お札と家族と
「お買い上げありがとうございましたー、お大事に―。」
「アリガとぉゴザァますター」
お買い上げしてくださったおじいさんに商品を渡す、中には数種類の茶葉の様なものが入っているがこれはすべて立派な医薬品だ
「しかしまあ、わしも長いこと生きておるがこのような漢方薬があるとは知らなんだ」
「ふふふ..患者一人ひとりの体質を知り、それに合わせて複数の生薬を調合し煎じて飲む煎じ薬、霧の大陸ではとてもポピュラーなものなんです。」
霧の大陸、それは今暮らしている大陸とは別の物で、僕たちの故郷でもある、なぜ僕たちが故郷を離れたのか、それは現魔王の影響により新たな環境が増え、様々な動植物が増えており漢方薬の素材となる生薬もまた例外ではない、それらの素材を見つけ出し新たな漢方薬を造りだす、それが僕の夢なのだ。
「それにしてもその年齢で店を営んでいるとは、さぞかし大変じゃったろうに。」
「ははは...。」
「オジいサン、テンシュ低いことウテモ気になるの、あまりイワナイデネ。」
「おおっとそいつはすまんかったの、そいじゃわしわこれで、アンデットの娘ちゃんも手伝い頑張れよー。」
「アイぃっ!」
「年齢か〜、一応もう大人なんだけどなぁ。」
「ンふふ、気二しないのッテ何度モ言ったノに、....ソレニ私は大すキダヨ?ぎゅーッテとっても抱きゴコチガイイんだものホラ、ぎゅーっ。」
・・・自分が若いことは否定しないがもう結婚できる年の青年なったのだ、なのに身長がこの人よりも頭一つ分低いのは一体どうしてだろう
あっやめて抱きつかないで、人前でそれをしないで、ふくよかなものをあてないで、僕に身長がないことを改めて認識させないで!
僕の身体に絡みつく彼女の腕を払いのける「うー」と言って不満を漏らす彼女だがここは譲れない、彼女にとってこれはスキンシップなのだろうが僕にしてみればは自尊心を傷つけられるし精神衛生的によろしくない、
その..仮にも僕は男性だからだ、なに?構わんヤれ、だって!?
そんなことをしたら僕は一生自責の念に駆られるだろう、なぜなら彼女は師匠の忘れ形見ともいえる..いや、そうだった人だ。
どちらにせよ僕にとって大切な家族ともいえる存在だからだ。
「さてとっ、そろそろ店を閉じてご飯の準備にしようか、....あれ、昨日はもう少し材料があったはず..というかほとんど残っていないじゃないか!?それに魔力補給剤も残ってない!!」
「......。」
「そういえばちょっと前急に店を飛び出して行ったけど..。」
「ウうゥ...。」
「.....まあ食べてしまった物は仕方ないし、一緒に買い物にいこう?」
「アイぃっ」
目を輝かせながら彼女は頷く
彼女は生前、よく親に内緒で家を飛び出してはこっぴどく叱られていた、師匠が孤児だった僕を弟子入りさせたのは、おそらく技術の伝授と同時に彼女の監視としてつけるつもりだったのだろう、
結果彼女は僕のことを義理の弟ができたとてもはしゃいで喜び、外に出ることはほとんどなくなり僕によく目をかける姉のような存在となっていた。
しかし彼女の自由人さゆえそうしたところで根本的な解決にはならなかった、それはなぜか、単純だ、外に出ることはほとんどなくなっただけであって様々な原因で病気や事故が起こる可能性があるには変わりない、それがただ彼女にとっては致命傷だっただけだ。
父や義弟の手伝いをしたかったのだろう、無理を押し通して買い物に付いてきた、その日は今日と同じで食材を買いに行ったそしてその帰り....
彼女は路地裏で複数の男性に絡まれている女性をたまたま見かけてしまったのだ。
僕が来る前から騒ぎをよく起こした彼女のことだ、案の定首を突っ込んだ、師匠が駆け付けた時には目付役としてそばにいた僕を含めて満身創痍の状態だったそうだ、元々一人で生きてきた身だ自分も腕っ節には多少自信があったが複数人の相手は無謀だったようで師匠が真っ青な顔をしながら駆け寄ってくるのを視認したところで僕の意識は途絶えた。
次に目覚めたとき視界に映ったのは顔に札を張った彼女の顔だった
彼女は一度死んだのだ、多少体が頑丈な男子である僕でもこのざまなのだ彼女が生きている道理などなかった、幸か不幸か彼女が助けようとした女性は一種の道士だったらしく、女性は半狂乱で泣き叫ぶ師匠に負い目を感じたのか死者を使役するキョンシ―製造の術を教えたそうだ、といってもキョンシ―の行動原理の中枢を担う札の文字は特殊なのでそこは道士の女性に書いてもらったらしい。
その日のうちにその家族は激変した、娘はキョンシ―になってから極端に口数が減り生前のようにはしゃぐことはなくなった、他愛もない会話をして目を輝かせたりにへらと笑ったりはするものの以前の様な元気さを失った、おそらくは死ぬ直前の記憶が今もなお彼女の脳裏に甦るのであろう、
その父はあれ以降真っ青になった顔は元には戻らずふらふら歩き、時折ぶつぶつと物をしゃべる、話をかけてもやつれた笑顔を返すばかりで傍から見れば娘以上に死人と言えるような様子だった。
当然そんな日々が続くわけもなく数日後には置き手紙と宙づりになった死体が増えていた。
こぢんまりとした石碑の前で今度は彼女が大泣きした、僕は居てもたっても居られず
「アナタだけでも今度こそ、必ず、絶対に守ってみせます、だから...ですから...もぅ、いなくなって欲しくありません..家族が...いなくなってしまったら..」
「有難ウ、だいジョウブ...私はダイじょウブだから...キミモぜったイ二...」
言葉を最後まで言えぬまま僕は彼女と抱きしめあった、
そして後日必要最低限の荷物をしょって霧の大地を後にし、この地へとたどり着いたのだ
「おや、いらっしゃい、お買いもの?それとも雑談かな?」
「一応買い物なんですが...雑談かな?ってお店としてそれはいいんですか?」
「なに、きみと一緒さ、相手の事情を聴きそれに合わせたぴったりの商品をお客様に提供する、商売の基本だろう?」
「それで今回は何が欲しいんだ。」
奥から“だんぼーる”なるものを運びながら店員が話に割り込んでくる、
「....キミはどうして話に割って入ってくるんだい、せっかく私のカウンセリング能力によって素晴らしい商品を提供しようと思ったのに。」
「はっ、よく言うぜ基本的にあっちへフラフラこっちへフラフラしてるふまじめな店長がなーに新サービスつくろうとしてるんだ、カウンセリングなんてそこの専門のに任せてればいいだろ、オマエはいつも変りの店番している俺の気持ちにもなってみろ。」
「キミは一途に私のことを待ち続けるんだね、ふふっ...妄想が止まりませんな。」
「はいはいそーですか。」
一見ガサツな印象を受けるこの店員だが根はまじめで店長である彼女が不在の間、もしくは新商品の開発中は必ずと言っていいほど代わりの店番をしている
「実は最近彼女の過食が増えるようになって、今日見たら食料も魔力補給剤む尽きてしまっていたんですよ。」
「あー、そだねぇ私もアンデットだからね彼があんまりにも構ってくれないと「うるせぇ」つい食べすぎちゃう傾向がとくに起こりやすいんだよねー、彼女もなんだか前より動きが鈍くなってるみたいだし。」
「うウうぅ.....」
「そんなにストレスとか与えてるつもりはないんですけどねぇ。」
「ううむ、兎にも角にも魔力補給剤と...む?そのダンボール...そうだ!うちの新商品の試作品を試してみないかい?」
「新商品?」
「そっ、魔力補給剤って味気なくって不評と言われてるじゃないか、だから私は魔力補給剤の新たな形を開発中なんだよ、おーいその“試作156番”持ってきてー」
「こんなもん客に出せるか!正規品にしてから出せ!」
「それがどーもこーもごにょごにょ...。」
「なになに..ううむそれなら致し方ないか..。」
「.....?」
ダンボールの中から出てきたのは喫煙具といくつかのタブレットだった
「この喫煙具はいったい?」
「新しい魔力補給装置さ、飲むタイプがあるんだ、だったらほかの服用方法の薬だって作れるだろうと思ってさ、ほかの魔力補給のスタイルなら新鮮味があるからね、「それはすご」まずはこの喫煙具、見た目はフツ―だけどこの皿に専用のタブレットを乗せて燃やすと放出された魔力で起動、吸う際に受け取った魔力の煙を吸収に最適な形に結合させるんだそれにより魔力補給剤と変わらぬ補給効率を可能にした、さらにタブレットにもヒミツがあってなんと試作段階とはいえいくつかのフレーバーをつくることができたんだ、前に作ってあった水たばこ式にもあったがついにこのコンパクトサイズに収めることに成功した、これにより味気なさとはもうおさらば!手軽に外でも吸えるさわやかなすっきりミント風味、思春期の記憶を思い出すかのような甘酸っぱいベリー風味、さらに水たばこ型にはなかった新フレーバー、一夜の静かな情熱のお香サイレン「はいそこまで」チぇッ」
「今回は試作品だからいわゆるお試し版ッてところだ、料金の代わりはお宅の娘ちゃんの感想を聞かせてくれればそれでいい。」
「お肌カサかさなのー?」
「イヤ乾燥じゃあないから。」
「キミ!どういうことだい、無料なんて聞いてないぞっ!」
「稼ぎたかったら早く製品版をつくるんだな。」
「ぐぬぬ、」
「喧嘩ダメなノ―」
「ははは...。」
そんな他愛もない会話を終えて帰路につく、夕暮れに映る二つの影、両手に買い物袋をぶら下げて互いに顔を向け合う大小の様子はさながら家族のささやかな幸せの様子だった
「ただいマーゴハン食べたーイ。」
「お家に帰って第一声がそれかー、」
今日買ってきた物を机に並べる、肉に玉ねぎ、ごろっとジャガイモその隣には人参と沢山のスパイスなどが並んでいる、今日はカレーだ、
「んじゃ僕は準備をしてくるからその間に魔力補給を終わらせたらちょうどいいかもね。」
「煙草はジメて、上手くできルカなぁ」
おぼつかない手つきで専用の喫煙具に火を付けおそるおそる口にくわえる、が、鼻から煙が噴き出し咳ごんでしまう
「ウうぶっ」
「ちょっと大丈夫!?」
「大丈ブだいジョブ、大体ワカってきタカら大丈夫、ほらっコウやって吸って―吐いテ―。」
そう言ってしばらくすると彼女は紫煙を漂わせながら煙の輪っかをつくって「ほらね。」と言いながらはにかんだ、僕はそれを見てちょっぴりどきっとした、
「そ、それじゃ僕は料理作るから...」
しどろもどろしながらそんなことを言って僕は料理を作り始め
「だーめ。」
ることはなかった、その声を最後に聞いたのはいつだっただろうか、少しぎこちない言葉づかいではなく茶目っ気があるなつかしい声だ、
思わず振り向いた僕の顔を包みこんだのは彼女の吐いた煙草の煙、魔力を含んでいるからか、もしくは彼女の吐息だからだろうか、ほのかに甘く痺れるようで心が落ち着くような錯覚を覚えた
「どう、して...。」
「んふふ...。」
彼女の喫煙具から放たれる煙に満たされたこの部屋は空間そのものがいつもとは異なる別空間となり僕の思考を鈍らせたが、かすかに自分自身の鼓動が大きくなるのを感じる、
しなだれかかる彼女を受け止めた僕の見た物は、この町の路地裏などの薄い暗がりでまれに見かける恋した魔物娘の瞳、発情した彼女たちが見せるものと寸分も違わぬものだ。
「ず、随分と...元気になったんだね...義姉さん。」
「その呼び方随分久しぶりな気がする、私が魔物娘になってからはずっと私が妹だったミたいだもの」
「たしかにそうだったけど...。」
「でも遠目で見れば私の方がお姉ちゃんだったワ、だって弟を抱き枕にできるくらいなんだもの、ほら、ぎゅー。」
ほのかに甘い香りがするような彼女のひんやりした胸に包まれる、その胸はむっちり優しく僕の顔を包みこみ幸福感と安心感をもたらし同時の僕の男としてのプライドをへしおった、そして皮肉にも僕の中の男は別の所で彼女に対して反旗を翻した、そう、旗を立てた。
「あれれれ?そっか、もう大人だもンね、そういうお年頃はとっくに迎えてるんだよね。」
「イヤ、その、これはいわゆる不可効力であって」
「べつに...なんの問題もナイヨ?」
そういった彼女は僕を優しくを押し倒し抑え込んだまま僕の唇を奪った
「んっ..ぷはっ」
「....ぇ。」
「えへへ、初めてのチュー、あげちゃった....どうしたの、そんなに不思ギ?そんなことはないよ、だってキョンシ―は札によって使命を称えられるもの、家族を愛すことつまりアナタを愛すことが今ノ私の使命なんだもの、」
「だからって、僕たち姉弟なんだよ?」
「そうね..私たちは義理の姉弟、血の繋がっていない偽物の家族...。」
「そういう意味じゃ..。」
「わかってるよ、優しいあなただもの、でもね..生き返ったあの日、アナタの傷だらけの顔を見た時からズット、私を守るために戦ったあの姿を思い出すたびに悲しくて..、胸がクルシクテで..とってモせつないの。」
「義姉さん....。」
「だからね全て守ろうなんてしないでっ一人で抱え込まないでっ!」
「私をアナタの隣で歩かせてっ一緒に支え合って生きさせて!」
「だから....私をアナタのホントの家族にシて...。」
「結局、あんな実験まがいなことしてよかったのかね....。」
「最終的によかったと感じられれば魔物的にそれはいいのさ。」
「おっとやっこさん、ついにおっぱじめたな、それじゃ見届けたことだし俺たちは帰りますか。」
「もうちょっとだけ見たいのだけど...。」
「新商品の成功は確認できただろ、「チぇッ」鉄は熱いうちに叩け、そう言ったのはお前だ、数を増やして棚に並べねぇと。」
「相手ともども思考を軽くマヒさせることにより素直な気持ちを告白し素直な気持ちで受け取らせることができる空間を作り出すお香“ストレート・レター”とでもなずけようか。」
「それほんとに意味通じてんのか?それに前置きが長い。」
「雰囲気でいいのさ、こういうのはね。」
「アリガとぉゴザァますター」
お買い上げしてくださったおじいさんに商品を渡す、中には数種類の茶葉の様なものが入っているがこれはすべて立派な医薬品だ
「しかしまあ、わしも長いこと生きておるがこのような漢方薬があるとは知らなんだ」
「ふふふ..患者一人ひとりの体質を知り、それに合わせて複数の生薬を調合し煎じて飲む煎じ薬、霧の大陸ではとてもポピュラーなものなんです。」
霧の大陸、それは今暮らしている大陸とは別の物で、僕たちの故郷でもある、なぜ僕たちが故郷を離れたのか、それは現魔王の影響により新たな環境が増え、様々な動植物が増えており漢方薬の素材となる生薬もまた例外ではない、それらの素材を見つけ出し新たな漢方薬を造りだす、それが僕の夢なのだ。
「それにしてもその年齢で店を営んでいるとは、さぞかし大変じゃったろうに。」
「ははは...。」
「オジいサン、テンシュ低いことウテモ気になるの、あまりイワナイデネ。」
「おおっとそいつはすまんかったの、そいじゃわしわこれで、アンデットの娘ちゃんも手伝い頑張れよー。」
「アイぃっ!」
「年齢か〜、一応もう大人なんだけどなぁ。」
「ンふふ、気二しないのッテ何度モ言ったノに、....ソレニ私は大すキダヨ?ぎゅーッテとっても抱きゴコチガイイんだものホラ、ぎゅーっ。」
・・・自分が若いことは否定しないがもう結婚できる年の青年なったのだ、なのに身長がこの人よりも頭一つ分低いのは一体どうしてだろう
あっやめて抱きつかないで、人前でそれをしないで、ふくよかなものをあてないで、僕に身長がないことを改めて認識させないで!
僕の身体に絡みつく彼女の腕を払いのける「うー」と言って不満を漏らす彼女だがここは譲れない、彼女にとってこれはスキンシップなのだろうが僕にしてみればは自尊心を傷つけられるし精神衛生的によろしくない、
その..仮にも僕は男性だからだ、なに?構わんヤれ、だって!?
そんなことをしたら僕は一生自責の念に駆られるだろう、なぜなら彼女は師匠の忘れ形見ともいえる..いや、そうだった人だ。
どちらにせよ僕にとって大切な家族ともいえる存在だからだ。
「さてとっ、そろそろ店を閉じてご飯の準備にしようか、....あれ、昨日はもう少し材料があったはず..というかほとんど残っていないじゃないか!?それに魔力補給剤も残ってない!!」
「......。」
「そういえばちょっと前急に店を飛び出して行ったけど..。」
「ウうゥ...。」
「.....まあ食べてしまった物は仕方ないし、一緒に買い物にいこう?」
「アイぃっ」
目を輝かせながら彼女は頷く
彼女は生前、よく親に内緒で家を飛び出してはこっぴどく叱られていた、師匠が孤児だった僕を弟子入りさせたのは、おそらく技術の伝授と同時に彼女の監視としてつけるつもりだったのだろう、
結果彼女は僕のことを義理の弟ができたとてもはしゃいで喜び、外に出ることはほとんどなくなり僕によく目をかける姉のような存在となっていた。
しかし彼女の自由人さゆえそうしたところで根本的な解決にはならなかった、それはなぜか、単純だ、外に出ることはほとんどなくなっただけであって様々な原因で病気や事故が起こる可能性があるには変わりない、それがただ彼女にとっては致命傷だっただけだ。
父や義弟の手伝いをしたかったのだろう、無理を押し通して買い物に付いてきた、その日は今日と同じで食材を買いに行ったそしてその帰り....
彼女は路地裏で複数の男性に絡まれている女性をたまたま見かけてしまったのだ。
僕が来る前から騒ぎをよく起こした彼女のことだ、案の定首を突っ込んだ、師匠が駆け付けた時には目付役としてそばにいた僕を含めて満身創痍の状態だったそうだ、元々一人で生きてきた身だ自分も腕っ節には多少自信があったが複数人の相手は無謀だったようで師匠が真っ青な顔をしながら駆け寄ってくるのを視認したところで僕の意識は途絶えた。
次に目覚めたとき視界に映ったのは顔に札を張った彼女の顔だった
彼女は一度死んだのだ、多少体が頑丈な男子である僕でもこのざまなのだ彼女が生きている道理などなかった、幸か不幸か彼女が助けようとした女性は一種の道士だったらしく、女性は半狂乱で泣き叫ぶ師匠に負い目を感じたのか死者を使役するキョンシ―製造の術を教えたそうだ、といってもキョンシ―の行動原理の中枢を担う札の文字は特殊なのでそこは道士の女性に書いてもらったらしい。
その日のうちにその家族は激変した、娘はキョンシ―になってから極端に口数が減り生前のようにはしゃぐことはなくなった、他愛もない会話をして目を輝かせたりにへらと笑ったりはするものの以前の様な元気さを失った、おそらくは死ぬ直前の記憶が今もなお彼女の脳裏に甦るのであろう、
その父はあれ以降真っ青になった顔は元には戻らずふらふら歩き、時折ぶつぶつと物をしゃべる、話をかけてもやつれた笑顔を返すばかりで傍から見れば娘以上に死人と言えるような様子だった。
当然そんな日々が続くわけもなく数日後には置き手紙と宙づりになった死体が増えていた。
こぢんまりとした石碑の前で今度は彼女が大泣きした、僕は居てもたっても居られず
「アナタだけでも今度こそ、必ず、絶対に守ってみせます、だから...ですから...もぅ、いなくなって欲しくありません..家族が...いなくなってしまったら..」
「有難ウ、だいジョウブ...私はダイじょウブだから...キミモぜったイ二...」
言葉を最後まで言えぬまま僕は彼女と抱きしめあった、
そして後日必要最低限の荷物をしょって霧の大地を後にし、この地へとたどり着いたのだ
「おや、いらっしゃい、お買いもの?それとも雑談かな?」
「一応買い物なんですが...雑談かな?ってお店としてそれはいいんですか?」
「なに、きみと一緒さ、相手の事情を聴きそれに合わせたぴったりの商品をお客様に提供する、商売の基本だろう?」
「それで今回は何が欲しいんだ。」
奥から“だんぼーる”なるものを運びながら店員が話に割り込んでくる、
「....キミはどうして話に割って入ってくるんだい、せっかく私のカウンセリング能力によって素晴らしい商品を提供しようと思ったのに。」
「はっ、よく言うぜ基本的にあっちへフラフラこっちへフラフラしてるふまじめな店長がなーに新サービスつくろうとしてるんだ、カウンセリングなんてそこの専門のに任せてればいいだろ、オマエはいつも変りの店番している俺の気持ちにもなってみろ。」
「キミは一途に私のことを待ち続けるんだね、ふふっ...妄想が止まりませんな。」
「はいはいそーですか。」
一見ガサツな印象を受けるこの店員だが根はまじめで店長である彼女が不在の間、もしくは新商品の開発中は必ずと言っていいほど代わりの店番をしている
「実は最近彼女の過食が増えるようになって、今日見たら食料も魔力補給剤む尽きてしまっていたんですよ。」
「あー、そだねぇ私もアンデットだからね彼があんまりにも構ってくれないと「うるせぇ」つい食べすぎちゃう傾向がとくに起こりやすいんだよねー、彼女もなんだか前より動きが鈍くなってるみたいだし。」
「うウうぅ.....」
「そんなにストレスとか与えてるつもりはないんですけどねぇ。」
「ううむ、兎にも角にも魔力補給剤と...む?そのダンボール...そうだ!うちの新商品の試作品を試してみないかい?」
「新商品?」
「そっ、魔力補給剤って味気なくって不評と言われてるじゃないか、だから私は魔力補給剤の新たな形を開発中なんだよ、おーいその“試作156番”持ってきてー」
「こんなもん客に出せるか!正規品にしてから出せ!」
「それがどーもこーもごにょごにょ...。」
「なになに..ううむそれなら致し方ないか..。」
「.....?」
ダンボールの中から出てきたのは喫煙具といくつかのタブレットだった
「この喫煙具はいったい?」
「新しい魔力補給装置さ、飲むタイプがあるんだ、だったらほかの服用方法の薬だって作れるだろうと思ってさ、ほかの魔力補給のスタイルなら新鮮味があるからね、「それはすご」まずはこの喫煙具、見た目はフツ―だけどこの皿に専用のタブレットを乗せて燃やすと放出された魔力で起動、吸う際に受け取った魔力の煙を吸収に最適な形に結合させるんだそれにより魔力補給剤と変わらぬ補給効率を可能にした、さらにタブレットにもヒミツがあってなんと試作段階とはいえいくつかのフレーバーをつくることができたんだ、前に作ってあった水たばこ式にもあったがついにこのコンパクトサイズに収めることに成功した、これにより味気なさとはもうおさらば!手軽に外でも吸えるさわやかなすっきりミント風味、思春期の記憶を思い出すかのような甘酸っぱいベリー風味、さらに水たばこ型にはなかった新フレーバー、一夜の静かな情熱のお香サイレン「はいそこまで」チぇッ」
「今回は試作品だからいわゆるお試し版ッてところだ、料金の代わりはお宅の娘ちゃんの感想を聞かせてくれればそれでいい。」
「お肌カサかさなのー?」
「イヤ乾燥じゃあないから。」
「キミ!どういうことだい、無料なんて聞いてないぞっ!」
「稼ぎたかったら早く製品版をつくるんだな。」
「ぐぬぬ、」
「喧嘩ダメなノ―」
「ははは...。」
そんな他愛もない会話を終えて帰路につく、夕暮れに映る二つの影、両手に買い物袋をぶら下げて互いに顔を向け合う大小の様子はさながら家族のささやかな幸せの様子だった
「ただいマーゴハン食べたーイ。」
「お家に帰って第一声がそれかー、」
今日買ってきた物を机に並べる、肉に玉ねぎ、ごろっとジャガイモその隣には人参と沢山のスパイスなどが並んでいる、今日はカレーだ、
「んじゃ僕は準備をしてくるからその間に魔力補給を終わらせたらちょうどいいかもね。」
「煙草はジメて、上手くできルカなぁ」
おぼつかない手つきで専用の喫煙具に火を付けおそるおそる口にくわえる、が、鼻から煙が噴き出し咳ごんでしまう
「ウうぶっ」
「ちょっと大丈夫!?」
「大丈ブだいジョブ、大体ワカってきタカら大丈夫、ほらっコウやって吸って―吐いテ―。」
そう言ってしばらくすると彼女は紫煙を漂わせながら煙の輪っかをつくって「ほらね。」と言いながらはにかんだ、僕はそれを見てちょっぴりどきっとした、
「そ、それじゃ僕は料理作るから...」
しどろもどろしながらそんなことを言って僕は料理を作り始め
「だーめ。」
ることはなかった、その声を最後に聞いたのはいつだっただろうか、少しぎこちない言葉づかいではなく茶目っ気があるなつかしい声だ、
思わず振り向いた僕の顔を包みこんだのは彼女の吐いた煙草の煙、魔力を含んでいるからか、もしくは彼女の吐息だからだろうか、ほのかに甘く痺れるようで心が落ち着くような錯覚を覚えた
「どう、して...。」
「んふふ...。」
彼女の喫煙具から放たれる煙に満たされたこの部屋は空間そのものがいつもとは異なる別空間となり僕の思考を鈍らせたが、かすかに自分自身の鼓動が大きくなるのを感じる、
しなだれかかる彼女を受け止めた僕の見た物は、この町の路地裏などの薄い暗がりでまれに見かける恋した魔物娘の瞳、発情した彼女たちが見せるものと寸分も違わぬものだ。
「ず、随分と...元気になったんだね...義姉さん。」
「その呼び方随分久しぶりな気がする、私が魔物娘になってからはずっと私が妹だったミたいだもの」
「たしかにそうだったけど...。」
「でも遠目で見れば私の方がお姉ちゃんだったワ、だって弟を抱き枕にできるくらいなんだもの、ほら、ぎゅー。」
ほのかに甘い香りがするような彼女のひんやりした胸に包まれる、その胸はむっちり優しく僕の顔を包みこみ幸福感と安心感をもたらし同時の僕の男としてのプライドをへしおった、そして皮肉にも僕の中の男は別の所で彼女に対して反旗を翻した、そう、旗を立てた。
「あれれれ?そっか、もう大人だもンね、そういうお年頃はとっくに迎えてるんだよね。」
「イヤ、その、これはいわゆる不可効力であって」
「べつに...なんの問題もナイヨ?」
そういった彼女は僕を優しくを押し倒し抑え込んだまま僕の唇を奪った
「んっ..ぷはっ」
「....ぇ。」
「えへへ、初めてのチュー、あげちゃった....どうしたの、そんなに不思ギ?そんなことはないよ、だってキョンシ―は札によって使命を称えられるもの、家族を愛すことつまりアナタを愛すことが今ノ私の使命なんだもの、」
「だからって、僕たち姉弟なんだよ?」
「そうね..私たちは義理の姉弟、血の繋がっていない偽物の家族...。」
「そういう意味じゃ..。」
「わかってるよ、優しいあなただもの、でもね..生き返ったあの日、アナタの傷だらけの顔を見た時からズット、私を守るために戦ったあの姿を思い出すたびに悲しくて..、胸がクルシクテで..とってモせつないの。」
「義姉さん....。」
「だからね全て守ろうなんてしないでっ一人で抱え込まないでっ!」
「私をアナタの隣で歩かせてっ一緒に支え合って生きさせて!」
「だから....私をアナタのホントの家族にシて...。」
「結局、あんな実験まがいなことしてよかったのかね....。」
「最終的によかったと感じられれば魔物的にそれはいいのさ。」
「おっとやっこさん、ついにおっぱじめたな、それじゃ見届けたことだし俺たちは帰りますか。」
「もうちょっとだけ見たいのだけど...。」
「新商品の成功は確認できただろ、「チぇッ」鉄は熱いうちに叩け、そう言ったのはお前だ、数を増やして棚に並べねぇと。」
「相手ともども思考を軽くマヒさせることにより素直な気持ちを告白し素直な気持ちで受け取らせることができる空間を作り出すお香“ストレート・レター”とでもなずけようか。」
「それほんとに意味通じてんのか?それに前置きが長い。」
「雰囲気でいいのさ、こういうのはね。」
15/10/17 20:24更新 / B,バス