連載小説
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後編
残念だ…まさか、君がこのような大逆を働くとはな…
独房に入ってきたのは、内務次官ジョンストン侯爵閣下であった。部長の上役であり、かつての長官の表情は言葉通り慚愧に沈んでいた。侮蔑も悔恨もなく、ただただ残念がっていた。  

結論から言えば、アルケイン石を手にするには、最高のタイミングであった。なぜならこの国宝が、宝物庫の奥から出てくる年一回の千載一遇の催しである。王朝の正統性を示すため、各国の外交官、「教団の聖職者」へと公開するためだ。

言ってしまえば、僕らにその気はないとは言えど、ヘルファイア・クラブは「反主神的秘密結社」であったのだ。枢機卿には、教団での横領や異端行為の疑惑があり、そこから芋づる式に、支部を突き止められていたのだ。

王国側でなく、教団側からの告発は、正にアルケイン石を手にした瞬間に起きてしまった。ウィリアム部長は「邪教の司祭」、マシュー先輩は「冒涜的な儀式を計画し実行した」、僕に至っては「名状しがたき教えを広め・多数を堕落せしめた」という罪状によって逮捕された。申し開きもない。

「59日」僕や先輩を含めた被疑者は、最高裁に出頭した。「52日」全員、弁護人と異端審問官の弁論が終わり、判決が出た。国王陛下の陪審の元、「火炙り」に処されることが決まった。

「36日」親戚縁者、三族に至るまでが集められ、自宅軟禁、執行日まで収監、同罪として死刑を休憩されていった。「22日」枢機卿を含めた、この一大スキャンダルは、国中に波紋を広げた。首都を含め厳戒態勢が敷かれ、大きなものから小さな道路にまで検問が置かれた。

後から聞いた話であるが、国は「魔女」を見つけた者に懸賞金を支払っていたようだ。「15日」折り合いの悪い相手、近所付き合いのない独身者、身寄りのない者、植民地からの労働者、数万人の老若男女を問わない「魔女」、「ヘルファイア・クラブの会員」として検挙されたようだ。僕が付けた火種が、今や国中に延焼している。

…「3日」国務省次官は、僕らに取引を持ちかけた。アルケイン石を引き渡せば、表向きに死刑執行したこにして、身元を偽造して恩赦するとのことだ。かなり譲歩した提案であったが、二つほど問題があった。

一つは、アルケイン石は既に手元にはない。あの日手にした途端、僕のルーンが反応してどこかに転送されたのだ。何度弁明しても、魔法として探知・解明できないので信じてもらえない。もう一つは、仮に返却したとて、カウントダウンは継続することだ。悪魔に見いられた以上、最早、僕はどちらにせよ死ぬしかないのだ。

それに、司法取引したところで、「王国では無罪になった悪魔崇拝容疑者」は十中八九教団預かりである。万事休すといえた。気づけば「1日」、どちらにせよ命運は尽きた…



その時。僕の手の甲に灼けつくような痛みが走った。それと共にアルケイン石が手元に現れた。石から淡い光が溢れ、壁に虚像を投影した。「ヤッホー!元気…してないみたいだけど、キミ、捕まっちゃったねえ?」インファナルの姿が映し出された。

「アクセにしようと思ったけどさ、キミ、このままじゃ死んじゃうよ?これ、戻せば、命助かるんだよね?」彼女は、一瞬にして気の毒そうな表情になった。「あ〜しもさあ、流石に自分のせいでさ、死にそうなヒトほっとくほどワルじゃないんよ?残念だけど、命には変えられないからさ…」

僕は断ろうとしたが、彼女に押し切られた。生きて出れたら、また会お!そんな言葉を残して、虚像は姿を消し、宝玉が暗い牢内に残された。僕は眠ることもせず、ただ、「1日」とアルケイン石を眺めていた。

翌日、牢番の叫び声で、朝を迎えたことを悟った。予定通り、正午には火炙りが決行されることになった。

隣には、マシュー先輩。見知った顔も、知らぬ顔も、百人は下らぬ死刑囚が集められ、火刑台に縛られていった。僕は、何もかも諦め、受け入れることにした。このまま、灰と化して消え去ることが幸せに思えた。

多くの人間の人生を狂わせ、巻き込んだ。国全体、ひいては周辺国を巻き込み、大逆を働いた。報いを受けるしかない。全員の足下に薪が敷き詰められ、いよいよ松明を持った聖職者達が列をなして登場した。

そして、首謀者と目された枢機卿にパラディンが何やら、罪状を問い質していた。僕は、ふと手の甲のルーンを見た。「0日」、一瞬目を離した隙に、とんでもないことが起きようとしていた…

突然、篝火や松明の火が強まったかと思うと、聖職者や兵士達にその炎が燃え移ったのだ。火が、まるで意志を持つかのように彼らに襲いかかると同時に、火刑台にまで火の手が回った。そして、あれよあれよと縄を焼き焦がし、みるみる解放していくではないか。

パラディンが狼狽し、何やら魔法を唱えようとする刹那、地響きが広がった。城壁の外では、溶岩が吹き出し、白を隔離するように取り囲んだ。

刑場は、阿鼻叫喚と化した。僕は、脇目も振らず、宮殿に向かった。ルーンが、まるで引っ張るかのように、ある場所へと身体を突き動かした。教団や兵士を襲う人型の炎や溶岩、燃える悪魔、右往左往する囚人達を掻き分け、王城の奥へと進んだ。

玉座の間へとたどり着くと、ルーンが一層焦がれ、遂には「0」の形の焔を宙に作り出した。それは、王座を焼き尽くし、溶かし、鋳り上げた。禍々しい椅子と、そこに座る邪悪な女主人が出現した。

「う〜ん…結構、スジは良かったんだけどさぁ?なんつ〜の?キミ、諦め速くない?普通さあ、どうにかして生き延びようとしたり、啖呵切って抗ったりとか、ないん?」インファナルは、少しつまらなそうにこちらを見下ろした。

「まっ、いっか。あ〜しのお宝、渡してちょ!」彼女は、催促するように手を差し出した。何のことを言っているのだろう、アルケイン石は既に手元にないはずだが?

「いし〜?あんなん、別に掘れば手に入るし。あ〜しはね、キミがくれた時もういらんくなったんよ」インファナルの言葉をよく飲み込めなかった。「あ〜しはさ、ジュエリーとか、プレゼントとか、そういうんじゃなくてさ、どんなもんでもいいからさ…取ってきてくれるコが欲しかった」彼女の瞳は、冷たく燃え上がった。

「キミ、途中まではガンバってくれたけどさ、最後の最後に投げ出しちゃったね?」その言葉と共にルーンが燃え上がった「時間切れ」僕の身体は、業火に包まれた。

「お宝は…まだ火がついてんじゃん」ある一点に、彼女の炎が吸い込まれていった。「キミは、やっぱりね…」その声を聞いた瞬間、僕の懐に熱された何かがあることに気づいた。慌てて、取り出し、地面に出てきたのは、アルケイン石だった。

「キミ、やっぱりデキるコだったみたい!」彼女は抱きついてきた。一体、どういうことなのか?「キミのおじいちゃんの、そのまたひいひいひい…おじいちゃんがね、あ〜しにお願いしたの、『どんなものでも差し出すので、代わりに国を守る力が欲しい』って…」

「あ〜しは、別に欲しいもんなかったけど、契約は契約、ちゃんと形を取らないといけんし、どうしよって思ってたからさ…『とりあえず、生まれた男のコにイイ男がいたら、ちょうだい』ってしたの」彼女は無邪気に僕を抱きすくめた。

「でも、一向にあっちから挨拶もないし、とりあえず数百年大目に見てあげよって、ほっといたらさ、気づいたらあ〜しのあげた力使ってワルさしてんじゃん?」インファナルは、僕の髪をいじってきた。「その上、男も全然くれないしさ?流石にキレて、キミのおじいちゃんに催促に行ったら、『そんな契約など知らん、悪魔よ去れ!』って、あ〜しのあげた石を使って入れなくしてきたってわけ…」

「だから、子孫のキミに目を付けたん。ウチのクラブで探したんだ。王国に不満があって、ピュアで、カワイくて、王家の血が濃いコをね?」彼女の目に、怪しい火が灯り、細まった。
「キミ、なかなかスジ良いから、王サマやってみない?クラブの力があれば、ちょっとずつ良い国できるよ?しらんけど」

僕は断ろうとしたが、左手がまた疼いた。「1000…年」インファナルがにやりと嗤った。「キミ、アルケイン石の分は還してくれたけどさ、先祖代々の利息がこんなに残ってるんだよね?」彼女は、両手で僕の顔を押さえ込んだ。城と共に、僕の全ては蕩けていった…

24/12/11 19:31更新 / ズオテン
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