連載小説
[TOP][目次]
エピローグ
 「「ウンチュウウウンッ」」安モーテルの一室では、男女がベッド上で絡み合っていた。「「ンンンッ」」二つの影は、もはや薄暗がりで一つのシルエットとなり、唾液と汗、そしてそれ以外の液体で互いを汚していた。
 「ハアーッ、するたびに情熱的になるな?」「フーッ♡フーッ♡かっこつけんな、さっきからオナカになんか当たってるけどッ?♡」男は、既にエモノを臨戦態勢にしていた。(このまま、中に入れてェ…けど)
 小柄な女は、あらためて見てみれば、青年の身長の半分程度であった。小さな頭、すでに紅潮しきった顔、花の茎を思わせる細い首、それらはポニーテールをほどいたふわふわしミドルヘアに包まれた。
 骨ばった肩の稜線、バストは平坦、程よい肉付きの胴、腰の曲線すべてが、彼を滾らせる。男はまた、彼女を抱きしめる。髪よりも大きく、より心地の良い触感の尻尾に包まれる。「この匂い、それに抱き心地これだけで、もう満足だ…」彼は、思わず声に出した。
 「ムムムッ、ここまでしといて一人で満足するなよ♡」「…ッ!」そういって、リスめいた女は脚を開いた。青年の下で、少女の下半身がよく見えた。腰よりも太い両腿、膝下のニーソックスめいた毛皮、そして…(なんて濡れ具合だ…)「女性自身」は今晩のメインディッシュを待ちきれずに、すでに涎を垂らしていた。それもシーツを大きく濡らすほど…
 「本当にいいんだな?…」「マサキィ♡…ワタシが好きでもない男にこんなことすると思ってたのか♡?」(その通りだなッ)マサキは、思うが早いか自分の逸物を秘所に挿し込んだ。
 「ンンンーッ♡」「クウッ、キツ」彼の男性器は、デジタルスクイレルの壁に阻まれた。青年は今にも射精してしまいそうであった。(まだだ…まだこんなもんじゃあ…)男は女の膣に徐々に感覚を慣らしていった。そして、快感の波が一段落した後で、一気に貫いた。
 「オウウウウーッ」ラタトスクは未体験の痛みに体をよじり、シーツを掴んでいた。「ウウッ、スマン」男は謝罪した。エモノの先端で肉を裂いた感覚、接合部で粘液とともに溢れる血を見て、彼の胸に痛みが走った。
 「クウッ、イヤッ、こんなもの全然…」「まったくそうは見えなかったぜ。いいから落ち着くまで休め、オレも今度は優しくすっからな」マサキは、デジタルスクイレルの秘裂から、「己自身」を引き抜こうとする。
 「ダイジョブだ…」「でも…」「いいから…」「キミが苦しむのはイヤだ」女に掴まれ、男は姿勢を固定される。「ワタシがいいと言っている…」「…」
抜くな」「エッ?」マモノの手に力がこもる。「だからッ!抜くなって言っているんだ!」「オイッ!」
 マサキはバランスを崩し、デジタルスクイレルの顔の両側に手をついた。目と目が合う。「…」「…」互いに無言であったが、男女はすぐにうなずきあった。「ハアアアアッ」「クウウウウッ」今や、この二体のケダモノを隔てる壁は最早ない。「イイ♡」「フウッ」女の方は、破瓜の瞬間とは違い、痛みに慣れまた快感を得ていたようだ。男は無我夢中で腰を振るった。
 「ンンンッ♡」「フウウッ」「ンンンッ♡」「フウウッ」ンンンッ♡」「フウウッ」「フウウウーンンンッ♡」」彼らのリズムは次第に一つに重なっていった。そして…「「…」」マサキは白く粘つく欲で、デジタルスクイレルの胎内を塗りつぶした。
 「フーッ」「ハーッ」ドサッ、青年はベッドに倒れこんだ。少女は、息を整えると男の胸に顔を預けた。二人は芯から互いの熱に温まっていた。そして互いに見つめあうと、どちらともなく笑った。「…ワタシの中、どうだった?」「熱くて、狭かった。」「…フフ、もっと言うべきことあるんじゃないか?」
「『言葉を弄するな』、だろ?」「モウッ、さっきのこと根に持ってるのかい…?」
 彼らはまた笑った。ひとしきり笑い終えると、だんだんと微睡みの中に入っていた。「…アリガト」「コチラコソアリガト」「また明日ね…」「オヤスミ…」マサキとデジタルスクイレルは、尻尾をフートンの代わりに眠りについた。どちらも幸せな寝顔をしていた。

◆◆◆◆◆

 1か月後。ニュー・トキオ、ユラクチョ。傭兵とハッカーの男女は、この街に新規開店したバーに向かっていた。歓楽街とビジネス街が、区画と通りでモザイク状に合わさるその端に、目的地のバー「不連打」は存在した。
 カララララン。二人は予定時刻の十分前に到着し、店内に足を踏み入れた。傭兵は信用が重要だ。結局は、こんな荒れた都市でも社会人であり、腕っぷしだけでは縄に繋がれたも同然であろう。
 内装は落ち着いており、マネキネコ、ワータヌキ、フクスケそして角笛が飾り棚に置かれている。バーカウンター内には、多くの酒、カクテルグラス、シェイカーなどなどが置かれていた。壁には、オスモウのトーナメント表、ミンチョ体のショドーが吊るされていた。
 バーの中には、一人グラスを磨く者がいた、おそらくマスターであろう。「ドーモ。本日はお越しいただき、アリガトゴザイマス!」アルトソプラノの良く通る声で、二人は出迎えられた。「「ドーモ!」」男女は、挨拶するなりコート掛けにそれぞれの上着を掛けた。
 男、マサキは埃をかぶった防水コートを脱いだ、その下はナイロン製だがエドを思わせる着流しであった。オビには、怪しいオーラを感じるセラミックの鞘に入った刀を差していた。女、デジタルスクイレルは、PVCレインコートを脱いだ、その下はハッカー御用達の〈ヨンバン・スポーツ〉ブランドのスポーツウェアであった。
 二人が席に着くなり、マスターはオヒヤ、コースター、オシボリを提供した。それらは熟成した葡萄酒の香りを漂わせていた。マスターの装いは、一般的なバーテンダーのそれであった。ただ、下半身はワインレッドの毛皮で、その頭には角があった。「ゴメンナサイね?主人ももうすぐ着くんですけれど。もう少々お待ちください。」マスターは申し訳なさげに言った。その時、カララランと音がして、二つぞろいのスーツを着た男が入ってきた。
 「やあ、どうもお待たせいたしました!ワタクシが、この店の出資者、シンテル・ニシキです。オヒサシブリ!」そう言って、初老の男が一礼をした。90度のオジギだ。「ドーモ。マサキ・ケンネイです。」「ドーモ。クリス・ケンネイです。」カップルは、同じように90度でオジギした。クリス・「ケンネイ」?然り、デジタルスクイレルことクリスは、あの夜の一件でマサキとそのまま〈結婚〉を行ったのだ。
 「オカエリナサイ、アナタ♡!」「タダイマ、マイハニー!」バーのマスターとパトロンは、バーカウンター越しにキスを交わした。「では改めて、シンテル・ニシキです。」「シンテル・ブレンダです。」4人の男女はアイサツを終えて、早速最初の葡萄酒の栓を開けた。〈バッカスの放蕩〉という、数百年ものだ。
 4人は歓談とゴチソウをひとしきり楽しみ、そしてビズに話が移った。あの事件以降、彼らは異次元からマモノが来たこと、そしてここ10数年の間に社会に浸透したこと、彼女らの〈恋愛事情〉や〈結婚活動〉について情報共有した。
 「別に人命にかかわるようなことじゃねえし、そもそも人類だとかマモノだとか、世界の命運とやらはどうでもいい。」マサキはそう思ったことを伝えた。「けどよ、知っちまった以上、そして実際にどういうものか見た以上、目を背けられもしねえよな。」
 「私も家内、ブレンダ=サンとのファーストコンタクトはあまり好ましくないものだった。」ニシキはそう発言し、少し肩を落としたサテュロス、ブレンダを見た。「スマン!ハニーはとっても素敵、カワイイだ。ただ、その、君達マモノのカルチャーは我々のそれとは大きく違う。」彼は妻を慰めながら言った。
 「そこなんだよ。ワタシはこっちのことをある程度リサーチしたし、またマサキとユウジョウできたから、馴染むこともできた。でも、大部分のマモノはそうじゃない。」クリスは指摘した。「だけどマモノと人間は絶対に分かり合える。ワタシらみたいにネ。」ラタトスクは夫にウィンクした。青年は歯を見せて笑みを作った。「それに問題が起きているってことは、ビジネスチャンスともいえる。」クリスは付け加えた。
 「とにかく、オレ達は幸せを掴んだ。でも、まだ相手を見つけられてないやつもいる。あるいは、種族の齟齬が悪く働くこともある。オレはお節介だと思うが、そういったのを助けたい…」
 ニシキとブレンダは彼らの話に耳を傾け、そして決心がついたようにうなずいた。クリスも首肯した。「そういうと思って、情報が入りやすいここに店を開いた。」ニシキはそう言って、またブレンダにキスした。「もちろん、ハニーのためが第一だけどね」「もう、人前ではしたない♡」「君の酒がこうしたんだろう♡」
 「やれやれ、おアツイね。」「オレらもやるか?」「家に帰ったらね♡」マサキは後ろからクリスを抱きしめた。彼は顔を尻尾に埋めて、彼女は赤面した。
 「さて、仕事の話に戻ろうか。」「「ハイ」」二人はニシキに向き直った。
「では改めて。ドーモ。デジタルスクイレルです。」クリスはアイサツした。「ドーモ。デボーチャリーです。」「アリストファネスです。」ブレンダとニシキも挨拶を返した。「ドーモ。ホワイトナイトです。」マサキはアイサツを行った。そのオジギは100度であった。

【リボーン・イン・ホワイト・スティッキー】終



 ◆魔◆魔物ムス名鑑♯1◆性◆
【デジタルスクイレル】
ラタトスクのマモノ。直接戦闘力は、そこまででもないが、
種族特有の超人的聴覚、この世界で習得したハッキング能力
や、機械技術を武器にアンダーグラウンド(性的な意味で)
にて、頭角を現す。また、彼女の魔術は機械を用いて、生身で
精神世界と電子空間のハザマに侵入できる。

◆魔◆魔物ムス名鑑♯2◆性◆
【ホワイトナイト】
非魔物娘。人間の傭兵、マサキ・ケンネイは、デジタル
スクイレルとの交際を経て、インキュバスと化した。
もともと、イアイドの素養があったが、インキュバス化
によって強化された膂力と反射神経でスゴウデにまで練り上げた。

◆魔◆魔物ムス名鑑♯3◆性◆
【デボーチャリー】
サテュロスのマモノ。マモノ特有の常人の三倍の身体能力
に加えて、アルコールの酩酊感をもたらす魔術「オボロ・ジツ」
超人的肺活量から繰り出す圧縮空気弾、魔力のこもった角笛が、
この世ならざる戦闘力を作り出す。

◆魔◆魔物ムス名鑑♯4◆性◆
【アリストファネス】
非魔物娘。ナカリガワ商事の部長を務める初老の男。
趣味で世界中の酒を集め、また自分の酒を提供するバー
の店主を任せられる人物を探していた。
デボーチャリーと和解後、酒について語り合い、関係を持ち、
そして今ではインキュバスと化した。
24/05/12 17:05更新 / ズオテン
戻る 次へ

■作者メッセージ
ここまで作品を見ていただいてありがとうございました。

TOP | 感想 | RSS | メール登録

まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33