本当の初めて
「おい、帰るぞ」
日暮照秋は、教室の窓際一番後ろの席に寄り、声をかけた。
そこには、一人の女生徒が座っていた。
彼女―野村春奈―は、彼の顔を見つめ小さくうなずいた。
机の上に並んでいた教科書やノートを、急いで鞄の中にしまっていく。
彼女の片づけが済むと、照秋は無言で彼女に背中を向け、そそくさと教室を後にした。
春奈は慌てて彼の後をついていく。彼女の艶のある長い黒髪が、ふわりと主の後を追ってなびく。
そんな二人の様子を、三人の女生徒達が、恨めしそうな表情で見つめていた。
「……」
二人で歩く。
照秋がずかずかと一方的に進み、半歩遅れて春奈が小走りで追いかける。
この時間帯、二人が通学路として利用する大通りは、学校帰りと会社帰りの人々でごった返す。
どこにこんなにも多くの人間が押し込められていたのだろうかと、疑問に思うほどの量である。
当然、そんなにも多くの人間がいるならば、可愛い女の子をナンパしようとする悪い輩も存在するわけで。
「あっ、キミ可愛いねー。超タイプなんですけど。ちょっとオレらと遊んでかない?」
そういった悪い虫は、照秋が睨みを効かせて追い払う。
柔道部に所属し、毎日練習に明け暮れている彼は、身長190cmでスポーツ刈りの、がっしりとした筋肉質の男である。おまけに生まれつきの強面。
そんな彼に睨まれたら、大抵の人間は彼女をこれ以上誘うのはやめてしまう。
ナンパ男を追い払ったあと、彼は彼女が自分の学ランの背中をきゅっと摘んでいることに気付いた。
その手がカタカタと小刻みに震えていることを、振動で感じ取る。
彼は自分がまだ必要とされていることにホッとする一方、彼女の男嫌いがまだ治っていないことに不安と悲しみを覚えた。
春奈にとって、頼れる男は、小学生のときから同級生であった彼しかいないのである。
「……」
歩く。
二人の間にあるのは、しんと冷え切った空気を満たす白い息ばかりで、言葉はない。
ただただ無言で、二人は歩く。
一ヶ月前のあの日、春奈が口を閉ざすようになった日から、二人は一緒に行動することが多くなった。
クラス内で、「二人が付き合い始めたのではないか」という噂で持ちきりになった。
春奈が無口になったのは、無口な彼氏、照秋の趣味に合わせるためじゃないかと。
何人ものクラスメートが、彼や彼女に噂の真相を確かめたが、二人とも肯定も否定もしなかった。
「……」
黙ったまま質問者の方をじっと見つめるばかりだったため、何故か聞いた方が謝って引っ込んでしまう始末であった。
二人の足が止まった。
一軒の家の前。表札には「野村」と彫ってある。春奈の家である。
「ありがとう」
玄関の扉に鍵を差込み、中に入る直前、春奈は振り返ってつぶやいた。
「おう、また明日な」
同じくらいの小さな声で、照秋が答える。
二人がまともに会話するのは、一日の内でこの瞬間だけであった。
朝、春奈の家の門前で照秋が待つ。
「おはよう」
照秋のぶっきらぼうなあいさつ。
緊張した面持ちで玄関のドアから出た春奈の顔が、ふっとほころぶ。今日も彼がいるという安心感からくるものである。
そんな彼女の表情を見て、彼は自分の存在価値を見出す。
まだ自分は、必要とされている。
彼は、彼女が昔のような明るくて誰にでも分け隔てなく接する、彼の助けを必要としなくなることを望んでいた。
しかし心の奥底で、彼女が彼を必要としなくなることに恐怖を覚えていた。
彼は今まで一人で生きてきた。
まったく友人がいないわけではない。話しかけられればぶっきらぼうでも短くても返答はするし、そんな彼を悪く言う人はいない。
しかし、本当の意味で誰かと接することはなかった。
心の中で壁を作り、本心を誰にも見せないでいた。
たまった鬱憤は、柔道の練習に打ち込むことで発散した。
これから一生、彼は本当に心を分かち合う人間とは出会わないだろうと思っていた。
だが、一ヶ月前、その予感は打ち砕かれた。
「……」
黙って通学路を歩く。
「……っ!」
春奈がびくりと一度、大きく震えた。
そして彼女は、照秋の学ランの裾を握る。その手は細かく震えていた。
二人の視界の端に映るのは、細い路地への入り口。
そこは春奈が変わってしまった場所。そして、今まで単なる「同じ小中学校の同級生」であった二人の距離が、ほんの少し縮んだ場所。
照秋は黙って前を見据えたまま、背中へと手を回した。
裾を握る彼女の手に、その手を重ねる。
「……!」
一度ぴくんと触れられた手が動いたが、それ以降震えがぴたりと止んだ。
彼女は、彼の「大丈夫だ」というメッセージを、彼の大きくて分厚い手から受け取った。
春奈にとって、授業中は一日の中で最も不安な時間帯である。
家のように他人から身を守る壁がなく、彼女を守ってくれている照秋が近くにいないからである。
二人は隣同士のクラスなため、離れ離れになってしまっている。
そんな彼女に、斜め前の席に座っている男子生徒の視線が這って回る。彼は時折彼女の方へと視線を向け、にたにたと口元をゆがませる。
男の視線は、特に彼女の胸の辺り、そして机に隠れた股間に集中していた。
男がぺろりと舌を出し、唇を舐めた。
ぞくりと春奈の背筋に怖気が走る。脳内が恐怖で満たされる。視界が涙でゆがむ。
次の瞬間には、男は黒板の方へと視線を戻していた。
彼は、表向きでは生徒会長、成績優秀でスポーツ万能。そして誰とでも仲良く接し、友人も数多くいる。身だしなみもきっちりとしており、先生の評判もいい。
彼女が受けた仕打ちを話しても、誰も信用してくれない。
春奈は、ただただ照秋と早く会いたいと願うばかりであった。
放課後、照秋はなかなか春奈を迎えには来なかった。
彼が日直だったからである。
日直の仕事は思ったより多い。日誌に時間割とその日の出来事を書き、職員室の担任の机まで持っていく。掃除の漏れをチェックし、掃き残し、拭き残しを見つけたら掃除をする。花瓶の水を取り替えるなど。
照秋は真面目な性格だったので、日直の仕事をきっちりとこなしていた。そのため、いくら日の入りが早い季節とはいえ、空が朱に染まるまで春奈の元へ行くことができなかったのだ。
春奈は待った。
頭の中に渦巻くのは、あの男子生徒のゆがんだ笑顔と、彼の取り巻きである女子生徒3人の罵声。
――はぁ……はぁ……
――ねぇ春奈ぁ、今どんな気持ち?
――うわっ、気持ち悪い。無理矢理犯されてるのに喘ぎ声なんか出してる。
――何こいつ、誰にでもいい子ぶるぶりっ子だと思ったら、ドMのド淫乱じゃん。
――ぐっ、くぅっ!中にっ、中に出すぞっ!春奈ぁ!
――嫌だぁ!嫌ぁ!
制服の腹の部分をぎゅっと握り締める。
ぼろぼろと涙が溢れて落ちる。
彼女は怖かった。悔しくて悲しくて辛かった。
そして何より、無理矢理挿入させられて、その上膣内射精をされたときに湧き上がった性的快感。彼女は彼女自身が憎くて憎くて仕方がなかった。
「すまん、待たせたな」
教室で一人ぼっちで泣いていた彼女に、ぶっきらぼうでいて優しげな声がかけられた。
はっとして彼女は顔を上げる。
泣きはらしてゆがんだ視界の中に、見慣れた顔、今一番見たかった顔が浮かんでいた。
「……どうしたんだ、その顔」
彼の声を聞くや否や、春奈は夢中で彼の胸元に飛び込み、大きく吼えるように泣いた。
それからしばらく経ったある日の夜。
照秋は自分の部屋のベッドの上で本を読んでいた。うつぶせになり、本のページをめくる。
季節は冬。寒波が列島を襲い、部屋の中にいても息が白くなってしまうほどの寒さである。
よって、彼は電気ヒーターをつけ、さらに布団にもぐりこんでいた。その見た目はさながら芋虫のようである。
――コンコン
彼の集中力は、窓を叩く物音で途切れさせられた。
彼は一旦音のする方を向いたが、すぐに不審に思った。彼の部屋は二階である上に、ベランダがない。そんなところに人が立ってノックをするわけがない。
風のせいだろうかと、彼が本に視線を戻そうとしたとき。
――コンコン
また音がした。先ほどよりも大きく、はっきりとした音であった。
――……ん。ひ……
さらに、かすかに別の音も混じっている。彼はそれが人間の声であることに気付いた。
彼は音の主が泥棒ではないかと疑った。しかし、律儀にノックしてから侵入する泥棒など、聞いたことがない。
その場にとどまっても仕方がないので、彼は渋々ベッドから降りた。
少し汗ばんだ体に、ほとんど意味のない電気ヒーターの熱交じりの空気が容赦なく襲い掛かる。
思った以上の寒気にぶるりと鳥肌を立たせながら、彼は真っ直ぐにカーテンの閉められた窓へと向かった。
「ひぐ……く……」
カーテンに近づくにつれ、外の声が少しずつ大きくはっきりとしてきた。
女性の声。そして、内容は自分の名を呼んでいるものであると、彼は気付いた。
「日暮君……」
カーテンを勢いよく開け放った。
「あ……やっと、開けてくれた」
大粒の雪が降りしきる中、窓の外に春奈が浮かんでいた。
「野村……さん?」
搾り出すようにそれだけを口にすると、彼は押し黙ってしまった。
何故彼女はこんなところにいるのか。そもそも、どうやってベランダのない二階の外に立てているのか。
そして、彼女の格好に、彼は一番疑問を感じた。
肌の露出が多い。
胸は大きく谷間が強調されていて、ビキニのように胸と股間が桃色の毛で覆われている。
足も太ももから下が桃色で、背中から毛と同じ色の翼と尻尾が生えていた。その質感、動き、共に本物としか思えなかった。
そして、頭から生えている日本の角。ヤギのものを思わせる、ゴツゴツとして湾曲した角。
彼が絶句していると、彼女が手を上げ、もう一度窓をノックした。
「入って、いい?」
彼女の口から真っ白な吐息が漏れる。
彼女がとても寒そうだと感じた照秋は、疑問を後回しにして、とりあえず彼女を部屋に入れてあげることにした。
「それで、何で……?」
部屋に入れた春奈をベッドの縁に座らせると、彼は問いかけた。
彼も同じくベッドの縁に座り、互いに同じ方向を向いている。
照秋は目のやり場に困っていた。
部屋の照明に照らされると、春奈の露出度の高さがさらに目立った。股間の毛は、本当に大事なところしか隠していなかったのだ。後ろから見ると、お尻が丸見え。それどころか、肛門すら見えてしまいそうなのである。
だから、彼は彼女の方を見ることができなかった。女性とは付き合ったことがないため、性に関しては純朴な少年なのである。
隣同士で座ってしまえば、彼女に視線を向けなくても不自然ではない。
「今日、とっても寒いね」
「あ、ああっ、そう、だな……」
彼女はいたって普通に会話を始めてしまった。いまだにこの状況についていけていない彼は、しどろもどろになりながら何とか答える。
「だから、ね?暖まらない?」
照秋は、ずしっと自分の左肩に重みがかかったのを感じた。
思わず、そちらへ目を向けてしまう。
「えっ……!」
春奈が、彼の肩に頭を乗せていた。まるで、寄り添うように。
次の瞬間には、するりと彼の左腕に彼女の両腕が回されていた。
「日暮君の腕、暖かい……」
すりすりと彼の二の腕に頬擦りをして、嬉しそうな笑顔を見せる春奈。さらさらと、綺麗な黒髪が揺れる。
「ちょ、ちょ、ちょっと……一体何を……!」
何とか身をよじって、彼女からやんわりと離れようとしたが、彼女の腕はどこにそんな力があるのか、少しも動かなかった。
「えっとね……お礼をしようと思って」
彼女が彼の顔を見上げた。
そのとき、彼は気づいた。彼女の瞳。黒から赤紫へと変色していたのだ。
キラキラしていて、鮮やかで、彼にはそれが宝石のように見えた。目を離すことができない。
「日暮君、今まで私のことを守ってくれてたから。それに、あのときも助けてくれたし……」
あのとき。制服がところどころ破れた状態で、路地からふらふらと出てきたとき、彼はたまたまそこへつながる大通りを通って下校していた。
彼女を抱きとめ、肩を貸し、何とか彼女の家にまで連れて帰った。
彼はもう少し早ければ、未遂で止められただろうにと後悔していたのだ。
「あのとき、嬉しかった。ただ、小中学校が同じなだけだったのに……何度も励ましてくれて、声をかけてくれて、慰めてくれて……だから、お礼がしたいと思ったの」
くねくねと春奈の尻尾がうねる。
「そう思っていたら今日、久しぶりに真由美ちゃんに会って。真由美ちゃん、覚えてる?」
照秋には心当たりがあった。春奈と同じく、同じ小中学校に通い、今は彼らとは別の高校に行っている三島真由美。
「最近、あの子に彼氏ができたんだ。素直になれなくて、意地っ張りな子だったのにね、ふふっ。それでね、とても幸せそうに彼氏のことを話していたから、嬉しくて嬉しくて。彼女、ずっと『恋愛ができない』って悩んでたのに。それで、私は悩みを打ち明けて、秘訣を聞いたの。そしたらね……」
そこまで言うと、彼女は絡めていた左腕を離し、彼の右肩を掴んだ。そしてゆっくりと彼をベッドへと押し倒す。
「こんな体になっちゃった」
照秋の脳に彼女の言葉が届いたときには、すでに彼の唇は彼女によってふさがれていた。
「ちゅっ、くちゅっ……」
見開いた彼の目。そこに映るのは、目を閉じてうっとりとした表情で、自分に口付けている彼女の顔。
「れるっ、あむっ、れるぅ……」
彼女が舌を差し入れた。引っ込めると同時に彼の唇を自分の唇で甘噛みし、また舌を口内へねじ込む。
「……っ!」
彼は何もできなかった。突然のキスにとまどうばかり、なすがまま。
「んー……ちゅぽっ。驚いた?」
「あ、あ、あ……当たり前だろっ」
じたばたともがき、照秋は声を震わせる。だが、馬乗りになった彼女を振りほどくことはできなかった。
「だめだよ。まだお礼が終わってないんだから」
そう言って、彼女は体を倒し、仰向けになっている彼に強く抱きつく。
「今日は寒いから、一緒に暖まろう?体の外も、中も、ぽかぽかにしてあげるから。それと、これはおまけなんだけど……」
すっと彼女の右手が彼の下半身へと伸び、ズボンの股間部分を優しくなでた。照秋が息を漏らす。
「私の初めて、やり直してほしいの。あんな男のじゃあなくて、本当の初めて。日暮君に、奪ってほしい」
「本当の……初めて……」
彼女の言葉に合わせ、彼はつぶやいた。
「私の記憶を、上書きして……幸せで、ラブラブな初エッチ、本当の初体験が、ほしい……」
目を潤ませ、彼と視線を合わせる。
「あいつのこと、忘れさせて……」
そのとき、彼の決心は固まった。あの日、彼女を助けた日、彼は彼女を守ると心に誓った。彼女の身体と精神、両方の平穏を守ると誓った。それが、ずっとずっと彼女に恋をしていた彼のできる唯一のことであった。
今まで体を鍛えていたのは彼女を危険から守るためであり、心を鍛えていたのは彼女の精神的支えとなるためであると信じた。
だから、彼は言った。
「分かった」
そして、力強くうなずいた。
「じゃあ、入れるからね……」
体を起こし、馬乗りのままで、春奈は照秋のズボンを引き下ろした。
「あ、すごい……」
そこから出てきたペニスと、まじまじと見つめる。
彼は口を結び、気まずそうな表情を浮かべた。
「もう、こんなに、大きくなってる……準備、してくれたんだね」
そう言うと、彼女は指を自らの股間に這わせた。くちゅりと湿った音がする。
「私も、準備、できてる。だから、もう、入れちゃうね?」
過去のレイプによる恐怖心よりも、魔物化による本能の方がはるかに上回っていた。彼女は今、彼とセックスをしたくて仕方がないのだ。
「んくっ、ふぅっ。とろとろぬとぬとのおまんこで、暖めてあげる」
ゆっくりと腰を下ろし、彼女はためらうことなく蜜壷に肉棒を招き入れた。
「くぁっ、あ゛ぁっ!」
ぎゅっと目をつぶり、照秋がうめいた。人間を止め、快楽を与えることに特化した魔物の膣。それは童貞が味わうにはあまりにも刺激が強すぎた。
「ぐぅっ!」
春奈が声を漏らす。苦痛の喘ぎ。腰を重力に任せすとんと落とすと、体を震わせて動けなくなってしまった。
照秋がまぶたを開く。彼女の膣内に収まって見えなくなった彼の性器。くわえ込んだ膣口から、赤い血が漏れていた。
「野村っさんっ……その血……」
「えへへ……やっと、初めて、もらってくれた……」
目尻に涙をため、それでも笑顔で彼女が言う。
魔物化の奇跡。真由美は春奈をサキュバスにする際、彼女がレイプされて処女を喪失していることに気付いた。そして、彼女には今好きな人がいて、彼に本当の初めてをもらってほしがっているということにも。
そこで、サキュバス特有のおせっかいが働いた。彼女の処女膜を再生させ、清らかな体に戻したのだ。
「痛く……ないのか……?」
何度も小さく震える彼女を見て、彼は心配になった。いくら童貞でも、処女喪失するときは痛みを伴うということくらいは知っている。
「うん、痛い……痛いけど……それ以上に、嬉しい……」
涙がこぼれ、はたはたと照秋の腹を、胸を濡らす。
「二度目の……ううん。正真正銘、本物の初めてぇ……ぐすっ、大好きな人に、奪われちゃったのが、嬉しくて……ひっく、うれしくてぇ!」
その言葉を聞いて、彼の中の何かが弾けた。
彼女の尻肉をつぶれそうになるくらい強くにぎると、上下を反転させて彼女の体をベッドに横たわらせた。
「俺もっ、野村さんのこと、好きだ!ずっとずっと!小学生のころから、ずっと!」
正常位の状態に彼女を組み敷いて、彼は腰を思う存分彼女の膣へとぶつけた。
「うんっ、嬉しい!私たちぃ!両想いぃ!」
まだ破瓜の痛みが残るが、それ以上に彼女は彼が自分を求めてくれるのが嬉しかった。
想いが実り、幸せな初エッチができることが本当に嬉しかった。
「ぐっ、くぅっ……野村さんのっ、体、中っ、全部暖かい!」
「うんっ、うんっ、日暮君のおちんちんもぉ、熱くてぇ!かたくてぇ!ごつごつ奥叩いてぇ!すごいぃ!」
寒さをしのぐためか、二人の愛情のせいか、二人は自然に体を密着させ、両腕を回して抱き合い、腰だけを動かして快楽を求めていた。
「はっ、はっ、はっ……」
照秋の息が荒くなった。限界が近づいている。
「おちんちん、おっきくなったぁっ、もう、出るんだね?しゃせぇ、するんだねっ」
彼女の問いかけに、彼は何度も小さくうなずいた。
「ああっ、出るっ、もう、限界……!ぐっ、くぅっ!中にっ、中に出すぞっ!春奈ぁ!」
「うんっ!いいよっ、中に、ちょうらぃ!」
彼女の両足が、さながら蛇のように彼の腰に巻きついた。絶対に膣内射精をしてほしいという強い意志である。
彼女がそうすると同時に、体内で熱いものが弾ける感覚を覚えた。照秋が射精したのだ。
「きゅぅっ、うぅぅんっ、初精子ぃ、子宮に届くぅ……!」
ひくんひくんと弱弱しく体を震わせ、春奈は彼の精を嬉しそうに受け止めた。
ざわざわと空気と彼女の体が動き、桃色の体毛が雲散霧消し、翼が分厚くなり、魔物のパーツが濃い紫色に染まる。
変態を終え、今、彼女は完全なサキュバスになったのだ。
翌日。
無事に初エッチを終えた二人は、この日も一緒に登校していた。
しかし、前日までとは様子がまるで違う。
今までは、照秋が前に立って歩き、半歩遅れて春奈がついていく形であった。
しかし、今日は二人寄り添うようにぴったりとくっ付いて歩いていた。
誰から見てもカップルだと気付くであろう。事実、道行く人々は彼を見てとてもうらやましそうにしていた。
元々学校のアイドル的だった存在の春奈が、さらに魔物化までしたので、この世のものとは思えぬ美人になっていたのだ。
二人は通行人たちのちくちくするような痛い視線を浴びながら、学校へと向かった。
ざわざわと、若い声がそこかしこから聞こえてくる。
青春真っ盛りの声がシェイクのように混ざり、冬の高校は、季節を思わせないくらいの熱気に包まれていた。
二人の教室は別である。教室の前に立った二人は、渋々絡ませあっていた腕を解くことになった。
「あ……」
そのとき、彼は目の前に女子生徒が三人立っていることに気付いた。
春奈をレイプした男子生徒の取り巻きたちである。
何を言うのか、何をするのか、彼はぐっと身構えた。
「あら、あなたたち。おはよう」
だが、春奈はそんな彼女たちに気さくに声をかけていた。まるで、昔のことなんか綺麗さっぱり忘れてしまったかのようである。
「おはようございますお姉さまぁ……」
彼女のあいさつを聞いた瞬間、取り巻きはうっとりと顔をとろけさせ、頬を染めて春奈に答えた。
「ふふっ、で、昨日どうだった?」
彼女は教室の奥をチラリと覗き、女子生徒たちに声をかける。
「はい、もう、大成功です」
「今まで、別の女を襲ってばかりだった彼に勇気を振り絞って告白して」
「精液、たっぷり出してもらいました!」
報告を聞いて、春奈は満足そうにうなずいた。
「それはよかった。サキュバスの体、最高でしょ?」
彼女が目を赤く光らせ言うと、それに答えるかのように三人組の目も赤く妖しく輝いた。
教室の奥、春奈の席の斜め前。そこには、昨晩三人の出来立てほやほやのサキュバスに数十発もの精液を搾り取られ、すっかり淫魔の虜になってしまった男がいた。
その目はうつろで、股間を膨らませ、もはや一秒たりとも魔性のセックスを待ちきれないという風であった。
「……」
そんな彼を見て、照秋はごくりと唾を飲み込んだ。サキュバスの本当の恐ろしさの片鱗が見えた気がしたからだ。
「日暮君、大丈夫だよ」
彼の心情を察知し、春奈は彼の顔を覗き込んで言った。
「私は、日暮君とぉ、ラブラブちゅっちゅなエッチが大好きなんだから、ね?」
彼女はそう言って腕を彼の首に回し、甘い甘いキスをした。
日暮照秋は、教室の窓際一番後ろの席に寄り、声をかけた。
そこには、一人の女生徒が座っていた。
彼女―野村春奈―は、彼の顔を見つめ小さくうなずいた。
机の上に並んでいた教科書やノートを、急いで鞄の中にしまっていく。
彼女の片づけが済むと、照秋は無言で彼女に背中を向け、そそくさと教室を後にした。
春奈は慌てて彼の後をついていく。彼女の艶のある長い黒髪が、ふわりと主の後を追ってなびく。
そんな二人の様子を、三人の女生徒達が、恨めしそうな表情で見つめていた。
「……」
二人で歩く。
照秋がずかずかと一方的に進み、半歩遅れて春奈が小走りで追いかける。
この時間帯、二人が通学路として利用する大通りは、学校帰りと会社帰りの人々でごった返す。
どこにこんなにも多くの人間が押し込められていたのだろうかと、疑問に思うほどの量である。
当然、そんなにも多くの人間がいるならば、可愛い女の子をナンパしようとする悪い輩も存在するわけで。
「あっ、キミ可愛いねー。超タイプなんですけど。ちょっとオレらと遊んでかない?」
そういった悪い虫は、照秋が睨みを効かせて追い払う。
柔道部に所属し、毎日練習に明け暮れている彼は、身長190cmでスポーツ刈りの、がっしりとした筋肉質の男である。おまけに生まれつきの強面。
そんな彼に睨まれたら、大抵の人間は彼女をこれ以上誘うのはやめてしまう。
ナンパ男を追い払ったあと、彼は彼女が自分の学ランの背中をきゅっと摘んでいることに気付いた。
その手がカタカタと小刻みに震えていることを、振動で感じ取る。
彼は自分がまだ必要とされていることにホッとする一方、彼女の男嫌いがまだ治っていないことに不安と悲しみを覚えた。
春奈にとって、頼れる男は、小学生のときから同級生であった彼しかいないのである。
「……」
歩く。
二人の間にあるのは、しんと冷え切った空気を満たす白い息ばかりで、言葉はない。
ただただ無言で、二人は歩く。
一ヶ月前のあの日、春奈が口を閉ざすようになった日から、二人は一緒に行動することが多くなった。
クラス内で、「二人が付き合い始めたのではないか」という噂で持ちきりになった。
春奈が無口になったのは、無口な彼氏、照秋の趣味に合わせるためじゃないかと。
何人ものクラスメートが、彼や彼女に噂の真相を確かめたが、二人とも肯定も否定もしなかった。
「……」
黙ったまま質問者の方をじっと見つめるばかりだったため、何故か聞いた方が謝って引っ込んでしまう始末であった。
二人の足が止まった。
一軒の家の前。表札には「野村」と彫ってある。春奈の家である。
「ありがとう」
玄関の扉に鍵を差込み、中に入る直前、春奈は振り返ってつぶやいた。
「おう、また明日な」
同じくらいの小さな声で、照秋が答える。
二人がまともに会話するのは、一日の内でこの瞬間だけであった。
朝、春奈の家の門前で照秋が待つ。
「おはよう」
照秋のぶっきらぼうなあいさつ。
緊張した面持ちで玄関のドアから出た春奈の顔が、ふっとほころぶ。今日も彼がいるという安心感からくるものである。
そんな彼女の表情を見て、彼は自分の存在価値を見出す。
まだ自分は、必要とされている。
彼は、彼女が昔のような明るくて誰にでも分け隔てなく接する、彼の助けを必要としなくなることを望んでいた。
しかし心の奥底で、彼女が彼を必要としなくなることに恐怖を覚えていた。
彼は今まで一人で生きてきた。
まったく友人がいないわけではない。話しかけられればぶっきらぼうでも短くても返答はするし、そんな彼を悪く言う人はいない。
しかし、本当の意味で誰かと接することはなかった。
心の中で壁を作り、本心を誰にも見せないでいた。
たまった鬱憤は、柔道の練習に打ち込むことで発散した。
これから一生、彼は本当に心を分かち合う人間とは出会わないだろうと思っていた。
だが、一ヶ月前、その予感は打ち砕かれた。
「……」
黙って通学路を歩く。
「……っ!」
春奈がびくりと一度、大きく震えた。
そして彼女は、照秋の学ランの裾を握る。その手は細かく震えていた。
二人の視界の端に映るのは、細い路地への入り口。
そこは春奈が変わってしまった場所。そして、今まで単なる「同じ小中学校の同級生」であった二人の距離が、ほんの少し縮んだ場所。
照秋は黙って前を見据えたまま、背中へと手を回した。
裾を握る彼女の手に、その手を重ねる。
「……!」
一度ぴくんと触れられた手が動いたが、それ以降震えがぴたりと止んだ。
彼女は、彼の「大丈夫だ」というメッセージを、彼の大きくて分厚い手から受け取った。
春奈にとって、授業中は一日の中で最も不安な時間帯である。
家のように他人から身を守る壁がなく、彼女を守ってくれている照秋が近くにいないからである。
二人は隣同士のクラスなため、離れ離れになってしまっている。
そんな彼女に、斜め前の席に座っている男子生徒の視線が這って回る。彼は時折彼女の方へと視線を向け、にたにたと口元をゆがませる。
男の視線は、特に彼女の胸の辺り、そして机に隠れた股間に集中していた。
男がぺろりと舌を出し、唇を舐めた。
ぞくりと春奈の背筋に怖気が走る。脳内が恐怖で満たされる。視界が涙でゆがむ。
次の瞬間には、男は黒板の方へと視線を戻していた。
彼は、表向きでは生徒会長、成績優秀でスポーツ万能。そして誰とでも仲良く接し、友人も数多くいる。身だしなみもきっちりとしており、先生の評判もいい。
彼女が受けた仕打ちを話しても、誰も信用してくれない。
春奈は、ただただ照秋と早く会いたいと願うばかりであった。
放課後、照秋はなかなか春奈を迎えには来なかった。
彼が日直だったからである。
日直の仕事は思ったより多い。日誌に時間割とその日の出来事を書き、職員室の担任の机まで持っていく。掃除の漏れをチェックし、掃き残し、拭き残しを見つけたら掃除をする。花瓶の水を取り替えるなど。
照秋は真面目な性格だったので、日直の仕事をきっちりとこなしていた。そのため、いくら日の入りが早い季節とはいえ、空が朱に染まるまで春奈の元へ行くことができなかったのだ。
春奈は待った。
頭の中に渦巻くのは、あの男子生徒のゆがんだ笑顔と、彼の取り巻きである女子生徒3人の罵声。
――はぁ……はぁ……
――ねぇ春奈ぁ、今どんな気持ち?
――うわっ、気持ち悪い。無理矢理犯されてるのに喘ぎ声なんか出してる。
――何こいつ、誰にでもいい子ぶるぶりっ子だと思ったら、ドMのド淫乱じゃん。
――ぐっ、くぅっ!中にっ、中に出すぞっ!春奈ぁ!
――嫌だぁ!嫌ぁ!
制服の腹の部分をぎゅっと握り締める。
ぼろぼろと涙が溢れて落ちる。
彼女は怖かった。悔しくて悲しくて辛かった。
そして何より、無理矢理挿入させられて、その上膣内射精をされたときに湧き上がった性的快感。彼女は彼女自身が憎くて憎くて仕方がなかった。
「すまん、待たせたな」
教室で一人ぼっちで泣いていた彼女に、ぶっきらぼうでいて優しげな声がかけられた。
はっとして彼女は顔を上げる。
泣きはらしてゆがんだ視界の中に、見慣れた顔、今一番見たかった顔が浮かんでいた。
「……どうしたんだ、その顔」
彼の声を聞くや否や、春奈は夢中で彼の胸元に飛び込み、大きく吼えるように泣いた。
それからしばらく経ったある日の夜。
照秋は自分の部屋のベッドの上で本を読んでいた。うつぶせになり、本のページをめくる。
季節は冬。寒波が列島を襲い、部屋の中にいても息が白くなってしまうほどの寒さである。
よって、彼は電気ヒーターをつけ、さらに布団にもぐりこんでいた。その見た目はさながら芋虫のようである。
――コンコン
彼の集中力は、窓を叩く物音で途切れさせられた。
彼は一旦音のする方を向いたが、すぐに不審に思った。彼の部屋は二階である上に、ベランダがない。そんなところに人が立ってノックをするわけがない。
風のせいだろうかと、彼が本に視線を戻そうとしたとき。
――コンコン
また音がした。先ほどよりも大きく、はっきりとした音であった。
――……ん。ひ……
さらに、かすかに別の音も混じっている。彼はそれが人間の声であることに気付いた。
彼は音の主が泥棒ではないかと疑った。しかし、律儀にノックしてから侵入する泥棒など、聞いたことがない。
その場にとどまっても仕方がないので、彼は渋々ベッドから降りた。
少し汗ばんだ体に、ほとんど意味のない電気ヒーターの熱交じりの空気が容赦なく襲い掛かる。
思った以上の寒気にぶるりと鳥肌を立たせながら、彼は真っ直ぐにカーテンの閉められた窓へと向かった。
「ひぐ……く……」
カーテンに近づくにつれ、外の声が少しずつ大きくはっきりとしてきた。
女性の声。そして、内容は自分の名を呼んでいるものであると、彼は気付いた。
「日暮君……」
カーテンを勢いよく開け放った。
「あ……やっと、開けてくれた」
大粒の雪が降りしきる中、窓の外に春奈が浮かんでいた。
「野村……さん?」
搾り出すようにそれだけを口にすると、彼は押し黙ってしまった。
何故彼女はこんなところにいるのか。そもそも、どうやってベランダのない二階の外に立てているのか。
そして、彼女の格好に、彼は一番疑問を感じた。
肌の露出が多い。
胸は大きく谷間が強調されていて、ビキニのように胸と股間が桃色の毛で覆われている。
足も太ももから下が桃色で、背中から毛と同じ色の翼と尻尾が生えていた。その質感、動き、共に本物としか思えなかった。
そして、頭から生えている日本の角。ヤギのものを思わせる、ゴツゴツとして湾曲した角。
彼が絶句していると、彼女が手を上げ、もう一度窓をノックした。
「入って、いい?」
彼女の口から真っ白な吐息が漏れる。
彼女がとても寒そうだと感じた照秋は、疑問を後回しにして、とりあえず彼女を部屋に入れてあげることにした。
「それで、何で……?」
部屋に入れた春奈をベッドの縁に座らせると、彼は問いかけた。
彼も同じくベッドの縁に座り、互いに同じ方向を向いている。
照秋は目のやり場に困っていた。
部屋の照明に照らされると、春奈の露出度の高さがさらに目立った。股間の毛は、本当に大事なところしか隠していなかったのだ。後ろから見ると、お尻が丸見え。それどころか、肛門すら見えてしまいそうなのである。
だから、彼は彼女の方を見ることができなかった。女性とは付き合ったことがないため、性に関しては純朴な少年なのである。
隣同士で座ってしまえば、彼女に視線を向けなくても不自然ではない。
「今日、とっても寒いね」
「あ、ああっ、そう、だな……」
彼女はいたって普通に会話を始めてしまった。いまだにこの状況についていけていない彼は、しどろもどろになりながら何とか答える。
「だから、ね?暖まらない?」
照秋は、ずしっと自分の左肩に重みがかかったのを感じた。
思わず、そちらへ目を向けてしまう。
「えっ……!」
春奈が、彼の肩に頭を乗せていた。まるで、寄り添うように。
次の瞬間には、するりと彼の左腕に彼女の両腕が回されていた。
「日暮君の腕、暖かい……」
すりすりと彼の二の腕に頬擦りをして、嬉しそうな笑顔を見せる春奈。さらさらと、綺麗な黒髪が揺れる。
「ちょ、ちょ、ちょっと……一体何を……!」
何とか身をよじって、彼女からやんわりと離れようとしたが、彼女の腕はどこにそんな力があるのか、少しも動かなかった。
「えっとね……お礼をしようと思って」
彼女が彼の顔を見上げた。
そのとき、彼は気づいた。彼女の瞳。黒から赤紫へと変色していたのだ。
キラキラしていて、鮮やかで、彼にはそれが宝石のように見えた。目を離すことができない。
「日暮君、今まで私のことを守ってくれてたから。それに、あのときも助けてくれたし……」
あのとき。制服がところどころ破れた状態で、路地からふらふらと出てきたとき、彼はたまたまそこへつながる大通りを通って下校していた。
彼女を抱きとめ、肩を貸し、何とか彼女の家にまで連れて帰った。
彼はもう少し早ければ、未遂で止められただろうにと後悔していたのだ。
「あのとき、嬉しかった。ただ、小中学校が同じなだけだったのに……何度も励ましてくれて、声をかけてくれて、慰めてくれて……だから、お礼がしたいと思ったの」
くねくねと春奈の尻尾がうねる。
「そう思っていたら今日、久しぶりに真由美ちゃんに会って。真由美ちゃん、覚えてる?」
照秋には心当たりがあった。春奈と同じく、同じ小中学校に通い、今は彼らとは別の高校に行っている三島真由美。
「最近、あの子に彼氏ができたんだ。素直になれなくて、意地っ張りな子だったのにね、ふふっ。それでね、とても幸せそうに彼氏のことを話していたから、嬉しくて嬉しくて。彼女、ずっと『恋愛ができない』って悩んでたのに。それで、私は悩みを打ち明けて、秘訣を聞いたの。そしたらね……」
そこまで言うと、彼女は絡めていた左腕を離し、彼の右肩を掴んだ。そしてゆっくりと彼をベッドへと押し倒す。
「こんな体になっちゃった」
照秋の脳に彼女の言葉が届いたときには、すでに彼の唇は彼女によってふさがれていた。
「ちゅっ、くちゅっ……」
見開いた彼の目。そこに映るのは、目を閉じてうっとりとした表情で、自分に口付けている彼女の顔。
「れるっ、あむっ、れるぅ……」
彼女が舌を差し入れた。引っ込めると同時に彼の唇を自分の唇で甘噛みし、また舌を口内へねじ込む。
「……っ!」
彼は何もできなかった。突然のキスにとまどうばかり、なすがまま。
「んー……ちゅぽっ。驚いた?」
「あ、あ、あ……当たり前だろっ」
じたばたともがき、照秋は声を震わせる。だが、馬乗りになった彼女を振りほどくことはできなかった。
「だめだよ。まだお礼が終わってないんだから」
そう言って、彼女は体を倒し、仰向けになっている彼に強く抱きつく。
「今日は寒いから、一緒に暖まろう?体の外も、中も、ぽかぽかにしてあげるから。それと、これはおまけなんだけど……」
すっと彼女の右手が彼の下半身へと伸び、ズボンの股間部分を優しくなでた。照秋が息を漏らす。
「私の初めて、やり直してほしいの。あんな男のじゃあなくて、本当の初めて。日暮君に、奪ってほしい」
「本当の……初めて……」
彼女の言葉に合わせ、彼はつぶやいた。
「私の記憶を、上書きして……幸せで、ラブラブな初エッチ、本当の初体験が、ほしい……」
目を潤ませ、彼と視線を合わせる。
「あいつのこと、忘れさせて……」
そのとき、彼の決心は固まった。あの日、彼女を助けた日、彼は彼女を守ると心に誓った。彼女の身体と精神、両方の平穏を守ると誓った。それが、ずっとずっと彼女に恋をしていた彼のできる唯一のことであった。
今まで体を鍛えていたのは彼女を危険から守るためであり、心を鍛えていたのは彼女の精神的支えとなるためであると信じた。
だから、彼は言った。
「分かった」
そして、力強くうなずいた。
「じゃあ、入れるからね……」
体を起こし、馬乗りのままで、春奈は照秋のズボンを引き下ろした。
「あ、すごい……」
そこから出てきたペニスと、まじまじと見つめる。
彼は口を結び、気まずそうな表情を浮かべた。
「もう、こんなに、大きくなってる……準備、してくれたんだね」
そう言うと、彼女は指を自らの股間に這わせた。くちゅりと湿った音がする。
「私も、準備、できてる。だから、もう、入れちゃうね?」
過去のレイプによる恐怖心よりも、魔物化による本能の方がはるかに上回っていた。彼女は今、彼とセックスをしたくて仕方がないのだ。
「んくっ、ふぅっ。とろとろぬとぬとのおまんこで、暖めてあげる」
ゆっくりと腰を下ろし、彼女はためらうことなく蜜壷に肉棒を招き入れた。
「くぁっ、あ゛ぁっ!」
ぎゅっと目をつぶり、照秋がうめいた。人間を止め、快楽を与えることに特化した魔物の膣。それは童貞が味わうにはあまりにも刺激が強すぎた。
「ぐぅっ!」
春奈が声を漏らす。苦痛の喘ぎ。腰を重力に任せすとんと落とすと、体を震わせて動けなくなってしまった。
照秋がまぶたを開く。彼女の膣内に収まって見えなくなった彼の性器。くわえ込んだ膣口から、赤い血が漏れていた。
「野村っさんっ……その血……」
「えへへ……やっと、初めて、もらってくれた……」
目尻に涙をため、それでも笑顔で彼女が言う。
魔物化の奇跡。真由美は春奈をサキュバスにする際、彼女がレイプされて処女を喪失していることに気付いた。そして、彼女には今好きな人がいて、彼に本当の初めてをもらってほしがっているということにも。
そこで、サキュバス特有のおせっかいが働いた。彼女の処女膜を再生させ、清らかな体に戻したのだ。
「痛く……ないのか……?」
何度も小さく震える彼女を見て、彼は心配になった。いくら童貞でも、処女喪失するときは痛みを伴うということくらいは知っている。
「うん、痛い……痛いけど……それ以上に、嬉しい……」
涙がこぼれ、はたはたと照秋の腹を、胸を濡らす。
「二度目の……ううん。正真正銘、本物の初めてぇ……ぐすっ、大好きな人に、奪われちゃったのが、嬉しくて……ひっく、うれしくてぇ!」
その言葉を聞いて、彼の中の何かが弾けた。
彼女の尻肉をつぶれそうになるくらい強くにぎると、上下を反転させて彼女の体をベッドに横たわらせた。
「俺もっ、野村さんのこと、好きだ!ずっとずっと!小学生のころから、ずっと!」
正常位の状態に彼女を組み敷いて、彼は腰を思う存分彼女の膣へとぶつけた。
「うんっ、嬉しい!私たちぃ!両想いぃ!」
まだ破瓜の痛みが残るが、それ以上に彼女は彼が自分を求めてくれるのが嬉しかった。
想いが実り、幸せな初エッチができることが本当に嬉しかった。
「ぐっ、くぅっ……野村さんのっ、体、中っ、全部暖かい!」
「うんっ、うんっ、日暮君のおちんちんもぉ、熱くてぇ!かたくてぇ!ごつごつ奥叩いてぇ!すごいぃ!」
寒さをしのぐためか、二人の愛情のせいか、二人は自然に体を密着させ、両腕を回して抱き合い、腰だけを動かして快楽を求めていた。
「はっ、はっ、はっ……」
照秋の息が荒くなった。限界が近づいている。
「おちんちん、おっきくなったぁっ、もう、出るんだね?しゃせぇ、するんだねっ」
彼女の問いかけに、彼は何度も小さくうなずいた。
「ああっ、出るっ、もう、限界……!ぐっ、くぅっ!中にっ、中に出すぞっ!春奈ぁ!」
「うんっ!いいよっ、中に、ちょうらぃ!」
彼女の両足が、さながら蛇のように彼の腰に巻きついた。絶対に膣内射精をしてほしいという強い意志である。
彼女がそうすると同時に、体内で熱いものが弾ける感覚を覚えた。照秋が射精したのだ。
「きゅぅっ、うぅぅんっ、初精子ぃ、子宮に届くぅ……!」
ひくんひくんと弱弱しく体を震わせ、春奈は彼の精を嬉しそうに受け止めた。
ざわざわと空気と彼女の体が動き、桃色の体毛が雲散霧消し、翼が分厚くなり、魔物のパーツが濃い紫色に染まる。
変態を終え、今、彼女は完全なサキュバスになったのだ。
翌日。
無事に初エッチを終えた二人は、この日も一緒に登校していた。
しかし、前日までとは様子がまるで違う。
今までは、照秋が前に立って歩き、半歩遅れて春奈がついていく形であった。
しかし、今日は二人寄り添うようにぴったりとくっ付いて歩いていた。
誰から見てもカップルだと気付くであろう。事実、道行く人々は彼を見てとてもうらやましそうにしていた。
元々学校のアイドル的だった存在の春奈が、さらに魔物化までしたので、この世のものとは思えぬ美人になっていたのだ。
二人は通行人たちのちくちくするような痛い視線を浴びながら、学校へと向かった。
ざわざわと、若い声がそこかしこから聞こえてくる。
青春真っ盛りの声がシェイクのように混ざり、冬の高校は、季節を思わせないくらいの熱気に包まれていた。
二人の教室は別である。教室の前に立った二人は、渋々絡ませあっていた腕を解くことになった。
「あ……」
そのとき、彼は目の前に女子生徒が三人立っていることに気付いた。
春奈をレイプした男子生徒の取り巻きたちである。
何を言うのか、何をするのか、彼はぐっと身構えた。
「あら、あなたたち。おはよう」
だが、春奈はそんな彼女たちに気さくに声をかけていた。まるで、昔のことなんか綺麗さっぱり忘れてしまったかのようである。
「おはようございますお姉さまぁ……」
彼女のあいさつを聞いた瞬間、取り巻きはうっとりと顔をとろけさせ、頬を染めて春奈に答えた。
「ふふっ、で、昨日どうだった?」
彼女は教室の奥をチラリと覗き、女子生徒たちに声をかける。
「はい、もう、大成功です」
「今まで、別の女を襲ってばかりだった彼に勇気を振り絞って告白して」
「精液、たっぷり出してもらいました!」
報告を聞いて、春奈は満足そうにうなずいた。
「それはよかった。サキュバスの体、最高でしょ?」
彼女が目を赤く光らせ言うと、それに答えるかのように三人組の目も赤く妖しく輝いた。
教室の奥、春奈の席の斜め前。そこには、昨晩三人の出来立てほやほやのサキュバスに数十発もの精液を搾り取られ、すっかり淫魔の虜になってしまった男がいた。
その目はうつろで、股間を膨らませ、もはや一秒たりとも魔性のセックスを待ちきれないという風であった。
「……」
そんな彼を見て、照秋はごくりと唾を飲み込んだ。サキュバスの本当の恐ろしさの片鱗が見えた気がしたからだ。
「日暮君、大丈夫だよ」
彼の心情を察知し、春奈は彼の顔を覗き込んで言った。
「私は、日暮君とぉ、ラブラブちゅっちゅなエッチが大好きなんだから、ね?」
彼女はそう言って腕を彼の首に回し、甘い甘いキスをした。
11/05/16 01:37更新 / 川村人志