読切小説
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明日もまた見てほしいから


「あなたこんな所で何してるの?」



「…………」

「ねぇ、聞こえてる? そんな所に座って、うっかり転落したらどうするの?」

「サキュバスか……。羽ばたきがうるせえぞ。別にいいだろ、何をしてたって」



「住んでるわけじゃないわよね? ここが時計塔だったのも昔の話、今は上層撤去済の半端な塔よ?」

「知ってるさ。俺には似合いの場所だろう……おい、そこに立つな。下がよく見えないだろ」

「もー。浮いてても降りても文句言うの? じゃ、あなたの隣失礼するわね」

「おい……」



「あ、ちょっと。それ以上そっちに動くと落ちちゃうわよ? あなたそれが望みじゃないんでしょ?」

「俺を落とす事が望みじゃないなら、お前が身体二つ分下がれ」

「えー。せっかくなんだから、あなたの事もっと近くで見せてよ。これも何かの縁でしょ?」

「何の縁もねぇよ。俺を見るな。俺よりも、下を通る連中を眺めてた方がずっと面白いだろうに」


「へぇ、あなたは下を通る人を見てたんだ。見せて! もっとそっち……あ、ほんとだ、よく見える。」

「……おい、おい! 身体を寄せるな。そんなに下が見たいならこの場所は譲ってやるよ! おい!」

「あー! ごめんなさいね! わざとだけど?」

「めんどくさい性格しやがって……」

「あなたも性格めんどくさいでしょ? 人を眺めるのが趣味なくせに、自分が見られるのは嫌がって」

「何ニコニコ笑ってんだ。大きなお世話だ、俺だって拒否を示した奴をその後も眺め続けるつもりはねぇよ」

「わーこっそり見てるくせに自分勝手。でも、NGが出るまで見るのがオッケーって事なら、わたしがあなたを過去三日間見てたのも当然オッケーよね?」

「そんっ……。何だって?」



「もう一回聞きたいなら囁いてあげるから、もっとこっちに顔を寄せてね♪」

「……いらん。俺は今日はもう帰るから、そこをどいてくれ」

「どいてほしいなら、わたしの身体を引っ張り上げてね♪」

「両手を広げんな! ごねる子供か!」



「もう。そんなに嫌そうな顔しないでよ。頭まで抱えちゃって」

「誰のせいだと思ってんだ……」

「日も陰ってきたわね……じゃあ分かった、今日はわたしは帰るから。その代わり、簡単な約束を1つだけしてね」

「…………」


「こっち見るくらいしてくれてもいいじゃない? 簡単な約束よ。明日もまたここに来てねってだけ。あなたのいつも通りでしょう?」

「その約束を俺が守ると?」

「守らない人はここでそんなこと言わないのよ。だから貴方は大丈夫」

「ものの数分で俺の事を分かった気か?」

「三日間見てたんだけど?」

「…………」




「じゃあね! 明日はお弁当作ってくる!」




「……羽ばたき、やっぱうるせえな……。アイツ、飛ぶの下手なのか? 危ないから降りて歩けばいいだろうに……」
22/08/08 22:13更新 / マチハ

■作者メッセージ
会話だけSSは読みやすいと思ったので試しに書きました。

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