夫婦喧嘩はダンピールも食わない
あたしは母さまが嫌いだ。
「まったくお前は、こんな簡単な作業に何時間かけるつもりだ。まるで陸亀が服を着て歩いているような男だな」
愛すべき夫にいつもいつも横柄で傲慢な母さまが嫌いだ。
あたしは父さまが嫌いだ。
「あははは・・・・・・。いやあ、その、お嬢さま・・・・・・、面目ないです」
邪険に扱われようと言い返せず、へらへら笑ってばかりいる父さまが嫌いだ。
その日の夕食も苦痛だった。今日も今日とて母さまは、卓を挟んで八つ当たりのようにお小言を投げつけていた。あたしは冷めた目と心でもってそれを聞き流しながら、トマトジュースと胸の中のドロドロしたものを飲み下していた。
だが今日は、運悪いことに矛先があたしにまで向いた。
「ヘレナも気をつけろ。我々貴族にとって、夫とは最も重要な選択。頼むからお前は私のように、うだつの上がらないダメ亭主を捕まえてくれるなよ」
「あ、あははは・・・・・・」
ぴしり――という、ひびの割れる感覚がした。ジュースのグラスか、あるいは胸中か。
「・・・・・・ぅ、・・・・・・ぃゃ――」
だからあたしは、うつむいたまま呟いた。聞き取れなかった母さまが、怪訝な顔でこちらを向いた。
「――もう、うんざりなのよ。くだらない母さまも、みっともない父さまも」
年端も行かぬ小娘に反抗されていることに、そこでようやく母さまも気付いたらしい。顔を赤くして、椅子を蹴立てて大声をあげる。
「母親に向かってその口の利き方は何だ! お前は――」
「黙りなさい」
ぴしゃりと、まるで判を押したように静かになった。見れば母さまが、自分の喉を押さえながら金魚みたいにぱくぱくしている。
「・・・・・・? ・・・・・・ッ!?」
声にならない息を吐き出しながら、母さまは信じられないものを見るようにあたしに怯えていた。一方父さまは、どうしたらいいかわからずいつも通りあたふたしている。
「今まで我慢してきたけど、もう限界。もう辛抱できないの、母さまにも父さまにも・・・・・・。あ、もう喋っていいよ」
その間にもあたしは悠々と、慌てる母さまの眼前に歩み寄る。母さまの視線が徐々に、混乱から敵意を含んだものに変わっていく。
「ぷはっ・・・・・・。ヘレナお前、まさか、ダンピー・・・・・・――くっ!」
分が悪いと判断したか、ドレスを翻し母さまは一目散にダイニングから脱出を試みる。
だが、扉に手をかけることはできない。いやそれどころか、一歩だって進むことはできなかった。
「か、身体が、うごかな・・・・・・?」
「どこに行くの?」
あたしが燭台から伸びる母さまの影を、ヒールで踏みつけているからだ。それだけで、母さまは指一本動かせなくなったのだ。
「まだ話は済んでないわ。立ち話もなんだし・・・・・・、そうね、母さまも座ってよ――そこの床にね」
顎でしゃくって示すあたしに、さしもの母さまも貴族の矜持の琴線に触れたらしい。並みの魔物なら眼光だけで殺せかねない迫力で、声を荒げた。
「ふっ、ふざけるな! この私を、誰だと思っている! 私は夜の王者、私は――」
「いいから――跪きなさいって言ってるでしょう!」
「――っは、はいぃっ!」
あたしに怒鳴られると、母さまはまるで叱られた子供のような従順さを見せた。これではどちらが母娘か、わかったものじゃない。
「へ、ヘレナ。もうそれくらいで・・・・・・、ロナお嬢さまもそんな――」
「父さまは黙っててっ!」
「――はいっ!」
一喝すると父さまも従った。ちなみにこちらは、ダンピールの魔力とは関係ない。
「嘘だ、嘘だ・・・・・・。こんな、私は・・・・・・」
掃除の行き届いた床にぺたりと座り込んで、母さまは呆然としていた。だが、まだ全然終わりじゃない。あたしは人差し指で、母さまの顎を持ち上げてこちらを向かせる。
「母さま、あたしの目を見て・・・・・・」
「い、イヤだ、ダメだ・・・・・・。ヘレナ、やめてくれ・・・・・・!」
聞く耳など持つわけない。まっすぐ見据えた眼球を通して、あたしはダンピールの特大の魔力を叩きこむ。
「うあああぁぁぁぁっ♪ あぁぁっ、あはぁぁっ♪」
目は口ほどにものを言う。
ヴァンパイアである母さまはあたしの言霊に逆らえないのと同様に、見つめられただけで理性を削るように奪い取られるのだ。魔物の優れた聴覚が、秘所からくちゅりと音が鳴ったのを耳聡く聞き取る。
「触れられてすらいないのに、もう濡らしちゃったの? 母さまったら淫乱」
「や、やめてくれぇっ、み、見ないでくれっ♪ そんな魔力送られながら蔑んだ目で見られたら、わ、わたし――あぁっ♪」
涙で目を潤ませながら身悶える母さま。決して視線を逸らさないまま、優しい口調であたしは語りかける。
「母さまに質問があるの」
「しつ、もん・・・・・・・・・・・・?」
「身構えなくても大丈夫だよ。今からいくつか訊くから、母さまはそれに嘘偽らず答えるの。できるよね?」
「ぅ、く――――」
実の娘の掌中で踊らされるのが、気に食わないらしい。けれど、だからといって打開策もない。
「まず一つめ。母さまはどうやって父さまと知り合ったの?」
「それは――気まぐれに街に夜の散歩に行って、そこで・・・・・・。家族を失って行く当てがなかったクラウスを、不憫に思って、それで・・・・・・」
「血を吸ったの?」
「だって、クラウスってば、ひどい怪我をしてて。その匂いが、その、とっても、美味しそうだったから・・・・・・っ」
まるで火が出そうなくらい母さまの顔が真っ赤になる。それはきっと、魔力による発情のせいだけではない。
ごくり、と父さまが生唾を飲む音が聞こえた。
「ふうん、それで屋敷にお持ち帰りしたんだ・・・・・・。じゃあ次、父さまとは今までどれくらいセックスしたの? あたしを産んだってことは、吸血だけじゃなく人間の父さまとシたんでしょう?」
「・・・・・・か、数えるほどしかしていない。ほ、本当だ、信じてくれ。・・・・・・我々ヴァンパイアは、下賤な人間と軽々しく身体を重ねるべきではないんだ」
嘘は――ついていないようだ、力説している。あたしからすれば笑っちゃう差別意識だが、母さまにとっては信念なのだろう。
「なら・・・・・・、いちばん大事な質問ね」
「母さまは父さまのこと、好き?」
その質問は劇的だった。今まで夢に浮かされていたような母さまの目が、急に理性を取り戻す。意固地になった――とも言う。
「す――好きなわけがないだろう! こんな十何年血を吸い続けてもインキュバスにもなれない、下等で、鈍くさい、日和見で、頼りない男のことなどっ! 私は――私は、クラウスなんて、大っ嫌いだ!」
この期に及んで――本当にこの期に及んで、だ。
母さまはまだこんなことを言っている。あたしは嘘をつくなって言ったのに。だから――――
「オシオキ、ね」
「な、何をするヘレ・・・・・・ンむぅぅっ!?」
あたしは顎を掴む指に力を込めると、狼狽する母さまの唇を無理やり奪った。そしてそのまま舌の先端が、母さまの舌の腹を踊るように蹂躙する。
「ん――ッ! ん――〜〜〜〜ッ!?」
「あむ、ぷちゅ、くちゅ、んちゅちゅっ、ん、ぁん、えろ、くちゅ、ちゅ――」
息継ぎなんてさせない。吸血鬼は十分だろうと二十分だろうと、窒息なんてしないからだ。
だがそれは、ダンピールの魔力のたっぷり詰まった唾液を飲まなくて済む理由にはならない。
「んぐっ、う、ぅぐ――・・・・・・・・・・・・んんん〜〜〜ッ!♪?」
「んああ、ぺろ、ぅちゅ、ぐ、ちゅろっ、ぇろ、んふ、んふふふっ♪」
初めはあたしの肩を掴んで抵抗していた手の力も、とっくにへろへろになっていた。
だがどんなに屈辱的でも、歯を食いしばることも目を閉ざすこともあたしに許してもらわなければ母さまはできないのだ。
「ぷはっ――・・・・・・うふふ、良い顔になったんじゃない?」
「ぁ・・・・・・――、は、ぁ・・・・・・――――」
紫外線を知らず真っ白だった母さまの頬は、今はしかし林檎のように赤くなっている。まるで童女のよう・・・・・・、そう、恋をした、人間の少女のようだ。
とろりとした表情で、呼吸なんて必要ないくせに荒い息をついている。
もう完全に出来上がっていた。その証拠に、
「ふぅっ・・・・・・♪」
耳に吐息をかけてやるだけで――
「んひぃぃぃぃぃぃっ♪」
「うそ、嘘、ウソ――――母さまの言葉は嘘ばっかり。本当に父さまが嫌いなら・・・・・・ねえ、答えてよ。それならどうして、この屋敷には他に使用人がひとりもいないの?」
「そ、それは・・・・・・」
「怖かったんでしょ、他の女中に父さまを取られるのが。恐ろしかったんでしょ、父さまが母さま以外を選べる環境が。だから追い出した。怒ってばっかのくせに。何も与えないくせに。自分は父さまから選択肢を奪ったんだ」
普段の母さまなら、きっともっと高慢に言い返せるのだろう。けど、今は違う。
「卑怯な女だね、母さま」
「・・・・・・ぅっ、ふぐっ、ぅ、ぅぇぇ、ぅぁぁあああ――」
心の堤防にもついに限界が来たか、恥も外聞もなく泣き出してしまった。貴族、貴族と口を酸っぱくしてあたしに語ったプライドは、粉々に打ち砕かれてしまった。
「よしよし、泣かなくていいんだよ母さま」
「うぅ、ごめんなさいっ、ごめんなさいぃぃ・・・・・・っ」
「・・・・・・もう、母さまったら。謝る相手が、違うんじゃないの? ほら」
あたしはあやしながらも、泣きじゃくる母さまの視線を誘導してやる。
そこには父さまが、母さまに負けず劣らず息を荒くして立ち尽くしていた。母娘の色事を目の当たりにした背徳感によるものか、ズボン越しでもわかるほどその男根は張り詰めているのがわかった。
「はぁっ、はぁっ・・・・・・、お嬢さま・・・・・・、いや、ロナ、ロナ――――!」
「く、クラウ――きゃっ」
母さまが何か言う前に、ほとんど目を血走らせた父さまが押し倒した。
「僕が・・・・・・、僕も悪かったんだ。僕がもっと男らしければ、僕がもっと毅然としていれば・・・・・・! ごめん、ごめんよロナ・・・・・・」
「そ、そんな、悪いのは私で・・・・・・、って、ま、待ってクラウス。ちょ、ちょっと」
謝罪しつつも、父さまはいつの間にかてきぱきと母さまの服を剥ぎ取っていた。いつもの鈍臭い手際とは違う、その積極性と器用さにあたしも舌を巻く。
「ま、待ってってば、クラウス。さ、流石にここで、はっ・・・・・・。ヘレナが、ヘレナが見てるから・・・・・・っ!」
ぐっしょぐしょになったショーツを脱がされながら、母さまが最後の抵抗を試みる。だがそこにいたのは絶対の膂力と魔力を誇り人間を支配するヴァンパイアなどでは、既になくて。
理性も、知識も、筋力も、矜持もとろとろに溶かされた、普通の人間以下の力しか持たないひとりの女だった。
「ごめん、我慢できない――」
「待っ――――ぁ、く、ひぃぃぃぃぃぃぃぃっ♪♪」
普段の物腰からは考えられないような猛々しい肉槍が、準備万端の母さまの蜜坪に突き入れられた。挿入の瞬間、母さまはまるで白木の杭でも打ちこまれたかのように苦悶の表情でうわずった悲鳴をあげた。
だが二突き目には、苦鳴はすでに快楽に変わった。
「あっ、ぐ、く・・・・・・、久々だから、ロナの膣内、すご・・・・・・っ」
「ぅぁぁぁああっ♪ えぐっ、ぇぐられへるっ♪ ひもちぃいとほぜんぶ、クラウスのペニスにえぐられてるのぉぉッ♪」
「ロナ、大丈夫・・・・・・、か? 痛くないか・・・・・・くぅぅっ」
「じぇんぜんっ、いらく、ないよぉぉっ・・・・・・! もっと、もっとついれ・・・・・・っ、クりゃウスのぶっとい槍で、わらしのこと串刺しにしてえええぇぇぇっ♪」
いつもの落ち着いた、険のあるものとは違う高周波な母さまの喘ぎ声。それを聞いていると、ふとあたしの脳裏にまた新しいイタズラが思い浮かんだ。
「あらあら母さまったら。まるで超音波みたいに叫んじゃって。さながらコウモリね。発情しきった、獣欲に染まった――この、メス蝙蝠」
さしもの母さまも、この罵倒にはかちんと来たらしい。
「ちっ、ちらうぅぅ。わた、わらしは、夜の眷属だ・・・・・・、誇り高い、夜のひぇんぞくなんだぁぁ・・・・・・ッ♪」
前後不覚になっているくせに、自分の種に対する軽蔑だけは許せないらしい。血に刻まれた、というやつなのだろうか。
それが――もっとあたしの嗜虐心に火を点けるとも知らないで。
「へえ、まだそんな口を聞いちゃうんだ? これはもう一度・・・・・・」
高々と、あたしは右手を掲げた。狙いは――
「オシオキだねっ」
スパァァンと小気味良い音とともに、あたしの平手が母さまの尻たぶを引っぱたいた。勿論、ただのビンタじゃあない。ダンピールの魔力を込めに込めた、渾身のスパンキングだ。
「ふ、ぇ――――――――?」
母さまが一瞬、呆然としながら総毛立った。そして――
「うっ、は、♪ ぁ、きゃぁぁはアあぁアあぁあぁぁあぁああぁあああぁああっ♪♪♪」
剥き出しの臀部から全身を経由して、魔力が波紋のように殺到した。
それは確かに、電気信号が伝える叩かれたことによる痛みだった。だがそれを書き換えるように、ダンピールの魔力が脳内を快楽に塗り潰すのだ。
つまり――
「どうしたの、母さま? お尻ぺんぺんされるのがそんなに気持ちいいの? ならもっと・・・・・・、してあげるっ。ほらっ、ほらっ・・・・・・、ほらぁっ・・・・・・!」
パン、パン、パァンと乾いた音がリズミカルに響く。
「痛・・・・・・ッ、ぁ、ァあは・・・・・・ッ!? なに、こ、れ・・・・・・っ♪ 痛い、いらい、の、に・・・・・・ッ、きもひ、いいのぉ・・・・・・♪ 知らない、こんなの知らないぃぃぃっ♪」
痛覚と密接にリンクした、まったく新しい快楽。痛みに身を震わせれば震わせるほど、屈辱を感じれば感じるほど、精神と裏腹に母さまの身体は喜悦するのだ。
充血した尻たぶが頬と同じくらい赤く染まる頃には、舌を出しただらしない表情で獣欲を貪っていた。
そしてその間も、父さまのスクロールは続いている。
「う、ぐ・・・・・・ッ、ロナの膣内、叩かれるたびにすごい締まる・・・・・・!」
「ダメ、これらめぇっ♪ ゆるひて、もう許してぇっ、こんなの知ったらわらひ、駄目になっちゃうぅ! 虐めてもらわなきゃ満足できにゃい、だめ吸血鬼になっちゃうよぉほおぉっ♪」
「いいじゃない母さま、堕ちちゃえば♪ ほら・・・・・・っ、母さまは何? 自分の口で、自分の意志で答えてよ。母さまはお高く染まった、誇り高いヴァンパイア? それとも――」
「メス蝙蝠でしゅぅぅぅ♪ 貴族とか、血統とか、プライドとかぁぁっ♪ そんなのもうどうでもいいっ! クラウしゅのおちんぽ大好きな、わらひは浅ましいメス蝙蝠なのぉぉぉっ♪」
「よく言えまし――たっ!」
「くひぃぃぃぃィィィィッ♪」
ひときわ濃厚な魔力をもって、獣の期待に応えてあげる。実の娘に尻を折檻されて、母さまはよだれを垂らして悦んだ。
お仕置きは、すでにご褒美に変わっていた。
「ロナ、ヘレナ・・・・・・、僕、も、う、射精そう・・・・・・くぅっ」
官能的な痴態と絡みつく膣肉の相乗によって、父さまもついに限界を迎えようとしていた。見れば男根はすでに痛々しいほどバキバキにさせて血管を浮かび上がらせている。
「それじゃ――そろそろ、トドメといこっか」
「あ、ぁ・・・・・・、いいよ、きて、来て・・・・・・。血よりも美味しくって、熱くて、濃厚なクラウスの精液、生意気ばっかいっへた淫乱メス蝙蝠の子宮に、思いっきり注ぎこんでぇぇぇッ!」
「射精す、射精すぞ・・・・・・っ、ロナ、好きだ、ロナァァァ・・・・・・ッ!」
今日いちばんの威力のスパンキングと最も深い挿入が噛み合って、複雑にうねった膣肉に抱かれたまま、父さまの男根からインキュバスもかくやという激しい吐精が母さまを襲った。
「――――っはアアああああっ♪♪ きたきたきたぁぁっ、クラウスに、クラウスのものに、わらしされてるのっ♪ 幸せ――幸せだよおおぉぉぉ♪」
おとがいを反らせ、指という指はぴんと張り詰め、全身を痙攣させて慶びを表す。魂がすっ飛んでいきそうな浮遊感に負けないために、イきながらも――いや、イってからも、父さまにしがみつく腕は決して弱めない。
そこには今までの高慢ちきな素直になれない母さまは、すっかりいなかった。
「あぁ・・・・・・、ああぁ・・・・・・、きもち、よかった、ぁ・・・・・・っ♪ なんだか、嘘みたい。夢なんじゃないかって、そんな、感じ・・・・・・」
「夢じゃ――夢なんかじゃ、ないさ。疑うなら、明日もまたしよう。ううん、あさっても、しあさってだって。これからは毎日、ずっと一緒だ。もう絶対、きみを離さない」
「ずっと、毎日・・・・・・? 毎日こんな、愛してもらえるの・・・・・・? あ、あハァ・・・・・・♪ そ、想像しただけで、またお股、濡れてきちゃったぁ・・・・・・」
「ロナ・・・・・・」
「クラウス、好きぃ・・・・・・っ」
肩で息をしながらも、覆い被さったふたりは唇を貪り始めた。それは獣のキス――だが、世界でいちばん倖せなケモノたちの愛交だった。
これにて一件落着。
あたしはこれ以上ない満足を感じながら、我慢しきれず二回戦に突入した母さまたちを置いてダイニングを後にした。
だって――子供はもう、眠る時間だったから。
「お幸せに、ね♥」
「まったくお前は、こんな簡単な作業に何時間かけるつもりだ。まるで陸亀が服を着て歩いているような男だな」
愛すべき夫にいつもいつも横柄で傲慢な母さまが嫌いだ。
あたしは父さまが嫌いだ。
「あははは・・・・・・。いやあ、その、お嬢さま・・・・・・、面目ないです」
邪険に扱われようと言い返せず、へらへら笑ってばかりいる父さまが嫌いだ。
その日の夕食も苦痛だった。今日も今日とて母さまは、卓を挟んで八つ当たりのようにお小言を投げつけていた。あたしは冷めた目と心でもってそれを聞き流しながら、トマトジュースと胸の中のドロドロしたものを飲み下していた。
だが今日は、運悪いことに矛先があたしにまで向いた。
「ヘレナも気をつけろ。我々貴族にとって、夫とは最も重要な選択。頼むからお前は私のように、うだつの上がらないダメ亭主を捕まえてくれるなよ」
「あ、あははは・・・・・・」
ぴしり――という、ひびの割れる感覚がした。ジュースのグラスか、あるいは胸中か。
「・・・・・・ぅ、・・・・・・ぃゃ――」
だからあたしは、うつむいたまま呟いた。聞き取れなかった母さまが、怪訝な顔でこちらを向いた。
「――もう、うんざりなのよ。くだらない母さまも、みっともない父さまも」
年端も行かぬ小娘に反抗されていることに、そこでようやく母さまも気付いたらしい。顔を赤くして、椅子を蹴立てて大声をあげる。
「母親に向かってその口の利き方は何だ! お前は――」
「黙りなさい」
ぴしゃりと、まるで判を押したように静かになった。見れば母さまが、自分の喉を押さえながら金魚みたいにぱくぱくしている。
「・・・・・・? ・・・・・・ッ!?」
声にならない息を吐き出しながら、母さまは信じられないものを見るようにあたしに怯えていた。一方父さまは、どうしたらいいかわからずいつも通りあたふたしている。
「今まで我慢してきたけど、もう限界。もう辛抱できないの、母さまにも父さまにも・・・・・・。あ、もう喋っていいよ」
その間にもあたしは悠々と、慌てる母さまの眼前に歩み寄る。母さまの視線が徐々に、混乱から敵意を含んだものに変わっていく。
「ぷはっ・・・・・・。ヘレナお前、まさか、ダンピー・・・・・・――くっ!」
分が悪いと判断したか、ドレスを翻し母さまは一目散にダイニングから脱出を試みる。
だが、扉に手をかけることはできない。いやそれどころか、一歩だって進むことはできなかった。
「か、身体が、うごかな・・・・・・?」
「どこに行くの?」
あたしが燭台から伸びる母さまの影を、ヒールで踏みつけているからだ。それだけで、母さまは指一本動かせなくなったのだ。
「まだ話は済んでないわ。立ち話もなんだし・・・・・・、そうね、母さまも座ってよ――そこの床にね」
顎でしゃくって示すあたしに、さしもの母さまも貴族の矜持の琴線に触れたらしい。並みの魔物なら眼光だけで殺せかねない迫力で、声を荒げた。
「ふっ、ふざけるな! この私を、誰だと思っている! 私は夜の王者、私は――」
「いいから――跪きなさいって言ってるでしょう!」
「――っは、はいぃっ!」
あたしに怒鳴られると、母さまはまるで叱られた子供のような従順さを見せた。これではどちらが母娘か、わかったものじゃない。
「へ、ヘレナ。もうそれくらいで・・・・・・、ロナお嬢さまもそんな――」
「父さまは黙っててっ!」
「――はいっ!」
一喝すると父さまも従った。ちなみにこちらは、ダンピールの魔力とは関係ない。
「嘘だ、嘘だ・・・・・・。こんな、私は・・・・・・」
掃除の行き届いた床にぺたりと座り込んで、母さまは呆然としていた。だが、まだ全然終わりじゃない。あたしは人差し指で、母さまの顎を持ち上げてこちらを向かせる。
「母さま、あたしの目を見て・・・・・・」
「い、イヤだ、ダメだ・・・・・・。ヘレナ、やめてくれ・・・・・・!」
聞く耳など持つわけない。まっすぐ見据えた眼球を通して、あたしはダンピールの特大の魔力を叩きこむ。
「うあああぁぁぁぁっ♪ あぁぁっ、あはぁぁっ♪」
目は口ほどにものを言う。
ヴァンパイアである母さまはあたしの言霊に逆らえないのと同様に、見つめられただけで理性を削るように奪い取られるのだ。魔物の優れた聴覚が、秘所からくちゅりと音が鳴ったのを耳聡く聞き取る。
「触れられてすらいないのに、もう濡らしちゃったの? 母さまったら淫乱」
「や、やめてくれぇっ、み、見ないでくれっ♪ そんな魔力送られながら蔑んだ目で見られたら、わ、わたし――あぁっ♪」
涙で目を潤ませながら身悶える母さま。決して視線を逸らさないまま、優しい口調であたしは語りかける。
「母さまに質問があるの」
「しつ、もん・・・・・・・・・・・・?」
「身構えなくても大丈夫だよ。今からいくつか訊くから、母さまはそれに嘘偽らず答えるの。できるよね?」
「ぅ、く――――」
実の娘の掌中で踊らされるのが、気に食わないらしい。けれど、だからといって打開策もない。
「まず一つめ。母さまはどうやって父さまと知り合ったの?」
「それは――気まぐれに街に夜の散歩に行って、そこで・・・・・・。家族を失って行く当てがなかったクラウスを、不憫に思って、それで・・・・・・」
「血を吸ったの?」
「だって、クラウスってば、ひどい怪我をしてて。その匂いが、その、とっても、美味しそうだったから・・・・・・っ」
まるで火が出そうなくらい母さまの顔が真っ赤になる。それはきっと、魔力による発情のせいだけではない。
ごくり、と父さまが生唾を飲む音が聞こえた。
「ふうん、それで屋敷にお持ち帰りしたんだ・・・・・・。じゃあ次、父さまとは今までどれくらいセックスしたの? あたしを産んだってことは、吸血だけじゃなく人間の父さまとシたんでしょう?」
「・・・・・・か、数えるほどしかしていない。ほ、本当だ、信じてくれ。・・・・・・我々ヴァンパイアは、下賤な人間と軽々しく身体を重ねるべきではないんだ」
嘘は――ついていないようだ、力説している。あたしからすれば笑っちゃう差別意識だが、母さまにとっては信念なのだろう。
「なら・・・・・・、いちばん大事な質問ね」
「母さまは父さまのこと、好き?」
その質問は劇的だった。今まで夢に浮かされていたような母さまの目が、急に理性を取り戻す。意固地になった――とも言う。
「す――好きなわけがないだろう! こんな十何年血を吸い続けてもインキュバスにもなれない、下等で、鈍くさい、日和見で、頼りない男のことなどっ! 私は――私は、クラウスなんて、大っ嫌いだ!」
この期に及んで――本当にこの期に及んで、だ。
母さまはまだこんなことを言っている。あたしは嘘をつくなって言ったのに。だから――――
「オシオキ、ね」
「な、何をするヘレ・・・・・・ンむぅぅっ!?」
あたしは顎を掴む指に力を込めると、狼狽する母さまの唇を無理やり奪った。そしてそのまま舌の先端が、母さまの舌の腹を踊るように蹂躙する。
「ん――ッ! ん――〜〜〜〜ッ!?」
「あむ、ぷちゅ、くちゅ、んちゅちゅっ、ん、ぁん、えろ、くちゅ、ちゅ――」
息継ぎなんてさせない。吸血鬼は十分だろうと二十分だろうと、窒息なんてしないからだ。
だがそれは、ダンピールの魔力のたっぷり詰まった唾液を飲まなくて済む理由にはならない。
「んぐっ、う、ぅぐ――・・・・・・・・・・・・んんん〜〜〜ッ!♪?」
「んああ、ぺろ、ぅちゅ、ぐ、ちゅろっ、ぇろ、んふ、んふふふっ♪」
初めはあたしの肩を掴んで抵抗していた手の力も、とっくにへろへろになっていた。
だがどんなに屈辱的でも、歯を食いしばることも目を閉ざすこともあたしに許してもらわなければ母さまはできないのだ。
「ぷはっ――・・・・・・うふふ、良い顔になったんじゃない?」
「ぁ・・・・・・――、は、ぁ・・・・・・――――」
紫外線を知らず真っ白だった母さまの頬は、今はしかし林檎のように赤くなっている。まるで童女のよう・・・・・・、そう、恋をした、人間の少女のようだ。
とろりとした表情で、呼吸なんて必要ないくせに荒い息をついている。
もう完全に出来上がっていた。その証拠に、
「ふぅっ・・・・・・♪」
耳に吐息をかけてやるだけで――
「んひぃぃぃぃぃぃっ♪」
「うそ、嘘、ウソ――――母さまの言葉は嘘ばっかり。本当に父さまが嫌いなら・・・・・・ねえ、答えてよ。それならどうして、この屋敷には他に使用人がひとりもいないの?」
「そ、それは・・・・・・」
「怖かったんでしょ、他の女中に父さまを取られるのが。恐ろしかったんでしょ、父さまが母さま以外を選べる環境が。だから追い出した。怒ってばっかのくせに。何も与えないくせに。自分は父さまから選択肢を奪ったんだ」
普段の母さまなら、きっともっと高慢に言い返せるのだろう。けど、今は違う。
「卑怯な女だね、母さま」
「・・・・・・ぅっ、ふぐっ、ぅ、ぅぇぇ、ぅぁぁあああ――」
心の堤防にもついに限界が来たか、恥も外聞もなく泣き出してしまった。貴族、貴族と口を酸っぱくしてあたしに語ったプライドは、粉々に打ち砕かれてしまった。
「よしよし、泣かなくていいんだよ母さま」
「うぅ、ごめんなさいっ、ごめんなさいぃぃ・・・・・・っ」
「・・・・・・もう、母さまったら。謝る相手が、違うんじゃないの? ほら」
あたしはあやしながらも、泣きじゃくる母さまの視線を誘導してやる。
そこには父さまが、母さまに負けず劣らず息を荒くして立ち尽くしていた。母娘の色事を目の当たりにした背徳感によるものか、ズボン越しでもわかるほどその男根は張り詰めているのがわかった。
「はぁっ、はぁっ・・・・・・、お嬢さま・・・・・・、いや、ロナ、ロナ――――!」
「く、クラウ――きゃっ」
母さまが何か言う前に、ほとんど目を血走らせた父さまが押し倒した。
「僕が・・・・・・、僕も悪かったんだ。僕がもっと男らしければ、僕がもっと毅然としていれば・・・・・・! ごめん、ごめんよロナ・・・・・・」
「そ、そんな、悪いのは私で・・・・・・、って、ま、待ってクラウス。ちょ、ちょっと」
謝罪しつつも、父さまはいつの間にかてきぱきと母さまの服を剥ぎ取っていた。いつもの鈍臭い手際とは違う、その積極性と器用さにあたしも舌を巻く。
「ま、待ってってば、クラウス。さ、流石にここで、はっ・・・・・・。ヘレナが、ヘレナが見てるから・・・・・・っ!」
ぐっしょぐしょになったショーツを脱がされながら、母さまが最後の抵抗を試みる。だがそこにいたのは絶対の膂力と魔力を誇り人間を支配するヴァンパイアなどでは、既になくて。
理性も、知識も、筋力も、矜持もとろとろに溶かされた、普通の人間以下の力しか持たないひとりの女だった。
「ごめん、我慢できない――」
「待っ――――ぁ、く、ひぃぃぃぃぃぃぃぃっ♪♪」
普段の物腰からは考えられないような猛々しい肉槍が、準備万端の母さまの蜜坪に突き入れられた。挿入の瞬間、母さまはまるで白木の杭でも打ちこまれたかのように苦悶の表情でうわずった悲鳴をあげた。
だが二突き目には、苦鳴はすでに快楽に変わった。
「あっ、ぐ、く・・・・・・、久々だから、ロナの膣内、すご・・・・・・っ」
「ぅぁぁぁああっ♪ えぐっ、ぇぐられへるっ♪ ひもちぃいとほぜんぶ、クラウスのペニスにえぐられてるのぉぉッ♪」
「ロナ、大丈夫・・・・・・、か? 痛くないか・・・・・・くぅぅっ」
「じぇんぜんっ、いらく、ないよぉぉっ・・・・・・! もっと、もっとついれ・・・・・・っ、クりゃウスのぶっとい槍で、わらしのこと串刺しにしてえええぇぇぇっ♪」
いつもの落ち着いた、険のあるものとは違う高周波な母さまの喘ぎ声。それを聞いていると、ふとあたしの脳裏にまた新しいイタズラが思い浮かんだ。
「あらあら母さまったら。まるで超音波みたいに叫んじゃって。さながらコウモリね。発情しきった、獣欲に染まった――この、メス蝙蝠」
さしもの母さまも、この罵倒にはかちんと来たらしい。
「ちっ、ちらうぅぅ。わた、わらしは、夜の眷属だ・・・・・・、誇り高い、夜のひぇんぞくなんだぁぁ・・・・・・ッ♪」
前後不覚になっているくせに、自分の種に対する軽蔑だけは許せないらしい。血に刻まれた、というやつなのだろうか。
それが――もっとあたしの嗜虐心に火を点けるとも知らないで。
「へえ、まだそんな口を聞いちゃうんだ? これはもう一度・・・・・・」
高々と、あたしは右手を掲げた。狙いは――
「オシオキだねっ」
スパァァンと小気味良い音とともに、あたしの平手が母さまの尻たぶを引っぱたいた。勿論、ただのビンタじゃあない。ダンピールの魔力を込めに込めた、渾身のスパンキングだ。
「ふ、ぇ――――――――?」
母さまが一瞬、呆然としながら総毛立った。そして――
「うっ、は、♪ ぁ、きゃぁぁはアあぁアあぁあぁぁあぁああぁあああぁああっ♪♪♪」
剥き出しの臀部から全身を経由して、魔力が波紋のように殺到した。
それは確かに、電気信号が伝える叩かれたことによる痛みだった。だがそれを書き換えるように、ダンピールの魔力が脳内を快楽に塗り潰すのだ。
つまり――
「どうしたの、母さま? お尻ぺんぺんされるのがそんなに気持ちいいの? ならもっと・・・・・・、してあげるっ。ほらっ、ほらっ・・・・・・、ほらぁっ・・・・・・!」
パン、パン、パァンと乾いた音がリズミカルに響く。
「痛・・・・・・ッ、ぁ、ァあは・・・・・・ッ!? なに、こ、れ・・・・・・っ♪ 痛い、いらい、の、に・・・・・・ッ、きもひ、いいのぉ・・・・・・♪ 知らない、こんなの知らないぃぃぃっ♪」
痛覚と密接にリンクした、まったく新しい快楽。痛みに身を震わせれば震わせるほど、屈辱を感じれば感じるほど、精神と裏腹に母さまの身体は喜悦するのだ。
充血した尻たぶが頬と同じくらい赤く染まる頃には、舌を出しただらしない表情で獣欲を貪っていた。
そしてその間も、父さまのスクロールは続いている。
「う、ぐ・・・・・・ッ、ロナの膣内、叩かれるたびにすごい締まる・・・・・・!」
「ダメ、これらめぇっ♪ ゆるひて、もう許してぇっ、こんなの知ったらわらひ、駄目になっちゃうぅ! 虐めてもらわなきゃ満足できにゃい、だめ吸血鬼になっちゃうよぉほおぉっ♪」
「いいじゃない母さま、堕ちちゃえば♪ ほら・・・・・・っ、母さまは何? 自分の口で、自分の意志で答えてよ。母さまはお高く染まった、誇り高いヴァンパイア? それとも――」
「メス蝙蝠でしゅぅぅぅ♪ 貴族とか、血統とか、プライドとかぁぁっ♪ そんなのもうどうでもいいっ! クラウしゅのおちんぽ大好きな、わらひは浅ましいメス蝙蝠なのぉぉぉっ♪」
「よく言えまし――たっ!」
「くひぃぃぃぃィィィィッ♪」
ひときわ濃厚な魔力をもって、獣の期待に応えてあげる。実の娘に尻を折檻されて、母さまはよだれを垂らして悦んだ。
お仕置きは、すでにご褒美に変わっていた。
「ロナ、ヘレナ・・・・・・、僕、も、う、射精そう・・・・・・くぅっ」
官能的な痴態と絡みつく膣肉の相乗によって、父さまもついに限界を迎えようとしていた。見れば男根はすでに痛々しいほどバキバキにさせて血管を浮かび上がらせている。
「それじゃ――そろそろ、トドメといこっか」
「あ、ぁ・・・・・・、いいよ、きて、来て・・・・・・。血よりも美味しくって、熱くて、濃厚なクラウスの精液、生意気ばっかいっへた淫乱メス蝙蝠の子宮に、思いっきり注ぎこんでぇぇぇッ!」
「射精す、射精すぞ・・・・・・っ、ロナ、好きだ、ロナァァァ・・・・・・ッ!」
今日いちばんの威力のスパンキングと最も深い挿入が噛み合って、複雑にうねった膣肉に抱かれたまま、父さまの男根からインキュバスもかくやという激しい吐精が母さまを襲った。
「――――っはアアああああっ♪♪ きたきたきたぁぁっ、クラウスに、クラウスのものに、わらしされてるのっ♪ 幸せ――幸せだよおおぉぉぉ♪」
おとがいを反らせ、指という指はぴんと張り詰め、全身を痙攣させて慶びを表す。魂がすっ飛んでいきそうな浮遊感に負けないために、イきながらも――いや、イってからも、父さまにしがみつく腕は決して弱めない。
そこには今までの高慢ちきな素直になれない母さまは、すっかりいなかった。
「あぁ・・・・・・、ああぁ・・・・・・、きもち、よかった、ぁ・・・・・・っ♪ なんだか、嘘みたい。夢なんじゃないかって、そんな、感じ・・・・・・」
「夢じゃ――夢なんかじゃ、ないさ。疑うなら、明日もまたしよう。ううん、あさっても、しあさってだって。これからは毎日、ずっと一緒だ。もう絶対、きみを離さない」
「ずっと、毎日・・・・・・? 毎日こんな、愛してもらえるの・・・・・・? あ、あハァ・・・・・・♪ そ、想像しただけで、またお股、濡れてきちゃったぁ・・・・・・」
「ロナ・・・・・・」
「クラウス、好きぃ・・・・・・っ」
肩で息をしながらも、覆い被さったふたりは唇を貪り始めた。それは獣のキス――だが、世界でいちばん倖せなケモノたちの愛交だった。
これにて一件落着。
あたしはこれ以上ない満足を感じながら、我慢しきれず二回戦に突入した母さまたちを置いてダイニングを後にした。
だって――子供はもう、眠る時間だったから。
「お幸せに、ね♥」
15/04/20 04:15更新 / メガカモネギ