妹は霊彼女
親友に恋人ができた。
それ自体はとても喜ばしいことである。
俺にとって彼、夏目葉月は、小学生の頃から一番の親友で、俺にとっては命の恩人でもあるのだ。
しかし、彼にできた恋人が問題であった。
海野奈美。葉月の隣の家に住んでいて、俺と葉月の付き合いよりも、長い付き合いである。
何でも、病院の新生児用のベッドですでに隣り合っていたとか。二人は同じ誕生日だ。
二人の関係は、聞けば聞くほど『運命』というものを信じざるを得ないほどである。
だから、その間に割って入るような形で付き合いだした俺には、とても手の届かない存在であった。それは分かっていた。しかし……
それでも、あの日、海野さんが昼休みの教室で、葉月と交際しているとクラスメートが大勢いる中で告白したときは、ショックが大きかった。
あの場では笑って祝福しているように見えていただろうが。その時の俺の顔は引きつっていただろう。
それから夏休みに入るまでの間、わずか数日であったが、とても辛い日々であった。
何しろ、二人がいちゃついている所を、特等席で見せられるのだ。
嬉しい気持ちと悔しい気持ち。それらが複雑に絡み合ったまま、夏休みに突入してしまった。
俺はとにかく勉強に打ち込んだ。塾に毎日通い、学校での夏期講習もまじめに受け、分からない所は先生に直接職員室まで質問に行ったりもした。
自他共に認めるぐーたら男であった以前の俺では考えられないような変貌ぶりである。
事実、先生達も驚いていた。
だが、俺は別に、行きたい大学があったとか、勉学に励みたいとか、そういった高い志があったわけではない。
ただ忘れたかったのだ。勉強をしている間だけは、葉月と海野さんの事が忘れられた。
文法を睨み、英単語を覚え、計算と格闘している間だけは、勉強以外の全ての事を忘れられたのだ。
その結果得られたのは、模試のA判定。両親がそれを見て喜んでいる間、俺はまた複雑な気持ちに襲われた。
周りの人間が、小さな紙切れ一枚で一喜一憂している。それが馬鹿らしくなったのだ。
そんな混沌と入り乱れる様々な気持ちに折り合いが付かないまま、八月の半ばに突入してしまった。
今日から三日間、両親は祖父母の家に帰省してここにいない。お盆になると、親族一同が田舎に集まる恒例行事である。
しかし、俺は今年は参加しなかった。受験生だから勉強に集中するためというのが理由の一つ。
そしてもう一つは、ただただ普段会わない親戚に会うのが面倒だったのだ。
今日もいつも通り教科書、参考書とにらめっこをし、ひたすらガリガリとノートに書き込んだ。
夜半を過ぎた頃。勉強がひと段落着いたので、ベッドに寝転んでうつらうつらとしていた。
――ああ、電気を消さないとな……
電気をつけたまま眠ってしまうと、睡眠が浅くなり、寝覚めが悪くなってしまう。
――消さないと、消さないと……
まどろむ……
そういえば、こんなむなしい思いになったのは、今回で二度目だ。
一回目は、小学六年の時だった。
――朋絵……
心の中で、妹の名前を呼ぶ。
頭に浮かぶのは、朋絵の最期の日の姿。
俺に遊びをせがむ妹。友人と遊ぶからと断った時の泣き顔。
そして、病院に駆けつけた時。すでに息絶えた妹の眠っているかのような顔。
あの日、俺が友人との約束よりも、朋絵の方を優先していたら。
一人で遊ばせずに、一緒に遊んでやっていたら……
後悔した。泣いて泣いて泣きつかれて、その後はどん底まで後悔した。
両親は俺が悪いわけではないと慰めてくれたが、それでも後悔の念は晴れることがなかった。
友人とは疎遠になり、休日も家に閉じこもりがちになった。
そんな時、俺を無理やり家から引きずり出してくれたのが、夏目葉月と、彼の腰巾着のようにいつもぴったりと後ろをついてきていた海野さんであった。
彼らがいなかったら、俺はどうなっていたのだろう……それだけに、命の恩人の二人がくっついた事は、嬉しくもあり、仲間はずれになったという寂しさにつながる事にもなった。
――朋絵……
もう一度、心の中でつぶやく。
最近は勉強ばかりで、彼女の事を思い出す事が少なくなっていた。
目の前いっぱいに、彼女の笑顔が浮かぶ。
――お兄ちゃん……お兄ちゃん……
彼女の声が聞こえる。
――電気、消さなくちゃ……
蛍光灯の光が目に突き刺さる。
――寝覚めが悪くなる……
――お兄ちゃん……
まぶたがゆっくりと何度も開け閉めされる。
眠い。
――電気……
――……悪くなる……
――お兄……
「朋絵……」
意識が落ちる寸前、妹の名を口に出した。
「なあに、お兄ちゃん」
答える声。答える……声?
目を開けると、俺の顔を覗き込む顔があった。
――白いな。
何とも間抜けな第一印象であった。
朦朧とした意識を少しずつ覚醒させていくと、その白い顔が段々とはっきりしてきた。
年の頃は十五、六くらいの少女。だが、生きている人間ではありえないほどの真っ白な肌をしていた。
漫画から抜け出してきたかのような白。
体は宙に浮かび、足があるはずの部分には、ケーキのデコレーションの生クリームの先っぽみたいなものが付いている。
――幽霊みたいだな。
またもや間抜けな感想。だが、恐怖感は一切無かった。
服はぼろぼろで、ところどころがほつれていた。
そんな少女が、もう一度
「お兄ちゃん」
という頃には、俺の意識は完全に覚醒していた。
「お前、誰だ?」
こんな女の子が泥棒というわけはないであろう。しかし、どこからどうやって、そもそも何の目的でここに侵入したのかを最初に聞くべきであったのだろうが、俺の口から出てきたのは、何とも見当違いな問いかけであった。
「誰って、お兄ちゃん、もしかして妹の顔も忘れたの?」
「妹……?」
そうつぶやきながら、彼女の純白の顔を覗き込む。
確かに、目鼻や唇。特徴的な泣きぼくろ。そしてよく分からないが、全体的な雰囲気が、死んだ朋絵にそっくりである。
朋絵が、年相応に成長したような……
「もしかして、朋絵か?」
「ピンポーン!あたりー」
彼女はそう言って微笑んだ。
それからしばらく、ひたすら妹と思われる白い少女に、質問をぶつけた。
お前は本当に朋絵なのか。
どうやってここに来たのか。
なぜ今頃来たのか。
などなど。
それぞれの返答が、
「うん、そうだよ。もしかして、お兄ちゃん信じてくれないの?」
「真っ暗な中で、ずっと『お兄ちゃんと遊びたい』と思っていたら、いつの間にかここにいた」
「わからない」
であった。
その後も話を進める内に、どうやら本当に目の前の少女は朋絵であるという確信に至った。
決め手は、昔話である。
小さい頃の話をいくつもしたが、全く違和感がなかった。
当時の同級生の話。好きだったアニメや芸能人。野球とアニメでテレビのリモコンの取り合いになった事などなど。
「お前、本当に朋絵なんだな……」
「だーかーらー。さっきからそうだって言ってるじゃない」
朋絵はぷくっと頬を膨らませた。
「ああ、ごめん……本当、ごめん……」
無意識に頭を垂らす。
「本当に、ごめんな……本当に……あの時、お前と遊んでやれば……」
目頭が熱くなり、ぽろぽろと涙がこぼれる。
「ごめん……朋絵……うぅっ……ごめんな……」
何度も鼻をすすり、嗚咽を漏らした。
「大丈夫だよ、私は全然気にしてないから。それに、今こうして、会って、話せてるでしょ?それでいいじゃない」
尻尾のようになっている下半身をフワリと浮かせ、俺の肩をポンと叩こうとする朋絵。
「あれ!?」
しかし、その手は肩をすり抜けて、思い切りつんのめってしまった。
「うわわ!」
目の前いっぱいに、突っ込んでくる彼女の顔が映る。
――ぶつかる!
しかし、彼女の顔は手と同じく、俺の頭をすり抜けてしまった。
その瞬間、頭の中に朋絵の声が響いた。
――ああ、お兄ちゃん……お兄ちゃん……
その声色は、最初に俺にかけた明るい声とは全く違ったものであった。
俺に対してこびるような、何かを求めるような、艶っぽい声。
何だこれは。
「ねえ、お兄ちゃん」
フワリと浮かびながら起き上がった朋絵が、声をかけた。それは、先ほど聞こえたテレパシーと同じ声色であった。
「私と遊んでくれる?」
声と同じく艶っぽい笑みを浮かべる。
「あ、ああ……」
とまどいながらも、俺は彼女のお願いを受け入れるしかなかった。生前の彼女に対しての負い目があったのだ。
「ふふ、嬉しい。じゃあ、目を閉じて……」
言われた通りにまぶたを下ろす。
明るい室内では、まぶたを通して赤黒い景色が広がる。
顔に徐々に気配が近付くのを感じた。朋絵が顔をこちらに寄せているのか?
さらに気配が濃厚になる。
それと同時に、赤黒いだけの景色に、別の色、風景が見え始めた。
それは、目の前のゴースト朋絵の肌が血色のよい黄色になり、足が人間と同じ二本になっている姿。あの日の事故で死なずに生きていたら、こんな風になっているのだろう、という想像のままの姿。
そんな彼女が、今俺が腰掛けているベッドに横たわっている。
何故か彼女は全裸で、両腕で自らの両肩を抱いている格好。胸を隠しているように思える。
顔は羞恥のせいなのか真っ赤で、上目遣いにこちらを見つめている。
瞳は艶やかに湿り、息を荒げ、彼女の甘い蜜を思わせる口臭がこちらに届く気さえする。
――お兄ちゃん
まただ、またあのこびる声色だ。
――私と、遊んで。
湿った唇がうごめく。
――お医者さんごっこ……大人の遊び、私に教えて……
両手を広げ、彼女の胸がさらされる。
幼少の頃に見た平坦な胸ではなく、たわわに実った果実を思わせる、大きな胸であった。
大きな乳房は重力に従って左右に広がり、少しつぶれている。それが、彼にとってはとてもエロティックに見えた。
――何考えてるんだ俺。あいつは妹だぞ……?
――だが、妹だとしても、成長しているわけで。
――朋絵は二つ下だ。だから今生きていたら十六歳なわけで。という事は、結婚できる年齢という事に。
――いやいや、だからと言って未成年の淫行は……というか、そもそも妹だぞ?兄と妹がそんな事……
――だが、しかし、六年も会っていなかったら他人も同然なわけで……欲情するのも仕方ない……のか?
朋絵から漏れる妄想と、俺の倫理観、性欲が入り混じる。脳みそを取り出して頭蓋骨でスープを作られているような気分だ。
思わず目を開けた。
「あっ、まだ開けちゃだめー」
眼前に朋絵の顔があった。
妄想と違い、いまだ肌は真っ白である。
「開けちゃ、だめだよ……もうちょっと、もうちょっとだから。もう一回、目を閉じて」
何がもうちょっとなのかは分からないが、言われた通りに再び目を閉じる。
次の瞬間、息を呑んだ。
――あむ……れるぅ……ちゅっ、ちゅっ……
映像の中で、目線は第三者のように離れていた。
目の前に、俺と血色の良い朋絵がいる。二人とも全裸だ。
全裸で、二人は口付けを交わしていた。
ベッドの上に横たわる『朋絵』に『俺』がのしかかるようにして、キスをしていた。
――じゅるぅ……はぁむぅ。じゅぅぅぅ……
いや、あれはむしろ唇を合わせると言うより、貪ると言った方がいいだろう。
舌を絡ませ、湿った音が部屋の静寂を破っている。
『朋絵』の顔を見た。
うっとりと目を閉じ、頬を真っ赤に染め、嬉しそうに『俺』のキスに身を任せている。
彼女の両手は『俺』の首にそっと回され、決して離さないという意志を如実にあらわしていた。
……
何十分、何時間……長い時間が流れた。
ようやく、目の前の二人は唇を離した。
悲しそうな顔をする『朋絵』。
『俺』は体を起こし、横たわる彼女の胸の上にまたがった。
そして、彼女の眼前にそそり立つ肉棒を見せ付けるようにさらす。
重力に逆らうようにいきり立ち、血管が浮き出て、興奮する心臓の鼓動に合わせるかのようにトクントクンとひくつく。
『朋絵』は、それをためらうことなく口に含んだ。
――くっ……!
思わず目をそらした。
とても見られたものではない。
――『俺』が……俺が、朋絵に、妹にフェラチオをさせるなんて……
だが、目をそらしても、耳には彼女がペニスに舌を這わせ、口内を出入りする音、そして、「ふふっ」と嬉しそうに笑う『朋絵』の声が届く。
鼓膜を震わせ、否が応にも性的興奮を高められる。やられている相手が『俺』ならば尚更だ。
そして、自分の肉棒が、妄想の『俺』と同じくいきり立っている事に気付いた。
――お兄ちゃん、ちゃんと見て。
頭の中に声が響いた。
言われた通りに、妄想の中の俺が目を開ける。
もはや、彼女に罪悪感があるから従っている、というわけではない。
彼女の言葉、命令が、俺の理性を司る部分を無視して、直接行動を司る部分へ響くような。強制的に従わされているような感覚。
――じゅぽぉ、じゅるるる、ぬぽっ、じゅぽっ
『朋絵』の口淫は壮絶の一言であった。
ベッドに首から下を全て預けているという不自由な体勢なのにもかかわらず、頭だけを一心不乱に振り乱し、『俺』の肉棒にむしゃぶりついていた。
『俺』もより強い快楽を貪ろうと、彼女の動きに合わせて腰を激しく揺り動かす。
唇をすぼめ、口内の空気を抜き、彼女の口の肉全てをペニスにこすり付けている。
彼女が口内にペニスを入れると、『俺』の顔が快楽に緩む。
彼女が口内からペニスを出すと、『俺』の顔が快楽で強張る。
頭の振りが速くなった。『俺』の顔から余裕が無くなる。必死の形相で何かに耐えているようだ。
それを知ったのか、『朋絵』は一瞬だけ口淫を止め、
――出していいよ……
とささやいた。
それがとどめとなったらしい。彼女がもう一度ペニスを含むと、『俺』の腰、そして全身がぶるっと震え、その後二度三度と腰を痙攣させた。
――んっ、んっ……んむっ……
痙攣に合わせ、『朋絵』が喉を大きく鳴らす。喉が大きく動き、液体を飲み込む時の独特の音が響いた。
――ごくっ……ごくっ……
さらに二度三度、飲み干す音が鳴る。
――ふふっ
『朋絵』が笑った。
そして、ぐったりと仰向けになった『俺』に近寄ると、
――れるぅ……ちゅるっ
萎えたペニスに舌を這わせた。
栓が緩い水道のように漏れる精液を、彼女の舌が綺麗にぬぐった。
……
『俺』が絶頂を迎えた時、俺の全身も、まるで絶頂が訪れたかのように痺れが走った。甘く、身をゆだねたくなるような痺れ。
そして、唾を飲み込む。
――これが、朋絵の妄想……朋絵がしたい事……遊び……
「お兄ちゃん、目を開けて」
まぶたの向こう側にいる、現実の朋絵がささやいた。
その声に、またぞくりと背筋が痺れる。
言われた通りにまぶたを開けた。
白い朋絵がいた。
彼女の手が俺の頬に添えられる。
さっきまでと違い、彼女の手には感触があった。
しかし、それは人間の肌のような柔らかいものではなかった。
もっと優しい。熱の塊だけが触れられているような感覚。
なでなでとしばらく頬を撫でていた朋絵の顔が、少し曇った。
「まだ、精が足りない……」
ぽつりとつぶやく。
「お兄ちゃん、もっと、もっと精をちょうだい」
すりすりと頬を、顎を撫でられる。
そのうち、片方の手が顔を離れ、降りる。
「うっ」
思わず声が漏れてしまった。
朋絵の右手が、俺の股間に触れた。
ズボンをすり抜け、直接ペニスを撫でられる。
「お兄ちゃん」
耳元で朋絵がささやく。
「ズボン、脱いで……」
この時、俺は完全に彼女の言いなりになっていた。
迷うことなくズボンをひき下ろす。
天を突き、重力に逆らう肉棒。
さっき見た妄想の中と瓜二つであった。
「あ……はぁ……」
本物を見て、朋絵がため息を漏らす。
目を見開き、興奮した眼差しで、瞬きする事無く凝視する。
「ごくっ……」
彼女が喉を鳴らした。
「ああ……すごいよ……これが、お兄ちゃんの……本物の……」
そう言うと、彼女は口をだらしなく開き、舌をわずかに突き出して、犬のように荒い息をついた。
「はっ、はっ、はっ……」
潤ませた瞳で、上目遣いで俺を見つめる。欲情しきった彼女の表情に、俺の背筋はぞくりと震えた。
「お兄ちゃん、これ、なめていい?しゃぶっていい?口の中でごしごしして、びゅぅびゅぅさせてもいい?精子飲んでもいい?いい?いい?いい?」
彼女の口から、直接的な淫語がいくつも飛び出す。
俺の大切な妹が、家族が、肉親が、あんな言葉を、恥ずかしげもなく……
俺は、小さくうなずいた。
「あむぅっ!」
次の瞬間には、俺のペニスは彼女の口内に納まっていた。
「ぐぅっ!」
思わずうめく。
朋絵の口内は、手よりもさらに温度が高かった。
だが、人間のような肉の感触がまだない。湯で満たされた袋に包まれているような、熱だけが動く感覚。
だが、童貞の俺には、それだけで十分すぎるほどの快楽であった。
温度の高い部分は、朋絵の舌なのだろう。裏筋を撫で、カリの溝をなぞり、尿道口にねじ入れられる。
そのたびに、俺の全身は正直に震えた。
「くっ、うぅっ……朋絵、上手っすぎっ……」
俺がそう言うと、彼女は嬉しそうに微笑んだ。
「よかった、気持ちいいんだね。うん、いっぱい練習したんだ。イメージトレーニング。それに、何故かお兄ちゃんの気持ちいい所、全部分かる気がするから」
そう言ってふふっと笑うと、彼女はまたペニスを口内にねじ入れた。
さっきよりも感触が強くなった気がする。
しゃべっている間のわずかな時間だったのに、お預けを食らっていたペニスは、その先からトロトロと我慢汁を垂れ流していた。
「はぁむ……れろちゅぱ、れるれる」
くわえると同時に、亀頭の先にひたと舌を押し付け、漏れ出た汁を拭い取っていく。
「ちゅぅちゅぅ、ちゅぅっ」
赤ちゃんがおっぱいに吸い付く要領で、亀頭を吸う。
喉が鳴り、汁がごくごくと飲まれる。
汁が彼女の体に吸収されるたびに、彼女の体の感触が、よりリアルになっていった。
「そろそろ、出そうだね……」
放心したような俺の顔を見て、朋絵が言った。その通りである。
さっきから『気持ちいい』という文字に表せる明確な感覚はなく、股間を、特に男性器を、じんわりとした甘い痺れが包んでいた。ここまできたらもう限界だ。
「うん……もうマズい……出る」
やっとの思いでそうつぶやくと、朋絵は目を細め、にぃと笑った。本当に嬉しそうに。
「じゅぅ、じゅぅ、じゅるぅぅぅぅ」
そして、吸引の力を強くした。
これは、これは……吸われる、吸われるぅ……
「うっ、くぅっ」
腰が跳ねた。跳ねたと表現するしかないくらいの、強烈な痙攣であった。
一度震えると、それがスイッチであったかのように、今までの人生で経験したことのないほどの、大量の精液が噴出した。
「うむぅ!?ごくっ、ごくっ、ごくぅ……」
――飲まれてる、朋絵に、妹に、精液を飲まれてる……
その倒錯感にまた震えた。
それが引き金となって、睾丸の奥で溜まっていた残りも漏れ出す。
全て出し切り、全て飲まれると、俺は全身をベッドに預けるようにして倒れてしまった。
「はぁ……はぁ……」
荒く息をつく。
「お兄ちゃん、どうだった?本当にやるのは初めてだったけど」
朋絵が俺の顔を覗き込んだ。
出会った頃は、輪郭がぼんやりとしていて、本当にそこにいるのかどうかすら疑問に思ったものだが、今はそうではなかった。はっきりと白い裸体が映り、立体的な質感がある。
「え、裸体……?」
気付いた。目の前の朋絵は、いつの間にか服を脱いで全裸になっていた。
最初からぼろぼろの服で、大事な所しか隠れていないも同然だったが。
「うん、お兄ちゃんの精液飲んだらね、もう、我慢できなくなっちゃって……」
まじまじと彼女の体を見つめた。
胸を腕で隠してはいるが、妄想の中と同じく、溢れんばかりの巨乳であった。
腰はくびれ、そのすぐ下にはもっちりとしたお尻が……
あ、股間が隠れてない。
唾を飲み込む。
何しろ、初めて生で見る女性器である。しかも、無毛……パイパン……
――隠すなら胸より先にこっちだろうに……
そう思っていると、朋絵が横たわっている俺の腰の上にまたがった。
――ぎしっ
ベッドが軋む。
彼女はそのまま上半身を倒し、腕を伸ばして俺の両腕をつかんだ。
タンクトップ姿だったので、素肌に直接彼女の両手が触れる。
汗ばんでいる。汗のひんやりとした感触が、俺の肩に伝わる。
朋絵はもう、完全に実体化していた。
人間と、生きている者と違う所は、もはやその純白の肌の色だけであった。
音が、感触が、何より存在感が、リアルさを強調していた。
そう思うと、急に俺の頭に、性欲を押さえ込むような形で『倫理観』というものが浮かんできた。
――今、俺は妹とセックスしようとしている……
近親相姦。いくら童貞だからって、性欲の権化だからって、越えてはならない一線というものがある。
「もしかして、妹とエッチするのをためらってるの?」
朋絵が俺の考えを見透かしたかのように言った。
「ふふっ、大丈夫だよ。私、一度死んでるもの。血も涙もない幽霊なんだよ?だから、ね?」
微笑んだ。彼女の微笑みは、快楽の園へ誘う天使のようにも、冥界へ手を引く悪魔のようにも見えた。
「あ、ああ、そうだな……お前はもう、幽霊だもんな……近親相姦じゃないんだな……」
「うん、うん……そうだよ。私ゴーストだもん。だから、だから……早く」
彼女は俺の腹の上に乗せていた腰を持ち上げ、後ろにずらした。
そこには、勃起しっぱなしの俺のペニスが。
くちゅっ
亀頭と恥丘が触れ合った。
物理的に肉が触れ合い、彼女の膣から漏れた愛液が、俺の肉棒にまぶされる。
――血も涙もないくせに、愛液はちゃんと出るんだな。
これから一線を越えようというのに、俺はいつもずれた考えしかできないんだな。
思わず自嘲した。
「お兄ちゃん、本当にいいの?」
いきなり、朋絵が問いかけてきた。
「その……お兄ちゃん、童貞でしょ?」
突然の一言に、俺の心臓はドクンと大きく鼓動した。
「え……何で分かるんだよ」
「だって、お兄ちゃんから、女の匂いがしないもん」
鋭すぎる。まさに仰るとおり。
「今日、お兄ちゃんの所に来れたのは、私がお兄ちゃんの彼女になるためなんだと思うんだ。ううん、絶対そう。だって、お兄ちゃんの顔を見て、私すっごくドキドキしたもん。これって、お兄ちゃんとして、家族として好きってことじゃないと思う」
一息で言い切った。そして、すぅっと大きく息を吸った。
「お兄ちゃん、大好き。だから、私、お兄ちゃんの初めての女になれるのがすごく嬉しい」
――ドキン
心臓が高鳴った。それと同時に、俺の中で、つまらない倫理観がガラガラと音を立てて崩れ去るのを感じた。
ここまで言われたら、もう行くところまで行くしかないな。
「分かった。俺、朋絵の彼氏になるよ」
「……うんっ!」
朋絵は満面の笑みを浮かべ、大きくうなずいた。目尻に涙が浮かんでいる。何だ、幽霊にもちゃんと涙があるじゃないか。
「じゃあ、いれる……よ……」
朋絵の言葉に俺がうなずくと、彼女はゆっくりと、本当にゆっくりと、腰を降ろしていった。
にゅるっ……
亀頭が膣肉に包まれて見えなくなると同時に、そこが暖かくて柔らかい感触に覆われているのを感じた。
「ぐぅっ」
それだけで、あまりの快感に声を上げてしまった。
「なんっだよっ、これっ……」
朋絵の膣肉が、ペニスを歓迎するように、上へ上へとうごめく。
「お兄ちゃん、気持ちいい?」
降ろす腰の動きを止めずに、朋絵が問いかける。
いまだ続く初めての快楽に頭をかき混ぜられながら、何とか頭をがくがくと縦に動かした。
正直言って、言葉を出す余裕すらないほど気持ちいい。
肉ひだの一枚一枚が、まるで意思を持った生物であるかのように、亀頭を、竿を、カリをなめている。
「よかった。気持ちいいんだね」
頬を赤く染め、朋絵は微笑んだ。その顔は、今まで見たどんなAVよりも欲情する表情であった。
「私も、んっ、お兄ちゃんのおちんちん……ふぅっ、気持ち、いいよっ」
腰をさらに落とす。
ぴたん。
そして、ついに腰を落としきり、朋絵の尻と俺の臀部が触れ合った。
「お兄ちゃんの、奥まで入っちゃった……」
感慨深げに朋絵がつぶやく。
俺はただただ、快楽に身をよじり、荒く呼吸するのみ。
「入れただけで、すごく気持ちいいんだね。お兄ちゃんの気持ちいい顔、好き……」
体を前に倒し、朋絵は俺に口付けた。
「あむぅっ……!」
彼女の舌が唇を割り入った瞬間、俺は言葉で言い表せない幸せに包まれた。
その幸福感に包まれたまま、勢い良く射精した。
――どぷぅ、どくん、どくん……
「んっ、んんぅ……お兄ちゃんの精液、おいひいよぅ……」
唇を吸いながら、朋絵はうめいた。
腰をかくんかくんと上下させ、さらに精液をせがむ。
腰を上げるときは膣圧を強くして、下げるときは緩める。
「おいひぃよぅ、おいひぃよぅ……」
うっとりとした声を上げ、夢中になって腰を上下させる。
規則正しく膣肉をうごめかせるのは意識的ではない。彼女は無意識にしているのであろう。
俺の精液を、もっと、もっと、欲しがっている。
俺も、もっと、もっと、朋絵の中に欲望を吐き出したい。
すでに一線を越えたのだ。あとは気が済むまで突き進むだけ。
「もっとぉ……もっとぉ……」
壊れたからくり人形のように動く朋絵の肩をつかむと、つながったままで体を百八十度回転させた。
上下逆転。
今度は、俺が朋絵の上にのしかかる体勢になった。朋絵の妄想内の姿に似ている。
「あ……」
物足りなそうに、朋絵が声を上げる。
「今度は、俺が動くから」
そう言うと、彼女は俺の瞳を見つめながらうなずき、両腕を俺の首に回した。
「まあ、初めてだから、上手くできないかもしれないけれど……」
朋絵の背中に腕を回し、腰を前後に動かす。
――にゅこっ、にゅこっ
愛液と精液が混ざり、ほどよい滑りになっている。抵抗なく、膣内をペニスが滑っていく。
それでいて、肉ひだの刺激、膣肉の圧迫感はしっかりと伝わる。
「あ゛っ!あぅっ、おにっ、お兄ひゃんっ!」
首を抱く腕の力を強め、朋絵が叫ぶ。
「くっ、うっ、朋絵っ、気持ち、いいか?」
全身を駆け巡る快感に身を震わせながら問いかけると、目を蕩けさせた朋絵はかくんかくんと頭を縦に振った。
それが、たまらなく可愛くて、愛しくて、思わずキスをしてしまった。
「んむぅ!?んっ……れるっ……」
唇が重なった瞬間、朋絵は驚きの声を上げたが、すぐに目を閉じ、自ら進んで舌を絡ませた。
温かい舌と、粘度の高い唾液。そして、甘い香り。
朋絵の唾液には、媚薬成分でもあるのだろうか。キスをしただけで、射精感が一気に限界近くまで高まってしまった。
「うぅっ……ちょっと待てっ、待てよ……」
思わず腰を止めてしまう。
「あむぅ、ちゅるぅ……どうしたの、お兄ちゃん?」
「ごめん、もう、出そうっなんだよっ……」
股間部に力を入れ、何とか射精を我慢する。
そんな俺の頭を、朋絵は優しくなでた。
「いいんだよ。たくさん出して」
「でも、それだとあまりにっ、早すぎるだろ……」
「私は、うぅんっ、大丈夫っ、だよぉ……だから、我慢っしないでぇ……お兄ちゃんの一番気持ちいい精液、びゅぅびゅぅ出して、出してぇ!」
そう叫ぶと、朋絵は俺の腰に両足を回し、かかととふくらはぎで俺の腰をぐいぐいと押した。
「あぅっ、うっ、そんなことしたらっ」
彼女の足に従って、腰が勝手に動いてしまう。
またあの肉ひだが、膣の筋肉が、ペニスに容赦なく、暴力的なほどの快楽を与える。
「お兄ちゃん、おにぃちゃぁんっ!」
我を忘れ、彼女は喘ぐ。
俺を求める声が、鼓膜を痺れさせる。
次第に俺は、彼女の脚に従うように、自ら腰を前後させた。
「あぅんっ、はぅんっ!おちんちん、大きくなってるっ、お兄ちゃん、出すの?出すの!?」
「ああっ、出す、出すぞっ……うぅっ、出るぅっ!」
あっけなく限界を迎えた。朋絵の腰をつかむと、膣の一番奥に腰を沈め、思う存分吐精した。
――びゅるっ、びゅるぅびゅるるぅ……
朋絵は、俺の腰に回した脚をぎゅっと締め、精液を出し終えるまで決して離すことはなかった。
それから三日、両親が帰るまで、俺たちは食事と睡眠以外は全てセックスに励んだ。
浴槽の中でもつながり合い、朋絵のボディーソープまみれの手で手コキもしてもらった。
両親は朋絵を一目見るなり、それが朋絵であることが分かったらしい。
何度も朋絵の名前を呼びながら、抱き合って泣き合った。
そんなのを目の前で見せられると、とても朋絵と肉体関係を持ったことを言い出すことができなかった。もうしばらくは二人だけの秘密になりそうだ。
「あ、重明!久しぶりー!」
「倉坂君おはよー」
夏休みが明け、久しぶりにクラスメートに会った(葉月と海野さんに会うのが嫌だったので、高校の夏期講習は受けなかったのだ)。
俺は驚いて挨拶を返すことができなかった。
「え、あ、あし……」
海野さんの世界一の脚が、蛇になっていた。
「え、あ、あれ?どういう、こと……?」
「ああ、うん、これはね……」
二人はばつが悪そうに話し始めた。
何でも、海野さんはメドゥーサと呼ばれる魔物娘だったらしい。
朋絵とセックスした次の日、日本中が大騒ぎになった。
魔物娘の出現。空からラピュタよろしくサキュバスが降ってきたり。
美人で有名だった女優やモデルがみんな魔物娘だったり。
街の女の子が実は蜘蛛足だったりケモノっ娘だったり。
朋絵が帰ってきたのもそのせいだということも、後になって気付いた。
まさか、海野さんも魔物娘だったなんて。
「ああ、そうなんだ……」
なるほど、海野さんの脚があんなに綺麗だったのは、海野さんが擬態していたからだったのか。
俺は妙に納得して返事をした。
「重明、あんまり驚かないんだな」
「まあね。最近、俺にも彼女ができたからさ、魔物娘の」
頬を掻きながら答える。
「えっ、本当かよ!?すげーじゃん!ついに重明にも彼女かー」
「倉坂君、今度私達にも紹介してよ!それかダブルデート!」
嬉しそうにはしゃぐ二人を見て、俺もつい顔を緩めてしまう。
「そうだなぁ、じゃあ、休みに紹介がてら、デート行っちゃう!?」
どうやら、後期は楽しいことになりそうだ。
それ自体はとても喜ばしいことである。
俺にとって彼、夏目葉月は、小学生の頃から一番の親友で、俺にとっては命の恩人でもあるのだ。
しかし、彼にできた恋人が問題であった。
海野奈美。葉月の隣の家に住んでいて、俺と葉月の付き合いよりも、長い付き合いである。
何でも、病院の新生児用のベッドですでに隣り合っていたとか。二人は同じ誕生日だ。
二人の関係は、聞けば聞くほど『運命』というものを信じざるを得ないほどである。
だから、その間に割って入るような形で付き合いだした俺には、とても手の届かない存在であった。それは分かっていた。しかし……
それでも、あの日、海野さんが昼休みの教室で、葉月と交際しているとクラスメートが大勢いる中で告白したときは、ショックが大きかった。
あの場では笑って祝福しているように見えていただろうが。その時の俺の顔は引きつっていただろう。
それから夏休みに入るまでの間、わずか数日であったが、とても辛い日々であった。
何しろ、二人がいちゃついている所を、特等席で見せられるのだ。
嬉しい気持ちと悔しい気持ち。それらが複雑に絡み合ったまま、夏休みに突入してしまった。
俺はとにかく勉強に打ち込んだ。塾に毎日通い、学校での夏期講習もまじめに受け、分からない所は先生に直接職員室まで質問に行ったりもした。
自他共に認めるぐーたら男であった以前の俺では考えられないような変貌ぶりである。
事実、先生達も驚いていた。
だが、俺は別に、行きたい大学があったとか、勉学に励みたいとか、そういった高い志があったわけではない。
ただ忘れたかったのだ。勉強をしている間だけは、葉月と海野さんの事が忘れられた。
文法を睨み、英単語を覚え、計算と格闘している間だけは、勉強以外の全ての事を忘れられたのだ。
その結果得られたのは、模試のA判定。両親がそれを見て喜んでいる間、俺はまた複雑な気持ちに襲われた。
周りの人間が、小さな紙切れ一枚で一喜一憂している。それが馬鹿らしくなったのだ。
そんな混沌と入り乱れる様々な気持ちに折り合いが付かないまま、八月の半ばに突入してしまった。
今日から三日間、両親は祖父母の家に帰省してここにいない。お盆になると、親族一同が田舎に集まる恒例行事である。
しかし、俺は今年は参加しなかった。受験生だから勉強に集中するためというのが理由の一つ。
そしてもう一つは、ただただ普段会わない親戚に会うのが面倒だったのだ。
今日もいつも通り教科書、参考書とにらめっこをし、ひたすらガリガリとノートに書き込んだ。
夜半を過ぎた頃。勉強がひと段落着いたので、ベッドに寝転んでうつらうつらとしていた。
――ああ、電気を消さないとな……
電気をつけたまま眠ってしまうと、睡眠が浅くなり、寝覚めが悪くなってしまう。
――消さないと、消さないと……
まどろむ……
そういえば、こんなむなしい思いになったのは、今回で二度目だ。
一回目は、小学六年の時だった。
――朋絵……
心の中で、妹の名前を呼ぶ。
頭に浮かぶのは、朋絵の最期の日の姿。
俺に遊びをせがむ妹。友人と遊ぶからと断った時の泣き顔。
そして、病院に駆けつけた時。すでに息絶えた妹の眠っているかのような顔。
あの日、俺が友人との約束よりも、朋絵の方を優先していたら。
一人で遊ばせずに、一緒に遊んでやっていたら……
後悔した。泣いて泣いて泣きつかれて、その後はどん底まで後悔した。
両親は俺が悪いわけではないと慰めてくれたが、それでも後悔の念は晴れることがなかった。
友人とは疎遠になり、休日も家に閉じこもりがちになった。
そんな時、俺を無理やり家から引きずり出してくれたのが、夏目葉月と、彼の腰巾着のようにいつもぴったりと後ろをついてきていた海野さんであった。
彼らがいなかったら、俺はどうなっていたのだろう……それだけに、命の恩人の二人がくっついた事は、嬉しくもあり、仲間はずれになったという寂しさにつながる事にもなった。
――朋絵……
もう一度、心の中でつぶやく。
最近は勉強ばかりで、彼女の事を思い出す事が少なくなっていた。
目の前いっぱいに、彼女の笑顔が浮かぶ。
――お兄ちゃん……お兄ちゃん……
彼女の声が聞こえる。
――電気、消さなくちゃ……
蛍光灯の光が目に突き刺さる。
――寝覚めが悪くなる……
――お兄ちゃん……
まぶたがゆっくりと何度も開け閉めされる。
眠い。
――電気……
――……悪くなる……
――お兄……
「朋絵……」
意識が落ちる寸前、妹の名を口に出した。
「なあに、お兄ちゃん」
答える声。答える……声?
目を開けると、俺の顔を覗き込む顔があった。
――白いな。
何とも間抜けな第一印象であった。
朦朧とした意識を少しずつ覚醒させていくと、その白い顔が段々とはっきりしてきた。
年の頃は十五、六くらいの少女。だが、生きている人間ではありえないほどの真っ白な肌をしていた。
漫画から抜け出してきたかのような白。
体は宙に浮かび、足があるはずの部分には、ケーキのデコレーションの生クリームの先っぽみたいなものが付いている。
――幽霊みたいだな。
またもや間抜けな感想。だが、恐怖感は一切無かった。
服はぼろぼろで、ところどころがほつれていた。
そんな少女が、もう一度
「お兄ちゃん」
という頃には、俺の意識は完全に覚醒していた。
「お前、誰だ?」
こんな女の子が泥棒というわけはないであろう。しかし、どこからどうやって、そもそも何の目的でここに侵入したのかを最初に聞くべきであったのだろうが、俺の口から出てきたのは、何とも見当違いな問いかけであった。
「誰って、お兄ちゃん、もしかして妹の顔も忘れたの?」
「妹……?」
そうつぶやきながら、彼女の純白の顔を覗き込む。
確かに、目鼻や唇。特徴的な泣きぼくろ。そしてよく分からないが、全体的な雰囲気が、死んだ朋絵にそっくりである。
朋絵が、年相応に成長したような……
「もしかして、朋絵か?」
「ピンポーン!あたりー」
彼女はそう言って微笑んだ。
それからしばらく、ひたすら妹と思われる白い少女に、質問をぶつけた。
お前は本当に朋絵なのか。
どうやってここに来たのか。
なぜ今頃来たのか。
などなど。
それぞれの返答が、
「うん、そうだよ。もしかして、お兄ちゃん信じてくれないの?」
「真っ暗な中で、ずっと『お兄ちゃんと遊びたい』と思っていたら、いつの間にかここにいた」
「わからない」
であった。
その後も話を進める内に、どうやら本当に目の前の少女は朋絵であるという確信に至った。
決め手は、昔話である。
小さい頃の話をいくつもしたが、全く違和感がなかった。
当時の同級生の話。好きだったアニメや芸能人。野球とアニメでテレビのリモコンの取り合いになった事などなど。
「お前、本当に朋絵なんだな……」
「だーかーらー。さっきからそうだって言ってるじゃない」
朋絵はぷくっと頬を膨らませた。
「ああ、ごめん……本当、ごめん……」
無意識に頭を垂らす。
「本当に、ごめんな……本当に……あの時、お前と遊んでやれば……」
目頭が熱くなり、ぽろぽろと涙がこぼれる。
「ごめん……朋絵……うぅっ……ごめんな……」
何度も鼻をすすり、嗚咽を漏らした。
「大丈夫だよ、私は全然気にしてないから。それに、今こうして、会って、話せてるでしょ?それでいいじゃない」
尻尾のようになっている下半身をフワリと浮かせ、俺の肩をポンと叩こうとする朋絵。
「あれ!?」
しかし、その手は肩をすり抜けて、思い切りつんのめってしまった。
「うわわ!」
目の前いっぱいに、突っ込んでくる彼女の顔が映る。
――ぶつかる!
しかし、彼女の顔は手と同じく、俺の頭をすり抜けてしまった。
その瞬間、頭の中に朋絵の声が響いた。
――ああ、お兄ちゃん……お兄ちゃん……
その声色は、最初に俺にかけた明るい声とは全く違ったものであった。
俺に対してこびるような、何かを求めるような、艶っぽい声。
何だこれは。
「ねえ、お兄ちゃん」
フワリと浮かびながら起き上がった朋絵が、声をかけた。それは、先ほど聞こえたテレパシーと同じ声色であった。
「私と遊んでくれる?」
声と同じく艶っぽい笑みを浮かべる。
「あ、ああ……」
とまどいながらも、俺は彼女のお願いを受け入れるしかなかった。生前の彼女に対しての負い目があったのだ。
「ふふ、嬉しい。じゃあ、目を閉じて……」
言われた通りにまぶたを下ろす。
明るい室内では、まぶたを通して赤黒い景色が広がる。
顔に徐々に気配が近付くのを感じた。朋絵が顔をこちらに寄せているのか?
さらに気配が濃厚になる。
それと同時に、赤黒いだけの景色に、別の色、風景が見え始めた。
それは、目の前のゴースト朋絵の肌が血色のよい黄色になり、足が人間と同じ二本になっている姿。あの日の事故で死なずに生きていたら、こんな風になっているのだろう、という想像のままの姿。
そんな彼女が、今俺が腰掛けているベッドに横たわっている。
何故か彼女は全裸で、両腕で自らの両肩を抱いている格好。胸を隠しているように思える。
顔は羞恥のせいなのか真っ赤で、上目遣いにこちらを見つめている。
瞳は艶やかに湿り、息を荒げ、彼女の甘い蜜を思わせる口臭がこちらに届く気さえする。
――お兄ちゃん
まただ、またあのこびる声色だ。
――私と、遊んで。
湿った唇がうごめく。
――お医者さんごっこ……大人の遊び、私に教えて……
両手を広げ、彼女の胸がさらされる。
幼少の頃に見た平坦な胸ではなく、たわわに実った果実を思わせる、大きな胸であった。
大きな乳房は重力に従って左右に広がり、少しつぶれている。それが、彼にとってはとてもエロティックに見えた。
――何考えてるんだ俺。あいつは妹だぞ……?
――だが、妹だとしても、成長しているわけで。
――朋絵は二つ下だ。だから今生きていたら十六歳なわけで。という事は、結婚できる年齢という事に。
――いやいや、だからと言って未成年の淫行は……というか、そもそも妹だぞ?兄と妹がそんな事……
――だが、しかし、六年も会っていなかったら他人も同然なわけで……欲情するのも仕方ない……のか?
朋絵から漏れる妄想と、俺の倫理観、性欲が入り混じる。脳みそを取り出して頭蓋骨でスープを作られているような気分だ。
思わず目を開けた。
「あっ、まだ開けちゃだめー」
眼前に朋絵の顔があった。
妄想と違い、いまだ肌は真っ白である。
「開けちゃ、だめだよ……もうちょっと、もうちょっとだから。もう一回、目を閉じて」
何がもうちょっとなのかは分からないが、言われた通りに再び目を閉じる。
次の瞬間、息を呑んだ。
――あむ……れるぅ……ちゅっ、ちゅっ……
映像の中で、目線は第三者のように離れていた。
目の前に、俺と血色の良い朋絵がいる。二人とも全裸だ。
全裸で、二人は口付けを交わしていた。
ベッドの上に横たわる『朋絵』に『俺』がのしかかるようにして、キスをしていた。
――じゅるぅ……はぁむぅ。じゅぅぅぅ……
いや、あれはむしろ唇を合わせると言うより、貪ると言った方がいいだろう。
舌を絡ませ、湿った音が部屋の静寂を破っている。
『朋絵』の顔を見た。
うっとりと目を閉じ、頬を真っ赤に染め、嬉しそうに『俺』のキスに身を任せている。
彼女の両手は『俺』の首にそっと回され、決して離さないという意志を如実にあらわしていた。
……
何十分、何時間……長い時間が流れた。
ようやく、目の前の二人は唇を離した。
悲しそうな顔をする『朋絵』。
『俺』は体を起こし、横たわる彼女の胸の上にまたがった。
そして、彼女の眼前にそそり立つ肉棒を見せ付けるようにさらす。
重力に逆らうようにいきり立ち、血管が浮き出て、興奮する心臓の鼓動に合わせるかのようにトクントクンとひくつく。
『朋絵』は、それをためらうことなく口に含んだ。
――くっ……!
思わず目をそらした。
とても見られたものではない。
――『俺』が……俺が、朋絵に、妹にフェラチオをさせるなんて……
だが、目をそらしても、耳には彼女がペニスに舌を這わせ、口内を出入りする音、そして、「ふふっ」と嬉しそうに笑う『朋絵』の声が届く。
鼓膜を震わせ、否が応にも性的興奮を高められる。やられている相手が『俺』ならば尚更だ。
そして、自分の肉棒が、妄想の『俺』と同じくいきり立っている事に気付いた。
――お兄ちゃん、ちゃんと見て。
頭の中に声が響いた。
言われた通りに、妄想の中の俺が目を開ける。
もはや、彼女に罪悪感があるから従っている、というわけではない。
彼女の言葉、命令が、俺の理性を司る部分を無視して、直接行動を司る部分へ響くような。強制的に従わされているような感覚。
――じゅぽぉ、じゅるるる、ぬぽっ、じゅぽっ
『朋絵』の口淫は壮絶の一言であった。
ベッドに首から下を全て預けているという不自由な体勢なのにもかかわらず、頭だけを一心不乱に振り乱し、『俺』の肉棒にむしゃぶりついていた。
『俺』もより強い快楽を貪ろうと、彼女の動きに合わせて腰を激しく揺り動かす。
唇をすぼめ、口内の空気を抜き、彼女の口の肉全てをペニスにこすり付けている。
彼女が口内にペニスを入れると、『俺』の顔が快楽に緩む。
彼女が口内からペニスを出すと、『俺』の顔が快楽で強張る。
頭の振りが速くなった。『俺』の顔から余裕が無くなる。必死の形相で何かに耐えているようだ。
それを知ったのか、『朋絵』は一瞬だけ口淫を止め、
――出していいよ……
とささやいた。
それがとどめとなったらしい。彼女がもう一度ペニスを含むと、『俺』の腰、そして全身がぶるっと震え、その後二度三度と腰を痙攣させた。
――んっ、んっ……んむっ……
痙攣に合わせ、『朋絵』が喉を大きく鳴らす。喉が大きく動き、液体を飲み込む時の独特の音が響いた。
――ごくっ……ごくっ……
さらに二度三度、飲み干す音が鳴る。
――ふふっ
『朋絵』が笑った。
そして、ぐったりと仰向けになった『俺』に近寄ると、
――れるぅ……ちゅるっ
萎えたペニスに舌を這わせた。
栓が緩い水道のように漏れる精液を、彼女の舌が綺麗にぬぐった。
……
『俺』が絶頂を迎えた時、俺の全身も、まるで絶頂が訪れたかのように痺れが走った。甘く、身をゆだねたくなるような痺れ。
そして、唾を飲み込む。
――これが、朋絵の妄想……朋絵がしたい事……遊び……
「お兄ちゃん、目を開けて」
まぶたの向こう側にいる、現実の朋絵がささやいた。
その声に、またぞくりと背筋が痺れる。
言われた通りにまぶたを開けた。
白い朋絵がいた。
彼女の手が俺の頬に添えられる。
さっきまでと違い、彼女の手には感触があった。
しかし、それは人間の肌のような柔らかいものではなかった。
もっと優しい。熱の塊だけが触れられているような感覚。
なでなでとしばらく頬を撫でていた朋絵の顔が、少し曇った。
「まだ、精が足りない……」
ぽつりとつぶやく。
「お兄ちゃん、もっと、もっと精をちょうだい」
すりすりと頬を、顎を撫でられる。
そのうち、片方の手が顔を離れ、降りる。
「うっ」
思わず声が漏れてしまった。
朋絵の右手が、俺の股間に触れた。
ズボンをすり抜け、直接ペニスを撫でられる。
「お兄ちゃん」
耳元で朋絵がささやく。
「ズボン、脱いで……」
この時、俺は完全に彼女の言いなりになっていた。
迷うことなくズボンをひき下ろす。
天を突き、重力に逆らう肉棒。
さっき見た妄想の中と瓜二つであった。
「あ……はぁ……」
本物を見て、朋絵がため息を漏らす。
目を見開き、興奮した眼差しで、瞬きする事無く凝視する。
「ごくっ……」
彼女が喉を鳴らした。
「ああ……すごいよ……これが、お兄ちゃんの……本物の……」
そう言うと、彼女は口をだらしなく開き、舌をわずかに突き出して、犬のように荒い息をついた。
「はっ、はっ、はっ……」
潤ませた瞳で、上目遣いで俺を見つめる。欲情しきった彼女の表情に、俺の背筋はぞくりと震えた。
「お兄ちゃん、これ、なめていい?しゃぶっていい?口の中でごしごしして、びゅぅびゅぅさせてもいい?精子飲んでもいい?いい?いい?いい?」
彼女の口から、直接的な淫語がいくつも飛び出す。
俺の大切な妹が、家族が、肉親が、あんな言葉を、恥ずかしげもなく……
俺は、小さくうなずいた。
「あむぅっ!」
次の瞬間には、俺のペニスは彼女の口内に納まっていた。
「ぐぅっ!」
思わずうめく。
朋絵の口内は、手よりもさらに温度が高かった。
だが、人間のような肉の感触がまだない。湯で満たされた袋に包まれているような、熱だけが動く感覚。
だが、童貞の俺には、それだけで十分すぎるほどの快楽であった。
温度の高い部分は、朋絵の舌なのだろう。裏筋を撫で、カリの溝をなぞり、尿道口にねじ入れられる。
そのたびに、俺の全身は正直に震えた。
「くっ、うぅっ……朋絵、上手っすぎっ……」
俺がそう言うと、彼女は嬉しそうに微笑んだ。
「よかった、気持ちいいんだね。うん、いっぱい練習したんだ。イメージトレーニング。それに、何故かお兄ちゃんの気持ちいい所、全部分かる気がするから」
そう言ってふふっと笑うと、彼女はまたペニスを口内にねじ入れた。
さっきよりも感触が強くなった気がする。
しゃべっている間のわずかな時間だったのに、お預けを食らっていたペニスは、その先からトロトロと我慢汁を垂れ流していた。
「はぁむ……れろちゅぱ、れるれる」
くわえると同時に、亀頭の先にひたと舌を押し付け、漏れ出た汁を拭い取っていく。
「ちゅぅちゅぅ、ちゅぅっ」
赤ちゃんがおっぱいに吸い付く要領で、亀頭を吸う。
喉が鳴り、汁がごくごくと飲まれる。
汁が彼女の体に吸収されるたびに、彼女の体の感触が、よりリアルになっていった。
「そろそろ、出そうだね……」
放心したような俺の顔を見て、朋絵が言った。その通りである。
さっきから『気持ちいい』という文字に表せる明確な感覚はなく、股間を、特に男性器を、じんわりとした甘い痺れが包んでいた。ここまできたらもう限界だ。
「うん……もうマズい……出る」
やっとの思いでそうつぶやくと、朋絵は目を細め、にぃと笑った。本当に嬉しそうに。
「じゅぅ、じゅぅ、じゅるぅぅぅぅ」
そして、吸引の力を強くした。
これは、これは……吸われる、吸われるぅ……
「うっ、くぅっ」
腰が跳ねた。跳ねたと表現するしかないくらいの、強烈な痙攣であった。
一度震えると、それがスイッチであったかのように、今までの人生で経験したことのないほどの、大量の精液が噴出した。
「うむぅ!?ごくっ、ごくっ、ごくぅ……」
――飲まれてる、朋絵に、妹に、精液を飲まれてる……
その倒錯感にまた震えた。
それが引き金となって、睾丸の奥で溜まっていた残りも漏れ出す。
全て出し切り、全て飲まれると、俺は全身をベッドに預けるようにして倒れてしまった。
「はぁ……はぁ……」
荒く息をつく。
「お兄ちゃん、どうだった?本当にやるのは初めてだったけど」
朋絵が俺の顔を覗き込んだ。
出会った頃は、輪郭がぼんやりとしていて、本当にそこにいるのかどうかすら疑問に思ったものだが、今はそうではなかった。はっきりと白い裸体が映り、立体的な質感がある。
「え、裸体……?」
気付いた。目の前の朋絵は、いつの間にか服を脱いで全裸になっていた。
最初からぼろぼろの服で、大事な所しか隠れていないも同然だったが。
「うん、お兄ちゃんの精液飲んだらね、もう、我慢できなくなっちゃって……」
まじまじと彼女の体を見つめた。
胸を腕で隠してはいるが、妄想の中と同じく、溢れんばかりの巨乳であった。
腰はくびれ、そのすぐ下にはもっちりとしたお尻が……
あ、股間が隠れてない。
唾を飲み込む。
何しろ、初めて生で見る女性器である。しかも、無毛……パイパン……
――隠すなら胸より先にこっちだろうに……
そう思っていると、朋絵が横たわっている俺の腰の上にまたがった。
――ぎしっ
ベッドが軋む。
彼女はそのまま上半身を倒し、腕を伸ばして俺の両腕をつかんだ。
タンクトップ姿だったので、素肌に直接彼女の両手が触れる。
汗ばんでいる。汗のひんやりとした感触が、俺の肩に伝わる。
朋絵はもう、完全に実体化していた。
人間と、生きている者と違う所は、もはやその純白の肌の色だけであった。
音が、感触が、何より存在感が、リアルさを強調していた。
そう思うと、急に俺の頭に、性欲を押さえ込むような形で『倫理観』というものが浮かんできた。
――今、俺は妹とセックスしようとしている……
近親相姦。いくら童貞だからって、性欲の権化だからって、越えてはならない一線というものがある。
「もしかして、妹とエッチするのをためらってるの?」
朋絵が俺の考えを見透かしたかのように言った。
「ふふっ、大丈夫だよ。私、一度死んでるもの。血も涙もない幽霊なんだよ?だから、ね?」
微笑んだ。彼女の微笑みは、快楽の園へ誘う天使のようにも、冥界へ手を引く悪魔のようにも見えた。
「あ、ああ、そうだな……お前はもう、幽霊だもんな……近親相姦じゃないんだな……」
「うん、うん……そうだよ。私ゴーストだもん。だから、だから……早く」
彼女は俺の腹の上に乗せていた腰を持ち上げ、後ろにずらした。
そこには、勃起しっぱなしの俺のペニスが。
くちゅっ
亀頭と恥丘が触れ合った。
物理的に肉が触れ合い、彼女の膣から漏れた愛液が、俺の肉棒にまぶされる。
――血も涙もないくせに、愛液はちゃんと出るんだな。
これから一線を越えようというのに、俺はいつもずれた考えしかできないんだな。
思わず自嘲した。
「お兄ちゃん、本当にいいの?」
いきなり、朋絵が問いかけてきた。
「その……お兄ちゃん、童貞でしょ?」
突然の一言に、俺の心臓はドクンと大きく鼓動した。
「え……何で分かるんだよ」
「だって、お兄ちゃんから、女の匂いがしないもん」
鋭すぎる。まさに仰るとおり。
「今日、お兄ちゃんの所に来れたのは、私がお兄ちゃんの彼女になるためなんだと思うんだ。ううん、絶対そう。だって、お兄ちゃんの顔を見て、私すっごくドキドキしたもん。これって、お兄ちゃんとして、家族として好きってことじゃないと思う」
一息で言い切った。そして、すぅっと大きく息を吸った。
「お兄ちゃん、大好き。だから、私、お兄ちゃんの初めての女になれるのがすごく嬉しい」
――ドキン
心臓が高鳴った。それと同時に、俺の中で、つまらない倫理観がガラガラと音を立てて崩れ去るのを感じた。
ここまで言われたら、もう行くところまで行くしかないな。
「分かった。俺、朋絵の彼氏になるよ」
「……うんっ!」
朋絵は満面の笑みを浮かべ、大きくうなずいた。目尻に涙が浮かんでいる。何だ、幽霊にもちゃんと涙があるじゃないか。
「じゃあ、いれる……よ……」
朋絵の言葉に俺がうなずくと、彼女はゆっくりと、本当にゆっくりと、腰を降ろしていった。
にゅるっ……
亀頭が膣肉に包まれて見えなくなると同時に、そこが暖かくて柔らかい感触に覆われているのを感じた。
「ぐぅっ」
それだけで、あまりの快感に声を上げてしまった。
「なんっだよっ、これっ……」
朋絵の膣肉が、ペニスを歓迎するように、上へ上へとうごめく。
「お兄ちゃん、気持ちいい?」
降ろす腰の動きを止めずに、朋絵が問いかける。
いまだ続く初めての快楽に頭をかき混ぜられながら、何とか頭をがくがくと縦に動かした。
正直言って、言葉を出す余裕すらないほど気持ちいい。
肉ひだの一枚一枚が、まるで意思を持った生物であるかのように、亀頭を、竿を、カリをなめている。
「よかった。気持ちいいんだね」
頬を赤く染め、朋絵は微笑んだ。その顔は、今まで見たどんなAVよりも欲情する表情であった。
「私も、んっ、お兄ちゃんのおちんちん……ふぅっ、気持ち、いいよっ」
腰をさらに落とす。
ぴたん。
そして、ついに腰を落としきり、朋絵の尻と俺の臀部が触れ合った。
「お兄ちゃんの、奥まで入っちゃった……」
感慨深げに朋絵がつぶやく。
俺はただただ、快楽に身をよじり、荒く呼吸するのみ。
「入れただけで、すごく気持ちいいんだね。お兄ちゃんの気持ちいい顔、好き……」
体を前に倒し、朋絵は俺に口付けた。
「あむぅっ……!」
彼女の舌が唇を割り入った瞬間、俺は言葉で言い表せない幸せに包まれた。
その幸福感に包まれたまま、勢い良く射精した。
――どぷぅ、どくん、どくん……
「んっ、んんぅ……お兄ちゃんの精液、おいひいよぅ……」
唇を吸いながら、朋絵はうめいた。
腰をかくんかくんと上下させ、さらに精液をせがむ。
腰を上げるときは膣圧を強くして、下げるときは緩める。
「おいひぃよぅ、おいひぃよぅ……」
うっとりとした声を上げ、夢中になって腰を上下させる。
規則正しく膣肉をうごめかせるのは意識的ではない。彼女は無意識にしているのであろう。
俺の精液を、もっと、もっと、欲しがっている。
俺も、もっと、もっと、朋絵の中に欲望を吐き出したい。
すでに一線を越えたのだ。あとは気が済むまで突き進むだけ。
「もっとぉ……もっとぉ……」
壊れたからくり人形のように動く朋絵の肩をつかむと、つながったままで体を百八十度回転させた。
上下逆転。
今度は、俺が朋絵の上にのしかかる体勢になった。朋絵の妄想内の姿に似ている。
「あ……」
物足りなそうに、朋絵が声を上げる。
「今度は、俺が動くから」
そう言うと、彼女は俺の瞳を見つめながらうなずき、両腕を俺の首に回した。
「まあ、初めてだから、上手くできないかもしれないけれど……」
朋絵の背中に腕を回し、腰を前後に動かす。
――にゅこっ、にゅこっ
愛液と精液が混ざり、ほどよい滑りになっている。抵抗なく、膣内をペニスが滑っていく。
それでいて、肉ひだの刺激、膣肉の圧迫感はしっかりと伝わる。
「あ゛っ!あぅっ、おにっ、お兄ひゃんっ!」
首を抱く腕の力を強め、朋絵が叫ぶ。
「くっ、うっ、朋絵っ、気持ち、いいか?」
全身を駆け巡る快感に身を震わせながら問いかけると、目を蕩けさせた朋絵はかくんかくんと頭を縦に振った。
それが、たまらなく可愛くて、愛しくて、思わずキスをしてしまった。
「んむぅ!?んっ……れるっ……」
唇が重なった瞬間、朋絵は驚きの声を上げたが、すぐに目を閉じ、自ら進んで舌を絡ませた。
温かい舌と、粘度の高い唾液。そして、甘い香り。
朋絵の唾液には、媚薬成分でもあるのだろうか。キスをしただけで、射精感が一気に限界近くまで高まってしまった。
「うぅっ……ちょっと待てっ、待てよ……」
思わず腰を止めてしまう。
「あむぅ、ちゅるぅ……どうしたの、お兄ちゃん?」
「ごめん、もう、出そうっなんだよっ……」
股間部に力を入れ、何とか射精を我慢する。
そんな俺の頭を、朋絵は優しくなでた。
「いいんだよ。たくさん出して」
「でも、それだとあまりにっ、早すぎるだろ……」
「私は、うぅんっ、大丈夫っ、だよぉ……だから、我慢っしないでぇ……お兄ちゃんの一番気持ちいい精液、びゅぅびゅぅ出して、出してぇ!」
そう叫ぶと、朋絵は俺の腰に両足を回し、かかととふくらはぎで俺の腰をぐいぐいと押した。
「あぅっ、うっ、そんなことしたらっ」
彼女の足に従って、腰が勝手に動いてしまう。
またあの肉ひだが、膣の筋肉が、ペニスに容赦なく、暴力的なほどの快楽を与える。
「お兄ちゃん、おにぃちゃぁんっ!」
我を忘れ、彼女は喘ぐ。
俺を求める声が、鼓膜を痺れさせる。
次第に俺は、彼女の脚に従うように、自ら腰を前後させた。
「あぅんっ、はぅんっ!おちんちん、大きくなってるっ、お兄ちゃん、出すの?出すの!?」
「ああっ、出す、出すぞっ……うぅっ、出るぅっ!」
あっけなく限界を迎えた。朋絵の腰をつかむと、膣の一番奥に腰を沈め、思う存分吐精した。
――びゅるっ、びゅるぅびゅるるぅ……
朋絵は、俺の腰に回した脚をぎゅっと締め、精液を出し終えるまで決して離すことはなかった。
それから三日、両親が帰るまで、俺たちは食事と睡眠以外は全てセックスに励んだ。
浴槽の中でもつながり合い、朋絵のボディーソープまみれの手で手コキもしてもらった。
両親は朋絵を一目見るなり、それが朋絵であることが分かったらしい。
何度も朋絵の名前を呼びながら、抱き合って泣き合った。
そんなのを目の前で見せられると、とても朋絵と肉体関係を持ったことを言い出すことができなかった。もうしばらくは二人だけの秘密になりそうだ。
「あ、重明!久しぶりー!」
「倉坂君おはよー」
夏休みが明け、久しぶりにクラスメートに会った(葉月と海野さんに会うのが嫌だったので、高校の夏期講習は受けなかったのだ)。
俺は驚いて挨拶を返すことができなかった。
「え、あ、あし……」
海野さんの世界一の脚が、蛇になっていた。
「え、あ、あれ?どういう、こと……?」
「ああ、うん、これはね……」
二人はばつが悪そうに話し始めた。
何でも、海野さんはメドゥーサと呼ばれる魔物娘だったらしい。
朋絵とセックスした次の日、日本中が大騒ぎになった。
魔物娘の出現。空からラピュタよろしくサキュバスが降ってきたり。
美人で有名だった女優やモデルがみんな魔物娘だったり。
街の女の子が実は蜘蛛足だったりケモノっ娘だったり。
朋絵が帰ってきたのもそのせいだということも、後になって気付いた。
まさか、海野さんも魔物娘だったなんて。
「ああ、そうなんだ……」
なるほど、海野さんの脚があんなに綺麗だったのは、海野さんが擬態していたからだったのか。
俺は妙に納得して返事をした。
「重明、あんまり驚かないんだな」
「まあね。最近、俺にも彼女ができたからさ、魔物娘の」
頬を掻きながら答える。
「えっ、本当かよ!?すげーじゃん!ついに重明にも彼女かー」
「倉坂君、今度私達にも紹介してよ!それかダブルデート!」
嬉しそうにはしゃぐ二人を見て、俺もつい顔を緩めてしまう。
「そうだなぁ、じゃあ、休みに紹介がてら、デート行っちゃう!?」
どうやら、後期は楽しいことになりそうだ。
10/12/07 00:36更新 / 川村人志