ヌーヨークという街、それもゴミゴミしたダウンタウンのボロアパートに住んで分かったことがある。俺の実家があった、ヌージャージーの寂れた町のが、幾分かノビノビできたってことだ。

　隣人は、いつもヤニとハッパの混じった煙でボヤを起こすクソと、下手くそなエレキと調子外れの歌で睡眠時間を削るアホしかいなかった。仕事は、バターコーヒーとマインドフルネスとは無縁、ウザい自己啓発はねえが時代遅れの上司と使えない新人と倉庫管理中のドブネズミが同僚だった。今じゃ懐かしささえ感じるよ。

　思い入れと憎悪がいっぱいのアパートを引き払った俺は、最低限4Gが繋がるようになったらしい故郷に凱旋した。「ただいま…」俺は、埃かぶったかつての住処にやってきた。"売家"の杭と、テープを剥がして。

　気の抜けたビールを呑むオヤジも、ピーナッツバターサンドを作ってくれたオフクロも一昨年死んじまってたんだったな。全く、誕生日祝いを買いにわざわざ二人揃って出かけなきゃよかったのによ。親戚もいない、知り合いや友達はみんな出ていったきり。俺だけのホーム…

　要らないもん全て売って、スマホとカードしかない財布くらいの荷物を置いて、カウチに寝転んだ。明日すぐに仕事を探さなきゃならない。どうしたもんか。ふと端末を見る。「…治験、レターパック運ぶだけ、運転するだけ…クソが」簡単な仕事に、手渡しで数百ドル…明らかな犯罪だろう。しょうもないものを見ると、疲れと眠気に襲われた。

　だから、俺は窓に付いた黒い手形に気づいてなかった。

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　久しぶりに日の光に起こされて、いい気分で起きた。嘘だ。カウチじゃ身体が硬い。でも、なんだか気が楽に目覚めた感じがある。実家のおかげか？俺は、カーテンを開けようとした。「…？」黒い、ゴムか？変なグーみてえなもんが、手のひらの形で…「指紋がない？」

　明らかに動物のそれではない。だが、人間にしては指紋も皺もない。まるで、グーでできた手を押し当てたみたいだった。異様な雰囲気を感じとり、俺はぼろ布で拭き取った。不気味だった。不安をぬぐい去るため、俺はトーストとミルクをかっこんだ。オフクロがいれば、フレンチトーストでもあったか、オヤジも朝飯は旨い厚切りベーコンとパンケーキ焼いてくれたな。

　より不安が増したところで、求人メールを見た。「…クソ、…サイアク…バカにしてんのか」段々とスワイプする速度が早まる。俺はため息ついて、グラスと皿をシンクに持っていった。蛇口を開けて、スポンジに洗剤を垂らしたところで、ピコンと携帯が鳴った。

俺は期待せずに、通知を確認した。「一攫千金！UMAの決定的な証拠を！」クソが…俺はスワイプしようとして、誤ってメールを開いちまった。「…ん。むむ？…えっ」俺は、思わず読み進めた。水の流れる音だけが、静かなキッチンに聞こえた。

　このメールを見たあなた。あなたは孤独だ。あなたは困窮している。だから届いた。もう大丈夫だ。わたしはUMAを探し求める。奴らは実在する。これらの写真が物証だ:

　「イカれスパムかよ…」だが、何だか俺の興味を惹き付ける。ウィルスの疑いのある添付ファイルだが、その時なぜかすぐURLをタップした。「…！？」それは刺激的だった。不明瞭な画像には、角や翼を生やした人型のナニカ、二足歩行の爬虫類、毛皮の人影等々。ブレや距離から、詳細は分からないが、どことなく女めいた姿をしていた。

　だが、俺が目を引かれたのは…角と手のような翼、細い手足、何より全身を覆うボディスーツのような黒い物体。見覚えがあった。さっき、布で拭き取った黒いグーだ。俺は、そいつを持ってきて見比べた。間違いない。ファイル名を確認した。「Jersey Devil…ジャージーデビルか」

　バカげてる。UMAなんざいるはずはない。だが、黒いグーは存在する。俺はメールを返信した。さっきの物体の写真を添付して。そして、3分もせずに再返信がきた。「あなたはヌージャージー州の◯◯郡△△タウンサイドにいますか？」何故この街が？俺はイエスを送った。

　「あなたはジャージーデビルの目撃多発地点の10マイル半径にいます。なんでもよいので、証拠を見つけて送ってください。ある程度信頼性が確保できたら、あなたと会いましょう。これは前金だ」前金？俺の口座も、所在地も知らないのにか？その疑問は、ドアベルにかき消された。「はーい！」

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「お買い上げありがとうございました。こちらお返しの…」「チップで取っといてくれ…」「は…はあ…しかし、こんなに？」「ああ…」俺は、ホームスーパーとカメラ屋で一式揃えた。

　レターパックで届けられた"前金"は、まだ懐に残っている。異様だ。送り主不明。だが、メールに「送金完了」と同じレターパックの写真があった。訳が分からない。だが、俺は衝動的に数日分の食料と暗視撮影カメラ等を買い込んだ。

　車を走らせ、メールにあった"最多目撃地点"へと向かう。待ち受けるのは、一体何だろうか？だが、心には滾るなにかがあった。鬱蒼とした森を進み、道が細まり入れなくなった。ここから、徒歩だ。
　
　俺は最低限の装備で、カメラのナイトビジョンと懐中電灯頼りで暗闇を進んだ。何かの鳥や、キツネだかアライグマだかの鳴き声、風に揺れる枝の音以外、俺の足音しかない。

　「何だこりゃ？」倒木に道を塞がれた。だが、それよりも木に付着したこれは。「黒いグー…」ジャージーデビルとやらは、木を倒すほどの化け物なのか？俺は歩を進めた。粘っこいナニカは、獣道を逸れた藪に続く。

　一時間は歩いたか。いつの間にか、生暖かい風が吹いてきた。懐中電灯の覚束ない光は、今や1ヤード先も闇を照らせていない。俺は、暗黒に溶けるような感覚に陥った。闇が力を増すごとに、黒い物体も増えていった。そして…「崖かよ…」道は途切れていた。

　UMAを探す好奇心がふと消えた。その瞬間、電波の通じぬ森の中にいる不安感に襲われた。俺がそそくさと、踵を返そうとすると、寒気がした。ゆっくり、首がねじ切れるほどにゆっくりと、後ろを振り返る。「…」いた。いや、あった。

　黒いグーが渦巻いている。それは、絶えず膨張と収縮を繰り返していた。俺の全身が強ばった。汗ばんだ手は、カメラをあれに向けた。沸騰する闇を撮影する…ナイトビジョン越しに見るそれは、人間のような質量を持つが、写真と違いくねくねと人体にあり得ない動きを繰り返す。

　数分、対峙は続いた。だが、一向に逃げも襲いもしない。俺は気が大きくなったのか、はたまたイカれたのか。一歩、もっと鮮明な画を求めて近づいた。反応無し。一歩、無反応…繰り返して、いつしか数インチの距離に。

　近づいて分かるが、やはり動きを無視すると、人間の女のように見える姿をしていた。全身を覆う黒いグーの上からでも、何となく体つきが…「なに考えてるんだ…」ご無沙汰とはいえ、化け物に欲情するとは、節操がない。だが、生暖かい風に身体を撫でられ、何だか変な気分になる。

　じろじろ見すぎたのか。いつの間にか、俺に近寄ってきた。顔や頭に見える部分を動かし、俺を品定めしているかのようだった。俺は、挨拶するように手を上げた。あいつは、一瞬首をかしげた。(目も口もない…角？が生えてら…)そして、鏡合わせに手を上げた。

　俺は更に大胆に手を近づけて見せた。あいつは同じように腕を動かした。遂に、互いの指が触れた。「うわっ！？その瞬間だった。あいつの指から、俺に黒い物体が侵食した。粘っこい闇は、俺の肌に突き刺さるように入り込み、手を、腕を飲み込んでいく。しかし、痛みはなかった。

　俺の身体に黒が増えるごとに、あいつの身体は粘液がなくなり、本体と思われる人型が出てくる。(顔は…かわいいな)混乱した脳裡に、悠長な感想が浮かんだ。体表の漆黒に反して、その素顔は病的に真っ白だった。

　いつの間にか、手を握られていた。「…アナタ、サミシイ？」「？」(you…lonelyとか言いやがったのか？)どう答えたものか。怪物の言葉に意味があるかはわからない。だが、実際に言われてみると、孤独なのかと認識した。「…寂しい」「…ワタシ、サミシイ」ジャージーデビルはそう答えた。

　あいつは同意と受け取ったのか、俺を掴み駆け出した。「おいっ！止まれよ！そっちは…」言いかけた時には、既に俺たちは、崖を越えていた。そしてまっ逆さま…とはならず。「！？」一瞬、内臓が重力に引っ張られる感覚に襲われ、すぐに浮かび上がった。隣を見ると、あいつは羽を広げていた。写真の通り、黒いグーの腕のような翼を。

　俺はジャージーデビルに抱き止められた。身体を密着させると、粘液ごしに相手の柔らかさを感じた。次に、顔同士が近づいた。全く表情が読めないが、その目には確かに意思があった。「うっ…」「フフ…」否応なく肌をつけると、どうしても反応してしまう。

　黒いグーは身体同士の接触により、更に侵食を強めた。あいつは腕を背中に回して、まさぐるようにした。脚を絡めて、腰をすりつけてきた。今や意図は明らかだった。だが、何より月明かりに照らされる彼女の姿に目を奪われた。

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　俺たちは、あいつの住処らしい洞窟に着陸した。岩肌に寝かされたが、粘液が下に敷かれたので寝心地はよかった。あいつは、着いて早々に俺の身体を弄り始めた。全身をマッサージするグーは繊細に、あいつの手や羽は大胆に蠢いた。

　あいつは俺にキスしてきた。舌を絡ませると、そこから口や鼻を粘液が侵食した。息苦しくはなかった。俺のモノは、粘液を掻き分けて持ち上がった。彼女は嬉しそうに笑った。(彼女…？笑った…？表情は動いてない…)俺の冷静な部分が警鐘を鳴らしたが、それもすぐ黒められた。

　我慢できなくなった俺は、彼女に抱きついた。明らかに、普段の俺の力ではない。彼女は抱き締め返した。手は背に回され、翼に包まれ、グーにより固定された。口づけは更に激しくなった。

　キスと並行して、粘液は俺のモノを扱き上げた。手でやるような繊細さで、胸でされるような重量と柔らかさで、アソコに入れた時のような暑さと湿り気で。俺はたまらず射精したが、グーは全てを飲み込んでいった。

　彼女と一頻り舌を楽しんで、名残惜しく唇を離した。次は何をしよう。彼女は身体を屈めて、俺のモノに顔を近づけた。その長い舌でまだ付着する精子を丁寧に舐めとった。その気持ちよさで、また硬くなっていく。彼女はにんまりと笑い、口に含んだ。

　俺は快感により、彼女の角を掴んでしまった。彼女は気にしていないようだった。俺は彼女に促した。その間も、翼やグーは全身を揉みしだいていた。舌が這い、頭を動かす度に身体の奥底から快楽が押し寄せた。俺はまた彼女の口に欲望を吐き出した。

　一旦、出るだけ出してみると、ふと自分のからだに付いた粘液が変な動きをしていることに気づいた。視線の先に集まるようにして、蠢いている。自分の手を見た。今度はそこにグーが集まった。

　俺は彼女を見た。彼女の股間は、粘液に混じり別のものが滴っているのが感じ取れた。俺のグーは、彼女に向かった。今度はこっちが気持ちよくしてやらねば。俺は、手に粘液を集めると彼女の下腹を撫でた。すると、黒い物体は中和されるように消え、柔肌が見えるようになった。　　

　俺は彼女の入り口を探った。小さく、狭いほらあなを見つけた。見るからに長くなる指を彼女のナカに入れた。その瞬間互いに纏わりつく、黒いグーに波が立った。どうやら感じてくれているようだ。俺は更に探索を続けた。内部は既に水浸しであった。

　俺は指を一本追加した。彼女のナカがうねるのが感じられた。俺の意思に従い、一部の粘液は彼女の口や胸を犯した。二人を取り巻くグーは、もはや荒れ狂う海のようだった。だが俺の心、彼女の心は、ただ互いに向いていた。

　指が三本になる頃には、既に大分ほぐれていた。俺のモノも準備万端になり、腰同士を突き合わせた。彼女のナカは、粘液よりも柔らかく、きつく、暖かく、馴染んだ。ともすると、最初からここが居場所だったかと錯覚する。

　もはや、彼女の顔は快感に歪んでいるのが見てとれた。俺は慎重に動かし、奥へ進んだ。突き入れる度に、粘液と渾然一体になり、二人は気づけば一つの塊になっていた。二人でキスをする。黒い糸が互いの口を繋いだ。どちらの顔も、黒いそれで包まれているが、息づかいも視界もなにも変わらなかった。

　高揚と興奮は腰を突き動かし、快感と劣情が脳を揺らした。そして、最奥に達すると同時に、黒い洞窟に白い洪水を起こした。質量保存則を無視した、あり得ない量の射精だった。彼女は無言だったが、その全身、羽や腕、脚が彼女の絶頂を物語った。

　俺はというと、物足りなさを既に感じた。名残惜しく、モノを引き抜こうとしたが、彼女に掴まれた。グーは二人の下半身を固定し、俺と彼女の翼は握り混むように、包みあった。まだ夜はこれからだ。むしろ、俺たちは"夜"だった。