連載小説
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第十話

「や、約束?」

「うん。 あの時の、ふたりだけのお約束」



覚えがある。 確かに言った。

自分は、ソヨと。



「覚えてる、よね」

「ああ、忘れてなんか。俺、確かに言った。

いつか、ソヨ姉ちゃんを嫁にもらうって」

「え?」



― ソヨ姉ちゃん、おいらだって、わかってるよ。
    みょうと
 これ、夫 婦 がすることだろ?

 夫婦じゃなきゃ、しちゃいけないことだろ・・・?



― おいら、ソヨ姉ちゃんと、かならず夫婦になる。

 まだちっちゃいけど、ぜったい、ぜったい。

 ソヨ姉ちゃんを嫁にするから・・・



「俺、姉ちゃんとそう約束したんだ」

「そうだった、よね。 うふふ」


ソヨはにこにこと笑い、勘介をさすった。

確かに覚えがある。

この光景に、この情景に。



ざ、ざ、ざ 。


ちっち。 ちちち ちっ・・・



格子戸から漏れる木漏れ日。

葉擦れ、鳥の声。

ここは権現さまのやしろの中。


けれど、あのときここにいたのは ―



― 勘介、まだなんだって?

 ・・・あたしじゃ、嫌かい?



「カンちゃん。 こういうの、はじめて?」

「えっ?」

「まだ、したこと、ない?」

「あ、あっ、まだ・・・」



話には聞いていた。 だが、まだちゃんとしたことはない・・・

いや、そんなはずはない。 もうとっくのとうに。



「あれ?」


ソヨがすりよせているおのれのものが、妙に小さい。色も淡い。

自分の手も、からだも、声も、みな細くなっている。


「あ、あれ? いったい・・・」


・・・いや、違う。 自分の体もものも、そんなに大きくはない。

細く小さいとからかわれている。



「あ、あれ、あれっ・・・」

「まだ、なんだ。 ふふっ」


何か忘れているような、思い出したような、わけのわからない心もち。

ソヨは勘介の戸惑いにかまうことなく、妖しい目つきを上向きにする。


「じゃあ、ソヨが、たしかめてあげるね」

「たしかめる?」
              ・ ・ ・
「うん。 カンちゃんが、ちゃんとできるかどうか」


ソヨは勘介のそれの、のどもとをくいと握った。


「・・・んっ」

「ソヨ、カンちゃんに悦くしてもらったでしょ」

「あ、ああ」

「おんなのひととおなじように、男の人も、

さわられると悦くなっちゃうのよ」

「そ、そうなのか?」

「そう。 そしてね、悦くなってね、子だねが出るの」

「・・・子種、か」

「うん。白いおしっこみたいなのが、ぴゅって」


ソヨは勘介をやさしくしごきながら、いつもの調子で丁寧に教えてくれた。

ソヨ姉ちゃんはいつもこうやって、いろんなことを教えてくれる。


「それが出ないとね、子供ができないのよ。だからソヨが、たしかめてあげる。

カンちゃんがちゃんと、あかちゃん、つくれるかどうか・・・」

「え、そんな」

「ソヨじゃ、いや?」


勘介はしっかりとかぶりを振った。

嫌だなんてそんなこと、あるもんか。

ソヨはにこりと笑い、勘介の先端を、小さな唇で咥えた。

ちろちろと紐のように細く長くとがった舌が先を這い、鈴口をいじる。


「う、あっ! はっ・・・」


舌の動きに合わせ腰が跳ねる。声が漏れる。



「すごいよ、カンちゃんのここ。 こんなにも熱いよ、固いよ」



― すごい。 あんたの、こんなにも熱いよ。 固くなってるよ。



先ほどから頭の中に、だれかがちらちらと映り消えする。

だがそれも、ソヨの手と舌の前にかき消されてしまう。

ソヨはぱくりと勘介を咥え、唇と舌でしごきあげる。



ちゅぶ、ちゅぶ。 くちゅる、じゅぷ。



はじめての感覚に、声が漏れ、からだがひくつく。

ソヨはぷはっと息継ぎに口を外し、勘介に問いかけた。


「きもちいい? ねえ、きもちいい?・・・いたいの?」


勘介は答えない。


「ちがうの? ねえ、きもちよくないの?!」


なお、答えない。 歯を喰いしめている。


「きもちいいって、いって! おねがい、カンちゃん!」


口が開かない。 顔が熱くなる。


「きもちいいっていって! ソヨに、おちんちんさわられて、

たまらなくなっちゃったっていって!!」



その言葉が終わらぬうちに、勘介は跳び起きた。

からだをめぐらせ、ソヨの腰をつかむ。


「・・・あっ」


震える手で裾をはらい、腰巻をめくる。

あのときとおなじ、ぷっくりとまるく重ねられた砂糖菓子。

ふたつのまるみが重ねられたその間から、ひとすじの露がこぼれている。


「や、やだ。 カンちゃん」

「ソヨ姉ちゃん・・・!」


勘介は夢中になって、ソヨの腰を抱き、自分の顔をソヨにうずめた。

砂糖菓子をしゃぶった。 重ねてあった皮を開いた。

赤い果肉を押し広げ、露を吸った。



「あ、あ、やだ。 ソヨは、ソヨはいいのに・・・」

「姉ちゃんの、こんなに熱い。こんなにあふれてる・・・」

「あ、やだ、ダメ。 そんなこと、いわないで、カンちゃん・・・

か、かんすけ、さんっ・・・」



― あ、や、やだ。 そんなこと、言わないで。

 あっ、勘介、さん・・・


またなにかがちらついた。

だがもう、構っていられない。

勘介は必死にくぼみを吸って、しこりをしゃぶった。



ちゅぷ、ちゃぷ、こり、れろ。

じゅる、すり、こり こり こり ・・・


ふたりは夢中になってお互いを吸った。

だんだん、ソヨの口が勘介を咥えられなくなっていく。

勘介は口の周りも、鼻まで露で濡らしてソヨを味わっている。

勘介の口や鼻が触れるたび、抑えきれぬ声が漏れて口が外れてしまう。


「あ、あ、あ。 ダメ」

「ソヨ姉ちゃん、おれだって知ってるんだ。

おれのこれを、ここにいれて、子種を出すんだろ」

「・・・え」

「・・・おれ、いまはまだ、できない。 子どもはつくれない。

みんなに、迷惑かけちまうから。 父ちゃんにも、叔父さんにも。

ソヨ姉ちゃんにも、ハヤテ姉ちゃんにも、シマキ姉ちゃんにも・・・」

「・・・カンちゃん」

「でも、おれ、いつか、ソヨ姉ちゃんを嫁にもらう!

ちゃんといっしょになって、子どもつくるよ!

だから、悦くなって! ソヨ姉ちゃん・・・」



「ソヨっ!!」


           そよ
この日初めて、勘介は、 戰 の名を呼び捨てた。

既にソヨより丈が伸びて、おとなびもしていたけれど、

ずっとソヨを姉と呼んでいた。

それをこの日、捨てた。



「カンちゃん! ああ、カンちゃん!」

「ソヨ、ソヨっ! 好きだ、ソヨ!」

「あたしも! あたしも大好き、かんすけさあんっ!」



ソヨの体が大きくしなり、太ももが勘介の頭を挟みこむ。

そして限界までしなったからだが、ばねのように巻き戻った。



「あ、ああっ! ダメ、ダメぇーーーーっ!!」



この日ソヨは、生まれて初めて、人の手で果てた。

最後はただ握られていただけであった勘介も、

ソヨの叫びとともにほとばしった。





― ありがとね、カンちゃん。 ソヨ、嬉しかった。

 今日から、カンちゃんのほうが、ソヨのおにいちゃんだからね?


― でかくなったお前に姉ちゃんって呼ばれんの、照れくさかったんだからな?

 今日からお前は、あたしの兄貴分。 あたしがあんたの、かわいい妹さ。



勘介はふたたび、まどろみのなかに沈んでいく。

どこかからか、ソヨと、誰かの声が聞こえた。



―よかった。 約束、守ってたんだけど。
          ・
 でも、やっぱり、ソヨでしたかったから。



― 勘介。

― カンちゃん。


― いつかきっと、今日の続き、しような。

― いつかきっと、きょうのつづき、しようね。





― あたしたち、待ってる。 ずっと待ってるから ―






17/10/07 19:14更新 / 一太郎
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