読切小説
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Ferðin af Vinland~ヴァルキリヤと隻眼のハスカール
略奪と流血こそ我らが生き方。隣人は愛するに値するが、根こそぎ奪い合うも道理なり。彼奴らは、土地を求め田畑を墾き、砦を築きました。我らをヘイヅィンと罵りました。あまつさえ、我らが奉る神と化身たる神樹を切り倒したのです。私達には勝利か、死かそれだけです

ヴァルキリーは、くすんだ金髪の戦士と切り結んだ。「…惜しいものだ」「貴女の命がですか?」「お前の腕前だ、これ程であれば、パラディン、いやビショップにも手が届くやもしれん」

蛮人戦士は、表情を変えずにその両刃の斧を何度も振り下ろした。ヴァルキリーは、片手のショートソードだけで重々しい連撃を凌いだ。見た目は華奢だが、神の末席、人間には荷が勝つのだ。「そこを退いてはいただけませんか?私は、ただあの砦を、そこに座す『司教』という方にお目通りをいただきたい一心で…」

 それは虚偽とも、真実とも言えた。彼と戦乙女の回りには、率いた蛮族の亡骸、それと相討ちになった聖騎士達の死体が横たわっていた。野蛮人だが、言葉を覚えたてのため、仰々しく丁寧な話し方であった。それに似つかず、その戦い方は荒々しいヴァイキングのそれであった。

 「できぬ相談だ」彼女は、鍔から火花を散らし、徐々に両手斧を反らしていった。「そもそも、先んじて略奪をかけたのは貴様らだ」「それを言うなら、貴女方は我らのルネ石や墳墓を破壊した。邪教と罵ったではありませんか?」

 ヴァルキリーは言い返さなかった。ただ、民を守るため遣わされ、砦に何人も入れさせぬ、それが使命であった。どちらが先かの水掛け論には興味がなかった。「…どちらにも言い分はある」「では?」「ならば、剣を交えるのみ!」「喜んで!」

ヴァルキリーはその細腕で、体重と鋼と速度の載った一撃を弾くと、隙を見て蹴りを入れた。「くうっ!」ヴァイキングは、短く呻いたが、斧を捨て脚を掴み、折りにかかった。

「…とった!」「甘い!」掴まれた脚に重心を傾け、ヴァルキリーはもたれ掛かるようにその剣の柄で顎を殴った。「ぐううっ!」男が手を離した瞬間、彼女は相手のファーを掴み、脚を引っかけ、「くらえっ!」「うわあっ!」地面に倒した。大男は、戦乙女にのし掛かられた。

 「お前は人間にしては強い…だが、もはや終わりだ」ヴァルキリーは男の首を押さえつけ、宙に浮かした剣が独りでに戻り、それを突きつけた。ヴァイキングはなおも、彼女を睨み付けた。「うううぐぐううっ!」「観念せよ!戦は終わったのだ、この瞬間貴様は死のうとも、ヴァルハラには行けぬのだ!棲み家に戻れ!」

「ううううっ!」戦士はその腕に力を込めて、剣を掴んだ。超常の力により、その手は弾かれた。「無駄だ…私の剣は聖別された。何人も主以外に振るうこと能わず」しかし、ヴァイキングは口角を上げた。「ううう…傷はつけられる…のでしょう…?」「何だと?」

男は傷口から溢れた鮮血を剣のルーンに塗りつけた。その部分の文字は光が失せ、一瞬だけ障壁が弱まった。「なっ…」「ふうん!」首元の力が緩んだのを見計らい、彼は戦乙女の両肩を掴み、脚で勢いをつけ、地面に投げ落とした。「ぐうっ!」

ヴァイキングは必死の足取りで、両刃の斧を取りに向かった。しかし、ヴァルキリーの剣は再び光を取り戻し、一直線に男の首を狙いにいく。「ふっ、はあああっ!」うなじに刃が着く瞬間、彼は斧の柄でショートソードを受け止めた。質量に差があってなお、大男はその聖剣との鍔競りによって、数歩後ろに下がるしかなかった。

  その間に、戦乙女は体勢を建て直し、再び蛮人と退治した。ヴァイキングは両手斧を長く持ち直した、ヴァルキリーの手元には聖剣が戻った。両者は、互いを見据えた。

 「倒す前に、名前を聞いておこうか?」彼女の申し出に、戦士は狂喜的に目を細めた。「私の名前…それは、オレグ・ヴィルドルソン(ヴィルドルの息子)と申します。母は「おおからすのフリーダ」、氏はエリキング族です」「私はスクルド(将に来んとす者)、スクルド・フリグドッティルだ(フリッグの娘)だ」戦乙女の名を聞いて、彼は斧を握る力を強めた。

 「嬉しいです。スクルド、私に来るべき運命でしたか…」スクルドも微笑みを返した。「汝は今将にヴァルハラへの門を再び叩いた!さて、踵を返すか、我が手を取るか!?」オレグは、斧を水平に振りかぶり、駆け出した。「愚問です。貴女を打ち倒し、門を越える!それだけです!」

「その意気やよし!はあああっ!」ヴァルキリーは眩い光を剣に集め、翼を広げ突進した。「ふんぬわっ!」ヴァイキングは、振りかぶりを更に深め、遂には上半身を腰から90度回転して、解き放った。そこに輝く一閃が衝突した。「はああああああ」「ふんぬうううう!」

確かに、オレグは持てる全ての膂力を以て、スクルドにぶつけた。しかし、光の分だけ刃を伸ばしたその一撃は、彼の斧を貫き、右目に剣圧が届いてしまった。「ぬうっ…」オレグは、全ての力が尽きたのように、膝を着いた。「…」スクルドは、何も言わず剣を斧から抜き、そのまま鞘にしまった。その刹那、斧は刃先から粉々に砕かれていった。

 「勝負あり…人間がここまでやれるとは思わなかったぞ」白き雪原に、なお白く輝く天使と、鮮やかな赤で彩られた蛮人だけが色づいていた。スクルドは背を向け、砦に飛ぼうとした。その時!「ぐうううっ…おあっ!」「!」後ろから、苦悶の叫びが静かな世界に響き渡った。

 「…貴様、何たる執念…」スクルドの見た光景は、あまりに凄絶であった。「はあっ…はあっ…」オレグは潰れた目を取り出し、その血塗られた肉塊を天に捧げるように向けた。すると、つむじ風が彼の目玉を持ち去った。
 
はあっ…ヴォータンよ、我にもうひとたび闘う力を!」すると、その手には風が集まり、植物の芽になったかと思えば、小さな枝を幹を伸ばし、みるみる長い棒状になった。杖だ、否、槍だ。魔術と嵐の神であるヴォータンへ贄を捧げることで、一生に一度槍を借り受けることができるのだ。…

 それに対して、スクルドは「…どこまでも、私を悦ばせてくれる奴だ」遂には、翼をすら光らせ、オレグから見て逆光の人影と化した。「こちらも感謝致します!貴女のような女傑、遂ぞ相対することはないと思っておりました!」「世辞はよい…ただひととき、共に舞おう!」二つの剣戟がぶつかり合い、雪が打ち上がり、地が震えた。

〜〜〜〜〜

 「…と言うことがありまして、こちらが皆さんの新しいお母さんということです」「「「ええ〜!?」」」隻眼のオレグは、三人の息子にスクルドを引き合わせた。「と、父ちゃん、その人羽生えてるよ」「こら、トルビョルン。他人に指を指すのは失礼だと教えましたよね」オレグは息子の頭に拳骨を下ろした。「あいだっ!」

 「どうも…ご紹介に与った、スクルド・フリグドッティルと申します。私は…君たちのお父さんと婚姻を結んだ」戦乙女は、膝を屈して子供達に目線を合わせた。「トルビョルン、君と言ったな…確かに人を特徴で揶揄うのはよろしくないが、私は気にしてないからな」彼女は、半泣きの少年の頭をぎこちなく撫でた。

 「父さん…でも、その目」「過ぎたことは良いのです…私はこの人以外に相手が考えられなかったので」オレグは、一番年上と思われる子供の肩を軽くはたいた。「にいちゃん、おかあさんって、こんなかんじなの?」一番小さな男の子が、長男の袖を引っ張って聞いてきた。

 「ふむ…まあすぐに馴れろとは言わん。だが、私は君たちの母親をするのは吝かではないぞ」彼女は、したり顔で胸を拳で叩いた。「父さんが良くても、この人は別の神様を信じてるんでしょ?うちの人たち(エリキング族)が認めないんじゃ?」彼は無視して父親に問い質した。「その時は、その時です。ムートを開いて、何なら殴り合いでも認めさせます」

 「はあ〜っ、分かったよ…スクルドさん?」「ああ」「これから、父さんをよろしくお願いします。父さん、とっても不器用なひとだから…」長男は頭を下げた。最年少の弟も真似して、「おねがいします」と一礼した。スクルドは、思わず二人を抱き締めてしまった。

 「うわっ!?」「くるしっ!」ヴァルキリーの膂力では、骨が軋むほどの力が加わった。「はっ…すまん!つい、かわいさで…」「かわいいですよね」「うむ、子供はどの地でも暖かいものだ」「いや、貴女も」そう言うと、オレグはスクルドを包むかたちで、子供達を抱き締めた。

 「おまえっ!いきなり何をするんだ!」スクルドは赤面して振り返った。その勢いで、三つ編みにした一房の髪が、オレグの顔をはたいた。「すみません。貴女が微笑む姿に思わず体が動きました」「ふん…変な奴だ」彼女は満更でもないと言うように、大人しく抱かれた。

 「二人とも!きついよ!」「おとうさんと、おかあさんでなんにもみえないよ〜!」二人は、子供達の抗議に慌てて、腕を緩めた。長男と三男は辛くも難を逃れた。「これはすみませんでした。ツィウアクティル、ヘルズヴィヌル」

「父ちゃん、おれも〜!」トルビョルンがそこに潜り込んできた。

〜〜〜〜〜

 「やはり、主神教団とやらは、我らとは相容れぬみたいですね」白髪交じりの豊かな髭を三つ編みに、三角帽子の男は、若い斥候からの報告を聞くと、傍らの三人の青年に目配せした。

 「上級王、彼奴らは遂に神聖なるエリクスールの樹をも切り落としましたぞ!やはり、闘うべきと存じます」厳めしくも、高貴な毛皮の戦士が進み出て上申した。「貴方の意見は尤もです。しかし、戦となれば一体どれほど死ぬるか?」翼を生やした黄金の貴婦人が彼に反駁した。腕には乳飲み子を抱いていた。

 「義母上、しかしながら…他の氏族からも突き上げを食らっているのです!『エリキングは腰抜け、上級王にふさわしからず』と」「ツィアクティルよ、勝利の栄光はいつも貴方と共にありました…しかし、此度はまた別なのです」貴婦人は、ここで言葉を切った。

 「私は、かつてあの教団のもとに遣わされた戦乙女であることは、皆存じていますね…あれは、国々を束ねるより巨大な機構であり、ともすれば全ての民を敵に回すことになりかねません」「ですが、我らは座して死を待つか、闘い抜きいと高き館の門を叩くか、そうおっしゃるのか!?」ツィアクティルは大袈裟に絶望した。

「もうよろしい…」上級王が低く話し始めた。「要は、土地を守るか、明け渡すかの話ということです。確かに、我らは今でこそこの地に根差し、田畑を作りました。それは、しかしながら、彼らの暮らしを真似ただけ…」「親父殿、何が言いたい?」二人目の戦士が、父王に問い掛けた。腰には、片手持ちの武骨な戦槌を帯びていた。

 「我らの本懐、それは舟で未知の地を踏み、その先の富を『分けていただく』、ヴァルハラにその勇姿を照覧せしむることでしょう?」「奴らに気前良くくれてやれってか?」「はい。我らの父祖はより北の地から、緑を求めてきました。より、暖かい地に行くも良いでしょう」

「つまり、ヴィンランド(葡萄生い茂る地)を探しに行くとおっしゃいますか?」三人目の戦士が進み出た。彼の回りには、光の粒子が浮かんでいた。「そんなもの、今時子供にすら信じる者は居りませぬ」「川を下るだけで、より豊かで緑と獣が多い土地がまだ手付かずです。ヴィンランドでなくともよい」

「畏れながら、上級王…闘わず逃げる者に付いていく者はこの場に居ませぬ!」ツィアクティルが同胞団の前で直訴した。「「「そうだ!俺達には逃げる王はいらない!」」」鉄槌の戦士も得物を掲げた。「俺なら最期まで闘うぜ!」「「「トルビョルン!不敗のベルセルクがついてる!」」」最後に、輝く戦士も光る剣を鞘から抜いた。「栄光を!勝利を!」「「「バルドルの生まれ変わり、ヘルズヴィヌル!」」」

 「闘うなとは、私も王も言ってはおりませぬ」その時、貴婦人が静かに、しかし圧を込めて発言した。「「「「「…」」」」」場が一気に静まり返った。王妃は、赤子をあやして揺りかごに戻すと、虚空より光を集めショートソードを作り出し、掲げた。

 「皆の者、勘違いするでない!我ら全て戦に焦がれる兵であるは同じぞ!」黄金の長髪を逆立て、貴婦人が戦乙女の表情に変わる。「主神教団は、今、東西に分裂した!西の連中は無視しろ!東だ、東にミクラガルド(大なる都)あり!そちらは、富を溜め込み肥え太った、旨そうな巨猪よ!」王妃は、闘争への興奮を剥き出しにした。

 「…こう言っていますし、我らは東に進路を取りましょう。異論はありますか?」壮年の上級王は、片眼を開けた。その視線は有無を言わさぬ鋭さであった。「…」「…」「…ありません」「よろしい」父王は息子の返答に目尻を下げて、微笑んだ。

 「皆の者!我らはミクラガルドを攻める!次の雪解けまで、戦はしまいです!英気を養い、得物を手入れして、春に大攻勢をかけましょう!」「「「万歳!!オレグ王に勝利を捧げます!」」」「解散」

 「それと、三人は残ってくださいね」王妃は、息子達を呼び止めた。」「義母上、如何された?」「おふくろ?」「お母様、一体何でございますが?」

 「貴方達も良い歳です。そろそろ、身を固めてはよいと思うのです」義母の発言に、三者三様に否定的な反応を返した。「お言葉ですが、時機を逸しているかと…これから春に向けて準備を行わねば」ツィアクティルが最初に反駁した。「それに関しては、今回は別の氏族に協力を仰ぎたいので、婚姻を結ぶことも理由の一つです」

 「自分で言うのも何だけどよ。おらぁ、いつ死ぬかわかんねえ身だ。相手を悲しませるだけじゃねえのか?」トルビョルンが尤もらしい理由を述べた。「お前は、女気が無さすぎます。それに、そろそろ粗暴なだけでなく節度を持ちなさい」オレグが薄目を開けて圧をかけた。

 「わたくしは政略結婚自体に否定はありません。しかし、何も兄上達と同時とはいかなくてくも…長幼の序とも申します」ヘルズヴィヌルが、兄弟を引き合いに抗った。「かわいい孫の顔を見せて欲しいという親心がわかりませんか?一人でも幸せなのに、三人がそれぞれ見せてくれれば私も上級王様もどれほど喜ぶか…」

三兄弟は、唸り互いで輪を作り、侃々諤々の話し合いをしたが、最終的に折れたのであった。「よろしい!母様はとっても嬉しいですよ!お父様と出会った時以来です」

 こうして、長男ツィアクティルはウールヴへジン(人狼)から嫁を貰い、次男トルビョルンはベルセルク(グリズリー)の女族長と果たし合いを演じ、三男ヘルズヴィヌルはリョースアールヴ(エルフ)の女王に婿入りしたが、それはまた別のお話。

 エリキング族は、三種族と力を合わせ、またヴァルキリーの軍団をも編成し、北方に一大勢力を築く。ミクラガルドは、その脅威に何度も晒されるも、最終的にヴァリャーグ(傭兵)として味方につけることができた。

 「ねえ、貴方…」「どうしました?スクルドさん」ロングシップの船首で、夫婦は水平線を眺めていた。「あの時、勝ったのは私ですよね❤️」「いいえ…いくら貴女の言うことといえど、あれは私の勝ち、良くて貴女との引き分けです」戦乙女の目が細まり、ヴァイキング片眼が開いた。「今夜は激しくなりそうだな…」長女のクリームヒルトは、遠巻きに両親の痴話喧嘩を目撃した。
24/10/23 21:40更新 / ズオテン

■作者メッセージ
大原さやかという声優さんが好きで、女騎士の役(某エル○)から男勝りな女性のイメージがあったのですが、最近はお母さん役やほんわかしたお姉さん役も多く、今回のスクルドさんは大原さんを念頭に置いてます。

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