その5 『三時限目から〜』
「...畜生」
僕は小さい声で呟いた。
何故チャイムの音ぐらいで、怯まず彼女を呼び止められなかったのか。
本当に違うんだと彼女に大声で伝えたかった。
だが、彼女はとっくに教室を出て行ってしまった。
急いで追いかければよかったのかもしれないが、僕はその時つい躊躇してしまったのだ。
何故躊躇などしたのか?それはよくわからない。
追いかけて追いついた後、どうすればいいかわからなかったからだろうか?
どちらにしろ情けない自分に僕は溜息をついた。
教室は三時限目の準備でざわめいていた。
休憩時間のうちに準備すれば良いのにと思うのだが、そこまで手際よく動ける奴ってのは中々少ないものだと思う。
確か三時限目は現代文だった筈だ。
僕はカバンから参考書を取り出しながら誰も座っていない隣りの席を見る。 彼女の姿がそこに現れる気がした。
だが、そんな非現実的な事起こる訳がない。少なくとも今ここでは
全て取り出し終えるとちょうど先生が教室に入ってきた。
現代文は担任が担当で、彼女が入ってきた途端教室の空気が少し張り詰めた気がする。
彼女は教卓に立つと席をざっと見渡して、僕の隣が空席であることに気付いて
「米山。荒川はどうした?」
何故だか僕をキッと鋭く睨んで聞いてきた。
きっと彼女の事になるだけで、担任はあんな鋭い目をするだろう。
今朝の事を引きずっているのかもしれない。
「今さっき教室を出て行きましたが...」
正直に言う、この人に嘘などついてみようモノなら大変なことになる。
「何故出て行った?病欠か?」
顔には「どうせ仮病だろう」と諦めている色があった
「よくわかりません」
僕がそう言うと担任は少し溜息をついた。
彼女の様な生徒を持つ担任ってものは、相当気疲れする仕事なんだろう。
「...米山、授業が終わったら荒川探してこい」
担任は溜息が終わると僕を見つめてそう言ってきた。
「何故ですか?」
「隣だろ?」
そう担任は質問を質問で返してきた。
別に探してくることに違和感は無い、寧ろ教室を出て彼女を追う理由ができたので嬉しい限りだ。
担任は僕から返答がないのを了承したと思ったようで、そのまま授業を始め出した。
基本的に2時限目の先生と教え方は変わらないが、教えるのが楽しいのか授業中ずっと、冷静な顔とは裏腹に担任の尻尾は千切れんばかり振られていた。
「...では今回はここまで...米山忘れるなよ?」
授業を終えると担任はしつこく僕に念押しした。
やはり鋭い目をしていた。
僕は次の四時限目が始まるまでの短い休憩時間の合間に、彼女を見つけ出さなくてはならない。
彼女は一体どこに行ってしまったのだろうか?
もしかしたら既に学校を抜け出して、帰ってしまったのかもしれない。
彼女ならばやりかねなかった。
とりあえず教室を出て、彼女の行きそうな場所を当たることにした。
屋上に保健室、隠れて煙草を吸っている中庭の隅...記憶を探ってみると意外に彼女の行く場所は限定されていた。
しかし、少ない時間で全てを回れるとは思えない、場所は少ないが結構離れているのだ。
屋上はこの階の2階上だし、保健室は2階下、中庭なんて外に出て戻ってくるだけで休憩時間は終わってしまうだろう。
今更、授業の遅刻を心配している己が恥ずかしくなるが、こう言う性分なのだから仕方ない。
さて、本当にどこへ行こうか。
このまま廊下につっ立っている間にも時間は過ぎ去っていく。
これでは賭けみたいじゃないか
「米山君っ」
不意に背後から声をかけられた。
意識が彼女のことにいっていたので、僕は少しびっくりして振り向いた。
力いっぱい背伸びをして北里が僕を見上げていた。
「どうした?」
そう返すが、本当ならこんな返事を返すのだって面倒臭い一秒だって惜しいんだ。
彼氏といちゃいちゃしてればいいじゃないか北里。
「姉御探してるんでしょ?私も探すっ」
そうか、妹分でもある北里ならすぐ彼女が見つかるかもしれない。
きっと普段から溜まる場所とかもよく知っているだろう。
きっと手分けして探せば時間内に見つかるはずだ
「ありがとう。助かるよ」
「いいってば、見つかってから言ってよ。それで何処を探すの?」
「僕は中庭の方に行くよ、北里は屋上を頼む」
そう言って僕は階段の方に駆け出した。
彼女が行く場所は大体決まっている、北里と探せばきっと見つかる...まてよ、もしかしたら北里の彼氏にも手伝ってもらえれば全て回れるんじゃないだろうか?
「北里!田川にも手伝ってもらえないか」
僕は一旦立ち止まって北里に呼びかけた
「それは無理」
「なんで?」
「今は無理」
そう言って北里は教室の一席を指差した。
田川は先ほどの行為に疲れたのか死んだように、机に突っ伏して寝ていた。 いつからあんな状態になっていたんだろうか?
「休み時間が終わってからずっと、スタミナがちょっとないのかもね」
そう言うと北里は屋上への階段に向かって走っていった。
その小さな身体が、少し怖いように思えたのは錯覚だろうか?
中庭に降りる途中に僕は保健室も覗いたが、中にいたのは保健の先生(ユニコーン)とその先生に治療を受けている生徒だった。
この学校で唯一色に染まっていない場所かもしれない、だが先生の目と生徒の目を覗くとそんな場所もきっと長くは続かないだろう。
僕はちょっと二人の間を邪魔したようで、気まずくなって直ぐ様ドアを閉めて保健室を後にしたが、出るとすぐ後ろから嬌声が響いてきた。
「まだ昼間だぞ」 僕はそう少し口を緩ませながら呟いて、中庭に向かって行った。
中庭に彼女はいなかった、少し失礼だが彼女はとても背が高い。
茂みに隠れて煙草を吸っていても角が見えてしまう。
遠目ならばともかく、近ければまず確認できる。
無駄足だったかと僕は諦めて中庭を後にして、教室に戻ることにした。
時計を見るともうすぐチャイムが鳴る頃だ。
北里が彼女を見つけてきてくれると有難いのだが
教室のある階まで急いで駆け上って戻る。
もし彼女が見つかっていなかったらどうしよう、まだもう少しあの横顔やムスっとした表情を見ていたかったのに。
今日は珍しく会話が続いた、もしかしたらこれ以上進展するかもしれなかった...進展?進展って何だ?
僕は一体彼女にどうして欲しいって言うんだ?
愛して欲しいのか?こんな僕を愛してもらう価値があるのか?
それに僕だって彼女を愛す資格があるのか?
考えると胸が痛くなってくる...急いで走っているせいでもあるが。
そう思うと今まで僕は彼女の顔を少しチラチラと見ているだけだったような気がする。
どうやら、今日の僕は妄想が酷いらしい。
届くかどうかわからない高嶺の花に届くような気でいるようだ。
教室のある階にたどり着くと、教室の前に二人立っているのが見えた。
身長差が酷くまるで凸凹コンビだ。
片方は北里でもう片方は...良かった彼女だ。
だが、どこか様子がおかしい。
近づいてみると北里が少々涙目で突っ立っているのがわかった。
それに比べ彼女は一層とムスっとしている
「探しましたよ」
僕は近づいて彼女に声をかける
「...」
彼女は相変わらずムスっとしている。
無言で口も聞きたくないのだろうか。
やはり先ほどの事を気にしているようだ。
「どこにいたの?」
今度は北里に声を掛ける
「屋上...それで叩かれた」
そう言って自分の頭を指さす、確かにちょっとしたたん瘤ができていた。
「何で?」
「それは...」
北里が何か言おうとすると彼女は北里を睨みつけた。
それに怯えた北里はそそくさと教室に戻って行ってしまった。
そして、北里が戻ると彼女は僕の顔をムスっとした顔で見て
「お前が良かった」
そう一言呟いて教室に戻っていった。
廊下に取り残された僕に、その余韻と4時限目のチャイムの音が響いた。
僕は小さい声で呟いた。
何故チャイムの音ぐらいで、怯まず彼女を呼び止められなかったのか。
本当に違うんだと彼女に大声で伝えたかった。
だが、彼女はとっくに教室を出て行ってしまった。
急いで追いかければよかったのかもしれないが、僕はその時つい躊躇してしまったのだ。
何故躊躇などしたのか?それはよくわからない。
追いかけて追いついた後、どうすればいいかわからなかったからだろうか?
どちらにしろ情けない自分に僕は溜息をついた。
教室は三時限目の準備でざわめいていた。
休憩時間のうちに準備すれば良いのにと思うのだが、そこまで手際よく動ける奴ってのは中々少ないものだと思う。
確か三時限目は現代文だった筈だ。
僕はカバンから参考書を取り出しながら誰も座っていない隣りの席を見る。 彼女の姿がそこに現れる気がした。
だが、そんな非現実的な事起こる訳がない。少なくとも今ここでは
全て取り出し終えるとちょうど先生が教室に入ってきた。
現代文は担任が担当で、彼女が入ってきた途端教室の空気が少し張り詰めた気がする。
彼女は教卓に立つと席をざっと見渡して、僕の隣が空席であることに気付いて
「米山。荒川はどうした?」
何故だか僕をキッと鋭く睨んで聞いてきた。
きっと彼女の事になるだけで、担任はあんな鋭い目をするだろう。
今朝の事を引きずっているのかもしれない。
「今さっき教室を出て行きましたが...」
正直に言う、この人に嘘などついてみようモノなら大変なことになる。
「何故出て行った?病欠か?」
顔には「どうせ仮病だろう」と諦めている色があった
「よくわかりません」
僕がそう言うと担任は少し溜息をついた。
彼女の様な生徒を持つ担任ってものは、相当気疲れする仕事なんだろう。
「...米山、授業が終わったら荒川探してこい」
担任は溜息が終わると僕を見つめてそう言ってきた。
「何故ですか?」
「隣だろ?」
そう担任は質問を質問で返してきた。
別に探してくることに違和感は無い、寧ろ教室を出て彼女を追う理由ができたので嬉しい限りだ。
担任は僕から返答がないのを了承したと思ったようで、そのまま授業を始め出した。
基本的に2時限目の先生と教え方は変わらないが、教えるのが楽しいのか授業中ずっと、冷静な顔とは裏腹に担任の尻尾は千切れんばかり振られていた。
「...では今回はここまで...米山忘れるなよ?」
授業を終えると担任はしつこく僕に念押しした。
やはり鋭い目をしていた。
僕は次の四時限目が始まるまでの短い休憩時間の合間に、彼女を見つけ出さなくてはならない。
彼女は一体どこに行ってしまったのだろうか?
もしかしたら既に学校を抜け出して、帰ってしまったのかもしれない。
彼女ならばやりかねなかった。
とりあえず教室を出て、彼女の行きそうな場所を当たることにした。
屋上に保健室、隠れて煙草を吸っている中庭の隅...記憶を探ってみると意外に彼女の行く場所は限定されていた。
しかし、少ない時間で全てを回れるとは思えない、場所は少ないが結構離れているのだ。
屋上はこの階の2階上だし、保健室は2階下、中庭なんて外に出て戻ってくるだけで休憩時間は終わってしまうだろう。
今更、授業の遅刻を心配している己が恥ずかしくなるが、こう言う性分なのだから仕方ない。
さて、本当にどこへ行こうか。
このまま廊下につっ立っている間にも時間は過ぎ去っていく。
これでは賭けみたいじゃないか
「米山君っ」
不意に背後から声をかけられた。
意識が彼女のことにいっていたので、僕は少しびっくりして振り向いた。
力いっぱい背伸びをして北里が僕を見上げていた。
「どうした?」
そう返すが、本当ならこんな返事を返すのだって面倒臭い一秒だって惜しいんだ。
彼氏といちゃいちゃしてればいいじゃないか北里。
「姉御探してるんでしょ?私も探すっ」
そうか、妹分でもある北里ならすぐ彼女が見つかるかもしれない。
きっと普段から溜まる場所とかもよく知っているだろう。
きっと手分けして探せば時間内に見つかるはずだ
「ありがとう。助かるよ」
「いいってば、見つかってから言ってよ。それで何処を探すの?」
「僕は中庭の方に行くよ、北里は屋上を頼む」
そう言って僕は階段の方に駆け出した。
彼女が行く場所は大体決まっている、北里と探せばきっと見つかる...まてよ、もしかしたら北里の彼氏にも手伝ってもらえれば全て回れるんじゃないだろうか?
「北里!田川にも手伝ってもらえないか」
僕は一旦立ち止まって北里に呼びかけた
「それは無理」
「なんで?」
「今は無理」
そう言って北里は教室の一席を指差した。
田川は先ほどの行為に疲れたのか死んだように、机に突っ伏して寝ていた。 いつからあんな状態になっていたんだろうか?
「休み時間が終わってからずっと、スタミナがちょっとないのかもね」
そう言うと北里は屋上への階段に向かって走っていった。
その小さな身体が、少し怖いように思えたのは錯覚だろうか?
中庭に降りる途中に僕は保健室も覗いたが、中にいたのは保健の先生(ユニコーン)とその先生に治療を受けている生徒だった。
この学校で唯一色に染まっていない場所かもしれない、だが先生の目と生徒の目を覗くとそんな場所もきっと長くは続かないだろう。
僕はちょっと二人の間を邪魔したようで、気まずくなって直ぐ様ドアを閉めて保健室を後にしたが、出るとすぐ後ろから嬌声が響いてきた。
「まだ昼間だぞ」 僕はそう少し口を緩ませながら呟いて、中庭に向かって行った。
中庭に彼女はいなかった、少し失礼だが彼女はとても背が高い。
茂みに隠れて煙草を吸っていても角が見えてしまう。
遠目ならばともかく、近ければまず確認できる。
無駄足だったかと僕は諦めて中庭を後にして、教室に戻ることにした。
時計を見るともうすぐチャイムが鳴る頃だ。
北里が彼女を見つけてきてくれると有難いのだが
教室のある階まで急いで駆け上って戻る。
もし彼女が見つかっていなかったらどうしよう、まだもう少しあの横顔やムスっとした表情を見ていたかったのに。
今日は珍しく会話が続いた、もしかしたらこれ以上進展するかもしれなかった...進展?進展って何だ?
僕は一体彼女にどうして欲しいって言うんだ?
愛して欲しいのか?こんな僕を愛してもらう価値があるのか?
それに僕だって彼女を愛す資格があるのか?
考えると胸が痛くなってくる...急いで走っているせいでもあるが。
そう思うと今まで僕は彼女の顔を少しチラチラと見ているだけだったような気がする。
どうやら、今日の僕は妄想が酷いらしい。
届くかどうかわからない高嶺の花に届くような気でいるようだ。
教室のある階にたどり着くと、教室の前に二人立っているのが見えた。
身長差が酷くまるで凸凹コンビだ。
片方は北里でもう片方は...良かった彼女だ。
だが、どこか様子がおかしい。
近づいてみると北里が少々涙目で突っ立っているのがわかった。
それに比べ彼女は一層とムスっとしている
「探しましたよ」
僕は近づいて彼女に声をかける
「...」
彼女は相変わらずムスっとしている。
無言で口も聞きたくないのだろうか。
やはり先ほどの事を気にしているようだ。
「どこにいたの?」
今度は北里に声を掛ける
「屋上...それで叩かれた」
そう言って自分の頭を指さす、確かにちょっとしたたん瘤ができていた。
「何で?」
「それは...」
北里が何か言おうとすると彼女は北里を睨みつけた。
それに怯えた北里はそそくさと教室に戻って行ってしまった。
そして、北里が戻ると彼女は僕の顔をムスっとした顔で見て
「お前が良かった」
そう一言呟いて教室に戻っていった。
廊下に取り残された僕に、その余韻と4時限目のチャイムの音が響いた。
14/03/26 12:34更新 / mo56
戻る
次へ