この都会の大きい街を歩いたりすると、目の前には憂鬱な光景が展開される。通りを歩けば、フリーの独身男性とすれ違う。それも一人二人では無く、個人を平らに均すような同じデザインの服を着て、多くの男性が皆疲れ果てた様子で歩いているのだ。
聞くところによれば、彼らは様々な労働を課せられ、日がな一日望まぬ仕事をしているらしい。しかも身を粉にして働いたとしても、生活が豊かになるのとは無いのだという。にわかに信じられないことだが、我々魔物娘と番いになるどころか、幸せとは程遠い生活を送っているそうだ。

当事者であれば、以下のことに同意してもらえるだろう。我らが魔王様のおわす世界において、まだ手のついていないフリーの男性は著しく不足している。残念ながら魔王様と主神の力は未だ拮抗しており、魔物娘の子は皆雌しか産まれない。そのためフリー男性の競争率は年々増加し、膨大な数のうら若き乙女達がその身を持て余す状態にあって、未成年男性誘惑独占禁止法（通称ショタ保護法）など非常に多くの問題をもたらしている。

それゆえ我々魔物娘は、自分の旦那様が欲しくて堪らない同胞の爛れた恋を応援するべく、魔物娘の価値観的に健全かつ自分だけのドスケべ雄になってくれる未婚男性を個人的財産にするための、公正で、安価で、簡単に実行できる方策を発見しなければならない。そのためならば反魔物派という可愛らしい人間集団の篭絡は元より、次元を超えた異世界に進出することさえお茶の子さいさいである。恋する乙女の執念は次元さえ破るのだ。

そうして我々のような先遣隊がこの「ゲンダイシャカイ」という世界に遣わされた。その理由は、旦那様候補になりえる男性の存在を確認するためである。が、私の目的はただそれだけに留まらない。より広義の目的は、ある特定の世代における未婚男性全体の数を減らし、向こう側から来る未婚娘の第一陣を実質援助するためにも、先遣隊である我々自らが素敵な男性を捕まえて実証することにあるのだ。誤解してほしくないのはこれはあくまで魔王様と魔物娘達のためであって決して抜け駆けとか考えてるわけでなく私も一人の清らかな乙女だしいい加減お婿さん貰って旦那様と新婚子造り休暇とりたという個人的な感情は否定しないがもうあとから入った後輩に内心血涙流しながらおめでとうって言いたくないんですお願いしますこれぐらい許してください魔王様あーもう一人ぐらい路地裏に引っ張り込んでズッコンバッコン既成事実セックスしたいなぁ駄目？駄目ですか？駄目ですよねなら大人しく裏方でコッソリしてますねはい。でもそもそもが（以下、個人的な意見がしばらく続く）。


中略


さて、では実際どうするかというと。私は先遣隊として数ヶ月、未婚男性を襲いたくなる本能を抑えて、この重要な問題について思いをめぐらし、他のメンバーの計画を慎重に見ていった。その結果、彼女達は大きな計算違いをしておられると考えざるをえなかった。

例えばホルスタウロス隊員が挙げた「全男性オギャバブ化計画」。彼女が言うに、赤ちゃんというものは母親の授乳によって成長する。つまり全男性の幼少期には女性の母性に対する欲求が植え付けられており、それに回帰させるというものだ。
確かに、立派に成長した男性が赤子のように一心不乱におっぱいを吸いながら甘えてくる様は魔物娘の母性に突き刺さるものがある。未婚の私ですら、でちゅね構文で徹底的に蕩かした旦那様を授乳手コキからの甘やかセックスは考えるだけでドキがムネムネする。
しかしこの計画の欠点は、男性の雄らしい逞しさを感じにくい。魔物娘優位のセックスはそれはそれで抗いがたい魅力があるが、やはり乙女たるもの、自分だけの雄に押し倒されて抵抗出来ぬままドロドロに溶かされる野獣セックスも捨てがたい。

これは、ダークエルフ隊員の「全男性マゾ奴隷化計画」と共通の欠点である。
言われるまでもなく、無抵抗で怯える将来の旦那様（十分前）を性的な意味で責め尽くし、くっころ状態で快楽の間で戸惑う顔を見ながら最終的に従順な奴隷旦那様（十分後）にしたてる光景は魔物娘の下腹部にダイレクトアタックする。だが一未婚魔物娘としては野獣セックスも甘々イチャラブセックスも欲しく、何より異界のファーストコンタクトとして過激な接触はリスクがある。

では魔女隊員の「私だけのお兄ちゃんになってよロリロリローリ計画」はどうかというと、これも実行が難しい。
男性の保護欲を最大限刺激し、男性優位の甘やかセックスに持ち込むことが目的のこの計画も大変魅力がある。しかし成熟した隊員の多い先遣隊では一部の娘達にしか出来ないだろう。決して婚期遅れ気味でボンッキュッボンまで成長してしまった魔物娘達が多いからとかではない。


そこで、私は画期的な計画を練り上げた。
私の提案は、今苦境に立っている未来の旦那様に救いの手を伸ばそうというものである。この提案を実行すれば、旦那様は無意味な残業や理不尽な人間関係から解放されることになり、我々魔物娘にも理想の旦那様を作ることができる。

私の提案にはもう一つ大きな利点がある。それは、若い男性が金銭を払ってまでも、好きでもない異性で童貞を捨てるという恐ろしい事態を防ぐことができるのだ。ああ！　異世界とはいえ、そんなことがこの世界では横行し、私達魔物娘から記念すべき旦那様の初めてを奪い取っているのだ。恐らく童貞は恥ずべきものという意識からくるものであろうが、魔物娘ならば、これにはいかなる者の胸にも悔恨の涙を催さずにはいられないであろう。

「ゲンダイシャカイ」には未婚男性の人口は千五百万とみなされている。なのに人間同士による出生数は年々減少し四十万を切っている。従って、このままでは男性の総数自体が減ってしまい、その分寂しい思いをする魔物娘も増えてしまうことになる。
そこで問題は、いかにして魔物娘が未婚の男性を捕まえるか。あるいは援助するか、となる。この問題は、私がすでに言及したように、他の隊員により提案されたどの方法によっても、全隊員が十全に満足して旦那様を捕まえることは全く不可能である。オギャバブ、マゾ奴隷、年下ロリ。何れにおいても、それぞれ揺るぎない魅力はあるが、それだけでは夢見る新婚セックスの可能性をカバーしきれないからだ。

それゆえ私は、謹んで以下に私案を提出する。おそらく諸君にはなんら異議はないものと存ずる。
私はかつて、魔王城で知り合った非常に経験豊かな知り合いから話を聞いたことがある。
親指を人差し指の下に潜らせたグーを作りながら、彼女曰く、
「最終的に身体よ、身体。受け身な男でも積極的な男でも、私達魔物娘の良さに抗えないんだから。もう出会って子宮にピーンって来たらその場で押し倒してメロメロにさせるのよ」

なんともリア充らしい発言である。爆発しろ。

とにかく、それゆえ、私は諸君に以下のことを考えていただこうと思っている。すでに計算した通り、未婚男性で溢れている現状は、我々先遣隊がいかに積極的アプローチを取ったところで問題はない。具体的にいえば、有無を言わさずホテルか、なんなら路地裏にでも連れ込んでお嫁さん無しにはいられないよう骨抜きにする。その際、授乳プレイでもSMでも年下プレイでも構わない。

手段が多少強引となることは認めよう。しかし、我々先遣隊は「ゲンダイシャカイ」の集団に入り、後から来るであろう後輩達への余地を作らねばならない。そのためには現地人となる生涯の協力者が必要となる。これはあくまで任務のため、任務のためなのだ。

「ゲンダイシャカイ」の受け入れ先もある程度目星をつけている。まずは独身男性の多い「キギョウ」や「コウテキキカン」。「ゲンダイシャカイ」の根幹を担うそれらに潜入すれば、今後の活動にも有利になれるだろう。
「キギョウ」については所属する人間の多い「ダイキギョウ」も勿論候補にあるが、独身男性の割合が高い「チュウショウキギョウ」も視野に入れて幅広く受け口を探っていく。流石に男、即、交まではいかないが、事務能力に自信がある娘なら、忙しい仕事をフォローしながらアピールすればあとは力づくでもいける算段である。

次に「ガッコウ」。これは魔王城にもある教育機関であるが、様々な未成年の若者がいると考えられる。ここでならば「キギョウ」には溶け込みにくいロリ系を始めとした娘が最適の場所だと言えよう。我々のような外部からの異界人への浸透には若い世代の理解が必要である。そして魔物娘は素晴らしいもの、童貞は尊きものと再教育させるのだ。担当する娘には青い果実と甘酸っぱい春を過ごして欲しい。

そして最後に、「フーゾク」なる集団。信じられぬことに、「ゲンダイシャカイ」の男性は性欲処理を「フーゾク」なる集団に金銭を払って行っているらしい。私達魔物娘には到底受け入れがたいが、性欲は一般的に忌避されるもので、「ゲンダイシャカイ」の男性はその貴重な精液を好きでもない金銭関係のみの相手に「処理」してもらっている。この報告書を読んだ諸君の憤懣遣る方無い思いは想像に難くない。現に私自身、怒りでペン先が震えてくる。しかしここは発想を転換すれば、許しがたい「フーゾク」は我々の格好の潜入先と言えよう。
我々は未婚男性とセックスできる。おまけに活動資金も手に入る。「フーゾク」であれば必要技能はなく、様々なニーズから理想の旦那様も探しやすい。

ただ一点だけ注意しなければならないのが、「フーゾク」利用者には人間のパートナーを持った既婚男性も来る。もはや理解すら出来ないが、人間の夫婦同士では互いに満足出来るほどセックスすることが難しいらしい。そのため、「フーゾク」潜入者は魔術や記憶操作などの特殊技能をもつ隊員を優先して選ぶ。

さて、いかがだったろうか。
私には、私案に対して異議申し立てがなされるなどと考えることはできない。だが、私案によって先遣隊の活動に大きく影響するだろうという点は認めよう。また実際、それがこの提案を世に示す主な目的でもあるのだ。読者には、ぜひ以下のことを認めていただきたい。私案はひとえに先遣隊の我々未婚者を含めた全未婚魔物娘のためのものであり、この世界の過去、現在、未来いずれかの時点で存在し得る全ての者のためなのだ。

だから、私に他の手段を話すのはやめてほしい。
私に今あげたような提案や方策を聞かせないでほしい。そんな習慣を実行しようとする誠実、真摯な試みが生じる希望の少なくとも片鱗でも認められるまでは絶対言わないでほしい。
私自身について言えば、「ゲンダイシャカイ」を監視する任務の傍ら、もう己の性欲を我慢できそうにない。今すぐにでもこの間知り合ったあの男性のもとに飛んでいって、組み付き押し倒し、戸惑う彼の顔を見ながら濃厚なベロチューをしてグチャグチャのドロドロに交ざり合いたい。その想像だけでご飯三杯はいけるといっても、もう白米だけの生活に疲れ切ってしまった。いい加減、味の濃いメインディッシュを食べたい。

ゆえに、幸いにも上に述べた私案を思いついたのであるが、これはまったくの新着想であるから、これこそ真に価値ある試みとも思えるところがあるのだ。

もう私は彼と会うだけで身体が一人で準備運動してしまうほど飢えに飢えている。
それをどうか、理解してほしい。

■作者メッセージ
元ネタを知ってる人はかなりのマニアです