その4 『2時限目から〜』
もっとこの爽やかな風と声の余韻にもう少し長く浸っていたかったが、残念ながらもうすぐチャイムが鳴ってしまう。
二時限目は確か世界史で、特に眠くなる授業だった。
先生の教え方が悪いのか生徒である僕の授業に対する意欲の問題なのか。
まぁ後者の方が圧倒的だろう。
きっと今横で退屈そうにしている彼女も、きっとすぐに眠りこけてしまうと僕は思った。
世界史の担当の先生は、1時限の先生よりは遥かに規則正しくキビキビとしていた。
しかし、そのせいか授業に面白みがない、いや求めてはいけないのだろうが。
2時限目のチャイムが鳴り終わってしばらくすると、世界史担当の先生が教室に入ってきた。
何処か頼りない中年の男性職員で、教員生活におけるストレスの為か髪は禿げかかっている。
個性が薄い先生かもしれないが、個性が濃すぎる内の学校ではある意味貴重な存在だった。
淡々と出席確認をとると前回の続きを軽くおさらいして、新しい分野に入っていく。
先生はただ黙々と口とチョークを忙しく動かしていた。
最初の10分まで僕はなんとか意識を保っていたが、15分あたりになると段々と眠くなってくる。
意識が少しずつ薄れてくる感覚は、どこか気持ち良いモノだと感じてしまうのは僕だけだろうか。
寝てはいけないと思って顔をなんとか黒板に向けてノートをとろうとするが、はっきりしない意識ではシャープペンもまともに握れない。
文字はまるで虫が這い回ったかのようにグチャグチャに書かれていた。
これでは復習もままならないだろう。
そんな微睡む意識の中で僕は少し横に目を逸す、彼女は既に寝てしまっただろうか。
世界史の講義は彼女にとってはちょうどいい子守唄のようで、僕が知っている限り彼女はこの科目では起きていること自体が珍しい。
そんな彼女を先生は注意もしなければ怒りもしなかった。
変に彼女を怒らせると大変な事になってしまうからだ。
現に何人か病院送りになった。
生き物は寝起きの時が一番機嫌の悪い時だと僕は思っている
目蓋は今にも閉じようとしていたが、横の彼女を見ると逆に見開かれた。
彼女は起きていた、退屈そうに頬杖をしながら黒板を見ていた。
意外な事だったので僕の眠気は吹っ飛んでしまった。
珍しいこともあるもんだと気付くと、顔半分ぐらいを彼女に逸らしてまじまじと見ていた。
顔は「早く終わらせてくれ」と言わんばかりに退屈そうだった。
僕だって同じ気持ちだがそこまで露骨に出せない。
そして、その退屈そうな顔を支えているしなやかな緑色をした指は、一定のタイミングでモールス信号の様に頬を軽く叩いている。
しかし、すぐに視線を向ける僕に気づいたのか、僕の目を彼女は退屈そうに見つめてきた。
なんだか胸が熱くなってきている気がした。
外から吹く風は涼しく僕の体を冷やしてくれるが、さすがにここまでは冷やしてくれないようだ。
一瞬かそれとも1分か、なんだかとても長く感じた。
早く顔を正面に戻した方が良いと思ったが、あと少しだけ彼女の顔を見ていたいのか中々戻らない。
彼女の方がきっと先に嫌になって戻すと思ったが、相変わらず彼女は僕の顔から目を逸らさなかった。何故だか何か言いたそうな顔をしている気がした 「こっちを見るな」とでも怒って叩いてくるのか?いやどうやらその気配も無い。
結局僕と彼女は授業が終わるまで、ぼんやりとした調子でお互いを見ていた。
2時限目が終わって数分の休憩に入る。
退屈な授業から一時的に解放され教室は、また騒がしくなってきていた。
彼女は授業が終わるとさっさと教室を出て行ってしまった。
僕はぼんやりと先程の彼女の顔を思い浮かべながら、3時限目の教科書をカバンから取り出す、確か何の科目だったか?寝ボケた頭は中々上手く働いてくれない。
......クチュ
何か濡れたものに触るような音が後ろからする。
僕は後ろをむいて音のした方を見る。
教室の隅でまた佐々木さん達が始めている、今度は北里もいた。
あまりにも退屈な授業で我慢できなかったのだろう、だがせめてトイレにでも行ってやってくれないだろうか?僕は独り身なんだぞ。
「...あぅ...たっくん。もっと...」
北里が彼氏とキスを交わしていた。
ろくに休憩時間もないのにキスからいくとは中々の猛者だ。
「ん...んぅ」
彼氏が背になって北里の顔はよく見えないが、たまにはみ出るように体格の良い彼氏の隙間から垣間見える北里の顔は既に出来上がっていた。
『たっくん』と呼ばれた北里の彼氏は、己より小さい北里を抱きながら、スカートの中に腕を突っ込んでいく。
手馴れているのか結構早かった。
「うあっ...♪」
下腹部から来る快感に酔ったのか、北里は思わず仰け反った。
顔は紅く染まって普段の可愛い少女の顔ではなく、妖艶な大人の女性の顔だった。
あの顔に興奮を覚えない男は絶対にいないと思う、もしいたとしたらソイツはきっと人間じゃない。
現に僕だって気付くと、カバンから荷物を取り出すのをやめて情事を見ていた。
目を離せるわけないじゃないか、あんなに乱れる北里を間近で見るのは初めてかもしれない。
「もっと...もっとぉ...」
北里は彼氏を抱き返し頭を彼の胸に埋める。
角が刺さらないんだろうか、いやそんなことはどうでもいい。
そう夢中になって酔う北里のちらほらと見える顔に僕は夢中になっていた。 見たときは気づかなかったが、僕みたいに視姦に耽る輩は他にもいた。
己の伴侶が居ないうちについつい見てしまう奴に、両者揃って変態で楽しく眺めている奴、それと彼女から強要されて見ている奴。
後者は稀だが僕みたいな一人で見ている奴は僕だけだ。
また変な疎外感というか孤独を感じた。
だがそれも悪くないと思ってしまう。
こうやって何気兼ねなく他人の情事を覗...これでは変態ではないか。
そう思うと何だか興が冷めてしまった。
やめようこんな下衆な事。
そう思って僕は再びカバンの荷物を取り出す作業に戻ろうとした。
しかし、そう動こうとした時何かに頭を押さえつけられた。
まるで万力に挟まれたようだ、全く動けない。
一体何事かと目を上に向かせる、彼女がまた退屈そうなムスっとした顔で僕 「何見てんだ」
彼女はうろたえる僕の頭を鷲掴みにして、机の上に押さえ付けた。
押してくる痛みと机の表面の冷たさが僕の顔を刺激した。
「何も」
僕は押さえつけられながらも素っ気無く窓を見ながら言った。
相変わらず外はとても開放的だ。
今は特に外に飛び出したい気持ちで一杯だ。
「北里・・・か」
彼女は僕を押さえつけながらも後ろで行為に耽る北里を一瞥した
「ああ言うのが好きなのか?」
押さえつけたまま彼女は聞いてきた。
「いや、別に」
「嘘言うなよ」
「嘘じゃないよ」
「じゃあどんなのが良いんだ?」
「...」
彼女の急な問いに言葉に詰まってしまった。
出来ることなら『君だよ』と言ってやりたいが、この姿勢で喋るのではお世辞の様にしか聞こえないだろう。
「言えないか...?」
少しだけ彼女が残念そうに言った。
何故、残念がるんだ?こんな状態でいくら僕が愛の言葉を紡いだって何の意味もないじゃないか。
だが、僕は貴女の事が好きだ。
緑色で粗野だがどこか優しいあなたが好きなんだ。
いつも事ある度に僕の頭を叩いてくるが、あなたに触れてもらうならばそれが痛みでもなにも問題ないんだ。
「いや...僕はっ」
押さえつけられながらも喋ろうとしたその時、今度は僕の言葉がチャイムにかき消された。
鳴り終わると彼女は僕の頭から手を離して、そそくさと教室を出て行ってしまった。
...やはり残念そうな顔をしていた。
二時限目は確か世界史で、特に眠くなる授業だった。
先生の教え方が悪いのか生徒である僕の授業に対する意欲の問題なのか。
まぁ後者の方が圧倒的だろう。
きっと今横で退屈そうにしている彼女も、きっとすぐに眠りこけてしまうと僕は思った。
世界史の担当の先生は、1時限の先生よりは遥かに規則正しくキビキビとしていた。
しかし、そのせいか授業に面白みがない、いや求めてはいけないのだろうが。
2時限目のチャイムが鳴り終わってしばらくすると、世界史担当の先生が教室に入ってきた。
何処か頼りない中年の男性職員で、教員生活におけるストレスの為か髪は禿げかかっている。
個性が薄い先生かもしれないが、個性が濃すぎる内の学校ではある意味貴重な存在だった。
淡々と出席確認をとると前回の続きを軽くおさらいして、新しい分野に入っていく。
先生はただ黙々と口とチョークを忙しく動かしていた。
最初の10分まで僕はなんとか意識を保っていたが、15分あたりになると段々と眠くなってくる。
意識が少しずつ薄れてくる感覚は、どこか気持ち良いモノだと感じてしまうのは僕だけだろうか。
寝てはいけないと思って顔をなんとか黒板に向けてノートをとろうとするが、はっきりしない意識ではシャープペンもまともに握れない。
文字はまるで虫が這い回ったかのようにグチャグチャに書かれていた。
これでは復習もままならないだろう。
そんな微睡む意識の中で僕は少し横に目を逸す、彼女は既に寝てしまっただろうか。
世界史の講義は彼女にとってはちょうどいい子守唄のようで、僕が知っている限り彼女はこの科目では起きていること自体が珍しい。
そんな彼女を先生は注意もしなければ怒りもしなかった。
変に彼女を怒らせると大変な事になってしまうからだ。
現に何人か病院送りになった。
生き物は寝起きの時が一番機嫌の悪い時だと僕は思っている
目蓋は今にも閉じようとしていたが、横の彼女を見ると逆に見開かれた。
彼女は起きていた、退屈そうに頬杖をしながら黒板を見ていた。
意外な事だったので僕の眠気は吹っ飛んでしまった。
珍しいこともあるもんだと気付くと、顔半分ぐらいを彼女に逸らしてまじまじと見ていた。
顔は「早く終わらせてくれ」と言わんばかりに退屈そうだった。
僕だって同じ気持ちだがそこまで露骨に出せない。
そして、その退屈そうな顔を支えているしなやかな緑色をした指は、一定のタイミングでモールス信号の様に頬を軽く叩いている。
しかし、すぐに視線を向ける僕に気づいたのか、僕の目を彼女は退屈そうに見つめてきた。
なんだか胸が熱くなってきている気がした。
外から吹く風は涼しく僕の体を冷やしてくれるが、さすがにここまでは冷やしてくれないようだ。
一瞬かそれとも1分か、なんだかとても長く感じた。
早く顔を正面に戻した方が良いと思ったが、あと少しだけ彼女の顔を見ていたいのか中々戻らない。
彼女の方がきっと先に嫌になって戻すと思ったが、相変わらず彼女は僕の顔から目を逸らさなかった。何故だか何か言いたそうな顔をしている気がした 「こっちを見るな」とでも怒って叩いてくるのか?いやどうやらその気配も無い。
結局僕と彼女は授業が終わるまで、ぼんやりとした調子でお互いを見ていた。
2時限目が終わって数分の休憩に入る。
退屈な授業から一時的に解放され教室は、また騒がしくなってきていた。
彼女は授業が終わるとさっさと教室を出て行ってしまった。
僕はぼんやりと先程の彼女の顔を思い浮かべながら、3時限目の教科書をカバンから取り出す、確か何の科目だったか?寝ボケた頭は中々上手く働いてくれない。
......クチュ
何か濡れたものに触るような音が後ろからする。
僕は後ろをむいて音のした方を見る。
教室の隅でまた佐々木さん達が始めている、今度は北里もいた。
あまりにも退屈な授業で我慢できなかったのだろう、だがせめてトイレにでも行ってやってくれないだろうか?僕は独り身なんだぞ。
「...あぅ...たっくん。もっと...」
北里が彼氏とキスを交わしていた。
ろくに休憩時間もないのにキスからいくとは中々の猛者だ。
「ん...んぅ」
彼氏が背になって北里の顔はよく見えないが、たまにはみ出るように体格の良い彼氏の隙間から垣間見える北里の顔は既に出来上がっていた。
『たっくん』と呼ばれた北里の彼氏は、己より小さい北里を抱きながら、スカートの中に腕を突っ込んでいく。
手馴れているのか結構早かった。
「うあっ...♪」
下腹部から来る快感に酔ったのか、北里は思わず仰け反った。
顔は紅く染まって普段の可愛い少女の顔ではなく、妖艶な大人の女性の顔だった。
あの顔に興奮を覚えない男は絶対にいないと思う、もしいたとしたらソイツはきっと人間じゃない。
現に僕だって気付くと、カバンから荷物を取り出すのをやめて情事を見ていた。
目を離せるわけないじゃないか、あんなに乱れる北里を間近で見るのは初めてかもしれない。
「もっと...もっとぉ...」
北里は彼氏を抱き返し頭を彼の胸に埋める。
角が刺さらないんだろうか、いやそんなことはどうでもいい。
そう夢中になって酔う北里のちらほらと見える顔に僕は夢中になっていた。 見たときは気づかなかったが、僕みたいに視姦に耽る輩は他にもいた。
己の伴侶が居ないうちについつい見てしまう奴に、両者揃って変態で楽しく眺めている奴、それと彼女から強要されて見ている奴。
後者は稀だが僕みたいな一人で見ている奴は僕だけだ。
また変な疎外感というか孤独を感じた。
だがそれも悪くないと思ってしまう。
こうやって何気兼ねなく他人の情事を覗...これでは変態ではないか。
そう思うと何だか興が冷めてしまった。
やめようこんな下衆な事。
そう思って僕は再びカバンの荷物を取り出す作業に戻ろうとした。
しかし、そう動こうとした時何かに頭を押さえつけられた。
まるで万力に挟まれたようだ、全く動けない。
一体何事かと目を上に向かせる、彼女がまた退屈そうなムスっとした顔で僕 「何見てんだ」
彼女はうろたえる僕の頭を鷲掴みにして、机の上に押さえ付けた。
押してくる痛みと机の表面の冷たさが僕の顔を刺激した。
「何も」
僕は押さえつけられながらも素っ気無く窓を見ながら言った。
相変わらず外はとても開放的だ。
今は特に外に飛び出したい気持ちで一杯だ。
「北里・・・か」
彼女は僕を押さえつけながらも後ろで行為に耽る北里を一瞥した
「ああ言うのが好きなのか?」
押さえつけたまま彼女は聞いてきた。
「いや、別に」
「嘘言うなよ」
「嘘じゃないよ」
「じゃあどんなのが良いんだ?」
「...」
彼女の急な問いに言葉に詰まってしまった。
出来ることなら『君だよ』と言ってやりたいが、この姿勢で喋るのではお世辞の様にしか聞こえないだろう。
「言えないか...?」
少しだけ彼女が残念そうに言った。
何故、残念がるんだ?こんな状態でいくら僕が愛の言葉を紡いだって何の意味もないじゃないか。
だが、僕は貴女の事が好きだ。
緑色で粗野だがどこか優しいあなたが好きなんだ。
いつも事ある度に僕の頭を叩いてくるが、あなたに触れてもらうならばそれが痛みでもなにも問題ないんだ。
「いや...僕はっ」
押さえつけられながらも喋ろうとしたその時、今度は僕の言葉がチャイムにかき消された。
鳴り終わると彼女は僕の頭から手を離して、そそくさと教室を出て行ってしまった。
...やはり残念そうな顔をしていた。
14/03/26 12:14更新 / mo56
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