の唇をなめながら言った。
 私は彼女の名前を知らない。彼女も私の名前を知らないだろう。何しろ、私たちはつい一時間前に出会ったばかりで、自己紹介を交わす間もなく彼女に注射されてしまったからである。
 魔術大学で私の専門である瞬間移動魔法の研究をしていたところ、大失敗をして見知らぬ砂漠の真ん中に放り出された。そういった不慮の事故のために、研究室に戻るための魔法薬をいつも持ち歩いているのだが、よほど激しい事故だったらしい。薬瓶が全て割れてしまっていた。
 迫りくる死に恐怖しながら当てもなく辺りを歩き回っていると、遠くの方で人影が見えた。
 目の前に希望の光を見た私は、大きな声を上げ、千切れんばかりに上に伸ばした腕を振りながら、その人影へと全力で走っていった。
 その人影の正体こそが、今私の前にいる彼女である。
 頬を染め、体を上へ下へと乱暴に動かし、獲物を目の前にした肉食獣のようにこちらを見つめ、時折真っ赤でてかてかと唾液で光る舌が現れ、唇を湿らせる。それ以外の時間は、鋭く伸びた犬歯を見せ妖しく微笑む。さえぎるものが一切ない褐色の肌に玉のような汗が浮かび、次の瞬間には飛び散り、滴り、流れ落ちる。後ろで一つにまとめられた綺麗な黒髪が体の動きに合わせて跳ね回る。
 そんな美貌をたたえた彼女の、私の分身とつながっている下半身は、異形であった。外骨格に包まれ、月明かりをギラギラと反射するそれは、サソリそのものであった。手足が四対あり、一番手前の一対はハサミ状になっていて、私の衣服をがっちりとつかんで離さない。残りの三対は、自らの体を上下させるために激しく屈伸を繰り返している。
 その屈伸に合わせて、私の全身に快楽が走るのだ。
 そして、私が一番気になっている豊かな乳房。ぶるんぶるんと大きな音を立て、組み敷かれた私の視界の中で踊り跳ねる。
 彼女は人間ではない。ギルタブリルと呼ばれる魔物の一種であった。
「くふ、ふ……お前のいやらしいちんぽ、さらに硬く太くなってきたぞっ……んっ、ふっ、カリもぷっくりとエラを張って……」
 彼女が女性にしては低い、脳に直接響くようないやらしい声色でつぶやく。私はただ、荒い呼吸で答えるしかない。意味のある言葉で答えようとしても、口腔が上手に動かないのだ。それどころか、頭の先からつま先まで、自由に動かせるところがほとんどない状態である。
 出会った瞬間に襲われ、それから一時間彼女は動きっぱなしである。私は岩を背もたれに砂の上に座らせられ、ただ彼女が与える快楽を受けるだけである。しかし、すでに何度彼女の膣内に精を放ったか分からないほど絶頂を迎えており、疲労困憊であった。だが、その旨を伝えることすらままならない。
 そんなことを考えている内に、股間にすでに何度も味わってきた感覚が湧き上がってきた。睾丸と陰茎の根元をぎゅっと圧迫されるような感覚。精巣がかつてないほどのハードワークをこなし、必死に精子を作り出す感覚。出来た精液が尿道を少しずつ上ってくる感覚。
 私の限界を素早く察知した彼女が、私の瞳を見つめて、にぃと目を細めて笑う。
「また、くっ、んっ……出るん、だな。んっ、いいぞ。何度でも……くぅっ、私のまんこの一番奥に、出せ……っ」
 そう言い終わると同時に、強烈な快楽が弾けた。麻痺状態であるにも関わらず、無意識の内に腰が跳ね上がる。腰が持ち上がるのに合わせ、ポンプのように駆け上がった精液が吐き出される。
 全てを出し終えた後に彼女の顔を覗くと、うっとりとしたように、嬉しそうに、表情を緩めていた。それを眺めていると、徐々にまぶたが下りてきた。疲労が溜まり、眠気がきたのか。はたまた腎虚による失神か。とにかくその抗いがたい誘惑に誘われるままに意識を手放そうとすると、私の唇に柔らかいものが触れた。
「ん!れる……んふ……」
 鼻から、そしてわずかに隙間の開いた口から息と音が漏れる。
 柔らかくて甘いものが、口内を縦横無尽に暴れ回る。それに触れた粘膜が、じんじんと切なくうずく。
 しばらく経ってから、ようやく私は彼女にキスされていると気付いた。それと同時に、薄れ掛けていた意識が急激に覚醒していく。
「ね、ね……寝るなぁ!」
 今までの強気で淫乱な態度とはまるで違う、子供っぽい声色であった。
 完全に覚醒し、はっきりとした視界で見た彼女は、目を潤め、眉をひそめ、悲しそうな表情だった。しかし、すぐにはっと驚いた表情を作り、すぐに元のきりっとした魔性の笑顔を浮かべた。
「い、いや……ごほんっ。お前に寝る権利なんかあるはずがないだろう?もっと私を見るんだ」
 そう言って、彼女が再び腰を動かし始めた。射精直後で小さくなっていたペニスが、すぐに硬さと大きさを取り戻す。肉のひだの一枚一枚が、ぴったりと幹に貼り付き、時折吸盤でも付いているかのように吸い付く。
「お前は、全力で私を見ろっ、んっ。全力でぇ……私に愛されろ。んふふ……そして全力でもって、私に愛の証を注ぐんだ……そしてぇ、全力で必死な顔を、ずっと私に見せ続けるんだ」
 それが……とまで言うと、彼女がすうと息を吸い込んだ。
「お前の、私の夫の唯一の権利だ」
 その言葉にどきりとした。
 最初ほどではないが、一定の速さで彼女が腰を上下させる。一回目よりも遅くなった分、よりしっかりと彼女の膣を堪能できるようになったと思う。そしてこの瞬間、私はすっかり彼女に恋している、彼女を愛していると気付いた。彼女をもっと感じたいし、彼女をもっと知りたいし、彼女にもっと触れたい。
 もっと触れたい。視線が彼女の顔から少し下がる。そこには、ゆっくりと上下に揺れるたわわな果実が実っていた。
 上から滑るとするりと落ち、下から上るとお椀のよう。褐色の肌より少しだけ濃い色の乳首。それがたぷんたぷんと、まるでこちらを誘うかのように招く。しかし、それに答えることはできない。手は自由に動かず、喉はただ空気を通すだけ。
 私の大好きな巨乳が目の前にあるというのに。愛し愛され相思相愛の関係なのに。触れることが叶わないなんて。
 あの乳に顔をうずめたい。胸の谷間の香りを思いっ切り嗅ぎたい。肺いっぱいに彼女のフェロモンを満たしたい。なでたい。突付きたい。乳首をころころと弄びたい。もみたい。
 様々な欲望が渦巻いた。今まで研究一筋の生活で、強い性欲など抱いたことがなかったのに。女性に愛された途端にこれかと、自分の欲深さに驚いた。そして、それはいくら溜まり心の奥底でよどんでも、決して晴れることはないのだ。そう思っていた。
 だが、彼女は人間ではない。魔物なのだ。人間の、特に男の性欲には敏感に反応する。
「あっ、んっ……何だ?その視線は……くふふ、なるほど……」
 私の意思が伝わったのか、彼女は含み笑いを漏らした。そして、彼女は上半身の方、人間の腕で自らの豊満な両乳房を持ち上げた。
「これに触りたいんだろう?もみたいんだろう?ん?」
 その通り。麻痺毒でまばたきすらままならない状態で、何とか首を上下にかくかくと振った。
「ふふっ、やっぱりぃ……そうなのか。でも、んっ、だめぇ、だ」
 彼女の言葉が信じられなかった。嘘だろう。さっき私のことを愛してるって言ってくれたではないか。私は彼女を愛しているから、何をされてもいいと思っているのに。
「さっき、私のことを差し置いて寝ようとしてたから……その罰だ」
 眠るというよりは、失神しかけたと言った方が正しいのだが、文句を言うことはできない。
「んっ、ふっ……ほら、見えるか?ふぅっ、指が、こんなにっ……ん、奥まで、食い込んで」
 彼女の手が両乳房を持ち上げるようにすると、重力のみでむっちりと脂肪の塊が指の間に食い込んでいく。その柔らかそうな情景に、私の脳内は桃色一色に染まってしまった。
 ああ、こんなに近くにあんなに理想的なおっぱいがあるというのに……私の視界がぼやけてきた。もめない触れない悲しさに、涙があふれてきたのだ。
「えっ……あっ……そ、そんな泣きそうにならなくても……いいじゃないか」
 彼女がひどく悲しそうな顔をした。いや、バツの悪そうなというべきか。好きな子にいたずらをしていたら、その子が本気で泣いてしまったから困っているような。そんな顔。
「分かった、しょうがないな。今お前は毒で動けないから……」
 彼女が腰の動きを止め、ハサミでぐいと私の体を引き寄せた。そして彼女の腕に優しく抱かれる。両頬に、憧れていた二つのものが触れる。ちょうど、谷間に顔をうずめている形になった。谷間から漏れる、彼女の汗とフェロモンの香り。感触と芳香ですっかり骨抜きになり、悲しみが消え失せ、それが安らぎに変わった。
「今は、これで我慢してくれ」
 今度は、うなずくこともできなかった。優しく、しかししっかりと抱きとめられ、フェロモンで骨抜きになった思考では、動こうにも動けない。それ以前に、頭が固定されて動かすことができないのだ。
「すまんな。私は、こういった形でしかお前を愛せないんだ……こうやって、毒で動けなくさせて、こうやって乗っかって、無理やり精を搾り取って……」
 腕の力が強くなった。
「初めて見たときから、お前が私の運命の人だって思ったんだ。一目惚れだった。だから、逃げられないように、体が勝手に……」
 ひどく悲しそうな声だった。本当に私に申し訳ないと思っている声色。だが、私の心に怒りはこみ上げてこなかった。何故なら。
「大丈夫、だ。確かに……初めは驚いたが。今はもう君から……離れたくない」
 自然と、思っていることが正直に口から出た。いつの間にか、毒の効果が薄れてきたらしい。
「……!」
 息を呑む彼女。次に口から出た言葉は、慈愛に満ちた優しげなものだった。
「分かった。じゃあ、もう一回、出そうな。そうしたら……いくらでも私の胸で眠らせてやるから」
 緩やかに、彼女の腰が動き始めた。先ほどまでの搾り取るような、強烈な締め付けがない。肉棒を優しく抱きしめるような、今私が彼女にされていることを、そっくり真似たような動作。
 しかし、それで十分だった。今、言葉を交わして、互いに愛し合っていることを確認した。もし今体が動いたら、乳房なぞに目もくれず、ただただ彼女の体を抱きしめていたであろう。それが叶わない分、私は彼女をせめて下半身で愛してあげようと思った。
 すぐに限界がくる。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……」
 声帯が完全に機能を取り戻し、膜を揺さぶり、呼吸が荒い声となって口から漏れ出る。
「そうだ、いいぞ。んっ……はんっ、いつでもいいから、な?『愛してる』って気持ちを、全部子宮に出すんだ」
 後頭部を優しくなでられながら、ついに私は最後の絶頂を迎えた。
 後を引く快楽。その余韻に浸りながら意識を手放す直前。私が見たのは、彼女の一際輝いた笑顔であった。

「ん、あんっ……あなたぁ……まだ研究終わらないの?」
 あれから私は、メアリーを連れて大学に帰ってきた。メアリーとは目の前の彼女の名前である。彼女はあの砂漠とこの街を行き来する生活をしていたため、夜が明けてすぐに帰ることができたのだ。そして、彼女は当然のように私と一緒に暮らすことになった。
 実際に共同生活を送ってみると、彼女は最初の日とは打って変わって、甘えん坊で寂しがり屋だということが分かった。
「んっ、きゅんっ、くぅん……カリがぁ、エラ張ってきたよ?」
 こうやって、私が自分の研究室で研究をしている最中でも、セックスをやめようとはしない。もっとも、今は同僚からもらった集中力を飛躍的に上げる薬を飲んでいるおかげで、セックスしながらでも研究を続けることは可能なのだが。
「ぐっ……うっ」
「ふぅっ、うんっ!一番奥で出たぁ……」
 さすがに、射精の瞬間は思考が停止してしまう。
「すごいよ……まだ出てる。あぁ、すごい……どろどろぷりぷりでぇ、美味しい」
 うっとりとした表情で、私を見上げる。その瞳は、どんな娼婦よりもとろけきっていて、私への深い愛情を感じさせるものであった。
 同棲を始めてから、私の研究は軌道に乗ってきた。あの日彼女のもとまで飛ばされてしまった、失敗作と思っていた魔法薬。確かに瞬間移動としては失敗であったが、予想外の成果をもたらした。
 その魔法薬の効果を調べ上げた結果、運命の人のもとへ飛んでいくという効果があると認められたのだ。正確には、最も相性が良い異性のところへ飛ばされる薬。
 これが想像以上の好評を得た。魔物娘が夫探しに。モテない男が春を求めて。お見合いを押し付けられたお嬢様が両親に隠れて。などなど、この魔法薬が欲しいという者が大勢現れたのだ。
 それによって、以前よりも必死に仕事を続けなくてもいい程度の貯蓄をすることができた。今は、室内でも天井をぶち抜かずに飛べるようにできないか、飛んでいった先で思い切り地面にぶち当たらないようにできないかなど、細かな改良を進めている。
「ねぇ、もう一回しよ?次はおっぱい、たっぷりもんでいいからぁ」
 甘えた声でメアリーがささやいた。
「もんだら手がふさがって研究ができないじゃないか」
「んふっ、だったらぁ、しばらく休憩、ってことで」
 ぴかぴかの笑顔でこちらを見つめてくる彼女。抗いがたい誘惑に流され、私は彼女の体を優しく抱きしめた。
 当然休憩で済むはずがなく、この日は夜明けまでつながりっぱなしであった。
11/07/27 23:36更新 / 川村人志

■作者メッセージ
原案そして投稿を快く許可してくださった、エロ魔物図鑑スレの>>772さんに感謝します。

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