真夜中サーカス
最近、よく夢を見るんですよ。
普段はあんまり見ないんですけどね、けど連日同じような夢ばっかり。
夢の中で、何故か私は暗い部屋の中にいるんです。
暗いっていっても完全に真っ暗闇じゃなくて、ちょうど照明の落ちた映画館みたいな。
手元ぐらいは見える薄暗さの中で、暖かくも寒くもなく、気付いたらフカフカの座席に座っています。
それも一番前の席に一人だけ。
横にも後ろにもズラーッと座席は並んでるのに、座ってるのは私しかいません。
最初は広い会場を独り占めしてる気になるんですけど、だんだん一人でいるのが不安になってきて。
まぁちょっと待ってれば他の人も来るだろうと考えます。
すると急にブザーが鳴って、明るい女性の声でアナウンスが流れました。
アナウンスは、
「まもなく開演の時刻となります。最高に怖くて最高に気持ちいい一夜を、どうぞお楽しみください」
と意味不明なものでした。
でももう一回見渡しても、観客は私一人だけなんですよ。
それでなんとなく居心地が悪くなるんですが、このときの私は自分の夢がどんなものを見せるか知りたくなってしょうがありませんでした。
変ですよね？
アナウンスも変なんですけど、その時の私は自分が夢の中にいるって認識があるんです。
だからどんなことが起きても現実には関係ないし、いざ本当に怖い思いをすれば目を覚ませばいいやって思いながら、むしろ怖がらせるものならやってみろって気持ちすらありました。
それからまもなく、急に目の前が明るくなりました。
映画館のスクリーンだと思っていたのが幕だったみたいで、するすると上がる垂れ布の向こうは明るく照らされた舞台です。
「レディース、アーンド、ジェントルマーン！」
スポットライトの中ではピエロが両手を広げながら声を張り上げていました。
まるでサーカスとかの開演挨拶みたいでしたが、夢の中だからか、そのピエロも普通ではなくて。
まず見たこともない女性のピエロでした。
派手な化粧や衣装は道化師のそれなのに、所々際どく素肌が見えたり、身体のラインがぴっちり強調するタイツを着てるもんですから、なんだか見てるだけで酷くいやらしい気分になります。
「真夜中のサーカスによう〜こそぉ〜っ！七日七晩、毎夜一演目だけの特別なサーカス！務めるのはお馴染みボギーボギーのわたしことクラウぅぅンクラウンんん！！」
どんどんパフパフ、といった演出と愉快な音楽の中、くるくる回ったり、ピョンピョン跳ねたり。
ピエロらしい身振り手振りで自己紹介をしながら、最後にこれまた大仰な仕草でお辞儀をしました。
膝を少し曲げながら、片手を豊かな胸元に、もう片方を横に伸ばして、
「それでは今宵も貴方の、貴方のためだけのショーをご覧ください」
そして顔を上げます。
この時、私は確かにピエロと目が会いました。
観客は他にいない状況だからしょうがないかもしれないんですけど。
でもピエロは私以外無人の観客席を気にした様子もなく、むしろ最初から私だけしか眼中に無いようにじっと見つめてくるんです。
道化師の諧謔もおふざけも消して、心の奥底まで入り込むような怪しい視線で、
「それでは開〜演〜ん！」
それも一瞬、またピエロがくるりと周ります。
私はもうこの時から目が離せなくなっていました。
あの不思議な目線は勿論のこと。
内心はピエロが何をするのかという不安や、道化らしい動きでしたが、頻繁に腰をくねったり身体に手を這わせながら流し目でこちらを見たり。
場違いだとは思いましたが、扇情的な仕草に股間がじんじんするほど興奮していました。
「本日見ていただくのは、こちら！」
何が起きるかドキドキする私をよそに、ピエロが片手を舞台袖に向けると、ポーンと身長ほどの大きなボールが跳ねてきました。
それが続けて2個、3個と。
「大玉乗り！」
それらを器用にキャッチして、余興とばかりにジャグリングなんてし始めます。
勿論手では到底収まりきらないので、腕をつかったり足で蹴ったり肩で押し退けたり。
それだけでも喝采ものなんですが、ピエロはひとしきりジャグリングを終えて、またくるりと一周。
「無論、ただの球乗りなんてつまらない！ここは観客席の方にもお手伝いしていただきましょう！」
ピエロはピョンと嬉しそうに跳ねてましたが、聞いた私はそれどころじゃありません。
何しろ観客は私しかいないのですから、このままでは舞台の上に連れて行かれてしまう。
でもピエロは勝手に舞台を降りてきて、あれよあれよと戸惑う私の手を取って無理やり立たせました。
その時、しょうがないかもしれませんが思いっきり抱き着くような形でピエロと密着してしまい。
甘い華のような香りに、ドキリとしたのを覚えてます。
「…さぁさ、舞台はこちらですよ」
そして舞台上とはまた違う、ハスキーな声で耳打ちされて。
反射的に腰を引きました。
が、まるで全部お見通しだぞとばかりにズボンの中ですっかり硬くなった陰茎をカリッと爪先で優しくなぞられ、腰の力が抜けた私はされるがまま舞台上に引っ張られてきました。
それで舞台なんて初めて立ったんですけど、あのスポットライトとか、座席の山とか。
無観客とはいえ、誰かに注目させることが苦手な私としては身が竦む程に怖くなって緊張してしまいます。
でもピエロはそんなことお構い無しでした。
むしろ私の様子を面白可笑しくニヤつきながら、
「ほら、もっとくっついて」
余計に抱きついてきます。
それはもう抱擁とか軽いスキンシップじゃなくて、むにゅむにゅ身体を擦りつけてきたり、背中を手で撫で回したり、わざと耳を咥えてふぅ、と息を吹きかけてきたり。
「♪」
そうして腰砕けの私をひとしきり悪戯したあと、ピエロが突然後ろに倒れました。
躊躇う素振りもなく、もう本当にいきなりで、けどピエロは私を抱き締めたままだったので一緒に体勢を崩すしかありません。
あの転ぶ一瞬前の浮遊感というか、内臓が浮く感覚に目を瞑りながら、ぶつかる、と思って身構えました。
しかし床の固い衝撃はこず、それどころかポーンと空中に弾き飛ばされたんです。
多分、さっき転がってきたボールの上に倒れたんでしょう。
冗談みたいに聞こえますがボールの反発で押し返されたあと、
「よっ、と」
気付いたら別のボールの上に二人して着地していました。
私はもう何が起きたか分かりません。
でもふと見ると、自分の足元が想像より高い位置にあるんですから、もう怖くてパニックになります。
「…ふふ♪ ほら、もっとくっつかないと危ないよ？」
勿論、私に玉乗りの経験なんてありませんから。
落ちたくない一心で、目の前のピエロに縋り付きました。
腰の引けた体勢のまま、薄い衣装の奥の豊乳に顔を何度も埋めて。
それでもピエロは気にせず、むしろ嬉しそうに声を弾ませて私の頭を抱きしめながら器用にバランスをとります。
落下の恐怖で不安定な私に合わせて、右に左に。
ぴったりと身体を密着させたまま、人間離れしたサーカス芸にリードされて二人乗りの大玉乗りを披露していきます。
「ん♪」
そして玉乗りのバランスとりは、私が少し落ち着いたことで、いつの間にかお互いの股間を擦り合わせるような動きになっていました。
ピエロは腰や脚の動きでバランスをとっていましたが、そのうちズリズリと執拗に下腹部を押し付けたり、むっちりした内腿で挟み込んできたり。
当の私は落ちないよう必死にピエロにしがみつくんですが、ズボン越しとはいえガチガチの陰茎を散々刺激され、それに我を忘れていると今度は落ちる寸前まで振り回され、落ちるかもと思い出す頃にはまたスベスベの臍下で裏スジを撫で回される。
交互に恐怖と興奮を行き来しながら情けなく喘ぐしかありませんでした。
傍目からはとてもサーカスの演目に見えない、まるで本当の性交のような刺激的すぎるパフォーマンスだったと思います。
私自身、自分が興奮してるのか怖がってるのかさえ分かりません。
けど一つだけ確かなのは、この異常な状況に抗えないほどの快楽を感じており、
「♥」
気がつくとピエロの胸に顔を挟まれながら、我も忘れて射精していました。
チカチカする頭と身体を甘い雌に包まれながら、ズボンの中の生暖かさに後悔する余裕もなく。
無駄にヘコヘコと本能的に腰をカクつかせて。
「ふふっ♪」
びくびくと無様に震える私を見たのでしょう。
ピエロは嬉しそうに小さく笑うと、一層強く抱き締めて何事もなく大玉から飛び降りました。
一瞬の浮遊感の後に感じる地面の感触。
ようやく安心できる足場だというのに、私はまだ揺れてる感覚がして座り込むしかありません。
そんな私をピエロは蕩けた瞳で見つめながら、
「それでは、本日の講演料をいただくとしましょう♥」
何を思ったのか、無遠慮に私のズボンの中に手を突っ込んだんです。
粘着質な音からわかるように、これまでにないほどの大放出で私のズボンは大変なことになっていました。
股間どころか太腿までベトベトに汚れていたと思います。
そんな出した私でさえ不快に思う始末なのに、上気顔のピエロは嫌がるどころか、寧ろなるべく多く掬い取らんと手に満遍なく絡ませながら、人差し指と親指でキュッと根元を優しく握りこんできて、
「ほぉぉぉ…ら♥」
グチュグチュと音をさせながら、じっくりゆっくりと陰茎を擦り上げてきました。
根元から先端までの片道切符というか。
その間に陰茎に纏わりついた精液をこそげ取りながら、最後にピュッと尿道内に残ってた僅かな精液も手の平で受け止めて、ずるりとズボンから引き出したピエロの手は粘液で塗れてました。
独特の臭いが漂うそれは、普通なら忌避されるものでしょう。
けれどやらしく笑うピエロは手首までべっとりとコーティングされたそれを見せつけるように高く掲げて、
「んはああぁぁぁぁ……♥」
あろうことか指先から垂れた精液を口で受け止めてしまったのです。
ドロリと落ちてくる生臭い白濁液を、真っ赤で長い舌を伸ばして絡ませながら、見せつけるように指の一本一本に舌を這わせしゃぶり丁寧に私の汚液を舐め取っていくきます。
初めはぴちゃぴちゃとした控え目な音から最後はじゅるじゅるとはしたない音に変わって、口の中一杯に溜めたそれを嚥下すれば、辺りには強い雌の匂いが充満してました。
「ぷはっ、はぁっ…はぁ、は…はふ……はふふ♥」
あんな生臭いだけのゼリーをまるで極上の美味のように味わって、ピエロは恍惚とした表情で余韻に浸ってるようでした。
それは道化師らしからぬ、まごうことなきピエロの本心にみえて、
「では、今宵はこれまで」
波が引いたのか、初めよりやや不安定な動きでピエロがバク転すると、また大仰なお辞儀で一礼しました。
その顔を真っ赤にしながら、瞳とレオタードの股間をしっとり濡らしてこう続けるのです。
また明日、と。
それが一番初めの夢でした。
本当に、そんな夢ばっかり見るんですよ。
夢の中は決まって私一人、サーカスの演目と称してあのピエロに弄ばれます。
サーカスなのに他の演者はおらず、いつもあのピエロです。
しかも内容も日に日に過激になってきいました。
例えばパントマイムのショーではピエロが卑猥な空中手コキとアナル舐めを実演してる最中、本当に下半身を責められてるような快楽がはしって、足腰が立たなくなるまで延々と責め続けられたり。
バラバラマジックでは五体を箱に分断されたまま、身動きできない陰茎をあの巨乳に挟まれて舐めしゃぶられ、挙げ句顔部分をピエロの股に挟まれながら、ひたすら発情した雌の匂いを浴びせられて、いつの間にかお互いの性器をむしゃぶり尽くしていたり。
恐怖心と快楽で頭がおかしくなるほど興奮させられて、また明日と言われるんですよ。
でも昨日はなんだか様子が違いました。
「真夜中サーカスへようこそ！七日七晩、毎夜一演目だけの特別なサーカス！六日目の演目はバルーンアート！！」
前口上もそこそこに、色とりどりの風船を出しながらピエロが踊ってました。
いつもと同じく、あのふざけた動きや話し方も一緒で、私もいつものように壇上に引っ張り出されています。
もうこの頃の私は異常な快楽経験におかしくなったようで、夢どころか起きてる最中もピエロのことが頭から離れられなくなっていました。
仕事もプライベートも上の空のまま、ひたすらあの柔らかくて気持ちのいい道化雌に今度はどんなふうに責められるのかを四六時中夢想しています。
だから手を引っ張られても、舞台上で服を脱がされてもろくな抵抗も出来ません。
「さぁ、さぁ！クラウンクラウンにかかればただの風船もこの通り、あっという間に風船手錠の出来上がり！」
もう驚くことでもありませんが、見た目はただの二輪になったスティックバルーンでも、手首に巻き付いた瞬間、まるで本物の手錠のように身動きを制限されました。
そして動きを封じられたあとは優しく床に寝転ばされます。
本心では何をされるか怖くてたまらないはずなのに、全裸のままバンザイの体勢で固定する風船はまるで本当の拘束具のようにびくともしません。
「…んふ♥」
そんな私を見てからか、ピエロが思わずといった具合に笑いました。
その目は以前より明らかに大きくなった私の怒張に向けられており、
「かわいいこの子にもバルーンアートしてあげましょう♪」
風船の口を広げたまま膨らませず、あろうことか私の陰茎にすっぽりと被せました。
パチンと薄いゴムが敏感な部分に張り付き、浮かび上がった血管で見えます。
「でーはではではお待ちかね！本日のメインイベントに、移りましょう！」
まるで、というよりもはや避妊用のゴムそのものを被せられた陰茎を下に、ピエロが跨ってきました。
荒い息で先端を熱く蕩けたピエロの脚の間にグチュグチュ擦られて、ようやく私も我に返りました。
間近で見るピエロのレオタード、最も大事な股間部分がすっぽりなくなっていて、ドロドロに蕩けたピエロのおまんこが丸見えだったんです。
喝れて淫涎を垂らす割れ目と私の亀頭を何度も滑らす様は、もう完全に挿入する直前の行為で、私は驚くことしかできません。
なんせ、これまで何度も性的な悪戯はされてきましたが、本当の性行為は初めてでした。
でも一観客でしかない私は、息を荒げるピエロを見上げることしか出来なく、
「ではいただきます♥」
ピエロが腰を落とすと、同時にぬるりとした感触が陰茎を包み込みこまれました。
その快楽はこれまでと違うというか。
ゴム越しでも分かるほどドロドロに発情した腟内が待ちかねたように絡みついてきて、好き♥好き♥と言外に伝えてきます。
「ん♥ん♥んぃっ♥」
けどなんていうか、どこか違うというか。
気持ちいいのは確かなんですけど、それはあの気が狂うほどの快楽じゃありませんでした。
もうピエロの快楽調教されてしまったせいか、ゴム越しにチュッチュッと肉ひだが絡みついてくるのに、肝心の一歩前でお預けされてるようなもどかしさが残ってたんです。
「ふっ♥ふっ♥ん、んぅ…♥」
それはあのピエロも同じ様で。
艶めかしく腰を上下させて私の痴態を面白可笑しく笑っていますが、白塗りの顔を時折切なそうに歪めていました。
「んふむぅっ♥」
それで我慢できなかったのでしょうか。
上下ピストンからグリグリ腰を回し、唇を貪りながら、道化師らしからぬ強引さで私は強制的に射精させられました。
先端をちゅっ♥ちゅっ♥と優しく吸い付かれてるのに、無情にもそれを遮る無機質なゴムめがけて、陰茎が引き攣って吐精するのを感じます。
落ち着いて引き抜いた陰茎の先、小さな水風船ほどに先端を膨らませながらも、でもそれはいつもの夢より満足からは程遠いものでした。
あの被せられた風船のせいだと思います。
普通では考えられないほど射精したというのに。
いつもはあるはずの、あの恐怖と興奮が入り混じった甘美な感覚に代わって中途半端な不完全燃焼さだけがグツグツと煮詰まっていきました。
「………っ、…♪」
私が落ち着くのを見計らって、ピエロも上から降りました。
その顔はいつもの道化師の笑顔でしたが、甘ったるい雌フェロモンを全身から漂わせているように、薄皮一枚下には燃えるような劣情が荒れ狂ってるのが分かります。
ともすれば直ぐにでもゴムを外して生交尾に移りたいであろう欲求に耐えながら、私の耳に熱っぽい声でこういうのです。
「それでは、続きは最終演目まで♥」
それで昨日は夢から覚めました。
現実の私は、空調がきいてるのに全身寝汗でびっしょりで。
しかも最悪ことに夢の中の耐え難い射精欲と腰の奥の掻痒感を持って帰ったようでした。
おかげでベッドから起き上がることすら出来ません。
限界までお預けされた陰茎が、パンツの微かな摩擦にさえ動けなくなるほど反応してしまうのです。
なのに肝心の射精までは到底辿り着けません。
もう身体がピエロを気持ちいいものと覚えてしまって、それ以外で達することが難しくなっていたんだと思います。
極限まで高められた感度に耐えきれず何とか自分を慰めようもしても、あと一歩がとうしても届かず、悶々とベッドに股間を擦りつけながら考えるのはあの淫らなピエロの事ばかり。
きっとこのために、あのバルーンアートはあったのでしょう。
あの快楽的なピエロが我慢してまでゴムを使った理由。
狙った獲物のとどめを刺すように。
観客を本当の意味で演者にするために。
でもそれを今更分かったところで、どうしょうもありません。
気が狂いそうな寸止め責めのなかで、ふと壁のカレンダーが見えました。
そういえばあのピエロと合ってから今日で六日目。
あと少しすれば、時刻的には七日目です。
曰く七日が最後の演目となるそうですが、もう私の心はどうにか、あるいはどうにでもしてくれという恐怖と期待でおかしくなりそうでした。
気を紛らわせるために今の状況を書き残そうとしてもどうにもできません。
私はベッドの中で早く夜が来るのを願いながら、覚めたばかりの夢を見ようと目をつぶります。
これが観客として見る最後の夢だと気付きつつも、私は必死で眠りにつくのです。
あの不気味で可愛くて淫らなピエロを夢見ながら。
次こそは雄に媚びるあの雌肉の求愛を直接受けて、肚の奥隅までこの煮えたぎった欲望を思う存分吐き出すと決心して、私はまた夢のサーカスに飛び込みました。
「真夜中サーカスへようこそ♥」
普段はあんまり見ないんですけどね、けど連日同じような夢ばっかり。
夢の中で、何故か私は暗い部屋の中にいるんです。
暗いっていっても完全に真っ暗闇じゃなくて、ちょうど照明の落ちた映画館みたいな。
手元ぐらいは見える薄暗さの中で、暖かくも寒くもなく、気付いたらフカフカの座席に座っています。
それも一番前の席に一人だけ。
横にも後ろにもズラーッと座席は並んでるのに、座ってるのは私しかいません。
最初は広い会場を独り占めしてる気になるんですけど、だんだん一人でいるのが不安になってきて。
まぁちょっと待ってれば他の人も来るだろうと考えます。
すると急にブザーが鳴って、明るい女性の声でアナウンスが流れました。
アナウンスは、
「まもなく開演の時刻となります。最高に怖くて最高に気持ちいい一夜を、どうぞお楽しみください」
と意味不明なものでした。
でももう一回見渡しても、観客は私一人だけなんですよ。
それでなんとなく居心地が悪くなるんですが、このときの私は自分の夢がどんなものを見せるか知りたくなってしょうがありませんでした。
変ですよね？
アナウンスも変なんですけど、その時の私は自分が夢の中にいるって認識があるんです。
だからどんなことが起きても現実には関係ないし、いざ本当に怖い思いをすれば目を覚ませばいいやって思いながら、むしろ怖がらせるものならやってみろって気持ちすらありました。
それからまもなく、急に目の前が明るくなりました。
映画館のスクリーンだと思っていたのが幕だったみたいで、するすると上がる垂れ布の向こうは明るく照らされた舞台です。
「レディース、アーンド、ジェントルマーン！」
スポットライトの中ではピエロが両手を広げながら声を張り上げていました。
まるでサーカスとかの開演挨拶みたいでしたが、夢の中だからか、そのピエロも普通ではなくて。
まず見たこともない女性のピエロでした。
派手な化粧や衣装は道化師のそれなのに、所々際どく素肌が見えたり、身体のラインがぴっちり強調するタイツを着てるもんですから、なんだか見てるだけで酷くいやらしい気分になります。
「真夜中のサーカスによう〜こそぉ〜っ！七日七晩、毎夜一演目だけの特別なサーカス！務めるのはお馴染みボギーボギーのわたしことクラウぅぅンクラウンんん！！」
どんどんパフパフ、といった演出と愉快な音楽の中、くるくる回ったり、ピョンピョン跳ねたり。
ピエロらしい身振り手振りで自己紹介をしながら、最後にこれまた大仰な仕草でお辞儀をしました。
膝を少し曲げながら、片手を豊かな胸元に、もう片方を横に伸ばして、
「それでは今宵も貴方の、貴方のためだけのショーをご覧ください」
そして顔を上げます。
この時、私は確かにピエロと目が会いました。
観客は他にいない状況だからしょうがないかもしれないんですけど。
でもピエロは私以外無人の観客席を気にした様子もなく、むしろ最初から私だけしか眼中に無いようにじっと見つめてくるんです。
道化師の諧謔もおふざけも消して、心の奥底まで入り込むような怪しい視線で、
「それでは開〜演〜ん！」
それも一瞬、またピエロがくるりと周ります。
私はもうこの時から目が離せなくなっていました。
あの不思議な目線は勿論のこと。
内心はピエロが何をするのかという不安や、道化らしい動きでしたが、頻繁に腰をくねったり身体に手を這わせながら流し目でこちらを見たり。
場違いだとは思いましたが、扇情的な仕草に股間がじんじんするほど興奮していました。
「本日見ていただくのは、こちら！」
何が起きるかドキドキする私をよそに、ピエロが片手を舞台袖に向けると、ポーンと身長ほどの大きなボールが跳ねてきました。
それが続けて2個、3個と。
「大玉乗り！」
それらを器用にキャッチして、余興とばかりにジャグリングなんてし始めます。
勿論手では到底収まりきらないので、腕をつかったり足で蹴ったり肩で押し退けたり。
それだけでも喝采ものなんですが、ピエロはひとしきりジャグリングを終えて、またくるりと一周。
「無論、ただの球乗りなんてつまらない！ここは観客席の方にもお手伝いしていただきましょう！」
ピエロはピョンと嬉しそうに跳ねてましたが、聞いた私はそれどころじゃありません。
何しろ観客は私しかいないのですから、このままでは舞台の上に連れて行かれてしまう。
でもピエロは勝手に舞台を降りてきて、あれよあれよと戸惑う私の手を取って無理やり立たせました。
その時、しょうがないかもしれませんが思いっきり抱き着くような形でピエロと密着してしまい。
甘い華のような香りに、ドキリとしたのを覚えてます。
「…さぁさ、舞台はこちらですよ」
そして舞台上とはまた違う、ハスキーな声で耳打ちされて。
反射的に腰を引きました。
が、まるで全部お見通しだぞとばかりにズボンの中ですっかり硬くなった陰茎をカリッと爪先で優しくなぞられ、腰の力が抜けた私はされるがまま舞台上に引っ張られてきました。
それで舞台なんて初めて立ったんですけど、あのスポットライトとか、座席の山とか。
無観客とはいえ、誰かに注目させることが苦手な私としては身が竦む程に怖くなって緊張してしまいます。
でもピエロはそんなことお構い無しでした。
むしろ私の様子を面白可笑しくニヤつきながら、
「ほら、もっとくっついて」
余計に抱きついてきます。
それはもう抱擁とか軽いスキンシップじゃなくて、むにゅむにゅ身体を擦りつけてきたり、背中を手で撫で回したり、わざと耳を咥えてふぅ、と息を吹きかけてきたり。
「♪」
そうして腰砕けの私をひとしきり悪戯したあと、ピエロが突然後ろに倒れました。
躊躇う素振りもなく、もう本当にいきなりで、けどピエロは私を抱き締めたままだったので一緒に体勢を崩すしかありません。
あの転ぶ一瞬前の浮遊感というか、内臓が浮く感覚に目を瞑りながら、ぶつかる、と思って身構えました。
しかし床の固い衝撃はこず、それどころかポーンと空中に弾き飛ばされたんです。
多分、さっき転がってきたボールの上に倒れたんでしょう。
冗談みたいに聞こえますがボールの反発で押し返されたあと、
「よっ、と」
気付いたら別のボールの上に二人して着地していました。
私はもう何が起きたか分かりません。
でもふと見ると、自分の足元が想像より高い位置にあるんですから、もう怖くてパニックになります。
「…ふふ♪ ほら、もっとくっつかないと危ないよ？」
勿論、私に玉乗りの経験なんてありませんから。
落ちたくない一心で、目の前のピエロに縋り付きました。
腰の引けた体勢のまま、薄い衣装の奥の豊乳に顔を何度も埋めて。
それでもピエロは気にせず、むしろ嬉しそうに声を弾ませて私の頭を抱きしめながら器用にバランスをとります。
落下の恐怖で不安定な私に合わせて、右に左に。
ぴったりと身体を密着させたまま、人間離れしたサーカス芸にリードされて二人乗りの大玉乗りを披露していきます。
「ん♪」
そして玉乗りのバランスとりは、私が少し落ち着いたことで、いつの間にかお互いの股間を擦り合わせるような動きになっていました。
ピエロは腰や脚の動きでバランスをとっていましたが、そのうちズリズリと執拗に下腹部を押し付けたり、むっちりした内腿で挟み込んできたり。
当の私は落ちないよう必死にピエロにしがみつくんですが、ズボン越しとはいえガチガチの陰茎を散々刺激され、それに我を忘れていると今度は落ちる寸前まで振り回され、落ちるかもと思い出す頃にはまたスベスベの臍下で裏スジを撫で回される。
交互に恐怖と興奮を行き来しながら情けなく喘ぐしかありませんでした。
傍目からはとてもサーカスの演目に見えない、まるで本当の性交のような刺激的すぎるパフォーマンスだったと思います。
私自身、自分が興奮してるのか怖がってるのかさえ分かりません。
けど一つだけ確かなのは、この異常な状況に抗えないほどの快楽を感じており、
「♥」
気がつくとピエロの胸に顔を挟まれながら、我も忘れて射精していました。
チカチカする頭と身体を甘い雌に包まれながら、ズボンの中の生暖かさに後悔する余裕もなく。
無駄にヘコヘコと本能的に腰をカクつかせて。
「ふふっ♪」
びくびくと無様に震える私を見たのでしょう。
ピエロは嬉しそうに小さく笑うと、一層強く抱き締めて何事もなく大玉から飛び降りました。
一瞬の浮遊感の後に感じる地面の感触。
ようやく安心できる足場だというのに、私はまだ揺れてる感覚がして座り込むしかありません。
そんな私をピエロは蕩けた瞳で見つめながら、
「それでは、本日の講演料をいただくとしましょう♥」
何を思ったのか、無遠慮に私のズボンの中に手を突っ込んだんです。
粘着質な音からわかるように、これまでにないほどの大放出で私のズボンは大変なことになっていました。
股間どころか太腿までベトベトに汚れていたと思います。
そんな出した私でさえ不快に思う始末なのに、上気顔のピエロは嫌がるどころか、寧ろなるべく多く掬い取らんと手に満遍なく絡ませながら、人差し指と親指でキュッと根元を優しく握りこんできて、
「ほぉぉぉ…ら♥」
グチュグチュと音をさせながら、じっくりゆっくりと陰茎を擦り上げてきました。
根元から先端までの片道切符というか。
その間に陰茎に纏わりついた精液をこそげ取りながら、最後にピュッと尿道内に残ってた僅かな精液も手の平で受け止めて、ずるりとズボンから引き出したピエロの手は粘液で塗れてました。
独特の臭いが漂うそれは、普通なら忌避されるものでしょう。
けれどやらしく笑うピエロは手首までべっとりとコーティングされたそれを見せつけるように高く掲げて、
「んはああぁぁぁぁ……♥」
あろうことか指先から垂れた精液を口で受け止めてしまったのです。
ドロリと落ちてくる生臭い白濁液を、真っ赤で長い舌を伸ばして絡ませながら、見せつけるように指の一本一本に舌を這わせしゃぶり丁寧に私の汚液を舐め取っていくきます。
初めはぴちゃぴちゃとした控え目な音から最後はじゅるじゅるとはしたない音に変わって、口の中一杯に溜めたそれを嚥下すれば、辺りには強い雌の匂いが充満してました。
「ぷはっ、はぁっ…はぁ、は…はふ……はふふ♥」
あんな生臭いだけのゼリーをまるで極上の美味のように味わって、ピエロは恍惚とした表情で余韻に浸ってるようでした。
それは道化師らしからぬ、まごうことなきピエロの本心にみえて、
「では、今宵はこれまで」
波が引いたのか、初めよりやや不安定な動きでピエロがバク転すると、また大仰なお辞儀で一礼しました。
その顔を真っ赤にしながら、瞳とレオタードの股間をしっとり濡らしてこう続けるのです。
また明日、と。
それが一番初めの夢でした。
本当に、そんな夢ばっかり見るんですよ。
夢の中は決まって私一人、サーカスの演目と称してあのピエロに弄ばれます。
サーカスなのに他の演者はおらず、いつもあのピエロです。
しかも内容も日に日に過激になってきいました。
例えばパントマイムのショーではピエロが卑猥な空中手コキとアナル舐めを実演してる最中、本当に下半身を責められてるような快楽がはしって、足腰が立たなくなるまで延々と責め続けられたり。
バラバラマジックでは五体を箱に分断されたまま、身動きできない陰茎をあの巨乳に挟まれて舐めしゃぶられ、挙げ句顔部分をピエロの股に挟まれながら、ひたすら発情した雌の匂いを浴びせられて、いつの間にかお互いの性器をむしゃぶり尽くしていたり。
恐怖心と快楽で頭がおかしくなるほど興奮させられて、また明日と言われるんですよ。
でも昨日はなんだか様子が違いました。
「真夜中サーカスへようこそ！七日七晩、毎夜一演目だけの特別なサーカス！六日目の演目はバルーンアート！！」
前口上もそこそこに、色とりどりの風船を出しながらピエロが踊ってました。
いつもと同じく、あのふざけた動きや話し方も一緒で、私もいつものように壇上に引っ張り出されています。
もうこの頃の私は異常な快楽経験におかしくなったようで、夢どころか起きてる最中もピエロのことが頭から離れられなくなっていました。
仕事もプライベートも上の空のまま、ひたすらあの柔らかくて気持ちのいい道化雌に今度はどんなふうに責められるのかを四六時中夢想しています。
だから手を引っ張られても、舞台上で服を脱がされてもろくな抵抗も出来ません。
「さぁ、さぁ！クラウンクラウンにかかればただの風船もこの通り、あっという間に風船手錠の出来上がり！」
もう驚くことでもありませんが、見た目はただの二輪になったスティックバルーンでも、手首に巻き付いた瞬間、まるで本物の手錠のように身動きを制限されました。
そして動きを封じられたあとは優しく床に寝転ばされます。
本心では何をされるか怖くてたまらないはずなのに、全裸のままバンザイの体勢で固定する風船はまるで本当の拘束具のようにびくともしません。
「…んふ♥」
そんな私を見てからか、ピエロが思わずといった具合に笑いました。
その目は以前より明らかに大きくなった私の怒張に向けられており、
「かわいいこの子にもバルーンアートしてあげましょう♪」
風船の口を広げたまま膨らませず、あろうことか私の陰茎にすっぽりと被せました。
パチンと薄いゴムが敏感な部分に張り付き、浮かび上がった血管で見えます。
「でーはではではお待ちかね！本日のメインイベントに、移りましょう！」
まるで、というよりもはや避妊用のゴムそのものを被せられた陰茎を下に、ピエロが跨ってきました。
荒い息で先端を熱く蕩けたピエロの脚の間にグチュグチュ擦られて、ようやく私も我に返りました。
間近で見るピエロのレオタード、最も大事な股間部分がすっぽりなくなっていて、ドロドロに蕩けたピエロのおまんこが丸見えだったんです。
喝れて淫涎を垂らす割れ目と私の亀頭を何度も滑らす様は、もう完全に挿入する直前の行為で、私は驚くことしかできません。
なんせ、これまで何度も性的な悪戯はされてきましたが、本当の性行為は初めてでした。
でも一観客でしかない私は、息を荒げるピエロを見上げることしか出来なく、
「ではいただきます♥」
ピエロが腰を落とすと、同時にぬるりとした感触が陰茎を包み込みこまれました。
その快楽はこれまでと違うというか。
ゴム越しでも分かるほどドロドロに発情した腟内が待ちかねたように絡みついてきて、好き♥好き♥と言外に伝えてきます。
「ん♥ん♥んぃっ♥」
けどなんていうか、どこか違うというか。
気持ちいいのは確かなんですけど、それはあの気が狂うほどの快楽じゃありませんでした。
もうピエロの快楽調教されてしまったせいか、ゴム越しにチュッチュッと肉ひだが絡みついてくるのに、肝心の一歩前でお預けされてるようなもどかしさが残ってたんです。
「ふっ♥ふっ♥ん、んぅ…♥」
それはあのピエロも同じ様で。
艶めかしく腰を上下させて私の痴態を面白可笑しく笑っていますが、白塗りの顔を時折切なそうに歪めていました。
「んふむぅっ♥」
それで我慢できなかったのでしょうか。
上下ピストンからグリグリ腰を回し、唇を貪りながら、道化師らしからぬ強引さで私は強制的に射精させられました。
先端をちゅっ♥ちゅっ♥と優しく吸い付かれてるのに、無情にもそれを遮る無機質なゴムめがけて、陰茎が引き攣って吐精するのを感じます。
落ち着いて引き抜いた陰茎の先、小さな水風船ほどに先端を膨らませながらも、でもそれはいつもの夢より満足からは程遠いものでした。
あの被せられた風船のせいだと思います。
普通では考えられないほど射精したというのに。
いつもはあるはずの、あの恐怖と興奮が入り混じった甘美な感覚に代わって中途半端な不完全燃焼さだけがグツグツと煮詰まっていきました。
「………っ、…♪」
私が落ち着くのを見計らって、ピエロも上から降りました。
その顔はいつもの道化師の笑顔でしたが、甘ったるい雌フェロモンを全身から漂わせているように、薄皮一枚下には燃えるような劣情が荒れ狂ってるのが分かります。
ともすれば直ぐにでもゴムを外して生交尾に移りたいであろう欲求に耐えながら、私の耳に熱っぽい声でこういうのです。
「それでは、続きは最終演目まで♥」
それで昨日は夢から覚めました。
現実の私は、空調がきいてるのに全身寝汗でびっしょりで。
しかも最悪ことに夢の中の耐え難い射精欲と腰の奥の掻痒感を持って帰ったようでした。
おかげでベッドから起き上がることすら出来ません。
限界までお預けされた陰茎が、パンツの微かな摩擦にさえ動けなくなるほど反応してしまうのです。
なのに肝心の射精までは到底辿り着けません。
もう身体がピエロを気持ちいいものと覚えてしまって、それ以外で達することが難しくなっていたんだと思います。
極限まで高められた感度に耐えきれず何とか自分を慰めようもしても、あと一歩がとうしても届かず、悶々とベッドに股間を擦りつけながら考えるのはあの淫らなピエロの事ばかり。
きっとこのために、あのバルーンアートはあったのでしょう。
あの快楽的なピエロが我慢してまでゴムを使った理由。
狙った獲物のとどめを刺すように。
観客を本当の意味で演者にするために。
でもそれを今更分かったところで、どうしょうもありません。
気が狂いそうな寸止め責めのなかで、ふと壁のカレンダーが見えました。
そういえばあのピエロと合ってから今日で六日目。
あと少しすれば、時刻的には七日目です。
曰く七日が最後の演目となるそうですが、もう私の心はどうにか、あるいはどうにでもしてくれという恐怖と期待でおかしくなりそうでした。
気を紛らわせるために今の状況を書き残そうとしてもどうにもできません。
私はベッドの中で早く夜が来るのを願いながら、覚めたばかりの夢を見ようと目をつぶります。
これが観客として見る最後の夢だと気付きつつも、私は必死で眠りにつくのです。
あの不気味で可愛くて淫らなピエロを夢見ながら。
次こそは雄に媚びるあの雌肉の求愛を直接受けて、肚の奥隅までこの煮えたぎった欲望を思う存分吐き出すと決心して、私はまた夢のサーカスに飛び込みました。
「真夜中サーカスへようこそ♥」
22/04/21 15:06更新 / 迷える哺乳類